ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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はい、書き上げましたー!
お待たせしましたですm(__)m
今回は微妙に話が進んだのかな?
後、二つ名のルビは、読者様の脳内変換でOKです(^^♪

では、投稿です。
本編をどうぞ。


天使炎上Ⅲ

テティスモールは、商業地区である絃神島西地区の中枢。

繁華街の象徴にもなっているショッピングビルである。

映画館なども揃っている便利な場所だが、当然のように混雑している。

週末の金曜日の夜となれば、駅前の人口密度は容易であろう。

待ち合わせ場所に那月と悠斗が現れたのは、約束の時間を一時間過ぎた、午後十一時近くになってからのことだった。

 

「悪い、待たせた」

 

「神代悠斗、遅刻だぞ。 私も、アスタルテに夜店を堪能させてやったがな」

 

「遅ェよ! ていうか、なんだよ、二人ともその恰好!?」

 

灰色の甚米を着た悠斗と、華やかな浴衣姿で歩いてきた那月を睨んで、古城が叫んだ。

悠斗と那月は悪びれる様子もなく、それを受け流す。

 

「いや、俺は祭りを楽しんだだけだぞ」

 

「おまえのぶんのタコ焼きも買ってあるぞ。 ほら、喰え」

 

那月は古城にタコ焼きパックを差し出し、古城はそれを憤然と受け取った。

 

「……それはどうも」

 

古城の前にアスタルテが進み出て、静かに頭を下げた。

彼女は、淡いラベンダー色の浴衣姿だ。

 

「合流時間に一時間五十六分の遅延がありました。 教官と紅蓮の熾天使に代わって謝罪します、第四真祖」

 

「いや……おまえが謝る必要はないけどな……楽しかったか?」

 

「肯定」

 

アスタルテが短く告げる。

相変わらずの機械的な口調だが、喜んではいるらしい。

那月は、古城の隣を一瞥した。

 

「どうしておまえがここにいるんだ、転校生」

 

「私は、第四真祖の監視役ですから」

 

ギターケースを背負って立っていた、制服姿の雪菜が、無感情な声で言い返した。

古城が那月の仕事につき合わされることを知って、自分も行くと主張したのだ。

緊張感が漂う二人のやり取りの仲裁に入ったのは、悠斗だった。

 

「まあまあ、人手が多くて困る事はないじゃんか」

 

悠斗がこう言うと、先程までの緊張感が霧散した。

 

「まあいいか。 せっかくだがら、転校生も浴衣を着るか? 駅前でレンタルしてたぞ?」

 

「……いえ、結構です」

 

微かな未練を感じさせるような沈黙を挟んで、雪菜は首を振った。

悠斗は、なんで二人はいつもこうなのか、と呟いていた。

 

「それよりも、どうしてこんな物騒な任務に、暁先輩や神代先輩。 危険人物を連れ出したんですか? こんな街中で先輩がたの眷獣が暴走したら、いったいどんな大参事になるか……」

 

「だからといって、こいつらがなにも知らないまま戦闘に巻き込まれたらどうする気だ、剣巫。 そっちのほうが危険だと思わないか? 神代については、あの子が傷つかない限り、暴走しないから心配要らん」

 

「そ……それはそうかもしれませんけど……」

 

那月の反論に、強気だった雪菜の勢いが削がれる。

 

「危険な人物だからこそ、目の届かない場所に遠ざけるよりも、手元に置いておく方が安全だろ?」

 

「うー……」

 

あっさりと論破され、雪菜は肩を落とした。

危険人物された古城は唇を歪め、悠斗は自身がどれだけ危険な存在か理解してるので、平然な顔をしていた。

那月は、古城たちを連れてエレベータへ乗り込んだ。

 

「メールで送った資料をは読んだか?」

 

悠斗は、那月の言葉を聞いて冷汗を流した。

凪沙との祭りを楽しみしていたので、それに気づかなかったのだ。

そんな悠斗に、古城が無意識に助け船を出した。

 

「まあ、いちおう。 “仮面憑き”だっけ? そいつを捕まえばいいんだろ?」

 

「正確には、“仮面憑き”を二体ともだ」

 

