ハリー・ポッターと生き残りのお嬢様 作:RussianTea
「痛たた……まったく、パン1つくらいでボコボコにされるとはね………いやな世の中だよ」
1人の少女が、暗く人通りのない道を、体を引きずるようにして歩いていた。彼女の名前はラーミア・ウォレストン。齢10歳のメルクリ孤児院に住む、いや、住んでいた少女である。
ラーミアは先程までは大通り沿いにいた。シャッターが閉まった店の前で、寒さに身を震わせて座り込んでいた。だが、クリスマスに浮かれる人々を見ていられなかった。カップルや夫婦や親子が楽しそうにしているのを見ると、沸々と黒い感情が込み上げてくる。
(…私だって……)
自分だって、本来ならばそうあるべきなのに。親や友達とクリスマスを祝い、プレゼントを楽しみにする、そんな当たり前の生活を送るはずなのに。なぜ、今こうして寒空の下で寒さに震え、空腹に苦しまなければならないのか。
「って、自分で孤児院抜け出してきたのに、それはないか……」
自嘲的な笑みを浮かべ、ラーミアは人がいない場所へ歩いていった。標識にはグリモールド・プレイスと書いてある。
どうやらここは廃れた住宅街のようで、電気がついている家もまばらにしか無い。街灯はチカチカと点滅し、雪が積もっていく道路を不気味に照らし出している。
段々と夜が白んできて、辺りが明るくなってきた。寒さと空腹に体力を奪われたラーミアは限界を迎えていた。体も怠くて熱っぽい。幻覚だろうか、目の前に美しく装飾が施された銀製のポストが見える。こんな街には似つかわしくないそれに、1匹のフクロウが飛んできた。フクロウが近づくとポストの蓋は自動的に開き、フクロウは持っていた包みをそこに落とすと、どこかに飛んでいった。
ラーミアはポストの側まで行くと、それに背中を預けてもたれ掛かった。
「…はは……あはははは……」
笑いが込み上げてきた。こんなおかしな幻覚を見るなんて。それに、実際に触った感触まであるし、寄りかかれる。自分はとうとう死ぬのかもしれない。
「…はぁ……もうどうでもいいや…」
眠い。凄まじい眠気が襲ってくる。瞼が自然に閉じていく。今まで重かった体は重量を無くしたかのように軽くなり、宙に浮かんでいるような気分だった。
(…死ぬのも悪くないかもね…………"おばあちゃん"……)
ラーミアの脳裏には、フランスの文学者フランソワ・ルネ・ド・シャトーブリアンの言葉が浮かんできた。
"人間は心の底ではまったく死を嫌悪していない。 死ぬのを楽しみにさえしている――
――
まるで、雲の上で寝ているかのような心地良さだった。
意識を失う前までは氷のような冷たさを感じていたが、いまはとても暖かなものに包まれているような感覚だ。いたる所にあった傷の痛みも消えていて、体も軽い。気怠く目を開くのも億劫で、暫くはこのまま微睡んでいたかった。
そこでラーミアはふと思った。自分は今どこにいるのだろうか。重い瞼をゆっくり開いていく。まず目に入ったのは天井だった。豪華なシャンデリアが吊るされている。
(…どこかのお屋敷……?)
