ハリー・ポッターと生き残りのお嬢様   作:RussianTea

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いざホグワーツへ

  キングス・クロス駅、9と4分の3番線。もしこれを駅員に聞いたら、こいつは何いってるんだ、みたいな顔をされるだろう。

  なぜならこのホームに行くことが出来るのは、魔法使いだけだからだ。正確には、このホームの存在を知っているのは、である。

  セフォネは9番線と10番線の間にある柵の前に立っていた。

 

(ここですね)

 

  セフォネは制服や教科書などを詰め込んだトランクを積んだカートを押しながら、その柵に迷いなく突っ込んでいく。激突するかと思われたが、次の瞬間、彼女は9と4分の3番線の鉄のアーチを潜り抜け、目的地に到着した。

  プラットホームには既に紅色の蒸気機関車、11時発のホグワーツ行特急が停車していた。

  ホー厶は生徒たちと、その見送りに来た親、ペットの猫やらフクロウやらでごった返していた。セフォネはその間を縫うように歩いていき、自分のトランクに浮遊呪文をかけて運び、列車に乗りこんだ。

  2両目と3両目はすでに満員で、窓から身を乗り出した子どもたちは親と別れの言葉を交わしている。6両目に空いているコンパートメントを見つけたセフォネは、そこに腰を落ち着けた。手持ち無沙汰に窓の外を眺めると、楽しそうに会話をしている親子が見えてチクリと心が痛む。

  セフォネの両親は既に他界している。

  父親は彼女が物心つく前に死んだ。

  母親は廃人となり、聖マンゴ魔法疾患障害病院に入院していた。医者からは治る見込みは無いと言われ、正気を失ったまま徐々に衰弱していった。そして1年前、原因不明の死を遂げた。というのは表向きの話であり、セフォネは母の死の原因を知っている。

 

 

 ――何も写していないような、濁った灰色の目――

 

 ――口元に浮かべさせられた(・・・・・)、空虚な笑み――

 

 ――自分が持つ杖から放たれた、緑色の閃光――

 

  セフォネは湧いてきた感情を、首を振って振り払った。

 

(何を考えているのですか、(わたくし)は。これはとうに乗り越えたこと……)

 

  いつの間にか列車は発車しており、窓から見える風景はのどかな田園風景に変わっていた。

  その時、コンパートメントの扉が開き、1人の少女が入ってきた。

 

「ここ、いいかな?どこも一杯なんだよ」

 

  セミロングのブロンドの髪は若干癖があるのか、毛先が内側に丸まっている、サファイアのようなアイスブルーの瞳を持つ金髪碧眼の少女だった。顔立ちは綺麗というよりも、可愛らしいと言った方がいいだろう。

 

「構いませんわ。どうぞ」

「ありがと」

 

  ブロンドの少女はセフォネの正面に座り、重そうな荷物を下ろした。

 

「ああ重かったぁ。私、エリス・ブラッドフォード。貴方は?」

「ペルセフォネ・ブラックと申します。セフォネと呼んで下さい」

「ペルセフォネってギリシャ神話の?」

「はい。家の者の名は惑星かギリシャ神話からとっているそうです。確か、エリスというのも……」

「そう。私の名前もギリシャ神話の女神からとったみたいなんだけど、でもエリスって不和の女神じゃない? 娘につける名前じゃないと思うんだよね。"なんで?"ってお父さんに聞いたら"ゴロが良かった"って。酷くない?」

 

  若干不満げに言うエリスに、セフォネは苦笑した。暫くこの少女と話していると、またしてもコンパートメントの扉が開き、今度は赤毛の少年が入ってきた。

 

「ここ、まだ空いてる? もう1人いるんだけど、もうどこも席が一杯なんだ」

「別にいいよ。セフォネは?」

「私も構いませんわ」

 

  2人に許可を得た赤毛の少年は、ようやく席を見つけることができて安堵しているようだった。

 

「おい、ハリー! 席見つけた!」

 

  「ハリー?」とエリスとセフォネは首を傾げた。数秒後、赤毛の少年に続いてコンパートメントに入ってきたのは、紛れもないハリー・ポッターだった。

  ハリーはセフォネを見ると、少し驚いて、あっ、と言った。

 

「セフォネ?」

「またお会いしましたね、ハリー・ポッター」

「ハリー・ポッター!? あの!?」

 

