今回は戦闘回です。
悠斗君の、新たな眷獣も召喚されますよ(^^♪
さてさて、何が召喚されたのか。
では、投稿です。
本編をどうぞ。
古城と紗矢華は濡れた状態で、なだらかに傾いた坂道の上に立っていた。
体が濡れている理由は、
「……あなたは、本当に無茶苦茶ね」
後方に出来たクレーターを見て、紗矢華が嘆息する。
その陥没したクレーターの中央では、緋色の双角獣が、耳障りな雄叫びを上げていた。
「たしかに地上には出られたけど、だからってこんな馬鹿でかいクレーターを造ることはないじゃない。 私が“煌華麟”の障壁で瓦礫を防がなかったら、今ごろ生き埋めになってたわよ」
「文句はオレじゃなくて、
古城が、精神的疲労を滲んだ声で反論する。
新たに掌握した、第四真祖九番目の眷獣、
高周波振動を撒き散らす双角獣が、クレーターを造ったのだ。
「てか、第四真祖の眷獣は傍迷惑な奴しかいなのか?……悠斗の眷獣が羨ましいな」
「真祖の眷獣はみんな凶暴よ。 紅蓮の熾天使の眷獣が
紗矢華が笑みを浮かべながら、古城を見上げた。
「さっさとあいつらを片付けましょう」
紗矢華が視線を向けた先には、再び上陸してきたナラクヴェーラの姿が映った。
古城たちが最初に交戦したナラクヴェーラである。
最初に見かけた時とは形が変わっていないが、明かに動きが変わっていた。
操縦者の意志を反映した知的な動きだ。
陥没した地表を楯のように使って、副腕から真紅の閃光を放つ。
古城に放たれた閃光を、紗矢華が古城の前に立ち受け止めた。
「
緋色の双角獣が咆哮した。
陽炎のようなその眷獣は、肉体そのものが凄まじい振動の塊だ。
頭部に突き出した二本の角が、音叉のように共鳴して凶悪な高周波振動を撒き散らす。
その振動は岩を粉砕し、金属を引き裂く。
双角獣の咆哮は、衝撃波の弾丸となってナラクヴェーラを襲った。
そのまま数百メートル吹き飛ばされ、ナラクヴェーラは動きを止めた。
「やば……中の操縦者……死んだ、か?」
ナラクヴェーラの中には獣人が乗り込んでいたはずである。
あそこまで派手に吹き飛んで、無事で済まないと思うが――。
「獣人の生命力なら、あの程度で死にはしないわ。 当分は身動きできないと思うけど」
動揺する古城の耳元で、紗矢華が叫んだ。
「それよりも、あっちの五機を! 操縦者が乗り込む前に潰して!」
「お、おう」
紗矢華が指差したのは、オシアナス・グレイヴから運び出された五機のナラクヴェーラだった。
操縦者がいないナラクヴェーラは休眠状態である。
それなら、気兼ねなく叩き潰すことができる。
双角獣の突進を止めたのは、炎を噴きながら飛来した円盤だ。
西域の闘神が持つという
双角獣と激突した戦輪は、爆発して巨大な炎を巻き起こした。
「――なんだ!?」
古城が見た先は、オシアナス・グレイヴの後部甲板を引き裂いて出現する巨大ななにかだった。
ナラクヴェーラと同じ材質の装甲を纏っているが、桁違いに大きい。
八本の脚と三つの頭。 そして女王アリのように膨らんだ胴体。
その胴体を覆う装甲が割れて迫り出したのは、戦輪を詰め込んだミサイルランチャー。
威嚇するように吼えた双角獣に向かって、無数の戦輪が一斉に撃ち出された。
「暁古城、伏せてっ!」
「なっ――!?」
紗矢華が煌華麟を振って防御障壁を造り出す。
その障壁に守られた古城たちの頭上を、灼熱の暴炎が覆い尽くした。
戦輪の一斉攻撃に対抗するために、双角獣も振動波を放出。
二つの巨大な力が正面から激突し、周囲に激しい破壊を撒き散らす。
爆炎で目標を見失った戦輪が、絃神島本体へ落下して――。
「――
この声と同時に、
戦輪は、その結界の盾に着弾して爆発し、結界は役目を終えてから消えていった。
悠斗は、朱雀の背の上に立ち右手を突き出していた。
朱雀が古城の隣を通り過ぎると同時に、悠斗は着地した。
「危機一髪だったな。 大丈夫か、古城、煌坂?」
「あ、ああ。 助かった」