視線を下に向けると、自分はベッドの上に寝ていたということが分かった。シーツは滑らかな肌触りで、決して安くはないことが伺える。
上体を起こして辺りを見回すと、やはりここは何処かの屋敷のようで、部屋はシンプルながらも上品な装飾が成されていた。いたるところに蛇のモチーフが用いられ、どこかの家の家紋らしきレリーフも家具に取り付けられている。
「ここは……」
自分は死んだのだろうか。ここは死んだ先に辿り着く場所なのだろうか。だとしたら、ここは天国なのかもしれない。産まれて初めて見るような豪華な部屋だ。こういう家に住んでみたいと、一度ならず思ったことがある。
だが、待て。もしかしたら、ここは天国だと見せかけて、実は地獄なのかもしれない。そうやって絶望させるための罠なのかもしれない。
「天国か地獄か……それが問題だ」
すると突然ドアが開いて黒髪の美しい少女が入ってきた。
「目が覚めましたか。気分はいかがですか?」
ラーミアは思わず見とれてしまった。その少女は多分、自分が人生で見てきた中で一番美しい女性だったからだ。
返事を返さないラーミアを見て少女は首を傾げる。ラーミアは慌てて答えた。
「えと……大分いい、です」
「それは良かったですわ。最初見つけた時は死んでいるのかと思いましたから」
その言葉に耳を疑う。自分はもしかして生きているのか、と。
「あの……」
ここは一体何処なのか、そして一体誰なのかをラーミアが問おうとすると、黒髪の少女は優しげに微笑んだ。
「私の名はペルセフォネ・ブラック。親しい者からはセフォネと呼ばれています。そして、ここは私の家です」
セフォネは少女が質問する前に全てを答えた。先読みされたことに面食らいながらも、ラーミアは次に、自分は一体どうしていたのかを問おうとしたが、またもやセフォネはラーミアが言葉を発する前に言った。
「貴方は高熱と栄養不足で、1日中意識を失っていたのですよ。家の郵便受けの側で倒れていたので、家に運んだのです」
この人は心を読むことができるのだろうか、とラーミアは思ったが、セフォネの言葉から察するに自分は生きているのだろうと思い、そっちのほうに驚いた。
「ということは、私はまだ生きてるんですか?」
「勿論ですわ」
ラーミアのその反応が可笑しいのか、セフォネはクスリと笑った。
「まだ貴方の名を聞いておりませんでしたね。お名前は?」
「ラーミア・ウォレストンと言います」
起き抜けでぼんやりしていた頭が覚醒してくるにつれ、ラーミアは違和感を覚えた。
「聞いてもいいですか?」
「何でもどうぞ」
「ここはセフォネさんのお宅なんですよね?」
「ええ」
「あの街にはこんなお屋敷なかったような気が……」
そもそも、ラーミアが歩いていたのはグリモールド・プレイスという廃れた住宅街。屋敷などは無かった。
セフォネはその疑問には答えず、逆にラーミアに尋ねた。
「貴方は家の郵便受けを見ることが出来たんですよね?」
「え? あ、はい。なんでこんな所にこんな綺麗なものがあるんだろうって、不思議に思いましたけど」
「なるほど……」
ラーミアは知らないが、あのポストには呪いがかかっている。マグルには鉄くずにしか見えず、またマグル避けもかかっているのだ。
「貴方、何か特別な力を持っていませんか?」
「っ!」
ラーミアは動揺した。いきなり図星を突かれたからだ。
「例えば、触れずに物を浮かせたり燃やせたりするとか」
「な、何を……」
出来る。ラーミアは今セフォネが言ったことを全てやったことがあった。いや、やってしまったと言ったほうがいいだろう。そのせいで孤児院の皆、先生にまで疎まれる存在となったのだ。たった1人"おばあちゃん"を除いて。
「やはり。貴方は魔法が使えるのでしょう?」
「どうして……」
何故出会って間もないセフォネがそのことを知っているのか。ラーミアは混乱した。そんなラーミアに、セフォネは悪戯な笑みを浮かべた。
