第7話 Stay night編序章 VSランサー
「馬鹿な、7人目だと!?」
閃光に包まれた土倉の中で、オレを襲ってきた槍の男が轟音と共に弾き飛ばされた。
何かがいる。
あの槍兵に匹敵する…否、それを超える濃密な存在感がその場を満たしていた。
「サーヴァント・セイバー、召喚に応じ参上した。」
閃光が収まった時、月下の夜、血に染まった蔵の中で、オレはソイツと出会った。
全身を覆う漆黒の西洋甲冑、特に兜はまるで竜の様な意匠は禍々しくも力強く、美しい。
まるで黒い竜を人の形に押し込めた様な、そんな姿だった。
その姿が余りにも不吉で、同時にとても荘厳で…。
「問おう。貴様が私のマスターか?」
その夜、オレは運命に出会ったのだと知った。
「…ッ、ぁ、オレは。」
「待て。先ずは脅威を排除する。」
そう言って、彼はあっという間に外へと飛び出していった。
不味い、このままでは彼はあの槍兵と遭遇する。
慌てて土倉を出れば、轟音と共に大気が震え、吹き飛ばされそうになる。
咄嗟に伏せて堪えるが、とてもではないが立ち上がれそうにない。
そして何とか顔を上げた時、オレは神話の再現を見た。
男の赤い槍に対し、セイバーと名乗った騎士は無手で、否、確かにその手の中に存在する無色透明な剣によって互角以上に戦っていた。
正に神速の刺突に対し、セイバーはまるで未来が見えているかのように、少ない手数でその槍を払い、避け、男の首を落とさんと反撃する。
リーチと攻撃回数で勝る槍に、しかしセイバーの剣は一撃で以てその連撃を打ち払い、敵の懐目掛けて猛進する。
「卑怯者め!得物を隠すとはどういう了見だ!」
眼中にない、とばかりにセイバーはなお踏み込み、槍兵を両断せんと迫る。
幾つかの攻撃、それは確かに命中している筈なのに、余りにも強固な鎧を前に槍兵の攻撃は徹らない。
火力と装甲によって敵を蹂躙する様は、まるで戦車か戦艦か。
双方とも間違いなく、人類の持っていいスペックではなかった。
だが、鉄風雷火と言っても良い応酬が唐突に中断された。
ランサーという男が何事か告げるのに対し、セイバーは言葉少なに返すのみ。
互いに熱の余り感じられない会話はしかし…
「さて、要件が無ければ去るが良い、犬。」
「貴様、このオレを犬だと…ッ。」
唐突に、未体験の殺気で満たされた。
槍兵、ランサーの槍に、膨大なまでの魔力が収束していく。
アレは不味い。
如何なセイバーでも、アレは危険過ぎる!
「止めはせん。だが貴様も覚悟しろ。」
「ではその心臓、貰いうける!」
だが、セイバーは泰然として動かない。
ただ正眼の構えを以て、一撃で仕留めんと態度で示した。
次瞬、オレの目には、二人の姿が消えた。
「刺し穿つ…」
だが、先手を取ったのが
「死棘の槍!」
ランサーであると、その声で知れた。
その槍の切っ先はほぼ垂直、地面に向けて放たれた。
だと言うのに、槍は奇妙に捻じ曲がりながら、セイバーの心臓目掛けて伸びていき…
「カ…ッ!」
その甲冑を貫き、背中まで貫徹して。
「セイバー!?」
「あっさり終わっちまったか。あーあ、だから使いたくねぇんだよな、コレ。」
先程の指示も忘れ、オレは咄嗟に駆け出そうとして…
「あぁ、その点は同意しよう。」
斬、と血飛沫が舞った。
「て、めェ…!」
左腕を無くしたランサーが傷口を抑えながら慌てて後退する。
その右腕に槍は無く、未だセイバーの胸に突き刺さったままだ。
つまりセイバーは、心臓を槍に貫かれながら、ランサーの腕を斬り飛ばしたのだ。
「あまりに反則故、呆気なく終わってしまうからな。」
ずるり、と鮮血を撒き散らしながら、ゆっくりと赤い槍、ゲイ・ボルグを引き抜きながら、セイバーは何でもないかの様告げた。
