ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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お待たせしましたです。
今回はあのシーンもありますな(笑)
上手く書けただろうか。
そして、ご都合主義発動です(笑)

では、投稿です。
本編をどうぞ。


蒼き魔女の迷宮Ⅲ

島内を軽く一周して、古城たちが自宅に戻ったのは日没前のころだった。

前夜祭のイベントには出席せず、今夜は早めに休むことにしたのだ。 失踪した那月のことも気がかりであり、何といっても波朧院フェスタ本番である。

悠斗はソファーの上でだらけていた。

 

「那月ちゃんが失踪ってどういうことだ? やっぱ、何か大きな物が動いているのか?」

 

今夜、夏音とアスタルテは、雪菜の部屋に泊まることになっている。 これは、夏音をどう護衛するかの協議の結果だ。

剣巫である雪菜と眷獣憑きのアスタルテが居れば、よっぽどの強敵が現れない限り、夏音を守りきることはそれほど難しくはないだろう。

また、今は情報が少なすぎるため、迂闊に動くことも出来ない。 近所で起きた、謎の異変の噂も気になる。

 

「ったく、何がどうなってるんだよ。 飯を食いに行く前に、風呂にでも入っておくか」

 

悠斗はソファーから立ち上がり、自室から着替えを持って脱衣所へ向かう。

悠斗は溜息一つ吐いてから、もそもそと服を脱ぎ、真っ白な湯気が漂うバスルームを開ける――。

 

「(……あれ、お湯を溜めてなかった気が。 嫌な予感がする……)」

 

その嫌な予感が的中してしまった。 そして悠斗は、そのまま硬直してしまった。

バスルームの中には先客がいたのだ。 頬をほんのり赤く上気させほっそりした少女と正面から目があってしまった。 悠斗は風呂に入る時タオルを巻かない人だ。 少女の方もタオルを巻いていない。ということは――生まれたままの姿である。

少年少女は、今現在の状況を理解していく。

悠斗は、平静を装うように、

 

「……あ、あれ、こ、ここって、俺の家のバスルームだよな?」

 

「う、ううん。 凪沙(・・)のお家のバスルームだよ」

 

また暫しの沈黙。

二人の顔は、これでもかッ、というまで真っ赤になっていた。

 

「ゆ、悠君。 こういうのは、まだ早くないかな……」

 

悠斗はロボット人形のように、片言で、

 

「……うん、早いね。 早すぎると思うぞ」

 

凪沙はしゃがみこみ、体を丸めた。

 

「ゆ、悠君。 一緒にお風呂に入るのは、あと何年か経ってからにしよう……」

 

「そ、そうだな」

 

悠斗は、ゆっくりバスルームの扉を閉めたのだった。

周囲を見回したが、そこは悠斗がいつも使っている脱衣所のままだ。 洗面台も自分の歯ブラシが置いてある。 見間違えるはずがない。

 

「……まじで何が起こったんだ。 てか、色々見ちゃったし、見られちゃったよな……」

 

唯一の救いは、凪沙が声を上げなかったので、悠斗が変態にならないで済んだ。ということくらいか。

そして古城も、悠斗と同じ経験をしたらしい。

古城は、雪菜の家のバスルーム入り、夏音とアスタルテの裸を見てしまったらしい。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「まじで申し訳ない」

 

今現在の悠斗は、凪沙の目の前で、額を床に付けていた。

所謂、土下座っていう奴だ。

ちなみに、古城はお隣に行って、頭を下げてるらしい。

 

「や、やめてよ悠君。 土下座なんて」

 

「い、いや、何て言うか、色々見ちゃったわけですし」

 

凪沙は顔を赤く染め、

 

「そ、それは凪沙も、同じだから。……それに、数年後は毎日見るかもだし」

 

「……俺も否定はしない」

 

そんな甘い空間を破ったのは、暁家で宿泊する仙都木優麻だった。

 

「あれ、凪沙ちゃんに悠斗君。 どうかしたの?」

 

と言い、優麻は首を傾げる。

悠斗と凪沙は、「なんでもない」と言い、悠斗はテーブルの椅子に座り、凪沙は料理の続きを始めた。

数分後、古城も戻り、優麻を合わせた四人で、夜食を摂った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

悠斗が安眠をしていたら、ドンドンと扉が叩かれる音がしてきた。

 

