エピローグですね。
なので、本編より短いですが。
では、投稿です。
事件の後始末は那月と紗矢華が引き受けてくれるということで、古城たちは案外あっさりと帰宅する事が許された。
船が絃神島に到着して三十分過ぎたころ、夕焼けに照らされた甲板上に、帰り支度を終えた古城たちが現れる。
古城は、
悠斗の制服は、所々に切れ目が入っているが、着替えるほどのものではなかった。
「もう少しどうにかならなかったのか、この服は」
「似合ってますよ、先輩」
「姫柊の言う通り似合ってるぞ、古城。 街中にいるチンピラ見たいで」
笑いを堪える悠斗と雪菜見て、古城は唇を尖らせた。
「褒められても嬉しくないんだが……。 てか、悠斗は褒めてるのか? まあ、貰い物だから、贅沢は言えないけどさ。――それより、叶瀬は?」
「しばらく入院することになりそうです。 魔術儀式の影響で、衰弱がひどいので」
夏音を気遣うような表情で、雪菜が言う。
夏音は、天使などという別次元の生命体に無理やり進化させられそうになったのだ。
冷静に考えれば当然のことだった。
「大丈夫なのかな、あいつ。 ほら、身体のこと以外にもいろいろ」
古城が顔をしかめて聞いた。
悠斗は、後頭部に両手を回した。
「大丈夫だろ。 那月ちゃんが何とかしてくれるさ。 あの人に任せれば問題ない。 たぶん、那月ちゃんが後見人になって、叶瀬を引き取るんじゃないか」
悠斗の言葉を聞いた古城は、ほっと安堵の息を吐いていた。
那月は、ぶっきら棒な態度とは裏腹に、意外に面倒見がいい。
それを、古城と悠斗はよく分かっていた。 非常識な存在、紅蓮の熾天使、第四真祖が学生として高校に通えているのも、彼女が手を尽くしくれたお陰なのである。
異国の王族一人の生活をどうにかするくらい、那月にかかれば造作もないことだろう。
「ラ・フォリア王女は、少し残念がっていましたけど」
雪菜の言葉に、悠斗は相槌を打った。
「そうだろうな。 ラ・フォリアが絃神島を訪れたのは、叶瀬をアルディギアに連れて帰ることが目的だったからな」
「はい。 でも、それは叶瀬さんが断ったそうです。 王族としての生活は望んでいないと」
「ま、叶瀬が選んだ道だ。 俺たちが口を挟むことじゃないしな」
「でもなあ、何か勿体ない気もするけどなー」
夏音らしい決断に、古城は敬意を覚えつつ本音を洩らす。
直後、船内の通路から軽やかな足音が聞こえてきて、銀髪の王女様が現れた。
彼女の背後には、案内役の紗矢華が護衛のように付き従っている。
「――こちらにいたんですか。 古城、それに雪菜、悠斗も」
「ラ・フォリア? もう帰るのか?」
そう古城が聞いた。
ラ・フォリアは、優雅に微笑んだ。
「これから病院へ向かいます。 墜落した飛行船の生存者が収容されているそうなので」
「救助された騎士がいたのか」
それは良かった。と悠斗は安堵の息を吐いた。
「はい。 そのあと東京に。 非公式の訪問のつもりだったのですが、こうも騒ぎが大きくなっては、そういうわけにもいかないでしょう」
「外交か……。 大変だな、王族は。 やっぱり
この悠斗の呟きに、古城が反応した。
「いやいや、悠斗が凡人とかありえないから。 てゆうか、あの姿を見たら凡人なんてありえないから」
悠斗は息を吐いた。
「だよなー。 自分でも天使って言っちゃったしな、あれは俺の黒歴史だな……」
悠斗の声は、徐々に小さくなっていった。
ラ・フォリアは微笑んでから、
「悠斗の天使の姿は、しっかりと目に焼きつけましたから。――それに、お別れは申しません。 あなた方のおかげで、無事にこの地に辿り着くことができました。 この縁、いずれまた意味を持つときがありましょう」
気品あふれる口調でそう言って、ラ・フォリアは古城たちの前に歩み出た。
