ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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ひゃはー、連投やで。
この話で一気に投稿しちゃいました。

切りがいいところはあったんですが、文字数が微妙になっちゃうので。
エピローグじゃないのに、文字数がないのはあれですからね。

今回はあの子が登場です(^O^)
悠斗君の二つ名の所以も明らかになります!
ご都合主義+中二全開です!!

では、投稿です。
本編をどうぞ。


天使炎上Ⅶ

「――獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る!」

 

雪霞狼を頭上に掲げて、高らかに雪菜が祝詞を唱えた。

それに呼応して、研ぎ澄まされた刃が輝きを放つ。

 

「雪霞の神狼、千剣破の響きをもて楯と成し、兇変災禍を祓い給え!」

 

純白の光が消えた時、古城たちの周囲には、直径四、五メートルほどの半球状の空間が出現していた。 雪霞狼の神格波動破で防護結界を張ったのだ。

結界の外側にあるのは、氷河のような分厚い氷の壁。

その壁の外側では、今の猛烈な吹雪が吹き荒れている。

結界の中央に倒れているのは、未だに意識が戻らない古城だ。

 

「朱雀、もういいぞ」

 

悠斗がそう言うと、朱雀は一鳴きして焔の翼を解いてから、異世界に消えていった。

 

「――大義でした、雪菜、悠斗。 これならしばらくは保ちますね」

 

氷に閉ざされた天上を眺めて、ラ・フォリアが言った。

 

「はい。 ですが、申し訳ありません。 脱出するのは余計に難しくなりました」

 

「今は考えなくてもいいでしょう。 なにかあれば、悠斗がなんとかしてくれます」

 

ラ・フォリアはそう言い、悪戯な笑みを浮かべて悠斗を見た。

悠斗は、ラ・フォリアの視線から逃げるように顔を逸らした。

 

「ま、まあ、なんとかするよ。 朱雀は守護の化身だからな」

 

ラ・フォリアは微笑んでから、再び雪菜を見た。

 

「この雪と氷。 あなたはどう見ますか、雪菜?」

 

「わかりません。 でも、叶瀬さんの想いを強く感じます」

 

氷の壁に触れながら、雪菜は静かに答えた。

冷たく氷壁から伝わってくるのは、哀しみの波動だった。

 

「さすがですね。 わたしくしもそう思います。 おそらく模造天使(エンジェル・フォウ)の術式の影響で、叶瀬夏音の心象風景がそのまま実体化してるのでしょう」

 

哀れむように頭上を見上げ、ラ・フォリアが呟く。

視線の先には、氷の塔の中心で背中を丸めている夏音の姿だった。

 

「とうことは、叶瀬さんはまだ――」

 

「ああ、そうだ。 まだ自我は失っていない。 あの術式を破れば、人間に戻れるはずだ。 だよな、ラ・フォリア」

 

悠斗はラ・フォリアに問いかける。

 

「ええ、悠斗の言う通り、術を破れば夏音は人間に戻れます。 それには、古城と悠斗の力が必要です。 ですが、今の古城は眠り続けたままです」

 

「先輩が……」

 

倒れている古城の傍ら膝をつき、雪菜はそっと古城の顔を覗き込む。

致命傷を負ったはずの肉体は、すでに回復が終えていた。

炭化した筋肉も、骨まで達していた裂傷、痕跡すら残さず治癒している。

ただ一箇所、胸の中央に刻まれた十字型の傷を除いては――。

 

「この傷は……!?」

 

「たぶんそれは、模造天使(エンジェル・フォウ)に貫かれた所だ。 古城の十字傷の場所は、剣が刺さったままなんだ。 残念だが、俺にも触れることができない」

 

天使と同じ高次元に属するその剣が、古城の回復を妨げている。

 

「……助ける方法はありますか?」

 

雪菜は真剣な眼差しで、悠斗に聞いた。

悠斗は頬を掻いた。

 