  エリスは立ち上がってハリーをしげしげと観察した。至近距離で女の子の顔があるためか、ハリーは僅かに顔を赤くした。

 

「へぇ。本物だ。私、エリス。よろしくね。ていうか、セフォネ知り合い?」

「ええ。まあ、1度お会いしたきりでしたが」

 

  赤毛の少年がエリスの隣に、ハリーがセフォネの隣に座った。

 

「いや、助かったよ。ありがとう。僕はロン」

「よろしく、ロン」

 

  その後、マグルに育てられたために魔法界のことを何もしらないハリーに、3人は色々な話をした。

 

「本当に何も知らなかったのね」

 

  エリスは、ハリーがあまりにも魔法界の事情に疎いため、少々驚いたようだ。

 

「うん。ハグリッドが教えてくれるまでは、僕、自分が魔法使いだってこと全然知らなかったし、両親のことも、ヴォルデモートのことも……」

 

  ハリーがその名を言った瞬間、ロンとエリスは息を飲んだ。

 

「えっと……どうしたの?2人とも」

 

  "ヴォルデモート"の名を呼ぶ者はほとんどいない。彼が消えて10年たった今でも、その名を呼ぶことさえ恐れているのだ。基本的には"例のあの人"や"名前を言ってはいけないあの人"などと呼ばれている。

  ハリーがヴォルデモートの名を言っても、平然としていたセフォネが、おろおろしているハリーにそれを説明した。

 

「貴方が"闇の帝王"の名を言ったからですよ、ハリー・ポッター。魔法界ではその名は禁句なのです」

「あ、そうか。ごめんよ。さっきも言ったけど、本当に何も知らないんだよ。名前を言っちゃいけない、ってこともつい最近知ったばかりなんだ。僕、学ばなくちゃならないことが一杯あるんだ…」

 

  ハリーはずっと気にかかっていたことを、初めて口にした。

 

「きっと、僕、クラスでビリだよ」

 

  落ち込んでいるハリーを見て、ショックから立ち直ったロンが慰めるように言った。

 

「そんなことはないさ。マグル出身の子だっているし、そういう子でもちゃんとやってるから」

 

  話をしている間に、汽車から見える風景が変わっていた。田園風景が去り、広大な野原や、そこを通る小道などの横に、所々牧場があるのが見える。

  12時半ごろ、通路でガチャガチャと音がして、車内販売の販売員がやってきた。

 

「車内販売よ。何かいりませんか?」

 

  ハリーとエリスは腹を空かせていたようで、勢い良く立ち上がると通路に出ていった。ロンは耳元を赤らめて、サンドイッチを持ってきたから、と口ごもった。

  彼の家はおよそ裕福であるとはいえない。そのため、ロンはまだ小遣いを貰っていなかったのだ。

  ロンはデコボコの包みを取り出して、それを開いた。同じように席に座ったままのセフォネを見て、ふと尋ねた。

 

「あれ?セフォネは?」

「私も、家の者が持たせてくれたので」

 

  そう言ってセフォネも黒塗りの木箱を取り出した。そこにはクリーチャーが作ったサンドイッチが入っていた。

  ハリーとエリスはコンパートメントに戻ってくると、大量に買い込んだ菓子類をドサッと置いた。

 

「お腹空いてるの?エリスも」

「朝寝坊しちゃって朝ごはん、食べてなかったの」

「僕も朝食べてなかったから」

 

  その後ハリーが買い込んだ菓子をロンに分けたり(エリスは全て平らげてしまった)、ハリーが魔法界の菓子に驚いたりと、食事を満喫した。

  車窓から見える風景には畑も野原もなく、森や小川など、自然溢れるものとなっていた。

  賑やかなコンパートメントの中で、セフォネがそれをチラリと見た時、扉をノックして丸顔の少年が半泣き状態で入ってきた。

  どうやら、ペットのヒキガエルが逃げ出したらしい。このコンパートメントにもいないと分かると、しょげかえって出ていった。

 

「僕のペットなんて、逃げようともしないけどね」

 

  そう言うと、ロンは自分のペットのネズミを指差した。ネズミはロンの膝の上でずっと眠っている。

 

「昨日色を変えようとしたんだけど、上手くいかなくって。ちょっとやってみようかな」

 

  ロンはトランクから杖を取り出すと、ハチャメチャな呪文を唱えた。当然、色を変えるものでもないし、魔法ですらない。大方、からかい半分で彼の兄に吹き込まれたのだろう。

  そこに、さっきの少年が栗色のボサボサした髪の少女とともに入ってきた。

 

