『春季大会も残すところ準決勝と決勝のみとなりました。果たして今残っている8校のうち決勝に進める4校はどこになるのでしょうか。今日はAブロックの準決勝を私佐藤裕子、解説には戒能プロをお招きしてお伝えしていきます。本日は宜しくお願いします。』
『宜しくお願いします。』
『さて、Aブロックは白糸台、姫松、千里山、龍門渕の4校で争われることになりますが、ズバリ、戒能プロとしてはどこが上がってくると思いますか?』
『そうですねぇ、順当にいくと白糸台と千里山ですかね。昨年のインハイで決勝までいく程の実力を兼ね備えてますし。しかし、麻雀は何が起こるかやってみないとわかりませんから、今日の試合に注目していきたいですね。』
『なるほど。そんな話をしているうちに、各校の先鋒が揃ったようです。』
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(あれが高校生の頂点に立つ者、宮永照か...)
怜が試合会場に入ったとき、椅子に座って読書をしている彼女に真っ先に目がいった。怜がどうやら最後に会場に入ってきたらしいので、姫松の上重漫、龍門渕の井上純は照と同じように既に席に座っていた。
卓に近づくと、一つ残されている牌を表向きにした。そこには『南』と刻まれていた。
(うちは南家か。そんで起家は宮永...これはついてるかもしれん。)
怜はその時、憩との会話を思い出した。
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「宮永さんについてですよねぇ?・・・・対局前に読書をしているとかですか?」
「それは麻雀に関係あるんか...?」
咲から照が先鋒になった事を告げられた日のミーティング後、怜は憩と照の対策をしていた。
「とは言われても、あんまり覚えてないですし...あ!そう言えば宮永さんは、うちらの試合の時も、ほかの試合でも最初の1局はなんでか分からないですけど和了らないんですぅー。」
「どういうことや?その1局は様子見してるってことか?」
「いえ、様子見と言うよりもうちらの中にある何かを盗み見ているような感じでした。」
「何かって具体的になんや?」
「何かと言われても...とにかく、全てを見透かされてるような感じですぅー。」
一体何を見とるんや。怜には想像もつかなかった。
「そこで、あえてそれを利用するのはどうですぅー?」
「利用するってのは?」
「宮永さんが最初の1局を和了らないことですぅー。」
「具体的にはどうすればええんや?」
「そうですね...例えばその最初の1局を確実に和了って、あとは宮永さんに和了らせるとか...」
「・・・・確かに、そうすればツモあがりを続けられてもそこでのプラス収支のおかげで3位や4位になる可能性は低くなるわな。ただ、そんなことどこの学校も考えとるやろ。」
「おそらくそうでしょうね。でも、怜先輩には一巡先を見る能力がありますから本気を出せばちょちょいと和了くらいできるんじゃないですかあー?」
「なかなかハードル上げてくるなぁ...」
「というより、問題はそれじゃないと思いますよ。怜先輩は宮永さんの上家にならないようにすることが一番の問題な気がしますけど。」
「どういう意味があるんや?」
「ツモあがりをされるとき、あがった人が親でない場合親が子の2倍払わなくちゃいけないじゃないですか。そして、宮永さんには連続和了と打点上昇という能力がありますよね?」
「あぁ、あるなぁ。」
「例えばですよ、宮永さんが親じゃなくてツモあがりをしたとしますよね?そのとき一番点を取られるのは誰ですか?」
「そりゃ親やろ。」
「そうです。これはさっきもいった通りです。問題はその後で、次にまた宮永さんがツモあがりをした時、その時点で一番点を取られるのは誰ですか?ただし、今回も宮永さんは親じゃないとします。」
「それは翻数によるんやないか?一回目より低かったら最初に親だった人、同じだったら最初の親とと2番目の親、高い時は2番目の親やろ...ってもしかして!」
「そうです。普通ならそうなります。しかし、打点上昇という能力があるため、和了るときは必ず前よりも高い翻数になりますから、必然的に2番目の親が一番点を取られることになるんです。そうして見ると、最悪の場合、つまり宮永さんが連続和了の力で誰にもあがらせずに終局した場合、どうなります?」
「親がどこから始まっても、宮永さんの打点が一番高くなりやすいのは宮永さんの上家やな。」
「そういうことですぅー。ですから、逆に言うと下家になると一番点を取られにくいってことになりますね。」
「色々言ってきたけど要はもう運任せってことやな。」
「そうなっちゃいますねぇー。現状、宮永さんを止める方法がないですし。・・・とりあえず神社に参拝にでも行きます?」
「それしかないならそうするわ...」
半ば諦めたように怜は答えた。
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(まさか宮永さんの下家になれるとは、これはホンマについてるで!とりあえずうちはロンあがりを喰らわないようにしとけば2位通過は堅いやろ)
そう思いながら怜は自分の席についた。それと同時に試合開始のブザーが鳴り響いた。
東一局
東:白糸台 100000 親
南:千里山 100000
西:姫松 100000
北:龍門渕 100000
(さて、とりあえず宮永さんがここであがることはないから、警戒するのは姫松と龍門渕やな。せやから...)
