ハリー・ポッターと生き残りのお嬢様   作:RussianTea

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クリスマスパーティー

  決闘クラブの次の日。スリザリンの継承者による、3人目の被害者が出た。ハッフルパフのジャスティン・フレッチリーという、マグル生まれの生徒だ。正確にはゴーストである首無しニックも犠牲者であり、石化してしまったのだが、ゴーストは被害者に含まないらしい。

  決闘クラブで起きた出来事でパーセルマウスであることが判明してしまったハリーは、ホグワーツの殆どの生徒からスリザリンの継承者だと思われており、周囲から避けられるようになっていた。

 

「ハリーも大変ですね。去年に続いて今年も皆の嫌われ者ですから」

 

  クリスマスに帰省する準備をしながら、セフォネがそう呟いた。

 

「嫌われ者ってよりは避けられてるって感じだけどね。でも、確かに災難続きよねぇ」

 

  エリスは何をする訳でもなく、ベッドに腰掛けて足をブラブラさせていた。今年もエリスの両親は仕事が忙しく、クリスマスに休暇は取れなかったようだ。

 

「でもさ、いくらパーセルマウスだからって、あのハリーがスリザリンの継承者なわけないじゃない。どうかしてるわ」

「自らが襲われる可能性がある以上、その恐怖によって判断力が鈍っているのです。こうやって継承者の事件を他人事に捉えられる我々(スリザリン)だからこそ、そのように冷静に思考できるのですわ」

 

  ハリーがスリザリンの継承者であると、ホグワーツ中の生徒たちが考えている中、スリザリンの生徒の大部分からは、そうは思われてはいなかった。

  その理由の1つには、グリフィンドールの憎きハリー・ポッターが我らがスリザリンの継承者であってたまるか、というものがある。ドラコもそう思っているうちの1人で、ハリーがスリザリンの継承者だとされていることに、ことあるごとに憤っていた。

 

「それはさておき、今年もエリスはホグワーツに残るのですか?」

「今年も親の仕事が忙しいらしくてね。しょっちゅうあることだから、あんまり気にしてないけどさ。ドラコも帰らないみたいだし」

 

  エリスの父母は共に癒者である。父はそれなりに責任のある地位であり、母は腕利きの癒者としてそこそこ有名だ。それ故、昔から家に親がいないことが多く、幼少期は寂しい思いをしたものだ。今では仕方がないことだと割り切っているが、それでも僅かに寂しさはある。

  しかし、今エリスの目の前にいるセフォネには、そもそも親がいない。エリスは詳しく知らないが、何か事故があったらしい。自分の悩みは幸せなものなのだと、改めて思う。

 

「セフォネは今年、ドラコん家のパーティーに出るんだっけ?」

「ええ。そろそろ表に顔を出さなければとは、前から思っていたのです。ルシウスから直接のお誘いも頂いたので、この際にと」

 

  正直、セフォネがあまり好かない部類の魔法省の役人なども集まるパーティー故、あまり気乗りしていないのも事実なわけだが、ブラック家の当主としての責務を果たさねばならないのもまた事実。いつまでも舞台裏に引き籠もってなどいられないのだ。

  その点、こうして機会を設けてくれたルシウスに感謝していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  クリスマス休暇に入り、セフォネは数ヶ月ぶりの我が家へ戻った。昔から思っていたが、1人(と1匹)暮らしには、この屋敷は大き過ぎる。クリーチャーは掃除で忙しく出来るからそれでいいと言うが、セフォネからしてみれば無駄以外の何物でもない。せめて有効活用と、セフォネは3階の4部屋ある来客用寝室のうち2つをぶち抜き、そこを自室として使用している。クリーチャーには2階の部屋を自由に使っていいと言ったのだが、物凄い勢いで拒否され、せめてもと物置(と言ってもかなり広い)を彼の個人部屋として改造した。

  今、セフォネは4階にいた。ここには、かつてここで暮らしていた2人の叔父、シリウスとレギュラスの部屋と、母のデメテルの部屋がある。勿論、セフォネが用があるのは母の部屋だ。自分の、ある意味お披露目となるパーティーであるため、母のドレスを着ていきたいと思ったのだが、母が着ていた服は2階の衣装室にはなく、祖母ヴァルブルガが全て部屋にしまってしまったのだ。

 

「ふぅ」

 

  セフォネは息を吐きながら、デメテルの部屋のドアノブに手をかける。

  この部屋は母が暮らしていた場所だ。ここに入ることで、抑え切れない感情が込み上がってくるのを恐れているからか、手はドアノブを握ったまま動かない。昔は母の部屋で1人、寂しさに涙したことがあった。だが、涙は弱さの現れだ。