「どうして分かったのか、と? ふふっ……何故ならば、あの郵便受けはマグル、即ち非魔法族には見ることはおろか近づくことさえ出来ないからですよ」
「非……魔法族…?」
ラーミアは聞き慣れぬ単語に首を傾げた。
「即ち、あれを見ることが出来た貴方は魔法族であり、れっきとした魔女なんですよ」
「ま、魔女!?」
「そう、貴方は魔女。私と同じように」
セフォネはそう言うと、懐から杖を抜いて一振りした。すると、何処からともなくグラスが現れ、もう一振りするとそのグラスが消えた。
「ほ、本当に魔女なんですか!?」
「ええ」
いきなりお前は魔女だと言われても、思考が追いつかない。死にかけた自分を救ってくれたセフォネは魔女で、そして自分も魔女であるという事実を消化できず、ラーミアはポカンと口を開けていた。
「まあ、詳しい話は後でするとして……取り敢えず食事にしましょうか。着替えはそこに用意してありますから」
セフォネにそう言われて、ラーミアは初めて自分が何も着ていないことに気付いた。
「な、な、何で私裸なんですか!?」
「体を洗って傷の治療をしたからです」
ラーミアの体には切り傷や痣があった。パン屋の店主に殴られた為だ。それがほとんど治りかけているのはセフォネが治療してくれた為だったらしいが、ラーミアはセフォネが最初に言ったことが気になった。
「洗ったって……」
まさか、セフォネは自分を風呂にいれたのだろうか。知らない人に体を洗ってもらうなんてと、ラーミアの頬が羞恥で赤くなっていく。
そんな様子を、セフォネは面白そうに眺めていた。
「魔法でですよ。ちなみに治療も。ついでに服も直しておきました」
サイドテーブルに置いてある着替えを見ると、確かに自分が着ていたもののようだが、新品のように綺麗になっていた。
(…魔法万能過ぎでしょ……)
目の前で起こる奇跡の連続にしばし唖然としたラーミアは、畳まれた服の上に、ラーミアの大切な宝物である、"おばあちゃん"からもらった十字架のネックレスがちゃんと置いてあることを確認してほっとする。これを無くしたら立ち直れないだろう。
「ドアの前にいますから、焦らずに着替えて下さい」
「あ、あのっ!」
ラーミアは外に出ていこうとするセフォネを呼び止めた。
「はい」
「助けてくれてありがとうございました」
目を覚ましてからというもの、魔法だなんだと訳の分からないことで混乱していて、セフォネに礼を言うのを忘れていた。
「どういたしまして」
セフォネはにこやかに微笑むと、ドアを開けて外へ出た。
セフォネは廊下の壁にもたれ掛かってラーミアの着替えを待っていた。全裸だと気付いた瞬間シーツを引き寄せて身を隠そうとした素振りから察するに、着替えを見られるのは嫌だろうと思ったからだ。
「それにしても、私は何をしているのやら」
人助けなんて柄では無いのだが、倒れているラーミアを見たら放っておけず、10年間以上何人も入ることを許さなかったこの屋敷に招き入れてしまった。
余談だが、今現在ブラック邸にかけられている"忠誠の術"を始めとした保護魔法は、セフォネによってかなり改良されている。
まず第一に、この屋敷内ではセフォネの許可がない者は姿現しを使えない。さらに、この家への移動キーの作成も、セフォネしか出来ない。
第二に、人間が使役しているもの、例えばペットや別の家の屋敷しもべ妖精などにも効力を発揮する。
第三に、この家に立ち入れる者はセフォネによって秘密を教えられた者ではなく、彼女に秘密を教えられ尚且つ彼女が立ち入りを許可した者のみ。故に、セフォネが誰かを招き入れたとしても、セフォネ自身がそれを認めなければ、その者はたちまち追い出されるという訳である。
「…私も変わったのかもしれませんね……」
そこまで盤石に守りを固めておいて、あっさりと見ず知らずの人間を入れてしまった。昔の自分だったら絶対に有り得ないだろう。倒れていることにも気付かないか、気付いても無視していたか。
