まじで、すいまそんm(__)m矛盾があったらゴメンなさい(^_^;)
今回の話で、この章は終了ですね。分けようとしたんですが、文字数が微妙になっちゃうんで(^_^;)
そして、ご都合主義満載です!
では、投稿です。
本編をどうぞ。
仙都木優麻は、
其処からの監獄結界までの距離は数百メートルほどだ。
聖堂がある小さな岩山は、簡易的な浮橋で絃神島と連結されている。 此処は蜃気楼のように揺らぐ不安定な道だ。
監獄結界は、まだ完全には実体化してなかったのだ。
海面にそそりたつ岩山目がけて、優麻にそっと手を伸ばすが、その直後、優麻の背後を揺らして甲冑を纏う騎士の幻想が出現する。 顔がない青い騎士だ。
優麻が“
監獄結界は既に目の前にある。 あとは第四真祖の膨大な魔力をぶつけ、それをこちら側の世界に引きずり出すだけだ。 その封印を破れば、優麻の目的は達成される。
だが、それを守護者に命じる前に、背後から優麻を呼ぶ声がした。
「優麻!」
優麻が振り返ると、其処には自身の体に入っている古城。 その両脇には、銀色の槍を持った少女、漆黒の黒髪を揺らす少年が立っていた。
「もう、ボクに追いついたのか」
優麻は感心に呼びかけた。
今の古城はただの人間だ。 空間を跳び越えて移動した優麻に、追いつくことが出来ないはずなのだ。――そう。 古城一人の力だったら。
「いい友達に恵まれたんだな、古城」
「他人事みたいに言ってんじゃねぇよ。 お前だって、その中の一人だろうが」
古城は唇を歪めて答え、優麻は面食らったように目を瞬いた。
「嬉しいな。 まだボクのことを友達だと思ってくれるのかい?」
「言っとくけど、こっちは魔女なんか見慣れてるし、その程度じゃなんとも思わねーよ。 オレは自分以上に規格外な存在を知ってるしな」
悠斗は、目をパチクリさせ、古城を見た。
「それって、俺のことか!?」
悠斗は声を上げた。
雪菜も首を縦に振り首肯していた。 まあ確かに、悠斗も、自身の事を規格外な存在と認識してる。 誠に遺憾な事だが。
「――さて、お前の事情はあらかた予測出来た」
優麻は目を細めた。
「……教えてくれるかな?」
「言い方は悪いが。 お前は、仙都木阿夜のコピーみたいなもんだろ? アッシュダウンの悲劇と、お前が揃っての予測だが」
「……悠斗は、どれだけの情報を持っているんだい?」
「俺は小さな時から世界中を転々としていたからな。 各国の情報とか、その土地で起こった出来事とかが耳に入ったんだわ」
ついでに言うと、眷獣たち共情報を共有していたが。
「そうなんだ、それなら頷けるね」
「で、あれだろ。 古城が第四真祖と知って、LCOは計画を変更したと」
「……悠斗の言う通り、計画は少しばかり変更されたんだ。 ホントは、結界を破る為、絃神島の住民を十万人ばかり生け贄に使う予定だったんだ。 だけど、古城のお陰でその必要もなくなった……ありがとう、古城」
「いいや、住民を贄にする事は不可能だったぞ。 俺が全力で、お前たちを阻止してたはずだ」
不可能だと思われる事だが、悠斗が無理やり封印を解けば可能なのだ。
その代償として、戦闘後の反動が大きいが。
「雪霞狼!」
悠斗の言葉が終わったと同時に、雪菜が凄まじい速度で優麻に突撃するが、その前に優麻は、空間を歪めて数十メートル離れた場所へと移動した。 雪霞狼は、目標を失い空を斬った。