仮面憑きとは、絃神島の上空で戦闘を繰り返す謎の生物の通称だ。

過去の目撃例では、仮面憑きたちは二体同時に現れ、どちらかが戦闘不能になるまで戦闘を続けたらしい。

那月は、今夜も二体同時に現れる可能性が高いと考えているのだろう。

 

「捕まえろ、とか気軽に言われてもな。 空を飛んでいる奴らを、どう相手すれば」

 

「気にすることはない。 撃ち落とせ」

 

那月の言葉に、そんな無茶な、と古城は呻く。

すると、悠斗が口を開いた。

 

「俺の眷獣は出来ると思うが、出力が大きすぎる。 天を統べる龍だからな。 空に撃っても、街中じゃ被害が出るかもしれない」

 

「そうか。 お前の眷獣は、真祖の倍の力を有してるんだな。 真祖レベルで攻撃することは可能か?」

 

「可能だな」

 

「お前は、真祖レベルの攻撃で空にぶっ放せ。 それなら被害が出ることもなかろう」

 

悠斗は、了解、と頷いた。

上昇を続けていたエレベータが、最上階に到着した。そこから作業用のエレベータに乗り換え、上へ移動する。

十階建てのテティスモールは、この付近ではもっとも高い建物である。 飛行能力を持つ仮面憑きを監視するには最適な場所だ。

 

「それはともかく、変ですね」

 

雪菜が指差したのは、交差点の向こうに見えるオフィスビルだった。

建物の上半分が抉られていて、飛び散った瓦礫は今も路上に山積みになっている。

 

「あんな巨大な爆発が起きていたのに、私は気づきませんでした。 魔術や召喚獣であれだけの破壊を生み出したのなら、相当な魔力が放出されたはずですけど」

 

「獅子王機関の剣巫でも感知できなかったか。 絃神島に設置されている魔力感知器も、仮面憑きには反応しなかった。 特区警備隊が異変に気づいたのは、ビルが倒壊して、民間警備会社が騒ぎ出した後だ」

 

悠斗が思案顔をした。

 

「もしかしたら、俺が感じたのはそれかも知れない。――今ははっきり感じるけどな。 戦闘の禍々しい気配を」

 

「そうか。 もしかしたら、お前の異名に関連してるやもしれんな」

 

悠斗は腕を組んだ。

 

「――紅蓮の熾天使にか?」

 

「これは私の予測だ。 鵜呑みにはするなよ。 まあ、本人たちに聞けばすぐわかることだ。……殺すなよ、暁、神代」

 

那月が睨みつけていたのは、繁華街の外れに立つ巨大な電波塔だった。

禍々しい光に包まれたなにかが、夜空の中戦闘をしていた。 激しい空中戦を行っているのだ。

 

「――仮面憑きか!?」

 

「アスタルテ。 花火の時間だ、と公社の連中に伝えろ」

 

命令受託(アクセプト)

 

那月の指示を受けたアスタルテが、浴衣の袖口から無線機を取り出し操作する。

悠斗は、なるほど。と頷いた。

 

「花火でのカモフラージュか。 爆発や騒ぎが誤魔化せるからな」

 

直後、古城たちの背後で、ドン、と爆音が鳴った。

色とりどりの花火が、夜空を照らした。 発射地点は、仮面憑きの出現位置とは逆方向だ。

 

「花火に気を取られている庶民共が、異変に気づく前に片つける。 跳ぶぞ」

 

「了解」

 

「えっ、跳ぶって」

 

自由落下に似た不快感が収まった時、古城たちは見知らぬ高い塔の真上に放りだされていた。

 

「うおおおおっ!? なんだこれ!? なんでこんなところに……!」

 

古城は危うく足を踏み外しかけ、慌てて近くにあった剥き出しの鉄骨に捕まった。

鉄骨に捕まりながら、悠斗が嘆息した。

 

「古城、ビビりすぎだ」

 

赤と白に塗り分けられた電波塔の骨組み。 仮面憑きたちの戦闘中の真下だ。

 

「先輩がた、上です! 気をつけて!」

 

