ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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やっと投稿できました。
お待たせいたしました。

今回の話では、独自設定、独自解釈が入っていますね。
そこはご了承くださいm(__)m

あと最初に言っておきますね。
悠斗君のヒロインは、凪沙ちゃんだけです。

では、投稿です。
本編をどうぞ。


天使炎上Ⅴ

古城たちは邪魔な木を切り払いながら、森の中を進んでいた。

 

「まさかこんな方法で、第四真祖、紅蓮の熾天使を絃神島から排除するなんて。というか、神代先輩は、罠だと解ってこの提案に乗ったんですか?」

 

雪菜が悠斗に聞いてくる。

 

「まあな。 いつでも帰れるんだし。 それに現状では、なんの情報もなかったんだ。 あの会社を調べようにも、見た感じ厳重すぎた。 なら、別の方向から調べるしかないだろう」

 

「確かに、その通りですけど」

 

古城が何かを見付け、目を細めた。

 

「あれって、もしかして建物か?」

 

斜面の中腹に建っていたのは、黒ずんだコンクリート壁だった。

表面はひび割れ、苔むしているが、人工的な建造物なのは間違いない。

 

「案外、本当にメイガスクラフトの研究施設があったりするのか?」

 

悠斗は頬を掻いた。

 

「それはあり得ないと思うが、まあ、行ってみるか」

 

「暁先輩、神代先輩。 待ってください、あれは」

 

雪菜の制止を無視して、古城、悠斗は走り出した。

雪菜も二人の後を追って、小走りで走り出す。

そこにあったのは奇妙な建物だった。

大きさは二階建てのアパート程度。 分厚いコンクリートの壁に覆われているが、壁の穴には窓ガラスすら嵌まってない。 建物の中には家具は存在してなかった。 とても人が住めるような場所ではない。

 

「トーチカ……ですね」

 

古城たちに追い付いた雪菜が、そう言った。

 

「トーチカ?」

 

「いいか古城。 トーチカっていうのは、戦場で、敵の接近を阻止する砦みたいもんだ」

 

古城は頷いた。

 

「なるほど。 じゃあ、ここで戦争でもやってたのか?」

 

「それはわかりません。 それほど古くないと思われますが」

 

そう言って雪菜は、薄暗いトーチカに入っていく。

雪菜の後に、古城、悠斗と続く。

足元に散らばっていたのは、機関銃弾の空薬莢(からやっきょう)である。

 

「銃撃戦の跡……ですね」

 

回りを見渡せば、トーチカの壁には、銃弾の跡とおぼしき窪みや亀裂が無数に残されていた。

表面の汚れから判断して、古いものではなかった。 ここ数年で出来たものだ。

悠斗は屈み、空薬莢を取りながら、

 

「……空薬莢も、そんなに古くないな。 ここでなんかの演習でもあったのか?」

 

雪菜は首を左右に振った。

 

「わかりません。 でも、なにかあったのは確かですね」

 

悠斗は顎に手を当てながら、

 

「すまん。 古城、姫柊。 他も見てみたいから、帰るのはちょい延長していいか?」

 

雪菜と古城は頷いた。

 

「はい、わかりました。 私も少し気になるので」

 

「オレと姫柊は、ここでやれることをやってるよ」

 

「了解した」

 

悠斗はそう言って、他のトーチカがある場所へ歩き出した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

悠斗は、周りを見渡しながらぼやいてた。

 

「にしても、本当になにもないな。 無人島って」

 

悠斗は歩きながら、この事件のことを整理していた。

――仮面憑き。

――叶瀬夏音。

――叶瀬賢生。

――メイガスクラフト社。

 

「商品? 人体実験?」

 

悠斗がそう考えていたら、後方の草むらが、がさがさ、と音がした。

悠斗は距離を取り、その場所を目を細くして見つめた。

 

「誰だ?」

 

悠斗は、警戒心を持ったまま聞いた。

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。 紅蓮の熾天使」

 

そう言いながら、声の主は草むらから現れた。

美しい銀色の髪に、氷河を思わせる碧い瞳。 日本人離れした端麗な容姿。

彼女は、叶瀬夏音に似ていたが、決定的になにかが違っている。

夏音よりも背が高く、顔立ちも大人びてる。

彼女は軍隊の儀礼服を思わせるブレザーと、編み上げられたブーツを身につけていた。

 

「叶瀬夏音?……いや違う。 誰だ、あんたは?」

 

