とある科学の無能力者【完結】   作:ふゆい

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 やっと更新できましたー。
 この話も次回には終わる予定です。更新は明日か来週になるかと。


第四話 ある夏の一日(中編)

 柵川中学前に位置するファミリーレストラン。規模もそれなりでメニューも豊富なため、主に学生を中心とした利用客が多いそのレストランの前で佐倉は一人待ちぼうけを食らっていた。

 時刻は十一時五十分。妥当な時間だが、美琴達はまだ姿を見せていない。集合に手間取っているのだろうか。

 携帯電話を弄りながらも、容赦なく照りつける日差しに心底気が滅入ってしまう。

 

「あっちぃ……」

 

 一日中部屋でくつろぐと決めていたせいもあるのか、体感温度がエラいことになっている。夏真っ盛りな八月に、冷房もついていない上に直射日光全開な歩道で人を待つなんて愚かしいにもほどがある。少しは場所を変えるとか日陰に移動するとか考え付いてもよさそうなものだが、暑さで思考能力の大半を奪われている佐倉は正常な判断をすることができない。

 結局、ジリジリと無抵抗に肌を焼かれていくわけで。

 できれば早く来てほしいと割と切に願ってしまう。

 

「……アンタ焼け死ぬわよ?」

 

 そうして、その時は訪れた。

 メルトダウン直前で呆けていたためか、美琴達が目の前に来ていたことに気付かなかった佐倉は声をかけられてのろのろと顔を上げる。

 

「……なんだよまた制服かよ」

「常盤台は制服着用義務があるから仕方ないでしょ。私服とか期待してんじゃないっての」

「女の子のファッション期待すんのは当たり前の事だろ」

「知らないわよそんなの。ほら、友達紹介するから立ち上がって……と思ったけど、まずは中に入ろっか。一人死にかけてるのがいるし」

「うるせー」

 

 文句を言ってみるものの、死にかけていたのは事実であるので吸い込まれるようにしてファミレスの中へと入っていく佐倉。素直じゃない彼の様子に、美琴の後ろに待機している少女達が思わず吹き出していた。

 入店し、店員に案内された席に座っていく。

 向かい側に初対面の少女三人が座り、隣に美琴という並び。美琴が少しだけ頬を赤らめていたが、暑さにやられている佐倉がそれに気が付くことは無かった。

 とりあえず飲み物を注文し終えると、美琴が口を開く。

 

「じゃあまずはコイツの紹介をしておきましょうか。前も言ったと思うけど、ATM強盗の逃走王、佐倉望よ」

「マイナス要素だけ並べるのやめろコラ」

「なによ事実でしょ?」

「事実だから余計嫌なんだよ」

 

 話題に出た時もこんな感じで紹介されていたのかと思うと思わず目尻が熱くなる。名誉棄損で訴えてやろうかと思ったが、実力行使で痛い目見るのはほかでもない自分なのでやめた。

 佐倉の紹介が終わると、向かって右側……窓側に座っている、花冠を乗せた少女が先頭を切った。

 

「柵川中学一年D組、初春飾利です。風紀委員やってますっ」

「へぇ、風紀委員なんだ。凄いな」

「い、いやぁ~、そんな大したもんじゃないですよぉ」

 

 照れながら頭を掻く初春。人懐っこい笑みが特徴的な少女だ。

 しかしこの初春とやら、どこかで見たことがあるような気が……、

 

(……あぁ、強盗したときに見かけた女の子か)

 

 学校から自転車でアジトに向かっていた際にすれ違った中学生がちょうどこんな特徴をしていた気がする。そういえば初春の隣に座っている黒髪ロングの少女はその時一緒に歩いていた子だ。相当仲が良いのだろう。

 そして二番手をその少女が請け負った。

 少女は「はいはいはーい! 次あたしいきまーす!」と元気よく手を上げると、ハイテンションに紹介を始める。

 

「初春と同じく柵川中学一年D組、佐天涙子でっす! 好きなものは音楽と甘いもの。人生とことん楽しむがモットーな花の十三歳なんでよろしくお願いしまーす!」

「よろしく。凄い元気だなぁ」

「明るいと楽しいじゃないですかっ、佐倉さんも元気出していきましょー!」

 

 「いぇーい!」とはしゃぎながら太陽のような笑顔でサムズアップする佐天。なんというか、とても《思春期》らしい中学生という印象を受ける。戦闘狂の美琴や暴走魔人な黄泉川、そして合法ロリの小萌などのイレギュラーな女性陣に囲まれているせいか、余計にそう思ってしまう。

 