優麻の背後に浮かんでいた顔のない青騎士が、ギシギシと甲冑を軋ませて両手を掲げ、その隙間から生まれたのは、黄金の輝きだ。 轟音を伴う眩い雷光。
――第四真祖の眷獣、
「
「第四真祖の眷獣!? そんな……!?」
「時空を歪めたのか、古城が過去に使った眷獣の一部を呼び出す為に」
だが、そんな事をしたら、術者への反動も相当なものだ。
その証拠に、両膝をついて蹲る優麻と、傷ついた青騎士の姿だけが残っていた。 鎧はひび割れ、砕け、青白い火花に包まれている。
「さすが第四真祖の眷獣……ボクの“
優麻の弱々しい呟きの後に、蜃気楼に不安定だったはずの島が完全に実体化し、燃え上がり、崩れようとしている。
島へと続く浮き橋も実体化して、水飛沫に洗われた。
監獄結界の封印が解けて、通常空間に復帰したのだ。 封印を破ったのは、第四真祖の眷獣の攻撃だった。 あらゆる術式を圧倒する横暴な破壊力を使って、強引に島を覆う結界を破壊したのだ。
「監獄結界が、実体化した……のか?」
「やられたな。……あの時、俺の眷獣が次元を切断すれば」
これが、悠斗が攻撃出来なかった理由だ。
眷獣の雷撃の余韻が消え去ると同時に、空間を揺らぎも完全に消滅していた。
其処にあるのは、絃神島の一部。 古い岩石を模した
破壊された隙間から、聖堂の内部が見えていた。 其処にあるのは空洞だ。
聖堂の中は完全な空であり、がらんどうの空間が広がっていただけだ。 そう。 ただの空隙が――。
「たとえ結界を失っても、監獄が解放されたわけじゃない、ということか……。 だけど、やはりそこにいたね」
傷ついた青騎士の破片を撒き散らしながら、優麻が聖堂へと入っていく。
雪霞狼を構えたまま、雪菜は優麻の背を眺めていた。
悠斗は、優麻の背を見ながら聖堂の中へと入っていく。
聖堂の中には、一脚の椅子が置かれてる。 ベルベット張りの豪華な肘掛け椅子だ。 其処には、眠るように目を閉じたまま座っている一人の少女。
悠斗は、少女を見ながら、
「お目にかかれて光栄です。 監獄結界の鍵――。 空隙の魔女よ」
優麻は、那月に恭しく一礼する。
後方で、優麻と悠斗の姿を見ていた古城と雪菜は、ただ呆然と其れ眺めていた。
そして、古城と雪菜も聖堂の中に移動する。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「那月ちゃんが……監獄結界の鍵」
どういうことだ。と古城が聞く。
破朧院フェスタの前日に失踪した那月が、どうしてこんな場所に一人きりでいるのか、古城には全く理解できない。 だが、悠斗は理解していた。
「……古城。 俺は昔、那月ちゃんと協力して、魔道犯罪者を監獄結界に入れたって言ったよな」
「……ああ、確かに」
「俺が、監獄結界に入れた理由がはっきりしたんだ。――那月ちゃんが、監獄結界の使い手だから、入ることが出来たんだ」
「じゃ、じゃあ、学園で教師をしてた那月ちゃんは!?」
悠斗は顔を伏せた。
「あれは、那月ちゃんが生み出した幻影だ。 だが、記憶は確かにここの那月ちゃんに入っているはずだ」
だが、優麻が微笑みながら、悠斗の問いに首を横に振った。
「悠斗は、理想家だね。 君たちが見てたのは、ただの夢だよ。 南宮那月のね。 幻影を幾ら壊しても意味がない。 だがら、これまでLCOは彼女に手を出せなかった。 監獄結界の封印が解けて、彼女の本体が此方側の世界に戻ってくるまでは」