「腕一本だけか…流石はクー・フーリン。」
「てめぇ、不死身か?」
見れば、セイバーの胸の傷がゆっくりとだが塞がっていく。
明らかに異常な再生力は、確かに不死性すら感じさせるものだった。
「さて。英霊となったからには死んでいる筈だがな?」
「チッ、今夜はここまでだな。」
「逃がすとでも?」
「は、間抜け!」
刹那、切り飛ばされたランサーの左前腕が爆散し、構成していた魔力が解放され、大爆発を起こした。
「あばよセイバー!その首取っておけよ!」
セイバーは動かない。動けない。
爆風からオレを庇う様に立ちはだかり、その全てを防ぎ切ったから。
見れば、先程まであった槍も消えている。
見事な撤退だった。
「マスター、怪我は?」
「あ、あぁ、大丈夫だ。」
心臓を貫かれたセイバーに対し、こっちは皆掠り傷程度で済んだ。
「とは言え負傷している。すぐに治療を…」
そこまで言って、セイバーは急に視線を表通りの方へと向けた。
「敵だ。今度は別口だな。」
「マジか…。」
「迎撃する。マスターは撤退の準備を。」
それだけ言って、セイバーは駆け出していく。
いや撤退って…どうすれば?
………………………………………………………
「アーチャー、衛宮君は!?」
学校から急いで駆けてきたアーチャー主従は、先程助けた一般人の少年の家を目指して駆けていた。
うっかり記憶処理を忘れていたので、助けた少年がランサーに殺されかねないと大慌てでやってきたのだ。
「待て凛。サーヴァントの気配が二つあ…!」
ドォン!と轟音と共に、衛宮邸の庭が爆発した。
「な、何!?」
「いかんなコレは…。」
アーチャーが足を止め、先程ランサー戦で見せた双剣を構えた。
直後、轟音と共に黒い全身甲冑のサーヴァントが突っ込んできた。
「「…!」」
黒い甲冑の無言の打ち込みを、アーチャーも無言のまま辛うじて防ぎ切る。
しかし、ただの一撃で双剣は砕け散り…
「ハァッ!」
即座に再度取り出した双剣で続く第二撃も受け流した。
その後は焼き直しの様に黒騎士の嵐の様な連撃を、アーチャーは無数に取り出せる双剣によって防ぎ続ける。
(間違いない。こいつ、セイバーのサーヴァント!)
透明な剣らしきものを操る、黒い全身甲冑のサーヴァントのステータス、その多くは明らかに先程のランサーよりも上だ。
ランサーに対応し切るアーチャーでも、これは流石に分が悪い。
何せ、ランサー相手に多少は持っていた双剣が、まるでガラス細工の様に砕かれ続けている。
「え、な、遠坂!?」
「衛宮君!?」
そこに第三者、否、当事者が現れた。
「セイバー、止めてくれ!遠坂は敵じゃない!」
「……。」
その言葉に、セイバーはピタリと攻撃を停止する。
だが、その切っ先は油断なくアーチャー達に向けられている。
不審な真似をすれば殺す。
声は無くとも、そう雄弁に語っていた。
「成程、衛宮君も魔術師だったんだ。」
「って事は、遠坂もか。今日は一体何なんだ…。」
頭を抱える士郎に、遠坂は冷徹な、次いでにっこりと、極めて嗜虐的な笑みを向けた。
「取り敢えず、上がらせてもらえないかしら?」
士郎はガクガク震えながら頷いた。
これが、衛宮士郎にとって、その後の人生を大きく作用する「聖杯戦争」の第一幕だった。
(あんな笑みでは、怖がられるのも致し方あるまいよ。)
(マスターの護衛を最優先。常に至近に移動する。)
積極的に煽っていくスタイル。
なお、現在の乳上は既にSAN値がマッハで、完全に自己愛や利己が喪失している上、願いとかも自己の消滅とかです。
王の仮面を被って、辛うじて行動可能になっています。
本来なら此処でアーチャーには退場してもらう予定なのですが…それじゃ愉悦が足りなくなりそうなのでこの結果に(にんまり