騎士王が兜に王位を譲る話   作:VISP

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終わりが見えない…!
書きたい所だけ書いてる筈なのに、何故だ…!


第28話 Stay night編その22 決戦7

 「フッ!」

 「シィッ!」

 

 聖剣と魔槍、打ち合わされた宝具が甲高い音と火花、そして衝撃と魔力を撒き散らす。

 片や黒い泥に汚染された光の御子。

 片や自身の絶望によって黒く染まった騎士王。

 ステータスではほぼ互角、敏捷ではランサー、耐久と筋力ではセイバーがやや上回る程度だが…

 

 「おらよ。」

 「ぐぅ!?」

 

 そうなれば、後は技量と経験の問題となる。

 生きた年数と経験した戦場の数なら、先ず間違いなく騎士王が勝る。

 彼女はブリテンから当時のヨーロッパ世界を半世紀もしない内に征服した常勝の王なのだ。

 大小無数の戦を経験した数はそれこそ覚えていない程だ。

 では光の御子はと言うと…数こそ騎士王に劣れど、経験の密度と戦士としての技量は確実に上だった。

 神代のケルトにおいて、国一つを相手取ってゲリラ戦で迎え撃ち、その侵攻を御者の王と二頭の愛馬と共に阻止し続けた生粋の戦士であり、敵側が余りの強さに正面撃破を諦め、ゲッシュによる謀殺を選ぶ程の大英雄だった。

 事前に勝つ算段をつけてから始める騎士王と、劣勢から始まる光の御子では、経験してきた戦いが違いすぎる。

 故にこそ、こうした戦いではどう足掻いてもランサーに分があった。

 

 「どうした、騎士王。常勝なんだろ?」

 「卑王鉄槌!」

 

 牽制として放たれた暴風を、しかしランサー・オルタはあっさりと回避し、残像すら捕らえ切れぬ速さでもってセイバーの後ろへと回り込む。

 無防備な頭部へと放たれる刺突を、身を反らす事で辛うじて回避するも、次いで放たれた前蹴りは回避できず、まともに食らう。

 

 「ぐ、ぉ…」

 「鈍いな。」

 

 地面と平行に飛びながら、それにあっさりとランサーが追いつき、ダメ押しの斬撃を放つ。

 それを左手の篭手で防ぎ、返す様に視線と同期させた魔力放出を放つ。

 が、当然の様に回避され、距離を置かれる。

 その隙に体勢を立て直し、剣を構えれば、ランサーは一切の表情を変えずに静かに槍を構えた。

 

 「解せねぇな。てめぇ、そんな玉じゃねぇだろ。」

 

 先ほどから続く一連の攻防。

 それは常にセイバーがランサーから凛と桜を庇う形で行われていた。

 

 「何、女とて惚れた相手には良い所を見せたいものだ。」

 「ふん…」

 

 無論、本音は別だ。

 サーヴァントの自分では、士郎と添い遂げきれない。

 生者として子を育む事も、一緒に年を取る事も出来ない。

 士郎ならそんな事は気にするなと言いそうだが、それをアルトリアが我慢できるかは別だ。

 士郎は生者として、桜と添い遂げるべきだ。

 惚れた男には幸せな人生を送ってほしいと言う、女としての欲。

 それが王でも、騎士でも、英雄でもないアルトリアの答えだった。

 

 「つまり、真面目にヤる気は無いんだな?」

 

 なら、もう仕舞いだ。

 ザワリと、ランサーの気配が変質し、周囲の空間のマナが暴力的にその魔槍へと喰われていく。

 その構え、クラウチングスタートの様な体勢から、対軍宝具として放つつもりだと分かる。

 だが、セイバーからすれば、迂闊にこの洞窟で対城宝具を放てば、それこそこの洞窟が崩落し、サーヴァントを除いた全員が生き埋めに成りかねない。

 それだけはごめんだった。

 

 「あばよ、『抉り穿つ」

 

 故に、黒く染まった聖剣を構える。

 その構えは、まるで刀身を鏡か盾にする様に横向きで両手で持ち(左手は添えるだけ)、峰を相手と自分に向けた奇妙なものだった。

 防ぐなら両手でしっかり柄を握るべき所で、何故かセイバーはそんな刀身を見せ付ける様な、奇矯な構えを取った。

 

 「『鏖殺の槍』ッ!!」

 

 そして、鮭跳びの歩方と言う独特の移動術で加速、直後に宙へ飛び上がり、全身の筋肉を断裂寸前まで絞り上げ、その反動を一気に且つ一点へと開放、投擲へと注ぎ込む。

 対軍宝具としての、魔槍の投擲。

 しかも、その鏃は必中と死の呪いを纏った、大よそ常識的な手段では防げないものだ。

 

 「おい、聖剣。」

 

 セイバーが自分の得物に語り掛ける。

 今まで寝こけていた怠け者に、いい加減にしろと呼び起こす。

 

 「世界の終わりがそこまで来ているぞ。此処で終わる気か?」

 