「……アンタ今なんか失礼な事」

「思ってねぇ!」

 

 思いましたが、見逃してください。

 そっぽを向いてジュースを飲みながら、冷や汗流す佐倉は第三位の怒りが爆発しないのを必死に願っていた。

 そしてようやく最後の一人である。美琴と同じ名門常盤台中学の制服を身に纏ったツインテールの少女。左腕で存在を主張している緑色の腕章から、彼女が初春と同じ風紀委員だということが窺える。常盤台生の風紀委員とは大盤振る舞いもいいところだが、部隊としてはこれ以上ない人材だろう。

 結局能力かとか捻くれたことを一瞬考えてしまいながらも、とりあえずは自己紹介に耳を傾けようとして、

 

「白井黒子。風紀委員第一七七支部所属の空間転移能力者(テレポーター)ですわ。よろしくお願いしますの、スキルアウトの佐倉さん?」

『…………え?』

 

 空気が、確かに凍った。冷房が効きすぎているわけでもないのに、悪寒が走る。嫌な汗が背中を流れた。

 白井が突如放った衝撃の台詞に、女性陣が揃って表情を固めている。信じられないことを聞いたと言わんばかりに佐倉に視線を注いでくるので、若干涙目になっている男がいた。

 そんな殺伐とした雰囲気に満足げな顔で頷いた白井は、心底腹の立ついやらしい笑みを浮かべて言葉を続ける。

 

「黄泉川先生からお話は聞いていますの。なんでも、スキルアウトの仲間達とよく強盗をやってらっしゃるとか」

「ぇ……その……」

「いえ、別にわたくしに構うことはございませんのよ? 佐倉さんにも事情があるのでしょうし、とやかくは言いません。ですが……お姉様が気になっている男性がこのような犯罪者予備軍だというのはいささかどうかと思いますの。世間の目もありますし……」

「こっ……コラァァアアアアアアア!! アンタいきなり何言ってんのよ黒子! 誰が誰を気になっているってぇええええ!?」

「え? ですがお姉様。最近寮でよく話題に出しておられるじゃありませんか。『あの馬鹿いつかとっちめてやる』って素晴らしい笑顔で話されておられますし。……ホント、忌々しいくらいの輝かしい笑顔でッ……!」

 

 なんか段々と表情が暗くなっていく白井。どこからともなく取り出されたスプーンが彼女の華奢な指によってへし曲げられているが、いったいどれくらいの力がこもっているのか考えたくもない。それに触れたが最後、自分は間違いなく命を落とすだろうと理性が警鐘を鳴らしていた。

 豹変したでは済まされないほどのどす黒いオーラを放つ白井を止めるべく、ほんわか系毒舌女子初春飾利が全参加メンバーの応援を受けて今こそ立ち上がる。

 

「し、白井さぁーん。ちょっと周囲の迷惑も考えて……」

「こんなヤツがっ! こんな野蛮人如きがお姉様のラブリーでキュートなハートを射止めたのかと思うと黒子は思わずこのスプーンを薄汚い殿方の心臓に転移させたくなりますのッ……!」

「あー、もー駄目ですねこりゃ。御坂さーん、白井さん戻ってきませーん」

「りょーかい電気マッサージでご機嫌に目覚めさせてあげるわ!」

「あばばばばばばば!」

 

 今がチャンスとばかりに電撃を浴びせかける美琴。プスプスとまさに黒くなってしまった白井は自慢のツインテをアフロに変化させてその場に崩れ落ちる。ノックアウトだった。10ラウンドを戦い抜いたボクサー並にノックアウトされていた。

 しかしこの時彼女達は大切なことを思い出すことになる。

 

《攻撃性の電磁波を確認。強盗関係と認定。直ちに捕獲を開始します》

「やっべ……!」

 

 ファミレスにも強盗が入る可能性を考慮して設備されている警備用ロボット。美琴の電撃攻撃に反応を示したロボは己に与えられた任務を完璧にこなす為にお客様の間をかいくぐってまっすぐこちらにやってきている。

 不可抗力とはいえ、絶賛問題児中な美琴達は血相を変えて席を立つと、全力疾走でその場から走り去った。

 

「あ、お客様お勘定!」

「そこで寝ている風紀委員に請求しておいてくださーい!」

 

 しっかり白井を売ることも忘れない辺りが初春の黒さを暗示していた。

 

「御坂さん、じゃあ私達こっちですから!」

「あーうんじゃーねー!」

「そしてなんでてめぇは俺の方に来るんだよ!」

「いいじゃないここまで来たら一緒に逃げるわよ!」

「理由になってねぇ!」

 

