第1話「出会い」
桜が満開に咲くこの季節、大阪にあるここ、千里山女子高校の3年の教室には、2人の女子高生がいた。授業もとっくに終わってしまっているため、教室には2人の他に誰もいなかった。
その2人のうち、1人が机に突っ伏しながらもう1人に話しかけた。
「なぁ怜〜、課題が終わらへんから、手伝ってくれへん?」
そう言ったのはここの3年生である清水谷竜華であった。今彼女は、たまってしまった春休みの課題を必死になって終わらせようとしているのであった。
そんな彼女に対して、怜と呼ばれた少女、園城寺怜は言った。
「人に甘えてたらダメやで、竜華。自力でなんとかせなあかん。」
「そういう怜はいつもうちの膝を枕にして、甘えてくるやん。」
鋭い竜華のツッコミが入る。怜は毎日、竜華の膝を枕がわりにしてぐでぇーっとしている。
「それとこれとは別問題や。第一、あれは甘えじゃなくて一種のスキンシップやし。」
怜は適当な言い訳をする事にした。
「・・・納得できひん。」
竜華はまたブーブー文句を言うものの、文句を言ってたら課題終わらないで、と怜が急かしてくるため渋々やる事にした。
竜華にとっても早くこの課題を終わらせて麻雀をしたいと思っていた。
二人はここ、千里山女子高校の麻雀部の一員であり、竜華はそこの副部長でもあった。
千里山女子高校は北大阪を11年連続、過去35回制覇している全国トップクラスの強豪であり、また、昨年のインターハイでは四位という成績を残していた。しかし、全国大会連覇をしている西東京の白糸台高校には未だに勝てないでいた。
そんな事もあってか竜華は怜に質問してみた。
「なぁ怜、うちら今回のインハイで優勝できると思うか?」
竜華の質問に特にためらいもなく怜は答えた。
「できると思ってんで。竜華は思ってへんの?」
「いや、うちも思っとるけど...思ってはいるけど、優勝するとなると白糸台を倒さなあかんやろ?」
「確かにそうやけど...」
白糸台には絶対的エース、宮永照がいた。彼女は俗に言う「牌に愛された子」であり、昨年の個人戦でも優勝したため、個人、団体と二冠を達成させた。また、連続和了や打点上昇、相手の実力を分析するという照魔鏡など厄介な能力を持っていた。
即答した怜もその点は不安になるところであった。はたして自分たちに彼女を止めることができるのかと。
そんな時、突然ドアの方から声がした。
「何を二人して辛気臭い顔しとるんや。」
ドアの方を振り向いてみると、そこには二人が見知った人がいた。
「え、なんで洋榎がうちらのクラスにおるん?」
「なんでって、もしかしたら二人がまだ教室にいるんかなと思って見にきただけや。」
「・・・もしかして洋榎、今のうちと竜華の話聞いてた?」
「ばっちり聞こえてたで。」
愛宕洋榎、竜華たちと同じ三年生で麻雀部の部長でもある。よく喋り、強気な振る舞いでこれまでチームを支えてきた。
「二人は白糸台なんかに恐れとるんか?白糸台なんか今のうちらの敵やない。昨年もインハイを経験したうちと竜華、竜華の誘いできてくれた怜、昨年の個人戦で宮永に次ぐ2位の成績を残した憩、こないにも揃ってて負けると思うか?」
洋榎の発言は不思議と二人の不安を取り除いてくれる力強いものだった。
「せやな、改めて考えてみると、このメンバーで負けるきせえへんわ。」
「うちも変に弱気になってたかもな。」
二人の元気な様子を見れてか、洋榎も満足そうな様子でうんうんと頷いていた。
「それはそうと、二人はこの後部室に行くんか?一応今日はオフやけど、多分憩あたりはいるやろうし。」
「行く!麻雀したい!」
びしっ、と手を挙げた竜華を怜が制した。
「あかんで竜華、まだ課題終わってへんし。」
「えー、別にええやん。したい時にしたいことをするもんやで。」
「その前に、まずするべきことをするもんやろ。」
そう言いながら、怜は竜華に軽いチョップをおでこに食らわした。あいたっ!、と竜華は言いおでこを擦る。
「そうすると、竜華が来れないから三麻になるんか。」
「え、怜は部室行っちゃうん?」
「竜華の監視をしてたいけど、流石に洋榎と憩の二人じゃ麻雀は厳しいしな。」
「え、ひとりは嫌や!うちも行きたい!」
「竜華は課題を出し終わってからや。」
「そんなぁ〜」
悲しそうな声を上げる竜華。そんな竜華の様子を見て洋榎は怜に小声で言った。
「ええんか、怜?竜華あんな様子やけど。」
「竜華はやろうと思えばできる子や。それにこうでもしないと竜華のためにもならんし。」
「・・・意外と怜って厳しいんやな。」
そんなこんなで怜と洋榎は竜華を教室に残して部室へ向かうのであった。
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(先輩たちはまだ来へんのかなぁー)
廊下を一人歩きながらそう思っていたのは、麻雀部に所属している二年の荒川憩であった。彼女は部活がオフでありながら、部長たちなら来ているだろうと思い部室へ麻雀をしに行ったものの、誰ひとりとしていなかったため暇をつぶそうとフラフラしているのであった。
(とはいっても行くあてもないしどないしょー)
困り果てていたとき、憩はふとある事を思い出した。
(せや、せっかくやから図書室に行って麻雀の本でも探してみよー!)
