以外に筆が進みましたです。
今回は独自設定も含まれていますね。
そこはご容赦くださいm(__)m
では、投稿です。
本編をどうぞ。
翌日の土曜日。
悠斗はマンションに帰らず、外で朝日を迎えることになった。
外で仮眠を取った悠斗は、在る場所へ足を向けていた。
「やっぱり拾ってきたのかよ」
悠斗は苦笑した。
そう。 悠斗が今現在居る場所は、夏音が子猫を保護してた修道院だ。
修道院の中の一番奥。 キリスト像の下に置いてある段ボールの箱の中には、三匹の子猫が戯れていた。
悠斗を見た子猫たちは、段ボール箱を倒して、悠斗の足元に殺到してきた。 悠斗は、事前に用意してあったキャットフードを開け、子猫たちの前に置いていく。
それを幸せそうに食べる子猫を見て、悠斗は優しい笑みを零していた。
悠斗は、無意識に言葉を洩らしていた。
「おまえらは、叶瀬の帰りを待ってるのか?」
子猫たちは相槌を打つように、ミィ、と鳴いた。
悠斗は猫の言葉が分らないが、頷いていた。
「そうか。 俺たちが絶対に助けるから、おまえらは、叶瀬の帰りを待ってやってくれ」
悠斗は、新しいキャットフードを開け、修道院を後にしたのだった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
悠斗は一度深く息を吐いてから、凪沙のスマートフォンに電話をかけた。
理由は、叶瀬夏音の自宅の場所を教えてもらう為だ。
『もしもし、悠君。 どうしたの?』
「あ、ああ。 実は、叶瀬夏音の自宅の場所を知りたくてな」
悠斗がこう言うと、暫しの沈黙が流れた。
『うん、わかった。――悠君。 もしかして、悠君の戦いに夏音ちゃんが関係したりするの?』
悠斗は目を見開いた。
まさか、バレると思っていなかったからだ。
「あ、それは……その」
『ううん、無理に教えてって言ってないよ』
「ごめんな、凪沙」
『いいの。 悠君、夏音ちゃんを助けてあげてね。 子猫ちゃんたちも、夏音ちゃんの帰りを待ってると思うから。――凪沙も、悠君の帰りを待ってるからね』
最後の凪沙の声は、どこか寂しさを帯びていた。
悠斗は、優しい声で答えた。
「ああ、わかった」
『悠君、メモの準備とか大丈夫?』
悠斗は、事前に用意していたメモ帳を開き、片手にペンを持った。
「いいぞ」
『じゃあ、夏音ちゃんの自宅の住所を言うね。 夏音ちゃんの自宅の住所は――』
悠斗は、凪沙が教えてくれた夏音の住所をメモ帳に書き留めていった。
「凪沙、助かったよ。 ありがとう」
『どういたしまして。……悠君、無事に帰ってきてね』
悠斗は、一呼吸置いた。
「ああ、必ず帰るよ」
『うん、待ってるね』
この言葉を最後に、悠斗が通話を切った。
悠斗は、凪沙の言葉を胸に仕舞い、夏音の自宅に足を向けるのだった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
悠斗は、夏音の自宅に赴く為、
メモ帳を見ながら目的地に到着した悠斗は、
「デカイな。 ここでいいんだよな」
其処は、鏡面加工されたガラスで、壁全体を覆った佇まいの建物だった。
生活感を削ぎ落したような、冷たく殺風景なオフィスビルである。 そしてここは、メイガスクラフト社の社宅でもある。
メイガスクラフト社は、ビルの清掃現場で見かける床磨き機や、家庭用の自動洗浄機ロゴを扱っている企業の名称である。
ここが夏音の自宅だというのなら、企業の研究施設の中に住んでいる、ということになる。
悠斗は、腑に落ちなかった。 もしかしたら夏音は、本当はここから逃げ出したかったじゃないかと、悠斗はそう思っていた。
その時、後方から声がかけられた。
「ゆ、悠斗!?」
「な、なんでここにいるんですか?」
声の主は、暁古城と姫柊雪菜だった。
「叶瀬のことが心配でな。 凪沙に住所を教えてもらって、来てみたんだ」
「そうか」
「そう、ですね」
古城と雪菜が昨日の事を思い出して、そう呟いた。
古城と雪菜は、悠斗の隣に並び立った。
「とにかく、行ってみるか」
古城たちが扉を潜ると、受付窓には、人間を模して造られたロボット――
