ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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えー、まずは投稿に遅れて申し訳ないm(__)m
い、色々ありまして……。

矛盾があったらごめんさない。(二度目)

で、では、投稿です。
本編をどうぞ。




観測者たちの宴
観測者たちの宴Ⅰ


壊れる――。

聖堂が壊れていく。

仰ぎ見るほどに高く積み上げられていた石壁が雪崩のように崩れ落ち、その衝撃で人工島(ギガフロート)が激しく揺れ動く。

飛び散る破片と粉塵に視界が奪われ、建物の内側は混沌の闇へと変わっていた。

余りにも唐突な崩壊に、古城と雪菜は反応が出来ないでいた。 このままでは、膨大な質量に押し潰され、確実に命を落としていただろう。

そんな古城たちを救ったのは、目眩に似た浮遊感だった。

誰かが空間を歪め、聖堂の外へと古城たちを運び出したのだ。

 

「ぐっ……」

 

眩い夕陽に照らされて、古城は思わず目を背けた。

そのすぐ隣、雪狼霞を持った雪菜が着地する。 荒い息をし、古城の隣に片膝をつけた悠斗。

胸を貫かれた傷は完全に塞がっていない。 また、体力(魔力)と血を消耗していた。

悠斗は、朱雀の加護を使用し、治癒速度を上げようとしたが、それは敵わなかった。

眷獣召喚が一時的に封印されていたのだ。

眷獣が封印されてしまったので、今扱えるのは、眷獣たちが扱う武器だけである。

 

「(……あの剣、十束剣(とつかのつるぎ)か)」

 

封印は一時的なものなので、時間が経過すれば解除されるだろうが、仙都木阿夜に時間を与えてしまうことになる。

その間彼女は、己の計画の為に、この島で暴れ回るだろう。

 

「優麻さんっ!?」

 

雪菜が短く悲鳴を上げた。

古城の背後で倒れた少女がいた。 倒れたのは、ハロウィン魔女の仮装をした優麻だ。

しかし、彼女の全身は血まみれで、胸元には深い刀傷が穿たれ、古城が触れた彼女の腕は氷のように冷え切っている。

 

「優麻……お前……何でこんな無茶を……!」

 

苦痛に呻く彼女――仙都木優麻に駆け寄りながら、古城と雪菜は唇を噛んだ。

悠斗重い体で立ち上がり、足を引きずりながら古城の後を追う。

優麻は、古城たちを聖堂から転移させたのだ。 しかし、その無謀な空間転移は肉体に大きな負担をかけた。

彼女は限界以上の魔力を放出しており、肉体にも深い傷を負っている。

優麻は上体を起こして、無理やり笑みを浮かべる

 

「違うよ、古城……ボク一人の力じゃない。 空隙の魔女と悠斗が力を貸してくれた……」

 

そう。 優麻の魔力だけでは、一人の転移が限界だった。

此処に居る全員を転移させる為には、那月と悠斗の力が必須だったのだ。

 

「那月ちゃんが? だったら、……あの人は……どこに?」

 

思いがけない優麻の言葉に、古城は呆然とし、雪菜は表情を強張らせた。

那月は、守護者の剣に貫かれて、優麻以上のダメージを負ったはずだ。

その状態で優麻に力を貸して、古城たちを助けた。 しかし、彼女の姿が見当たらない。

そんな時、悠斗が重い口を開く。

 

「……大丈夫だ、古城。 那月ちゃんは、俺より規格外な存在かもしれないしな。 そう簡単にくたばらないさ」

 

「……そうだよな」

 

「……認めちゃうのかよ」

 

その時――。

 

「先輩……!」

 

雪菜が愕然としたように、聖堂が建っていたはずの場所を見上げた。

完全に崩れ落ちた聖堂の跡地。 其処には、見慣れない新たな建物が現れていた。

分厚い鋼鉄の壁と有刺鉄線に覆われた軍事要塞――監獄(・・)が。

那月が護っていたはずの聖堂が消滅し、其処に巨大な監獄の姿が浮かび上がっている。

そう、――監獄結界が実体化したのだ。

 

