OVERLORD 自衛隊彼の地にて・・・ 作:ラルク・シェル
シャルティア暴走からしばらく経ち。レレイは仮設住宅で暮らしていて、朝になって目を覚まして外に出る。そこで見たのは大きな町であった。
「だいぶ、大きくなったね」
自衛隊がアルヌスに駐屯地を構えてから一か月半。難民キャンプ地は語学研修が行われて、研修生は薔薇騎士団のメンバーと従者。
それから旅の行商人が店を出してたが、アルヌス共同生活組合と購買部が協力して一軒のコンビニが開店した。それが瞬く間に大繁盛して人手不足になってしまう。しかし組合との間の伝手が効くファルマル伯爵家に協力してもらって、亜人のメイドが手伝いに来てくれる。おまけに次々と行商人がやって来ては、新しい店やさらには食堂までも出来てきて、ついには町が完成していった。
「随分賑やかになったな?」
「ピニャ王女達もがんばったみたいねぇ」
伊丹は前回の戦闘で重傷を負ったが、見事に回復したロゥリィと歩いていた。
じつは伊丹達がシャルティア監視してた頃に、外務省から菅原浩次がピニャとセクフィア帝国の元老院議員と交渉していた。そこで元老院の重鎮、キケロ・ラー・マルトゥスと会談して、日本の伝統文化の品を献上して交渉は成功したらしい。
「伊丹さん、ロゥリィさん!」
「おっ?マーレ、それにハムスケも」
「お久しぶりでござる」
2人の前にマーレとハムスケが現れる。じつは事件の後に時々アウラとマーレが遊びに来ている。そしてアインズが賢王にハムスケと名付けたと教えた。
「ここも随分と大きくなりましたね」
「まぁな。ピニャ王女の支援やレレイの授業のおかげでな」
「それでアインズ様からの伝言ですけど、僕が到着したらすぐに連絡するって」
「え?連絡を?」
《伊丹さん》
「うわっ!」
するといきなりアインズの声が聞こえたので驚く。伊丹はこれからはテレパウィンドを着ける事にしている。
「アインズさん、いきなりの通信は驚くからと」
《それはすみませんね…ですが、ちょっと話が…》
「話…ですか?」
《といっても…いいのかどうか分からなくて》
なにやら少し言うかどうか迷っている様子。そんなアインズにこの前のシャルティア反逆のようなのが起きたのか心配になっていく。
「まさか…また面倒事か厄介事?」
《いや、そうじゃなくて…伊丹さんに我がナザリック地下大墳墓に招待しようかと》
「……え?」
いきなり自分達の住処にご招待と言われて、戸惑ってしばらく固まってしまう伊丹。そしてすぐに我に返ると返事した。
「ちょっと…なぜいきなり?」
《あはははは、すみません。こんな事を言って戸惑う気持ちは分かります。ですが、アナタには色々と迷惑をかけてきましたのでお礼にと》
「お礼って…」
《まぁ、無理にとは言いませんから…返事を待ってますので、気長に考えてくださいね。それからマーレとハムスケを頼みますし、よろしければテュカもレレイもロゥリィも連れてきても構いませんから》
そのまま通信を切ってしまう。しばらくしてマーレとハムスケが帰っていき、伊丹とロゥリィは飲み屋で飲んでいた。
「ナザリックか…」
「伊丹、まさか行くつもりぃ?」
「なんだ?行かない方が良いってか?」
「だって…地下にあるんでしょぅ?」
「ああ、たしかにそう言ってたな」
日本来日でロゥリィが地下鉄に怯えてたことを思い出す。だから、地下にあると聞かれた時はロゥリィがとても怯えてた。そんな時に、テュカがうろうろと歩いているのが発見する。
「おーーーい、テュカ」
「伊丹」
呼ばれたので2人の所に駆け寄ったテュカ。しかし未だに浮かない顔のまま。
「お前、誰を探してたんだ?」
「別に…なんでもないの…」
「いや、そんな雰囲気じゃあ」
「本当に大丈夫だから」
そう言って去ってしまうテュカだったが伊丹は気づいていた。テュカは炎龍に村を滅ぼされて、父親も目の前で死んだことに。それが今でも心に大きな傷になっている様子。
[まさか…無意識に父親を捜しているのか?]
もしもそうだとすれば、このままだと彼女の心が壊れる可能性が高い。そう感じる伊丹は飲み屋を出て自分の部屋に帰ってベッドに横になる。そしてしばらくボーっとする伊丹だったけど、ある事を思いつく。
[そうだ!]
