ハリー・ポッターと生き残りのお嬢様 作:RussianTea
ダンブルドアがホグワーツから追放された。このニュースはホグワーツの殆どの生徒にとって、最悪と言わざるを得ない。今世紀で最も偉大な魔法使いと評されるダンブルドアが消えた今、スリザリンの継承者が恐れるものは何もないのだ。今までは死者こそ出ていなかったが、これからは分からないだろう。
「でもまあ、私たちは大丈夫よね」
夕食以降の外出が禁止されている為、いつも以上に人が多い談話室の角にあるソファーに座り、変身術の宿題に手をつけているエリスが呟く。その言葉に、エリスの目の前でいつもの様にやたら古くて分厚い魔法書を読んでいるセフォネが、含みのある笑みを浮かべた。
「さて、それはどうでしょうか。スリザリン生が狙われる可能性は充分にありますわ。特に、私と貴方などは」
「え?」
「何?」
2人のすぐ側で、クラッブとゴイルを相手に"秘密の部屋"について高説を垂れていたドラコが反応した。
「どういうことだ? エリスも君も純血だろう?」
「純血だからこそ、とでも言いましょうか。異教よりも異端のほうが罪は重いのですよ」
「全然分からないんだが」
「私たちは純血ではありますが、純血主義に傾倒してはおりませんし、マグル生まれを排斥する思想も持ち合わせてはいない。それは一歩間違えれば"血を裏切る"こととなり得ます。そう、ウィーズリー家のような」
「なるほどね……って納得してる場合じゃあないじゃない!」
「だから貴方も充分気を付けて下さいね」
自分も被害者になり得ると知り、エリスは恐怖に身を震わせた。余計なことを言ってしまったか、とセフォネは少し後悔し、フォローしようと言葉を探す。だが、セフォネより先にドラコが口を開いた。
「なあに、大丈夫さ。いざとなったらこの僕がいる。マルフォイ家の長男であり次期当主である僕がいれば、スリザリンの継承者とはいえ……」
胸を張って言うドラコだったが、セフォネとエリスはその言葉に目を瞬かせた後、肩を震わせた。
「な、何だその反応は?」
「ふ……ふふふっ…」
「あっ……ははっ…」
突然笑いを堪え始めた2人の様子に、ドラコは不快そうに目を顰めた。目尻に浮かんだ涙を払いながら、エリスが言い訳を始める。
「いや、だってさ……それセフォネの前で言う台詞?」
「え……あっ」
よくよく考えてみれば、この中で最も強いのはセフォネである。その実力は教員とタイマンを張れるほど。ドラコが1人いようが2人いようが関係ないのだ。
「しかしまあ、その言葉は素直に嬉しいですわ。生意気なだけの坊っちゃんかと思っていましたが、やはり男の子ですね」
「ねー。"この僕がいる"なんて、ちょっと惚れちゃうわよ」
「な、なん、何を言ってるんだ!? というか誰が生意気な坊っちゃんだ!」
「貴方のことですよ」
「そういうことじゃなくてだな!」
顔を真っ赤にして怒り出したドラコを、セフォネとエリスは暫くの間いじり倒した。
そんな中でも学年末試験は予定通り行われるようで、生徒たちは課題の消化に追われていた。この状況下で試験を行うのかと生徒たちは驚愕したが、校長代理を務めるマクゴナガルは、可能な限り通常通りの学校運営をしたいらしい。
試験が3日後に迫ったある日。朝食時にマンドレイク薬が夜にも出来上がるという報告がされ、多くの生徒が安堵した。
「これでハーマイオニーも元通りね」
「ですね。試験まで後数日だと知った時、どんな反応をするのでしょうか」
「ハーマイオニーのことだから、きっと発狂するわね」
午前中最後の授業は呪文学。故に、多少のお喋りが咎められることはない。セフォネとエリスは課題をこなしつつも会話を続けた。
