騎士王が兜に王位を譲る話   作:VISP

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中々に難産。理想から反れつつある士郎って亜種過ぎて参考できるもんが少ない(汗
でも苦しむ桜に関しては何故かスラスラ行くw


第13話 Stay night編その7

 五日目 夜

 

 

 

 

 増加の一途を辿る行方不明者の対策として、アーチャー・セイバー陣営は二手に分かれ、入念にライダーの捜索を続けていた。

 アーチャーは高所に陣取って街中を監視し、セイバーがその死角を埋める形で連日探索を続けていた。

 だが、一向に成果は上がっていない。

 精々が手遅れになった被害者をセイバーが介錯した程度だった。

 

 「ここまで来ると、何らかの隠蔽が成されてると考えた方が良さそうね。」

 「ライダーの第三の宝具か。」

 

 凛の言葉に、セイバーが現状最も可能性の高いものを呟いた。

 元々ライダーのクラスは機動力と宝具に優れており、あのライダーが自身を隠蔽する宝具を保有していてもおかしくはない。

 

 「くそ、慎二の奴。見つけたら絶対にヤル…。」

 「異論はない。」

 「「…。」」

 

 殺意の高すぎる女性陣に、男性陣(並行世界の同一人物)はしょうがないと理解しつつドン引きした。

 

 「となると、どうする?」

 「網を張りましょう。人質か待ち伏せ。」

 「あの翁が捕まる訳も無し。となれば…。」

 「待った待った待った!桜を人質とかそんなの許さないぞ!」

 

 会話がどんどん物騒かつ過激な方向に行こうとするのを士郎が凛とセイバーの間に割って入る様にして止める。

 妹分として桜と接し続けた士郎にとって、彼女は大河に並ぶ日常の象徴であり、決して傷つけてはいけない存在なのだ。

 

 

 「ま、私も人質とかはごめんね。その程度でアイツが釣れるとは思えないし。」

 「であれば待ち伏せだが…。」

 

 うーむ、と頭を悩ませる。

 生活資金…間桐家は金勘定が得意なのでどうとでもなるのでATMや銀行は却下。

 食料…金さえあれば何処でも購入できるので却下。

 拠点…そもそも魔術師でない慎二がマスターなので何処でも可。

 

 「詰んだな。」

 「詰んでるわね。」

 

 難しい顔をする女性陣に、しかし変化を告げたのはアーチャーだった。

 

 「となれば、状況の変化を待つしかないな。」

 「変化?」

 

 士郎の疑問に、アーチャーは丁寧に答えていく。

 

 「ライダーや他の陣営がこちらに接敵するか、或はライダーは一旦放置し、他の陣営に標的を変える。」

 「でも、それじゃ魂食いを止められないじゃないか!」

 

 士郎の叫び、理想を目指すが故の言葉か、それとも理想を目指すが故か、それは彼自身も分からないが、それでも怒りと焦りが込められている事だけは解った。

 

 「ライダーを確実に仕留めるには奴が姿を現さねば話にならん。キャスターも撃破された今、敵はアサシンとバーサーカー。我々の決着は最後にするとして、現状のまま座していれば敵に時間を与える事になる。」

 

 バーサーカーの十二の試練、そしてアサシンの自己改造スキル。

 既にバーサーカーの命のストックは回復し、アサシンも既に山門に姿はなく、自己の強化を開始している可能性がある。

 

 「他への注意を疎かにする訳にもいくまい。それに元々我々は対バーサーカーとして同盟を組んでいる。ライダーばかりにかまけている余裕はない。」

 「それは、そうだけど…。」

 

 アーチャーの言う事は最もだが、しかし、士郎はそれに納得できた訳ではなかった。

 

 「ふむ…凛、使い魔の作成等は出来るな。」

 「え?えぇ、出来るけど…。」

 「それを多数、街の監視に当てられるか?目が多いに越した事は無い。」

 

 アーチャーの提案は至極真っ当なものだった。

 元より、聖杯戦争におけるマスターの役割は基本的に後方支援であり、こうして士郎や凛の様にあちこち出回る方が少数派と言える。

 

 「我々が他陣営に対処する間、使い魔で監視を代行する。それで一先ず良しとしよう。」

 「…分かった。」

 「是非もない。」

 

 アーチャーの提案に、士郎とセイバーは納得を見せた。

 

 (ってアーチャー。それ、私への負担…)

 (おや?霊地の管理者たる者が人食いを見逃すのかね?)

