ハリー・ポッターと生き残りのお嬢様   作:RussianTea

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クィディッチ観戦と決闘クラブ

  ミセス・ノリスが石化する事件が起きた後、"ホグワーツの歴史"という本の貸出が殺到し、予約は1ヶ月先まであるという有様。

  その後、ハーマイオニーが魔法史の授業中に"秘密の部屋"について質問して以降、他の寮、他の学年の生徒たちもそれに倣い、数分間ではあるが魔法史の授業をまともに聞く、というここ四半世紀のホグワーツ史上、稀に見る事態が発生する。

  "秘密の部屋"はそれ程までに生徒たちの興味を惹き、それ程までに影響を及ぼすものだった。

 

  しかし、そんな騒動も一段落していた。今年もクィディッチシーズンが到来したからだ。

 

  金曜日。いよいよ明日が、グリフィンドールVSスリザリンの試合だという日の最後の授業は"闇の魔術に対する防衛術"だった。

  ピクシー妖精の事件以降、ロックハートは実地訓練形式の授業を止め、自分の武勇伝を紹介する茶番劇をやっていた。生徒の誰かに敵役となってもらい、自分がいかに鮮やかに倒したか、というものだ。今やっている茶番は狼男を倒す場面で、敵役にはゴイルが選ばれている。

 

「早く終わらないかな……」

 

  ドラコがウンザリした様子で呟いた。

  ロックハートの授業は、学期初めは一番期待の高かった授業だが、今では一番暇な授業という評価に成り下がっている。もっとも、ロックハートの大ファンの生徒たちのウケはいい。

 

「顔はいいんだけどなぁ」

 

  当初はロックハートのファンだったエリスも、こう無能ぶりを見せつけられてしまえば、顔の良し悪しなどは関係なくなり、今ではあまり好きではない。

  ロックハート嫌いのセフォネはというと、授業などお構い無しに読書中。自分に酔っているロックハートはそれに気付くはずもなく、この授業はセフォネにとって読書時間と化していた。

  終業を知らせるチャイムが鳴り、ロックハートは自分の本について感想を詩で書くという、訳の分からない宿題を出し、授業が終わった。

 

「やっと終わったぁ……」

「エリス。私は本を返してくるので、先に大広間に行っていて下さい」

「オッケー。席とっとくね」

 

  エリスと分かれたセフォネは図書館へと向かった。

  司書のマダム・ピンスに本を渡そうとしたら、ハリー達いつもの3人組がいて、マダム・ピンスに禁書の貸出許可のサインを提示していた。マダム・ピンスはそのサインを入念にチェックしていたが、やがて奥の棚へ行き、古くさい大きな本を持ってきて、ハーマイオニーに渡した。

 

「ご機嫌いかが?」

「あら、セフォネ。本返しに来たの?」

「ええ。貴方たちは閲覧禁止の棚から何を借りたのですか?」

 

  ハーマイオニーが今しがた鞄に入れた本の背表紙をチラッと見ると、微かに見覚えのある本だった。

  確か、家の書庫にあった本だ。となると、ハーマイオニーが借りた本は割と危険な魔法書の類になる。

 

「ちょ、ちょっとね。じゃあ、私たちはもう行くわ」

 

  ハーマイオニーに続いて、ハリーとロンも逃げるように去っていった。

 

「何か企んでいるのですかね?」

 

  ハリーがいるところ、常にトラブルが起きる。また愉快なイベントが起きるのかと、セフォネは悪戯っぽく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  次の日。ついに今年もクィディッチ寮対抗杯が幕を開けた。

  11時。いよいよ試合開始という時間に、セフォネは観客席の通路で立ち止まっていた。

 

「間違えましたわ」

 

  セフォネが今いるのは生徒たちがひしめき合う観客席ではなく、教員や来賓たちが座る観客席だ。

  セフォネは先程、選手控え室までドラコとエリスと一緒に行き、2人を見送った後に観客席まで来たのだが、普段と勝手が違ったため、誤って教員と来賓用の観客席に来てしまったのだ。

 

「一回外に出てから……きゃっ!」

 

  何か言われる前に立ち去ろうとしたら、後ろから来た人物にぶつかってしまい、珍しく可愛らしい声を上げてしまった。

 

「申し訳ございません」

「いや、こちらこそ……セフォネ?」

 

  顔を上げると、そこにはドラコの父、ルシウス・マルフォイが立っていた。

  ニンバス2001をスリザリンに寄贈したのはルシウスであるし、彼はこの学校の理事も勤めているため、来賓として来ていたのだ。

 

