思い付いた物を書き連ねた何か   作:鎌鼬

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カンピオーネ×赤騎士

 

 

「ーーー彼ほど真実に誓いを守った者はなく 、彼ほど誠実に契約を守った者もなく 、彼ほど純粋に人を愛した者はいない 。だが彼ほど総ての誓いと総ての契約ら総ての愛を裏切った者もまたいない 。汝ら、それが理解できるか……かぁ」

 

 

日が落ちて夜の帳が訪れた都心の上空に咥えタバコをしながら街を見下ろしている一人の男の姿があった。背は高く、鍛えられて絞られた細身の身体、黒のコートの下にはワイシャツとズボン、背中の中程まで伸びた黒髪を結った出で立ちの日本人。

 

 

異常なところがあるとすればーーーそれは彼が立っている足場には何も存在しないということ。彼は文字通り宙に浮いているのだ。

 

 

「正直異常者としか思えねぇ。良くそんな相手に忠義を誓う気になったよな……龍明母さん」

 

 

煙を吐き出しながら彼が思うのは己が母と慕った一人の女性のことだった。

 

 

彼はある名家の術士の長男として生まれた。長男であるならば家を継がねばならないとその家に伝わる秘術を教えられたのだが……悲しいことに彼にはその秘術に対する適正が欠片も無かったのだ。

 

 

そこから先は語るまでも無いだろう。彼に期待をした両親、長男だからとお零れに預かろうとした親族、名家の嫡子の将来を考えていた他人、そのすべてが手のひらを返したのだ。

 

 

家に居ても両親は適正のあった次男を可愛がって己をいない者として扱われ、親族や他人からは恥晒しだと蔑まれる日々。苦境を味わったことのある者ならば耐えられたかもしれないが幼かった彼にはそれを堪えることは出来なかった。

 

 

家には居場所が無く、誰かに見つかれば蔑まれるので彼は近場にあった寂れた神社で一人過ごして泣いていた。

 

 

『何を泣いておるのだ?』

 

 

そんな時、彼女に出会った。キツイ目付きをした黒髪の女性が泣いていた己に蔑むこと無く話しかけてくれたのだった。

 

 

幼かった彼はそのことに不信感を抱かずにあったことを素直に話した。するとその女性は呆れたような顔をして、そして蹲って泣いていた彼に手を差し伸ばした。

 

 

『悔しいか?悔しいのならば私が貴様に合った術を教えてやろう。貴様のことを劣等と蔑んだ連中を見返してやろうと思わんか?』

 

 

彼は伸ばされた手を掴んだ。そして始まる彼女ーーー御門龍明との修行の日々。

 

 

朝は日が昇るよりも早くに目覚めて神社に向かい、月が夜空に昇り切ったよりも遅くに家に戻る。普通ならば心配するのだろうが実家からはいない者として扱われている彼に心配をする者など誰も居なかった。

 

 

龍明の教えてくれた術は実家が秘術として扱っている水属性では無く火属性の術。だが彼にはそれが合っていたのかスポンジが水を吸うように覚えていった。

 

 

龍明の指導は辛い。手を抜く等欠片も無く、僅かでも気を抜けば叱られる厳しい者だったが新しい術を覚える度に頭を撫でて褒めてくれることが嬉しかった。

 

 

だが、そんな日々は唐突に終わりを告げた。

 

 

ある日、何時もと同じ様に神社に向かえばそこには神妙な顔付きをした龍明が待っていた。

 

 

『来たか……今日は試練だ。これまで習った全てを出し切り私を倒してみせろ』

 

 

そして次の瞬間、龍明の放った焔に焼かれた。咄嗟に術で抵抗に成功したものの全身に軽度の火傷を負う。

 

 

龍明は本気だった。本気で己のことを殺しに来ている。

 

 

それを悟った彼は叫ぶ様に龍明に語る。

 

 

『嫌だ!!龍明さんのこと、本当の母さんの様に思ってたのに……何で!!何でこんなことをしなくちゃいけないんだ!!』

 

 

家に居場所がなく、実の両親から愛情を与えられなくなった彼は厳しくも自分のことを気にかけてくれる龍明のことを何時しか母親の様に思っていたのだ。そんな相手と殺し合いなど、愛している相手と殺し合いなどできるわけが無いと叫ぶ。

 

 

『なんで……なんで……!!』

『ーーー笑わせるなよ甘ったれが!!』

 

 

龍明の術に抵抗しながらも焼かれる彼には龍明が取った行動とはーーー接近しての全力のビンタだった。術士にあるまじき行動に彼は打たれた頬を押さえながら唖然とする。

 

 

『真に愛するならば壊せ!!これは我が君主の遺命である!!貴様が私のことを母と慕い愛しているならば壊してみせろ!!』

 

 

分からない、龍明が何を言ったのか理解出来ない。だがーーーこの一言に胸を打たれた。この一言が彼の想像を遥かに超える重みを持っていた事だけは理解出来た。

 