 (あんた後で覚えときなさいよ…ッ)

 

 その後、しっかりオチがついた。

 

 「ん?」

 「どうしたのアーチャー?」

 「凛、私の視界で見ろ。」

 

 アーチャーの言葉に従い、凛は素早くその視界を共有し…

 

 「桜ッ!?」

 

 そこで見た者に、驚きを露わにした。

 

 

 

 

 ………………………………………………………

 

 

 

 

 「はぁ…はぁ…ッ…」

 

 眩暈、頭痛、吐き気、鈍痛etcetera…。

 全身に満ちる体調不良を意思の力で捻じ伏せて、そうして漸く桜は人の姿のままでいられた。

 体内で勝手気儘に囁く蟲達の声には絶対に耳を貸さない。

 でなければ、もうあの人と一緒にいられない。

 でなければ、もうあの人の隣にいられない。

 でなければ、暖かいあの人に並べない。

 

 『カカカ、この期に及んでまだ抵抗するか。ほんにお主は優秀よのぅ。』

 

 耳を貸さない。聞かない。何も聞こえない。

 

 『まぁ良い。今夜の所はもう仕舞いじゃ。まだ壊れても困るしのぅ。それに…』

 

 その方が面白そうじゃ。

 キィキィキィと、蟲の騒めきが遠くへ行く。

 何処へ行くのか、否、何処でも良い。

 此処ではない場所に行くのなら、引き留めるつもりは微塵も無い。

 

 「かぇら…ない、と…。」

 

 まだ自分の意思で動いてくれる身体を引き摺って家を、否、あの人の所を目指す。

 もう、私はきっとどうしようもない。

 だから、だから、せめて

 

 「桜ぁッ!!」

 

 最後はあの人に会いたい。

 そんな事を考えていたからか、幻聴が聞こえた。

 でも、その幻は必死に走ってきて、ふらつく私を抱き締めて、支えてくれた。

 暖かくて、固いのに手触りは良くて、ぎゅっと抱き締めてくれる日の光みたいな気配。

 あぁ、なんでここにいるのかなんてどうでも良い。

 

 「先、輩…」

 「桜、しっかりしろ!」

 

 私を探しに来てくれた。

 私を見つけてくれた。

 私を心配してくれる。

 私…

 

 「ありがとう…っ」

 

 こんなに幸せでよいのかな?

 

 

 

 

 

 『それで良い。今はゆるりとせい。』

 

 キィキィキィと、蟲が啼いた。

 

 

 

 

 ……………………………………………………………

 

 

 

 

 六日目

 

 

 

 

 荒れ果てた、何もない荒野に、男が一人立っている。

 赤い外套を纏い、真っ直ぐ前を見つめる男。

 否、ここには一つだけ、男以外にもあった。

 無数の剣。

 それらが荒野全体に万遍なく、無数に突き立っていた。

 直感的に、これは墓地だと分かった。

 彼が殺してきた、或は救えなかった人達の墓標。

 彼の目の前で死んでいった人達を、忘れまいとするための印。

 男の背中にはただ前だけを、己の意思を貫き通すという意思だけが込められていた。

 ただ、自分が知る男と唯一違っている点があった。

 彼の左手に握られているもの。

 それは、青い鞘だった。

 大海の様な清廉な青に金の装飾を施された、豪奢な鞘。

 一目で由緒のある代物だと分かるそれを、彼は左手に握りしめて離さない。

 それだけが自分にとって最も価値があると言う様に。

 

 そして目が覚めた時、今見たものが夢だと漸く分かった。

 

 

 「…………………………………………………………だめ、ねる。」

 

 

 取り敢えず、考えるのは起きてからにしよう。

 遠坂凛の朝は遅いのである。

 

 

 

 

 …………………………………………………

 

 

 

 

 夢を見ている。

 ここ最近はずっと彼女の夢ばかりだ。

 今日は先日と同じく彼女の城の中、丸いテーブルのある部屋だった。

 

 「■■■■王!どうかオレを嫡子として、後継者として認めてください!」

 

 セイバーとよく似た容姿の、しかし快活さに溢れた白銀の鎧を纏った少女が訴える様にセイバーへと告げた。

 あぁ、きっと彼女はセイバーを愛してるんだな、と何となく分かった。

 