「ねえ、ヒキガエル見なかった?」

 

 なんとなく、威張った感じの話し方だった。

 

「さっきも見なかったっていったけど?」

 

 その態度が少し気に食わないのか、ロンは素っ気なく言い返した。だが、その少女は聞いてもいない。むしろ、ロンが出した杖を注視していた。

 

「魔法をかけるの? それじゃ、見せてもらうわ」

 

  実際には失敗した後だったのだが、少女は興味津々である。あたふたしているロンを、セフォネは暫し、面白そうに眺めていたが、やがて自分の杖を懐から取り出し、軽く一振りして黄色に変えた。

 

「凄いわね、貴方。私も練習のつもりで色々試したんだけど、どれも上手くいったわ。私の家族は魔法族じゃないから、手紙が来たときは本当に驚いたわ。先生が目の前でカップをネズミに変えたのを見て、初めて魔法の存在を知ったの。普通の学校に行く予定だったんだけど、魔法学校からの入学の誘いなんて、断るわけないじゃない? ……教科書は全て暗記したわ。それで予習が足りるといいんだけど。私ハーマイオニー・グレンジャー。貴方たちは?」

 

  これぞザ・マシンガントークであろう。一気にこれだけを言ってのけた。

  ハリーは"暗記"だの"予習"だのという言葉に唖然とした。ロンも同じく唖然としている。

  エリスはどうなのだろうか、と思ったセフォネが彼女を見ると、別段普通の表情だった。

 

「予習としてはパーフェクトだと思うわよ。私は全部暗記とまではいかなかったから。エリス・ブラッドフォードよ」

「ペルセフォネ・ブラックと申します」

 

  2人が自己紹介をしたのを見て、ハリーとロンも自己紹介をした。すると、ハーマイオニーはハリーのことを知っているようで、感心したようにもう一度、マシンガントークをかました後、カエルを探す少年、ネビルを引き連れて出ていった。

 

「さて、着替えようか。じゃあ、2人は外で待ってて」

 

  エリスの言葉に従い、ハリーとロンは出ていった。数分後、ホグワーツの制服に着替えたセフォネとエリスが入れ替わって外に出て、4人とも着替え終わった。

 

「そういえばさ、君のお兄さんたちってどこの寮なの?」

 

  着替えが終わって再び席に腰を落ち着けたハリーが、ロンに尋ねた。

 

「グリフィンドール。ママもパパもそうだったんだ。もし僕がそうじゃなかったら、何て言われるか。レイブンクローなら悪くないけど、スリザリンだったらそれこそ最悪だよ」

 

  ロンの言葉に、エリスが反応した。少しムッとしているようだ。

 

「スリザリンだからって、それが悪いわけじゃないわ。現に、私のパパだってスリザリンだったけど、とっても優しいもの」

 

  セフォネは別にロンの発言を気にした訳ではなかったが、エリスに続けて言った。

 

「ちなみに私の家の者も、ただ1人を除いて全員スリザリンですわ。もっとも、その1人は家系図から削除されておりますが」

「な……」

 

  この2人の少女がスリザリン家系の者であったことに、ロンはショックを隠せないようだった。ホグワーツの寮はある程度、家系で決まる側面がある。そして、スリザリン家系の家からは闇の魔法使いが数多く出ている。何を隠そうあのヴォルデモートもスリザリンの生徒であったのだ。

  車内が気まずい沈黙に包まれる中、またしてもコンパートメントの扉が開き、3人の少年が入ってきた。

 

「このコンパートメントにハリー・ポッターがいるって聞いたんだけどね。君かい?」

 

  その後ネチネチと嫌味を言ってくる、このドラコ・マルフォイという少年と、ロン、ハリーは口論となっていき、次第にヒートアップしていく。

 

「へえ、僕とクラッブ、ゴイルとやる気かい?」

「今すぐ出て行かないならね」

 

  先程の件で少し怒っていたエリスも、いまはハラハラとその光景をみている。今まで外を眺めていたセフォネは1つ、溜息をついた。

  セフォネはマルフォイという家がどのようなものかを知っている。魔法界の名家であり、純血主義を掲げる者たちである。

  ちなみに、ドラコの母親はセフォネの母親の従姉であり、ドラコとセフォネは"はとこ"の関係にある。それに加え、セフォネは彼の父親ルシウス・マルフォイと面識があった。

  そうではあるものの、5年以上表舞台に顔を出していないセフォネとドラコは初対面である。

 