「…母様の
手を胸に当てて、そっと目を閉じる。あの時のあの光景が脳裏に蘇り、セフォネは感傷に浸った。
ガチャリと音がして、ラーミアが部屋から出てきた。全体的に白で統一された服装は、その銀髪とも相まって、清楚な印象を与える。
「さあ、行きましょうか」
セフォネはラーミアをリビングへ案内した。テーブルには既に料理が並べられており、それを見た途端ラーミアの目が輝きだした。
「こ、これ本当に食べていいんですか!?」
「え、ええ」
「全部!?」
「勿論ですわ」
パン1つをケチってラーミアに暴行を加えた店主とは大違いである。
ラーミアは余程空腹だったのか、大飯食らいのクラッブやゴイルも驚きの速さで食べ始めた。
「そんなに急がずとも、逃げたり消えたりしませんよ」
そう言ってセフォネは食卓を眺めるが、並ぶ料理は普段より豪華である。というか、普段よりも主菜が多い。セフォネは重度の甘党であるため、ホグワーツでもそうだが、基本的にデザートのほうが主食になることがほとんどである。クリーチャーはそれが分かっているため、あまり主菜は作らずにデザートを多めに出してくれるのだが、今日は客人がいるとあって張り切ったらしい。
(七面鳥って……クリスマスは一昨日ですよ)
張り切るにも程があるだろうに。
夕食を終え、セフォネは居間の暖炉の前のソファーに腰掛けた。
「どうぞ」
セフォネが向かいの席を進めると、夕食時の興奮が収まったラーミアが申し訳無さそうに座った。
「す、すいません。あんなにご馳走になってしまって」
「いえいえ、構いませんよ」
「あれも魔法なんですか?」
「いいえ。食料は"ガンプの自然変容の法則"の5つの例外の内の1つなので……」
そこまで言った時、ラーミアが目を点にしているのに気付いた。魔法を今知ったばかりの人間にする説明ではなかったと、セフォネは思ったので、彼女に分かるように言い直した。
「……要するに、さっきのグラスのように何もない所から作り出すことは出来ないのです。魔法もそこまで万能ではないということです」
「じゃあ、他にどんな魔法があるんですか?」
「そうですね、例えば……」
その後、セフォネは魔法界について様々な話をした。セフォネにしてみれば常識でも、彼女にとっては未知の世界であるらしく、目を輝かせて聞いていた。
「魔法界には学校も存在して、英国にはホグワーツという学校があります。魔女や魔法使いは魔法についての理論や実技を学ぶために7年間そこに通います。その年の9月1日時点で11歳になる者に入学資格は与えられます。私はそこの2年生です」
「学校まであるんですか……って、2年生!?」
「はい、そうですけど」
ラーミアは信じられないという表情になった。彼女からはセフォネはもっと歳上に見えていたのだ。
「え、じゃあセフォネさんは今12歳か13歳……」
「誕生日は9月なので13歳です」
「私と3歳しか違わないんですか!?」
何歳上に見られていたのか気になるが、ただでさえエリスなどに"老成している"などと言われているのだ。あまりにも歳上に見られていたらショックを受けそうで嫌なので、セフォネは目を瞑ることにした。
「ということは、貴方は今10歳ですか。誕生日は?」
「7月7日です……って、まさか私もう直ぐホグワーツに!?」
「来年度の入学生ということになりますわね」
ラーミアは暫し嬉しそうにしていたが、ふと何か気になったのか、セフォネに尋ねた。
「でも、どうやって入学するんですか?」
「魔法族の家庭には先程話したフクロウ便で。マグル生まれ、魔法界の存在を知らなかった魔法族、もしくは何らかの事情で家にフクロウが届かない場合には、教師が直接出向いて本人と保護者に説明します」
「保護者……」
その言葉がでた途端、今まで明るかったラーミアの顔が暗くなった。セフォネはその理由を粗方は予想していた。