 

その言葉に即発されて彼は龍明に立ち向かう。龍明から習った術を、龍明に向かって放つ。弟子が師に勝てるなどと彼は思っていなかった。龍明の思いに応えたいという一心で我武者羅だったのだ。

 

 

だが龍明は違った。彼の才を見抜き、己を超える器だと信じたからこそこの試練を与えたのだ。

 

 

そして彼が我武者羅になってから時間が経つにつれて状況が変わる。

 

 

始めは龍明が圧倒していた。

 

しばらくすると龍明の術に反応し始めた。

 

そしてーーー今では完全に龍明の術に対応している。

 

 

予想を遥かに超える弟子の成長に喜びと驚きを感じながらーーー龍明は彼が術で編み出した炎剣に胸を貫かれた。

 

 

『泣くなよ……』

『だって……だって……!!』

 

 

心臓を貫かれた龍明は身体を粒子に変えながら自分を抱き起こして泣いている彼に向かって話しかける。死に向かっているというのに龍明の表情はどこか穏やかだった。それは自分を超える器だと証明してくれたことに安堵しているのか、それとも身体の殆どを炭化させながら泣いている彼のことを呆れているのか……それは龍明にしかわからない。

 

 

『母さん……!!』

『……ハハッ……気まぐれで……教えただけの私のことを……母と慕ってくれるか……あぁ……娘を育てた経験は……あるが……息子がいたら……貴様の様だったのかもな……』

 

 

龍明が懐かしんでいる間にも彼女の身体は崩壊していく。必死に治療の術を掛けているが崩壊は止まらなかった。

 

 

『あぁ……悪く無い……日々……だった……』

『母さん!!』

『■■■……絶望するな……いつの日にか……きっと……貴様のことを……愛してくれる者が現れる……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ジークハイル……ヴィクトーリア……』

 

 

そうして彼女ーーーまつろわぬ神“御門龍明”はこの世から去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……現れない、現れないよ母さん。俺のことを本当に愛してくれる者なんて現れるのかな?」

 

 

あの日、母と慕っていた彼女を殺してカンピオーネと呼ばれる存在になってから長い年月が経った者の龍明が言った彼を愛してくれる者など現れなかった。

 

 

だが、それでも彼は待ち続ける。母の言葉を、自分が殺した彼女の言葉を嘘にしたくなかったから。呪いの様に自分を縛り付けていても、母の遺言に従いたかったから。

 

 

「……行くか」

 

 

彼の眼下に広がる街の光が消えていくのを見て動き出す。この国にまつろわぬ神が現れたのは知っていた。何もしなければ見逃していたがこうして被害を出した異常見逃すわけにはいかない。

 

 

彼は宙を蹴り、桁外れな呪力を感じる方向に向かって駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

向かった先にあったのは神社、そこにはまつろわぬ神と巫女の格好をした人間が対峙している。まつろわぬ神は女神と呼ぶに相応しい神威と顔付きをしていたが、彼にとっては苛立ちを感じさせるものでしか無かった。

 

 

「神火清明――急々如律令」

 

 

即座に龍明から習い、磨き続けた術をまつろわぬ神に向けて放つ。札と共に放たれた炎はまつろわぬ神に着弾し、巫女をその余波で吹き飛ばす。だが、まつろわぬ神は健在、身体に煤をつけながらこちらを睨んでいる。

 

 

「ーーーこれは精神衛生上の問題だ」

 

 

喚き立てるまつろわぬ神の言葉に一切耳を傾けずに彼は語る。

 

 

まつろわぬ神(貴様ら)は臭い、生かしておけんーーー形成(Yetzirah)

 

 

タバコを燻らせる彼の背後に魔法陣が現れる。

 

 

極大火砲・狩猟の魔王(デア・フライシュッツェ・ザミエル)

 

 

そして彼の号令と共に列車砲の一撃が放たれた。

 

 

 





御門龍炎
オリ主。とある名家の術士の家系に生まれたが秘術に適正が無かった為に落ちこぼれ扱い。そんな中でまつろわぬ神として顕現した龍明と出会い弟子入りする。そして龍明を倒したことで彼女の形成、創造、太極を簒奪する。御門龍炎は彼が龍明の存在を忘れ無いようにする為の偽名。

甘粕冬馬
ある日メイド喫茶で王様ゲームを全力で楽しんでいる馬鹿と遭遇し、意気投合。そこで馬鹿の語っていた人間賛歌に心惹かれる。その後馬鹿は金髪ガングロに引っ張られて何処かへ行ったが彼は馬鹿の語っていた人間賛歌を忘れ無い。独自に術を編み出し広域汚染術式『リトルボーイ』、広域爆破術式『ツァーリボンバ』、広域破砕術式『ロッズ・フロム・ゴッド』を完成させる。


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