 走りながらも元気に手を振る佐天に美琴は手を振りかえすと、必死こいて逃げる佐倉の隣に合流する。警備ロボットの姿がいまだに消えていないため、速度を緩めることもできない。

 

「それじゃあ頑張って撒くとしますかぁ!」

「あーもーマジで理不尽だ!」

 

 晴れやかな笑顔で走る美琴の後を、文句を言いながらもどこか楽しそうな佐倉が追いかけて行った。

 

 

 

 

 

                     ☆

 

 

 

 

 

 そして一時間ほど第七学区を疾走してなんとか警備ロボットを撒くことに成功した佐倉達は、一応の安全を確保するべく本日二度目となる佐倉家を訪れていた。再び赤面する美琴にやっぱり気が付かない佐倉は天然の気があると思われる。

 

「あー……まさか今日の内に二回もここに来ることになるなんてね……」

「まだ三時だぞ? こんな昼間からなにやってんだ俺達は……」

 

 全力疾走の末に汗だくになってしまったため、現在とっても気持ちが悪い二人。汗ばんでジメジメした衣服が肌に張り付いてなんとも言えない気色悪さを与えてきている。

 お互いにそんな状況だったからだろうか、佐倉は椅子に背中を預けたまま床に倒れ伏している美琴にこんなことを提案してしまう。

 

「先にシャワー浴びていいぞ。早くさっぱりしたいだろうし」

「…………はい?」

「いや、だから汗流すためにシャワー浴びていいって――――――――っ!?」

 

 ようやく己の犯した過ちに気が付いた佐倉は湯気が出そうな程に顔を染めた。視線があちこちに泳いでいき、挙動不審者感を盛大に醸し出している。

 しかしこの時もっとも混乱の渦中にあったのは他でもない御坂美琴その人であった。若干気になっている(白井黒子談。自分は認めていない絶対に!)男子の部屋でシャワーを勧められるなんて、彼女が知り得る限りの情報から鑑みれば行き着く答えはただ一つだ。

 すなわち、

 

(こここここ! 恋人の営みとかそう言う系のことやろうとしちゃってるのぉおおおおおお!?)

 

 基本ヘタレで有名な佐倉に限ってそのようなことは起きるはずもないのだが、彼のことをあまりよく存じていない美琴がそんな事実に行き着くはずもない。

 よって戸惑いは最終局面を迎えてしまうわけで。

 

「えと……あの……そ、そういうつもりで言ったんじゃないからな……?」

(やっべぇえええええええええ!! 俺今相当迂闊な事言った気がするわぁあああああああああ!!)

 

 そして対する佐倉望もかつてない勢いで精神的な意味でクライマックスに突入していた。ただでさえ汗をかいているのに嫌な汗が止まらない。そんでもって衣服がベタついて気持ち悪さも止まらない。

 こういう時どうすればいいのか。人生経験が著しく欠乏している童貞高校生はなんとかこの窮地を脱するべく尊敬する先輩方に救助メールを送信する。

 ……数分後、三人から送られてきた返事の中身は、

 

《死ねよお前》(半蔵)

《頑張れ》(駒場)

《いいか? まずはコンドームの位置を把握するんだ。そして相手がシャワーを浴びている最中にベッドを整えろ。汚いままなんかにしたらダメだ。そしてソイツが戻ってきたら甘い言葉を囁いて少しづつ顔を近づけていって(以下略)》(浜面)

 

(なんて使えない先輩達なんだ!)

 

 三者三様、しかし実に彼ららしい返信に力なく項垂れる。救助要請を送ってまさか罵倒が帰ってくるとは思いもしなかったが、あの忍者かぶれならやりかねない。

 そして何より問題なのは茶髪運転手HAMADURAだ。この男相変わらず欲望のままに生きているのか、後輩の気持ちを全く汲まないまま行為の順序などを送ってきてやがった。彼も一応佐倉のためを思ってこのような返信をしたのだろうが、今回に限っては殺意が湧くだけである。ここまで役立たずだと逆に尊敬の念を抱いてしまいそうだ。

 

「…………」

「…………」

 

 お互いに黙り込み、非常に気まずい雰囲気が場を支配する。できるならば絶対に経験したくはない沈黙を全身に受け、彼らは人生史上最大の戸惑いをその顔に表現していた。

 ……そして、数分経ったその時勇者が決意する。

 

「……じゃ、じゃあシャワー借りるわねー……」

「!?」

 

 常盤台の誇る超電磁砲、学園都市の第三位である御坂美琴が、女らしく根性見せて空気をぶち殺しにかかった。

 

 

 

 

 


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