鎮守府警備部外部顧問 スネーク   作:daaaper

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お待たせしました、今月2回目の投稿です

……時間が欲しい

ただただそう思います、受験生としても執筆中でも。

来週分までは完成してますがその後は……また気長に待って頂く必要がありそうですm(_ _)m

そんなこんなで本編をどうぞ




大規模作戦 クリアリング

 

 

 

12/11 10:30 ラバウル

スネークら先行偵察部隊は上陸地点周辺を確保し安全を確認した彼らは10:00に捜索を引き揚げ港へ走った。

……そう、文字通り走った。

その距離3km、装備重量約15kg、気温27度 湿度60%の状況下で、だ。しかも100m14秒以下で走り切る。

 

『…………………………』

 

 

そんな肉体を持った彼らは現在、気配を完全に消していた。

いくら向こうがヘリで来た時に何も仕掛けて来なかったとはいえ、潜伏していないとは限らない。

そのため、援護が見込めないこちらとしては敵が居ないと限らない以上無暗に活動出来ない。

 

敵の潜伏先として山の中は捨てられた。

ヘリの捜索時には少なくとも生活の拠点を構えていたような痕跡は無かった。

それに深海凄艦は海上でこそ戦力となる、攻めるにしても逃げるにしても海辺でなければ力は発揮出来ない。

そんな特性を持つ敵が山にこもるというのも考えにくい。

 

後日、測量や観測所設置を含めて大々的なローラはかけるが、とりあえず山側に脅威は無いとした。

ニューブリテン島南部に敵拠点がある可能性だが、その時は艦娘に対応させれば問題は無いと判断され、事前の情報でも深海凄艦がラバウル周辺の島で拠点化されて居ない事は確認された。

 

 

 

「全員よく聞け、とりあえず手前の建物を一斉に調べる。

その後、安全を確保した建物を拠点に市街地を捜索する、詳細は手前の建物を拠点にしてからだ、良いな」

 

『…………………………』

 

「よし、配置につけ」

 

 

そう言って声を出すのはBOSSのみ、自分たちはその駒に徹し、脅威を捜索する

 

12人は3つの小隊に分かれ、西側に点在しているしている建造物の入り口に着く

 

赤道直下の建物に見られる平屋の風通しの良い家屋は少し離れた場所からの偵察で何もいない事が確認された

 

問題はそうでは無い、具体的には何らかの事務所が有ったであろう3階ほどある建物だ

 

この港でそういった姿を晒さず海にすぐ向かえる建物が全てでは無いが少なく無い

 

平屋の建物はすぐに確認できる

 

だが市街地戦において最も厄介な屋内戦闘を今から、しかも敵のど真ん中かもしれない場所で行うのだ

 

求められるのは迅速さと相手に自身の存在を悟らせない技術

 

 

 

それ以上にその場での柔軟な判断力が個々人に求められる

 

 

 

「……始めろ」

 

 

 

その合図と共に12人はそれぞれ3つの建物に侵入する

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

スネークは軋みも立たせずドアを開けまず入り口を確認する

 

それに続き隊員たちがハンドガンを構えながら左右を確認

 

ハンドサインを送りスネークと残りの隊員も建物に入る

 

 

まずは左側の広間

 

1人が玄関と右側のドアを見張り息を殺す

 

その間にスネークは埃が舞う左の広間へ入る

 

どうやら元は応接室らしく立派なカーペットと陶芸品、そして何かの賞状まで有った

 

だがそれらに意味は無い

 

この建物には庭は無く、入るには玄関と玄関か一階にあるドアからの侵入が一般人が出来る方法だ

 

窓にはカギが掛けられ、ガラスも割れておらず、少なくともこの部屋は何かが悪意を持って侵入はしていない

 

奥に木製の大きめな机と4つの黒いソファ

 

そして一番奥に黒い革製のイスとずっしりとした机

 

罠の類は無く、埃の積もり方から半年以上使われて居ないのは確実だった

 

3人は広間を後にし1人で見張っていた隊員に合流する

 

アイコンタクトから物音は無かったと報告されスネークは頷く

 

再びゆっくりとドアを開ける

 

キィーと軋む音を立たせながらドアが開く

 

その先は廊下が続き右側に階段が有った

 

しかし廊下は装備を持った団体が通れるほどは無く、1人ずつしか通れなかった

 

一瞬の間のうち1人の隊員が先行する

 

 

こういう時こそドローンの出番ではあるが、生憎まだあれは1人一台配布できるほど台数が無い

 

そしてまだ実験段階であるため証拠隠滅が不可能になる可能性があるこの任務では持ってこれなかった

 

だが元からドローンに頼ろうと思うほど この精鋭たちはぬるいメンタルと技術を持ち合わせて居ない

 

実際、彼らならばこの程度の建造物に武装集団が立て籠もっていたとしても1分で仕上げる

 

だがここは敵地のど真ん中……かもしれないのだ

 

発砲音はもちろんグレネードも安易に使う訳にはいかない

 

 

階段まではクリア

 

続いて部下の1人が階段下に着く

 

建物はコンクリートや石で造られているためそれ自体は軋まない

 

先行していた隊員が階段を登る

 