「まあ、あるが。 それは二人にしかできないことだな」

 

「そ、それはなんですか?」

 

すると、ラ・フォリアが淡い碧眼を悪戯っぽく細めた。

 

「古城を救える存在(眷獣)を喚び起こします。 協力してくれますね、雪菜?」

 

「どういうことですか?」

 

戸惑う雪菜に、悠斗がラ・フォリアの言葉の意味を伝えた。

 

「要するに、吸血だな」

 

雪菜は悠斗の言葉を聞き、顔を真っ赤に染めた。

 

「俺は精神世界に潜るわ。 さっきから来いってうるさくてな」

 

「だれがうるさいんですか?」

 

ラ・フォリアがそう聞いてくる。

 

「信じられないと思うが、俺の眷獣だな」

 

ラ・フォリアは目を見開いた。

 

「悠斗は、眷獣とお話ができるんですか?」

 

「一応な。 精神世界に行くのは初めてだが。ということで、後は二人に任せるわ。 古城のこと頼んだぞ」

 

悠斗は、雪菜たちに背を向けて座り、瞳を閉じた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

悠斗が瞳を開けると、そこに映ったのは今一番会いたかった人物だった。

 

「な、凪沙か?」

 

凪沙は、悠斗は見て笑顔で頷いた。

 

「うん、凪沙だよ。 なんか久しぶりだね、悠君」

 

「おう、久しぶり。って、そうじゃなくて。 なんでここにいるんだ? てか、ここは眷獣の精神世界だよな?」

 

凪沙は人差し指を唇に当て、んー、と考え込んだ。

 

「凪沙もわからないんだ。 宝玉を握り締めてお祈りしてたら、眷獣さんから『オレの世界に来い』って言われてね」

 

「それって、朱雀か? それとも青龍?」

 

凪沙は思案顔をした。

 

「うーん、今まで聞いたことがない声だったんだよね」

 

「そうか」

 

これには悠斗も腕を組んだ。

その時だった。 悠斗と凪沙の眼の前に、――純白の虎が現れたのだ。

 

「「わあッ」」

 

悠斗と凪沙は、同時に声を上げた。

 

「だ、だれ?」

 

凪沙はそう言い、疑問符を浮べていた。

悠斗は暫し沈黙してから、

 

「おまえ、白虎(・・)か!?」

 

『……主よ。 オレに気づくのが遅いぞ』

 

悠斗は、純白の虎に嘆息されていた。

なんともシュールな光景だ。

悠斗は苦笑してから、

 

「いや、悪い悪い。 お前を見るのは久しぶりだったから」

 

『主は、オレを封印してしまったからな』

 

凪沙が、クイクイと悠斗の袖を引っ張った。

 

「ねぇねぇ、凪沙のことも紹介してよ」

 

「そうだな。――この女の子は、暁凪沙だ。 仲良くしてやってくれ」

 

凪沙は、悠斗の前に出た。

凪沙は、緊張の面持ちをしながら、

 

「あ、暁凪沙です。 よ、よろしくお願いします」

 

凪沙は、ペコリ頭を下げた。

白虎は、右手を凪沙の前で手を広げた。 手を乗せろ、ということだろう。

 

「う、うん。 わかった」

 

凪沙は、恐る恐る白虎の掌に手を乗せた。

 

『よろしくな、凪沙』

 

「よ、よろしくね。 (びゃ)君」

 

悠斗は、クククと笑った。

 

「地の全てを司る白い虎が、(びゃ)君か。 てか、朱雀にも渾名をつけたんだろ?」

 

「う、うん。 (しゅん)君だよ」

 

悠斗は再び笑った。 悠斗は数秒笑い、

 

「ふぅ、笑いすぎた。 てか、今の行動はなんだ?」

 

そう悠斗が聞いた。

 

『友人になった同士がする、握手?というやつだったのだが。 違ったか?』

 

「……いや、違わないが。 よく知ってたな」

 