『悠斗! 起きてるか! 助けてくれ!』

 

悠斗はベットから起き上がり、玄関まで移動してから扉を開け、その隙間から顔を出す。

 

「えっと、優麻か。 どうかしたのか?」

 

優麻は、自身を指さしながら、

 

「いや、オレだ。 暁古城だ!」

 

「は? なに言ってんだ。 お前は、仙都木優麻だろ。……いや、待てよ。 空間の歪み。――俺だけじゃ詳しいことは解らん。 姫柊にも聞いてみるぞ。 いいな?」

 

「お、おう」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

所変わって、七〇五号室。

部屋には、清楚かつ可憐なデザインの修道服を着た夏音。 カボチャのお化けのかぶり物に、オレンジ色のケープコートを着た、小柄な全身タイツ姿の少女アスタルテ。 水色のエプロンドレスに、頭にも同じ色のリボンをつけている雪菜。 胸元編上げのミニワンピースを着た優麻。 ラフな恰好をした悠斗だ。

 

「仙都木優麻の中身は、暁古城なんだよ」

 

優麻が、いや、古城が一通り説明し息を吐いた。

 

「たしかに、私たちの質問に全て正解しましたしね」

 

「また面倒事に巻き込まれたな、古城」

 

と言い、悠斗は天井を見上げ、溜息を吐いた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

暁家リビングは、古城が飛び出したままの時の姿で、ひっそりと静まり返っていた。

もちろん、古城の肉体は戻ってきていない。

 

「――本当に誰もいませんね」

 

部屋の中を見回して、雪菜が呟く。

雪菜の右手には銀色に輝く槍。 獅子王機関の秘奥兵器、雪霞狼が握られている。

 

「優麻の荷物も消えてるな」

 

客間を確認して、古城は落胆したように息を吐いた。

悠斗と雪菜は、優麻の痕跡を辿るように無言でその場に立っている。

 

「おおよその事情はわかりました。 暁先輩が言っていた、優麻さんの背後の見えたという蒼い影の正体も」

 

「ああ、俺もほぼわかったと言っていいかもな」

 

「まさか絃神島の空間を歪めているのも、優麻の仕業なのか?」

 

「そうだな。 ある意味でな。 だが、それは優麻の目的じゃない」

 

「目的……か」

 

自分の掌を見つめて、古城は沈黙する。 体を入れ替えるという異常な状況に惑わされて、そこまで頭が回っていなかったのだ。

優麻には目的があった。 古城を騙さなければならない目的が。

 

「ところで、先輩……このお料理を作ったのは凪沙ちゃんですか?」

 

これには悠斗が頷いた。

 

「ああ、そうだ。 時間がない時に、俺が食べてる朝食だな」

 

ダイニングテーブルに置かれているのは、ししゃもと納豆、焼き海苔、巨大オムレツだ。

 

「朝ご飯を準備して出かけた。ということは、優麻さんに無理やり連れて行かれたわけではないということですよね」

 

「そのはずだ。 何かあれば、俺の眷獣たちが知らせてくれるからな」

 

凪沙が失踪していたら、悠斗がここまで平静ではいられないはずだ。

失踪していた場合は、この場に悠斗の姿はないのだから。

凪沙は、優麻の件とは無関係に、自身の意思で出かけて行ったということだ。

 

「その目的とやらは、何か分るか?」

 

悠斗は頷き、

 

「それは古城の体。 第四真祖の肉体だ」

 

ふと奇妙な引っ掛かりを覚えて、古城は呟いた。

 

「だけど吸血鬼の真祖の肉体なんて、そう簡単に使えるものなのか……?」

 

「いや、肉体は奪っていない。 優麻は空間を歪めただけだ。 空間同士を接続して、古城の五感と自身の五感を入れ替え、本来古城の肉体に伝えるはずだった神経パルスを、自分のものに置き換えたんだ」

 

「……つまりオレは、優麻の目に映ったものを自分で見ると錯覚して、自分の手足を動かしているつもりで、あいつの体を操作してる……ってことか?」

 

「その認識であってる」

 

雪菜が悠斗の言葉を引き継ぐ。

 