そうと決まればと足早に図書室へと向かった。
(とは言っても、高校の図書室に麻雀の本なんかあるんやろうか?それに授業終わってから結構時間経ってるし、多分誰もおらんやろうなぁ。)
などと考えているうちに、憩は図書室に着いた。とりあえず入ってみて、麻雀の本がなかったらなかったで何か他のものでも読んでようと思い、扉を開けた。中に入ると、カウンターに当番がいるだけで、他には誰もいなさそうであった。
憩はさっさと目当ての本を見つけようとうろうろしてると、部屋の奥に一人の少女がいた。どこにでもいるような普通の生徒であったが、憩はその子から何かを感じ取った。そこで憩はもう少し彼女に近寄ってみると、麻雀の本を手に取っているのが見えた。
(麻雀の本を読んでるってことはこの子麻雀打てるんか?それにしてもこの子から得体の知れない何かが伝わってくるけど、何やこれ...)
その疑問を解決すべく、憩は彼女に話しかけてみることにした。
「麻雀できるんですかぁー?」
本を見ていた時に不意に声が聞こえたからか、彼女は「うわっ!」と声を上げ、危うくその本を落としてしまいそうになった。
「あぁ、ごめんな。驚かす気は無かったんやけど。」
慌てて憩はそう言うと相手もこっちに向き直って、
「こ、こちらこそ迷惑かけてしまってすみましぇん!」
どうやら相当気が動転しているらしい。
「一旦落ち着き。言葉が変な風になってるで。」
「あ、は、はい!」
そう言って深彼女は呼吸をした。落ち着いてきた時を見計らって、憩は声をかけた。
「ビックリさせてごめんな。うちは二年の荒川憩や。」
「えっと、一年の宮永咲って言います。」
咲がそう自己紹介をしたとき、憩はある疑問を持った。
(宮永?あの人と同じ名字やけど、何か関係でもあるんかなぁ?・・・いや、多分偶然か。)
確かに名字は同じであるが、別にそこまで珍しいものではないし、何より雰囲気が全く違っていた。
それよりも憩の関心は、咲が麻雀をできるかもしれないということに移っていた。
「宮永さんは麻雀やるんか?」
「いえ、麻雀は昔やっていただけで、今はもうやってないです。」
「ということは、できなくはないってことやな?」
「まぁ、そうですかね。」
(この子も麻雀やれるんか。どのくらいの実力か見てみたいわ。そんでさっき感じたものの正体を見てみたい!)
憩がそう思っていると、突然携帯が鳴った。どうやらメールが来たらしい。
『憩はもう帰っちゃったんか?今うちと怜が部室にいるんやけど三麻やらへん?竜華は今課題やってるから来れへんねん。』
メールの差出人は洋榎からであった。憩はそれを見て、ふとある考えを思いついた。
「なぁ宮永さん、この後って何か予定あるか?」
「いえ、特にはないですけど。図書室には借りてた本を返しに来ただけですし。」
咲のその返答を聞いて、憩は満足気な顔になった。
「そか。せやったらうちと一緒に来てくれへんかー?今から麻雀やるんやけど、あと一人足らへんねん。」
「わ、私ですか!いえ、私は...」
「頼む!この通りや!」
両手を合わせて咲に必死に頼んでみる。すると咲は、
「わかりました、少しくらいなら大丈夫です。」
「ほんま!ありがとうー!」
憩としては4人で麻雀をしたいというのもあったが、咲が一体どれほどの実力を持っているのか試してみたいということもあった。
「ほな、行こかー。」
そう言って憩と咲は部室へ向かっていった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
話の流れでもわかると思いますが、今回原作の設定と異なるのは千里山に姫松の愛宕洋榎、三箇牧の荒川憩がいるということになっている点です。なぜこんなことを考えたのかと言いますと、原作の阿知賀編でとある雑誌記者が、「千里山に荒川憩と愛宕洋榎がいれば(白糸台と)いい勝負ができるかもしれない」と言っており、だったら二人を入れたらどうなるのかと思ったためです。
そして、それぞれの性格や能力などところどころ異なる部分もあったりします。そのへんの点も悪しからずご了承ください。