お待たせいたしました。
今回の話では、独自設定、独自解釈が入っていますね。
そこはご了承くださいm(__)m
あと最初に言っておきますね。
悠斗君のヒロインは、凪沙ちゃんだけです。
では、投稿です。
本編をどうぞ。
古城たちは邪魔な木を切り払いながら、森の中を進んでいた。
「まさかこんな方法で、第四真祖、紅蓮の熾天使を絃神島から排除するなんて。というか、神代先輩は、罠だと解ってこの提案に乗ったんですか?」
雪菜が悠斗に聞いてくる。
「まあな。 いつでも帰れるんだし。 それに現状では、なんの情報もなかったんだ。 あの会社を調べようにも、見た感じ厳重すぎた。 なら、別の方向から調べるしかないだろう」
「確かに、その通りですけど」
古城が何かを見付け、目を細めた。
「あれって、もしかして建物か?」
斜面の中腹に建っていたのは、黒ずんだコンクリート壁だった。
表面はひび割れ、苔むしているが、人工的な建造物なのは間違いない。
「案外、本当にメイガスクラフトの研究施設があったりするのか?」
悠斗は頬を掻いた。
「それはあり得ないと思うが、まあ、行ってみるか」
「暁先輩、神代先輩。 待ってください、あれは」
雪菜の制止を無視して、古城、悠斗は走り出した。
雪菜も二人の後を追って、小走りで走り出す。
そこにあったのは奇妙な建物だった。
大きさは二階建てのアパート程度。 分厚いコンクリートの壁に覆われているが、壁の穴には窓ガラスすら嵌まってない。 建物の中には家具は存在してなかった。 とても人が住めるような場所ではない。
「トーチカ……ですね」
古城たちに追い付いた雪菜が、そう言った。
「トーチカ?」
「いいか古城。 トーチカっていうのは、戦場で、敵の接近を阻止する砦みたいもんだ」
古城は頷いた。
「なるほど。 じゃあ、ここで戦争でもやってたのか?」
「それはわかりません。 それほど古くないと思われますが」
そう言って雪菜は、薄暗いトーチカに入っていく。
雪菜の後に、古城、悠斗と続く。
足元に散らばっていたのは、機関銃弾の
「銃撃戦の跡……ですね」
回りを見渡せば、トーチカの壁には、銃弾の跡とおぼしき窪みや亀裂が無数に残されていた。
表面の汚れから判断して、古いものではなかった。 ここ数年で出来たものだ。
悠斗は屈み、空薬莢を取りながら、
「……空薬莢も、そんなに古くないな。 ここでなんかの演習でもあったのか?」
雪菜は首を左右に振った。
「わかりません。 でも、なにかあったのは確かですね」
悠斗は顎に手を当てながら、
「すまん。 古城、姫柊。 他も見てみたいから、帰るのはちょい延長していいか?」
雪菜と古城は頷いた。
「はい、わかりました。 私も少し気になるので」
「オレと姫柊は、ここでやれることをやってるよ」
「了解した」
悠斗はそう言って、他のトーチカがある場所へ歩き出した。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
悠斗は、周りを見渡しながらぼやいてた。
「にしても、本当になにもないな。 無人島って」
悠斗は歩きながら、この事件のことを整理していた。
――仮面憑き。
――叶瀬夏音。
――叶瀬賢生。
――メイガスクラフト社。
「商品? 人体実験?」
悠斗がそう考えていたら、後方の草むらが、がさがさ、と音がした。
悠斗は距離を取り、その場所を目を細くして見つめた。
「誰だ?」
悠斗は、警戒心を持ったまま聞いた。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。 紅蓮の熾天使」
そう言いながら、声の主は草むらから現れた。
美しい銀色の髪に、氷河を思わせる碧い瞳。 日本人離れした端麗な容姿。
