ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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うん、そろそろ矛盾が出てきたかもしれない……。
そこは、ゴリ押ししちゃいます(`・ω・´)ゞ

それでは、本編をどうぞ。


聖者の右腕Ⅲ

雪菜は、爆発音が止まない倉庫街を走っていた。

戦闘中の眷獣は、漆黒の妖鳥だった。

ビルの屋上に立って眷獣を使役しているのは、長身の吸血鬼だ。

この魔力の凄まじさから、旧き世代の吸血鬼だろう。

だが、旧き世代の吸血鬼と謎の人物との戦闘は、終わる気配がない。

 

「あれは……」

 

闇を裂いて伸びた閃光に気付いて、雪菜が困惑な声を出す。

それは虹色に輝く、半透明な巨大な腕だった。

数メートル近い長さの腕が、漆黒の妖鳥と空中で接触する。

次の瞬間、妖鳥の翼が根元からちぎられ、鮮血が飛び散った。

体勢を崩した妖鳥を、虹色の腕が貪るように引き裂いて、攻撃を加えていく。

 

「魔力を……喰ってる!?」

 

その異様な光景に、雪菜は戦慄した。 倒した眷獣の魔力を喰らう。――雪菜が知る限り、そんな眷獣は聞いたことがない。

そして、その眷獣を使役してる少女を見て、雪菜は更に戦慄した。

虹色の腕の宿主は、雪菜より小柄な少女であり、素肌ケープコートを纏った藍色の髪の少女だった。

 

「吸血鬼……じゃない!? そんな……どうして、人工生命体(ホムンクルス)が眷獣を!?」

 

呆然と立ち尽くす雪菜の背後で、ドッ、と重い何かが投げ落とされた音がした。

振り返ると、重傷を負って倒れた旧き世代の吸血鬼だった。

 

「――ふむ。 目撃者ですか。 想定外でしたね」

 

聞こえてきた低い男の声に、雪菜は顔を上げた。

燃え盛る炎を背にして立っていたのは、身長百九十センチを超える巨躯の男だった。

右手に掲げた半月斧(バルディッシュ)の刃と、装甲強化服の上に纏った法衣が、鮮血で紅く濡れていた。

これは、返り血だ。

 

「戦闘をやめてください」

 

雪菜が、男を睨んで警告した。

男は、雪菜を蔑むように眺め、

 

「若いですね。 この国の攻魔師ですか……見た所、魔族の仲間ではないようですが」

 

「行動不能の魔族に対する虐殺行為は、攻魔特別措置法違反です」

 

「魔族におもねる背教者たちの定めた法に、この私が従う道理があるとでも?」

 

男は無造作に言い捨て、巨大な戦斧(せんぷ)を振り上げる。

 

「くっ、雪霞狼――!」

 

槍を構えて、雪菜が走った。

負傷した吸血鬼を目掛けて振り下ろされて戦斧を、ぎりぎりで受け止める。

 

「ほう……!」

 

戦斧を弾き飛ばされた男が、愉快そうに呟いた。

男は、後方に跳び退き、雪菜へと向き直る。

 

「なんと、その槍、七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)ですか!? “神格震動波駆動術式(DOE)”を刻印した、獅子王機関の秘奧兵器! よもやこのような場で眼にする機会があろうとは!」

 

男の口許に、歓喜の笑みが浮かんだ。

眼帯のような片眼鏡(モノクル)が、紅く発光を繰り返す。 男の視界に、直接情報を投影してるらしい。

 

「いいでしょう、獅子王機関の剣巫ならば、相手に不足なし。 娘よ、ロタリンギア殲教師(せんきょうし)、ルードルフ・オイスタッハが手合わせを願います。 この魔族の命、見事救ってみせなさい!」

 

「ロタリンギアの殲教師!? なぜ、西欧教会の祓魔師(ふつまし)が、吸血鬼狩りを――!?」

 

「我に答える義理はなし!」

 

男の体が、地を蹴って加速した。

振り下ろされた戦斧が雪菜を襲う。

雪菜は、それを見切って紙一重ですり抜けた。

攻撃を終えた直後のオイスタッハの右腕へと、旋回した雪菜の槍が伸びる。

オイスタッハは、回避不能のその攻撃を、鎧に覆われた左腕で受け止めた。

魔力を帯びた武器と鎧の激突が、青白い閃光を撒き散らす。

 

「ぬううん!」

 

オイスタッハの左腕の装甲が砕け散り、雪菜はその隙に後方へ跳び退いた。

 