『オレにも主の世界が見えるからな。 そこから学んだ。 主に拒まれたら見ることは出来ないが』

 

「な、なるほど」

 

悠斗は頷いた。 そして、内心驚いていた。 まさか眷獣が、現実世界に興味を持ってるとは思わなかったからだ。

悠斗は、ハッ、とした。

 

「時間を忘れそうだった。 さて、本題に入ろうか。 なんで俺と凪沙は、お前の世界に呼ばれたんだ?」

 

悠斗は、これをとても疑問に思っていた。

精神世界に潜れるのは、封印を解いた眷獣だけだ。

だが、白虎の封印は解いていない――。

悠斗の考えを読んだように、

 

『オレが、凪沙の祈り呼応して自ら封印を解いたんだ。 それを主と凪沙に伝えたくてな』

 

悠斗は目を丸くした。

 

「じゃ、じゃあ、霊媒なしでOKってこと?」

 

『霊媒なしでいいぞ。 そうだった、我らの()から伝言を預かってる』

 

悠斗は首を傾げた。

 

「伝言?」

 

あれ(・・)の封印を解放したそうだ。 現在の(いくさ)には必要になるんだろ』

 

「え、まじで」

 

あれとは、悠斗の奥の手の一つでもあるのだ。

その奥の手は、四神の長の許可を貰わないと、解放できないものだったのだ。

 

『まじだ。――オレの力も必要なんだろ?』

 

悠斗は、真剣な顔つきになり頷いた。

 

「ああ、力を貸してくれるか?」

 

『承知した』

 

と言い、白虎は姿を消していった。

悠斗は凪沙と向き合い、数秒間抱きしめた。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「うん、気をつけてね。 夏音ちゃんを助けてあげて。 必ず迎えに行くね」

 

「ああ、わかった。 待ってる」

 

最後に、悠斗は凪沙の小さな手を優しく握り、瞳を閉じた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

悠斗が瞳を開けると、そこには眼を覚ました古城、雪菜、ラ・フォリアの顔が映った。

どうやら、眷獣の精神世界に潜っていた時間が長かったらしい。

 

「すまん。 遅くなった」

 

「なにかあったのか?」

 

古城がそう聞いてきた。

 

「まあ、使役できる眷獣が増えたな。 俺自身の封印も一つ解けた」

 

これには全員が眼を見開いた。

霊媒もなしで眷獣を一体掌握し、この短時間で自身の封印を解くなんて信じられないからだ。

 

「さて、反撃開始といきましょうか」

 

そう言い、古城たちは頷き立ち上がった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「動き出したか――」

 

氷の中に閉じ込められていた、模造天使(エンジェル・フォウ)が目を開けた。

賢生はそれを見て、満足そうな呟きを洩らす。

 

「心象風景の投影による表層人格の破棄と再構築か。 計算外の事象だったが、まあいい。 これでもう、おまえをこの世界に繋ぎ止めるものは完全に消えたのだな……夏音よ」

 

どこか救われたような表情で、賢生はそう呟いた。

だが、彼のその言葉を裏切るように、凄まじい轟音が唐突に大地を震わせた。

模造天使(エンジェル・フォウ)が眠る塔の根元。 分厚い氷が破壊され、巨大な獣が現れる。

凄まじい振動が大気を歪めて、陽炎のような肉体を形成してる。

緋色に煌めく鬣と、双角持つ召喚獣。 膨大な魔力を纏う双角獣だ。

 

「――第四真祖の眷獣だと!?」

 

賢生は愕然としながら目を細めた。 爆風のような雄叫びを残して眷獣は消滅し、その氷の裂け目から、見覚えのある四人の歩き出てくる。

古城と雪菜、悠斗とラ・フォリア・リハヴァインだ。

 

「生きてたのか、第四真祖。 さすがは世界最強の吸血鬼、と言ったところか」

 

「オッサン、あんたは――」

 