彼女は、叶瀬夏音に似ていたが、決定的になにかが違っている。
夏音よりも背が高く、顔立ちも大人びてる。
彼女は軍隊の儀礼服を思わせるブレザーと、編み上げられたブーツを身につけていた。
「叶瀬夏音?……いや違う。 誰だ、あんたは?」
悠斗は警戒したまま、銀髪の彼女に聞いた。
「北欧アルディギア国王ルーカス・リハヴァインが長女、ラ・フォリア・リハヴァインです。――アルディギア王国で王女の立場にある者です」
短いスカートの裾をつまみながら、ラ・フォリアが優雅に一礼する。
彼女は一礼してから、悠斗を悪戯ぽく見返して笑った。
悠斗はそれを見て、警戒心を収めた。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
彼女が乗ってきた救命ポッドは、島の西側の岸に打ち上げられていた。
絃神島から見て外洋側。 島の中央の泉を挟んで、古城たちがいるトーチカの反対側である。
「あんた、本当に王女様なんだな」
砂浜に残された救命ポッドを見て、悠斗が呟いた。
「なぜ嘘をつく必要があるのですか?」
救命ポッドは恐ろしく豪華だった。
プラスチックの殻に覆われた卵形の本体と、自動で膨らむゴム製の浮力具。
これだけなら通常の救命ポッドなのだが、外装が純金張りである。
ポッドの中は、立派なベットを備え、飲料水や食料は勿論のこと、温水洗浄便座までついてるという快適ぶりである。
確かに、このような救命ポッドに乗る人物は、王族以外には考えられない。
悠斗は、後頭部に両の手を回した。
「で、王女様のことはなんて呼べばいいんだ。 お姫様か?」
彼女は、悠斗の言葉を聞きムッとした。
「ラ・フォリアです、紅蓮の熾天使。 殿下も姫様も王女も聞き飽きました。 せめて異国の友人には、そのような堅苦しい言葉で呼んで欲しくはありません」
「わかったよ。 ラ・フォリア。 俺のことも悠斗って呼んでくれ。 紅蓮の熾天使で呼ばれるのはちょとな」
ラ・フォリアは微笑みながら、
「わかりました。 悠斗」
「それで頼んだ。――でだ、ラ・フォリアは、なんでこんな無人島にいるんだ?」
「絃神島を訪問する途中で、船が撃墜されたのです」
ラ・フォリアが事も無さげな口調で言う。
「ちょっと待て。 それって、メイガスクラフトにか?」
「そうです。 おそらく、私を拉致する為でしょう」
犠牲になった部下たちを
彼女を乗せた飛行船が撃墜されたのは、六日前。 絃神島で仮面憑きが現れ、騒ぎが起きた夜のことである。
その日ラ・フォリアは、護衛の騎士団と絃神島に向かっている途中で突然襲撃を受け、不利を悟った騎士団たちに救命ポッドに押し込まれた。
そして抵抗する暇もなく射出されたポッドは海に落ち、この無人島に流れ着いた。ということだ。
「やっぱりか。 怪しい匂いはしてたけど、ここまでとはな。 で、ラ・フォリアは狙われる理由でもあるのか?」
「彼らの狙いはわたしくの身体――アルディギア王家の血筋です」
悠斗は相槌を打った。
「なるほどな。 強い霊媒。 巫女ってことか?」
「そうですね。 悠斗の考えで間違いありません」
悠斗は思案顔をした。
「なあ、俺の予測なんだが、叶瀬は王宮の関係者じゃないか? それでなんらかの事情があり、あの修道院で暮らしていた。――ここからも俺の予測だ。 叶瀬賢生は、叶瀬夏音の本当の父親じゃないんだろ。 絃神島で暮らしていた賢生は、修道院で暮らしていた叶瀬の存在、いや、王家の血筋に気づいて引き取り……」
悠斗は、夏音のあの姿思い出し唇を噛んだ。
「養女にした叶瀬を……人体実験の霊媒として使った」
ここまで見事に予測され、ラ・フォリアは珍しく目を見開いた。