悠斗は警戒したまま、銀髪の彼女に聞いた。

 

「北欧アルディギア国王ルーカス・リハヴァインが長女、ラ・フォリア・リハヴァインです。――アルディギア王国で王女の立場にある者です」

 

短いスカートの裾をつまみながら、ラ・フォリアが優雅に一礼する。

彼女は一礼してから、悠斗を悪戯ぽく見返して笑った。

悠斗はそれを見て、警戒心を収めた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

彼女が乗ってきた救命ポッドは、島の西側の岸に打ち上げられていた。

絃神島から見て外洋側。 島の中央の泉を挟んで、古城たちがいるトーチカの反対側である。

 

「あんた、本当に王女様なんだな」

 

砂浜に残された救命ポッドを見て、悠斗が呟いた。

 

「なぜ嘘をつく必要があるのですか?」

 

救命ポッドは恐ろしく豪華だった。

プラスチックの殻に覆われた卵形の本体と、自動で膨らむゴム製の浮力具。

これだけなら通常の救命ポッドなのだが、外装が純金張りである。

ポッドの中は、立派なベットを備え、飲料水や食料は勿論のこと、温水洗浄便座までついてるという快適ぶりである。

確かに、このような救命ポッドに乗る人物は、王族以外には考えられない。

悠斗は、後頭部に両の手を回した。

 

「で、王女様のことはなんて呼べばいいんだ。 お姫様か?」

 

彼女は、悠斗の言葉を聞きムッとした。

 

「ラ・フォリアです、紅蓮の熾天使。 殿下も姫様も王女も聞き飽きました。 せめて異国の友人には、そのような堅苦しい言葉で呼んで欲しくはありません」

 

「わかったよ。 ラ・フォリア。 俺のことも悠斗って呼んでくれ。 紅蓮の熾天使で呼ばれるのはちょとな」

 

ラ・フォリアは微笑みながら、

 

「わかりました。 悠斗」

 

「それで頼んだ。――でだ、ラ・フォリアは、なんでこんな無人島にいるんだ?」

 

「絃神島を訪問する途中で、船が撃墜されたのです」

 

ラ・フォリアが事も無さげな口調で言う。

 

「ちょっと待て。 それって、メイガスクラフトにか?」

 

「そうです。 おそらく、私を拉致する為でしょう」

 

犠牲になった部下たちを哀悼(あいとう)するように、ラ・フォリアは目を伏せて頷いた。

彼女を乗せた飛行船が撃墜されたのは、六日前。 絃神島で仮面憑きが現れ、騒ぎが起きた夜のことである。

その日ラ・フォリアは、護衛の騎士団と絃神島に向かっている途中で突然襲撃を受け、不利を悟った騎士団たちに救命ポッドに押し込まれた。

そして抵抗する暇もなく射出されたポッドは海に落ち、この無人島に流れ着いた。ということだ。

 

「やっぱりか。 怪しい匂いはしてたけど、ここまでとはな。 で、ラ・フォリアは狙われる理由でもあるのか?」

 

「彼らの狙いはわたしくの身体――アルディギア王家の血筋です」

 

悠斗は相槌を打った。

 

「なるほどな。 強い霊媒。 巫女ってことか?」

 

「そうですね。 悠斗の考えで間違いありません」

 

悠斗は思案顔をした。

 

「なあ、俺の予測なんだが、叶瀬は王宮の関係者じゃないか? それでなんらかの事情があり、あの修道院で暮らしていた。――ここからも俺の予測だ。 叶瀬賢生は、叶瀬夏音の本当の父親じゃないんだろ。 絃神島で暮らしていた賢生は、修道院で暮らしていた叶瀬の存在、いや、王家の血筋に気づいて引き取り……」

 

悠斗は、夏音のあの姿思い出し唇を噛んだ。

 

「養女にした叶瀬を……人体実験の霊媒として使った」

 

ここまで見事に予測され、ラ・フォリアは珍しく目を見開いた。

 

「そうです、叶瀬賢生は叶瀬夏音の父親ではありません。 夏音の本当の父親は、わたくしの祖父です」

 

ラ・フォリアは、一呼吸置いた。

 

「十五年前。 祖父と、アルディギアに住んでいた日本人女性との間に生まれた子が、叶瀬夏音です。 もちろんわたくしの祖母、当時の王妃にとっては浮気ということになります。 叶瀬夏音の母親は、出産直後に祖父に迷惑をかけまいようと日本に帰国。 それを知った祖父が、彼女のために立てたのが――」

