ハリー・ポッターと生き残りのお嬢様   作:RussianTea

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学年末試験と深夜の散歩

  クリスマス休暇が終わり、新学期が始まった。いつも通りの日常が戻り、学生たちは勉強に追われる毎日。そんな中行われる、ハッフルパフ対グリフィンドールの寮対抗クィディッチ杯の試合が、ちょっとした物議を醸し出していた。突然、審判がスネイプに変更されたのだ。

 

「スネイプ先生がクィディッチの審判ねぇ……」

 

  呪文学の授業で、板書をノートに書きながら、エリスが呟いた。

 

「何かあったのかな?」

 

  他の寮の生徒たちは、スネイプはスリザリンがグリフィンドールに負けた腹いせに、嫌がらせをするためだと言っているが、仮にも教師である人間がそんな幼稚な真似をするはずがない。

 

「この前の、ハリーの箒の異常と何か関係が……」

 

  エリスは結構いい線いっている。いや、いい線どころではなく、もう少しで核心に触れられる。

 

「あの時、不審な行動をしていた人物は、2人おりました」

 

  流れるようなスピードでノートを取り終えたセフォネが語りだし、エリスはノートを取るのをやめて、それに聞き入った。

 

「1人はスネイプ教授。もう1人はクィレル教授。両名とも箒から目を逸らさず、呪文を唱えていた。どちらかが呪いを、どちらかが反対呪文を。その時は犯人は特定出来ませんでしたが、これでハッキリしました」

「スネイプ先生が犯人ってこと?」

 

  いや、そうではない。ハリーを殺すために、わざわざ接近するのは、非合理的すぎる。犯行が発覚する恐れが大きいからだ。そのことから、スネイプはハリー側、正しくはダンブルドア側の人間であり、犯人はクィレルだということが分かる。

 

「そうではございません。危害を加えるのであれば、遠くからのほうが、即ち観客席からのほうが都合がいい。わざわざ審判になったスネイプ教授は守る側なのですよ」

「じゃあ……クィレルが犯人!? …信じられないわ……」

 

  いつも挙動不審で、おどおどしているクィレルが人を殺そうとするなど、考え難いことだ。だが、事実はそれを証明している。

  その時、終業のチャイムが鳴り、授業が終わった。その後授業はなく、夕食まで時間もあるため、2人は図書館に向かった。

 

「でもさ、なんでクィレルはハリーを……」

 

  その道すがら、エリスがさっきの話の疑問点を口にした。彼女の言う通り、クィレルにはハリーを殺す動機がない。

  セフォネにはそれについての考えがあったが、証拠のない憶測に過ぎなかった。

 

「ここからは私の憶測ですが、それでも良ければ聞きますか?」

 

  エリスが速攻で頷いた。この少女も好奇心が旺盛なタイプらしく、組分け帽子はレイブンクローと迷っていたらしい。それはさておき、セフォネが持論を語りだした。

 

「彼は今年、ホグワーツの教職に就きました。その前は世界旅行をしていたとか」

「それが?」

「丁度去年、"闇の帝王"がアルバニアに潜伏しているとの噂がございました」

 

  一部の雑誌や新聞が書き立てた、事実無根の記事であるが、世界中の人物がヴォルデモートは死んだと思っているわけではなく、力を失い隠れている、と考えている者もいる。その信憑性はそれなり、といったところだ。

 

「もし、教授がそこで"闇の帝王"に遭遇し、その一味に加わったとすれば……」

「じゃあ、クィレルは"例のあの人"の命令でハリーを殺そうとしてるってこと?」

「あくまで憶測ですが」

 

  何でもないようにセフォネは言うが、これは一大事である。ヴォルデモートがハリーを狙っているのだから。

 エリスは思わず声を上げた。

 

「それってハリーがめっちゃ危ないってことじゃないの!?」

「ですから、スネイプ教授がそれを食い止めているのでは? それに、ホグワーツ程安全な場所はありません。何せ、ここにはダンブルドアがいるのですから」

 