「……実体化したか。 実際に見るのは二度目だな」

 

悠斗は短く呟く。

 

「じゃ、じゃあ、これが監獄結界の姿か? さっきまでの建物はなんだったんだ!?」

 

監獄を見上げて古城が困惑する。

困惑する古城の耳に聞こえたのは、金属質の残響を伴う、不気味な女の声だった。――邪悪な魔女の声だ。

 

「同じもの……だ……よ。 第四真祖」

 

声の主は、監獄の巨大な門の上に立っていた。

足元まで届く、長い髪の女性だ。 身につけているのは、平安時代の女貴族のような十二単。

華やかな重ね着の衣服だが、白と黒の二色に染められたその姿は、死神の装束に似ていた。

顔立ちは若く美しいが、眼球は緋色――火眼である。 優しく微笑むその瞳は、人間離れし不吉だった。

 

「――周と胡蝶とは、即ち必ず分有らん。 此を之れ物化と謂う……あの空っぽの聖堂は、監獄結界が、南宮那月の夢の中にあるときの姿……だ」

 

火眼の女性が、古城たちに向かって詩の一節を詠う。

其れは、夢と現実の境目が曖昧である事を詠み上げた異卿の古詩だ。

監獄結界とは、魔術によって那月の夢の中に構成された仮想世界だった。 その姿は見る者のイメージによって自在に変化する。

他人の夢の中に存在するが故に、囚われた罪人たちは、決して其処から抜け出すことは出来ない。

だからこそ、魔導犯罪者を封印する監獄として、恐れられていたのだ。

 

「だが、空隙の魔女は永劫からの夢から覚め、監獄結界は実体化した。 同じ空間にあるのなら、其処から抜け出すのは造作もないこと……だ。 この我にとってはな……」

 

そう言って、火眼の女性は愉快そうに笑う。

女性は悠斗を見て、

 

「紅蓮の熾天使。 お前の事は、監獄結界の中では話題になって……いた。 南宮那月と協力して、犯罪者を捕まえていた……とな」

 

悠斗は、痛みを我慢しながら、

 

「……へ~、俺は監獄結界の中で有名なのか。 ある意味、鼻が高いわ」

 

「ふっ、そんな体で、強気に出れるとは……な。 神経が図太いと言えばいいのか、バカと言えばいい……のか」

 

「バカって言うな、バカって。――仙都木阿夜さんよ」

 

緊張感のないやり取りに、古城たちは唖然としていた。

 

「お母……様」

 

鮮血に濡れた優麻の口から、絶望の声が紡がれる。

 

「あんたが、優麻の母親だと……!」

 

古城が低く叫んだ。

火眼の女性が優麻の血縁であることは、この場の誰もが理解していた。

何故なら彼女は、優麻瓜二なのだから。

髪の長さと、目の色を除けば、ほとんど見分けがつかないほどだ。

 

「優麻と……同じ顔じゃないか……」

 

「当然……だ。 その娘は、我が単為生殖によって生み出した、だだのコピー。 監獄結界の封印を破るためだけに造られた、我の影にすぎないのだから」

 

動揺する古城を哀れむように、阿夜が、傷ついた優麻を指差して告げる。

 

「我とその娘は、同一の存在――だからこそ、こういう真似もできる」

 

「う……あ……ああああああああああっ……!」

 

優麻は絶叫を迸った。

優麻の背後に、魔力によって実体化した人型の幻影が浮かび上がる。――契約によって下賜された悪魔の眷獣――魔女の守護者である。

蒼騎士の全身が、黒い血管のような不気味な模様に侵食されていく。

まるで、守護者に対する優麻の支配権を、強引に奪い取ろうとするかのように――。

 

「いや……やめて……お母様」

 

優麻が弱々しい声で懇願する。

 

「我が汝に貸し与えた力、返してもらうぞ――我が娘よ」

 