「でもさ、もしマンドレイク薬を作るのに失敗したらどうするんだろ?」
「マンドレイクは結構ありますし、それにスネイプ教授に限って失敗は無いでしょう」
「それもそうね」
その時終業を知らせるチャイムが鳴った。エリスと共に大広間へ向かおうとした時、学校中にマクゴナガルの声が鳴り響いた。
「全生徒はそれぞれの寮にすぐに戻りなさい。教師は至急職員室へと集まって下さい」
廊下にいる生徒たちは、一斉に静まり返った。
「これって……」
「新たな事件ですね」
セフォネは地下牢へ続く階段を降りながら、式札を職員室へ展開した。
ジニー・ウィーズリーが連れ去られた。
会議を終えたスネイプからスリザリン生に語られた内容はそれだった。聖28一族にも選ばれた、間違いなく純血だとされるウィーズリー家の末っ子が被害にあったという知らせは、スリザリン生までも恐怖に陥れた。
「ウィーズリーは"血を裏切る者"だからか……」
少し前にセフォネから、純血でも被害者になり得る可能性を聞いていたドラコは、納得したように頷いた。
だが、セフォネは違和感を覚えていた。
「それならば、今まで通り襲撃すれば良いはず。しかし、態々誘拐したとなると……」
自分の考えが正しいのならば、秘密の部屋に隠された怪物というのは、"毒蛇の王"バジリスクだ。
バジリスクとは、体長が最長で15メートルにもなる毒蛇であり、その猛毒を中和する方法は殆ど無いという、まさしく毒蛇の王たる存在である。最大の特徴は眼であり、この眼を直視した者は即死すると言われている。よって、魔法省が定めた魔法生物の危険レベル指数、M.O.M分類は討伐例が1度しかないキメラと同じXXXXXであり、その危険性から創り出すことは中世の時点で禁止された。英国国内では400年間は目撃されていないとされているが、あくまで記録上の話だ。
ホグワーツが出来たのは1000年以上前であり、そして秘密の部屋もその時作られた。サラザール・スリザリンがホグワーツを去ってから10世紀もの間、バジリスクはその役目を果たすため、秘密の部屋で密かに生きてきたのだろう。
もし本当に生徒たちを襲った犯人がバジリスクだとして、果たして生徒を攫うだろうか。となると、ジニー・ウィーズリー誘拐犯はバジリスクを操っているであろうスリザリンの継承者なる者。ならば、その目的は一体何なのか。
「本日は何があっても外を出歩いてはならん。分かったな? では監督生、後を頼む」
セフォネが思考の海に沈んでいる間にスネイプの話は終わり、寮内に沈黙が訪れた。大部分は純血の生徒が襲われたことに恐怖しているようで、ようやくこの事件が他人事でないと理解したようだ。パニックにはならず、泣き叫ぶ者こそいなかったが、その代わりに談話室は痛い程の沈黙に包まれていて、1人また1人と寝室へと降りていく。とうとう談話室には、ずっと考え込んでいるセフォネと、またしても知り合いが襲われたことに動揺を隠せないエリス、心の余裕があるドラコの3人しかいなくなった。
「僕はもう寝るよ。一応荷造りもしておいたほうがいいかな?」
「そうよね……流石に今回は閉鎖されるかもしれないし………セフォネはどう思う?」
ようやくセフォネが反応し、顔を上げた。だが、全く話を聞いていなかった。
「え? っと……すいません、聞いてませんでした」
「荷造りしておいたほうがいいかって話」
「ああ、そうですね。その決定は明日でしょうから、まだ大丈夫だと思いますわ」
「そうか。ならとっとと寝るとするよ」
ドラコは欠伸を噛み殺しながら、寝室へ降りていった。
「私たちも寝ましょうか。私たちが起きていても、何も変わりありませんし」
「そうね。寝よっか」