「我が聖別装甲の防護結界を一撃で打ち破りますか! さすがは、七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)――実に興味深い術式です。 素晴らしい」

 

破壊された左腕の鎧を眺めて、オイスタッハが満足そうに舌なめずりをする。

そんなオイスタッハの姿に、禍々しい気配を感じて、雪菜は表情を険しくした。

雪菜は、彼をここで倒さねばならない、と決意した。

 

「――獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る。 破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて、我に悪神百鬼を討たせ給え!」

 

「む……これは……」

 

雪菜が祝詞(のりと)を唱え、体内で練り上げられた呪力を七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)が増幅。

槍から放たれた強大な呪力の破動に、オイスタッハが表情を歪める。

直後、雪菜はオイスタッハに攻撃を仕掛けた。

 

「ぬお……!」

 

放たれた槍を、オイスタッハは戦斧で受け止めたが、腕に伝わる衝撃に耐え切れず数メートル後退。

過負荷によって、各部強化鎧の関節が火花を散らす。

しかし、雪菜の攻撃はそれだけでは終わらない。 至近距離からの嵐のような連撃に、オイスタッハは防戦一方になる。

雪菜は、霊視によって一瞬先の未来を見る事で、誰よりも速く動く事が可能なのだ。

 

「ふむ、なんというパワー……それにこの速度! これが、獅子王機関の剣巫ですか!」

 

見事、とオイスタッハは賞賛する。 雪霞狼の攻撃を受け止めきれず、半月斧がひび割れ、音を立てて砕け散った。

その瞬間、雪菜の攻撃が僅かに止まる。 人間であるオイスタッハを直接攻撃することに、一瞬だけ躊躇してしまったのだ。 その一瞬を、オイスタッハは見逃さなかった。

 

「いいでしょう、獅子王機関の秘術、たしかに見せてもらいました。――やりなさい、アスタルテ!」

 

強化鎧の筋力を全開にして、オイスタッハが背後へと跳躍する。

オイスタッハの代わりに、雪菜の前に飛び出して来たのは、ケープコートを羽織った藍色の髪の少女だった。

 

命令受託(アクセプト)執行せよ(エクスキュート)薔薇の指先(ロドダクテュロス)

 

少女のコートを破って現れたのは、巨大な腕だ。

腕は虹色に輝きながら、雪菜を襲う。 雪菜は雪霞狼で迎撃する。

 

「ぐっ!」

 

「ああ……っ!」

 

辛うじて激突に打ち勝ったのは、雪菜だった。

薔薇の指先(ロドダクテュロス)と呼ばれた眷獣を、銀の槍がじりじりと引き裂いていく。

眷獣の受けたダメージが逆流しているのか、アスタルテと呼ばれた少女が苦悶の息を吐く。

 

「あああああああああああ――っ!」

 

少女が絶叫し、背中を引き裂くようにして、もう一本の腕が現れる。

眷獣が二体ではなく、左右一対で一つの眷獣なのだろう。

それは、独立した別の生物のように、頭上から雪菜を襲ってくる。

 

「しまっ――」

 

雪霞狼の穂先は、眷獣の右腕に突き刺さったままだ。

もし、一瞬でも力を抜けば、手負いの右腕が槍ごと雪菜を押し潰すだろう。

そして、この状態からは、左腕の攻撃は避けられない――。

 

死を覚悟する時間は無かったが、一瞬だけ、見知った少年たちの姿が脳裏によぎる。

今日出会ったばかりの、少年たちの面影が。

 

「(私が死ねば、先輩たちは悲しんでくれるだろうか。 いや、きっと彼らは悲しむだろう。 だから――死にたくない)」

 

その時、一人の少年の声が聞こえてきた。

 

「姫柊ィ――――――!」

 

第四真祖、暁古城の声が。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「おおおおおおおおォ!」

 

古城は握り締めた拳で、巨大な腕を殴りつけた。

虹色に輝く左腕が、跡形もなく吹き飛んだ。

そして、眷獣の宿主である少女も、その衝撃で転倒し、雪菜と戦っていた右腕も消滅した。

雪菜は呆然と眼を見張って、その光景を眺めていた。

 

「なにをやってるんですか、先輩!? こんなところで――!?」

 

「それはこっちの台詞だ、姫柊! この、バカ!」

 

「バ、バカ!?」

 

「様子見に行くだけじゃなかったのかよ。 なんで、お前が戦ってんだ!」

 

「そ、それは」

 