優麻の背後に浮かび上がった青騎士が、巨大な拳を振り上げた。
その一撃が彼女に当たれば、彼女は間違えなく絶命するだろう。 だが――。
「俺の恩師をやらせると思うか、仙都木優麻」
悠斗が、その間に割って入った。
「無駄だよ、悠斗。 この空間では、幾ら君でも眷獣は召喚出来ないでしょう」
「忘れてもらったら困るな。 俺はこの状態でも、眷獣の技を使える」
「ボクの“
「かもな。――だがな、俺が易々と此処を退くと思うか?」
優麻は苦笑した。
「いや、君は簡単に退いてくれないね」
「だろ」
優麻と悠斗の会話を聞いていた古城の頭は、パンク寸前だ。
那月が、何故監獄結界の看守になったのか、それは魔女の契約なのか。 何故那月は学校の教師をしていたのか。 もし、監獄結界が破られたら、どうなってしまうのか。 このような事柄が頭の中をグルグルと回っているのだ。
古城たちが見てる前で、青騎士の拳が振り下ろされるが――。
「――牙刀」
悠斗が手に形作ったのは、一振りの刀だ。
だが、その重量は、刀一振りで受け止められる物ではない。
徐々に、悠斗の膝が折れていく。
その時、銀色の閃光が甲冑を易々と貫通し、その拳を破壊した。
「その槍、そうか……。
優麻が顔を強張らせた。
あらゆる魔術を無効化する破魔の槍。 魔力で実体化を保っている魔女の守護者にとっては、相性が最悪の武器である。
「獅子王機関より派遣された、第四真祖の監視役。――暁先輩の肉体を返してもらいます!」
「甘いな……」
優麻が失笑しながら、古城の方へと顔を向けた。
「その槍の力なら、ボクの本来の体を攻撃すれば簡単に勝負が決まるのに……それをしないのは、古城に感化されたのか。 やっぱり君も、古城にたぶらかされた口かな」
「ち、違います!」
雪菜が、ムキになって言い返す。
「げ、現状では、これが最善だと判断したまでです! 空間制御術式が破れた際に、第四真祖の魔力が暴走する可能性がある以上、優先してその体を回収する必要があるという、極めて合理的な分析の帰結です。――それに」
言い終える前に、床を蹴り雪菜が跳んだ。 彼女の槍が、正確に優麻の胸元へと突き込まれる。
「――どちらも難易度は大差ありませんし」
「“
優麻が守護者に防御を命じた。
しかし、青騎士の分厚い装甲を、雪霞狼が斬り裂いた。 青白い火花を撒き散らし、青騎士が苦悶の咆哮を放つ。
優麻は舌打ちして空間を歪めた。 空間転移で、雪菜の四角に回りこもうとしたのだ。
「無駄です!」
雪菜が、最初からそれを知っていたように反転し、優麻の着地地点に斬撃を放った。
剣巫の未来視だ。 霊視能力を持つ雪菜には、単純な奇襲攻撃は通用しない。
「その肉体を操っている限り、あなたの守護者は、魔力の大半を空間接続に使わなければなりません。 戦闘能力はほとんど残されてないはず」
「たしかに……今の状況で獅子王機関の剣巫を倒すのは難しいだろうね。――だけど、忘れてないかい。 ボクは、君と正面からやり合う必要なんてないことを」
そう言い残して、優麻が空間転移する。 転移先は、雪菜が追撃出来ない聖堂の上空だ。
「しまっ――!」
優麻の狙いに気づいて、雪菜が表情を凍らせた。
青騎士が攻撃魔術を起動する。 初歩的な火球魔術だが、それを放てば爆弾並みの威力になる。
優麻が攻撃対象として選んだのは、眠り続ける那月の頭上、聖堂の天井だ。
