ハリー・ポッターと生き残りのお嬢様   作:RussianTea

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悪夢のバレンタインと追放

 ホグワーツのクリスマス休暇も今日が最終日。セフォネはホグワーツへと戻るため、キングス・クロス駅へ向かおうとしていた。

 

「「行ってらっしゃいませ、お嬢様」」

 

 そんなセフォネを見送る声が2つ。1つはキーキーと甲高い、屋敷しもべ妖精のクリーチャーの声。そしてもう1つは少し掠れた、どこかか細いような声。この冬にブラック家に就職したラーミアの声である。

 ラーミアがブラック家の使用人となってからおよそ1週間ほど経ったが、この間に彼女は随分と魔法界に適応していた。セフォネの手ほどきもあって既に幾つかの魔法を習得し、元より読書が趣味であった彼女はブラック家の蔵書もある程度理解出来るようになった。

 

「貴方に"お嬢様"と呼ばれるのは、まだ慣れませんね。普通に名前でいいんですよ?」

「いえ、私はブラック家の使用人(メイド)ですから」

 

 となぜか嬉しそうに"お嬢様"と呼ぶラーミアに、そんな満面の笑みで言わなくてもいいだろうに、とセフォネは苦笑した。

 

「では、行って参りますわ。留守は任せましたよ、2人とも」

「はい!」

「かしこまりました」

 

 頭を下げて見送る2人に軽く手を振り、セフォネは家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホグワーツへと向かう紅の汽車の中で、セフォネは手帳を広げて独自の魔法の開発に着手していた。

 5つ程並行して行っているが、今最も実現に近いのは"飛行術"である。これは箒なしで空を飛ぶ術であり、理論上は体を変化させれば飛ぶことができる。

 残りの4つは"身体強化魔法(フィジカルエンチャント)"、"幻覚魔法"、"姿現し妨害呪文の無効化術"、"臭いの完全除去"。最初の2つは攻撃用で、後の2つは便利魔法だ。特に"臭いの完全除去"に関しては17歳になるまで待てば自動的に消えるものなので、必要かどうかと言われれば微妙である。

 

「ホグワーツに帰ったら禁書棚に行かなければなりませんね……」

 

 勿論、これは"侵入する"の意味である。如何に自分が教師の名付け子であろうと、スネイプに闇の魔術書の貸出を申請するのは憚られる。

 

「さて、と」

 

 セフォネは"検知不可能拡大呪文"がかかったポーチに研究手帳を仕舞うと、ポーチの中から人型に切られた紙を何枚か取り出した。これは、魔法界でよく用いられる羊皮紙ではなく、極東の地日本の和紙で出来た"式札"と呼ばれるものである。

 人差し指を噛んで傷つけると、セフォネは式札に血を垂らした。

 

「"汝我が血を与えられ、以って我に仕えよ"」

 

 発音に注意して、セフォネは日本語で呪文を唱えた。すると、血が紙に吸い込まれていき、式札がひらりと宙に浮いた。意識を集中して脳内で動きをイメージすると、式札はそのイメージ通りにコンパートメントを飛び回る。

 

「成功ですね」

 

 尤も、この術は以前にも成功している。これは昨年借りた"世界の古代魔術"に載っていた日本だか中国だかの魔法のようで、血液に含まれる魔力を与えることにより発動する。式札を通して、その周囲の音を聞いたりそこにいる人物の気配を感じ取ることが出来る、早い話可動式盗聴器兼レーダーのようなものである。

 

 セフォネは式札を追加していき、何枚まで同時に操れるかを試した。結果は5枚。クリスマス休暇に入った直後は2枚までしか同時に操れなかったので、進歩したと言えるだろう。

 

(後は、どの程度の距離を操れるかですね。それはホグワーツに戻ってから確かめますか……飛行術のほうは………)

 

 ふわふわと浮いている式札を眺めながら、セフォネは思考の海に沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスマス休暇が終わり、授業が再開した。スリザリンの継承者は鳴りを潜め、1ヶ月ほどは何も起きず、つかの間の平穏が流れる。いつもと変わらない日々を、生徒たちは謳歌していた。

 

「エリス。起きて下さい。もう朝ですわ」

「…………後5分……」

 

 テンプレートな寝ぼけに、セフォネは思わず笑みをこぼす。あまりにも幸せそうに惰眠を貪るエリスに、セフォネは起こすのを躊躇ってしまうが、あまりもたもたしていると朝食を食べ損なう。

 セフォネは杖を抜き、軽く振り上げた。途端に大音響が鳴り響き、エリスが飛び起きる。

 

