また、今回は後書きにオマケも用意しました!
第8話「代表メンバー」
太陽も西へ傾いてきて、辺りも赤く染まってきた頃、いつもと変わらない麻雀部の部室に新しい子が入ってきた。
「えっと、新しく麻雀部に入部することになりました、宮永咲です。宜しくお願いします。」
ワーっと拍手が起こった。皆新入部員の咲に興味津々のようだ。
そして、洋榎が締めくくる形で言った。
「咲はまだ麻雀部のこと分からんからみんな教えてやってや。ほな、咲の紹介も終わったから今日の練習にいくで。」
その瞬間、全員緊張した顔つきへと変わった。
この異様な光景を見て、咲は洋榎に質問をした。
「部長、いつも皆さんこんな感じなんですか?」
「ん?いや、いつもはそんな事ないで。まぁ、今日は春季大会のメンバー決めがあるからなぁ。」
「それってどういう風に決めるんですか?」
「どういう風って、麻雀で勝負して決めるに決まってるやろ。ちなみに、咲も参加してもらうで。」
「・・・・ふぇ!?」
あまりの事に、咲は自分でも分かるような変な声を上げてしまった。それ程洋榎の発言は唐突なものであった。
「そうなこと聞いてないですよ!それに、私今日入部したばっかりですし!」
「あれ、言うてへんかったか。それはスマンな。せやけど、これは麻雀部員全員強制参加やから入ったばかりとか関係なしに咲にはやってもらわなアカンのや。」
「ってことは、また先輩方とやるんですか?」
「いや、うちらとは、正確にはうち、竜華、怜、憩の4人とは打たへんよ。そもそも、春季大会は秋季大会のオーダーでやるもんやしな。」
「じゃぁ、何でやるんですか?」
「実は、秋季大会のメンバーの1人がこの春から別の学校に転校して行ってな。それで春季大会のメンバーの枠がひとつ余ってしもうたんや。」
「それで、その1人を今日決めるって事なんですね。」
「その通りや。それに、これは咲にとって悪くないことやで。春季大会には咲の姉ちゃんである照も出てくるしな。運がよければ当たるんちゃうか?」
「お姉ちゃんと...ですか。」
照が待っている全国の舞台へ行くために麻雀部へ入ったのだがまさかこうもあっさり叶うとは、と咲は思った。
「そのためにも、今日の選抜を勝ち抜いてメンバー入りせなアカンで。言うておくけど、うちの部員もなかなか強いから気抜いてると勝てないで。」
「・・・・分かりました、全力で行きます。」
「おぉ、そのいきや!よしみんな、あっちに組み合わせのためのくじを用意したからそれを引いて試合するんやで。」
洋榎がそう言うと、その場にいたものはくじをひくためにこの場を離れていった。もちろん咲もだ。
「よかったんか、咲にあんなことを言って?」
近くで咲との会話を聞いてたのか、竜華が洋榎に質問してきた。
「まぁ、そうでもしないと咲はやる気になってくれそうもないからな。ちゃんと試合に臨んで欲しかったし。」
「いや、そうじゃなくて...咲が本気なんか出したら昨日みたいなことになるっていう意味なんやけど...」
竜華のその言葉を聞いて、洋榎は固まったまま動かなくなっていた。きっとその事を完全に忘れていたのだろう。
そんな2人に追い討ちをかけるかのように、対局の場の方からつい昨日感じたオーラが漂ってきた。どうやらもう遅いようである。
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結局竜華の悪い予感は的中し、咲は飛び終了をして勝っていった。終いには洋榎たちが途中でこの選抜を辞めるまでに至った。
「もう、生きた心地がせえへんわ...」
咲との試合で飛び終了を食らわされた泉は卓に突っ伏したままそう呟いた。目は死んでいるようだ。
「東一局で八連荘して飛び終了させるとか相当えぐかったしね。人間業じゃないよ、あれ。」
風香も疲れきった顔をしていた。
「そう言えば、咲はどこいったんや?さっきから姿が見えんけど?」
「部長たちと一緒にどこかに行くところは見たけど...多分春季大会の打ち合わせとかじゃないかな?」
「そっか、咲は代表入りしたからなぁ...そんな咲に昨日の試合で先輩たちは勝ったんやから、うちらが選ばれるのはまだまだ先なんかな...」
「何弱気になってるのよ、いずみんらしくない。私は次の選抜の時には、勝って代表入りするつもりだよ!千里山の代表として全国の舞台で戦ってみたいし!」
「・・・・せやな、まだ1年やからいくらでもチャンスはあるし。ここで弱気になってたらアカンわな!」
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「監督、連れて来ましたで。選抜を勝ち抜いた代表の子。」
洋榎と竜華に連れられて咲がやって来たところは、つい昨日咲が麻雀をした部屋であった。そこには怜や憩も既にいた。
「おつかれ。まぁ、こっち来て座り。」
咲たちは言われた通り監督の元へと行った。
その時咲はふと、監督が誰かと似た顔をしているように感じた。
