ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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投稿が遅れて申し訳ない(-_-;)
疾走だけはしないので許してください……。

で、では、本編をどうぞ。


タルタロスの薔薇 Ⅳ

 悠斗のマンションにあるテレビでは、燃え盛る倉庫街の様子が映し出されていた。 昨夜、絃神島の食糧備蓄倉庫(グレートバイル)で発生した爆破テロだ。

 爆発によって引き起こされた火災は、折からの強風に煽られて燃え上がり、一晩経った今も収まる気配がない。

 今回の魔道テロによって人工島管理公社が失った備蓄食料は、絃神市民一人当たりに換算して約六十日分。 損害額は、百億円から二百億円とも言われていた。

 それから、テレビ前のソファに座る悠斗と凪沙が口を開く。

 

「タルタロス・ラプスの奴らに完全に乗せられたな」

 

「確かに。 ディセンバーさんたちは、私たちの行動パターンも眷獣まで解析してたしね」

 

 だが、黄龍、麒麟、神龍(シェンロン)妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)は例外であり、融合に関しても、例外だろう。

 

「今回の件では、四神たちは凪沙に預ける」

 

「りょうかい。 朱君たちは凪沙に任せて」

 

「頼んだ。 後、千賀毅人(せんが たけひと)が言っていた“タルタロスの薔薇”について手掛かりがあればいいんだが」

 

 “タルタロスの薔薇”という単語が、今回のテロ事件の深くかかわっている事には間違えない。

 そして、千賀の言葉を汲み取ると、既に“タルタロスの薔薇”を起動する準備が着々と進められているのだろう。

 

「うん。 悠君の情報の中にも該当するものは無いんだよね?」

 

「ああ、全くない。 今は手探り状態って感じだ。 てことだし、情報収集に向かうか」

 

「ん、りょうかい」

 

 立ち上がった悠斗たちは窓を開け、悠斗が左手を突き出した。

 

「――降臨せよ、黄龍!」

 

 悠斗たちの前に黄金の龍が召喚され、悠斗と凪沙は黄龍の背に飛び乗る。

 上から探索するように地上を見ていたら、ある公園の真ん中に中世的な小柄な少年が姿を現す。 その少年とはロギと呼ばれ、昨夜、食糧備蓄倉庫(グレートバイル)を燃やした張本人である。

 

「……案内するから降りて来いってことか」

 

「……悠君。 今は彼の指示に従おうよ」

 

「……了解。 でも、警戒は怠るなよ」

 

 俺は黄龍を下降させ、少年が居る前に着地させる。 それから眷獣を異世界に還し、少年と向き合う。

 少年の周囲は、ゆらゆらと揺れている陽炎だ。 温度差による屈折を利用して、自分の姿を消しているのだ。

 

「(……なるほど。 道理で気配が感知できないわけだ)」

 

 そう思いながら、内心で溜息を吐く悠斗。

 

「俺たちをこれからどうしたいんだ?」

 

「うん。 君たちと、千賀毅人(せんが たけひと)が話したがっている」

 

 ロギと呼ばれる少年が、抑揚の乏しい声で告げる。

 だが、この場でロギを捕まえてタルタロス・ルプスの情報を聞き出せば、今の窮地から抜け出すことができるが、ここからは駅が隣接している。 もし、悠斗たちが不可解な動きを見せれば、狙撃者が駅にいると思われる住人を射殺する算段なのだろう。

 

「はあ、そんなことしなくても大人しく着いて行くよ」

 

「君たちは脅しじゃないって解るからね」

 

 武装を解除する悠斗と凪沙。

 

「状況判断が早いね。 紅蓮の織天使(神代悠斗)紅蓮の姫巫女(暁凪沙)

 

 ロギは悠斗たちに背を向け、無防備に歩き出す。

 

「大したおもてなしはできないと思うから、期待しないで」

 

 知ってるよ。と頷き、悠斗と凪沙は歩き出した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 その建物は、商業地区(アイランド・ウエスト)の裏通りにひっそりと建っていた。