  かつてヴォルデモートとその一味である"死喰い人"たちが猛威を振るっていた暗黒の時代、ヴォルデモートはダンブルドアにだけは一目おき、このホグワーツは唯一手を出せなかった場所なのだ。

  エリスは納得したように頷いた。

 

「そうね……それにしても、スネイプ先生がハリーをねぇ……」

 

  普段の魔法薬学の授業風景からさっするに、スネイプはハリーを嫌っている。もはや憎しみすら抱いているかもしれない。そんなスネイプがハリーを守るとは。

  セフォネもそう思ったのか、苦笑いした。

 

「人間の心理は複雑なのですよ」

 

  さて、試合当日。セフォネは他の生徒たちと違って競技場に向かわず、図書館にいた。ちなみに、"目くらまし術"を使っているため、司書のマダム・ピンスには気付かれていない。

  いくらスネイプのお気に入りであるセフォネであろうとも、"闇の魔術"関連の本の貸出許可はくれないだろう。そう思ったセフォネは、学校の教員、生徒のほぼ全てが出払う時を狙った。

  音もたてずに侵入し、閲覧禁止の棚から目当ての本を持ち出す。そして、"双子の呪文"でそっくりなダミーを作り、それを本物があった場所に戻した。セフォネは偽装工作を終え、"検知不可能拡大呪文"がかかったポーチにそれをしまい、競技場へ向かった。

  競技場につくと、既に試合が終わっていた。

 

「まだ数分しか経過していないはずですが……」

「セフォネ!」

 

  離れた場所の人混みから、エリスがやってきた。

 

「どこにいたの?」

「お手洗いに。試合は?」

「ハリーが開始5分でスニッチを捕まえた。グリフィンドールの勝利だよ」

「あらあら。これはグリフィンドールの優勝が決定ですかね? ドラコはさぞ悔しいことでしょう」

「だろうね。あ、噂をすれば。ドラコー……ってどうしたのその痣!?」

 

  ドラコの目の周りには、青い痣ができていた。誰かに殴られたような跡だ。

 

「ちょっと転んだんだ」

 

  と言っているドラコの心を、セフォネは開心術で覗いた。どうやら、ドラコがネビルに絡み、その後ロンも交えての取っ組み合いになったようだ。クラッブとゴイルに1人で立ち向かったネビルは、医務室行きらしい。

 

「ウィーズリーたちと喧嘩ですか」

 

  なぜか事実がばれ、ドラコが言葉をつまらせた。

 

「うっ……」

 

  その様子を見て、エリスが呆れる。

 

「もう、何やってんのよ。あんたたちは本当に……ちょっと見せて」

 

  ドラコの顔の傷を見て、エリスは杖を取り出した。

 

エピスキー(癒えよ)

 

  すると、ドラコの顔に出来た痣がみるみるうちに消えた。ドラコは顔に手を当て、痛みがひいたことに驚いていた。そして、傷が治ったことを知ると、エリスに礼を言った。

 

「すまない、迷惑をかけたね」

「これからは、あんまり暴れないことね」

 

  これだから男の子は、と呆れるエリスとともに、城へ戻った。

 

 

 

 

 

  復活祭休暇は、学年末試験にむけての勉強があるため、生徒たちはクリスマス休暇ほど浮かれることは出来なかった。

  スリザリンの談話室では、1年生の女子数名が集まり、勉強会のようなものを開いていた。その中心にセフォネはいた。

  セフォネは最初、エリスが分からないと言ったところを教えていたのだが、その教え方が良かったらしい。それを聞いていたルームメイト2人が加わり、その友達が加わり、といった具合でちょっとした集団ができていた。

 

「ねえ、私たちもいいかしら」

 

  そこに、2人の女子生徒が話しかけてきた。1人はパンジー・パーキンソンという、パグ犬に似た生徒。もう1人は、セフォネの従妹であるミリセント・ブルストロードだ。

 従妹とはいうものの、セフォネとミリセントはまったく似ていない。というか見た目は正反対である。同じなのは身長くらいで、セフォネとは対照的に、ミリセントはかなりがたいがよく、女版のクラッブといった感じである。