「いらっしゃいませ」
受付窓に座る、女性
悠斗は動じることなく、用件を伝えた。
「叶瀬夏音に会いたいんだが」
「二〇四号室の叶瀬夏音は、外出中です」
手元の端末を操作しながら、女性
「いつごろ戻るか、わかるか?」
「わかりかねます」
礼儀正しくも淡々と対応する女性
だが、この女性
沈黙する悠斗に変わって口を開いたのは、雪菜だった。
「叶瀬賢生氏は、ご在宅ですか?」
叶瀬賢生という人物が、おそらく夏音の保護者なのだろう。
「失礼ですが、お客様」
「獅子王機関の姫柊雪菜です」
受付係りに、雪菜が自身の所属する組織名を告げる。
そのことに、古城と悠斗は少々驚いた。 獅子王機関の名前を出す行動は、生真面目な雪菜らしからぬ行動に思えたからだ。
それに対する受付係りの回答は、古城たちの予想とは少し違ったものだった。
「――承っております。 あちらで少々お待ち下さい」
この回答に、悠斗は再び眉を寄せた。
雪菜はこの施設を始めて訪れたので、予約を取る事などはしていないはずだ。
この島には、獅子王機関の舞威媛、煌坂紗矢華がいるが、彼女はディミトリエ・ヴァトラーの監視役の任についているので、予約など取れるはずがない。
一度通信を切り、何処かに連絡していた説も拭えない。
もしかするとこの施設は、夏音のあの姿と関係してる可能性があるかも知れない。
古城たちは、受付係が指差したソファーに腰を下ろした。
「承ってるって、どういうことだ?」
「わかりませんけど、好都合でしたね」
悠斗が、静かに口を開いた。
「古城、姫柊。 ここはきな臭い。 充分注意しろ」
「悠斗、きな臭いってどういう――」
古城の言葉が途中で切れたのは、ロビーのエレベータから、誰かが降りてくるのが見えたからだ。
ワインレッドのスーツに身を包んだ、華やかな金髪の外国人女性だ。
「登録魔族ですね」
「ああ、そうだな」
雪菜の呟きに、悠斗が応じた。
赤いスーツの女の左腕には、幅五センチほどの金属製の腕輪が装着されていた。
人口島管理公社から支給される魔族登録証である。
その女性は、古城たちの前まで歩み寄った。
「ごめんなさい。 お待たせしてしまったかしら」
「いえ……こちらこそ、突然すいません」
凛然と立ち上がって雪菜が答え、それに倣って、古城、悠斗も立ち上がった。
獅子王機関の肩書を名乗ってしまった以上、弱みを見せる訳にはいかないと思ったのかもしれない。
二十センチ近い程の身長差にも、気後れをしてる様子はなかった。
「あなたたちは、昨日の――」
「え?」
「いえ、ごめんなさい。 獅子王機関の攻魔師が、こんなに若い方だと思わなかったので」
何事もなかったように首を振り、女は事務的な口調で答えた。
「あらためまして、開発部のペアトリス・バスラーです。 叶瀬賢生の……そうですね、秘書のような仕事をしております。 本日は、叶瀬にどのようなご用件で?」
「申し訳ありませんが、今は言えません。 ご本人と話がしたいので」
雪菜が硬い口調でそう告げ、ペアトリスと名乗った女性は頷いた。
「わかりました。 でも、困りましたね。 本日、叶瀬は不在なので」
「不在?」
「ええ、叶瀬は現在、島外におりますの、弊社は、魔族特区の管理区域に、独自の研究施設を持っていますから、そちらに」
悠斗は心の中で、それはあり得ないと呟いた。 悠斗が旅をしていた時は、そのような施設は島外には無かった。
僅か一年で研究施設を建築し、機材を島外に持ち出して設置することなど不可能だ。
この言葉は嘘で、古城たちを島から追い出す算段なのかもしれない。
「絃神島の外に? もしかして叶瀬夏音さん……。 娘さんも一緒、ですか?」
「はい。 そのように聞いておりますわ」
ペアトリスは愛想よく微笑んで首肯した。
「二人が絃神島に、いつ戻ってくるかわかりますか?」
古城が緊張混じりの声で聞く。ペアトリスは首を振った。
「未定です。 叶瀬が現在関わっているプロジェクトの詳細については、私どもにも知らされておりませんので……」
「そう……ですか」
落胆する古城を見て、ペアトリスは楽しそうに笑った。