  セフォネは"弱くなる"ということを恐れている。それは精神的にも、肉体的にもだ。弱くなってしまえば、自分を保てなくなってしまいそうで怖い。それは、自分が持つ膨大な魔力の暴走を、そして精神的な暴走をも引き起こしかねないからだ。

 

「何を考えているのですか、私は」

 

  そこまで考えて、セフォネは自嘲気味に笑った。

  たかが自分の家の一室に入るのに、何を躊躇しているのだろうか。

  セフォネはドアノブを回し、軽く押した。軋んだ音を立てながら、ドアがゆっくりと開いていく。セフォネは少し躊躇したが、やがて一歩踏み出した。

 

  ここに入るのは何年ぶりだろうか。綺麗に整理整頓された部屋で、壁には写真が何枚か飾ってある。クリーチャーが施した"埃避け"の呪文の効力は続いているらしく、何年も放置されていたとは思えない程の清潔さを保っていた。

 

  セフォネは部屋に入っていき、クローゼットを開けた。"検知不可能拡大呪文"が使われているらしいその中は広かった。もっとも、この家自体にその呪文はかかっているため、家そのものも見た目よりも広い。

 

「さて、どれにしましょうか」

 

  サイズはそこまで気にしなくてもいいだろう。多少だったら魔法でなんとかなるし、自分の手に負えなかったらダイアゴン横丁の店に持っていけばいい。マダム・マルキンの店ならば、10分足らずでサイズ調節できる。

  数分間悩んだすえに、セフォネは黒いエンパイアドレスを選んだ。全体が真っ黒というわけではなく、所々ヴァイオレットのラインや装飾がある。

  セフォネがそれを手に取って自分に当ててみると、どうやら30センチほど長いようで、かなり丈が余った。

  流石にこれは自分でやるよりも、店に持っていったほうがいいだろう。ダイアゴン横丁に行けば、クリスマスプレゼントも買うことができる。

  そう思ったセフォネはドレスを袋にしまい、ダイアゴン横丁へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  クリスマス当日の夜。セフォネはサイズ直しをしたドレスを着て、イギリス・ウィルトシャー州にある、壮大な屋敷の前にいた。もはや城といったほうがいいかもしれない程のそれは、マルフォイ家先祖代々の屋敷である。

  受付に招待状を提示して中に入ると、これまた豪華な飾り付けが施されており、ホグワーツにも劣らないような光景だ。ドラコが去年、ハロウィーンの飾り付けを「まあまあ」と評したのも頷ける。

 

「さて、まずはルシウスに挨拶しますか」

 

  最初に主催者に挨拶するのが基本だろう。ウェイターからシャンパンを受け取り、パーティー会場を歩いていく。かなりの数の来客がいるようで、いくつも机が並び、その上に豪華な料理が並べられていた。途中、同級生のミリセントやパンジーなどが親といるのを目撃したが、一先ずスルーする。奥に進むと、ドレスローブに身を包んだルシウスと、彼の妻であり母の従姉であるナルシッサが見覚えのある男と会話しているのを見つけた。

 

「あれは……」

 

  セフォネが近づいていくと、ルシウスがそれに気づいて、セフォネに振り向いた。

 

「ご機嫌はいかがかな、セフォネ」

「上々でございますわ。この度はお招き頂き感謝致します」

 

  セフォネはドレスの端をつまみ上げ、深々と優雅にお辞儀をした。

 

「元気そうですね、セフォネ」

 

  ナルシッサが微笑みかけてきた。彼女と会うのは母の葬式以来、実に2年ぶりである。

 

「ええ。お久しぶりです、シシーおば様」

「おば様は止めてください。歳を取ったみたいでいやだわ」

「これは失礼を」

 

  2人は顔を見合わせて微笑みあう。ここで、ルシウスが今まで話していた男を示して言った。

 

「セフォネ。こちらは……」

 

  ルシウスはセフォネに紹介しようとしているが、セフォネはこの男を知っている。魔法省大臣コーネリウス・ファッジだ。新聞で見たとかではなく、実際に会ったこともある。もっとも、最悪のシチュエーションだったが。

 

「お久しぶりです、ミスター・ファッジ」

 

  ルシウスやナルシッサと接した時とは違う、硬い感じの声で、セフォネはファッジに言った。

 

「あ、ああ。久しぶりだね、ミス・ブラック」

 

  ファッジはやけにおどおどとして、恐る恐るといった感じで、目線を決して合わせようとしない。

  それもそうだろう。最後にファッジと会った8年前、それは祖母の葬式の直後の時で、ちょっとしたいざこざがあったのだ。それにより、彼が一緒に連れてきていた魔法省の役人が数週間入院することとなったのだが、この件は表沙汰になってはいない。