「うわぁ!」

 

 エリスは動転するあまりベッドから転げ落ちた。

 

「おはようございます」

「……おはよー…」

 

 無理矢理覚醒させられた状態でもぞもぞと着替えたエリスと共に、セフォネは大広間へ向かった。

 エリスは暫くボーッとしていたが、急にハッとなってセフォネに言った。

 

「セフォネ、今日って2月14日?」

「いきなりどうしたのですか? 確かに本日は2月14日ですけど」

「どうしたもこうしたも、今日はバレンタインデーだよ!」

「ああ、聖ウァレンティヌスが殉教した日でしたわね」

「あの、いや、そうなんだけどさ……」

 

 どこかずれた反応のセフォネに、エリスは当惑する。年頃の女子であったら、バレンタインデーといえば"愛の誓いの日"という認識だろう。

 そんなエリスの呆れたような表情が不思議で首を傾げたまま、セフォネは大広間の扉を開けた。そして、そこに広がる光景に足を止めた。

 

「な……」

 

 部屋の壁という壁がけばけばしいピンク色の花で覆われ、淡いブルー色の天井からはハート型の紙吹雪が舞っている。スリザリンの長テーブルに行くと、そこにはドラコが今にも吐きそうな表情で座っていた。

 

「これは一体何事ですか?」

 

 朝食につもった紙吹雪に杖を向けて払いながら、ドラコに尋ねた。

 

「あの馬鹿が何かやらかすらしい」

 

 ドラコが顎で示した先には、壁と同色のけばけばしいピンク色のローブを身に纏ったロックハートが満面の笑みを振りまいている。

 その両側に並ぶホグワーツ教師陣は皆、魔法が掛かったように、石のような硬い表情をしていた。

 

「あれですか、精神的な拷問か何かですか」

「存在そのものがクルーシオだな」

「おや、よくご存知ですね」

「当然さ。見たことは流石にないけどね」

「では、お見せしましょうか。この呪文のコツは相手を苦しめようと本気で思い、かつ苦痛を与えることを楽しむことでして……」

「ちょ、駄目だって」

 

 そう言って杖を取り出すセフォネを、エリスが止める。エリスは"クルーシオ"という呪文が何かは知らないが、セフォネの発言からして、間違いなくヤバイ代物だろうと思ったのだ。

 

「落ち着いて、甘い物でも食べてなさい」

 

 すぐ手元にあったセフォネの好物の糖蜜パイを、彼女の口に突っ込む。セフォネはしぶしぶそれを咀嚼した。

 

「貴方って一度敵と見做した人には、ホント容赦ないわよね」

 

 何とか収まったセフォネに呆れた視線を向けながら、エリスはトーストを齧った。

 大広間に大部分の生徒が集まった時、ロックハートは手を挙げた。

 

「静粛に」

 

 異様な光景にざわめいていた生徒たちが静かになる。それを確認したロックハートは生徒たちを見回して高らかに言った。

 

「皆さん、バレンタインおめでとう! 今までのところ、46人から私にカードが届きました。ありがとう! そう、皆さんをちょっと驚かせようと、今日は私がこのようにさせて頂きました。しかも、これだけではありませんよ!」

 

 ロックハートが指をパチンと鳴らすと、大広間のドアから無愛想な顔をした、奇天烈な格好をさせられた小人が12匹ばかり入ってきた。

 

「私の愛すべきキューピットたちです! 今日は学校中を徘徊して、彼らが皆さんのバレンタイン・カードを配ります。お楽しみはまだまだこれからですよ。各先生方もこのお祝いのムードにはまりたいと思っていらっしゃるのです」

 

 そんなことを言っているが、教師たちは皆一様にどこか一点を見つめ、この災厄が過ぎ去るのを待っているようだった。

 ロックハートはお構いなしに言葉を続ける。

 

「さあどうですか、この機会にスネイプ先生に"愛の妙薬"の作り方を教わってみてはいかがですか? フリットウィック先生は"魅惑の呪文"について良くご存知のようですよ。素知らぬ顔をして憎いですね!」

 

 フリットウィックはまだしも、スネイプにそんなことを聞こうものなら毒薬を飲まされそうである。生徒たちは凶悪な顔つきになったスネイプを見て、誰一人笑うことが出来なかった。

 

「らしいですわよ、エリス。セブ……スネイプ教授に聞いてみてはいかがですか? ちょうど今日は魔法薬学の授業がありますし」

「いやいやいやいや。私まだ死にたくないから」

 