「だが、ありがたい。 もう一度君と戦えば――強敵との戦闘で霊的中枢をフル稼働させれば、夏音は今度こそ最終段階に進化する。 これ以上、新たな敵を求めて彷徨う必要はない。 夏音は誰も傷つけなくて済む」

 

古城の言葉を遮って、賢生が一方的にそう告げた。

身勝手な彼の言い分に、古城は頭に血が上るのを自覚する。 しかし古城が反論を思いつく前に、ラ・フォリアが前に進み出た。

 

模造天使(エンジェル・フォウ)を兵器として売り捌こうという人間が、殊勝ことを言いますね、賢生」

 

「それはメイガスクラフトが勝手にやっていることです。 私の意図するところではありません」

 

賢生が他人事のように、無責任に言い放つ。

悠斗が冷ややかな声で、

 

「勝手なこと言ってんじゃねぇよ、叶瀬賢生。 テメェは叶瀬、いや、夏音ためとかほざきながら、全部自分のためだろ。 自身の魔術儀式がどこまで通用するか見てみたかっただけだろ、違うか?」

 

「……黙れ、紅蓮の熾天使……。 お前ごときが知った口を聞くな! 夏音は、人間以上の存在へ進化する。 やがてあの子は、神の御許へと召されて、真の天使となる。――それは夏音にとって幸福なはずだ。すべては夏音のためだ」

 

悠斗は鼻で笑った。

 

「――真の天使か。 それは、俺を倒してから言葉にするんだな、叶瀬賢生」

 

「――下がりなさい、賢生!」

 

ラ・フォリアが鋭い声で警告した。

だが、その声が耳に届く前に、賢生の頭上で爆発が生じた。

何者かの攻撃が、夏音を閉じ込めていた氷の塔を爆破したのだ。

 

「――降臨せよ、朱雀!」

 

悠斗は朱雀を召喚し、賢生を焔の翼で守り、降り注ぐ無数の氷塊は焔の翼が拒んだ。

 

「ベアトリス・バスラー!」

 

その攻撃を放った人物に気づいて、雪菜が叫んだ。

古城たちの背後の板に、紅いボディスーツを着た吸血鬼の女の姿があった。

氷を破壊したのは、彼女が投げた深紅の槍だ。 槍を形にした眷獣が、激しい魔力の火花を散らしながら、夏音を護ってる氷の壁を破壊していく。

そして、ベアトリスの隣には、人獣化状態のロウ・キリシマだ。

キリシマが両脇に抱えていたのは、棺桶サイズの金属製のコンテナだ。 キリシマは、それを無造作に、板の下に投げ落とす。

 

「のんびり育児方針ついてお話してるところ悪いんだけどさァ、時間外労働だし、あたしたち、そろそろ帰りたいのよね。 さっさと第四真祖をぶっ殺しちゃってくれないかしら」

 

槍の眷獣を自らの手元に呼び戻して、ベアトリスは気怠く息を吐いた。

そして手に持っていた制御装置を操作する。 賢生が持っていたのと同じタイプの制御端末だ。

画面に浮き上がる、『降臨』の文字を見ながら、ベアトリスが投げやりに笑う。

 

「でないと、せっかく造ったこいつらが売れ残っちゃうからさ――!」

 

金属製のコンテナの蓋が、轟音と共に内部から弾け飛んだ。

咆哮を上げながら、その中から小さな影が現れる。

醜く不揃いな四枚の翼と、肌に浮き上がる魔術紋様。 そして、金属製の奇怪な仮面。

 

「仮面憑き!?」

 

雪菜が、雪霞狼を構えながら愕然と叫んだ。

彼女たちは不完全といえ、凄まじい戦闘力を秘めている。 それが二体。

 

「どういうことだよ。 おまえらが造った模造天使(エンジェル・フォウ)の素体は七体だけじゃなかったのか?」

 

古城が顔を顰めて賢生を睨む。

 

「そのはずだ。 私は、儀式に必要な最低数しか用意していない」

 