 悠斗は立ち止り上を見上げると、看板にはセンガ・ペットクリニックという名前があり、デフォルメされた肉球のマークが刻まれている。 ごんまりとした建物はパステルカラーで統一され、窓には色画用紙で作られた動物たちが幾つも張り付いている。 病院の入り口には、『休診』と書かれた立て札がかけられている。

 確かに、動物病院なら見慣れない人間が出入りしても怪しまれる事はない。 また、それなりの薬品を入手する事も可能だ。

 

「なるほどなぁ。 動物病院か」

 

「カモフラージュには打って付けの場所だね」

 

 ロギは入口のドアを開け、院内に入って行く。 どうやら、この動物病院に千賀毅人(せんが たけひと)が居るという事らしい。

 

「んで、俺らを隠れ家まで案内してもよかったのか? 俺たちがバラしたら、特区警備隊(アイランド・ガード)が突入して来るぞ」

 

「君たちは、南宮那月に報告をするかも知れないが、特区警備隊(アイランド・ガード)の連絡することはないだろ。 きっと南宮那月も、これを知っても独断で動くだろうし。 やっぱり、組織が絡むと色々と面倒くさいからね」

 

 なるほど。と、悠斗は頷いた。 確かに、ロギの言う通りに事が運ぶ確率が高い。

 ともあれ、ロギは、建物の奥にある診療所へと悠斗たちを手招きする。 おそらく、この先に千賀毅人(せんが たけひと)が居るのだろう。

 診療所に入り悠斗たちを待ち受けていたのは、簡素な椅子に座った千賀だ。 千賀は、悠斗たちを見ると値踏みするように目を細める。

 

「古城と蓮夜も呼ばれてんのかよ……」

 

「オレの場合は、気まぐれだけどな。 風水術師を見る機会は稀だしな」

 

「オレは悠斗と同じ感じだ」

 

 蓮夜の場合は気まぐれで、古城たちの場合は、悠斗と同じく連行。ということだ。

 その時、千賀の背後で薄いピンク色のカーテンが揺れ、そこから顔を出したのは、だぶだぶの分厚いコートを着た少女だった。 可愛らしい顔立ちだが、無表情で目つきが悪く、首には長いマフラーを巻いている。 年齢は十代半ばといった所だろうか。

 彼女がトレイに乗せて運んできたのは、カップ入りのアイスクリームだった。 バニラ味とチョコレート味を其々悠斗たち渡し、余った最後の一つを自身が取る。

 

「食べて、いいよ」

 

「ありがとうございます」

 

「じゃあ、私も遠慮なく」

 

「ありがとう。 いただきます」

 

 マフラーの少女に促され、女性陣はアイスを口にしたが、男性陣は顔を顰めるだけだ。

 だが、出されたものに手をつけないのも失礼だろう。 そう思いながら、悠斗たちもアイスを口にした。

 それから、最初にアイスを食べ終わった悠斗が、千賀に問う。

 

「千賀。 俺たちを此処に連れて来た理由が聞きたいんだが?」

 

「そうだな。 君たちに私たちが絃神島を破壊する理由を知れば、協力してくれるのでは、と期待して此処に呼んだんだ」

 

 千賀が言うには、絃神島を破壊するのには、特別な理由があるらしい。

 

「ここ絃神島は、悲劇を齎す島。 咎神カインを復活させる為の祭壇だからだ」

 

 千賀が言うには、絃神島の設計者――絃神千羅は、カインの復活を望んでいたが夢半ばで命を散らした。 だが、彼の思想を受け継いだ者たちが絃神島の中枢に残っている為、その者たちを暗殺していったという事だ。

 

「聖殲派などと言うお粗末なテロリストとは訳が違う。 何十年もの歳月をかけて咎神カイン復活の準備を整えた、本物の魔導の探究者たちだよ」

 

 この時悠斗は、最後のピースが嵌まったように感じていた。

 

「(……千賀の言葉から察するに、浅葱以外にもう一人カインの巫女がいるってことか)」

 

 おそらく絃神島の幹部たちは、眠りに就いているカインの復活を目論んでいるのだろう。 今まで、浅葱が自由に動けたのが証拠だ。

 だが――、

 