「"死喰い人"の子……か…」

「ん?」

 

  セフォネが呟いた内容までは聞こえなかったらしいが、ここでようやくハリーとロンの他にも2人の少女が乗っていることに気づいたらしい。

 

「君たちは?」

「エリス・ブラッドフォードよ」

「ペルセフォネ・ブラックと申します」

 

  自己紹介は本日3回目になるだろうか。長らく1人でいたセフォネにはそれが新鮮でもあったが、同時に少し面倒でもあった。

  さて、ドラコはセフォネの名を聞くと、一瞬驚き、途端に態度が変わった。

 

「君が噂の、ブラック家の現当主か?」

 

  ドラコの発言に、ロンとエリスがハッとする。ドラコの後ろに立つクラッブとゴイルはセフォネを凝視した。

 

「その通りでございますわ」

「なら君も分かっているだろう。ウィーズリーなんてのがどんな連中か。なんでこんな奴らと関わっているんだ?」

「誰と関わろうが、私の勝手です。それに、私は純血主義者ではありませんわ」

 

  その言葉に、マルフォイは酷くショックを受けたようだ。目を見開き、今セフォネが言ったことが信じられない、という表情になっている。

 

「なんだって!?あのブラック家の人間ともあろう者が、純血主義を否定するのか!?」

「"純血よ永遠なれ(Toujours Pur)"。それが我が家の家訓であることは確かなことです。ですが、その考えにより我が家は衰退し、いまは私のような若輩者が当主の座にあるというのが現実。血族による選民思想など、時代錯誤な中世の産物にしか過ぎず、逆に魔法族を滅ぼす癌にしかなりませんわ」

「そ、そんな……」

「私が言うことはもう何もありません。速やかに立ち去りなさい、親愛なる我が再従兄よ。母君によろしくお伝えください」

 

  マルフォイは青白い顔をさらに青くさせ、コンパートメントから立ち去っていった。

 

「えっと……再従兄って、どういう?」

 

  ハリーはいまいち状況を飲み込めていないようだったが、ロンとエリスはセフォネが何者であるか、理解したようだった。

 

「簡単なことです。私の母の従姉が、彼の母親なのです」

「ていうことは、君も純血なの?」

「一応は、そういうことになります。もう、この話は止めにしませんか? あまり気持ちの良いものではないでしょう?」

「そ、そうだね」

 

  その後、再びコンパートメントを沈黙が支配する。気まずさが最高潮になったその時、車内にアナウンスが流れた。

 

『あと5分でホグワーツに到着します。荷物は別に学校に届けますので、車内に置いていってください』

 

  ようやくこの沈黙が続く空間から開放されるのが嬉しいのか、ハリーとロンは簡単に別れをつげ、とっととコンパートメントから出ていき、出口へと並ぶ生徒たちの列に加わっていった。

 

「私たちも行こうか、セフォネ」

「ええ」

 

  列車が止まり駅に降りると、ダイアゴン横丁でハリーと共にいた大男のハグリッドが、新入生を集めていた。

 

「大きい人ね。半巨人かな」

「恐らくは、そうでしょうね」

 

  新入生は、険しく狭い道を、ハグリッドに続いて降りていく。木がうっそうと生い茂り、左右は真っ暗だった。前を歩いているエリスは2回ほど躓きかけていたが、そのおかげでセフォネは危ない場所を避けて通ることができた。

 

「みんな、ホグワーツがまもなく見えるぞ」

 

 ハグリッドが振り返りながら言った。

 

「この角を曲がったらだ」

「「「「「「うおーっ!」」」」」」

 

  あちこちから歓声が上がる。狭い道が開け、大きな湖のほとりに出ると、向こう岸にそびえ立つホグワーツ城を一望することができた。

 

「ここがホグワーツ……」

 

  これから7年間の彼女の学校生活には、一体どんな事が待ち受けているのだろうか。

 

「どちらにしろ、退屈せずには済みそうですわね」

「ん? 何か言った?」

「いえ、何も。さあ、ボートに乗りましょう」

 

  セフォネたち新入生は4人1組でボートに乗り、ホグワーツ城へ向かった。




オリキャラ、エリスの登場です。彼女はセフォネの無二の親友となります。
次回、組分け。

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