 発射される。

 魔槍の矛先は一点、セイバーの心臓であり、そこを貫けば後は残った運動エネルギーのまま、背後で倒れる二人を肉片一つ残さず消し飛ばすだろう。

 

 「―――十三拘束、解放。」

 

 そんな事は、断じてさせない。

 着弾した部分を基点に、聖剣全体へと皹が入る。

 だが、それは崩壊を意味するものではない。

 黒く染まった殻を脱ぎ捨て、その中にある本性を晒す。

 

 「起きろ、エクスカリバー。」

 

 この世全ての悪の誕生が間近に迫ると言う時になって、漸く騎士王の聖剣は本来の輝きを取り戻した。

 黄金の、この世全ての人々の希望と言う名の祈りの結晶。

 その輝きは人の世の救済にこそ最も輝きを増し、邪悪なる者を退ける。

 そう、例えば目の前の魔槍なんかを。

 

 (全開加速…!)

 

 魔槍が弾かれたのを視界の隅で確認しつつ、ここぞ好機と無手のランサーへと踏み込む。

 魔力放出、卑王結界、翼の羽ばたき、更に自身の踏み込みと体重移動。

 自身の持ち得る全てを以って、一瞬で音速の数倍の速度に到達する。

 大上段に構えた全力の聖剣で以って、唐竹割りにせんと無防備な槍兵へと迫っていく。

 

 「間抜け。」

 

 だが、それをクー・フーリンは冷たい視線で一瞥した。

 確かに宝具は退けられ、今は無手だ。

 確かに防ぐ手立ては無く、今が絶好の機だ。

 確かにその聖剣の威力は担い手と併せて脅威と言って良い。

 

 だが、それがどうした?

 

 この身はクー・フーリン。

 ケルト神話最強最大の大英雄。

 例えその一部でしかないとは言え、この程度で敗れる程に軟弱ではない、

 

 「『噛み砕く死牙の獣』。」

 

 かつて魔槍の材料となった紅海の魔獣、その骨を鎧の様に全身に纏う。

 これは師たるスカサハに習ったものではない独自の奥義、肉体を崩壊させがら稼働する最終形態。

 まるで、否、真実異形の怪物となった光の御子は、突撃してくる半竜の騎士王を迎え撃たんと自身も踏み込み、前へと加速する。

 聖杯によって汚染され、殆どバーサーカーの様なステータスだったそれを更に上昇させたほぼEXの状態で、ただ一撃を入れる事を念頭に前へ前へと踏み込む。

外骨格の効果により掠り傷でもつければそこから呪いの棘が生え、相手をズタズタにして内側から殺すため、一撃でも入れば勝てるのだ。

 問題は騎士王の鞘がどれ程かと言う位だが…最悪、時間さえ稼げれば問題は無い。

 それがあの碌でもない神父からの最後の命令だったから。

 

 正面から互いにぶつかり合う様に、聖剣が、異形の爪が振り下ろされる。

 聖剣には既に輝きは無い。

 この時、先程の様に弾かれる事は無いと、所詮この程度だと、ランサー・オルタは思ってしまった。

 汚染されたが故の思考力の低下が、この時響いた。

 

 「『拘束全断・過重聖光』ォッ!!」

 

 それが敗因だった。

 以前、彼女の臣下にして最高の騎士の一人であるランスロットが成した対城宝具たる聖剣、その威力を全て刀身へと凝縮させた対人必殺の剛の剣。

 セイバーはそれを十三拘束の外れた状態で、世界を救済する聖剣の出力で成立させたのだ。

 EXクラスの耐久力を持った外骨格と言えど、それは個人規模であり、カルナの鎧程の出鱈目さは無い。

同じEXクラスとなった対城宝具の聖剣、それも刀身へとその威力を集中させた一撃を耐え切れる筈もなく、、ランサー・オルタは爪を叩き切られ、更に外骨格ごと左肩から右脇までを袈裟切りにされた。

霊核にまで届く、明らかな致命傷だった。

 

 「ハ、温いな騎士王。」

 

 だが、致命傷を与えてもなお、この大英雄を甘く見てはならない。

 

 「なッ!?」

 「『抉り穿つ鏖殺の槍』。」

 

 戻ってきた魔槍、それを崩壊していく身でありながら、足で投げたのだ。

 流石にこれは予想外過ぎたのか、あっさりと騎士王はその心臓を抉られた。

 

 「ごふ…っ!」

 「ま、仕事は果たしたぜ。」

 

 それだけ言って、あっさりとランサー・オルタは消えていった。

 その目的を完遂した形で。

 

 「やって…くれる…!」

 

 鞘によって傷は癒えるだろう。

 だが、竜の心臓を破壊されては満足な魔力を供給できず、その速度は一気に落ちてしまう。

 

 「士郎、私が行くまでどうか…。」

 

 鞘に魔力を集中し、治療に専念するが、それでもかかってしまう時間にアルトリアは歯噛みした。

 

 

 

 

 

 

 

 




感想が来ない…やっぱ人気無いのか…(´・ω・`)

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