そして雪菜を抱き寄せ、彼女の左右の頬に順番でキスをする。
少しビックリしたような表情でそれを受け入れる雪菜。
ラ・フォリアは、悠斗の前に進み出ようとしたが、悠斗がそれを制止した――。
「すまん、ラ・フォリア。 俺は握手にしてくれないか。 抱き付かれるのはちょっとな」
ラ・フォリアは目を数回瞬きし、合点がいったように微笑んだ。
この時悠斗は、女の勘は怖い、と思っていた。
「なるほど、そう言うことですね」
「あ、ああ、そう言うことなんだ。 姫柊にもバレてると思うが」
悠斗は、ラ・フォリアが差し出した右手を、優しく握った。
握手が終わると、ラ・フォリアは古城に一歩近づいて、顔を寄せた。
その瞳に、悪戯ぽい光が宿っていた。 そして彼女は、緊張して硬直している古城の唇に、自身の唇を押し当てた。
「――――ッ!?」
雪菜と紗矢華が目を丸くして固まっていた。 いったい何が起きているのか理解できない、という表情だ。
古城は動揺のあまり動けない。 それを良い事に、ラ・フォリアは好きなだけキスをしてから古城を解放する。
「それでは、ごきげんよう」
天使のような笑顔で手を振りながら、タラップを降りていくラ・フォリア。
「あ……王女、お待ちを……って、暁古城! あとでどういうことか、きっちり説明してもらうから! ていうか、灰になれ――!」
紗矢華が慌ててラ・フォリアを追いかけながら、一瞬だけ古城を振り返り、怒りに燃える眼差しを向けてくる。 古城は、勘弁してくれ、と言い空を仰いだ。
この時悠斗は思った。 古城、お前って女難の相あるだろうと。
「悠君!」
王女一行と入れ替わりにタラップに上ってきた足音の人物は、長髪をショートカット風に纏めた少女、悠斗が心の底から大切に思っている女の子、暁凪沙だ。
凪沙は、悠斗の胸の中に飛び込んだ。 目許には、透明な雫が溜まっていた。
「悠君のばか。 また無理したんでしょ。 凪沙、本当に心配したんだからね。 でも、凪沙にできるのは、悠君の無事を祈りながら待っていることだけで……」
絶え間なく続いていた、凪沙早口が途中で途切れた。
凪沙の、我慢していた涙が零れていたからだ。
悠斗は優しく笑みを浮かべながら、凪沙の頭をポンポンと撫でていた。
「心配かけてごめんな。 でも、凪沙のおかげで無事に帰って来ることができたよ、ありがとう。 力を解放できたのも、叶瀬を助けることができたもの、凪沙のおかげなんだぞ」
「……うん。――悠君」
「ん? どうした?」
凪沙は顔を上げ、微笑んだ。
「おかえりなさい、悠君」
「ただいま」
悠斗は、凪沙が落ち着くまで頭を撫でてあげていた。 数分後、胸の中から寝息が聞こえてきた。
凪沙は、悠斗の帰りに安堵して眠ってしまったのだろう。 凪沙は悠斗の帰りを待ちながら、ずっと祈りを捧げていたのだから。
悠斗は笑みを浮かべながら、凪沙の前髪をわけていた。
「こんな俺のためにありがとな。 凪沙は、俺の光だよ」
これを見てた古城は、二人を離そうと思い動こうとしていたが、雪菜の鋭い視線とギターケースの中に入れた手で止められていた。
雪菜は古城にこう言ったそうだ。 『二人の間に割って入ろうとするなら殺しますから。 生き返るのはわかってますし。 万が一のため、凪沙ちゃんには見えないように殺しますから、安心してください。 それでもいいなら動いていいですよ。』
これを聞いた古城は顔を青くして、コクコクと頷くことしか出来なかったらしい。
こうして、
これでこの章も完結ですね。
次回からは、蒼き魔女の迷宮編になります。
後、古城君は浅葱に会ってますよー。
ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!