ハリー・ポッターと生き残りのお嬢様 作:RussianTea
ホグワーツ城の玄関ホールに辿りつくと、そこにはマクゴナガルがいた。
「マクゴナガル教授、
「ご苦労様、ハグリッド。ここからは私が預かりましょう」
マクゴナガルに案内され、1年生たちはホールの隅にある、小さな空き部屋に連れて行かれた。恐らく、ここが待機室なのだろう。生徒たちは不安と緊張でそわそわしている。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」
マクゴナガルが挨拶を始め、室内が静かになった。
「新入生の歓迎会が間もなく始まります。ですがその前に、皆さんが入る寮を決めなければなりません。組分けはとても大事な儀式です。ホグワーツにいる間、同じ寮生は家族も同然のものになります。寮生と共に学び、眠るのです。自由時間も、寮の談話室で過ごすことになります。
寮は全部で4つ。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリン。
それぞれに輝かしい歴史があり、多くの偉大な魔法使いや魔女が卒業していきました。
ホグワーツにいる間、皆さんのよい行いは、自らの属する寮の得点となります。逆に、規律に違反すれば、得点は減点されます。学年末には、最高得点の寮に大変名誉ある寮杯が与えられます。どの寮に入るにせよ、皆さん一人ひとりが、寮にとって誇りとなるよう望みます」
ここでマクゴナガルは一度区切り、生徒たちを見回した。その目は全員の服装をチェックし、組分けの儀式にきちんと望めるかどうかを見ているようで、乱れている者を見ると、その厳格そうな表情をより一層固くした。
「まもなく、全校列席の前で組分けの儀式が始まります。待っている間、出来るだけ身なりを整えておきなさい。準備ができ次第、戻ってきますから、静かに待っていてください」
マクゴナガルが部屋を出ていくと、部屋全体がまたそわそわし始める。
「ねえ、セフォネ。組分けってどんなのか知ってる?」
「存じておりませんわ。祖母は何も申しておりませんでしたから。しかし、そう心配することもないと思いますよ」
儀式とは言うものの、多くが魔法をロクに使えない中で、魔法を行使したものは考え難い。適正テストのようなものがあるくらいが関の山。トロールと戦わせるとか言っている人間もいるが、それは絶対にありえない。
「冷静すぎるよ、君は」
「普通ですよ?」
と、言っているが実際平然とした様子であるのはセフォネだけであり、他の生徒は緊張から話もしなくなっている。ハーマイオニーは覚えた呪文を早口で繰り返していた。
セフォネを除く皆が緊張に押しつぶされそうな中、突然ゴーストが現れ、生徒たちを驚かせた。
「さあ、行きますよ」
マクゴナガルが戻ってきて、新入生諸君を1列に並ばせ、大広間に連れていく。
そこは壮大な場所で、ブラック家の屋敷で育ったセフォネも感嘆するものだった。
何千という蝋燭が空中に浮かび、広大な室内を照らす。4つの長テーブルには寮別に在校生が座り、拍手で新入生を歓迎した。上座にはもう1つテーブルがあり、教師の面々が座っている。
天井を見上げると、そこには一面に広がる夜空が映し出されていた。
夜空に浮かぶ星を眺め、惑星ペルセフォネはどの辺だろうか、とセフォネが思った時、マクゴナガルが新入生の前に4本足のスツールを置き、その上にみすぼらしい帽子を置いた。
その帽子はピクピクと動きだし、つばの縁の裂け目がまるで口のように開いて歌い出した。
その内容は、4つの寮の特色を示したものだった。
〜グリフィンドールに入るなら 勇気ある者が住まう寮 勇猛果敢な騎士道で ほかとは違うグリフィンドール〜
〜ハッフルパフに入るなら 君は正しく忠実で 忍耐強く真実で 苦労を苦労と思わない〜
〜古き賢きレインブンクロー 君に意欲があるならば 機知と学びの友人を 必ずここで得るだろう〜
〜スリザリンではもしかして 君はまことの友を得る? どんな手段を使っても 目的遂げる狡猾さ〜
なんかスリザリンだけ悪く言われているような気がするが、気にしないことしよう。
「ABC順に名前が呼ばれたら、帽子を被って椅子に座り、組分けを受けて下さい」
マクゴナガルはコホン、と咳払いをし、生徒の名前を読み上げた。
「アボット・ハンナ!」
「ハッフルパフ!」
すると、ハッフルパフのテーブルから歓声があがり、新入生を歓迎した。
「ブラック・ペルセフォネ!」
自分は2番目か、と少し微笑んでセフォネは歩きだした。その上品な歩き方と、品格ある美しさに、男子生徒たちは見惚れていた。
椅子に置いてある帽子を手に取り、そっと腰を下ろす。帽子が大きすぎて目に被りそうになったため、位置を調整し、まともに被れるようにする。そして、帽子が組分けするのを、そっと目を閉じて待った。
すると、頭に声が響いてきた。