うー、と雪菜が物言いたげに口籠る。 古城も詳しく事情は理解してないが、色々あったのだろう、ということも想像できた。

古城は飛べないし、空間転移魔法なども使えない。 二基の人工島を連結する長さ十六キロの連結橋を全力疾走するのは、流石にきつかった。

そして、古城が追い付いた時には、最初に暴れていた眷獣は倒され、雪菜は謎の男と戦闘の真っ最中だったというわけだ。

 

「で……結局、こいつらはなんなんだ?」

 

「わかりません。 あの男は、ロタリンギアの殲教師だそうですが……」

 

「ロタリンギア? なんで、ヨーロッパからわざわざやってきて暴れているんだ、あいつは?」

 

「先輩、気をつけてください。 彼らは、まだ……」

 

雪菜が警告を終える前に、ケープコートを着た少女が立ち上がった。

少女の背部には、虹色の眷獣が実体化したままだ。

古城に殴られたダメージは、眷獣本体にまでは及んでないらしい。

 

「先程の魔力……貴方は、ただの吸血鬼ではありませんね。 貴族(ノーブルズ)と同等かそれ以上……もしや、第四真祖の噂は事実ですか?」

 

破壊された戦斧を投げ捨て、オイスタッハが言う。

オイスタッハを庇うように、前に出たのは、藍色の髪の少女だった。

 

再起動(リスタート)完了(レディ)命令を続行せよ(リエクスキュート)薔薇の指先(ロドダクテュロス)――」

 

少女の言葉に従って、巨大な腕が鎌首をもたげる蛇のように伸びた。

 

「やめろ、オレは別に、あんたたちと戦うつもりは――」

 

「待ちなさい、アスタルテ。 今はまだ、真祖と戦う時期ではありません!」

 

古城とオイスタッハが同時に叫ぶ。

少女が困惑したように瞳を揺らしたが、すでに宿主の命令を受けた眷獣は止まらない。

虹色の鉤爪を鈍く煌めかせ、猛禽のように古城を狙って降下する。

 

「先輩、下がってください!」

 

槍を構えた雪菜が、古城を突き飛ばすようにして飛び出した。

だが、雪菜の行動を予期していたように、もう一本の腕が少女の足元から放たれた。

地面を抉るようにして飛来する、右腕の不意打ちに、雪菜の反応が遅れた。

 

「姫柊!」

 

古城が咄嗟に雪菜を突き飛ばす。 無防備だった背後からの衝撃に、雪菜は為す術なく吹き飛ぶ。

目標を失った右腕が眼下から、そして左腕が頭上から古城を襲う。

 

「せ、先輩っ!? なんてことを――!」

 

受け身をとった雪菜が、体勢を立て直す。

古城の援護は間に合わないと思ったが、

 

「――降臨せよ。朱雀!」

 

神々しい朱鳥の眷獣が、古城の前に佇み、虹色の腕を消滅させた。

声の主は、倉庫の上に立っていた。

 

「「悠斗(神代先輩)!?」」

 

悠斗は倉庫の上から飛び降り、地へ着地し、右手を上げた。

 

「おう、さっきぶりだな。 古城、姫柊」

 

「な、なんでここにいるんだ!?」

 

「いや、魔力を感知して様子を見にきただけなんだが。 二人が戦ってるとは予想外だった」

 

「この眷獣が、神代先輩が使役してる眷獣ですか。――綺麗ですね」

 

雪菜は、悠斗が召喚した眷獣見ながら、そう言った。

 

「まあな」

 

オイスタッハは、眼を見開き悠斗を見ていた。

 

「……あなたは、何者ですか?」

 

「俺か? 俺はそいつらの友人だ」

 

「……アスタルテ、やってしまいなさい」

 

命令受託(アクセプト)執行せよ(エクスキュート)薔薇の指先(ロドダクテュロス)

 

少女は、左右の腕を再び実体化させ、悠斗の頭上目掛けて腕を振り下ろした。

 

「――朱雀、頼んだ」

 

朱雀は一鳴きし、悠斗を守るように前に佇んだ。

虹色の腕は、焔の翼に呑み込まれ、徐々に消滅していった。

雪菜と古城は、この現象を見て眼を見開いていた。

 

「ま、まさか、薔薇の指先(ロドダクテュロス)()()してるんですか!?」

 

「おお、正解。 例外もあるけどな」

 

オイスタッハは思案をし、

 

「……も、もしやあなたは。 いえ、しかし、眷獣は封印したと噂では……」

 

「で、どうする? 戦うか?」

 