悠斗は頷き、

 

「なるほど。 つまり、クローンか」

 

翼を展開した仮面憑きたちが、空へと舞い上がる。

 

「あら、あんたはすぐに分かったのね。 お姉さん好きよ。 そういう子」

 

「誰がそんな言葉に喜ぶか。 貴様みたいな雌豚(・・)の言葉をな!」

 

これを聞いたベアトリスの額に青筋が浮かぶ。

古城が前に出て、

 

「いい加減に頭にきたぜ。 叶瀬を助けて、おまえらのくだらねぇ計画をぶっ潰してやるよ! ここから先は、第四真祖(オレ)戦争(ケンカ)だ!」

 

禍々しい覇気を放って、古城が吼えた。

真祖の魔力に反応した仮面憑きが、歪んだ光剣を古城へ撃ち放つが、その剣を銀色の槍が撃ち落とした。

 

「いいえ、先輩、わたしたちの(・・・・・・)、です」

 

「そうだぞ古城。 俺と姫柊も忘れるなよ」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

夏音が覚醒した影響か、吹きすさぶ海風に粉雪が混じり始めていた。

その雲の切れ間から、光の柱が伸び、その光芒を背景に空を舞う模造天使(エンジェル・フォウ)が地上を眺めていた。

すでに二体の仮面憑きは止められ、ベアトリスとキリシマも、雪菜とラ・フォリアの手によって倒されていた。

なので、今の古城と悠斗は、雪菜とラ・フォリア、賢生に見守られている状況だ。

 

Kyiiiiiiiiii(キリィィィィィィィィィィ)――――!」

 

黄金律の美貌を歪めて、夏音が咆哮した。

 

「苦しいか、叶瀬」

 

悠斗は、夏音の瞳を見ながら優しく声をかける。

 

「絶対に助けるから、待っててくれ。 お前には、帰りを待ってる人がいるんだから。 すぐにそこから下ろしてやる」

 

今の悠斗の残りの魔力では、残り一回の召喚が限界だろう。

これほどなるまで、眷獣を使役し続けたのだ。 なので、確実にこれで決める。

悠斗は深く息を吸い、自身が出せる魔力を解放した。

 

「紅蓮の焔を纏いし不死鳥よ。 汝の真なる姿解放する。 我の翼と成る為、再び心を一つにせよ!――来い、朱雀!」

 

召喚された朱雀は一鳴きして、悠斗と融合(・・)した。

――その姿はまさに天使だった。 四対八枚の紅蓮の翼が悠斗の背から生え、黒髪も僅かに赤く染められ、黒色の瞳も赤が入り混じっていた。

この場の全員が言葉を失った。 だが、逸早く思考が回復した賢生が叫んだ。

 

「こ、これが、紅蓮の熾天使と呼ばれた所以か! 神力(・・)もあるだと!?」

 

「そうらしいな。 誰が最初にそれを言ったかは知らんが。 神力は限定的にしか使えんぞ。――んじゃ、俺が叶瀬から模造天使(エンジェル・フォウ)を切り離すから、あとは頼んだぞ、古城」

 

古城は無言で頷いた。

天使の翼に浮かぶ眼球から、光の剣が放たれる。

だが、これは夏音の意志ではなく、天使の肉体の防衛反応だ。

 

「――飛焔(ひえん)!」

 

悠斗が右手を突き出すと、煌びやかな焔が放たれ、光の剣を消滅させる。

それはそのまま夏音に直撃し、夏音はホバリングしたまま停止した。

――悠斗は言葉を紡ぐ。

 

「我を導く四神よ。 今こそ汝の力を解放する。 我と共に歩む為、再び力を解放せよ。 地を統べる白き虎よ。――降臨せよ、白虎!」

 

悠斗の隣に、純白の虎が降臨した。

 

「行け、白虎!――炎月(えんげつ)

 