「ルシウス。お久しぶりですわ」

「ああ、久しぶりだね。ここは来賓席ではないのかな?」

「いえ、その通りです。私が生徒用の観客席と間違えてしまっただけですわ」

「君も道に迷うのだな」

「人間ですから」

 

  そう言ってセフォネが微笑む。その様子に、かつての後輩の姿を重ねてしまい、ルシウスはらしくもなく、思わず頬が緩んでしまう。

 

「どうかね? 共に観戦しないか」

「そうしたいところですが……ここは教員か来賓用の席ですから、生徒は駄目かと」

 

  そこに、スネイプがやって来た。彼もルシウスとは旧知の仲であるらしく、親しげに呼びかけた。

 

「どうした、ルシウス?」

「セブルス。丁度いい。セフォネと共に観戦しようと思うのだが、いいかね?」

 

  スネイプは一旦セフォネに視線を向け、ほんの少し考えた後、ルシウスに視線を戻した。

 

「構わんよ。ブラック、くれぐれも粗相のないようにな」

「承知しておりますわ、セブルス」

 

  スネイプの頬がピクリと動く。

 

「あら? 生徒の前ではございませんわよ」

「………」

 

  苦虫を噛み潰した顔になったスネイプはルシウスの右側に座り、セフォネはルシウスの左側の席に座った。

 

「生徒が教師を名で呼ぶのか?」

「セブルスは私の名付け親ですから。生徒の面前でなければ、そう呼んでいいと」

「何? それは初耳だな。本当なのか? セブルス」

「ああ」

 

  その時、観客席中から歓声が上がり、選手たちが入場してきた。真紅のローブを纏ったグリフィンドールチームが、それに続いて暗緑色のローブを纏ったスリザリンチームが入場してきた。スリザリンチームは全員同じニンバス2001の箒で統一されている。

  ウッドとフリントが握手(という名の手の握り潰し合い) を終えると、選手が一斉に箒に跨がる。

 

「試合開始!」

 

 審判であるマダム・フーチの号令とともに、14人の選手は一斉に空に飛び立った。

 

「そういえばルシウス、私の友達が箒の件で貴方にお礼を申していましたわ」

「喜んでもらえれば何よりだ……友達というのは、1人だけ女性のあの子かね?」

「ええ」

 

  両チームの中でエリスが最も小柄であり、グリフィンドールの様子から見るに軽視されていたようだが、エリスはその身軽さを活かし、箒の性能を余すことなく縦横無尽に飛び回ってグリフィンドールを撹乱していた。その隙をついて他のチェイサーがクアッフルを奪い、得点する。

 

「中々やるじゃないか。名前は?」

「エリス・ブラッドフォードです」

「ブラッドフォード……ふむ、そうか」

 

  ルシウスはその名に覚えがあるようだったが、彼のように至るところに影響力を持つ人物には、聞いたことのない純血の名があるのかが疑わしいほどだ。

  そうこうしているうちに、スリザリンは100対0でリード。箒の性能の差がこれほどまでに顕著にでるものかと思えば、どうやら何かあったようで、ブラッジャーの1つが執拗にハリーを狙っているらしい。

  ウッドがタイムアウトを要求し、試合が一時中断される。

 

「そうだ、セフォネ。君に尋ねたいことがある」

「何ですか?」

「そろそろ、表舞台に顔を出してみないかね? 今年、我が屋敷で開かれるクリスマスパーティーに出席する気はないか?」

「……そうですね、考えておきますわ」

「後で正式に招待状を送る。返事はその時でいい」

「お気遣い感謝いたします」

 

  すると、その時丁度試合が再開され、2人の意識が試合へ向く。グリフィンドールはこのまま没収試合となれば負けが確定してしまうため、試合の継続を望んだらしい。先程まではハリーに付きっ切りだったフレッドとジョージも本来の役目に戻り、狂ったブラッジャーの相手はハリーに任されたようだ。

  ハリーは競技場を飛び回ってブラッジャーを避ける。ドラコがその姿を嘲った時、ハリーはドラコに向かって一直線に飛んでいった。ドラコは驚いてそれを避けるが、振り向いた瞬間に、ハリーの突然の行動を理解した。ドラコの近くに飛んでいたスニッチを見つけたのだ。ハリーはブラッジャーを右腕に喰らいながらも、無事な方の左手で地面スレスレを飛ぶスニッチを掴み、そのまま地面に墜落した。

  120対160でグリフィンドールの勝利。スリザリン以外の3寮から歓声が上がる。

 

「あらら……負けてしまいましたわね」

「ううむ……」

 