「ですから、もしお急ぎのご用件なら、研究施設を直接訪ねていただいたほうが早いかと思いますね」
「……そんなことができるんですか?」
目を丸くした古城が聞き返す。
「ええ、もちろん。 一日に二往復、連絡用の軽飛行機を飛ばしていますから、そちらに同乗していただければ。 今からなら、まだ午前中の便に間に合うと思いますわ」
「じゃあ、それで研究施設に連れて行ってもらえますか」
悠斗が罠と分かっても、この提案に乗った。
現状では、情報が一つもないのだ。
もしかしたら、連れて行かれた場所に、なにかの手がかりが残されてるかもしれない。
空振りだった場合は、朱雀か青龍の背に乗って、絃神島に戻ってくればいい話だ。
「かしこまりましたわ。 では、こちらへ」
手招きして、ペアトリスが歩き出す。
彼女を追い掛けて、悠斗と古城が彼女の背を追いかけて歩き出すが、雪菜はその場で俯き目を伏せたまま、呟いていた。
「飛行機……」
「姫柊?」
「どうしたんだ?」
怪訝な顔で、古城と悠斗が振り返った。
「いえ、なんでもありません。 行きましょう」
雪菜はぎゅっと拳を握りしめて首を振った。 その唇が、微かに青ざめて震えている。
それに気づいた悠斗は、姫柊は強がりだなー、と思っていた。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
飛行機の横で古城たちを待っていたのは、革ジャン服の長髪の男だ。
男が手を上げて、古城たちに挨拶をした。
「オレがあんたたちを島まで運ぶように頼まれた。 ロウ・キリシマだ」
「ああ、よろしく頼む」
代表して、悠斗が挨拶をする。
悠斗は助手席に座り、古城と雪菜は後部座席に座った。
離陸し、震える雪菜の手を握った古城を見た悠斗は、バカップルが、と思っていたが、これを聞いた雪菜は、そっちこそ、と言い返してやりたいと思うだろう。
悠斗と凪沙も、バカップルの域なのだ。 見てる此方が恥ずかしくなるほどの。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
島に到着すると、なにもない緑の森が広がっていた。
先に降りた悠斗はこの状況を一目見て、ああ、やっぱり嵌められた。と思っていた。
ふらつく雪菜の手を引きながら、古城も飛行機の後部座席から降りる。
「こんなところに、叶瀬たちがいるのか?」
無人島を見て、古城がキリシマに聞いた。
キリシマは笑みを零した。
「さあな。 そのうち会えんじゃねぇか……それまで無事に生きられたの話だが」
古城たちが飛行機から離れたのを確認してから、キリシマが機体のドアを閉めた。
再び飛行機のエンジンが勢いよく回りだし、小さな機体がゆっくりと走り出す。
「悪いな、恨むなら、ペアトリスを恨んでくれ」
窓越しに手を振って、キリシマがそう言い残す。
その言葉を理解した古城は、愕然と表情を凍らせた。
「ちょ……待てコラ、オッサン!」
「誰がオッサンだ、クソガキ! オレはまだ二十八――――!」
飛行機が離陸して、キリシマの怒鳴り声が小さくなっていく。
青空に吸い込まれ、遠くなっていく小さな機体を見て、古城は呆然と見送った。
悠斗が、古城を見ながら嘆息した。
「古城。 いつでも絃神島に帰れるから心配するな」
「で、でも、飛行機が!?」
「俺の眷獣を忘れたか?」
「あ!」
古城は思い出したように声を上げた。
「そうだ。 朱雀と青龍は、空が飛べるんだぞ。 絃神島まで数時間あれば移動できるから心配するな」
古城は安堵の息を洩らした。
「ま、一応連れて来てくれたんだ。 この島の探索をしてから帰っても遅くはないだろう」
「お、おう」
南国の強い陽射しが反射して、海が青く輝いていた。
次で皇女さまと邂逅ですかね。
それにしても、悠斗君は頭が切れますね。
悠斗君を心配する凪沙ちゃん、うん。悠斗君のお嫁さんだね。
てか、愛されてるといっても過言でないような(笑)
ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!