阿夜が左手を上げた。

その瞬間、みしっ、と生木を裂くような耳障りな音が鳴り響き、優麻が声にならない絶叫を上げた。

目には見えない巨大な腕が、小鳥の翼を引きちぎるように、仰け反る優麻から、ぶちぶちと何かを引き剥がしていく。

 

「いやあああああああああああああああっ!」

 

切断された霊力経路(パス)から、其処を流れていた魔力が鮮血のように噴き出した。

優麻の蒼い守護者は、完全に黒く染まっていた。

鎖から解き放たれた獣のように、顔のない騎士が咆哮する。 騎士は陽炎のように揺らいで、阿夜の背後へと移動した。

仙都木阿夜が、優麻の守護者を完全に奪い取ったのだ。

 

「優麻!」

 

壊れた人形のように打ち捨てられ、優麻の体が地面に転がった。 ぐったりと横たわる彼女を抱き上げて古城は息を飲む。

辛うじて呼吸は保っているが、見開かれた優麻の瞳の焦点が合っていない。

 

「なんて……ことを……!」

 

雪菜が怒気を露わに、雪霞狼を構えた。

その切っ先は、悠然と地面を見下ろす仙都木阿夜だ。 魔女にとって守護者は、単なる使い魔や武器ではない。 魔女にとっては、悪魔に差し出した魂の代価。 自身の肉体の一部と言ってもいい。

 

「テメェ、仮にも母親だろ! 娘の優麻になにやってんだ!」

 

悠斗からは、憤怒の表情が浮かんでいた。

 

「第四真祖に獅子王機関の剣巫。――そして、紅蓮の熾天使。 いったい何を憤ってる? その娘は、我が造った人形……だ。 どう扱おうが、我の自由であろう?」

 

阿夜は、訝しむような表情を浮かべていた。

 

「……ざけんな……っ」

 

古城が、低く潰れたような声を出す。

 

「オレの友達(ダチ)をこんな目に遭わせておいて、言いたいことはそれだけか……!」

 

「……っ!」

 

爆風にも似た古城の魔力を浴びて、仙都木阿夜が眉を動かした。 平静を装う彼女にとっても、第四真祖の魔力は脅威なのだ。

だが、眷獣を完全に実体化する前に、古城の体がよろめいた。 目眩に襲われたように膝を突き、激しく咳き込みながら吐血する。

右手で押さえた古城の胸から、鮮血が霧となって流れ出していた。 その出血と同時に、吸血鬼としての力までもが零れ落ちた。

 

「そうか。 七式降魔突撃機槍(シュネーヴァルツァー)の傷を負っているのだったな、第四真祖」

 

「……黙れよ。 仙都木阿夜」

 

悠斗が低い声で呟く。

また、悠斗は左掌に雷球を形作っていた。 今ある魔力で雷球を作ったのだ。 真祖の倍の力を誇る青龍の雷である。

そんな悠斗を見て、阿夜は再び眉を寄せたが、悠斗を牽制するように、自らが立っている場所を指して挑発的に笑う。

 

「大したものだ。 あれだけの傷を負って、其処までの力が出せるとは、紅蓮の熾天使。 だが、いいのか? 監獄結界も多少のダメージを負うぞ。 この結界を維持してる術者にも、反動が及ぶだろうな」

 

「……そうか。 那月ちゃん事だな」

 

阿夜の背後にある監獄を眺めて、悠斗は呟いた。

那月の行方は未だに不明。 しかし、彼女が魔術によって生み出した監獄結界が維持をされているという事は、那月は生きている証明にも繋がる。

 

「――もっとも、そうなることを望んでいる連中もいるようだがな」

 

阿夜が愉しげな表情で呟き、背後を振り返った。

古城たちを見下ろしていたのは、阿夜だけではなかった。 監獄結界の建物の上に、いくつか見知らぬ人影がある。

 

「なんだ、こいつらは!?」

 

猛烈な悪寒を覚えて、古城は無意識に身を固くする。

監獄結界の建物の上に立つ人影は六つ。

老人。 女。 甲冑の男。 シルクハットの紳士。 小柄な若者と、繊細そうな青年だ。

 