クリスマスの次の日に栄養失調と高熱で倒れるなど、まず普通の家庭の子ではないと分かる。今まで親の話などが出ていないことから、彼女の親は他界しているのだろう。とすれば、彼女はどこかの家庭に預けられていたか、孤児院にいたかのどちらかであり、そこから逃げ出してきたのだろう。10歳の少女が死にかけるまでの家出をしたのにはそれ相応の理由はある。
セフォネは開心術を使っても良かったが、ここは彼女の口から説明してもらったほうが良いだろうと思い、目を伏せたラーミアに優しく呼びかけた。
「ラーミア。何か事情があるのでしょう? もしよければ、私が力になりますわ」
ラーミアは暫く迷っていたが、やがて呟くように言った。
「両親の記憶は私にはありません。私は母の親戚に預けられていました。厄介者扱いでしたけどね。でも、私が5歳の時に義理の父は職を失い、養育費の節約にと私を修道院に捨てた。そこでも私は厄介者扱いでした。魔法が使えることであんまり良く思われてなかったんです。先生にも白い目で見られて、でも、1人だけ"おばあちゃん"だけは私に良くしてくれたんです。とっても優しい人で……でも………3ヶ月くらい前に火事があって、"おばあちゃん"は亡くなりました。その上、私は犯人扱いされて……」
話していく内にラーミアの声には嗚咽が混じり、最後はよく聞き取れなかった。だが、言いたいことは分かった。大切な人を失い、味方がいなくなった上で犯人扱いされたのだ。逃げ出したくなるに決まっている。
セフォネは泣き出してしまったラーミアを見て、どうしていいか困ってしまった。元気づけるにしても、下手なことは言えないし、かといって放っておくのも気が引ける。少し考えた末にセフォネは立ち上がって、手で顔を覆って涙を流すラーミアの頭を、そっと抱きしめた。
すると、ラーミアは声を上げて泣き始めた。何か間違ったかと困惑し、取り敢えず彼女の頭を撫でる。すると、ラーミアが益々激しく泣き出し、しかもセフォネにギュッと抱きついてきた。
(…落ち着くのを待ちますか……)
10分ほど経つとラーミアは落ち着き、真っ赤に泣き腫らした目でセフォネに謝った。
「ご、ごめんなさい……」
「いいんですよ。泣きたい時に泣けばよいのです。貴方は涙を流せるのだから」
セフォネは泣くことを、弱くなることを恐れている。それは意味の無いことだと分かってはいるが、しかし、身に焼き付いたこの脅迫概念は未だ消えない。
もう一度頭を撫でると、ラーミアは泣き笑いの表情になった。
「でも、これから私はどうしたら……」
保護者よりまず先に、ラーミアはどうやって生きていけばいいのかを考えなければならない。
セフォネはソファに座り直し、指を3本立てた。
「そこで私が貴方に提示できる選択肢は3つ。1つ目は別の孤児院に出向く。と言ってもこれは論外でしょうね。2つ目は魔法族の里親を見つけて引き取って貰う」
「里親……?」
「曲がりなりにも、魔法界に連なる名家の当主ですから、多少のコネはあります」
ラーミアは浮かない表情をしている。彼女の境遇から考えれば当然のことだろう。
「そして3つ目はこの家に食客として住むこと」
「え……?」
思わぬ言葉に、ラーミアは意表をつかれた。
「ここで会ったのも何かの縁。里親を探すのが嫌であれば、我がブラック家に食客として暮らしませんか?」
「で、でも……そんなのセフォネさんに悪いです。助けてもらった上でそんな……」
「でも、無理に里親を見つけて気を使って生きるよりかは、そちらのほうが良いのではありませんか?」
ラーミアは考えた。考えに考え、そして1つの答えを導きだした。
「セフォネさん。お願いがあります」
「はい」
「私を雇って下さい!」
「……はい?」
「確かにセフォネさんが言うとおり、私は里親を探したくはないです。でも、このままセフォネさんに迷惑をかけるのも心苦しいんです。それに……」
ラーミアはソファーから立ち上がり、セフォネの瞳を真っ直ぐ見て言った。