 

悠斗が、ラ・フォリアの言葉を引き継ぎ、こう言った。

 

「あの修道院か……。 そうか。 叶瀬夏音は、ラ・フォリアの叔母に当るんだな。 これを知ったラ・フォリアは、叶瀬夏音を迎えに絃神島を訪れようとしたが、メイガスクラフトの連中に飛行船を撃墜されたんだな」

 

「はい。 わたくしを攫おうとしたのは、もっと強い霊媒を必要としたからかも知れません。 賢生の魔術儀式のために」

 

悠斗は、眉を寄せた。

 

「魔術儀式?」

 

「そうです。 叶瀬賢生は元々、宮廷の魔道技師だったのです。 その危険な魔術儀式の為、賢生は宮廷を追放されましたが……」

 

「……それをここでしようと考えたのか。 叶瀬やラ・フォリアを使って。 人の命をなんだと思ってやがる」

 

悠斗の手を握りすぎて掌に爪が食い込み、血が滴り出ていた。

 

「賢生は、模造天使(エンジェル・フォウ)の儀式を執り行うつもりなのです。 賢生が研究してた魔道儀式で、人為的に霊的進化を起こす事で、人間より高次の存在へ生まれ変わらせる目的の儀式のことです」

 

「……そうか」

 

悠斗が空を見上げると、青い空は夕焼けに変わっていた。 悠斗は全身の力を抜いた。

そして、あることに気付いた。

 

「あ、やべ。 古城と姫柊のこと忘れてた」

 

「古城とは、第四真祖のことですか?」

 

「そうだ。 絃神島を領土とする第四真祖だな。 姫柊は古城の監視役で、獅子王機関から派遣された剣巫だ」

 

ラ・フォリアは、悪戯っぽく微笑んだ。

 

「そうですか。 早く会ってみたいですね」

 

悠斗がラ・フォリアの手に引かれながら訪れたのは、島の中央部。

森の木々と霧に覆われた、美しい場所()だった。

透明度の高い澄んだ水面からは、無数の石柱が突き出して、美しい光景を生み出している。

 

「では、悠斗。 ここで見張っていてください」

 

「あー、なるほど。 二日間風呂に入ってなかったから水浴びか。 見張ってるから行ってこい」

 

ラ・フォリアは、首を傾げた。

 

「あら。 悠斗は吸血鬼ですよね。 わたくしの裸を想像して興奮しませんの?」

 

悠斗は、後頭部をがしがし掻いた。

 

「俺は、吸血衝動の制御可能なんだ。 あー、あとなんだ。 そういう人は一人しか該当しないから心配するな」

 

「その方に、ぜひ会ってみたいですね」

 

「はいはい、わかったから。早く行ってこい」

 

ラ・フォリアは、片手を振りながら泉へ向かった。

悠斗は、月のネックレスを握り締めながら、無意識に呟いていた。

 

「……今すぐ会いたいな、凪沙」

 

悠斗は、自身の呟きに気づき苦笑した。

 

「俺って、凪沙に依存しすぎだな。 でもまあ、あいつが居ない生活は考えられないからな」

 

悠斗が見張りをして数分後、ラ・フォリアが戻ってきた。

タオルで体を拭いているということは、一糸まとわぬ姿なのだろう。

だが、悠斗の鋼の精神は揺るがない。 悠斗の理性の化け物が凄いことが解る。

まあ、一部を除いてだが。

 

「もういいですよ、悠斗」

 

「おう」

 

振り返ると、ラ・フォリアが銀髪を乾かしていた。

 

「それにしても、悠斗の理性は凄いですね」

 

「まあな」

 

その時、二人の耳に銃声が聞こえてきた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「メイガスクラフトの兵隊たちが、なんで今ごろ!? てか、悠斗はどこに行ったんだ?」

 

「わかりません。ですが、今はここを切り抜けることを考えましょう。――先輩、伏せて!」

 

雪菜が古城に覆い被さる。

古城たちの頭上を、機関弾の一連射が駆け抜けていった。

 

「問答無用かよ!? いきなり発砲してきやがったぞ!?」

 

雪菜は雪霞狼を握り直した。

このままでは逃げられないと判断した雪菜は、兵士たちの方向に向き直った。

 

「先輩、十五秒だけ耐えてください」

 

「姫柊!?って」

 