「空間制御は超高等魔術です。 たった一ヵ所“(ゲート)”を固定するだけでも、膨大な魔力と、高位の魔術師による儀式が必要ですから」

 

「そしてこれは、ただの人間(・・・・・)には出来ない芸当だ」

 

雪菜と悠斗の推理によって、確信に迫っていく。

 

「古城。 俺たちの身近で、空間を制御する人は誰かいないか?」

 

悠斗の質問に、古城は愕然とする。

古城たちの身近で空間魔術を使用し、空隙の魔女の異名を持つ人物。

 

「まさか、同じ……なのか?那月ちゃんと……?」

 

「そうだ。 仙都木優麻の正体は――――魔女(・・)だ」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

古城たちは、西地区の繁華街のカフェにいた。

時刻は正午を過ぎたあたり。 お祭りモード一色になった街には、屋台や露店があふれ、道路には仮装した観光客がごった返している。

 

「美味しいですね、このカボチャプリン」

 

「私もさっき食べたところ、でした。 こちらのパンプキンパイもなかなかです」

 

「カボチャクッキーもいけるぞ」

 

同じテーブルに座った、雪菜、夏音、悠斗の感想である。

古城たち五人が注文したのは、九十九分間のケーキバイキング食べ放題だ。

 

「おかわりをどうぞ……第四真祖」

 

「ああ……サンキュ」

 

アスタルテが運んできたドリンクバーの紅茶を受け取って、古城は物憂げに溜息を吐く。

 

「一緒にお菓子の追加はいかがですか、と提案。 この店舗の通常価格とケーキバイキングの料金を比較すると、損益分岐点を超えるためには、あと三品注文する必要がありますが」

 

「じゃあ、追加でカボチャプリン。 うーん、あとはカボチャケーキだな。 古城は何か頼むか?」

 

悠斗がそう言うと、古城は頷いた。

 

「シフォンケーキがいいかもな……。 じゃなくて!」

 

古城は思わずテーブルを叩いて声を荒げる。

雪菜と夏音は驚いたように食事の手を休めて顔を上げ、悠斗は見向きもせず食事を続け、アスタルテは表情を変えずにマイペースに紅茶を飲んでいる。

 

「なんで俺たちは、こんな所でのんびりケーキバイキングに挑戦してるんだよ!?」

 

悠斗は顔を上げ、古城の前に新しいケーキを差し出した。

 

「まあまあ、落ち着けよ古城。 取り敢えずこのケーキでも食べろ」

 

「だーっ!」

 

古城はやけくそになってケーキを受け取ると、それを口の中に放り込んだ。

こうしてる間にも、優麻は、古城の肉体を使った陰謀の準備を始めている。 その証拠に、絃神島周囲の空間異常が、発生頻度を増していた。

一般市民の間でも、波朧院フェスタの呪い、などと噂になり始めてる。 とても落ち着いていられる状況ではない。

悠斗が、コーヒーを一口飲んでから、

 

「でもなあ、優麻の居場所を調べようにも、手掛かりがないんだ。 それに、空間の歪みが大きくなってるから、あの現象が起きる確率が高まってる。 下手に動くのは得策じゃない」

 

ぐっ、と古城は言葉に詰まった。 悠斗の指摘はもっともだった。

 

「だがな、古城。 優麻の魔術を今すぐ打ち破る方法はあるんだぞ」

 

「え?」

 

悠斗の言葉に古城は呆気にとられた。 そんな便利な解決法があるなら、どうして今まで黙っていたのだろう、と困惑する。

古城の視線は、雪菜の隣に立て掛けてあるギターケースに注がれた。

 

「雪霞狼か……!」

 

雪霞狼は、あらゆる魔術を無効化し、無差別に消滅させる。

優麻の空間制御がどんなに強力でも、それが魔術で維持されたものである以上は、一撃で破壊することが可能だ。

その結果、古城は元に戻ることが可能になる。

 

「ですが、これだけ厳密な空間制御を強制的に無効化すれば、術者には相当な反動があるはずです。 接続されている神経に回復不能なダメージを与える可能性も」

 

「これを実行すれば、優麻の神経がズタズタに切り裂かれて、最悪死ぬ。 良くても植物状態になる」

 

「だ、駄目に決まってるだろ。 そんなやり方!」

 

悠斗と雪菜の言葉を聞き、古城は激怒した。

 