深夜。3つの寝息が聞こえる寝室で、セフォネは自分のベッドから静かに起き上がった。
(あの無能にも式札をつけておいて正解でしたね)
寝間着の上にカーディガンを羽織り、セフォネは談話室へ来た。暖炉の近くに座り、テーブルの上にレーズンバターサンドとチョコレートを置く。これはクリスマスに大量に送られてきたプレゼントの一部だ。セフォネが甘党だという事実はかなり知れ渡っているらしく、見知らぬ人からのプレゼントの8割は高級菓子だったのだ。
「クリーチャー」
セフォネが静かに呼びかけた途端、クリーチャーは"姿現し"して、ロンドンの自宅から遥々やって来た。
「お呼びでございますか」
「30年物のウイスキーを」
「……かしこまりました」
学校内で堂々と飲酒する気のセフォネに暫し言葉を失ったが、それでこそ我が主だとクリーチャーは深々とお辞儀して"姿くらまし"し、ボトルを1本抱えて再び"姿現し"した。流石気が利いており、氷が入ったグラスまで持ってきている。
「ありがとうございます。急に呼び立ててしまって申し訳ありませんね」
「そんな、滅相もございません。日頃お嬢様には下僕たる屋敷しもべ妖精には身に余る扱いをしていただいているのでございますから、たとえお嬢様が地球の裏側におられようとも、このクリーチャー、何時でも馳せ参じる所存にございます」
「全く、大袈裟ですよ。では、お休みなさい」
「お休みなさいませ、お嬢様」
もう一度深々とお辞儀をし、クリーチャーは屋敷へ戻っていった。クリーチャーの多大な忠誠心に笑みを零すと、セフォネはグラスに琥珀色の液体を注ぎ、目の前に広げた物をつまみに1杯やり始めた。
無論、ただ無意味に酒を飲んでいるのではない。セフォネは式札を通して、ハリーとロンがロックハートを連れて秘密の部屋に突入している様子を、リアルタイムで聞いている。それを肴に1杯やりたくなったのだ。もはや、休日に競馬中継を聞きながらビールを飲むおっさんと大差無い。
グラスを傾け1口飲んだ。40パーセントを超えるアルコールが程よく喉を焦がし、ピートの香りが鼻を抜ける。
「おやおや、無能は早速脱落ですか」
ロンの杖を奪って忘却術をかけようとしたロックハートの呪文は暴発し、自分自身が吹き飛ばされたようだ。その衝撃で天井が崩れ、ロンと切り離されたハリーはその先を1人で進んでいくことにしたようだ。セフォネは式札を瓦礫の間を掻い潜らせハリーを追わせた。
「程々にしなければ、明日に響きますかね」
グラスを揺らすと、氷がカランと小気味よく鳴った。
夜1時過ぎ、セフォネは廊下を歩いていた。ほろ酔いですらないが、夜の空気に当たりたくなったのだ。勿論"目くらまし術"は掛けている。
あの後、
スリザリンの継承者はハリー・ポッターによって打ち倒された。
日記を通してジニーを操っていたのは、トム・マールヴォロ・リドル、後のヴォルデモート卿の記憶であり、ハリーは不死鳥のフォークスの助けもあり、バジリスク共々葬った。
そして今、ウィーズリー一家と共にハリーは校長室にいる。何が起こったのかをマクゴナガルと、いつの間にか帰ってきていたダンブルドアに報告していた。
「日記……ね」
人に寄生し、尚且つ魂に影響を及ぼすような闇の物品など、そう転がってはない。そしてそれを、偶然ジニーが手に入れたとは考え難い。
ダンブルドアとハリーは2人きりになったようだが、そこで、式札から何も聞こえなくなった。
「あの狸爺……」
自分には聞かせたくない内容である為、ダンブルドアが式札を破壊したのだろう。
「先に大広間へ行きましょうかね」
ダンブルドアは宴会だと言っていた。明日でもいいだろうにこんな夜中に開くとは、やはりあの校長はどこか変だ。
と、そこに何故かルシウスの怒号が聞こえてきた。