 その日一日は、まともに授業が出来る状態ではなかった。キューピット、もとい小人たちは何時何処にいようとも、当人の事情などお構い無しにバレンタイン・カードを配り、教室にも乱入してくる始末だ。

 それだけならまだいいが、セフォネとエリスには大量にカードが送りつけられて来た。カードを受け取ることには抵抗はないのだが、小人はその場その場でカードの内容を読み上げようとした。セフォネは全て"黙らせ呪文"で対処していたが、午後の魔法薬学の時間の前についに我慢の限界を迎えた。

 授業開始5分前、地下牢へと続く階段を降りている途中の、本日何度目か分からない小人とのエンカウント。しかも一度に数匹がこちらへ来る。

 

「また来たんだけど」

 

 最初のほうはカードを素直に喜んで受け取っていたエリスだったが、自分へのラブレターを大声で読まれるのは流石に恥ずかしいし、いちいち名前を間違えられるなど、小人たちに嫌気がさしていた。

 杖を抜いたセフォネを見て、また"黙らせ呪文"で対処するのだろうと思い、エリスも杖を取り出した。だが、何度も何度も"黙らせ呪文"を掛けることがいい加減面倒になったセフォネは、別の呪文を唱えた。

 

インペリオ(服従せよ)

 

 すると途端に小人たちは大人しくなり、何も言わずにカードを差し出し、そのまま去っていった。

 

「何したの?」

「ちょっとした小細工ですわ」

 

 ちなみに、魔法薬学の時間ではスネイプは今世紀最大に不機嫌であり、普段は贔屓にされるスリザリン生たちでさえも恐る恐る授業を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悪夢のバレンタインから数ヶ月経ち、その日はグリフィンドールVSハッフルパフのクィディッチ寮対抗杯の試合が行われる予定だった。しかし、その直前にスリザリンの継承者によって新たに2人の犠牲が出たため、試合は中止となった。

 その夜、殆どの生徒が寝静まった中、セフォネとエリスは談話室にいた。

 

「ハーマイオニー……」

 

 スリザリン生でありながらグリフィンドールの、しかもマグル生まれのハーマイオニーと交流のあったエリスは、彼女が襲われたということにショックを受けていた。

 エリスの横で何やら古そうな書物を読んでいたセフォネは、エリスを安心させるように言った。

 

「幸い、石化しただけのようですからマンドレイクが成長すれば助かります。死んだわけではないですから」

「そうだけど……」

 

 ハーマイオニーが死んだわけではないということくらい、エリスも理解している。しかし、友人が何者かに襲われれば、誰しも何心無くしてはいられない。そして、今までは何処か他所ごとのように感じていた事件だったが、こうして親しい人物が被害に遭うと変わってくる。ハーマイオニーのみならず、他の被害者たちも不憫でならなかった。

 暖炉の火を見つめながらそんな風に考えていたエリスがふと顔を上げると、セフォネが何故か微笑んで自分を見ていた。

 

「何よ、その表情」

「いえ、貴方は本当にいい人なのだなと」

「は? 何で?」

「人の為に心を痛めることが出来るからですよ。言葉や態度、表面的に同情する人は幾らでもいます。そういう人たちは本当に同情してはいない。可哀想だ何だと言いながら、その実他人ごとで。困ったことがあれば何でも言えといいながら、そう言う者たちの8割は社交辞令で。残りの2割の中でも、人を助ける自分に酔う者、自分の利益の為などが大部分で。真に人に憐憫の情を抱ける人は少ない」

 

  話していくうちに、セフォネの表情は変わっていくように思えた。口元の笑みは変わらないが、いつも悪戯っぽく輝く瞳は何処か暗く、悲壮さを漂わせていたが、それは一瞬で、いつものように微笑んだ。

 

「なんて、柄でも無いですね。そろそろ寝ましょうか」

 

  セフォネがエリスを促して寝室へと向かう階段を降りようとしたその時、何かに気づいたセフォネは急に立ち止まった。

 

「どうしたの?」

「ちょっと用事を思い出しました。おやすみなさい」

 

 そう言うと、セフォネは外出禁止令が出ているのにも関わらず、扉を通って出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セフォネは"目くらまし術"を自分に掛けると、禁じられた森へと向かった。城に展開していた式札が、とある来訪者の存在を伝えたのだ。ちなみに、式札にも"目くらまし術"を掛けてある。

 禁じられた森の前にある掘っ立て小屋。そこは森の番人であるハグリッドの小屋だ。式札を通して聞こえるダンブルドアと来訪者の会話によると、50年前に秘密の部屋が開いた時に犯人として逮捕されたのはハグリッドだったようで、重要参考人として連行されるらしい。

