もう一つの千里山女子   作:シューム

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ついに30話到達です!ここまで半年以上経ってるんですね...この分だと春頃に再開しても完結まで1年以上かかるんじゃ...


第30話「夏へ向けて」

「ロン。緑一色の32000です。」

 

 この瞬間、勝敗が決した。

 

 最終結果

 宮永咲 46700

 大星淡 23500

 弘世菫 21700

 哧悟楽 8100

 

 ふぅ、と咲は一息ついた。そこには先程まであったオーラがなくなっていた。

 

「なんで...なんで私が四槓子で和了ることが分かったの...」

 

 哧はまだこの状況が理解出来ないでいた。誰にも止められずに四槓子であがれる、そう確信していたのに最後の最後で咲にあがられた。

 

「それはさっきも言ったように、チーちゃんがチーちゃんでいてくれたからだよ。」

 

 咲は笑って答えた。そしてそのまま続けて話す。

 

「チーちゃんがダブリーをかけたとき、わざわざ淡ちゃんにあたかも自分の能力が相手の技を真似することだと思わせることを言ってたけど、あれってチーちゃんの能力が何かを気づきにくくさせるためだけにやったんじゃないよね?」

 

 咲は哧にそう問いかけた。

 

「それをやることのもう一つの目的、それは相手の心を折りにいくことだったんじゃないかな?」

 

 あぁ、まさかここまで見抜いてたとは...哧は改めて咲のその洞察力に感服した。

 

「自分の会得した能力を、さもあっさりと真似したかのようにしたなら、流石にどんな人でも動揺すると思うからね。だから私はそれを逆手に取って、わざとチーちゃんを挑発して私の技、嶺上開花を真似させようとしたんだ。そうなるとチーちゃんが和了るであろう役を考える時、本来最も出現率の低い四槓子が、逆に最も高くなってくるんだ。」

「さすがは咲だね。でも、それだけじゃ四槓子とは断定できないでしょ?それに、私から槍槓をとることだってまぐれだっただろうし。」

 

 確かにそうかもね、と咲は言った。その時の咲の顔は、何かを思い出しているかのようであった。

 

「だからあとはそうなるように運命に身を任せるしかなかったのかも。それが結果としてこういった形になったんだと思うよ。」

「・・・なるほどね」

 

 咲は曖昧な答えをしたが、哧はどうやらそれが伝わっていたようだ。もしかして、チーちゃんも私と同じような体験をしたことあるのかな?

 

「・・・はぁ、プロと戦うためにわざわざ日本まで来たっていうのに、まさかその前にやられるとは。しかも同い歳くらいの子に。」

「えっ、チーちゃんって高校生なの?もしかして高校一年生?」

「うーん、まぁ、中国だと高校って言い方はしないけど、日本で言う高校一年生かな。って、その質問をしてくるって事は咲もそうなんだ。」

「そうだよ。ちなみに、淡ちゃんも私と同じ高校一年生だよ。」

「・・・へぇ、てっきりもっと幼いと思ってた。」

「ちょっと、どういう意味それ!!」

 

 淡は哧に噛み付いた。当の哧は聞く耳を持たないといった様子であったが。

 

「それじゃ、私はそろそろ帰るね。私も咲に負けないように練習しなくちゃいけないし。」

「あ、こら待て!」

 

 淡はまだガルルルルと怒っていた。すると、哧は淡に近づいて淡に抱きついた。

 

「ふぇっ!?ちょっ、何してるの!?あの、あの、あわあわあわ」

 

 突然のできごとに、淡は顔を赤らめてあたふたしだした。哧は抱きついたまま淡に言った。

 

「淡のその能力、もっと鍛えれば誰にも負けないものになるよ。咲との再戦も楽しみにしてるけど、淡との対局も楽しみにしてるんだからね。勿論、菫さんとも。」

 

 そして哧は淡を強く抱きしめ、店を出ていこうとした。しかし、淡が哧の裾をつかんでそれ止めた。

 

「・・・私も、私も悟楽とまた対局したいな。」

 

 そう言って淡は俯いた。

 

(淡ちゃん、可愛いなぁ)

(あいつがあんなに照れてるの、初めて見たかも。いや、咲ちゃんに会った時もデレデレしてたか。)

 

 咲と菫は傍から見ていて、そう感じていた。

 そして、哧は3人に別れを告げて店を出ていった。

 