「え、ええ、大丈夫よ」
動き出した女王ナラクヴェーラが、ゆっくりと
女王ナラクヴェーラが指揮をし、古城たちを包囲しようとする。
「ふゥん……これが本来のナラクヴェーラの力か。 やってくれるじゃないか、ガルドシュ。 こんな切り札を残してたとはね。 どうする、古城。 やっぱり僕が代わりにやろうか?」
ヴァトラーは古城の近くまで歩み寄り、挑発するように言う。
古城は苦々しげに舌打ちし、攻撃的な顔つきでヴァトラーを睨む。
「引っ込んでろって言ったはずだぜ、ヴァトラー……! どいつもこいつも好き勝手しやがって、いい加減こっちも頭に来てるんだよ!」
古城の怒りが闘争心に火をつけ、真祖の血を滾らせる。
「相手が
古城が纏う禍々しい覇気を、ヴァトラーが満足げに眺め笑った。
なにも言わず立ち上がった紗矢華が、左手に持つ煌華麟を構えて古城の隣に立つ。
そして古城の右隣には、当然そこにいるべきというような自然さで小柄な影が歩み出た。
「――いいえ、先輩。
銀色の槍を構えた制服姿の少女。 姫柊雪菜が拗ねたような瞳で古城を見上げていた。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「ひ……姫柊?」
古城は驚いたように彼女の名前を呼び、雪菜は無感情な冷たい瞳のまま小首を傾げた。
「はい。 なんですか?」
「え、と……どうしてここに?」
「監視役ですから。 私が、先輩の」
なぜか倒置法で強調して、雪菜が穂先を古城に向けた。
向ける相手が違うッ!と叫びたかったが、今の雪菜に反論することはできない。
表情を消したまま古城と紗矢華、そして爆発の中から姿を現す緋色の双角獣を見比べる。
「新しい眷獣を掌握したんですね、先輩」
抑揚のない冷たい声で雪菜が聞いた。
古城はぎくしゃくと頷き、紗矢華と目を合わせ、
「あ、ああ。 なぜか、いろいろあってこんなことに」
「そ、そう。 不慮の事故というか、不可抗力ななにかがあって」
紗矢華が眼を伏せながら、着ているパーカーの襟を指先で引っ張った。
これを見ていた悠斗は、はあ、と息を吐いた。
「夫の浮気が発覚した夫婦喧嘩は、これが終わってからしような。 今はこいつらを蹴散らすのが先だ」
「「夫婦じゃ(ありません)(ねぇよ)!!」」
「……浮気は否定しないのか」
雪菜は長い溜息を吐き、雪霞狼をナラクヴェーラへ向けた。
「では、その話はまたあとで。 紗矢華さんもです。 まずは、彼らを片付けましょう」
「あ、ああ」
「そ、そうね」
雪菜の言葉に頷く、古城と紗矢華。
雪菜は、もう一度短く息を吐き、地上に這い出したナラクヴェーラを睨んで言った。
「先輩、クリストフ・ガルドシュはあの女王ナラクヴェーラの中です」
「古城、あれが指揮官機だ。 あいつを狙え」
「ああ、わかった」
ナラクヴェーラの女王が、再び戦輪の一斉攻撃を放った。
続けて五機の小型ナラクヴェーラが、真紅の閃光を乱射した。
灼熱の閃光を、紗矢華が必死に撃ち落とす。
「ああくそ、どいつもこいつも無茶苦茶しやがって……!」
絶え間ない爆音に耳を塞いで、古城が呻いた。
紗矢華が、荒い息を吐きながら叫んだ。
「暁古城。 このままじゃジリ貧だわ!」
「わかってる!――
雷光の獅子が、稲妻を撒き散らしてナラクヴェーラを一瞬で蹴散らす。
紫電の速度で指揮官機へと突撃し、更に追撃を加えようとする。
「先輩!――」
だが、その言葉が終わらない内に、真紅の閃光が瞬いた。
「暁古城ッ!」
紗矢華の煌華麟が閃いて、降り注ぐ閃光から古城を守った。
そして、その向こうにもう一機。
「自己修復……!? あんな状態からでも復活できるのか!?」
「それだけじゃないわ。 破損した装甲の材質を変化させて、振動と衝撃の抵抗力を増してる。 あなたの攻撃を解析して対策してるのよ」
紗矢華が冷静な表情で分析する。
古城が舌打ちしたその時だった――。
「じゃあ、自己修復できないように、破壊すればいいだろ?」