「……まさか……彼らは……」

 

雪菜が、雪霞狼を構え直して呟く。

その雪菜の言葉を、悠斗が引き継ぐ。

 

「監獄結界の中で捕まっていた、魔導犯罪者たちだ」

 

悠斗がそう言うと、傷ついた優麻を庇ったまま、古城は表情を歪めて呻いた。

 

「最悪……じゃねーか……」

 

傷の痛みが増し、流れ出した血が古城のシャツをじっとりと濡らしていく。

 

「仙都木阿夜……書記(ノタリア)の魔女か。 あの忌々しい監獄結界をこじ開けてくれた事に、まずは礼を言っておこうか」

 

最初に口を開いたのは、シルクハットの紳士だ。 年齢は四十代半ばほど。 がっしりとした筋肉質な体型だが、服装のせいか知的で穏やかな雰囲気がある。

 

「汝たち六人だけか……他はどうした」

 

「どうした、じゃねー! こいつだ! こいつ!」

 

短く編み込んだドレッドヘア。 派手な色使いの重ね着に、腰穿きのジーンズ。

彼も、監獄結界に収監されていた魔導犯罪者の一人だ。

その証拠に、彼の左腕には今も、鉛色にくすんだ金属製の手枷が嵌められている。

 

「見ろ!」

 

獰猛な唸り声を上げながら、ドレッドヘアの若者が右腕を一閃した。

その直後、紳士の体が血飛沫を撒き散らした。

 

「シュトラ・D、貴様――!」

 

血塊を吐き出しながら、紳士が憎悪の眼差しをドレッドヘアに向ける。

服装や雰囲気から察するに、彼は魔導師なのだろう。 その肉体は強力な魔術障壁によって保護され、生半可な攻撃では傷つける事は出来ない。 だからこそ、凶悪犯として監獄結界に封印されていたのだ。

魔導師の左腕に嵌められた手枷が輝いたのは、その直後だった。

手枷から奔流のように噴き出したのは無数の鎖だ。 其れは、瀕死の魔導師を縛り上げ、虚空へと引きずり込んでいく。 行き先は、監獄結界の内側だ。

 

「……なるほどな。 監獄結界の脱獄阻止機構(システム)はまだ生きてる、とういうこと……か」

 

阿夜が、平静な声で呟いた。

 

「魔力や体力の弱った奴は、こうして結界内に再び連れ戻されるってわけだ。 わかったかよ。 脆ェ連中は、最初から外に出ることもできねェんだけどよ」

 

シュトラ・Dと呼ばれていたトレッドヘアの若者が、忌々しげに犬歯を剥いて言う。

 

「……空隙の魔女を殺して、監獄結界が消滅するまで、ワタシたちは完全に自由にはなれないみたいなの。 ふふ……おわかりになったら、さっさとあの女の居場所を教えてくださる?」

 

ドレッドヘアの言葉を引き継いで、阿夜に問いかけたのは、菫色の髪をした若い女性だった。

美人というには退廃的な雰囲気は、その分淫らな色気を感じさせる。 長いコートの下の衣装は露出度が高く、どことなく娼婦めいた気配を漂わせていた。

だが、阿夜を見詰める彼女の瞳には、殺意が彩られている。 阿夜は、その殺意を平然と受け流して首を振った。

 

「悪いが、知らんな。 あの女を殺したければ、精々自分で探すことだ。――尤も、そう簡単には殺せないと思うがな」

 

阿夜の視線が、悠斗に向けられる。

 

「そーかよ。 面白ェじゃねーか……。 図書館(LCO)総記(ジェネラル)さんよ。 だったらあんたにも、もう用はねェなあ」

 

シュトラ・Dが、好戦的に唇を吊り上げて笑った。

シルクハットの紳士を攻撃したかのように、右腕を振り上げて阿夜を睨む。 協力しないのなら、阿夜を殺す。という態度である。

彼にとっては、利益のない人間は全て敵という認識なのだろう。

阿夜は、長い袖に包まれた左腕をシュトラの前に掲げた。 握られたのは、一冊の古びた本だ。

 