「そうです、叶瀬賢生は叶瀬夏音の父親ではありません。 夏音の本当の父親は、わたくしの祖父です」
ラ・フォリアは、一呼吸置いた。
「十五年前。 祖父と、アルディギアに住んでいた日本人女性との間に生まれた子が、叶瀬夏音です。 もちろんわたくしの祖母、当時の王妃にとっては浮気ということになります。 叶瀬夏音の母親は、出産直後に祖父に迷惑をかけまいようと日本に帰国。 それを知った祖父が、彼女のために立てたのが――」
悠斗が、ラ・フォリアの言葉を引き継ぎ、こう言った。
「あの修道院か……。 そうか。 叶瀬夏音は、ラ・フォリアの叔母に当るんだな。 これを知ったラ・フォリアは、叶瀬夏音を迎えに絃神島を訪れようとしたが、メイガスクラフトの連中に飛行船を撃墜されたんだな」
「はい。 わたくしを攫おうとしたのは、もっと強い霊媒を必要としたからかも知れません。 賢生の魔術儀式のために」
悠斗は、眉を寄せた。
「魔術儀式?」
「そうです。 叶瀬賢生は元々、宮廷の魔道技師だったのです。 その危険な魔術儀式の為、賢生は宮廷を追放されましたが……」
「……それをここでしようと考えたのか。 叶瀬やラ・フォリアを使って。 人の命をなんだと思ってやがる」
悠斗の手を握りすぎて掌に爪が食い込み、血が滴り出ていた。
「賢生は、
「……そうか」
悠斗が空を見上げると、青い空は夕焼けに変わっていた。 悠斗は全身の力を抜いた。
そして、あることに気付いた。
「あ、やべ。 古城と姫柊のこと忘れてた」
「古城とは、第四真祖のことですか?」
「そうだ。 絃神島を領土とする第四真祖だな。 姫柊は古城の監視役で、獅子王機関から派遣された剣巫だ」
ラ・フォリアは、悪戯っぽく微笑んだ。
「そうですか。 早く会ってみたいですね」
悠斗がラ・フォリアの手に引かれながら訪れたのは、島の中央部。
森の木々と霧に覆われた、美しい
透明度の高い澄んだ水面からは、無数の石柱が突き出して、美しい光景を生み出している。
「では、悠斗。 ここで見張っていてください」
「あー、なるほど。 二日間風呂に入ってなかったから水浴びか。 見張ってるから行ってこい」
ラ・フォリアは、首を傾げた。
「あら。 悠斗は吸血鬼ですよね。 わたくしの裸を想像して興奮しませんの?」
悠斗は、後頭部をがしがし掻いた。
「俺は、吸血衝動の制御可能なんだ。 あー、あとなんだ。 そういう人は一人しか該当しないから心配するな」
「その方に、ぜひ会ってみたいですね」
「はいはい、わかったから。早く行ってこい」
ラ・フォリアは、片手を振りながら泉へ向かった。
悠斗は、月のネックレスを握り締めながら、無意識に呟いていた。
「……今すぐ会いたいな、凪沙」
悠斗は、自身の呟きに気づき苦笑した。
「俺って、凪沙に依存しすぎだな。 でもまあ、あいつが居ない生活は考えられないからな」
悠斗が見張りをして数分後、ラ・フォリアが戻ってきた。
タオルで体を拭いているということは、一糸まとわぬ姿なのだろう。
だが、悠斗の鋼の精神は揺るがない。 悠斗の理性の化け物が凄いことが解る。
まあ、一部を除いてだが。
「もういいですよ、悠斗」
「おう」
振り返ると、ラ・フォリアが銀髪を乾かしていた。
「それにしても、悠斗の理性は凄いですね」
「まあな」
その時、二人の耳に銃声が聞こえてきた。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「メイガスクラフトの兵隊たちが、なんで今ごろ!? てか、悠斗はどこに行ったんだ?」
「わかりません。ですが、今はここを切り抜けることを考えましょう。――先輩、伏せて!」
雪菜が古城に覆い被さる。
古城たちの頭上を、機関弾の一連射が駆け抜けていった。