「ここは撤退させていただきます。 行きますよ、アスタルテ」

 

命令受託(アクセプト)

 

アスタルテは、虹色の腕で地面を砕き、砂煙に紛れて殲教師と共に姿を消した。

悠斗はそれを確認してから、息を吐いた。

悠斗が、もういいぞ、と言うと、朱雀は消えていった。

雪菜がおずおずと、

 

「あの、神代先輩って何者なんですか? 浄化能力を持つ眷獣なんて、聞いた事ありません」

 

「まあ、あれだあれ」

 

「……これは、教えてくれないパターンですね。 まあいいです。 時が来たら教えて下さい」

 

「わかった。 誰かにばらされそうな気もするが。 さて、帰ろうぜ」

 

「お、おう、さっきは助かった。……あ、アイス買うの忘れた」

 

「じゃあ、三人でコンビニにアイス買いに行くか」

 

「そうですね。 行きましょうか」

 

三人は、近場のコンビニ目指して歩き出した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

古城の追試が終わった翌々日。

 

「悠君。 起きて、朝だよ」

 

悠斗が眼を開けると、凪沙が悠斗を見ていた。

時刻は、午前八時前だ。

悠斗は眼を擦りながら、上体を起こした。

 

「ん、凪沙か。 どうした、こんなに早く?」

 

「もう、今日から学校が始まるんだよ。 もしかして、忘れてた?」

 

「……あ、そうだった」

 

九月一日、今日は夏休みが終わって最初の登校日だ。

 

「そんなことだろうと思って、凪沙がご飯を作っといたよ」

 

「た、助かる。 てか、古城たちは?」

 

「古城君は、雪菜ちゃんが迎えに来て、先に行ったよ」

 

「ああ、なるほど。(監視の為か)」

 

「うーん、これからは、凪沙と一緒に学校行く? 朝練がある日は無理だけど」

 

凪沙の提案に乗れば、遅刻する回数は激減するだろう。

悠斗は頷き、

 

「お言葉に甘えるわ。 じゃあ、俺は支度をしてくるわ」

 

悠斗は布団を剥いでベットから降り立ち、洗面所へ向かった。

支度をし、テーブル上に乗っている皿からパンを取り、

 

「じゃあ、行くか」

 

「はーい」

 

悠斗は凪沙が玄関から出たのを確認してから、鍵をかけた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

モノレールが学園駅前に到着し、悠斗と凪沙は車両から降りていく。

悠斗と凪沙は改札口を出て、学園へ向かう歩道を歩いていた。

 

「悠君。 昨日のニュース見た?」

 

「ああ、原因不明の爆発事件のことか。 落雷による倉庫火災じゃないか、って言われているが」

 

事件があった翌日は、絃神市で発生した謎の爆発事件が大々的に取り上げられていた。

 

「落雷なんて誰も信じてないよー。 凪沙は、隕石が怪しいと思ってるんだよね」

 

「隕石……隕石ならよかったな」

 

悠斗は脳裏に、殲教師と藍色の髪の少女が映った。

恐らく、奴らは、また何処かで暴れだすだろう。

 

「じゃあ、凪沙はこっちだから、悠君、またね」

 

「おう、またな」

 

悠斗は片手を上げ、中等部に向かっていく凪沙を見送った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「おはよ、古城、浅葱」

 

ホームルーム開始直後の教室。

自分の席に着いた悠斗が、古城と浅葱に挨拶をした。

 

「おはよ、悠斗。 てか、遅刻しなかったのな」

 

「いやいや、古城に言われたくない」

 

眼の下のくすみを気にして手鏡を覗きながら、浅葱が言った。

 

「悠斗は、凪沙ちゃんに起こしてもらったんでしょ。 休みが終わった直後に遅刻しないのは不思議だもの。 古城と悠斗は、遅刻常習犯なんだから」

 

「俺が遅刻しないのは、そんなにおかしいか?」

 

古城と浅葱は、

 

「「うん」」

 

と、同時に首を縦に振った。

 

「そ、そうか」

 

その時、教室の隅に集った男子が数人、一台のスマートフォンを囲んで盛り上がっていた。

 

「な、なんだ、あの騒ぎ?」

 

古城は、興奮状態のクラスメイトを眺めた。

浅葱が、ちょうど近くを通りかかった友人、築島倫を呼び止める。

 

「ね、お倫。 あれなに? 男子どもはなんで盛り上がってるわけ?」

 

「ああ、あれ? なんかね、中等部に女の子の転校生が来たらしいわよ。 それで、その子が可愛い子だって噂になってて、部活の後輩に命令して、写真を送られたんですって」

 

