とある科学の無能力者【完結】   作:ふゆい

33 / 68
 淡々と進む日常話。あれ、コメディってどう書くんだっけ?


第三十一話 インターバル

 結果的に言えば、佐倉達は勝利した。

 味方からの指示が届かなかった上条がタコ殴りにされたり生き急いで突貫した佐倉が衝撃波をマトモに食らって吹き飛んだりと様々なハプニングは起こったが、まぁ当初の目的は達したと言えよう。小萌先生も泣きながらにではあるが自分達の勝利を喜んでくれていたし、佐倉達としては万々歳だ。

 さてさて、競技を終えると上条と土御門はどこかに行ってしまい、青髪ピアスはクラスメイト達と共にバカ騒ぎを続行中だ。会話できる相手がいない現状、佐倉は手持ち無沙汰に視線をあちこちへと彷徨わせている。

 

「なぁーにやってんのよ、のーっぞむ!」

「のわっ……って、美琴か。驚かせんなよ」

 

 不意に後ろから肩を叩かれわずかに跳ね上がる佐倉。油断していたところに突然話しかけられたから驚いてしまった。美琴の前ではできるだけカッコよくありたいと切に願う佐倉的には情けない姿を見せてしまったようで若干落ち込み気味である。表情にはおくびにも出さないが。馬鹿にされるから。

 人知れず溜息をついている佐倉の内心も知らず、美琴は相変わらずの快活な笑顔を浮かべると背中を叩きながら言った。

 

「さっきのアンタ、すっごくカッコ良かったわよ」

「……ガラにもねぇ事しちまった自覚はあんだけどな」

「いいじゃない別に。つーか、いつものアンタは気取り過ぎなのよ。肩肘張って強く見せても人生楽しかないでしょうに」

「いいんだよ、俺がそうしてぇんだから」

「いやいや、あんまり無理してっと身体もたねぇぜ望ちゃん?」

 

 美琴との会話に割り込むようにして言葉を投げ込んできた第三の人物。あまりにも聞き覚えがある声に佐倉は一瞬顔を引き攣らせるが、視界に飛び込んできた金髪のポニーテールを確認した瞬間に肩をがっくりと落とした。疲れが一気に襲ってきたような疲弊し切った表情を浮かべ、口元を引き攣らせたまま件の人物を見上げる。

 日本人離れした色白の肌に金髪碧眼。イギリス人のクォーターだからこそ実現した美の結晶。百七十センチの長身をいっそう際立たせるスレンダーな体型。胸部には若干の心残りが見受けられるが、モデルでもすれば一躍大活躍できるだろうと確信が持てるほどのクオリティ。ぷっくりとした柔らかそうな唇の間には鋭い八重歯が光り、白いタンクトップとホットパンツが彼女の快活さを強調している。絵に描いたような元気娘。もしくは不良娘といった印象を抱かせる女性だ。

 佐倉千里。とても四十代には見えない若々しさ抜群の人妻は、愛する夫佐倉叶の腕に抱きついた格好で佐倉へと声をかけてきていた。

 あまりにも年甲斐のない露出満点な服装に頭痛を覚えた佐倉は思わず眉間を親指と人差し指で揉んでしまう。

 

「母さん……開会式前にも言ったけど、その女子高生みてぇな格好はどうにかならねぇの?」

「へっへーん! 似合ってるだろーっ?」

「似合ってるとか似合ってねぇとかじゃなくてよ……ウチの馬鹿ピアスが興奮しまくってるからもうちょっと肌を隠してくれると助かるんだけど」

『むっひょー! サクっちのママさん、ごっつえぇ美人さんやないですかい! 若々しい女性ってのはいつ見てもボクの心臓を鷲掴みしてくれるんやなぁ! いいでいいで、サクっちその人紹介してぇーな!』

 