(末原先輩が言ってたように、ここであがれるかが勝負を分けるかもしれへん。だから...)
(オレでこの試合を終わらすわけにはいかねぇからな。ここは...)
(((何としてもあがりにいく!!!)))
3人ともあがりにいくことに必死になっていた。そのため、
7巡目
(これで一向聴、しかも次の番で引いてくる牌で聴牌にできる。他のふたりはまだ聴牌した気配はあらへんからこれはうちがもらったか?)
そうして怜は牌を捨てようとした時に、ある違和感に気がついた。
(待て、なんでこんなにことがすんなり運んどるんや?確かに宮永さんはこの局だとあがってこないけどそれでも何かがおかしい...いや、それ以前になにか根本的なことが...)
牌を持ったまま怜は考え込んでいた。一体自分が何を見落としているのかと。そしてそのとき、怜は憩の言葉を思い出した。
『何かを盗み見ているような』
(そうや、その感覚がないんや!ということは、宮永さんが何も見ようとしていない。つまり、この局あがりに来ているってことか!?)
怜は何も起こっていないからこその恐怖を感じていた。
8順目
(これで聴牌やけど、この局で宮永さんがあがる。しかも鳴いてずらすこともできへんのか...)
そして、照の番になったとき、
「ツモ。3900です。」
ここで漫と純も違和感に気がついた。しかし、時すでに遅しである。
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『最初の1局は宮永選手があがりました。宮永選手にとっては順調なすべり出しと言ったところですかね?』
『いえ、宮永選手は最初の1局はあがらない傾向にあるんです。しかし、今回あがってきたということは今までとは違うことが起こるかも知れません...』
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(どういうことや?末原先輩は、この局は宮永さんあがらないって言うてたのに。)
(聞いていた話と違うぞ?なんであがったんだ?)
事態についていけない2人は混乱していた。どうしてこの局にあがったかについて疑問を持っていたのは怜も同じであったが。そんな3人を見てか、照が突然口を開いた。
「なんで最初の1局をあがったのか疑問を持った顔をしているけど、それは『照魔鏡』を使わなかったからだ。」
「照魔鏡..?」
怜はそれがどんなものかと考えたが、多分話の流れからして相手の何かを見透かす力のことなんだろうという結論に至った。
照は話を続けた。
「普段は使っているんだけど、ある人に宣言してしまったから使っている余裕がなかった。大事な親番を流されるわけにはいかないからな。」
「あのぉ...そのある人に宣言したことって何です?」
漫が疑問に思って質問したが、怜には心当たりのあるものがあった。
「先鋒戦で準決勝を終わらせる。」
衝撃的な言葉に漫と純は驚きを隠しきれなかった。怜はやっぱりそのことか、という顔をしていた。
「ただ、それはもう既に園城寺さんがやったことだから私の中でもう一つ条件を加えることにした。」
これは怜も知らないことだった。何を条件に加えたのか。
「それは、『先鋒戦で試合を終わらすのではなく、この東一局で試合を終わらす』ということだ。」
「そんなことできるわけないじゃないですか!!」
「そうだ、100000点も持った状態から始まるんだぞ!」
2人は即座に反論した。あまりにも現実離れをしたこの宣言に。
「それくらいわかっている。ただ、そのくらいしないとどれくらい自分が変わったのか示せない。たがら、」
そこで一呼吸置いて
「だからここからは私の連荘で終わらせる。この試合に東二局は来ない。」
使う人によって同じ台詞でも迫力が違う気がしますね。優希ももっと強くなって欲しいものです(笑)
先鋒戦はあと1,2回で終わる予定です。今後の話もある程度かたまってきたのでサクサク進めていければなぁと思う次第です。
また、オマケはしばらくお休みにさせていただきます。(ネタが思いつかない...)