「「「え?」」」
悠斗の言葉を聞いた三人は、それができれば苦労しない、と言いたそうだ。
「俺に任せろ。 古城たちは、女王のナラクヴェーラを頼んだぞ。 小型のナラクヴェーラは、俺が破壊するから」
悠斗は黒い瞳を真紅に変え、唇の隙間から牙が覗いた。
悠斗の体から青白い稲妻が迸る。 こいつは、悠斗がヴァトラーと対峙した時に暴走させそうになった眷獣だ。
悠斗は、解放の呪文を唱える。
「天を統べる青き龍よ。 今こそ汝の封印を解放する。 我が矛となる為、再び力を解放せよ。――降臨せよ、青龍!」
解放が終えると同時に、
『我が主よ。 我の敵はあの
「(ああ、そうだ。 一応、神々の兵器でもある。 いけるか?)」
青龍は咆哮を轟かせた。
『我が主よ。 我を誰だと思っている。 我は天を統べる龍だぞ。――あんな
「(まあ、お前にはそう映るよな)」
悠斗は苦笑してしまった。
「(しっかし、コイツの封印が解けるとはな。 凪沙は、巫女の素質でもあるのか?)」
実は、青龍には
悠斗がこう思うのは、無理もないだろう。
この龍を見ている、古城、雪菜、紗矢華は目を丸くした。
古城に至っては、冷汗を流していた。
青龍は、真祖が操る眷獣の倍の力を有しているのだ。
「……この龍は、悠斗の眷獣、だよな」
「まあな。 俺の眷獣だ。 お前らには攻撃しないから心配するな」
「あ、ああ。 わかった」
古城は小さく頷いた。
「じゃあ、俺は小型のナラクヴェーラを破壊するから、古城たちは女王のナラクヴェーラを頼んだぞ」
古城、雪菜、紗矢華は頷き、女王のナラクヴェーラがいる方向へ駆け出した。
「さてと。――
悠斗が片手を上げそう言うと、青龍が咆哮を轟かせ、空から落とした稲妻がナラクヴェーラに直撃した。
ナラクヴェーラは黒煙を巻き上げていた。
まあ、微弱に動いていたが。
「うーん、やっぱり手加減しすぎたか」
悠斗は首を傾げた。
今の攻撃は、青龍の攻撃力を最低限まで下げた攻撃だったのだ。
「そうだ。 なら、朱雀の清めの焔で完全に活動を停止させればいいか。 これなら、中の獣人を殺さなくて済むし」
悠斗は、名案だ、と言いながら、ポンと手を打った。
悠斗は右手を突出し、
「――降臨せよ、朱雀!」
青龍の隣に朱雀が召喚された。
「――
朱雀は首をSの字に曲げてから、浄化の焔を吐いた。
この焔が六機のナラクヴェーラに直撃し、ナラクヴェーラは完全に行動を停止させた。
完全に破壊されたので、自己修復機能も働かないようだ。
「こっちは終わりっと。 古城たちはどうかな?」
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「ナラクヴェーラの動きは、私が止めるわ、雪菜」
紗矢華が、古城の前に出た。
「煌坂?」
「わかっているわね、暁古城。 チャンスは一度きりよ。 私と雪菜の足を引っ張ったら、灰にするからね」
紗矢華が、煌華麟を握った手を前に突き出した。
銀の刀身が前後に割れ、鍔に当る部分を支点にして、割れた半分が百八十度回転。
銀色の強靭な弦が張られて、新たな武器の姿へと変わる。
「――弓!? 洋弓か!」
古城が感嘆の声をもたらす。
自身のスカートをたくしあげた紗矢華は、太腿に巻き付いていたホルスターから、金属製のダーツを取り出した。
紗矢華が右手で一閃すると、それが伸びて銀色の矢に変わる。
「
紗矢華が流れるような美しい姿で矢をつがえ、力強く弓を引き絞る。
「――獅子の舞女たる高神の真射姫が讃え奉る」
紗矢華の口から、澄んだ祝詞が流れ出す。
紗矢華の体内で練り上げられた呪力が更に弓を強化し、それが銀色の矢に装槇されていく。
「極光の炎駆、煌華の麒麟、其は天樂と轟雷を統べ、噴焰をまといて妖霊冥鬼を射貫く者なり――!」
紗矢華が銀の矢を放った。
大気を引き裂く甲高い飛翔音が、戦場全体に鳴り響き、半径数キロメートルにも達する巨大な不可視の魔法陣を描き出した。