 親指で自分の背後を呆れた様子で指し示す。見なくても青髪ピアスの状況が分かった。さっきから聞こえてくるアホボイスが状況を完璧に説明してくれている。あれだけ自分の欲望を叫んでいる青髪ピアスがこっちに飛び込んでこないのは、おそらく良識あるクラスメイト一同があの巨漢を抑え込んでくれているからだろう。彼らとの付き合いは浅い佐倉にもそれくらいは分かる。いつも上条に面倒事を押し付けている薄情なクラスメイト達だが、基本的には人のいい優しい集団なのだ。

 青髪ピアスの悲痛な叫び声を背景に、佐倉は溜息と共に美琴及び両親に提案を持ちかける。

 

「とりあえず場所を移さねぇか? このままここにいても落ち着かねぇだろうし」

「いや、アタシ達は望ちゃんの雄姿を拝みに来ただけだから、ここは一旦解散しようぜ。親御さんと一緒に行動ってぇーのは思春期少年には結構恥ずかしいだろ?」

「あー、いや、別にそんな事ねぇけどさ……」

「それにさ」

 

 気まずそうにそっぽを向きながら後頭部を掻く佐倉に悪戯っぽい笑顔を向けると、千里はちらっときょとんとした顔で立ち尽くしている美琴に視線を投げかける。それから傍らの叶に何やら囁くと、

 

「ヤングなお二人さんの大覇星祭デートを邪魔したくねぇしなっ!」

「は、はぇっ!?」

「んなぁっ!? か、母さんテメェ! 時と場所、場合を考えて発言しやがれ!」

「あはははは! それじゃあアタシはマイダーリンと二人でラブラブハネムーンだ! 行こうぜ叶ちゃん!」

「分かりましたから腕を引っ張らないでください。シャツの袖が緩みます」

 

 起爆率十割の高性能地雷を設置したうえでその場からそそくさと立ち去っていくお騒がせママ千里。相変わらず無表情な叶を引き摺るようにして佐倉達の前から一瞬で姿を消した。とても一児の母とは思えない行動力と体力である。昔からトンデモない親だとは思っていたが、まさかここまで酷いとは。今更ながらに頭を抱える佐倉少年だ。

 二人残されて呆然と立ち尽くしてしまう。状況をすぐに察したクラスメイト達はいつまでも騒がしい青髪ピアスを昏倒させて随時撤退したようである。いい意味でも悪い意味でも律儀な彼らに感謝を向ければいいのか怒りを向ければいいのか分からない。とりあえず、お世話様とだけ言っておこう。

 なんか取り残された感マックスな佐倉はもはやクセとなりつつある毎度の溜息をつくと、傍らで顔を真っ赤にしたまま思考停止している常盤台のエースに声をかける。

 

「美琴。お前、自分の競技はどうなってんだ?」

「あ、えっと……望の応援に行きたいからって、偶然その場を通った一九〇九〇号に身代わりを頼んできたんだけど……」

「ここぞとばかりに【妹達】を使うなよ……って、あぁ、アレ(・・)か」

 

 顔を上げた先にあったのは競技場に設置されている大型ディスプレイ。無駄に広い学園都市内で効率よく様々な競技を観戦できるように設置されたものであるが、そのディスプレイは現在常盤台中学が出場している借り物競争を放送しているらしい。五本指の一角が出場しているのだから当たり前か。珍しさと需要から言っても、妥当と言えるチョイスだろう。

 そんな借り物競争のゴールシーンが映し出されているのだが、件の一九〇九〇号がどこか朗らかな笑みと共に一着でゴールしていた。右手には見覚えのあるツンツン頭の少年が涙目のまま引き摺られている。あれ、アイツ確か土御門と一緒にいたんじゃなかったっけ?