雪菜が鋭く叫んだ。

古城と悠斗は顔を上げ、仮面憑きを見た。 二体の仮面憑きは、共に小柄な女性の姿をしていた。

だが、彼女たちの背中には、血管まみれの醜悪な翼が何枚も不揃いに生えていた。

剥き出しの細い手足には、不気味な幾何学紋様が浮かび上がり、無数の眼球を象った不気味な仮面が、彼女たちの頭部を覆っていた。

彼女たちが翼を広げるたびに、歪に波打つ光の刃が撃ち放たれ、陽炎のように揺らめく障壁が、それを次々に撃ち落とす。

撃墜された光の刃は灼熱の炎に変わって、眼下の道路や建物を次々に燃やした。

戦闘が激化するにつれ、市街地の被害が広がっていく。

 

「なんだあれは。 あのような魔術の術式、私はしらんぞ」

 

那月が淡々と呟く。

 

「はい。 あれはまるで魔術というよりも……私たちが使う神懸りのような……」

 

那月の言葉に頷いて、雪菜は背中のギターケースから雪霞狼を取り出した。

槍の柄がスライドして長く伸び、格納されていた主刃と、左右の副刃が展開する。

 

七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)か……。 ちょうどいい。 手を貸せ、姫柊雪菜。 まとめて仕留めるぞ」

 

那月が雪菜の返事を待たずに、右手を振った。

その瞬間、那月の周囲の空間が、ゆらりと波紋のように揺れた。

そのなにもない虚空から、銀色の鎖が矢のように撃ち放たれ、空中を舞う仮面憑き二体に巻きつく。

直後、雪菜が鉄骨を蹴って舞った。

雪菜は空中で張り巡らされた鎖の上に着地。 そして、一気に駆け抜ける。

 

「――雪霞狼!」

 

雪菜の詠唱する祝詞に呼応して、雪霞狼が神々しい光に包まれた。

七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)は獅子王機関の秘奧兵器だ。 魔力を無効化し、あらゆる結界を斬り裂く。

その攻撃は、いかなる魔術障壁をもっても防げない。

雪菜は雪霞狼を構え、その刃を一体の仮面憑きの翼に突き立てるが――

 

「えっ!?」

 

激突の瞬間、伝わってくる異様な手応えに、雪菜は息を飲んだ。

仮面憑きを覆う禍々しい光が増し、その輝きが雪霞狼の直撃を拒む。

あらゆる結界を斬り裂く刃が、見えない障壁に阻まれて火花を散らした。

不揃いな翼を広げて、仮面憑きが咆哮する。

彼女たちを縛っていた鎖が弾け飛び、その衝撃に巻き込まれて雪菜も吹き飛ばされる。

古城と那月が同時に叫んだ。

 

「姫柊!?」

 

戒めの鎖(レージング)を断ち切っただと……!?」

 

「――降臨せよ、青龍!」

 

悠斗は万が一の為に青龍を召喚し、その背に乗って雪菜の着地地点まで移動した。

雪菜は、青龍の背に着地した。

悠斗は、雪菜に声をかける。

 

「無事か、姫柊?」

 

「私は大丈夫です。 でも……」

 

雪菜の表情は硬い。 真祖すら倒し得る必殺の七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)が、仮面憑きには通用しなかったのだ。

二体の仮面憑きは、古城たちの攻撃に警戒して、戦闘を一時中断していた。

一体は、上空へと逃れて古城たちを見下ろし、もう一体は、怒りを露わに電波塔のほうへ突っ込んでいく。

仮面の下の唇を張り裂けんばかりに開いて咆哮し、その全身が紅い光を放った。

 

「いかん!」

 

仮面憑きの攻撃が、電波塔の根元を部分を抉り取り、それを見た那月の表情が凍る。

自重を支えきれなくなった電波塔が傾き、折れた鉄骨を撒き散らしながら、ゆっくりと倒れていく。

その先にあるのは、渋滞中の幹線道路、対岸のビル群。 このままでは大参事は免れない。

 

「暁、神代、奴らは任せる! 暁は手加減するな、お前が死ぬぞ!」

 

一方的にそう言い残し、那月は空間転移で姿を消した。

古城は鉄骨に捕まったまま、悠斗は青龍の背に乗りながら片手を掲げた。

 

「ああ、くそ! 疾や在れ(きやがれ)、九番目の眷獣、双角の深緋(アルナスル・ミニウム)――!」

 

「――雷球(らいほう)!」

 