「さて、それじゃ私たちも帰るとするか。」

「あ、私は先輩方がここに迎えに来てくれることになっているので、ここで待ってます。」

「そうだったな。それじゃ、咲ちゃんともここでお別れか。」

「はい、今日はありがとうございました。今度会うときは全国の舞台ですね。」

 

 咲は笑ってそう言った。菫も相槌を打った。

 そして、菫たちも店を出ていこうとしたが、淡はその場から動かなかった。

 

「ねぇ咲。」

 

 淡は咲の方を見ていた。

 

「今日の対局で、私はまだまだ咲には実力が及ばないことが十分分かった。だから全国で咲と戦うことになった時、今度は私が咲に勝てるように、練習を積んでくるよ。」

「ほぉ、まさか淡からそんな言葉が聴けるとは。いつもは練習サボったりするくせに。」

「余計な事言わないでよスミレ!」

 

 淡はほっぺたを膨らませて菫に向かって怒った顔をした。菫はそっぽをむいていたが。

 そして淡は咲の方へ向き直って、咲に手を差し出した。

 

「だから、私と戦うまで絶対にほかの誰かに負けないでね。」

 

 淡は少し照れたようにそう言った。

 

「うん。でも淡ちゃんと当たっても負けないつもりだけど。」

 

 咲は淡の元へと近づき、その手を握った。お互いに、それぞれの健闘を祈った。

 

「それじゃ、そろそろ行くね咲。」

「またね、淡ちゃん。」

 

 そう言って咲が後ろに下がった時、何も無いところでこけそうになった。

 

「危ない咲!」

 

 淡が咲の手をひこうとしたが届かず、それどころか淡もそのまま咲の方へと倒れてしまった。

 気がついた時には咲は仰向けで倒れており、その上に淡が、四つ這いのようになっていた。

 

「うわぁぁ、咲ごめん!///」

 

 事態が飲み込めた淡は、すぐさま手をどけた。咲の方は顔から湯気が出ているかのようであり、そのあまりの恥ずかしさに目に薄ら涙を浮かべていた。加えて、あまりの急な出来事に混乱してしまい、口をパクパクさせていた。

 

(・・・なんともラブコメに出てきそうな展開だな。大抵このあと誰かに見つかってさらにややこしくなったりするが...)

 

 菫は傍からそう冷静に考えていると、突然入口の方からドアが開く音がし、誰かが入ってきた。

 

「サキ〜、迎えに来たで〜」

「咲ちゃん大丈夫やった〜?」

「竜華、うちもう疲れた...」

「だからホテルで休んでた方がええって言ったのに。」

 

 入ってきたのは洋榎たちであった。ちょうど咲の迎えに来たらしい。

 

「って、咲の姿が見当たらんけど...ん?」

 

 洋榎が辺りを見回すと、そこには予想だにしない光景があった。

 床に押し倒されて目には涙を浮かべている咲、そして押し倒していたのは白糸台の制服を着た金髪の少女。何も事情を知らない人から見たら、そうとしか捉えられなかった。

 

「オドレはうちの大事な後輩に何しとるんじゃぁぁ!!」

「生きては帰らせへんよ〜。」

「竜華、うちも咲を助けに行かんと。」

「心配せんでも、うちが怜の気持ちもこめたストレートを御見舞してくるわ。」

 

 4人は早くも臨戦態勢に入っていた。淡は慌ててこの4人を止めようとした。

 

「ちょっ、ストップ!ストップ!これはわざとやったわけじゃないから!事故だから!」

「今更そないな嘘が通るとでも思っとるんか?咲のその涙が何よりの証拠やないか!」

「いや、私が泣かせたわけじゃないですし!ほら咲からも言ってやってよ!」

 

 淡は咲の体をゆするが、まだ咲の頭はこの状況についていけないでいた。

 

「うぅ、咲がダメなら...そうだ、菫先輩!先輩からも私の無実を証明してやってください!」

 

 淡は菫の方を向くと、菫は申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「すまない淡、私にはお前を助けることは出来ない...」

「なんでですか先輩!?大事な後輩がピンチだって言うのに!」

「ちょっとおもしr...あ、いや間違えた。」

「本音隠す気ないじゃないですか!だだ漏れですよ!」

 

 そう騒ぐ淡の肩に、ポンと誰かの手がのっかった。淡は恐る恐る振り向いてみた。

 

「遺言はそのくらいでええか?」

「大丈夫、流石に○すまではいかないですから。」

「うちは怜の思いも背負ってるから、手加減できるかは保証せんけどな。」

 