「はい、できればこの方法は使いたくありません」

 

古城は、雪菜の言葉を聞いて安堵したが、悠斗の言葉を聞き言葉を荒げることになる。

 

「だから、古城の乗っ取られた体を雪霞狼で貫くしかないな。 古城は死んでも生き返るし、問題ないだろ。 優麻への負担も最小限に抑えられるしな」

 

「いや待て。 それ、オレが元に戻った時、死ぬほど痛い思いするよな。 ていうか、オレが死ぬ前提なのかよ!?」

 

「現状では、これが最善策だぞ」

 

古城は、うっ、と言葉に詰まった。

優麻が古城の体を使い異変を起こすのを待ち、その異変に気づいたら直ちにその場に急行する。 悠斗が眷獣を使用して優麻の足止めをし、その隙に、雪菜が古城の肉体を雪霞狼で刺す。 実に頼りない作戦だが、他に対策が思いつかないのも事実だった。

 

「そ、それは……そうかもしれんが」

 

「ま、優麻は古城の友人なんだ。 古城の体を手荒く扱ったりはしないだろ。 その証拠に、自身の体を、古城に預けたんだからな」

 

「事情はよくわかりませんけど、お兄さんには、無事いつものお兄さんに戻って欲しいです」

 

それまで黙って話を聞いていた夏音が、古城の横顔を見つめて言った。

少し照れたように目を伏せて小声で付け加える。

 

「優麻さんの姿も素敵ですけど、私にとってお兄さんは、お兄さんですから」

 

「叶瀬……」

 

じわじわと温かい気持ちが広がって、古城は思わず涙ぐみそうになる。

 

「同意」

 

カボチャお化けのかぶり物で顔を隠して、アスタルテが口を開く。

 

「アスタルテ……?」

 

「比較検討をした結果、第四真祖がオリジナルの肉体に復帰することを私は主観的に望んでいると判断しました。 総合的には不合理な選択ですが」

 

「そ、そうか……」

 

古城はあまり褒めらてると感じないが、アスタルテにとって、それが精一杯の好意の表現だということが伝わってくる。

古城は、悠斗と雪菜がどう思っているか気になったので、二人を交互に見た。

 

「え、俺か。 俺は戻って欲しいと思ってるぞ。 俺は伝えなくちゃいけないことがあるからな」

 

伝えたいこととは、悠斗と凪沙の件である。

期待の籠った古城の視線に気づいて、雪菜は少し慌てる。

 

「わ、私はただの監視役ですから。……先輩がどんな姿でも任務を果たすだけですけど」

 

「……だよな」

 

その時、低い衝撃音が人口島の大地を揺さぶった。

 

「なんだ、この感覚!?」

 

「恐らく、優麻が古城の体で何かしたんだ!」

 

「キーストーンゲートの方角です!」

 

悠斗は席から立ち上がり店から飛び出し、雪菜も雪霞狼が入ったギターケースを掴んで店を飛び出す。 古城は慌てて二人を追いかける。

路上にいた人々は、皆驚いたように、上空を見上げていた。

絃神島の中央に位置する、逆ピラミッド型の建物。 島内でもっとも高いそのビルの屋上で、何かが蠢いている。 全長数十メートルにも達する、斑模様の不気味な触手だ。

 

「姫柊! あれは――!?」

 

「悪魔の眷属! 魔女の守護者です!」

 

「あれは使い魔みたいなものだ! そんな事より、あの場所から放たれてる魔力だ!」

 

キーストーンゲートから感じる圧迫感は、魔女の守護者が放っているものではない。

あの場所には、巨大な使い魔よりさらに凄まじい魔力を放つ存在がいる。

そう。 最強の吸血鬼――第四真祖の波動を。

 

「第四真祖の波動――優麻か!」

 

「そうだ! 急ぐぞ。 古城、姫柊!」

 

彼女の存在を確信して、古城たちは走りだそうとする。

キーストーンゲートは魔族特区の中心地。 優麻が島に来て、真っ先に訪れた場所でもある。

優麻が魔術儀式の舞台としてここを選ぶのは、むしろ当然と感じられた。

 

「――――!?」

 