  パンジーとミリセントは、セフォネとエリスのように2人で行動していることが多い。そして、自分たちと違って容姿端麗な2人に嫉妬し、あまり近づいていなかった。だが、スリザリンの女子生徒たちはセフォネの周りに集まり、その為孤立しかけていたのだ。要するに、寂しいので輪に入れてくれ、ということである。

  今ままで自分を避けていた2人が話しかけてきたことに、セフォネは少し意外そうな顔をしたが、素直に頷いた。

 

「構いませんよ」

 

  こうして、計らずともセフォネは周囲の人望を集めていった。それと同時に、スリザリン全体の成績が著しく上昇していった。

 

 

 

 

 

  そんな復活祭も過ぎ、多くの生徒たちの注意が学年末試験に向き始めた頃のある朝、異変が起こった。

 

「グリフィンドールが150点減点!?」

「一体、何をしたのですかね」

「僕が説明しよう」

 

  ドラコによれば、グリフィンドールの英雄、クィディッチで寮を勝利に導いた、あのハリー・ポッターが、数名の仲間と共に馬鹿をやらかしたらしい。

 

「うちの寮も20点ほど減っていますが、これはあなたですか?」

「え、えーと……」

 

  バツが悪そうに目を逸らそうとしたドラコだったが、その前にセフォネに心を読み取られた。

 

(ドラゴン……?ミスター・ハグリッドは一体何をしているんですか、まったく…)

 

  ハグリッドが非合法で育てようとしたドラゴンが、彼の手に負えなくなったために、ロンの兄に頼んで引き取ってもらう算段をつけた。そして、ハリーとハーマイオニーの協力のもと、昨夜引き渡したらしい。

 ここからは推論だが、おそらくその帰りに2人は見つかった。そして、夜抜け出した2人を探したネビルも同時に見つかり、1人50点の減点を受けたのだろう。

 

「ま、これでうちらが首位に立ったわね」

「それで、レイブンクローとハッフルパフからも、グリフィンドールに険しい目が向けられているのですね」

 

  何年も連続で寮杯を獲得しているスリザリンから、今年こそは優勝を奪えるものと、この2つの寮もグリフィンドールに期待していたのだ。だが、その期待も虚しくグリフィンドールは最下位に落ちた。

 

「ハリーとハーマイオニーは気の毒だけど、そのおかげで今年も優勝できそうね」

 

  その思いは他のスリザリン生も同じで、ハリーと廊下ですれ違うたびにお礼を言う始末だった。

 

 

 

 

 

  その日から、生徒の間でのハリーに対する態度が一変し、学校一番の人気者だったハリーは、今や学校一番の嫌われ者となった。

 

「惚れ惚れするような手のひら返しですわね」

「まったくよね」

 

  図書館で勉強中のセフォネとエリスは、目の前で同じく勉強中のハーマイオニーに同情の視線を向けた。

 

「ハーマイオニーも災難だったわね」

「同情するなら点を頂戴」

 

  あの事件以降、ハーマイオニーも同じように嫌われていた。ハリーほど有名ではなかったので、それよりはマシであったが、誰も彼女に話しかけなくなった。

  そんな中、宿敵スリザリンの、この2人は図書館で会うたびに話しかけてくる。最初は嫌味を言いにきたのかと思えば、そんな雰囲気もない。元々同性の友達が少なかったハーマイオニーは、次第にこの2人と打ち解けていった。とはいえ、あまりおおっぴらに仲良くすることは出来ないので、こうして図書館で会ったとき、少し会話をするくらいだが。

 

「それで、今日罰則なんですか」

「うん。なんでも、禁じられた森に行くらしいの……」

「ホントに?いくらなんでも危ないんじゃないの?」

「やんちゃな生徒に恐怖を体験させる、という趣旨でしょう。怖がらずとも、安全は保証されます。でもまあ、もし本当に危険な時は、この呪文を使うといいでしょう」

 