「召使の分際で余計なことを!」
何かと思って行ってみると、階段の上で怒心頭のルシウスが屋敷しもべ妖精を怒鳴りつけながら歩いていた。そこにハリーが現れた。
「マルフォイさん、貴方に差し上げたい物があります」
ハリーは何か四角い物が入った靴下を、ルシウスに放り投げた。
「何だ?」
ルシウスは靴下から中身を引っ張り出すと、靴下を投げ捨てて、怒りを超え憎しみが篭った目でハリーを睨みつけた。そのせいか、彼はたった今屋敷しもべ妖精に靴下を、即ち服を与えてしまったことに気付いていない。
「君の両親もお節介の愚か者だった。やがて同じ目に遭うぞ、ハリー・ポッター」
努めて穏やかな口調で言うと、ルシウスは立ち去ろうとした。
「ドビー、来い」
しかし、ドビーと呼ばれた屋敷しもべ妖精は動かない。先程ルシウスから靴下を与えられたということは、ドビーはマルフォイ家を解雇されたのであり、ルシウスに従う義務が無くなったのだ。
「ドビーは自由だ!」
ルシウスは暫し固まっていたが、やがて事実を理解したようで、青白い顔を怒りのあまり紅潮させた。
「貴様よくも私の召使を!」
「ハリー・ポッターに手を出すな!」
ハリーに飛びかかったルシウスを、ドビーが吹き飛ばし、ルシウスは階段から落ちてセフォネの目の前で倒れこんだ。屋敷しもべ妖精は杖を使わずに独自の魔法を操り、その魔力は並の魔法使いよりも強力なのだ。人1人吹き飛ばすことなど造作もないだろう。最も、これは攻撃に用いられることはほぼ無い為、中々稀有な事象である。
「すぐに立ち去れ!」
ルシウスは杖を取り出し、ドビーは長い指をルシウスに向ける。
「まあまあ、落ち着いて下さい、ルシウス」
「………セフォネか?」
最上級に不機嫌な様子ながらも驚いて、ルシウスが"目くらまし術"を解いたセフォネを見た。 そして目があった瞬間セフォネはルシウスに"開心術"を掛け、今回の件の黒幕がルシウスだったことを、そしてそれを阻止すべく、屋敷しもべ妖精が度々ハリーに忠告していたらしいことを知った。
「主に逆らった下僕を置いておく必要はないでしょう? 屋敷しもべ妖精ならば、屋敷しもべ妖精転勤室へ行けばいくらでもいるでしょうし」
「………そう、だな」
段上に立つハリーとドビーを忌々しげに睨むと、セフォネに軽く頭を下げてルシウスは去っていった。
ドビーは自由になったことを喜び、ハリーに何度も礼を行った後、何処かへ"姿くらまし"していった。
「セフォネ……なんでここにいるんだ?」
「貴方と会うと、何時もその台詞ですね。例によって散歩ですよ」
式札を通して全て盗聴していた、などとは言うはずも無く、不敵な笑みを浮かべてそう誤魔化す。
「マルフォイの父親と知り合いなのか?」
「ええ。生き残っている親族の中で最も近い間柄ですし、色々とお世話になったこともありまして」
「そう……なんだ」
ハリーが微妙な顔になる。彼にとってはマルフォイ親子は嫌な奴で、その2人と良好な関係にあるセフォネに対して複雑な思いを抱いているのだろう。
「貴方には嫌な大人にしか見えていないのでしょうが、彼は親しい者には紳士でしてよ? ドラコもまた然り。私の交友関係はさておき、大広間へ行きましょうか」
「そうだね、宴会があるから……って何で知ってるんだ?」
「先程から質問ばかりですね」
「ご、ごめん」
セフォネが少し不機嫌そうな表情を作っただけでしどろもどろになるハリー。その様子が可笑しくてつい笑ってしまった。
「ふふふ……あっははははははははっ!」
ハリーは突然の爆笑に唖然としていたが、やがてからかわれたことに気付いて顔を赤くして目を逸らした。
「ハリー・ポッター……貴方は本当に興味深い人間ですわ」