 小屋の前で待つこと1分、ダンブルドアと来訪者――魔法省大臣、コーネリウス・ファッジがやって来た。ダンブルドアはセフォネがいる場所へちらりと視線を向けた。

 

(…流石ですわ……)

 

 "目くらまし術"を使用しているため、普通ならば気付かれることはないが、ダンブルドアは明らかにセフォネがいることに気付いている。

 ダンブルドアがドアをノックすると、かなり間を置いてから、ハグリッドがドアを開けた。一言二言交わし、ハグリッドは2人を小屋に入れてドアを閉める。2人が小屋の中へ入って数分。セフォネは外で会話を聞いていた。

 

『――4人も犠牲者がでた。本省が何かしなくては。――』

『――俺は決して――』

『――連行したところで、何の役にも立たんじゃろう――』

『――プレッシャーをかけられ――立場というものが――』

『――まさかアズカバンじゃ――』

 

  その時、黒いマントに身を包んだルシウスがやって来た。その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。やけに力を込めてドアをノックし、了承も得ないままドアを開けた。

 

「もう来ていたのか、ファッジ。よろしい、よろしい」

 

  ルシウスは満足げに言った。その間に、セフォネは小屋の中に体を滑り込ませた。ルシウスのマントの裾が僅かにたなびいたが、それに気付いたのはダンブルドアだけのようだ。

 

「何のようだ? 俺の家から出ていけ!」

 

  ハグリッドは敵意剥き出しに叫ぶが、そんなハグリッドをルシウスはせせら笑った。

 

「威勢がいいことだ。私としても、この……あー…家と呼ばれているこの場所に留まることは本意ではない。校長がここだと聞いたのでね」

「わしに一体何のようじゃね、ルシウス?」

「残念なことに、ダンブルドア。我々理事会は貴方が退く時が来たと感じていましてね。ここに、12人の理事が署名した"停職命令"がある。貴方はこの恐ろしい事態に対処できないと判断しましてね」

「待ってくれ、ルシウス。ダンブルドアを停職など……今という時期に、それは絶対に困る……」

「理事会の決定事項ですぞ、ファッジ」

 

  ファッジは動揺していた。それもそうだろう、ダンブルドアがこの学校からいなくなれば、スリザリンの継承者は益々過激になり、次は死人がでるかもしれないということは想像に容易い。

 

「ダンブルドアを辞めさせられるものならやってみろ!」

 

  ハグリッドは激情に駆られて怒鳴り散らすが、ダンブルドアがそれを窘めた。

 

「落ち着くんじゃハグリッド。ルシウス、理事たちがわしの退陣を求めるなら、勿論退こうと思う。しかし、覚えておくがよい。わしが本当にこの学校を離れるのは、わしに忠実な者がここに1人もいなくなった時じゃ。ホグワーツでは助けを求める者には、必ずそれが与えられる」

 

 一瞬ダンブルドアの視線が小屋の隅に向いた。ダンブルドアとファッジが来る前から小屋の前にいたセフォネは、そこにハリーとロンが隠れていることを知っていた。今のダンブルドアの言葉は、2人に向けて言ったのだろう。

 

「あっぱれなご心境ですな。我々理事会は貴方の後任が"殺し"を防ぐことを切に願いますよ」

 

  ルシウスが扉を開けてダンブルドアを先に送り出す。ファッジはハグリッドが先に出るのを待っており、その間にセフォネは小屋から出た。ハグリッドはハリーたちに向け、蜘蛛の後を追うことを示唆し、飼い犬に餌を与えることを頼むと小屋から出ていく。

 

「では、行こうかハグリッド」

 

  ファッジは罪のない者をアズカバンに送ることに対して何も思うところはないようで、寧ろ自分が事件に対して何らかのアクションが出来たことにホッとしているようだった。

 

「すまない、ハグリッド。辛いとは思うが堪えてくれ」

 

  ダンブルドアの言葉に、ハグリッドが今にも泣き出しそうになる。その様子を、ルシウスはただ冷ややかに見ていた。

 

「お待ちを」

 

  突然背後から聞こえた声に、ダンブルドアはゆっくりと、それ以外の3人は驚いて振り返った。セフォネは"目くらまし術"を解き、姿を現した。

 

「こんばんは、皆様。いい夜ですわね」

 

  セフォネは驚愕している3人に微笑んだまま一礼した。ルシウスが驚きを隠さずに尋ねる。

 

「セフォネ。何故君がここにいるのだ?」

「ミスター・ハグリッドがアズカバン送りになると、風の噂で聞きつけまして。無実の人間を投獄する様を拝見しに伺ったのです」

 