 

「一九〇九〇号って確か、布束から唯一感情をインストールされた個体だったよな?」

「そうなんだけどね……まさかあんなに無邪気な笑顔で競技楽しんでいるとは思わなかったわ……」

「ま、まぁアイツらが元気ならそれでいいじゃねぇか」

 

 自分から身代わりを頼んだ手前ツッコミ辛いのだろう。それに一九〇九〇号が笑顔で上条を引き摺っている絵面は、あれが美琴ではないと知らない人からすれば美琴が上条と仲良くゴールしているように見えるだろうし。佐倉自身は違うと分かっているから別段気にはしないが、勘違いされる当人である美琴的には何かしら思う所もあるのだろう。まぁ、多少の自業自得というかなんというか。

 達観したように引き攣った笑みを浮かべる美琴。彼女によるとしばらくは参加する競技もないらしい。佐倉も当分は暇な立場であるから、丁度いいと言えば丁度いいか。

 ――――じゃ、母さん達の好意にでも甘えますかね。

 不意に美琴の手を握ると、彼女はビクンと肩を跳ね上げた。

 

「にゃ、にゃわ!? にゃにゃにゃ、にゃに!?」

「猫かてめぇは。……いやさ、お互い結構暇な時間が続くだろ? だから、この時間を使って今まで一緒にいられなかった時間を少しでも埋め合わせようと思ってさ。この前元気づけてもらった礼もまだだし……一緒に大覇星祭回ろうぜ」

「わ、わざわざ埋め合わせとかそういうこと言わなくても良いでしょこの馬鹿! ふ、普通に誘いなさいよ!」

「普通に誘っても同じ反応だったと思うけどな」

「なんですって……ひゃぅっ!? ゆ、指を絡ませるなぁ!」

「え、ダメか?」

「ダメっていうか……あ、あんまりやられちゃうと悪い意味で疼いちゃうというか……はぅっ」

「何言ってっかさっぱりだけど、とにかく、一緒に回ってくれるのか?」

「んっ! ……う、うん。一緒にぃ……大覇星祭デート、楽しんであげるわよぉ」

「そっか。うん、サンキューな」

「あぁぁ……笑顔で力込め直すとか反則……んんっ!」

 

 何やら顔を真っ赤にして不自然に震えている美琴への心配が止まらない佐倉だが、あまり余計なことを詮索すると痛い目を見るというのは千里からの忠告や今までの経験から学習済みだ。無駄なビリビリは避けたいので、無理に事情を聞かずに行動を開始するとしよう。

 とろんとした潤んだ瞳で顔を上気させながら荒い息をつく美琴が佐倉の方に身体を預けてくるが、それを彼女からの愛情表現と受け取った佐倉は頬を軽く染め、照れの混じった苦笑を漏らしながら屋台が連なる店舗群へと足を進めるのだった。

 

 

 

 

 

                    ☆

 

 

 

 

 

 佐倉望はスキルアウト兼暗部所属の不良だが、基本的な部分では真面目な少年だ。

 暗部に所属した現在は仕事の関係上学校を休むことは少々あるが、所属前には爆睡するとはいえなんだかんだでほぼ皆勤賞を達成していたよく分からない優等生なのである。授業聞いていないから成績は微妙だが。

 自分の弱さを隠すために常日頃から軽口を叩き、一方で最低限真面目に物事に取り組む変わった少年。不良だが、身なりや性格は優等生染みた中途半端な高校生。

 そんな真面目で不真面目佐倉クンは、現在。

 

「いやーんっ、美琴ちゃんこんなに可愛いボーイフレンドがいるならもっと先に言ってよー」

「もがががががっ!」

「ちょっ! 埋まってる埋まってる! 望がママの胸の中で窒息してるって! ていうかソレは私に対する挑戦状と判断してもいいのかしら!? 悪戯にしてはちょっとばかし嫌味がすぎんぞコラァーッ!」

 

 美琴と二人で屋台デート中に彼女の母親とバッタリ遭遇。そのまま急に抱き締められ、幸福感に包まれている最中であった。

 なんか美琴にそっくりなお姉さんがいるな、と思ったが束の間。瞬間的に目があったその女性はキュピンと両目を妖しく光らせると、目にも留まらぬスピードで佐倉を捕獲。その様はまさに狩猟犬の如し。驚きの余り指一本動かすことができず、気が付くと顔全体を柔らかな物体に包まれていた。それが女性の胸部であることに気が付くと、美琴の前であるにもかかわらず全身の力が抜けていく。情けない上に申し訳ないと心から謝罪したい気持ちでいっぱいであったが、これはあくまでも雄としての逃れられない性なのだ。決して佐倉の意志が弱いわけではない。母性を求める男の宿命なのだ。