「え?」
急に雰囲気が変わった。ハリーは不審そうにもう一度セフォネを見た。彼女は笑っていた。いや、嗤っていた。口元は三日月型に歪められ、尖った犬歯が牙のように覗いている。ハリーは背筋に冷たいものを感じて身を震わせた。
「何時も何時もトラブルを呼び込み、それを解決する。しかも、自らの力量を超えた敵相手に。杖なしの12歳の少年がまさか、齢1000年で衰弱していたとはいえ、バジリスク相手に立ち向かうとは。そして、若かりし"闇の帝王"をも打ち倒してしまった……」
先程とは違い、くつくつと喉を鳴らして不気味に嗤う。
「面白い。非常に面白い。私は愉快でなりませんわ」
蛇に睨まれた蛙のように見動き1つで出来なくなったハリーに顔を近づける。
「ハリー・ポッター……"闇の帝王"を倒し、
そして、耳元で囁いた。
「――私を愉しませて下さいね」
セフォネの狂気に当てられて固まったハリーを後ろ目に、セフォネは大広間ではなく、きっと起きれないであろう友人を起こしに寮へ向かった。
1人残されたハリーは思った。セフォネはヴォルデモートよりも恐ろしいかもしれない、と。
また1年が過ぎた。ホグワーツから帰る汽車のコンパートメントの面子は、去年と同じである。
「結局、万事解決で良かったわね」
「良いものか。今年もグリフィンドールに優勝され、尚且つ父上が理事を辞めさせられ……」
「まあまあ、これでも食べて」
ブツブツと文句を言い始めたドラコの口に、百味ビーンズを放り込んだ。なるべく不味そうなのを選んだが、案の定不味かったらしく、ドラコは顔をしかめて唸った。
「来年こそは優勝したいわね」
「ええ。その為にもクィディッチも頑張って下さいね」
「勿論よ」
列車が駅につき、セフォネはホームで2人と別れた。
去年はタクシーを拾ったが、今年はその必要は無い。臭い消しのブレスレットを着けて路地裏に入ると、グリモールド・プレイス12番地へ"姿現し"した。
扉を開けると、直ぐさまクリーチャーが"姿現し"し、セフォネを出迎えた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ええ、ただいま戻りました」
「お、お帰りなさいませ」
慌てた様子のラーミアの声が、そして階段を駆け上がってくる足音が下から聞こえてきた。彼女には仕事がない時にはブラック邸の4階を除き、全ての物を自由に使っていいと言ってある。この時間帯であれば、掃除も終わっているだろうから、読書していた為に地下2階の書庫にいたか、料理をしていて地下1階の厨房にいたかのどちらかだ。
「そんなに慌てずとも」
セフォネは杖を一振りしてトランクを部屋へ送り、その間にラーミアが玄関についた。そしてその姿を見て、セフォネは一瞬固まった。
「ごめんなさい。食糧庫の整理をしていたんです」
「ラーミア、髪切ったのですね」
腰まであった銀色の髪は肩口までの長さになり、伸び放題だった前髪もきちんと切り揃えられた、所謂ボブカットになっていた。
「え? あ、はい。書庫にあった"散髪テクニック100"という本を読んで、ちょっと試してみたんです」
「似合っていますわ」
「あ、ありがとうございます」
セフォネに褒められて、ラーミアは頬を赤らめた。
「私もそろそろ切りましょうかね」
セフォネが毛先を弄りながらそう呟いた。エリスからは直毛で羨ましいと言われるが、黒髪のストレートはジャパニーズドールみたいに見えて、セフォネはそのことをやや気にしているのだ。
「とまあ、それはさておき、ラーミアちょっとついて来て下さい」
「はい」
セフォネはラーミアを連れて客間へやって来た。ここに掛かっているタペストリーには金の刺繍でブラック家の家系図が描かれているのだ。