そんな古城たちの行く手を遮るように、見知らぬ人たちが立ちはだかる。

死神のような黒いローブを包んだ男たち。 その数は少なく見積もっても数十人。

彼らの顔に敵意はなく、武器らしい武器を持っているわけでもない。 しかし彼らは明らかに、古城たちがキーストーンゲートへと近づくのを阻止しようとしてる。

 

「先輩、下がってください!」

 

ギターケースから雪霞狼を取り出し、槍を構えた雪菜が前に出る。 仮装した人々が街にあふれてる今なら、雪霞狼を使っても目立たない。

 

「なんだ、こいつら……!?」

 

「わかりません。 でも、私たちの足止めが目的だと思います」

 

「優麻の仲間か……ずっと、俺たちを見張ってたんだな」

 

「たぶんな」

 

悠斗は右手を突き出した。 今なら眷獣を召喚しても、祭りの一環と思われるだけなので大丈夫なはずだ。

 

「――降臨せよ! 朱雀!」

 

これを見た人々が歓声を上げ、次々拍手が巻き起こる。

悠斗は、隣に召喚した朱鳥に指示を出す。

 

「――飛焔(ひえん)!」

 

朱雀は首をS字に曲げて、神秘的な焔を放つ。

そして、次々にローブを包んだ者たちが前のめりに倒れていく。

これを見て、雪菜が目を見開く。

 

「神代先輩!」

 

「大丈夫だ。 人間には害のない焔だから、心配するな。――アスタルテ、夏音を頼んだ!」

 

命令受託(アクセプト)

 

無防備で立ち尽くしてる夏音を守るようにと、悠斗は人口生命体の彼女に指示を出す。

アスタルテは無言で頷いて、自身の眷獣を召喚した。 彼女の背に出現した翼が、左右一対の巨大な腕の姿に変わる。

いつの間にか路上にいた観光客たちは、半径十メートルほどの距離を開けて、古城たちと残りの黒装束の集団を取り巻いていた。

だが、そのせいで古城たちは逃げ場を失ってしまった。 そして気を失ったと思われる黒装束が立ち上がる。ということは、こいつらは死体で、何処かに死体を操っている死霊魔術師(ネクロマンサー)がいる、ということだ。

こうしている間にも、優麻は魔術儀式を完成させようとしてる。

 

「なんだ!?」

 

ホアァァアーッ!という怪鳥のような雄叫びと共に、鈍い打撃音が鳴り響き、黒装束の一人がもの凄い勢いで吹き飛んだ。

そこで古城たちが目にしたのは、赤髪のお団子ヘアに三つ編み、チャイナ服の若い女性だった。 彼女が繰り出した中段蹴りが、さらにもう一人の黒装束を悶絶させる。

 

「おー、教え子たち。 ようやく会えたな。 怪我はしてないかー?」

 

彩海学園中等部の体育教師、笹崎岬が呑気な口調で聞いてくる。

 

「笹崎先生! どうして……!?」

 

「那月先輩に頼まれてたのよ。 自分がいなくなった時に、暁兄たちのフォローをしてやってくれって。 私が知らないうちに、ずいぶんヤバいことになってたりする?」

 

悠斗が頷いた。

 

「ああ、かなりヤバいな」

 

「了解。 叶瀬たちのことは、こっちに任せて」

 

そう言って、彼女は奇妙な構えを取った。

象形拳(しょうけいけん)と呼ばれる、獣の動きを象った中国拳法の技法である。

彼女も、国家資格を持つ攻魔官なのだ。

 

「ここは頼んだ。 それとこいつらはほぼ死体だ。 今さっき確認した」

 

「OK。 全員ぶっ飛ばせばいいのね!」

 

そう言い放ち、岬は言葉通り目についた黒装束を倒していく。

悠斗は、古城と雪菜を見た。

 

「朱雀の背に乗れ! 急ぐぞ!」

 

朱雀の背に古城たちが飛び乗る。

悠斗が朱雀に指示を出し、羽を羽ばたかせ飛翔を開始した。

後方では、キシャアアァァーと言う怪鳥に似た声と、観光客の歓声が響き渡っていた。

祭りは、まだ始まったばかりだった。




悠斗君。見ちゃいましたね(*ノωノ)
……いや、婚約者(まだ、母親公認)だからいいのか?
悠斗君。羨ましいぞォォォーーーー!!(心の声)

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

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