「問答無用かよ!? いきなり発砲してきやがったぞ!?」
雪菜は雪霞狼を握り直した。
このままでは逃げられないと判断した雪菜は、兵士たちの方向に向き直った。
「先輩、十五秒だけ耐えてください」
「姫柊!?って」
雪菜が飛び出したことで位置を補足されたのか、古城が隠れてる付近に着弾が集中する。
雪菜を援護しようにも、古城は顔を出すことすらままならない。
「――――鳴雷!」
雪菜が、鎧に覆われた兵士の後頭部を蹴り飛ばす。
「姫柊、無事か!?」
集中砲火から解放された古城は、雪菜の方へ走り寄る。
雪菜は驚愕の表情で、背後に跳んだ。
「まだです、先輩!」
「――え?」
黒い全身鎧に覆われた兵士が、古城の前で立ちあがった。
「すいません、先輩……囲まれました」
四方から響いてくる足音に気づいて、古城は絶望的な表情になる。
最初に遭遇した兵士たちに手こずっている間に、古城たちは完全に包囲されたらしい。
古城が眷獣を解放すれば、一瞬で兵士たちを消滅させることができるだろう。
だが、眷獣を召喚すれば、その場全てを破壊尽くしてしまうだろう。
どうすればいい、と古城が逡巡する。
その直後、
「――――!?」
古城たちの眼前にいた兵士たちが、飛来した閃光に貫かれ、全身鎧に覆われた兵士が爆散し、どす黒いオイルと金属片を撒き散らす。
続けざまに飛来した閃光が、同じく古城たちを包囲してた兵士を薙ぎ払った。
閃光の正体は銃弾だ。 二発の銃弾が古城たちを救ったのだ。
「二人とも、無事ですか?」
「二人とも、助けるのが遅くなってすまん」
緊張感のないおっとりした声と、数時間前に聞いた声が岩壁の上から聞こえてきた。
そこに立っていたのは、美しい銀髪の女性と、漆黒の黒髪を揺らす男性だった。
叶瀬夏音に似た女性と、神代悠斗だった。
彼女の手に握られているのは、美しい装飾の巨大な拳銃だ。
「呪式銃!?」
銃の正体に気付いた雪菜が、声を上げて驚く。
「今のうちにこっちにこい、安全だから」
悠斗の手招きを受け、古城と雪奈は岩壁の上に移動する。
「あなたは?」
「ラ・フォリア・リハヴァインです。 悠斗からお話は伺っています。 暁古城」
問い掛ける古城に、ラ・フォリアは優雅に微笑んだ。
「どうしてオレの名前を?」
「暁古城なんでしょう。 日本で出現したという第四真祖の」
驚いて聞き返す古城を見て、ラ・フォリアは不思議そうに目を瞬く。
「ああ……そうだけど……」
「今のが、最後の呪式弾でした」
戸惑う古城を放置して、ラ・フォリアは一方的に会話を続ける。
ラ・フォリアが指差しながら、
「あれはメイガスクラフトの
悠斗は頭を掻いた。
「ったく。 一方的なお嬢様だな」
「先輩、来ます」
そう雪菜が警告する。 雪菜が雪霞狼を向けた方向に、新たな兵士の一群が見えた。
悠斗が右手を突き出した。
「――降臨せよ、青龍!」
古城たちの眼の前に、天を統べる龍、青龍が召喚された。
「――
青龍の凶悪な口から稲妻を纏った雷球が放たれ、
海が荒れ狂い、海水が森の木々を薙ぎ払う。
真祖の倍の力を有する、青龍の攻撃を最小限に抑えた一撃。
「あ、やべ。 海の魚大丈夫かな」
「大丈夫だと思いますよ。 あの攻撃は船にだけ直撃したので」
ニッコリと笑い、ラ・フォリアがそう言う。
「力を最小限に抑えてもこれだからな。 やっぱ、青龍の一撃はとんでもないな」
海を見ながら、溜息を吐く悠斗だった。
なんか怪しくないか?と思う方がいると思いますが、ヒロインは凪沙ちゃんだけですよ。←これは絶対です!!
凪沙ちゃんは重要な所で出ますので、大丈夫です(●`・ω・´●)
ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!