  21ガリオンもする高級箒を7本も寄贈したルシウスは苦悶の表情を浮かべ、セフォネは苦笑いするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  スリザリンの敗北から一夜明けた日曜日。秘密の部屋の犠牲者が出た。グリフィンドールの1年生コリン・クリービーというマグル生まれの生徒だ。ミセス・ノリスの時と同じく石化しており、この治療にはマンドレイクが必要であり、その成長を待つ他はない。マグル生まれの生徒たちは、いつ襲われるか分からない恐怖に苛まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  その後は魔法薬の時間にクラッブの鍋が突如爆発するという事件以外には何事も無く、クリスマスの1週間前となった。

  朝、朝食の為に大広間に行こうとしていたセフォネとエリスは、玄関ホールに人だかりが出来ているのを発見した。

 

「また犠牲者が出たんですかね?」

「洒落にならないわよ……でも、そんな感じじゃなさそうだけど」

 

  どうやら人が集まっているのは掲示板の前で、そこに張り出された1枚の張り紙が、その原因となっているようだ。

 

「見…えない!」

 

  エリスがぴょんぴょん飛んでいるが、如何せん人も多いし上級生もいるしで、全く見えない。

 

「アクシオ」

 

  人ごみを掻き分けるのも面倒だったので、セフォネは張り紙を呼び寄せた。セフォネの手にスッと収まった張り紙を、エリスは覗き込む。

  そこには、決闘クラブの第1回目が今夜8時から大広間で開かれる旨が記されていた。

 

「"決闘クラブ"? 面白そうね。どうする?」

「行ってみますか。私も人と決闘したことはありませんし。但し、講師が誰になるかは不安ですが」

「フリットウィック先生じゃない? 昔"決闘チャンピオン"って呼ばれてたらしいし」

「だといいのですが……」

 

  最悪のケースを予想して眉根に皺を寄せる。ふと顔を上げると、掲示板に群がっている生徒たちが2人を見ていた。突然張り紙を呼び寄せたのだから、視線が集まらないはずもない。

  セフォネは杖を一振りして張り紙を掲示板に貼り直し、エリスと共に大広間に入って席に座った。既にドラコはスリザリンのテーブルにいて、サンドウィッチを囓っている。

 

「おはようございます」

「おはよ、ドラコ。掲示板見た?」

「おはよう2人とも。決闘クラブのことかい?」

「そう。私たちは行くことにしたんだけど、貴方はどうする?」

「僕も行こうかと思っているよ」

 

  そこに、一匹のワシミミズクが飛んできた。ドラコのフクロウである。しかし、ワシミミズクはドラコの前ではなく、セフォネの前に止まった。そして、セフォネに1枚の封筒を差し出す。それは、マルフォイ家クリスマスパーティーの招待状だった。

 

「何これ?」

「招待状です。返事は既に」

 

  セフォネは懐から封筒を取り出し、ワシミミズクに預ける。ワシミミズクはそれを受け取ると、勢い良く飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  午後8時。普段並べられている長テーブルは大広間から消え、代わりに大広間中央に舞台が設置されている。皆が講師の先生はだれかと思っている中、セフォネが危惧していた事態が発生した。なんと、スネイプを従えたロックハートがやって来たのだ。

 

「静粛に」

 

  ロックハートの登場に、一部の女子から黄色く耳障りな歓声が上がる。他の女子や男子生徒からは悲痛な声が上がる。

 

「よりにもよってあんな無能が?」

「まあまあ……」

 

  不快そうに目を細めたセフォネをエリスがなだめた。

 

「さあ、皆さん集まって! 私の姿はよく見えますか? 声は聞こえますか? 結構結構! ダンブルドア校長先生から、この度決闘クラブを開くお許しをいただきました。私自身が、数え切れないほど経験してきたように、自らを護る必要が生じた場合に備えてしっかりと鍛え上げるためです。詳しくは私の著書を読んでくださいね。では、助手のスネイプ先生をご紹介するとしましょう」

 

  ロックハートは満面の笑みを振りまいた。

 

「スネイプ先生がおっしゃるには、決闘についてごくわずかにご存知らしい。訓練を始めるにあたって短い模範演技をするのに、勇敢にも手伝って下さるというご了承を頂きました。さて、若い皆さんにご心配をおかけしたくはありません……私が彼と手合わせした後でも、皆さんの魔法薬の先生はちゃんと存在します。ご心配めされるな!」

 

  小馬鹿にしたような笑いをするロックハート。スネイプは阿修羅のような形相となっているが、舞台の上で自分に酔っている彼は気付かない。

 

