OVERLORD 自衛隊彼の地にて・・・ 作:ラルク・シェル
国会議事堂では、テュカ達はもちろんアインズ達も議員やマスコミの注目になっていた。
[こうして見ると、政府が生きているって実感できるな…]
アインズの住んでいた未来では、政府など機能しなくなって巨大複合企業が支配される形になっていた。だから政府や議員などがちゃんとしている事に新鮮な感じだと思える。
それから伊丹達とアインズ達は席に座ると、さっそく審議質問が始まる。最初に質問してきたのは幸原みずきという女性議員。
「では、単刀直入にお尋ねしますが…アナタ方、自衛隊員が保護した特地の避難民がドラゴンによって150人犠牲になりました。その理由は?」
幸原は伊丹に対して少し意地悪な質問をした。これで与党を叩いて自衛隊の力不足だと認めさせようと企んでいる。
その質問に対して伊丹は
「それは…ただドラゴンが強かったのと、武器が弱すぎた事です」
「はぁ?」
「7.62㎜なんて豆鉄砲ですよ?もっと超電磁砲とかの強力な奴なら、なんとかなったと思いますけどね」
なんとも予想外という理由に幸原や他の議員も固まってしまう。だが、すぐにレレイやテュカにも質問してきた。しかしそれでも回答は曖昧なもので、ついにロゥリィの質問に入ってきた。
[喪服を着ているってことは、これで政府に非がある質問が聞けるかもしれない…]
そう確信した幸原だったが、その時アインズが手を上げ始める。
「あの、すみませんが」
「なにかしら?」
「私にも、話させてくれませんかね?」
アインズも質問に参加してくれないかとお願いする。そして許可が得ると、さっそくロゥリィの隣に立つことが出来た。
「それでは、お尋ねしますが…アナタはさっきから、被害者が出たのは自衛隊の責任だと言っているみたいですな?」
「ええ、そのとおりです」
「……全くもって愚かな…」
「は?」
アインズの言葉に幸原は呆気にとられてしまうがすぐに切り替えた。
「愚かって、私が?」
「そうだ。つまり貴様は、自衛隊なんて廃止しようと思っているはずだ?」
「なっ!」
「だが、伊丹殿の言っている通りドラゴン相手に通常の武器など役に立たなかったと分かる。しかしそれでも彼らは、難民を4分の3救った事になる。それで十分ではないのか?」
どうやら幸原の態度が気に入らなかったのか。強い殺気を全身に纏ったアインズの口から語る内容は、確かに間違ってはいなかった。それも自分の企みにも少し気づき始めていることに、幸原は固まってしまうがすぐに切り替える。
「しかし!自衛隊が犠牲者を出したのは事実ですのよ!」
「まだ、そんな事を言うのか…本当に愚かだ」
「ひっ!」
もっとアインズが怒りと殺気を出し始めると幸原はもちろん、周りの議員や伊丹にまでその殺気に少し怯えたり冷や汗をかいたりする。これにはテレビ越しで見る視聴者の半分にも及ぶ。
「こんなに怒らせて、アナタって本当にお馬鹿ねぇ。お嬢ちゃん?」
「お嬢…ちゃん」
さらにロゥリィも幸原をバカにするような発言をし始めると、それに続いてアルベドもやってくる。
「お前、アインズ様の話を聞いていなかったのか?たかが下等生物がどれだけ死のうとかまわないけど、アインズ様が自衛隊の活躍を認めているだけでいいのでは?」
「下等…?」
「人間なんて、我らにとっては下等な存在ですから」
アルベドとナーベラルも質問が気に入らなかったのかストレートすぎる発言。これにはなんとか冷静に質問してきた幸原も、ついに堪忍袋の緒が切れる。
「か…下等って、アナタ方!さっきから随分と失礼な発言しまくってますね!人が質問をしているというのに、お嬢ちゃんだの下等生物だの!!」
「待ってください!彼らは特殊なんで…」
伊丹がなんとかこの場を落ち着かせようと入ってきた。続いてレレイも入って来て発言する。
「そもそもロゥリィは見た目はこうですけど、結構長生きなのですから」
「長生き?では、一体何歳なのか教えてくれませんかね?」
疑ったのかロゥリィに年齢について尋ねてみた。
「私?961歳よぉ」
「……え?あの、もう一度…」
「だから961歳よぉ、私♪」
とんでもない年齢に幸原や他の議員も度キモを抜く。
「では、テュカさんは?」
「165歳ですけど?」
「あっ、アタシ達は2人そろって76歳ね」