 「その願い、聞き入れよう。だがしかし、今のお前ではまだ未熟だ。故にお前に難題を与える。それを超えた時、指名を考えよう。」

 「は、はい!ありがとうございます!」

 

 そう言って頭を下げる少女を、セイバーは柔らかく、暖かい視線で見下ろしていた。

 

 

 ザザザザ、とまた場面が変わる。

 また同じ場所だが、少女の方は少しだけ歳を取ったのか、以前よりも少しだけ背が伸びていた。

 

 「父上!難題を全て熟しました!長官の許可も得ています!どうかオレを後継者として指名してください!」

 

 喜色満面の少女の言葉に、しかしセイバーは一瞬だけ考え込む仕草をしてから

 

 「あぁ、そんな話もしていたな。ふむ…やはりダメだな、お前では無理だ。」

 

 そんな絶望的な言葉を放った。

 

 「な、何でですか!?オレは立派に…」

 「お前にはまだ致命的なものが欠けている。故に否だ。」

 「なら、それを教えてください!必ずや身に着けてみせます!」

 

 だが、セイバーは頭を振るだけで、決してそれを教えようとはしなかった。

 

 「去れ、■■■■■■よ。少し頭を冷やしてこい。」

 「…ッ!」

 

 涙を流しながら、少女は駆けて行った。

 彼女がいなくなった場所をセイバーはただ一人、悲しげに見つめていた。

 

 「貴方には、必要のないものなのです。身内を斬り捨てる覚悟など…。」

 

 

 ザザザザ、とまた場面が変わる。

 

 「く…。」

 「王!?」

 

 丸いテーブルについて話し合いをしていたセイバーが、唐突に胸を抑えて呻きをあげた。

 その横に控えていた金髪の騎士が空かさず支えようとするが、セイバーはそれを拒み、懐から取り出した薬を飲んだ。

 数度、深呼吸を繰り返せば、そこには普段通りの覇気を纏ったセイバーがいた。

 

 「王、お身体が優れないのでしたら…。」

 「構わぬ、■■■■■。それよりも会議を続けるぞ。」

 「…はっ。」

 

 明らかに薬で症状を誤魔化しているのに、金髪の騎士は何も言わない。

 薄々と分かっているのかもしれない。

 彼女の顔がずっと家にいる様になった頃の切嗣に似ている事で、自分にもその意味が分かった。

 彼女は、もうすぐ死ぬのだと。

 

 

 ザザザザ、とまた場面が変わる。

 ある丘の上、間もなく曙色に周囲が染まるという頃、二人の騎士が満身創痍で立ち会っていた。

 

 「これで最後だ、■■■■■■よ。」

 

 片や見慣れた黒い竜の鎧のセイバー。

 片や白銀の鎧の、セイバーによく似た少女。

 二人は今、殺し合いの最後の時を迎えていた。

 

 「あぁ。この一撃で以て、オレは貴方を超えていく!」

 「許す。お前の輝きを魅せてみよ。」

 

 やがてゆっくりと朝日が昇り、二人を照らした瞬間、轟音と共に音を置き去りにして、両雄は前に出た。

 だが、両者の意思も構えも目的も、全く違っていた。

 白銀の鎧の少女は最速の一撃である突きを。

 黒竜の鎧のセイバーは構えもせず、両手を広げて、その切っ先を受け入れた。

 その顔は、微笑んでいた。

 

 

 「馬鹿、野郎が…ッ…。」

 

 

 目が覚めた時、士郎は漸く理想を貫く事の重さを理解した。

 あの日のあの時、養父の最後に誓った理想。

 綺麗だと思ったそれが、一人の少女の人生を使い潰してもなお果たせない程、こんなにも重い事を漸く痛感した。

 そして、躊躇いなく己の身を投げ捨てたセイバーに、この上ない怒りを抱いた。

 

 この時、衛宮士郎は初めて願望器を欲しいと思った。

 

 

 

 

 

 




なお、ライダーの自己封印は魔性としての己の封印でもあるので、ちょいと工夫すれば霊格を抑える事で気配遮断並の事も可能かと解釈しました。
まぁ淫夢見せたりできるんだし、それ位できるよね!と言う事で。

と言うか、この自己封印が割と凶悪な希ガス。
魔力浴びせるだけで対象を悪夢にご招待とか(汗

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