「これは不味いんじゃないかな…」

 

  エリスは恐る恐る、激怒しているスネイプを見る。こんな表情でスネイプに睨まれれば、生徒たちは一目散で逃げ出すだろう。ロックハートの無神経さはもはや賞賛に値する。

  セフォネは、このままスネイプがロックハートを殺してしまえばいいのに、という物騒なことを思っていた。

 

「ご覧のように、私たちは作法に従って杖を構えています」

 

  スネイプとロックハートは向き合って礼をした。スネイプは不機嫌に、少し頭を傾けただけだった。

 

「3つ数えたら最初の術を掛けます。もちろん、どちらも相手を殺すつもりはありません」

 

  とロックハートは言っているが、スネイプから放たれる殺気は凄まじい。"アバダ・ケダブラ"を撃ってもおかしくはない程である。

 

「では。1,2,3……」

 

  2人は杖を振り上げた。

 

「エクスペリアームス!」

 

  スネイプの杖から真紅の閃光が放たれ、ロックハートは壁まで吹き飛んだ。

  ドラコやスリザリン生は歓声を上げる。セフォネも珍しく例外ではなく、指笛を鳴らした。ロックハートのファン以外の生徒たちから拍手が送られ、他の寮には嫌われているスネイプが、この時ばかりは凄い人気ぶりだった。

  その後、ロックハートは負け惜しみじみたことを言ったが、スネイプに一睨みされると、蛇に睨まれた蛙のように大人しくなり口を噤んだ。

 

「模範演技はこれで十分でしょう! これから皆さんの所へ降りて行って二人ずつ組にします。スネイプ先生、お手伝い願えますか……」

 

  2人は生徒たちを実力が合うと思われる者のペアにしていく。ハリーはドラコと、ロンは別のグリフィンドール生と、ハーマイオニーはミリセントと組まされた。

 

「さて、ミスター・ロングボトム。君はミス・ブラッドフォードとだ」

 

  セフォネと組みたかったエリスは少し残念そうな顔をしたが、素直にネビルと組むことになった。

  セフォネが周りを見渡すと、どこも組が出来上がっており、自分と組む相手がいなかった。

 

「スネイプ教授。私の相手がおりませんわ」

 

  それを聞きつけたロックハートが、どこからともなくやって来た。

 

「おやおや、それは困りましたね。こんな美しい女性を放っておくなんて。では私が……」

 

  そう言ってセフォネに近づいていくロックハートを、スネイプが遮った。

 

「それには及びませんな。助手である我輩が相手をしよう」

 

  スネイプがこんな茶番に手を貸した理由は、セフォネの実力を測るためだった

  "悪霊の火"や"怨霊の息吹"などの高度な闇の魔術を駆使し、トロールを簡単に惨殺できるセフォネだが、その真価は判明していない。今後、彼女が味方になった時、あるいは敵になった時にどれ程の脅威となり得るのか。

  それを調査せねばならないという理由とともに、単に旧友の娘であり、自らの名付け子と戦ってみたい、という思いもある。

 

「それは光栄ですわ」

 

  セフォネは心の中で歓喜していた。教員と決闘をする機会などそうそうあるものでもないし、今この場では最も強いであろうスネイプと手合わせが出来るのだ。

  かなり乗り気の様子のセフォネに、ロックハートはそれ以上言い寄ることはなかったが、何かいいことを思いついたと言わんばかりに、手をポンと打った。

 

「そうだ! では舞台のほうで模擬決闘をやってもらいましょう。皆さん! 2学年の最優秀生徒と我らがホグワーツの教員の決闘です!」

 

  余計なことを、とスネイプは思ったが、セフォネは気にする素振りもなく、舞台に上がっていった。

 生徒たちはそれを信じられない、といった面持ちで見ている。どう考えても、たった2年生とスネイプが対等に渡り合えるとは思えないのだ。

  そんな周囲の反応を他所にスネイプとセフォネは向かい合った。

 

「手加減は無用にございます。全力勝負を望みますわ」

「無論、手加減する気などない」

 

  それを聞いたセフォネの口元には自然と笑みが浮かんでいた。いつものような優しげな微笑みではない。これから起こる戦闘への歓喜の笑み。狂気の笑みである。それと同時に彼女が纏う雰囲気も変わり、それに合わせてスネイプの表情も変わる。

  先程の茶番演技とは違う本物の決闘の雰囲気に会場が圧倒される中、セフォネは実に洗練された優雅な礼をする。スネイプもまるで歴戦の魔法使いのような、威厳の溢れる礼をした。