 満面の笑みを浮かべる3人。

 

「あわあわあわ...」

 

 後に淡は今回のことについてこう語った。お花畑が見えるほどのことは、生涯を通してこの一度きりだったと。

 

 ***

 

 それから数週間が経って

 

「みんな、もう地区大会が目前に迫ってきた。ここ10年くらい連続で全国へ行っているとは言え、油断してると負ける可能性もあるからな。心してかかるように。」

 

 部活後のミーティングで、監督は5人に言った。そのメンバーは春季大会と変わらず、洋榎、竜華、怜、憩、咲であった。

 

「それで本題に移ってオーダー発表やな。洋榎と竜華と怜と話し合って決めた結果、春季大会とは多少違うところもあるけど、各々自分の役割を全うするように。」

 

 そして、監督はオーダー表を取り出して読み上げた。

 

「それじゃ、発表するで。先鋒は憩、次鋒は怜、中堅は洋榎、副将は竜華、そして大将は咲や。」

「私が大将ですか!?」

 

 思わず咲はそう叫んでしまった。

 

「なんや不満か?」

「いや、むしろ光栄なくらいですけど...じゃなくて、先輩方の誰かが大将じゃないんですか!?」

「他の4人にはそれぞれやって欲しい役割があるからな。白糸台の先鋒と次鋒のオーダーが多分変わらないと思ったから、宮永照対策として憩を、弘世菫対策として怜を置いたし。」

「白糸台のオーダーって変わらないんですか?」

 

 さらりと監督は言ったが、咲は聴き逃さなかった。

 

「春季大会の時、急にそこのオーダー変えてきたやろ?あれって多分今回のIHに向けての、いわばお試しみたいなものやと思ってな。」

「そうすると、残りの3枠もそうなんですか?」

「いや、そこには新しいメンバーが、例えば咲が合宿であった子とかが来ると思うんや。」

 

 そういえば、淡ちゃんは春季大会に出てなかったけど、『全国で戦うときに』って言ってたから、その3枠の中には入ってくるんだろうな。咲はそう思い返していた。

 

「そんで、洋榎については春季大会の時と同じ理由やな。で、竜華が副将になっている件やけど、これはなるべく咲を温存させとくためや。」

「私をですか?」

「せや。うちら千里山は今回シード校じゃないにせよ、他校はしっかり研究してきてるはずや。そんな中で唯一咲についてだけはまだ謎に包まれてる。」

「それで私を温存させとくってわけですね。」

「あとそれに加えて、今回中堅までがかなり厄介そうやから、竜華には取られた点数分取り返してもらって、咲には点数のことを気にせずのびのびとやって欲しいってのがあるな。」

 

 色々と監督や先輩達は自分のことを気遣ってくれているんだなと、咲は改めて感じた。そこまで思ってもらっての大将なら、私は私の役目を全うしなくちゃ!

 咲が心の中でそう決心していると、咲のところへ憩が来て、耳元で囁いた。

 

「そんな咲ちゃんに、嬉しいお知らせをしたろか?」

「嬉しいお知らせですか?」

「実はな、長野の代表校、もう決まったらしいで。どこなのか想像つくんやないか?」

 

 憩は咲にそう尋ねた。憩の指している代表校、それは多分咲が考えていると高校と同じだろう。

 

「・・・龍門渕ですか?」

「正解や。そして龍門渕の大将は、春季大会の時に咲をコテンパンにした天江衣や。」

 

 忘れもしない、あの日、咲は衣との圧倒的な実力差になすすべもなかった。しかし、今はあの頃とは違う。

 

「やっと、リベンジができるってことですね。」

「お、咲ちゃんやる気になったな。そのためにもまず、県大会突破しないとな。」

 

 憩は笑って咲にそう言った。

 咲は、これから始まる新たな舞台に心踊らせていた。




という訳で、これにて『もう一つの千里山女子』は休載とさせていただきます。長い間お付き合いいただきありがとうございました。

再開は前にもお知らせしたように早くて来年の3月頃、遅くて5月頃になると思います。

また、今後の話の展開としては、県大会→遠征試合→全国大会といった感じにしていきますが、まだザックリとした案しかないので、コメントの方に今後のご意見やご要望なんかを書いていただけるとありがたいです。今後の参考にさせていただきます(全国大会の決勝、準決勝のメンバーは決まっちゃってるんですが...)。

それではこの辺で締めさせていただきます。今後とも『もう一つの千里山女子』をよろしくお願いします。

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