 だが、そんな異性の習性など知ったことではない美琴は佐倉の救出を試みている。エロスな快感に包まれる中で脇腹辺りが引っ張られている感覚が伝わるが、思いのほか強くホールドされているのとおっぱいのボリュームが素晴らしすぎるのが重なってなかなか抜け出すことができないでいる。というか、そろそろ抜け出さなくてもいいかなとかいう気分になってきた。マトモな女性経験のない思春期高校生は、色っぽいねーちゃんの性的魅力に弱いのだ。

 佐倉を引っ張る度に魅惑の振動を繰り返す柔球を憎々しげに睨みつけながら、美琴は心の底から絶叫を開始。

 

「だぁーっ! なんなのよこの脂肪のカタマリうざったいにも程がある! こんなにボリュームいらないでしょ馬鹿じゃないのちょっとくらい私に寄越せぇーっ!」

「美琴ちゃん美琴ちゃん、本音がだだ漏れなんだけど? というか心配しなくても、この美鈴さんの遺伝子を引いている美琴ちゃんの将来は安泰だとママは思うんだけどなぁ」

「こっちの気も知らないで! 毎晩毎晩鏡の前で悲しみの涙を流す思春期少女の悩みを全部ぶちまけてやろうか!?」

「大丈夫よ美琴ちゃん。私も十四歳の頃はCカップくらいしかなかったから」

「アンタは自分の愛娘を自殺させたいのか!」

 

 母性の象徴(シンボリックウェポン)に佐倉を捕獲したまま暴走する娘の説得にかかる美鈴だが、もはや虐めとしか思えない失言の数々に彼女の怒りはフルスロットルだ。今ならばレベル6到達も夢ではないと言わんばかりに怒り狂うその姿はまさに修羅。ここ最近は佐天涙子や白井黒子辺りにしか見せることはなかったマジギレミコっちゃんをお披露目する時が来た、と拳を握って怨敵を見据える。女には、たとえ負けると分かっていても戦わねばならない時がある。

 

「その幻想(巨乳)をぶち殺す!」

「美琴ちゃん。世間ではそう言うのを八つ当たりっていうのよ?」

「えぇい知らないわよそんな常識! 今大切なのはアンタの胸を削り取って私に移植することだけだ!」

「肩凝りも大変だし、垂れないように運動もしなくちゃいけないんだけどなぁ。あんまりメリットないと思うけど?」

「そんなもん我慢するわよ! 肩凝りも運動も全力でやってやるってのチクショー!」

「どうでもいいがそろそろ解放してくれねぇと息がヤベェんだがっ……!」

「あら、ごめんなさいねボクちゃん」

 

 思い出したように腕を放し、佐倉の拘束を解く美鈴。割と深いところまで突っ込まれていた佐倉の顔が露わになると巨乳が《たゆん》という擬音が付きそうな程の揺れを披露していたが、どこぞの貧乳超電磁砲が暴走しかけたのは言うまでもない。簡単に言うと、実の母親に電撃向けんなよ。

 ようやく呼吸の自由を取り戻した佐倉は幸福感の喪失と引き換えに大量の酸素を空気中から摂取開始。隣で俯いたまま「牛乳……適度な運動……後はお風呂上がりのマッサージを……」とか呟いている美琴がとても恐ろしい。げに乙女の執念とは恐ろしきかな、だ。たまに悟り切った表情で上条が女性の怖さを語ってくるのだが、佐倉にもようやくちょっとだけ分かった気がした。上条の場合は持ち前の不幸も作用している気はしないでもないが。

 ぺたんと自身の胸部に手を当ててついには呪詛を唱え始めた常盤台のエース。このまま放っておくのはさすがに良心が痛む。だが、何故か無性に親近感の湧くやけに若々しい御坂ママがニヤニヤと口元を吊り上げてこちらを見ているせいでイマイチ行動に移すことができない。なんですか、あなたは何をさせてぇんですか。