  そう言うと、セフォネは呪文学の教科書のあるページを示した。

 

「ルーマス・ソレム?これって……」

「日光を出現させる呪文です。暗闇の中では充分な目くらましになるかと」

 

  ハーマイオニーにはまだ戦闘はできない。だから、応用しだいで武器になる呪文を教えたのだ。いくら教科書を全て暗記しているハーマイオニーとはいえ、緊急時にこれを思い出せはしないし、これを使おうとは思えないだろう。

  ハーマイオニーは少し考えて、イメージトレーニングした。確かに使えそうだ。

 

「ありがとう、セフォネ」

 

 

 

 

 

  さて、罰則を終えたドラコがしばらく具合が悪かったのを除けば何もなく、学年末試験を迎えた。

  魔法史、薬草学、闇の魔術に対する防衛術、天文学は筆記試験のみ。そして、呪文学、変身術、魔法薬学は筆記試験に加えて実技試験。

  呪文学の実技試験は、パイナップルを机の端から端までタップダンスさせるという内容で、実に簡単なものだった。

  変身術の実技試験は、鼠を嗅ぎたばこ入れに変身させるというもので、美しければ美しいほど点が入る。セフォネは家にあった嗅ぎたばこ入れと、そっくりな物を作り出した。銀製の、装飾や彫刻が施されているものだ。それを見たマクゴナガルは思わず拍手してしまった。

  魔法薬学の試験は魔法薬の調合。手順を覚えていれば簡単なもので、逆に覚えていない生徒は四苦八苦していた。

 

「終わったぁー」

 

  試験が終わり、その結果発表まで、生徒たちは自由に過ごすことができる。2人は湖のほとりに座り、久方ぶりの平穏な時を満喫していた。

 

「そいえばさ、セフォネ、"守護霊呪文"って知ってる? この前本読んでて出てきたんだけどさ」

 

  エリスの疑問に、セフォネは答えた。

 

「守護霊呪文とはその名の通り守護霊を創り出す呪文です。吸魂鬼(ディメンター)を追い払うためのもので、伝言を託すこともできます。形状は術者によって違い、基本的には動物の形を、時には魔法生物の形をとります」

「へぇ……出来る?」

「ええ、出来ますよ」

 

  セフォネはそう言って立ち上がると、懐から杖を抜いた。

 

エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)

 

  すると、セフォネの杖の先から銀色の霧が吹き出し、それは大きな鳥の姿になって、湖の上を飛翔する。

 

「これが守護霊です」

 

  セフォネは左手を差し出し、その上に守護霊が止まる。エリスはそれを眺めた。全長は1メートル超えで、羽を広げれば3メートルにも届きそうな大きさだ。

 

「これ何の鳥?」

「大鷲です」

「スリザリン生なのにレイブンクローの象徴?」

 

  エリスの指摘に、セフォネはクスリと笑う。

 

「可笑しな話ですよね。まあ、組分け帽子はスリザリンかレイブンクローかで迷っていたので、それも納得といえば納得ですが」

「そうなんだ……ねえ、これ私にも出来るかな?」

「どうでしょうか……今すぐには無理ですね。かなり習得に時間を有するものですから。私も出来るようになるまでに1年はかかりました」

「まさか、それは守護霊ですか?」

 

  後ろから、本を抱えたマクゴナガルが、かなり驚いた様子で近づいてきた。それもそうだろう、この年齢で守護霊を創り出せる者はそうそういない。

 

「ええ。そうです」

「驚きです。その歳で守護霊を創り出せるとは……」

「恐縮ですわ」

 

  マクゴナガルは感嘆するとともに、恐ろしさを感じていた。

 もし、これほどの才能を持つ少女が闇に墜ちていけばどうなってしまうのだろうか、と。それはトム・リドル以上の脅威になるかもしれない。

 

「どうかされましたか?」

 

  セフォネは守護霊を消し、マクゴナガルをジッと見つめた。全てを見透かしているような紫の瞳。そこでマクゴナガルはようやく気付いた。

 

(…まさか……!)