だが、雪菜は其処にいる人物を見て安堵の息を吐いた。
「悪いな、優麻。 俺は結界も張れるんだわ。――
四方形の結界が悠斗の周りに展開し、重力に引かれて落下する石塊を弾き返す。
「なッ!?」
「俺の眷獣は、守護の化身もいる。 規格外の存在だから、破壊の眷獣しかいないって決めつけるのはよくないぞ」
「なんだ……これは……!?」
声がした古城を見やると、額から鮮血が流れ、古城の肌のあちこちが裂け、そこから激しく流血していたのだ。
その可能性は一つしかない。 優麻の肉体そのものが限界を迎えているのだ。
第四真祖の魔力を引き出し、眷獣を一瞬とはいえ呼び出した。 守護者の使用と空間転移の連発――。
優麻の肉体が崩壊を始めてる。
「やめろ、優麻。 お前の肉体は、もう限界だ。 勝負はついてる」
「関係ない……! あと少しで、ボクの役目は終わる。……これで、ようやく自由に」
優麻の言葉を聞き、悠斗は舌打ちをした。
こうなってしまっては、一刻も早く勝負を決めるしかない。
「姫柊!」
「わかってます!――獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る」
雪菜が、祝詞を唱えながら宙を舞う。
「破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて、我に悪人百鬼を討たせ給え!」
閃光を放ちながら、雪霞狼の一撃は――古城の肉体の心臓を刺し貫く。
だが、そう思われた瞬間、雪菜の攻撃が止まった。 雪菜は、古城の心臓を貫くのに、一瞬だが躊躇してしまったのだ。
その隙を見逃さず、優麻が動いた。 青騎士の巨大の拳が、横殴りで雪菜を襲ったが、雪菜は辛うじて雪霞狼で受け止めた。
だが、衝撃までは受け止める事は不可能だった。 雪菜の体が床に叩きつけられた。
「姫柊!」
古城が叫ぶ。
「だ、大丈夫です……これくらい」
駆け寄ろうとした古城を制止して、雪菜は、雪霞狼を杖代わりによろよろと立ち上がる。
「優しい子だな、君は」
優麻が、ふらふらになって立ち上がった雪菜を見ながら呟く。
「あらゆる魔力を無効化する獅子王機関の秘奥兵器――。 いくら吸血鬼が不老不死でも、
「……何のことか、わかりません。 今のは、少し油断しただけです」
その時、悠斗が息を吐いた。
「まあなんだ。 どうするかは古城の判断に任せるとして。 優麻、お前を地に落とす。 幸い古城の体だし、何とかなるだろ」
「お、おい!? オレの体に、凄まじいダメージが蓄積されるよな!?」
「ま、いいじゃんか。 不老不死の第四真祖だし」
「答えになってねぇ!?」
悠斗は、古城の言葉を背に、吸血鬼の力を解放し床を蹴った。
その高さは、優麻の背に回り込み頭上までだ。 悠斗は、左右の手の指を重ね一つの拳を作った。 拳を振り上げ、優麻の背に思い切り叩きこむ。 これを受けて、優麻は地に落ちた。
悠斗は着地し、
「うっわ、痛そう」
と、呟くのだった。
古城は、ふらつく雪菜を寄り添うそうに背後から支えた。
二人で雪霞狼に手をかけ、それを構える。
「古城……どうして……」
「悪いな、優麻。 お前をぶっ飛ばして、オレはオレの体に戻る。 今の体のままじゃ、いつもみたいに、姫柊の血を吸えないしな」
古城の言葉に、雪菜がムッと唇を曲げる。
てか、今の言葉、雪菜はオレの血の従者だ。って解釈できるが、気のせいだろうか?
