続けと乞われたので続きを投げ込む。
ただし連載するとは保証しない。
「……動いたか、ヴォバン」
激しい雷雨の嵐の中でハッキリと感じられる呪力の気配に龍炎はそう呟いた。
彼が言ったヴォバンとは彼と同じカンピオーネの一人であるサーシャ・デヤンスタール・ヴォバン侯爵のことである。現在九人いるカンピオーネの中で二番目に長く魔王としてあり続けた人物で、その長く生き過ぎたからか享楽でまつろわぬ神を呼び出して戦おうとする危険人物でもある。
「甘粕からの報せによるとあいつは万里谷祐理とかいう巫女を使ってまつろわぬ神を呼び出そうとしているらしいが……まぁこの国には俺たち二人以外にもカンピオーネがいるみたいだからそちらに興味が向くだろうな」
現在日本には三人のカンピオーネが存在する。一人はここにいる御門龍炎、一人は所用で日本を離れている甘粕冬馬、もう一人はここ最近でカンピオーネになったといつ草薙護堂という少年。聞けばその護堂と祐理は知己の関係らしく、さらに護堂は正義感が強いらしいので祐理に危険があれば助けに向かうだろうと甘粕は言っていた。その時にその光景が見れないことが悔しいとグヌヌっていたが。
「それにヴォバンは俺がここにいる事は分かっているはずだが……一応釘でも刺しておくか」
ヴォバンの気持ちは龍炎も分からないでもない。長く生きていれば未知の出来事は少なくなり、外部から得られる刺激が減ってしまう。カンピオーネと呼ばれる存在になっても人間と大して変わらぬ感性を持っているので段々とそれが苦痛になってくるのだ。
だから龍炎はヴォバンのやる事にあまり口を出すことは出来ない。それでも、やり過ぎるようならば止めるが。
出会うと一悶着は避けられないだろうと考えて溜息を吐きながら龍炎は強く雨を叩きつけている嵐の中を濡れずに歩いて行った。
護堂が祐理を連れ去った後の正史編纂委員会の書庫、そこでヴォバンは玉座に座りながらこれから始まるゲームを楽しみにしていた。ゲームの内容はヴォバンが護堂たちを狩るという物。タイムリミットは夜明けまでとされていたがどちらが有利かなど分かりきったゲームだった。数世紀に渡り魔王として君臨し続けるヴォバンと最近カンピオーネになったばかりの護堂。護堂はイタリアを領地としていたカンピオーネのサルバトーレ・ドニと戦って引き分けた実績があるもののヴォバンの方に天秤が傾いているのは明白だった。
だからヴォバンは狩りと称したのだ。己こそが狩人で、貴様らは狩られるだけの獲物に過ぎないと。
狩りを始めるまでに設けた時間が過ぎていく中で、ヴォバンの目の前に炎が現れる。ヴォバンの側に控えていた青銅黒十字の大騎士であるリリアナ・クラニチャールが剣を抜いて構えるがヴォバンはそれを片手で制して控えさせた。
炎が人の形を作り、現れたのは御門龍炎。龍炎の顔を認知するとヴォバンは嬉しそうに口角を持ち上げた。
「久しいな、御門龍炎よ」
「元気そうで何よりだよ、ヴォバンのガキが」
暴君として知られているヴォバンに開口一番からガキ呼ばわり。ヴォバンを知る者ならば次の瞬間に怒り狂うヴォバンの姿を想像するだろうがガキと呼ばれたヴォバン本人は楽しそうに笑っているだけだった。
「ガキ、ガキか。これでも最古参のカンピオーネの一人に数えられているのだがな」
「俺からすればお前でもガキと変わらんよ」
「そうだろうな、十世紀以上も永き時を生きる護国の益荒男よ」
護国の益荒男、それがカンピオーネとしての龍炎に名付けられた名称。十世紀以上もの間まつろわぬ神から日本を護り続けてきた彼だからこそ与えられた嘘偽りのない事実。
「自己満足でやってるだけなのに大層な名前を付けられたもんだな……ヴォバン、分かってると思うが」