「さて、ラーミア。約束通り私は貴方の両親を調査しました」
これは6ヶ月前、セフォネがホグワーツへ戻る前にラーミアに約束したことだ。もし、ラーミアがマグル生まれの魔女でなければ、両親のどちらかは必ず魔法族であり、それならば両親のことが分かるかもしれない。そういう訳で、セフォネはホグワーツの卒業名簿を調べた。そしてその結果、当たりを引いた。
「貴方の父親と思われる人物の名がありました」
ライアン・ウォレストン。レイブンクロー寮に所属していたらしい男性で、生きていたら36歳であるらしい。
「残念ながら、お母様は分かりませんでしたが、ミスター・ライアンの来歴もいくつか判明しました。まずはこれです」
セフォネは杖で、家系図の一部を差した。1700年頃の場所である。そこには、ブラック家からレヴァインという家に嫁いだ人物が描かれていた。
「レヴァイン……さん? これは……」
「貴方のご先祖様らしいです」
「ご先祖様……ってええええぇぇ!?」
つまりは、セフォネとラーミアはかなり遠い親戚にあたるということだ。驚いて空いた口が塞がらないラーミアを見て、セフォネは微笑んだ。
「随分と前に廃れてしまった純血家系のようですが、これがウォレストン家のルーツです。そしてここから先は貴方の出生についての話ですが……あまり良い話とは言えません。それでも聞きますか?」
打って変わって真剣な表情となったセフォネを見て、ラーミアは少し躊躇したが、こくりと頷いた。
「貴方のお父様、ライアン・ウォレストンは死喰い人でした」
「死喰い人って……確か"例のあの人"の………」
「ええ。"闇の帝王"の思想に賛同し、彼に忠誠を誓った闇の魔法使いたちのことです」
幼い頃から父や母について、色々な幻想を抱いていたラーミアだったが、実は犯罪者だったという事実を知り、胸が痛くなった。失望のあまり涙が出そうになるが、セフォネが続けて言った言葉は、ラーミアの涙を別の意味に変えた。
「ですが、ライアン・ウォレストンはそこから抜け出した者の1人でした。原因はマグルの女性に恋したからだそうです。そこから先は不明ですが、恐らくお母様もろとも裏切り者として他の死喰い人に始末されたのかと思われます。彼らには子供が1人いて、その子を逃がすために2人は死んだのだという噂があったそうで、それが貴方なのでしょう。随分と不確定な調査結果で申し訳ないのですが……」
セフォネは努めて淡々と事務的に話した。下手に感情を入れて、ラーミアを悲しませたくなかったためだ。一言も喋らないラーミアのほうを向くと、彼女は唇をギュッと結び、手を胸の前で握り締めながら、静かに涙を流していた。
10年以上孤児として生きてきて、初めて知る両親の真実。それも、自分を守る為に命を賭した。それは、まだ幼い少女のラーミアにとって悲しくもあり、大切にされていたということは嬉しくもあり、感情がごちゃまぜになってどうしてよいか分からなくなった。
セフォネはそんなラーミアの頭を、そっと抱きしめた。人は泣いている時には誰かの温もりを求めているのだと、セフォネは最近になってようやく理解していた。
ラーミアはセフォネに腕を回し、強く抱きついてくる。やはり、セフォネにとってラーミアは従者というよりは守りたい妹のような存在だ。
初めて出会った時と比べて大分短くなった髪を梳かすように、セフォネはラーミアが落ち着くまで彼女の頭を撫で続けた。
狂気セフォネ&姉セフォネでお送りしました。
ハリーに対してとラーミアに対してのこのギャップ……
まあ何はともあれ秘密の部屋編は終了しました。
そして次の章はついにセフォネの伯父シリウスの登場です。