「行くぜ、優麻。――ここから先は、
雪菜の手から槍を奪い取り、古城は自身の体の前まで歩み寄った。
「古城ッ!」
優麻が苦悩な声で叫び、空間転移で姿を消そうとするが、それは叶わなかった。 先程の悠斗の一撃が体の芯まで響いているからだ。
古城は、倒れ伏している自身の心臓目掛けて雪霞狼を振り下ろした。
「“
優麻が青騎士に防御を命じた。 分厚い甲冑を纏った青騎士が交差させた両腕で槍を拒んだ。 霊力を持たない古城の一撃は、雪霞狼本来の魔力無効化能力を発揮出来ない。
「駄目かっ!」
「駄目じゃないぞ、古城。 その一撃は、胸元に届くぞ」
悠斗がそう言うと、古城の視界を雪菜が横切った。
笑みを浮かべながら、空中で旋回し、強烈な後ろ蹴りを叩きこむ。 槍の石突きへと。
「――先輩。 わたしたちの勝ちですよ」
雪霞狼が眩い光を放ち、それが青騎士の両腕を貫いた。 蹴りつけらた足の先から、霊力を流し込んだのだ。 それは、――暁古城の胸元を深々と抉った。
「馬鹿な……どうして、古城……」
放心したような優麻の呟きは、硝子が砕ける甲高い衝撃破にかき消される。
空間魔術が無効化され、その反動が大気を揺らしたのだ。
「痛ェ……」
うつ伏せになりながら、いつもの第四真祖が弱々しく呻いた。
そんな第四真祖の顔を覗き込んで、雪菜は安堵の息を吐いた。
「おかえりなさい、先輩」
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
古城は寝返りを打った。
だが、それは雪菜の膝枕の上でである。
「起き上がれ、バぁ野郎」
そう言って、悠斗は古城の体を優しく蹴った。
慌てて起き上がったが、全身を貫く痛みに、苦悶の表情を浮かべる。
「体中が死ぬほど痛ェ……。 背中とか、パンパないぞ」
それはお分かりの通り、悠斗が殴った場所である。
「あれで動きが止まったんだ。 万事OKという事で」
「まあそうだけど。 でも、何か腑に落ちねぇ」
「それよりも、確認することがあるだろ? 古城」
悠斗の言葉に、古城はハッとした。
「そ、そうだ……優麻は!?」
「無事です。 空間接続が断絶された時の衝撃は、先輩ほどではありませんから」
雪菜が、古城に隣に横たわる優麻に視線を向ける。
彼女の生命活動に問題はないし、苦悶な表情も見受けられない。
「失敗……したのか、ボクは……」
瞳を開けた優麻が、平坦な口調で呟く。
「ま、失敗だわな。――いいじゃねぇか。 優麻は、監獄結界をどうこうするっていう命令が消えたんだろ。 なら、これからは自由じゃんか。 ま、事情聴取うんぬんはあるかもしれないけど」
優麻は上体を起こし、笑みを零しながら頷いた。
誰もが見惚れる笑みだが、悠斗にそれは通じない。
「あれ、ボクの笑みを見てもなにも思わないの?」
「……お前、知ってて聞いてるだろ」
優麻は苦笑した。
「そうだね。 紹介される前から気づいてたよ。 隠す気ある?って感じだったから」
悠斗と凪沙の関係は、女子から見るとこのように映るらしい。
てか、気づいてないのは古城だけ。という可能性もあるんだが。
「……あるにはあるんだが、何と言うか、無意識に表に出ちゃうだよな」
「あれだけのオーラを出してるもんね」
「あれで、大抵の人にはバレるんだけどな」
その時、背後から懐かしい声が聞こえてきた。
「……まったく、あれだけの騒ぎを起こしておいて平和なものだな。 お前たちは」
振り返ると、其処には眠り続けていたはずの、南宮那月が立っていた。
魔術の分身ではなく、監獄結界に封印されていた本物である。 まあ、分身でも本物でも、那月は那月だ。
「南宮先生、やっぱり起きてたんですね」
雪菜が、安堵したように言う。
監獄結界の鍵である彼女が目覚めれば、封印を再度張り直す事や、新たなシステムを組み込むなど、手の打ちようはいくらでもある。
「まさか……寝たふりをしてたのか……汚ェ」
古城が不満たらたらな目つきで、那月を見上げる。