雪菜が飛び出したことで位置を補足されたのか、古城が隠れてる付近に着弾が集中する。

雪菜を援護しようにも、古城は顔を出すことすらままならない。

 

「――――鳴雷!」

 

雪菜が、鎧に覆われた兵士の後頭部を蹴り飛ばす。

 

「姫柊、無事か!?」

 

集中砲火から解放された古城は、雪菜の方へ走り寄る。

雪菜は驚愕の表情で、背後に跳んだ。

 

「まだです、先輩!」

 

「――え?」

 

黒い全身鎧に覆われた兵士が、古城の前で立ちあがった。

 

「すいません、先輩……囲まれました」

 

四方から響いてくる足音に気づいて、古城は絶望的な表情になる。

最初に遭遇した兵士たちに手こずっている間に、古城たちは完全に包囲されたらしい。

古城が眷獣を解放すれば、一瞬で兵士たちを消滅させることができるだろう。

だが、眷獣を召喚すれば、その場全てを破壊尽くしてしまうだろう。

どうすればいい、と古城が逡巡する。

その直後、

 

「――――!?」

 

古城たちの眼前にいた兵士たちが、飛来した閃光に貫かれ、全身鎧に覆われた兵士が爆散し、どす黒いオイルと金属片を撒き散らす。

続けざまに飛来した閃光が、同じく古城たちを包囲してた兵士を薙ぎ払った。

閃光の正体は銃弾だ。 二発の銃弾が古城たちを救ったのだ。

 

「二人とも、無事ですか?」

 

「二人とも、助けるのが遅くなってすまん」

 

緊張感のないおっとりした声と、数時間前に聞いた声が岩壁の上から聞こえてきた。

そこに立っていたのは、美しい銀髪の女性と、漆黒の黒髪を揺らす男性だった。

叶瀬夏音に似た女性と、神代悠斗だった。

彼女の手に握られているのは、美しい装飾の巨大な拳銃だ。

 

「呪式銃!?」

 

銃の正体に気付いた雪菜が、声を上げて驚く。

 

「今のうちにこっちにこい、安全だから」

 

悠斗の手招きを受け、古城と雪奈は岩壁の上に移動する。

 

「あなたは?」

 

「ラ・フォリア・リハヴァインです。 悠斗からお話は伺っています。 暁古城」

 

問い掛ける古城に、ラ・フォリアは優雅に微笑んだ。

 

「どうしてオレの名前を?」

 

「暁古城なんでしょう。 日本で出現したという第四真祖の」

 

驚いて聞き返す古城を見て、ラ・フォリアは不思議そうに目を瞬く。

 

「ああ……そうだけど……」

 

「今のが、最後の呪式弾でした」

 

戸惑う古城を放置して、ラ・フォリアは一方的に会話を続ける。

ラ・フォリアが指差しながら、

 

「あれはメイガスクラフトの機械人形(オートマタ)です。 わたくしを追ってきたのでしょう。――今度は、悠斗が働いてください。 あの船は機械人形(オートマタ)しか乗ってません。 沈めても大丈夫です」

 

悠斗は頭を掻いた。

 

「ったく。 一方的なお嬢様だな」

 

「先輩、来ます」

 

そう雪菜が警告する。 雪菜が雪霞狼を向けた方向に、新たな兵士の一群が見えた。

悠斗が右手を突き出した。

 

「――降臨せよ、青龍!」

 

古城たちの眼の前に、天を統べる龍、青龍が召喚された。

 

「――雷球(らいほう)!」

 

青龍の凶悪な口から稲妻を纏った雷球が放たれ、機械人形(オートマタ)を薙ぎ払い、それが船に直撃し、跡形もなく消し去った。

海が荒れ狂い、海水が森の木々を薙ぎ払う。

真祖の倍の力を有する、青龍の攻撃を最小限に抑えた一撃。

 

「あ、やべ。 海の魚大丈夫かな」

 

「大丈夫だと思いますよ。 あの攻撃は船にだけ直撃したので」

 

ニッコリと笑い、ラ・フォリアがそう言う。

 

「力を最小限に抑えてもこれだからな。 やっぱ、青龍の一撃はとんでもないな」

 

海を見ながら、溜息を吐く悠斗だった。




なんか怪しくないか?と思う方がいると思いますが、ヒロインは凪沙ちゃんだけですよ。←これは絶対です!!
凪沙ちゃんは重要な所で出ますので、大丈夫です(●`・ω・´●)

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

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