双角獣が衝撃波の弾丸を咆哮し、青龍は稲妻を纏った雷球を凶悪な口から放った。

それは、それぞれの仮面憑きを正面から襲った。

撒き散らされた振動で、電波塔がビリビリと震え、周囲の建物のガラスがひび割れる。

 

「――なに!?」

 

「――なんだと!?」

 

双角獣の攻撃を受けた仮面憑きは空を舞い続けており無傷だ。 青龍の攻撃は、確かに手応えはあった。

だがその攻撃は、仮面憑きによる、見えない障壁に阻まれていたのだ。

 

「ッチ、出力が足りなかったか」

 

悠斗は舌打ちした。

出力を上げて攻撃すれば撃ち落とすことが可能だ。

だが、それだと、那月が支えている電波塔を確実に破壊して、大参事は免れない。

 

「そんな……先輩の攻撃に耐えるなんて……!?」

 

歪な翼を広げる仮面憑きを呆然と見つめ、雪菜が声を震わせる。

双角獣は、己の攻撃が通らないと判断したので、直接攻撃に切り替え突進をしたが、仮面憑きはその攻撃を悠々とすり抜ける。

古城の眷獣は仮面憑きに触れられない。 その事実に古城は絶句する。

 

「――やばい!」

 

「――青龍!」

 

仮面憑きが生み出した巨大な光剣に気づいて古城は体を凍らせ、悠斗はその光剣を撃ち落とす為、飛来する光剣の斜線上に移動した。

もし、あの攻撃が市街地を直撃したら、どれだけの犠牲者が出るか計り知れない。

だが、その時だった――。

上空から飛来した閃光が、光剣を構える仮面憑きを貫いた。

その閃光の正体は、上空でホバリングしていた、もう一体の仮面憑きである。

背後の死角から不意打ちを受けて、閃光で貫かれた仮面憑きが苦悶の絶叫を洩らした。

閃光に貫かれたまま、その仮面憑きは電波塔の中腹に激突。 鮮血を撒き散らしてのた打ち回る。

閃光を放った仮面憑きがその上にのしかかり、鉤爪の生えた腕で、負傷した仮面憑きの体を容赦なく抉った。

肋骨をへし折り、剥き出しの肌を裂き、歪な翼を引き千切る。 倒れた仮面憑きは抵抗を続けるが、勝者は最初の一撃で決していた。

そして、倒れた仮面憑きはついに動きを止めた。

 

「俺たちを庇った……のか……?」

 

返り血に塗れた仮面憑きの横顔を見つめて、古城は呟いた。

古城たちの前で、仮面憑きの頭部を覆っていた仮面が外れた。

倒れた仮面憑きの攻撃を受けて、金属製の仮面に亀裂が入っていたのだ。

その素顔が浮かび上がり、古城たちは戦慄した。

 

「……馬鹿な! あいつ……あの顔!?」

 

「……なんで、そこにお前がいる!?」

 

「嘘……」

 

いまだ幼さを残したその美貌を、古城たちは知っていた。

銀色の髪と、氷河の輝きにも似た淡い碧眼――。

歪な翼を背負い、素肌に奇怪紋様を纏っていたその少女は、叶瀬夏音だった。

 

「……叶瀬やめるんだ。 お前がそんなことをしちゃいけない……」

 

悠斗は震える声で呟いた。 夏音の次の行動が分かってしまったのだ。

夏音は無数の牙を、電波塔の上に倒れた仮面憑きの剥き出しの白い喉に突き立てた。

 

「叶瀬――――!」

 

古城たちの眼の前で、凄まじい鮮血が噴き出した。

喉を裂かれた仮面憑きが、傷ついた体を激しく痙攣させた。 淡い碧眼から涙を流しながら、夏音は噛み千切った肉片を咀嚼する。

目的を果たした夏音は、再び翼を広げ夜空へに紛れて見えなくなる。

古城、悠斗、雪菜は、この光景を呆然と見ていることしか出来なかった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

同時刻、アイランド・サウス七〇三号室のベランダで、朱雀と青龍の魔力を込められた宝玉を両の手の中で握り締め、祈りを捧げている少女がいた。

 

「凪沙、ずっと待ってるから。 悠君」

 




この章で、悠斗君の紅蓮の熾天使の所以を書こうと思ってます(^O^)

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

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