「力を温存してたのは事実だがな。 第四真祖の眷獣の力をまともに食らったんだ。 いくら私でも、無傷で済むわけがないだろう……紅蓮の熾天使と言う、例外もいるがな。 まったく、恩師に手を上げるとはいい度胸だな、暁古城。 どれ、褒美をくれてやろう」
そう言って那月は、古城の眉間にデコピンを食らわせた。
「痛ってェェェ! それのどこが褒美だ。 ていうか、あれはオレがやったんじゃねぇ」
「待ってくれ那月ちゃん。 俺が規格外なのは、今に始まった事じゃないけどさ。 それ、酷くね」
那月は、悠斗の眉間にもデコピンを炸裂させた。
「……痛てぇよ、那月ちゃん。 俺、那月ちゃんのこと助けたんだぜ。 見逃してくれてもよかったんじゃ……」
「ふん。 教師をちゃんづけで呼ぶからだ、神代悠斗」
悠斗は眉間を摩りながら、
「すいませんでした。 那月先生」
「始めからそう言えば、私もこんな事はしないぞ」
不意に真面目になった那月が、優麻へと向き直った。
「……仙都木阿夜の娘。 どうする、まだ続けるか?」
悠斗が那月の隣に立った。
「ま、続けない事をお勧めするけどな」
「そうだね、やめておくよ。 悠斗を敵にするとか、賢い選択じゃないしね。 ボクにはもう、監獄結界をどうこうする理由はなくなったみたいだ……。 “
「そうか」
優麻が実体化させた守護者を眺めて、那月は頷いた。
青騎士は、古城たちとの戦いで満身創痍の姿を晒していた。 たとえ回復するにしても、優麻が魔女としての能力を完全に取り戻すには、長い年月が必要になるはずだ。 そして優麻自身、それを望んでいるとは思えない。
彼女は、ようやく母親の呪いから解放されたのだ。 だが、異変が起きたのは、その一瞬のことだった。
「……“
守護者の実体化を解こうとした優麻が、不安げに声を震わせた。
顔のない青騎士が、全身の甲冑を震わせる。
金属と金属がぶつかり合うような奇怪な騒音。 傷だらけの青騎士が、骸骨を思わせる空虚な仮面の下で笑ってる――。
「やめろ、“
優麻が命令するが、守護者の動きは止まらない。
腰に掲げていた剣の柄に手をかけ、それを抜き放った。 悠斗は、那月を庇うように前に立つ。
しかし青騎士の行動は、予想を裏切るものだった。
振りかざした巨剣を、青騎士は優麻の胸へと剣を突き立てたのだ。 守護するべき対象の優麻に。
「……優……麻」
古城の、途切れ途切れの声が届く。
優麻の口から、鮮血が零れ出す。
「……お母様……あなたは、そこまで……」
彼女の胸には剣が突き刺さっていたが、優麻の体を貫通していたはずの剣の刀身が、背後に現れる事はなかった。
優麻の肉体の門と使って、残りの刀身を何処かに転移させたのだ。
「待チワビタゾ……コノ瞬間ヲ。 抜ケ目ナク狡猾ナ貴様ガ、ホンノ一瞬だけ、気ヲ抜クノヲ。 ソシテ、隙ヲ見セナカッテタ紅蓮の熾天使。 貴様ノ鎧ヲモ貫ク剣だ」
顔のない青騎士が、錆びた声を紡ぐ。
それは女性の声だった。 邪悪な魔女の声音だ。
「ブービートラップ……か。 まさか、自分の娘を囮にするとはな……外道め」
「ったく、……仙都木阿夜とは、接点がなかった……ような気がするんだけどな」
長い巨剣の刀身が、那月と悠斗の胸元を背後から突き刺していた。
那月と悠斗の口から、鮮血が零れる。
「悠斗!」
「南宮先生!」
その光景に、古城と雪菜はただ立ち尽くすことしか出来ない。
古城は青騎士を憤怒な表情で睨みつけたが、青騎士はその姿を徐々に消していき、悠斗と那月は膝から徐々に崩れていった。
古城と雪菜は、悠斗と那月を抱き止めるしか出来なかった。
悠斗君なら、那月ちゃんが監獄結界の門番だとすぐに気付くはず……。ですが、ここは、ご都合主義発動です!まあ、その時の悠斗君が幼かったと理解してくだせェ。
そして、チートの悠斗君が、一瞬の隙を見せた瞬間に刺されてしまいましたΣ(゚Д゚)
朱雀の焔の鎧も貫いちゃいました。ここまで考えた犯行だったんでしょう。
また、悠斗君が、隙を見せるような出来事だったんですね(>_<)
ではでは、感想、評価、よろしくです!!
次章の、観測者たちの宴も頑張って書きます!!