  セフォネから放たれた強烈な嫌味に、ファッジが気まずそうに視線を逸らす。セフォネはその様子に、愉快そうに笑った。

 

「ふふ……というのは半分冗談でして、私はミスター・ハグリッドに少々助言をしに参ったのです」

「お、俺にか?」

 

  セフォネとハグリッドは全くと言って良い程接点が無い。困惑するのも当然だろう。セフォネはハグリッドのそんな様子を気にせずに言った。

 

「アズカバンという場所において、大概の囚人は数週間で正気を失います。看守たる吸魂鬼は人間の心から発せられる幸福・歓喜などの感情を感知し、それを吸い取って自身の糧とする汚らわしき生き物。ですが、その特性ゆえに正気を保ち続ける方法があるのです。尤も、私の仮説ではありますが……」

 

  セフォネは記憶にある限り、吸魂鬼に出会ったことが無い。ゆえに、それを証明できていないが、理論上は正しいだろう。

 

「"自分は無実である"という妄執、信念。それは吸魂鬼に吸い取ることは出来ません。信念を持ち続けることです。そうすれば、自分を失わずに済むとおもわれます」

「……そうか…ありがとよ。」

「あー、その、そろそろ行かねば……ご機嫌よう」

 

  またしてもファッジは逃げるようにして、ハグリッドを連れて去っていった。

 

「どういうつもりだ? 君らしくない」

「冤罪が嫌いなのですよ、私は。そして、それを正当化する魔法省のやり方も」

 

  セフォネは確かに冤罪が嫌いである。それは彼女の境遇を考えれば当然のことであるし、一般に好きな者はいないだろう。

  それもあるのだが、セフォネは自分の理論が正しいのかどうかを確かめたかった。それ故、わざわざ出向いたのだ。

  しかし、後半の理由など口にするはずもなく、またルシウスもそれには気づかなかった。

 

「そうかね。まあいい、私もここで失礼するとしよう。また会おうセフォネ。そしてお元気で、ダンブルドア」

 

  ルシウスは一礼すると、大股で歩いて去っていった。そして、セフォネはダンブルドアと2人きりになる。

 セフォネがダンブルドアに視線を向けると、彼は呑気な顔をしていた。およそ、今リストラされたとは思えないような表情である。

  暫しの沈黙の後、セフォネが口を開いた。

 

「本気で停職命令を受け入れるのですか?」

「理事会の決定事項じゃからのぅ。仕方があるまいて。それよりも、君はまた面白い術を身につけたようじゃのぉ」

 

  "目くらまし術"を掛けているため、本来ならば見えないはずの"式札"を、ダンブルドアはどういう訳か懐から取り出した。既に"目くらまし術"は解かれている。

 

「確か、東洋の魔法じゃったか」

「どうやって捕まえたんですか」

「何、老人はこういう物に目ざといのじゃよ。物質というのは透明にしていても、何かしら周囲に影響を及ぼす。例えばそう、通った時に蝋燭の火を揺らしたりの」

「なるほど……参考になりました。で、何時戻ってくるおつもりで?」

「求められた時じゃよ」

 

  ダンブルドアは朗らかに言う。相変わらず掴みどころが無く喰えない狸だと、セフォネは苦笑した。

 

「そうですか。ではその時にまたお会いしましょう」

「そうだのぉ。だが、1つだけ言いたいことがある。君も充分に気を付けなさい。このように夜中に出歩くのは控えることじゃ」

「私はスリザリンの寮生、しかもブラック家の当主ですわよ?」

 

  純血家系のセフォネがスリザリンの継承者に襲われる可能性は限りなく低い。それでもダンブルドアは、セフォネが純血主義に染まっていないために、継承者に襲われることを危惧していた。

 

「それでもじゃ」

「……そうですね。では、そういたしますわ」

 

  ダンブルドアの考えを察し、セフォネは素直に頷いた。

 

「よろしい。では、ご機嫌よう」

「ええ、ご機嫌よう」

 

  こうして、ダンブルドアはホグワーツから追放された。

 




式札……この作品オリジナル魔法? 良く陰陽師とかが使うイメージですが、この作品では東洋の魔法であるという設定です。

その他開発中の魔法……今後役立ちそうです

ハグリッドに助言……ハグリッドが可哀想半分実験半分。よって、中盤のセフォネの台詞はそのまま自分にブーメランなわけで。


1週間更新出来ないとか言っておいて、勉強の合間に気晴らしで書いてたら1本分できちゃいました。学末明日からなのに……って今日じゃん!

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