「逸るな、山猿……。 南宮那月の居場所は知らんが、手は貸さないとは言っていない」

 

「あァ?」

 

腕を振り上げたままの姿勢のままで、シュトラが動きを止める。

阿夜の言葉を理解出来ずに、困惑してるらしい。

 

「“No.014”……固有堆積時間操作の魔導書ですか。 なるほど……面白い」

 

シュトラの代わりに、訳知り顔で頷いたのは、繊細そうな面差しの青年だった。

 

「どういうことだよ、冥駕?」

 

「馴れ馴れしく、その名で呼ばないでもらいたいのですが。……まあいいでしょう」

 

不愉快そうに眼鏡のずれを直して、冥駕と言われた青年がシュトラを見る。

 

「要するに、呪いです。 仙都木阿夜は魔導書の力を借りて、空隙の魔女に呪いをかけた。 今の南宮那月は、おそらく記憶をなくしている。――そうですね。 仙都木阿夜?」

 

「そう……だ。 正確に言えば、奪ったは記憶だけではなく、奴が経験した時間そのものだがな」

 

「他人の肉体に堆積された時間を奪い取る。……それが図書館(LCO)総記(ジェネラル)だけに与えられという魔導書の能力ですか。 なるほど……興味深いですね……」

 

平坦な口調で冥駕が言う。 シュトラが不機嫌そうに会話に割り込んだ。

 

「記憶だか時間だかを奪った……って、そんなことして、何か意味があんのか?」

 

「今の南宮那月は魔術が使えない、ということです。 おそらく彼女の守護者の力も」

 

「そうか……その魔導書は、あの女が手に入れた力……いや、力を手に入れる為に使った時間や経験そのものを、なかったことにしちまった……ってことか」

 

ようやく状況を理解して、シュトラが愉快そうに笑った。

 

「完全に魔力を失う直後に、南宮那月は逃走したようですが。 ですが、あなたが魔導書を起動させてる限り、彼女は二度と魔術を使えない。 あとは、我々の誰かが、逃走中の彼女を見つけ出して殺せばいい、というわけですか。 仙都木阿夜?」

 

阿夜は無言。 好きに判断しろ。という態度だ。

 

「そういうことなら、手を貸してあげても良いわよ、仙都木阿夜。 あの女を殺したいと思っているのは、みんな同じ――早い者勝ちということでいいのかしら?」

 

菫色の髪の女が、自身の左腕の手枷を眺めて微笑む。

 

「ケッ、面倒な話だが、まあいいか。 長い牢獄暮らしで体も鈍っていることだしな。 リハビリには、ちょうどいいかもしれねェな」

 

彼の言葉に同意したように、他の脱獄者が頷く。

逃走した那月を探し出し、殺す。 其れまでは、お互いに共闘すると言っているのだ。

悠斗は、雷球を出したまま、脱獄者たちを睨む。

 

「……テメェら、そんな事させると思うか。」

 

「アァ? なに言ってんだ、このガキは?」

 

ようやく、悠斗の存在を思い出したかのように、鬱陶しげな視線を向けてくるシュトラ。

胸の傷口を押さえながら、古城も悠斗の隣に立つ。

 

「そういえば、あなたがたがいましたね。 第四真祖、紅蓮の熾天使。 この際、先に排除しておきましょうか――」

 

静かな口調で、冥駕が告げた。

誰一人、悠斗と古城を恐れていなかった。 世界最強の吸血鬼、真祖以上と恐れられてる吸血鬼を相手にしても、自分たちが敗北する事はないと、当然のように信じているのだ。

 

「ったく……たかが吸血鬼の真祖風情が、このオレを止める気かァ? まあ、紅蓮の熾天使が全快だったらヤバかったけどな――よっと」

 