『君はブラック家の子かね。ふむ……これはまた難しい……。知識欲、探求心に満ち、そしてなおかつ目標のためなら手段を選ばぬ狡猾さも持っている。レイブンクローとスリザリン、どちらにしたものか……』
帽子は2,3分ほど悩んだ挙句、判断材料を求めてセフォネの心の奥に入り込もうとした。だが、突然弾かれた。突破できない程強固な心の壁が出現したのだ。
『何!? 私に対して"閉心術"を使っただと……!?』
あまりにも強力ゆえ、それを破ることは出来ない。そんなことは組分け史上初めてであった。セフォネは狼狽えている様子の帽子の声を聞き、可笑しそうに微笑んだ。
「乙女の心を、みだりに踏み荒らしてはいけませんよ」
「…………スリザリン!」
結局、組分け帽子は彼女セフォネの家系でスリザリンを選んだ。
スリザリンのテーブルから歓声が上がり、他のテーブルの生徒(主に男子)は残念そうであった。
セフォネは帽子を椅子に置き、教師陣に軽く一礼してからスリザリンのテーブルに座った。
ボーンズ・スーザンがハッフルパフに決まった後、エリスの番がきた。
「ブラッドフォード・エリス!」
エリスは緊張でガチガチになりながら椅子に座り、帽子を被った。
帽子は暫く悩んでいたが、やがて、口を開いた。
「スリザリン!」
スリザリンのテーブルから歓声が上がり、セフォネも拍手を送った。皆の注目を一身にうけたエリスは、長いローブで躓きそうになりながら、恥ずかしそうにスリザリンのテーブルに座った。
「一緒ですね。嬉しいですわ」
「うん。知り合いがいて良かった。これからよろしくね、セフォネ」
その後、レイブンクローが2度続いた後、ブラウン・ラベンダーという生徒が初めてグリフィンドールになった。
「ブルストロード・ミリセント!」
「ブルストロード?」
その名に聞き覚えがあったセフォネはその生徒を注視した。
「知ってるの?」
「父の実家です。ですから、関係上、従姉にあたりますね。初めてお会いしますが」
「ブラック家、改めて考えると凄いわね」
「純血同士の結婚、となれば必然的に近親婚となってしまいますからね。ブラック家のみならず、純血家系のほぼ全ては親戚関係にあります。恐らく、私とあなたも遠い親戚です」
そんな話をしている内に、組分けはどんどん進んで行き、マルフォイがクラッブとゴイルを従えて、セフォネとエリスの真向かいに座った。
「あら、あなたですか。ご機嫌いかが?」
「悪くはないね。君もスリザリンか。名前は? 」
ドラコがセフォネの隣に座っているエリスに視線を向けた。
「エリス・ブラッドフォードよ。汽車でハリーと喧嘩していた子よね? 一回自己紹介した気がするんだけど、まあよろしく」
暫くした後、ハリーはグリフィンドールに組分けされ、グリフィンドールから割れんばかりの歓声が上がった。
「どうやら、ハリー・ポッターはグリフィンドールに持っていかれたようですね。まあ、当たり前といえば当たり前ですが」
「だね。ちょっと可愛い子だったんだけどな。残念」
「あなたの基準は顔ですか」
「それ以外にないわ」
無駄に良い顔をして言うエリスに、セフォネは呆れたような笑みを浮かべた。
組分けが終わり、ダンブルドアの非常に独創的な挨拶が終わり、食事の時間になった。
「あの人、変わってるわね」
ミートパイにかぶりつきながら、エリスが言った。ローストチキンをナイフで切り分けていたセフォネはその言葉に首肯した。天才と馬鹿は紙一重、という言葉はまさに彼の為にあるのだろう。
「偉大な魔法使いと言われてはいますけどね。天才は往々にして、ああいうものなのでしょう」
すると、スリザリン寮のゴースト"血みどろ男爵"が現れ、何やら新入生を鼓舞するような発言をしていたが、セフォネの前にくると、ジッとその顔を覗きこんだ。
「ほう……お前はブラックの娘か」
「左様にございますわ」
「ふむ……母親に良く似ておるな……」
「母をご存知で?」
「無論。スリザリンであったからな。せいぜい我らがスリザリンのために頑張り給え」
「善処いたしますわ」
スーっと血みどろ男爵は去っていった。すると、男爵にスルーされたのが面白くなかったのか、ドラコがセフォネに突っかかってきた。
「ふん。所詮ブラック家も落ちたもんじゃないか。当主が純血主義に反対するなんてさ」
そんな子どもっぽい様子のドラコに、セフォネは怒るどころか、むしろ微笑んだ。
「汽車で申し上げたでしょう? 我が家は衰退した、と。それに、私は純血主義が悪いと言っているわけではありません」
「えっ?」
ドラコは間の抜けた声を出した。セフォネはこう言ったのだ。"
セフォネは"純血主義"というものが存在する理由も理解しているし、そういった選民思想が無くならないことも理解していた。そういう考えに反対したところで、火種を作り出すだけだ。
「この世には様々な考え方があります。誰もが自分の考えを持っており、そうやって世界は廻っている。皆が同じことを同じように考える世界、などはございません。ですから、別にあなたが純血主義であっても構わないと思います。矛盾していることだとは思いますが」