すぐに伊丹はテレパウィンドでアインズに連絡を開始。
「アインズさん、アインズさん!」
《伊丹さん。もしかして?》
「はい、アナタ方の住むナザリックに行きます!」
《そうですか。で、決めた理由は?》
それはアインズ達ならばテュカのトラウマを何とかしてくれるかもしれない事と、これで少しは気分転換してくれることに。
《なるほど。やはり…その記憶を消すのが一番ですね?》
「それはちょっと困る。なんか危なそうですし」
アインズの記憶消去か改竄の提案は却下した。万が一にこれが原因でテュカの心が壊れるかもしれないので。
《まぁ、とりあえずいい方法が他にないのか考えてみますね》
「お願いします」
《ついでに、来るときにはお菓子を?》
「はいはい、分かりました」
連絡が終了して伊丹は一度、テュカの部屋に向かった。入ってみるとテュカが目に少し涙を出しながら寝ているのが分かる。
「お父…さん」
しかも寝言で父親の事を呟くので、優しく頭をなでたりする。
それから2日後。
伊丹とテュカとレレイとロゥリィが集まってアインズを待っていた。それから頼まれたとおりに、日本のお菓子や護身用の銃とガスマスク3人分を用意。
「隊長、あんまり迷惑をかけないようにしてくださいね?」
「本当ですよ?あちらは未だに我々を信用していないみたいですからね?」
「分かってる、分かってるって」
栗林と富田に心配されながらも待ち続けるが、その隣でテュカが腕に強く抱き着いていた。
「テュカ、どうしたんだ?」
「なんでもないの。なんでも」
ただそう返事を返すと、ゲートが展開されてアインズが現れる。
「では、伊丹さん。この度、ナザリックへご招待します」
「どうもアインズさん…じゃあ、行こうか」
「うん」
「はい…」
少しするとロゥリィも伊丹の腕に抱き着いてきた。
「ロゥリィ?」
「だって、これから行くのって地下の墳墓でしょぅ?あのハーディーがいたらどうするのぉ?」
「あの…そのロゥリィの言うハーディーと我々は本当に関係ないから」
怯え続けるロゥリィを伊丹達が、少し時間をかけてなんとか落ち着かせた。
「それでは、いきますよ」
「はい」
アインズを先頭に伊丹とテュカとレレイとロゥリィはゲートを潜った。
ゲートを潜って着いた先は、ナザリックの特別交流室。そこには既に各階層守護者とプレアデス全員にセバスが待機していた。ちなみに任務に出ていたセバスとソリュシャンは、今回の為に呼び戻されてる。
「お待ちしておりました」
「伊丹殿」
「これはどうも…」
アルベドとデミウルゴスに出迎えられたので、ついお辞儀をする伊丹達。
「アルベドやアウラにナーベラルはすでに会ってるので、残りの守護者とプレアデスを紹介しましょう」
最初に伊丹の前に出てきたのはコキュートスとヴィクティム。
「伊丹殿。我ノ名ハ第5階層守護者、コキュートスト申ス」
〔同じく私は第8階層守護者、ヴィクティム〕
「ああ…これはご丁寧に」
何とも人間離れした外見の2匹に少し引きながらも握手する。それからセバスが、ユリとルプスレギナとエントマとソリュシャンを引き連れて来た。
「どうも初めまして、ナザリック執事のセバス・チャンと申します。それからこちらが、ナーベラルとシズと同じ」
「戦闘メイドのユリ・アルファです」
「ルプスレギナ・ベータっス!」
「ソリュシャン・イプシロンです」
「エントマ・ヴァシリッサ・ゼータですわ!」
約1名を除いてセバスと戦闘メイドは少しまともそうと感じてホッとする。だけど、誰か足りない事に気が付く。
「あれ?そういえば…シャルティアだっけ?彼女は?」
そうこの間、任務の監視対象でロゥリィをボロボロにしたシャルティアがいなかった。
「あ…彼女は……」
「え?」
アインズが指を刺した先には部屋の隅で暗い顔のシャルティアが立ってた。すると苛立ちをみせたアウラがシャルティアに近づく。
「ほら、伊丹さん達が来たんだから少しは挨拶ぐらいしなよ!」
「……分かったでありんす」
やる気なく返事をして伊丹達の前に来ると
「改めて自己紹介するでありんすが…第1…から、第3階層守護者…シャルティア・ブラッドフォールンでありんす」
ドレスの両端を掴んで少し上げながら挨拶した。しかし、本当にやる気というものがない。
「これって…」
「はい、あの反逆と暴走を話した途端に、あのとおりに」
いくら精神攻撃を受けてたとはいえ、アインズに牙をむいたのは変わりなく。その為、強いショックを受けた。
「とりあえず…ユリ、ナーベラル」
「「はい」」
「2人で伊丹さん達にナザリックの案内を」
「分かりました」
2人に案内を頼むと、さっそく伊丹達のナザリック案内が始まった。
今回は伊丹達のナザリック招待篇となりましたが、次回には「ぷれぷれぷれあです」のあのアイテムが登場するかもしれません。