シュトラが蔑むように言い放ち、塔の上から飛び下りてくる。

古城までの距離は数十メートル以上。 にも関わらず、シュトラは大上段に構えた右腕を振り下ろした。

放たれた殺気は強烈だが、シュトラの右腕から魔力は殆んど感じない。 ただの威嚇と思い古城は避けようとしなかった。

だが、――悠斗と雪菜は気づいた。

 

「姫柊!」

 

「わかってます!」

 

刀を出した悠斗と、雪霞狼を携えた雪菜が、古城を庇うように前に立つ。

その直後、雪菜と悠斗の頭上へと叩きつけられたのは、大地を震わせるほどの爆風だった。

雪菜の雪霞狼と、悠斗が形作った刀が、シュトラが放った烈風を受け止める。

凄まじい重荷に耐えかねたように、悠斗と雪菜がその場に片膝を突く。

 

「姫柊! 悠斗!」

 

突き抜ける衝撃の余波に圧倒されながら、古城は呻いた。

シュトラ・Dの不可視の斬撃。

しかし古城が驚かせたのは、雪菜が防ぎきれなかった事と、悠斗が攻撃に気づいた事だった。

雪菜の雪霞狼は、ありとあらゆる魔力を無効化するはずだが、その防御を突破したということだ。

悠斗が攻撃に気づいたのは、通常以上の洞察力に、生まれ持つ超直感を行使したからだ。

 

「……何だと、オレの轟風砕斧(ごうらんさいふ)を受け止めやがっただと?」

 

シュトラ・Dは、自身の必殺の攻撃を防がれ動揺していた。

その隙に悠斗は、左手を掲げた。

 

「――閃雷(せんらい)!」

 

シュトラの頭上に雷撃が降ったが、致命傷まではいかなかった。 完全な出力不足である。

攻撃を畳みかけようにも、悠斗の魔力は枯渇寸前まで減少していたのだ。

 

「……やってくれるじゃねーか、紅蓮の熾天使。 プライドが傷ついちまったぜェ! ちっと、本気出すかァ!」

 

荒々しく吼えながら、シュトラは再び腕を振り上げた。

凄まじい殺気が、練り上げられていくのが分かる。 この攻撃は、先程とは比較にならない。

 

「……古城、姫柊。 お前たちは、優麻つれて先に行け。 此処は俺が引き受ける」

 

悠斗の提案に、古城と雪菜は絶句した。

悠斗が全快なら、この場の脱獄者の相手は出来ただろう。 だが、現状の悠斗は深手を負い、魔力も枯渇寸前だ。 この場にいる脱獄者たちを一人で相手にするなんて無謀すぎた。

 

「だ、駄目だ。 残るならオレが――」

 

「わ、わたしが残ったほうが賢明です――」

 

古城と雪菜の言葉を聞き、

 

「適材適所っていう言葉があるだろ。 今がそうだ」

 

だが、古城と雪菜は納得した顔をしない。

悠斗は嘆息した。

 

「いいか、古城。 優麻はお前の友達(ダチ)だ。 お前が救ってやるんだ。 姫柊は古城の監視役だろ、監視役なら、古城の傍から離れるな。――大丈夫だ、俺が規格外な存在って知ってるだろ。 其れに、こんな所で死んでたまるかよ」

 

古城と雪菜は頷き、古城が優麻を背におぶった。

悠斗は刀を構えた。

 

「早く行け! 此処は任せろ!」

 

その直後、シュトラが不可視の斬撃が放たれた。

 

「ハァハァ――! 纏めて潰すぜ、第四真祖、紅蓮の熾天使――っ!」

 

だが、斬撃が叩きつけられる瞬間、眩い真紅の閃光が視界を覆い尽くした――。




悠斗君、力が封印されてしまいました。かなりの弱体化ですね。
蛇貴族に戦いを挑まれたら、ちょいやばいかもですね(^_^;)
てか、悠斗君。あれだけの攻撃を受けて立っていられるのは、チート性能があってこそです。
後、刀を出すときには、雷球は消してますよ。

ではでは、感想、評価、よろしくです!!

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