一息にそう言うと、セフォネはゴブレットの中の飲み物を1口含んだ。
(そう、こんな世界ではそうやって生きていくしかない。他者をただ否定し、自らの価値観に当てはめ、果ては泥沼と化す。少しでも歩み寄ればいいものを、誰もそうしない。それを知っていながら、分かっていながら、悲劇を繰り返す……全くもって度し難い程にくだらない世界だわ。生きていくのも嫌になる程に……でも、もし世界が変わるのならば………変えることが出来るのならば……)
「セフォネ?」
エリスが心配そうにセフォネの顔を覗き込んでいる。ドラコを言い負かすや否や黙り込んでしまったセフォネに困惑していた。
「どしたの?ボーッとして?」
「いえ、何でもございません。睡魔が押し寄せてきましたので、少々」
「そうだね。昨日は学校が楽しみで眠れなかったから。それと、ちょっと不安だった。でも良かった、初日に友達が出来て」
その言葉を聞いた瞬間、セフォネは目を瞬かせた。
「友達?」
「そう、友達。…まさか、嫌だった……?」
残念そうに顔を俯かせたエリスに、セフォネは珍しく慌てた。
「そういうわけではないです。ただ……」
「ただ?」
エリスが顔を上げると、今度はなぜかセフォネが顔を俯かせていた。そして言いにくそうに、ポツリと、囁くように言った。
「…その……友達というのが初めてなので……私で良いのかどうか……」
そんな様子を見て、エリスは安堵するとともに、このいかにもお嬢様な、大人びた少女の弱々しい一面を見て、ちょっと可愛い、などと思った。
「全然。私、セフォネのこと好きだよ? ああ、友達としてってことね」
「……本当に?」
「本当本当。これから7年間、それから先も、友達としてよろしくね」
そう言って、エリスはセフォネに手を差し出した。セフォネはその手を見て再び目を瞬かせ、やがて嬉しそうに、だが少し恥ずかしそうになった。
そして、おずおずと手を伸ばし、エリスの手を握った。右手に嵌めた印章指輪が、蝋燭の明かりを反射し、鈍く煌めいた。
「よろしくお願いします」
これが、孤独に生きてきたセフォネに、生涯の友が出来た瞬間だった。
さて、食事が終わると、新学期にあたっての様々な注意があり、なぜか4階の右側の階段が立ち入り禁止だった。
「死にたくないなら立ち入るなって……」
「学び舎にそのような危険地帯を作るのは、いかがかと思いますわね」
「まったくだな」
セフォネのその言葉に、ドラコが首肯する。先程、純血云々の話をした後、彼とはエリスを交えて普通に会話し、それなりに打ち解けていたのだ。
「では寝る前に校歌斉唱じゃ。みんなの好きなメロディーで。では1、2、3はい!」
ダンブルドアが杖先から出したリボンが校歌を空中に描き出し、皆が歌い出した。
スリザリンのテーブルは、歌っている生徒が少ないように感じたが、斯く言うセフォネも歌っていないので人のことは言えない。
「めちゃくちゃな歌詞ですわね」
「品位が感じられないね」
2人して同時に溜息をついた。その様子を見て、なんだかんだでセフォネとドラコは息があうのではないのだろうかと、エリスは思った。
「では、新入生は監督生についてきて」
監督生についていき、スリザリン寮の談話室へと向かう。
スリザリン寮の談話室は地下にあった。地下牢にある湿ったむき出しの石が並ぶ壁、その壁に隠された石の扉が談話室への入り口のようだ。
「"永久の栄光を"!」
監督生が合言葉を言うと、壁に隠された石の扉がするすると開いた。
スリザリン寮の談話室は細長く、天井が低い地下室で、天井と壁は石造りだ。暖炉と椅子には荘厳な彫刻がほどこされており、天井から鎖で吊るされたランプは緑がかっている。
どこか陰湿な印象を与える談話室であったが、セフォネにとっては丁度よい場所だった。
就寝用の女子部屋はエリスと、アンナ・フィリップス(PhilipsではなくPhillipsであることを強調していた)、キャサリン・メイスフィールド(通称キャシー)が同部屋である。この4人でこれから7年間、寝起きをともにするのだ。
4人はベッドの上でそれぞれに自己紹介をした。どうやら、アンナもキャシーもそこまで純血主義というわけでは無いらしい。普通の魔法族程度、といったところだ。
このスリザリンにおいて、ちゃんとした常識を持った 3人と同部屋になったのは奇跡に近いと言えるだろう。
では自分はどうかと言われれば、恐らく常識人の範疇は超えているだろう。
そんな自嘲的な笑みを浮かべたまま、セフォネは眠りに落ちていった。
セフォネ、友達ゲット!
というわけですが、セフォネは年齢以上に大人びている反面、まだ幼い少女の部分もあり、それは友好関係で特に顕著となります。
そして、彼女の願いは"世界の変革"。どこかのガンダムシリーズのチャイナドレス着たお嬢様もそんなことを言っていました。