悠斗が造った結界が階段の役目を果たし、その結界の階段を登りながら白い虎が駆け上がる。

白虎が凶悪な爪を振りかぶったが、夏音には傷一つついていない。

そう。 白虎の爪は夏音を傷つけず、夏音から模造天使(エンジェル・フォウ)を切り離したのだ。

これが白虎の特殊能力、――次元切断だ。

これを見た賢生が唸った。

 

「なに!? 模造天使(エンジェル・フォウ)余剰次元薄膜(EDM)から、夏音を切り離しただと!? まさか、次元切断(ディメンジョン・セェヴァル)か!?」

 

「そうだ。 これで叶瀬を縛るものは消えた。 あとは古城の仕事だ。――朱雀!」

 

朱雀は悠斗との融合を解き、地に落ちてくる夏音を背に乗せた。 悠斗は朱雀との融合が解けたことで、瞳と髪は黒色に戻っていた。

古城は左腕を突き出した。 その腕の先から噴き出したのは鮮血だ。

 

焔白の夜伯(カレイドブラッド)の血脈を受け継ぎし者、暁古城が、汝の枷を解き放つ――!」

 

鮮血は膨大な魔力の波動へと変わり、凝縮されたその波動が、実体を持った召喚獣の姿へと変わる。

艶やかな銀色の鱗に覆われた、眷獣へと。

 

「――疾や在れ(きやがれ)、三番目の眷獣、龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)!」

 

出現したのは龍だった。 ゆるやかに流動してうねる蛇身と、鉤爪を持つ四肢。 そして禍々しい巨大な翼。 水銀の鱗に覆われた蛟龍だ。

それが二体――。

同時に出現した二体の龍は、螺旋状に絡まり合って、前後に頭を持つ一体の巨龍の姿を形作っている。すなわち、双頭龍の姿を。

龍蛇の水銀は、二体で一体となる眷獣だったのだ。

なので、雪菜だけの血では目覚めなかった。

だが、ラ・フォリアの血を吸うことで目覚めたのだ。

 

「――喰い尽くせ、龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)!」

 

切り離された眼球を持った六枚の翼が、飛来した巨大な二つの顎が、その眼球の翼を全て飲み込んだ。

そのあり得ない光景に、賢生が驚愕の声を洩らす。

 

「馬鹿な……! 今度は、次元喰い(ディメンジョン・イーター)か! 全ての次元ごと、空間を喰ったのか!?」

 

腹が満たされた、と言わんばかりの咆哮を残して、双頭の巨龍は姿を消した。

夏音は、雪菜が背におぶっていて無事だった。

これを見て、古城と悠斗は、ほっと息を吐いた。

古城と悠斗は、背後に立つ賢生を睨みつけた。

 

「終わりだな、オッサン」

 

「これでおまえの計画は終わりだ。 叶瀬賢生」

 

悠斗は、賢生を思い切り殴ってやろうかと思っていたのだが、この一連の流れで、賢生が確かに夏音を愛してたことが伝わってきた。 これは、彼なりの愛し方だったのだろう。

ならば、この男を捌くのは古城でも悠斗でもない。 雪菜の背で眠っている夏音なのだから。

悠斗は脱力し、片膝をつけた。 今までの疲労が一気に押し寄せてきたのだ。

 

「ゆ、悠斗。 だ、大丈夫か!?」

 

古城にそう言われ、悠斗は笑みを零した。

 

「……いや、大丈夫じゃないかも。 久しぶりにこんなに力を使ったからな」

 

南の島の強い陽光を受けて、雪が音もなく溶けだしていった。

これで、この事件は解決したのだった。




ゆ、悠斗君。最早チートやね。
眷獣と融合なんて……。
それに攻撃の出力が、真祖+神力になりますから。

最後は魔力が尽きそうになりましたが、でもまあ、最初からあんなに飛ばせばこうなりますな。
悠斗君、チートやチート\(゜ロ\)(/ロ゜)/

ではでは、感想、評価、よろくしお願いします!!

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