 できればこのまま自然に立ち直るのを待ちたいところではあるが、生憎今日は大覇星祭。七日間しかない貴重な時間をこれ以上変な事情で失うのは正直避けたい。一日目にして片方行動不能とか笑うに笑えないだろう。下手すれば浜面に心の底から爆笑される。

 仕方がねぇ。背後から突き刺さる微笑ましさ全開の視線に嘆息しながらも、落ち込む美琴の肩を叩いて彼女の顔を上げさせる。

 

「美琴」

「な、なによぅ。アンタも私の無様さを笑いに来たの? いいわよ、笑えばいいわ。実の母親から直接嫌がらせを受けるこの御坂美琴を嘲笑するがいいわ!」

「いや、違うからちょっと落ち着け」

 

 何故かショックのあまり壊れかけている美琴を落ち着かせると、彼は今表現しうる最高の笑顔を浮かべ、それでも割と心の底から彼女を励まそうと口を開いた。

 

 

「俺は巨乳でも貧乳でもイケるクチだ」

 

 

『…………は?』

(いきなり何言ってんだ俺ぇええええええええええええええ!!)

 

 御坂母娘の表情が『無』の状態で硬直した。それもそうだろう。今世紀最大の真顔から発されたのが正気を疑うような驚愕の性癖暴露では、どんなに鋼の精神力を持ち合わせている人間でも大概は目が点になる。それが好きな相手ならば尚更だ。今の美琴がどういう心境であるか、あまり聞きたくはない佐倉である。というか、中途半端に地雷踏むとかもはや意味不明の行動だ。考えなしにもほどがある。

 思わず漏らした失言に冷や汗ダラダラ状態で立ち尽くす佐倉。次に来るのは美鈴による拳骨か、もしくは美琴によるビリビリか。どちらにせよ、女性にセクハラ紛いの発言をした罪は重い。日頃上条への制裁を目の当たりにしていることもあり、それなりの罰は覚悟してしまう。

 ――――だが、不意に聞こえた謎の言葉に佐倉は耳を疑った。

 

「ひ、貧乳もイケるって……じゃ、じゃあ私もイケるってことよね……?」

 

 それは美琴の声だった。聞き間違えようがない、超能力者の呟きだった。

 美琴は顔を真っ赤に、それこそ林檎のように真紅に染めると、口元に右手を当てた格好で何故かそわそわと落ち着かない様子だった。もじもじと視線をあちこちに泳がせ、見るからに挙動不審だ。普段の勝ち気で豪快な彼女からは想像できないしおらしい様子に佐倉は思わず数回瞬く。だが、目の前の純情乙女は紛れもなく御坂美琴だ。

 

「み、美琴? 顔真っ赤だけど大丈夫か?」

「イケるってことはそういうことだろうし……でもまだ早いっていうか、時期尚早というか……一応告白はしたけど、正式に交際しているわけでは……でもでもっ、最近だと早い人達もいるって佐天さんも言ってたし……」

「なんの話かよく分からんがとりあえず深呼吸だ。とにかく落ち着け。一旦正気に戻ろう美琴。その思考パターンはおそらく社会的な死を招きかねん」

「……いっそのこと、この雰囲気のままホテルに――――」

「行かねぇよ! なんだよ思考回路のぶっ飛び方尋常じゃねぇだろ!」

 

 潤んだ瞳のまま呆けた様子で佐倉の手を引っ張ろうとした美琴を慌てて止める。この馬鹿は親の前で何を言っているのか。自爆する分には構わないが佐倉を巻き込んで誘爆するのだけは勘弁してほしい。そして、娘が危機的状況に陥っているのに背後で爆笑している美鈴さんは何を考えているのか。結構真剣に助力を請いたいのだが。

 

「あんな美琴ちゃん初めて見たわ。あー、面白いなぁ」

「馬鹿な事言ってねぇでちょっとぐれぇ手伝ってくれませんかねぇ!」

 

 とうとう佐倉の腕に抱きつき始めた美琴の肩を揺らしながら、無能力者は絶叫する。

 

 

 

 

 

 




 感想お待ちしています♪

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。