  2人の雰囲気に呑まれてロックハートはカウントダウンするのを忘れているが、そんなものは2人に関係ない。

  大広間にいる全員が息を飲む中、2人は同時に杖を振り上げた。セフォネは無言で"武装解除呪文"を、同じくスネイプも無言で"武装解除呪文"を放つ。2人の杖から真紅の閃光が走り、中間地点でぶつかり火花を散らした。

 

「2年生相手に無言呪文ですか」

「2年生が無言呪文を使うとはな」

 

  2人が杖を振り下ろすと、真紅の糸が弾けたように切れる。生徒たちは唖然としていた。

  下級生たちはこの2人は何故何も言わずに呪文を放ったのか、という疑問を浮かべ、上級生たちは何故2年生が無言呪文を使えるのかと驚愕している。

 

  セフォネは"失神呪文"を撃ち、スネイプはそれを"盾の呪文"で防ぐ。反撃とばかりにスネイプが呪いを放ち、セフォネがそれを別の呪文で撃ち落とした。2人は無言のまま、ありとあらゆる呪文をぶつけ合い、幾度となく火花が散る。

 

「足りない……」

 

  セフォネは歪んだ笑みを浮かべ、ポツリと呟いた。

  スネイプは本気ではない。恐らく、7割5分といったところだ。生徒たちへの被害も考慮しなければならないため、あまり大規模な魔法や闇の魔術を使えないのもあるが、それ以前の問題にスネイプはセフォネを試していた。

 

(わたし)は本気だと言った筈だわ、セブルス!」

 

  戦闘狂の一面が姿を表したセフォネは、興奮のあまり周りへの配慮を考えなくなっていた。

  セフォネが杖を振り上げると、杖の先から巨大な炎が吹き出し、それは翼竜の形となってスネイプに襲いかかる。

  スネイプは目を見開き、そしてこの決闘で初めて呪文を唱えた。

 

プロテゴ・マキシマ(最大の防御)!」

 

  スネイプが創り上げた強固な壁と、セフォネが放った凄まじい炎がぶつかり合った。2つの強力な呪文は互いに拮抗し合い、どちらも砕け散る。炎が2人の間で霧のように消え行く中、2人は同時に再び"武装解除呪文"を放った。

  炎の残りを掻き消すようにして、2つの真紅の閃光は飛んでいき、今度はぶつかり合うことなく交差する。セフォネが放ったものはスネイプよりも大分右側に逸れていき、スネイプが放ったものは的確にセフォネの右手を捉えた。

  セフォネの杖が宙を舞い、スネイプの左手に収まる。

 

「チェックメイ……」

 

  スネイプが続きを言う前に、彼の後ろから飛んできた真紅の閃光がスネイプの右手を捉え、吹き飛ばされた杖をセフォネの右手が掴み取った。セフォネがわざと(・・・)当て損ねた呪文は壁で跳ね返り、スネイプを見事武装解除したのだ。

 

「ステイルメイトですわ」

 

  大広間は静まり返っていた。まるで映画のような光景に皆、声が出ないのだ。それ程までに2人の戦いは次元を超えていた。やがて、ドラコとエリスが手を叩いて拍手し、それに続いて皆から割れんばかりの拍手が巻起こる。

  セフォネとスネイプは互いに歩み寄っていき、互いが奪った杖を渡した。

 

「いくらなんでも"悪霊の火"はやり過ぎだ。周囲に被害が出たらどうするのだ」

「面目ないですわ。少々興奮し過ぎてしまいました」

 

  かなり申し訳なさそうにしていることから、反省していると解釈したスネイプは、そこで固まっているロックハートを促して、他の皆にも練習するように言わせた。

 

  その後、舞台に上がって模擬決闘をすることとなったドラコとハリー。スネイプの入れ知恵によってドラコが呼び出した蛇がハッフルパフ生を襲おうとしているのを、ハリーが蛇語で追い返した。その様子に、ハリーが蛇をけしかけたと思い込んだハッフルパフ生が激怒して出ていき、蛇語を喋れる、即ちパーセルマウスだということが判明してしまったハリーは"スリザリンの継承者"の疑いをかけられることとなった。

 




スネイプVSセフォネでお送りいたしました。秘密の部屋に絡ませないとなると、セフォネの暴れ場が無くなると思ったのですが、普通に転がってました。

没ネタ

岩心「私がお相手しましょう」ドヤッ
セフォネ「よろこんで」イラッ
スネイプ「殺すなよ」
岩心「ぎゃああああああぁぁぁ……」バタッ
エリス「ご愁傷様」

次回はクリスマス。

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