「うちの紹介がまだやったな。うちは千里山女子の麻雀部の監督をやっている愛宕雅枝や。よろしくな。」
「あ、私は1年の宮永咲です。よろしくお願いします...って、愛宕ってことは部長の親族の方ですか!?」
「そやで。監督は洋榎の実の母や。」
「・・・・やっぱりオカンが自分と同じ学校にいるってなんか嫌やな。」
「しょうがないやろ、まさかここに転勤になるとは思わなかったし。せやから、絹恵はここを選ばずに姫松に行ったんやろ。」
「・・・・あの~、絹恵さんってどういった方何ですか?」
「絹恵ちゃんは洋榎の妹や。昔はよくここに顔を出したりしとったけど、最近は部活が忙しいのか見かけなくなったなぁ。」
「愛宕家って麻雀一家なんですね...」
咲は呆然とするばかりであった。
「それで監督、今日はなんで集合させたんですかぁー?」
「おぉ、そうやったな。今日集まってもらったのは春季大会のオーダー順を発表しようと思ってな。」
「え、ちょっと待ってください!私今日選ばれたばかりですよ!もう少し様子みてからでもいいんじゃないですか!?」
あまりに唐突な事だったので、咲は興奮状態になっていた。
「それは大丈夫や。宮永さんの実力は昨日なんかの試合の詳細を洋榎たちから聞いたからある程度分かっとる。それに、今決めないとそろそろ団体戦のオーダー表の提出期限に間に合わなくなってしまうからな。」
「それで監督、オーダーはどうなってるんです?」
「おぉ、そうやったな。それじゃ、オーダーを発表するで!」
この一言で部屋に緊張感が走った。
オーダー発表は次回に持ち越しです。もう頭の中では考えてありますが...皆さんも色々考えてみてください!
そして、ここからオマケです!
先に断りを入れておくきますと、阿知賀編のある所を参考にして今回は作らせてもらいました。
それでは、最後までお楽しみください。
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「そう言えば、園城寺先輩はなんで清水谷先輩の膝の上で寝っ転がってるんですか?」
洋榎からの申し出で行った対局が終わったあと、咲は疑問に思っていたことを聞いてみた。
「それはな、ふにふにしてて寝心地いいからやで。竜華のひざまくらは気持ちええんや。」
「残念ながら、ここは怜の場所やから咲は寝させてあげられへんで。」
「いや、別に寝ようとはしませんけども...」
咲は半ば呆れた気持ちになったが改めて怜と竜華の仲が良いことを思い知った。
それを見ていた洋榎が怜に提案をした。
「せやったら、逆に怜が誰かの膝で寝てみるのはどうや?竜華よりもいい膝があるかもしれないで。」
「そんなんあるわけないやろ!うちの膝が一番怜に合ってるわ!」
「まぁでも、たまにはそういうのもいいんやないか?他の人の膝がいかがなものか体験してみたいし。ほんなら、最初は洋榎でいいか?」
「おぅ、ドンと来い!」
洋榎がそう言ったので、怜は洋榎の膝へと寄っていって寝っ転がった。
「どや、怜?竜華のよりいいか?」
「・・・・ちょっとかたいな。もう少しふにふにしてる方がええわ。これなら竜華の方が上やな。」
「なかなか厳しいなぁ。まぁ、確かにかたいと言えばかたい気もするけど。」
「ほんじゃ、次は憩の所にしようかな。」
そう言って今度は憩の元へと寄っていった。
「怜先輩、寝心地はどうですか?」
「うーん、少し細いな。もうちょい肉付きが欲しいわ。これじゃ『ひざまくらのソムリエ』は満足させられへんで。」
「なんかもう、発言がセクハラみたいですけど...」
「ほら、そんなこと言っとらんで次は咲の番やで!早くソファーに座り。」
咲のツッコミも虚しく、怜に促されるままソファーに座るしか今の先に出来ることは無かった。
「・・・・どうですか園城寺先輩?」
「・・・・」
「どうしたんや、怜?何かあったんか?」
「ずっと寝っ転がったままですぅー。」
「・・・・咲。」
「あ、はい。何ですか?」
「・・・・なかなか見込みあるで。」
「「「「・・・・はっ!?」」」」
予想外の怜のコメントに咲を含めた4人が同時に声を上げた。
「どういうことや怜!うちより咲の方がいいんか!?」
「いや、竜華よりは劣りはするで。せやけど、これはこれでなかなかええんや。」
「まさか咲ちゃんが怜先輩の審査に受かるとは思ってもみなかったですぅー。」
「なぁ咲。」
怜が改まった顔をして咲の方を向いてきた。もちろん膝の上に頭をのせたままである。
「どうしました?」
「・・・・たまにでええから寝っ転がらせてくれへんか?」
「えぇ!?」
「お、怜がいいんならうちもお願いしようかな。」
「いやいや、誰もOKしてませんよ、部長!」
そんなやり取りをしている時、ふと隣の方から禍々しい気が発せられているのを咲は感じた。
「サァァァァキィィィィ!」
竜華はもはや怨念を抱いた幽霊にしか咲は見えなかった。
「怜は譲らんで!!」
「完全にとばっちりじゃないですか!!」
その日、麻雀部の部室からは悲鳴に似た声が聞こえたとか。