「……もういっそのこと死んでしまいたい。そんな風に考えていたんです。でも、セフォネさんに助けられて、セフォネさんに魔法の世界を教えて貰って、私はまだ生きていたいと思うようになれたんです。少しでもその恩を返したい。貴方の役に立ちたい。だから、私は貴方の元で働きたいんです。お願いします!」
セフォネはいきなりのこととラーミアの剣幕に固まっていたが、やがて肩が震えだし、込み上げてきたものを我慢できなかった。
「…ふ…ふふ……ふふふ………あっははははははははっ!」
「わ、私は本気です!」
「ははははっ………ふぅ、いやはや、これまた面白い人を拾ったものです……ふふっ…」
普通、出会って数時間の、しかもこんな小娘の元で働きたいと言う者がいるのだろうか。予想だにしなかったラーミアの考えに、セフォネは笑いを堪えられなかった。
ひとしきり笑うと、セフォネは打って変わって真面目な顔になりラーミアに言った。
「分かりました。では貴方に問いましょう、ラーミア・ウォレストン。私に忠誠を誓いますか? 私の秘密を守ることを、我が家の秘密を守ることを誓いますか? 」
「は、はい。誓います」
セフォネは1枚の羊皮紙を何処からともなく取り出し、その上にインクを垂らした。すると、インクは文字を形成していき、それは契約書となる。セフォネはそれにサインし、ラーミアに差し出した。
「契約の確認を」
ラーミアはそれに目を通した。
秘密を外部に漏らさないこと。給料は応相談。学校に通う間は休暇扱い。ラーミアがブラック家の使用人として働くのは取り敢えずホグワーツ卒業までの期間で、その後の契約の更新はラーミア次第。この契約の破棄による違約金は発生しない、などなど。
慣れない羽ペンでサインすると、羊皮紙は燃え上がった。
「契約はここに完了しました。聖28一族ブラック家第33代目当主、ペルセフォネ・デメテル・ブラックの名において、ラーミア・ウォレストン、貴方を我が従者として迎え入れましょう」
セフォネが杖を振ると、テーブルの上に2つのグラスとワインが現れた。コルクを杖で軽く叩くと、キュポンと音がなってワインが開く。それをそれぞれのグラスに注いだセフォネは1つをラーミアに差し出し、もう1つを持ち上げる。
酒など飲んだことがないラーミアは目を瞬かせていたが、セフォネにならってグラスを目の高さまで持ち上げた。
「新たな家族に、乾杯」
「か、乾杯です」
セフォネは微笑むと、一息にワインを飲み干した。
本編から離れ過ぎて良く分からなくなっと思うので、ここで人物の整理をしたいと思います。(決して作者が忘れそうとか、書かなきゃ分からなくなったとかそういうのではありません。決して。マジで)というわけで、周りからのセフォネの評価をまとめました。
エリス……チートな親友。勝つのは諦めかけている。だって、スネイプ先生と互角って凄過ぎるでしょ。決闘クラブの後から渾名が変わって"スリザリンの女帝"になったわよ。
ドラコ……なんだか彼女に言い返せないし、生意気な態度も取れない。でも、彼女の笑顔を見ると顔が赤くなってしまうのは何故だろう。
ハリー……美人だし普段はいい人そうだけど、結構やばいと思う。トロールバラバラにしたし。
ハーマイオニー……最初はあんまりよく思ってなかったけど、今では仲が良い。ぶっちゃけ、数少ない同性の友達の1人。でも、次こそは彼女を抜いて絶対に1位になる。
ロン……エリスと並んで、スリザリンにしては感じは良い奴。でも、マルフォイと仲良くしてるみたいだし、油断は出来ない。
教師陣……成績優秀だけど、危険対象なのは間違いなし。
〈新キャラ紹介〉
ラーミア・ウォレストン
ブラック家の使用人。両親は他界しており、2人が魔法使いだったかどうかはセフォネが調査中。詳しくは章末の人物紹介で。
この先所要で1週間から2週間ほど更新できなくなりますが、ご了承下さい。