 

  気付かない間に、心に侵入されていたのだ。

 

(…開心術……!?)

 

  その驚愕でさえも、セフォネは見透かしているだろう。自分の思考は全て読み取られているのだ。だとしたら、それはいつから。

 

(…あの時から……)

 

  グリモールド・プレイスに出向いたあの時から、セフォネは全てを知っていたのだ。自分たち教員が彼女を危険視していることを。閉心術で心を閉ざすが、もう遅い。

  心を閉じたマクゴナガルに、セフォネは微笑みかけた。

 

「心配はご無用です。それを決めるのは、まだ先ですから」

 

  まだ先。ということは、いつかは闇の陣営になってしまうかもしれない。だが、それと同じくらいの確率で、自分たちの仲間になる可能性もある。

 

「それよりも、本はよろしいのですか?」

「ああ。そうね。早く返してこなければ。ご機嫌よう」

「ご機嫌よう」

 

  湖から校舎に向かって歩いていくマクゴナガルを、ハリーたちが引き止め、何かを訴えかけている。

 

「何だろあれ」

「さあ?」

 

  その晩。試験期間中の不規則な睡眠がたたって、セフォネの目は冴えわたっていた。こういう時は、無理に寝ないに限る。そう思ったセフォネは、最近趣味になりつつある深夜の散歩に出かけた。 もちろん"目くらまし術"はかけている。取り敢えず、どうせならこの機会にと、以前持ち出した閲覧禁止棚の本を元の場所に戻し、ダミーを片付けた。

 

(さて、と。どこに行きましょうかね……)

 

  そういえば昼間、ハリーたち3人組が何かを必死でマクゴナガルに訴えていた。もしかしたら、賢者の石関連の事件かもしれない。

 

(面白そうですね)

 

  セフォネは4階までやってきた。立ち入り禁止と言われた場所に賢者の石が隠されているのは分かっている。ロンに開心術をかけたからだ。

  すると、立ち入り禁止の扉が少し開いていた。まるで、誰かが入った後のようだ。好奇心に負けたセフォネは、その扉を開く。

 

「あれは……」

 

  扉の先には巨大な犬がいた。その頭は3つあり、血走った目で、姿が見えない侵入者を探す。

 

「三頭犬…ケルベロス……」

 

  セフォネに浮かんでいたのは、恐怖の表情ではなかった。面白いものでも見つけたと言わんばかりの表情だ。

  三頭犬は狂ったように、3つの鼻で嗅ぎ回る。その足元にはなぜかハープが置いてあった。

 

「あれを鳴らせということでしょうか」

 

  セフォネは杖を抜き、ハープに呪文をかけた。ハープが音楽を奏で始めるとともに、三頭犬は眠りについた。

 

「呆気なさすぎです」

 

  つまらなそうに呟くと、その足元にある扉に目を向けた。それは開いており、すでに何者かが入っていったことを示している。その先は真っ暗で、穴は相当深い。

  セフォネは少し迷ったが、どうせここまで来たならと、その扉の奥へ飛び込んだ。杖を下に向け、クッション呪文を使って着地する。しかし、その必要はなかったようで、足元はなんかしらの柔らかい素材だ。

 

「ルーモス」

 

  杖先に明かりを灯してそれを見ようとすると、突然足元に蔓が絡まり、体に巻きつこうとしてくる。

 

「悪魔の罠ですか」

 

  この植物は暗闇と湿気を好む蔓草で、生き物に巻きついて絞め殺そうとする。日の光に弱いという弱点を持つ。

 

「ルーマス・ソレム」

 

  日光を出現させると、とたんに蔓が弱まりほどけていった。

 

「これまた呆気ない」

 

  その後、奥へ続く一本道を進み、天井が高い部屋に出た。その部屋を無数の輝く鳥が飛んでいる。

 

「鳥……いや、鍵?」

 

  それは鳥ではなく、羽の生えた鍵だった。その部屋を横断し、扉の前までいくと、ドアノブに手をかける。しかし、鍵がかかっているようだ。

 