そこから生み出された膨大な瘴気が、女王ナラクヴェーラに降り注ぎ、動きを阻害する。
「って、俺の頭上にもきてるじゃん。――朱雀、青龍!」
朱雀が悠斗に結界を張り、青龍は空へ向けて雷撃を放った。
青龍が、悠斗に降り注ぐ矢を消し飛ばし。 朱雀は、悠斗を守る結界を焔の翼で覆った。
「(助かった。 てか、危ないもんぶっ放すなよ)」
悠斗は、心の中でこう呟いていた。
古城は、魔力と矢を切り裂いている雪菜に続いていた。 雪霞狼は、瘴気も無効化するのだ。
「
雷光の獅子と緋色の双角獣が、瘴気に耐えて立ち上がろうとする女王ナラクヴェーラを襲った。
同時攻撃が生み出す膨大な爆発が、ナラクヴェーラの装甲を押し潰す。
「――はははっ、戦争は楽しいな、剣巫!」
破壊された女王ナラクヴェーラのコックピットを開けて、ガルドシュが血塗れの姿を現し、左手でナイフを引き抜いた。
「これは戦争ではありません。 あなたたちはただ身勝手な犯罪者です。 守るべき国も民も持たないあなたに、戦争を語る資格はないんです!」
雪菜は槍を構えることなく、僅かに体をずらしただけだった。
飛来した矢がガルドシュの左肩を貫き、仰け反らせた。
矢を放ったのは、もちろん紗矢華だ。
そして、
「終わりだ、オッサンっ!」
古城は、ガルドシュの顔面を殴りつけた。
「ぶち壊れてください。 ナラクヴェーラ」
誰もいない操縦席に乗り込んだ雪菜が、浅葱の用意した音声ファイルを再生させ、すべてのナラクヴェーラが朽ち木のように地面に転がり、石化され砂へ代わった。
古代兵器の、呆気ない幕引きだった。
これを見た悠斗が、結界を解いた。
すると、ヴァトラーが悠斗に近づいて来た。
「これで終わりだ、文句はないだろ。――もう、面倒事を持ちこむな。 ヴァトラー」
「ああ、もちろん、堪能させてもらったよ。 これで暫くは退屈せずに済みそうだ。 悠斗は、これから僕とダンスを舞わなイかい? 朱雀と青龍だけでも、いいダンスを舞えそうダ!」
ヴァトラーは笑みを浮かべた。
悠斗は手を振った。
「いや、遠慮する。 俺の眷獣とお前の眷獣がここでぶつかってみろ。 那月ちゃんが言ってたように、この島が沈むぞ」
「釣れないナ。 あの頃は、乗ってくれタのに」
「あの頃の俺と、今は全然違う」
悠斗は、朱雀と青龍を戻そうとしたが、その前に悠斗の頭に声が届いてきた。
『我が主よ。 我々の世界に、暁の巫女と共に来るがよい』
『主が念じるだけで、入れるようになってるぞ。 凪沙も同じくな』
青龍に続いて、朱雀である。
「(暁の巫女って、凪沙のことか? やっぱり凪沙は巫女の素質があったんだな。 まあ、気が向いたら行くよ)」
『待っているぞ、我が主よ。 なにかあったら、呼ぶがよい』
『凪沙のことは心配するな。 我の焔で常時守護する』
「(ああ、わかった。 ありがとな、朱雀、青龍)」
この会話が終わると、青龍は姿を消した。
朱雀が一鳴きし、
「俺を送ってくれるのか、助かる」
悠斗は古城たちと、ヴァトラーを一瞥した。
「俺は一足先に帰るわ。 結界で守ってた
悠斗は朱雀の背に跨り、朱雀は羽根を羽ばたかせ飛翔した。
帰るべき場所へ向かって。
この小説では、矢は実体化してますね。
そして、ナラクヴェーラ六機を紙くずのように相手し、絃神島全体を(数秒ほど)結界の盾で覆った悠斗君、チートや、チート。
ナラクヴェーラは破壊も出来たんですけどね。中の獣人が死んじゃいますから(^_^;)
あ、魔力全ては解放されてませんよ。一部は解放されましたが。
古城君たちが、見劣りしてしまった。
てか、青龍強すぎだね。
矛の青龍に、守護の朱雀、二体の眷獣だけでも真祖たちと戦えんじゃね。とか作者は想ったり(笑)
後、今回の話で朱雀と青龍が喋りましたね。これは、悠斗君と凪沙ちゃんしか聞こえないので、そこはご容赦を。
ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!