「やり過ぎるな、であろう?その程度の事ならば弁えているとも。流石に貴様を敵に回す愚かな真似をする程に耄碌したつもりは無い」
「分かってるならいい」
「だが……生ける伝説であると言われた御門龍炎を前にして、我慢できる程に私は利口では無いのでね……!!」
そう言うとヴォバンの身体が膨れ上がる。全身からは毛が生えて、骨格は人間の物ではなく狼のそれに近づいていく。更に、彼の背後に現れたのは古めかしい装備をした亡霊たち。
龍炎が眼前に現れた瞬間、ヴォバンは自分が行っているゲームの事など頭の中から欠片も残さずに忘れ去っていた。
「やれやれ……ヤンチャな悪ガキだ。リリアナ」
「は、はひ!!お久しゅうございます龍炎様!!」
龍炎に話しかけられたリリアナは顔を赤くして慌てて膝を付く。この反応で解るかもしれないがリリアナは龍炎に恋をしているのだ。きっかけはリリアナが幼い頃に龍炎と出会ったことなのだが……それはまたの機会にさせていただこう。
「ククッ、久しぶり。ここは危ないから出来るだけ離れておけ……巻き添いくらっても責任は取れん」
そう言った瞬間に龍炎の精神が戦闘用の物に切り替わる。カンピオーネの強さとは倒してきたまつろわぬ神の数である。龍炎は長く生きていたことで多くのまつろわぬ神を倒してきたがヴォバンもそれは同じ。少なくとも加減して戦える相手では無いことは確かだった。
「……ご武運を」
そう言い残してリリアナはこの場から全力で走り去っていった。今はヴォバンに仕えている身であるのに先の言葉は間違い無く龍炎に向かって告げていた。それに気が付き龍炎とヴォバンは苦笑する。
「青い娘だな」
「あぁ、青い青い。だけどそれだけ可愛らしさもある」
「なるほど、あの手の娘が貴様の好みか」
「オーケー、欠片も残さずに消し炭にしてやるよ……それに、貴様程の相手だと加減など逆に無礼でしか無いからな。あぁ、気にするな。これは単に俺の矜持の問題だからな」
その言葉を皮切りにヴォバンの亡霊たちと、亡霊たちの一部を変えた狼たちが龍炎に襲い掛かる。だが、それらは龍炎が軽くステップを踏んだ事で発生した炎に焼かれて塵に還った。
「ーーー
そして展開された逃げ場の無い灼熱の世界にヴォバンと亡霊たちと狼、龍炎は取り込まれた。
御門龍炎
実は平安の生まれのカンピオーネ。普通ならなった瞬間に不老になるはずなのに何処かのおばば様が気を利かせたのか、それとも龍明様が何かしたのか成人してから不老になってる。日本に現れるまつろわぬ神を倒していたことから他のカンピオーネたちからは護国の益荒男と呼ばれている。
ヴォバン
バーサークおじいちゃん。まつろわぬ神と戦いたいが為にまつろわぬ神を呼び出そうとするがサルバトーレ・ドニに横取りされてグヌヌったり、原作でゲームに夢中になりすぎてタイムリミットの夜明けが来ちゃったりと意外とドジなところがある。龍炎とはヴォバンがカンピオーネになった時からの知り合い。仲は悪くは無い。
リリアナ
恋する乙女。幼い時に龍炎に出会って恋に落ちる。彼女の机の中に隠されているノートに書かれた小説は龍炎への想いを書き綴った物。
草薙護堂
原作主人公。祐理を助けてヴォバンに備えていたがそのヴォバンは龍炎とバトっていて存在を忘れられる。何事も無く夜明けが来てしまって阿呆面を晒していたとか。
サルバトーレ・ドニ
バカ。
甘粕冬馬
お仕事で海外に出ている時にヴォバン来襲と言う彼の大好物なイベントが来てしまってグヌヌっていた馬鹿。速攻でリトルボーイって仕事を終わらせたがその時には全てが終わっていて崩れ落ちた。
あの後龍炎とヴォバンの戦いは龍炎の勝利。勝者命令としてヴォバンの奢りで龍炎はしこたま酒を飲んで酔い潰れてリリアナに膝枕されて介抱されました。それをヴォバンがツイッターに上げて一悶着あった模様。