「なるほど。この中のどれかが当たり、という訳ですか」

 

  扉の取っ手は銀製。ということは鍵も銀製だろう。だが、飛び回っている中からそれを探すのは難しい。

 

イモビラス(動くな)

 

  部屋中の鳥が、ピタリと動くのをやめる。それと同時に、推進力を失って全ての鳥が地面に落ちた。その中から取っ手に合う鍵を見つけ、扉を開いた。

  すると、そこでは巨大なチェスがあった。

 

「チェス?」

 

  丁度、ロンが白のクイーンに頭を殴られ倒れたところだった。ハーマイオニーが悲鳴をあげるなか、クイーンはずるずるとロンを引きずっていく。ハリーは震えながらも、3つ左、キングの目の前に立つ。盤面から見て、チェックメイトだ。キングは自分の王冠を脱ぎ、ハリーの足元に投げ捨てた。チェスの駒は、左右へ別れて前進するための扉への道を開けた。

 

「お見事です、ミスター・ウィーズリー」

「誰!?」

 

  ハリーとハーマイオニーは声がしたほうを見る。が、そこには誰もいない。いや、見えない。

 

「ああ、そう言えばまだ"目くらまし術"を解いていませんでしたね」

 

  2人は現れたセフォネに驚愕し、声もでないようだ。セフォネはそれに構わずに、倒れているロンに近づき、傷を治してやる。出血が止まったのを確認すると、驚きのあまり固まっている2人のもとへ歩いていった。

 

「どうしてあなたがここに!?」

「深夜のお散歩中ですわ」

 

  セフォネは事実を言ったのだが、2人にはとてつもないほど警戒した目で見られた。

 

「いえ、本当ですよ?」

「……まあ、いいわ。じゃあ聞きたいんだけど、あなた、賢者の石のことは?」

「この先にあるのでしょう?」

「知ってたのね」

「それはともかく。早く行かねば賊に奪われてしまうのではないですか?」

 

  そう言って、次の扉に視線を向ける。ハリーとハーマイオニーはセフォネを追求することをやめた。

 

「次は何だと思う?」

「悪魔の罠……あれはスプラウトだったし……鍵に魔法をかけたのはフリットウィックね」

 

  セフォネが後に続けた

 

「各先生方が守りを敷いたのですか。今の巨大チェスはマクゴナガル教授ですかね。すると残りは、クィレル教授とスネイプ教授ということになりますわね」

 

  ハリーは扉に手をかけた。そして振り向くと、セフォネに言った。

 

「僕達はこの先に行く。君は?」

「ここまで来たからには、お伴させていただきますわ」

 

  ハリーは頷くと、扉を開けた。途端に、むかつくような匂いが鼻をついた。3人はローブを引っ張り上げて鼻を覆った。

  部屋の中に入っていくと、そこにはトロールが倒れていた。以前女子トイレに現れたものよりも大きく、その全長は7メートルほどか。気絶しているようだ。

 

「よかった。こんなのと戦わずにすんで……」

 

  ハリーがそう言って安堵した時、トロールがピクリと動き出した。

 

「え?」

「嘘!?」

 

  トロールはその時ちょうど意識を取り戻し、フラフラと起き上がった。

 

「あらあら。お目覚めですか」

 

  セフォネは自分に呪文をかけ、この悪臭を嗅がないようにし、ローブを元に戻す。

 

「何を呑気な……」

 

  ハリーがセフォネを見ると、どうだろうか。彼女は笑っていた。

 この生命の危機とも思える状況下で、あろうことか笑っているのだ。その笑みは、これから起こる戦闘への歓喜の笑み。ハリーはそれが狂気にしか思えず、思わず身震いした。

  セフォネはこちらの姿に気が付いたトロールの前に進みでて、芝居がかったお辞儀をした。

 

「この私、ペルセフォネ・ブラックがお相手いたしましょう」

 




セフォネの守護霊は大鷲ということで。
トロール復活。次回はセフォネの見せどころ。

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