「(……いや、浅葱を使えば、何か大規模なことが出来るから野放しにしていた……? モグワイは浅葱の監視役?)」

 

 駄目だ、解らん。 そう思いながら思考を停止させる悠斗。

 その時、口を開いたのは蓮夜だ。

 

「悪いが、オレはそういうの如何でもいいんだよ。 てことで、帰っていいか?」

 

 確かに、悠斗には蓮夜の気持ちが解る。

 今もそうだが、悠斗が一番に考えるのは、凪沙との生活だ。 おそらく蓮夜も、美月との生活を大切にする。の事柄だけしか考えていないのだろう。 なので、周りの事には興味を示さないのだ。

 

「……貴様ならそう言うと思っていたよ。 まあ、この件に関わらないでくれていたら、それで良い」

 

 口約束だがな。と言って蓮夜と美月は動物病院から出て行った。 だがまあ、悠斗の予想では、蓮夜はこの事柄に最後まで関わると思っている。――悠斗と蓮夜は兎も角、凪沙と美月は友達なのだがら。

 そんな時、古城が口を開く。

 

「で、あんたは何が言いんたいんだよ?……殺しに加担しろとか言わねぇよな」

 

 ふふ、と千賀が失笑を洩らした。

 

「殺しか、違いない。 だが、私は先程言っただろ。 絃神島の正体は咎神カイン復活の祭壇だと。 もし、咎神カインが完全復活するとなれば、島の連中は何も知らずに消滅するんだぞ」

 

「……証拠もなしに、あんたの話を信じろっていうのかよ」

 

 古城は荒々しく言い返すが、千賀は不思議そうに古城を見返した。

 

「お前たちは知ってる筈だ。 絃神千羅という男は、どんな極悪非道な手段も実行する、とね」

 

 そう、それはロタリンギアの『聖人』の遺体を生贄に捧げていた事だ。

 絃神島の設計時、不足した要石の強度を確保する為に、絃神千羅は禁忌をされていた供犠健在を解決策として、ロタリンギアの大聖堂より『聖人』の遺骸を簒奪した。

 

「そんな男が目的もなく、善意で人工島の“魔族特区”を設計したと思っているのか?」

 

 ――断じて否だ。と、強く主張する千賀。

 

「だからこそ、私たちタルタロス・ラプスは、この手で咎神カインの復活を阻止する」

 

 確かに、タルタロス・ラプスは自らの手で“イロワーズの魔族特区”を滅ぼした。 だからこそ、公表はされずともタルタロス・ラプスが“魔族特区”を破壊したという実績は、自分たちの主張を裏付けてくれるだろうと。――これは、大義ある行為、タルタロス・ラプスは世界を救う、と。

 

「私の話はこれで終わりだが、返事を聞こうか」

 

 千賀は、古城と悠斗に協力するのか?と問いかける。

 

「……正義と悪は紙一重、だね」

 

 凪沙は呆れたように溜息を吐き、それを見た千賀は目を細める。

 

「……何が言いたい、紅蓮の姫巫女(暁凪沙)

 

「最近、私たちも同じ経験をしたんだよ。 その時彼ら(大史局)も、正義の為に動いていたから」

 

 千賀は感嘆したように、

 

「ほう。 ならば、私たちと同じ思想の持ち主だったのだろうな」

 

「そうかも知れないけど、絃神島の人々を傷つける行為はなんか違うなって、私は思うよ」

 

「……それは偽善だ。 何かをやり遂げる為には、何かを犠牲にするのは必須。 それとも何だ、お前はこの件を片付けられるとも?」

 

「まあうん、悠君と力を合わせれば、何とかなっちゃう気もするんだけど……」

 

 だが、不確定要素が多いから、凪沙は断言することはできなかった。

 

「でも何であなたたちは、それが正義だと決めつけてるの? 誰かに相談した? 何で周りの声を聞かないの?」

 

 千賀は、凪沙の言葉を聞き、微かな苛立ちが滲み始めていた。

 だが、凪沙の言葉は続く。

 

「私だったらこの件を公表して、周りの信用を得るのが最善だと思うけど」

 