 

「あー、ルシウス。私はそろそろ魔法省のパーティーに戻らなければ……」

 

  その後、ファッジは言い訳じみたことを2、3口にした後、逃げるようにして帰っていった。随分と嫌われたものだと、セフォネは肩を竦める。ルシウスはその様子をさして興味もないような目で見ていた。

 

「既に面識があったのか。しかし、君は一体何をやったのかね?」

「過ぎたことで、少々」

 

  そこに、他の招待客が寄ってきて、ルシウスに挨拶をした。一通りの形式的な挨拶を終えると、幾分砕けた感じになり、ルシウスの隣にいるセフォネに視線を向けた。

 

「君の子供は息子だったような気がするのだが……こちらの可愛いお嬢さんはどちら様かな?」

 

  セフォネは薄く微笑み、優雅にお辞儀をして名乗った。

 

「お初にお目にかかります。ブラック家、第33代目当主、ペルセフォネ・ブラックと申します。以後お見知り置きを」

 

  その途端、男は態度が変わり、キチンと挨拶をしてきた。その後、会話が聞こえたらしい周囲の客たちも寄ってきて、それに釣られてまた寄ってきて、かなりの人数の魔法界の重鎮たちと挨拶を交わした。

  その様子に、ブラック家のネームバリューは伊達ではないようだと、セフォネは思ったのだが、実際はそれだけではない。子供がホグワーツに通っている者たちは、少なからずセフォネの噂を耳にしていた。

  学年トップの成績を誇り、去年の学年末試験の結果は500点満点中750点。ちなみに、2位のハーマイオニーは627点で3位のエリスは600点だった。それはさておき、それ程の才を持っているならば、セフォネは将来、必ず大物になるだろう。それを踏まえて、いまからせっせとコネクションを作ろうという打算的な考えを持ち、セフォネと接触しているのだ。

 

「流石に疲れましたわ」

 

  セフォネは基本的には人当たりもいいし、コミュニケーション能力も低くはない。しかし、彼女は元々引き篭もりだったのだ。それも数年単位でのものである。そんなセフォネが多くの人と会話すれば、疲労しないわけがない。アルコールが回っていればまだましかと、セフォネは結構なペースでグラスを空にしていた。

 

「随分な人気ぶりだったな。主催者の私よりも目立っているのではないか?」

 

  一通り挨拶が終り、目立たないように壁際にいるセフォネを、ルシウスが労う。セフォネは苦笑した。

 

「あまり嬉しくない目立ちかたですが」

 

  グラスを傾けてシャンパンを口に含む。流石というか、かなり上物だ。

 

「そんなに飲んで大丈夫かね?」

 

  既に5杯目。13歳が飲む量は超えている。というか、大人でも十分酔い始める量だ。

 

「酒には強いほうですので」

 

  そうは言っているが、セフォネの雪のような白さの頬に僅かに朱がさしている。その姿もまた可愛らしいのだが、パーティーの主催者としては未成年に酔い潰れて欲しくはない。

 

「飲み過ぎは良くないぞ」

「まだほろ酔い程度ですから、ご安心を。酔い潰れたりはしませんわ。そんな醜態をさらすわけには参りませんもの」

 

  その言葉通り、セフォネはその後も普通に飲んだが、彼女はパーティー中は決して酔い潰れなかった。12時になりパーティーもお開きとなり、セフォネはルシウスに暖炉を使う許可を貰い、煙突飛行で自宅に戻った。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

  いつもの如く、クリーチャーが恭しくお辞儀をして主人の帰宅を出迎えた。

 

「ただいま戻りましたわぁ、クリーチャー」

 

  普段と声音が違う様子のセフォネに、クリーチャーは不思議そうに頭を上げ、主人の様子を確認した。

  セフォネの頬は僅かに紅潮し、目がトロンとしているが、パーティーに行ったのだからアルコールが回っていてもおかしくはない。だが、セフォネは酒には結構強い体質であったはず。

 

「お嬢様。大丈夫でございますか?」

「ほぇ? ああぁ、大丈夫です。些か飲み過ぎただけで」

 

  パーティー中は気を張っていた為に酔い潰れなかったが、いざ終わって家に帰り緊張が切れると、途端にアルコールが全身を回ったような感じがした。頭がフワフワし、視界も歪んでくる。

 

「では、おやすみなさい」

「おやすみなさいませ」

 

  セフォネはフラつく足で自室まで行くと、ドレスを脱ぎ杖を降ってハンガーに掛け、寝間着に着替える間もなく、そのままベッドに倒れ込んだ。

 




セフォネの社交界デビューです。彼女とファッジの仲はそれほどよろしくありません。

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