「165歳…76歳…!?」
テュカに続いてアウラとマーレの年齢にも驚きを隠せずにいた。そしてレレイにも訪ねてみる。
「レレイさん、アナタは?」
「15…人間種なので」
これにはなぜか安心してしまう議員たち。しかし次に聞いたのはアルベドとナーベラル。
「ところで、御2人の年は?」
「そんなのありませんが」
「え?」
「私はインプでありサキュバスですから」
「そして私はドッペルゲンガー」
自分達が年齢という概念が存在していないことを全員に教えると、ついにアインズも自分の正体について語り出した。
「ついでに教えておきますが…私も年齢はない」
「ないって…」
「私は死者…アンデッドだ」
その発言には伊丹やアルベド達以外の全員がさらに騒めく。
「し…しゃ……」
「ええ、別にこの仮面をとっても良いですけど、素顔を見る勇気はアナタ方にありますかな?」
仮面に手を付け始めるアインズ。さらに伊丹も参加する。
「という訳ですので、これ以上話すことはないかと思いますけど…どうしますか?」
しばらく氷のように固まり続ける幸原はしばらくすると、目の前の資料を綺麗に片付ける。
「もう良いです…以上です」
敗北したのか聞くのが怖いのかは不明だが、小声で言って質問を終了することにする。そして本来はバスだが、マスコミなどの罠から回避する為に地下鉄に乗り込むのだった。
丁度、栗林達も合流したけども、ピニャとボーゼスは勿論。ロゥリィもかなり怯えている。このまま地の底に連れて行かれるかと心配になっていて。しかし人間だった時から地下鉄を使っていたアインズと、元々地の底にいたアルベド達は平気であった。
「地下鉄…ダブラ様が言っていた地下を進む乗り物」
「本当に地下を走っているのね?」
「もしかして、この国の墳墓に繋がっているのかな?」
「そんな事を言わないでぇ!!」
そんなこんなで次の駅に到着したが、そこには駒門が先回りしていて乗り込んだ。
「まさか、バスを囮に使うとはな」
「我々は…あんまり人目を避けたいと思っていますので」
しばらくするとあまりにも怯え続けるロゥリィが見るに堪えなくなった伊丹は、仕方なく途中の駅で降りた。だが、これには駒門も焦ってしまう。
「おいおい、勝手に動いたら困るだろ!?」
「分かってるけどな…」
地上に出るとロゥリィは生き生きとし始める。
「駒門さん、アンタが言っている敵の狙いは?」
「それはもちろん、威力偵察とかだよ。バスも電車も失敗したから、恐らく直接的な行動に」
その時、大きく鈍い音が響き渡った。なぜなら不審な男がロゥリィのハルバードを引ったくりしたが、あまりにも重くて逆に潰されてしまう。
「なにやってんだコイツは?」
呆れた駒門はハルバードを拾い上げようとした。
「あっ、それは」
「え?…ふぎゃ!?」
伊丹の警告も束の間。重さでギックリ腰になって駒門は、そのまま救急車に運ばれてしまった。
「やはり、ニンゲンなんて本当に弱い生き物ですね」
「まぁな…だが、今は…」
「ですな」
2人はこのままホテルに向かうのは危険だと考える。しかも全員が泊まる筈のホテルはボヤ騒ぎで使えなくなった。だが、伊丹は近くに心当たりがあるというので、全員はその場所に歩いて行った。そして到着したのは安アパート。
「なんなの、このみすぼらしい建物は…」
「本当です。至高の御方にこのような所を!」
「いや、でもここは俺の知り合いが借りているから」
「知り合い?信用出来るのですか?」
「なんとなくだけど」
少し乗り気にはなれない伊丹だったが、そのまま扉に立って開けて中に入る。するとメガネをかけた明らかにオタク風な女性が、やつれた感じに匍匐前進して駆け寄った。
「遅かったじゃない…ご飯も電気代も…」
「分かった分かった。ちゃんと出してやるよ」
「あの、その人は?」
アインズは伊丹に泣きついてきた女性は誰なのかと尋ねた。
「この人は、葵梨紗といって…俺の元嫁さんね」
「「「「「元嫁!?」」」」」
「伊丹さん…結婚を!?」
「まぁね。離婚したけど」
伊丹が元既婚者だったという展開には誰もが驚愕した。
審議質問でも幸原がイジワルな質問をしてきたに対し、見事アインズ達で懲らしめました。
そして伊丹の元嫁の葵梨紗の登場しました。
次回はナザリック達の自由時間です。