「……公表か……やろうとしたさ。 何度もな!」

 

 千賀が初めて声を荒げる。

 

「だが、その結果が今のこの状況だ! 世界は何も変わらなかった! そして、咎神復活の計画だけが着実に進んで行く!」

 

「だからタルタロス・ラプスを結成し、自分たちで復活を阻止する。 それは正義だから、犠牲はつきものってか?」

 

 悠斗の問いに、千賀は声を荒げて反論する。

 

「咎神カイン復活阻止為には、多少の犠牲は止む負えない!」

 

「ああそう。 なら、あんたらに、俺たちが協力することはない。 古城も俺たちも、偽善者の集まりなんだわ」

 

 悠斗と古城は、何かを犠牲にして何かを得るなど望んでいない。……まあ、悠斗の場合は丸くなった(優しくなった)と言うべきか。 昔の悠斗ならば、必要ないものは問答無用に切り捨てていただろう。

 千賀が「……そうか」と呟くと、暴風に似た魔力の奔流が、悠斗たちに向かって吹き付けてくる。 ふと気付けば、診察室の床面に、複雑な魔法陣が浮かび上がっていた。

 

「風水術か――!」

 

「皆さん! 伏せて下さい!」

 

 悠斗たちを庇って前に出たのは雪菜だった。 ギターケースから弾き抜いた“雪霞狼”を一閃し、その切っ先を床に突き付ける。

 槍の穂先から迸った閃光が、千賀の魔法陣を切り裂き、膨大な魔力が出し抜けに消失し、先程までの魔力の暴風が消失し診療室に静寂が戻って来た。

 しかし、千賀たちの姿はない。 彼らは、隠れ家を捨てたのだ。

 

「まあ、こういう準備をしてなければ、俺たちを呼び出す真似はしないだろうしなぁ」

 

 当然ちゃ当然か。と呟く悠斗。

 それよりも、もう一人のカインを復活させるなら、浅葱は邪魔な存在となる。 それに、千賀とディセンバーが分かれて行動しているのも気にかかる。

 古城は浅葱の安否確認の為、スマートフォンに電話をかけるが、一向に繋がらない。

 

「……何かに巻き込まれてるのか?」

 

 古城がそう呟く。

 

「……いや、解らん。 まあ、巻き込まれてるとしたら碌でもない事は確かだけどな」

 

「玄武の気配感知は?」

 

 悠斗は神経を研ぎ済ませる。

 

「正確にではないが、此処から数キロ離れた所にある。 消滅してないって事は、浅葱はまだ生きてる。 てか、基樹のもあるな」

 

 古城は安堵の息を吐き、

 

「そうか。 矢瀬と一緒に行動してるのか。 でも――」

 

「ああ、解ってる――凪沙」

 

 凪沙は、りょうかい。と言って頷き、左手を掲げる。

 

「――おいで、朱雀」

 

 凪沙が傍らに召喚したのは、悠斗から預けられた紅蓮の不死鳥だ。

 

「みんな、乗って! 浅葱ちゃんも所まで、急がないと!」

 

 頷き、朱雀の背に飛び乗る悠斗たち。

 そして、朱雀が飛翔した所でトラウマを思い出した古城は顔を青くしたが、それを見ても悠斗たちはスルーするのだった――。




蓮夜、美月ちゃんの出番は後半にある感じです。
ライバルキャラ出さなければよかったかなぁ。若干、扱いに困っております(-_-;)
まあ、如何にかするんですけどね。てか、キャラが被らないように注意しないとなぁ。いや、共通点はかなりあるけどね(汗)

以上、作者の言い訳?でした(^O^)
今後も頑張って更新しますね。

追記。
これから先は、悠斗君のアドバンテージがほぼ皆無になってくるんだよなぁ。まあ、眷獣(武器にもなる)たち、悠斗君の技はチートになるんですが(笑)
てか、この章は書くの難しい。頭がごっちゃになりますね(^_^;)

追々記。
悠斗君たちの眷獣召喚は、人目に触れない所で召喚しているので、周囲には露見してないっス。

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