悠斗の脳裏に、一人の少女が浮かんできた。

悠斗は、古城にしか聞こえないように、

 

「姫柊のことだよな?」

 

「ああ、たぶんな」

 

古城は、苦い表情で頷いた。

 

「暁くんと神代くんは、行かなくていいの?」

 

「いや、オレはべつに」

 

「ああ、俺も興味ないしな」

 

倫は満足そうに頷いた。

 

「そうね。 暁くんには、浅葱がいるものね」

 

「へ?」

 

古城は驚いて顔を上げた。

浅葱は、頬を朱色に染めていた。

倫が、そういえば、と言い悠斗に矛先を変えた。

 

「風の噂で聞いたんだけど、暁くんの妹さん、凪沙ちゃんが、神代くんの家を訪れてるってホント? それに朝、一緒に登校してたの?」

 

その時、騒がしかった教室が、一瞬で凍った。

悠斗は顔を強張らせ、

 

「……ま、待て。 嘘か本当かと言われたら、本当だが。 やましいことは何もないぞ。――やめろ、その疑いの眼差しはやめるんだ」

 

古城の背後からは、どす黒いオーラが漂っていた。

 

「古城、何もないぞ。 何もないから。 そのオーラを収めてくれ」

 

「まあまあ、暁くん。 神代くんもこう言ってることだし、大目に見てあげたら」

 

「……わかった」

 

悠斗は心の中で安堵した。――シスコンの兄(第四真祖)を敵に回したら死ぬ。 色々な意味で。

古城は、世界史のレポートが終わっていなかった為、浅葱に見せてくれるようにお願いしていた。

浅葱も、鞄の中からレポートのコピー用紙の束を取り出していた。

浅葱がコピー用紙を古城に手渡そうとして――

 

「あら? 那月ちゃん、どうしたのかしら?」

 

倫がそう呟いた。

ホームルームの時間には早かったが、漆黒のドレスを纏った我がクラス担任が、不機嫌そうな表情で教室に入ってきた。

 

「暁古城、神代悠斗、いるか?」

 

教室の入り口で仁王立ちして古城を呼ぶ。

古城と悠斗は、嫌な予感を覚えながら、のろのろと手を挙げた。

 

「「……なんすか?」」

 

「お前たちに聞きたい事がある。 それから、中等部の転校生も一緒に連れてこい」

 

「姫柊を……? なんで?」

 

「おい、古城。 今それを言ったら……」

 

転校生の名前が出たことで、生徒たちの間に動揺が広がった。

再び静まり返った教室で、那月は生徒たちの視線を一身に集めながら――

 

「一昨夜の件、と言ったらわかるか?」

 

「い、いや……なんのことだかさっぱり……」

 

「とぼけても無駄だ。 深夜のゲームセンターから逃げ出したあと、おまえら二人が朝までなにをしていたか、きっちり話してもらうからな。 神代悠斗もだ」

 

「「ちょ」」

 

一方的にそれだけ言い残すと、那月は悠斗と古城の返事も聞かず去っていく。

悠斗と古城の背中には、殺気だった眼で睨む男子生徒たちが残された。

 

「暁くん……今の話、どうゆうことかな? 詳しく説明してくれる? 神代くんも、凪沙ちゃんがいながら、そういう事をしちゃダメだよ」

 

倫が、座っている悠斗と古城を見下ろしながら聞いてくる。

いつも物静かな彼女だが、こういう時の迫力は凄まじい。

 

「……ま、待て待て待て。 俺は関係ないぞ」

 

「あ、浅葱、助けてくれ。……あれ、浅葱は?」

 

古城は振り返ったが、そこに座っていたはずの浅葱の姿は、いつの間にか消えていた。

 

「浅葱なら、あっちだよ」

 

倫が教室の後ろを指差した。

浅葱はゴミ箱の隣に立っていて、手に持っていた紙束をビリビリと無心に破り続けていた。

 

「そ、それって、もしかしてオレが頼んだ世界史のレポート……」

 

慌てて立ち上がる古城の姿を、浅葱が静かな怒気を孕んだ半眼で睨みつける。

 

「ふん」

 

浅葱は鼻を鳴らして、破り終えた紙を纏めてゴミ箱に投げ捨てた。




悠斗君は、この眷獣しか使役することが出来ないっス。
他の眷獣たちは、封印しちゃいましたからね。
てか、他の小説も執筆しなければ(汗)

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

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