階段背後を確認

 

すぐに隠れる

 

1・2・3

 

……反応なし、側面を見て辺りを確認する

 

ハンドサインで階段下にいる隊員を呼び寄せる

 

その隊員も音を立てず階段を登り階段周辺に位置着く

 

物音が立たないことからスネークたちも階段を登る

 

そこは一階より少し広めの ドアが一切無い大部屋だった

 

右側に階段があり、そこから上へ上がれるらしい

 

全員が2階上がると1人が真ん中の階段へ着き警戒する

 

スネークが階段の裏を警戒しハンドガンを構える

 

体を斜めにし角度を取り影を覗き込む

 

・・・敵影無し

 

だが階段の裏にはベランダが有った

 

外には居ないだろうが何があるかは確認する必要があった

 

そこへ続く窓を開ける

 

スナイパーの危険性は有ったが・・・・・視線を感じない

 

窓を覗きこみ何があるかを確認する

 

一瞬何かが視界に入り込んだためすぐに屈む

 

そしてもう一度、今度はゆっくりと覗き込む

 

 

……枯れた植木鉢だった

 

 

そのままベランダを後にし、残っていた隊員に視線を向ける

 

頷いた隊員たちは三階へと階段を登る

 

階段背後を確認

 

すぐに隠れる

 

1・2・3

 

……反応なし

 

その後同じく階段側面を確認し周辺を確保する

 

三階は物置きだったらしく埃と物が他より溢れていた

 

2人は目を合わる

 

そして1人は階段で援護、もう1人が動く

 

 

辺りに人一人が隠れられる場所だらけだ

 

 

物の後ろ、段ボール、家具、デカイ絵画、他諸々

 

 

一つずつそれらの背後を確認し何か居ないか確認する

 

 

嫌でも流れる緊張

 

 

それでも何の意にも返さず淡々と作業を行う

 

 

銃の引き金に指を掛けず、代わりにナイフの柄を握る

 

 

そして奥まで全て捜索し二人は・・・・・目を合わせる

 

 

 

「クリア」

 

 

「クリア」

 

 

「クリア!」

 

 

 

 

「……ルームクリア、銃を降ろせ」

 

 

 

そうスネークが言うと全員がフゥ〜と息を吐く、だが誰一人深呼吸をしようとは思わなかった

 

 

 

「BOSS、部屋のクリアリングを提案します」

 

「……そうだな、あまりにも埃が酷いな、三階はもっとか?」

 

「ええ、完全に物置ですね、全部燃やしてやりたいくらいですよ」

 

「それは今はよしてくれ、換気も難しいからな」

 

「わかってます、他の部隊は?」

 

《こちらBJ、建物を確保》

 

《クロード同じく》

 

「了解だ、そっちでスナイパーを配置できる場所はあるか」

 

《屋上があったのですでにホーマーを配置させました、こっちから撃たなければカウンターも無いでしょう》

 

《まあここにスナイパーが居るかも謎だがな》

 

「油断するな、ならクロードのいる建物を仮拠点にする、そこに全員集まるぞ」

 

《了解、待機します》

《了解》

 

「全員ここから出るぞ、念のためクレイモアだけ仕掛けておけ」

 

「わかりました」

 

そう言うとまた気配を消しながら四人は各階にクレイモアを仕掛けつつその建物を後にした

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

「はぁ〜、全くこれを後20件はやるのかぁ」

 

「何だ、もうヘタばっちまったかぁ?」

 

「ちがいますよ、ただあんまりにもホコリが凄すぎて……くしゃみが出そうで」

 

「それはわかるがなぁ、虫が居ないだけマシだろう」

 

「こっちは蜘蛛の巣だらけだったがな」

 

「マジか、こっちは大したもんは無かったが代わりにマネキンがあって全員銃口向ける羽目になった」

 

『……それ、良い迷惑だな(ですね)』

 

「まったくだ、危うく撃ちそうになるわ一層警戒する必要になるわ、何より心臓に悪い」

 

ところ代わりラバウルにあるとある一室。

港の西側にある建物を中を仮拠点としたスネークたちは深呼吸が出来る程度にクリアリングをした後、隊員達を休ませた。

 

「……お前のところ、マネキンがあったのか?」

 

「あったどころか上から落っこちてきましてねぇ……体ごと」

 

「……俺だったら撃ってたな」

 

「確かに、お前だったら撃ってそうだ」

 

「冗談だ、俺はそんなヘマはしない……だがそいつは災難だったな」

 

「……全くだ」

 

一方で指揮官であるBJとクロードは隊員達とは別でスネークに呼ばれ別室にいた。

BJは元は米軍所属だったのだが一身上の都合で軍を退役後MSFに所属、以降スネークの元で隊員達を指揮する立場として戦闘班に所属、特に正面戦闘においてその裁量を発揮する。

クロードは とある事件からスネークと付き合いがあり、メディック畑とも言える道を20年以上歩んできた。

そしてスネークの元であらゆる戦闘スキルを学んだことから優秀な指揮官としての技量と経験もある。

 

 

そんな二人や他の隊員達を戦闘班として一つにまとめているのがヤッコであり

 

 

そのヤッコ達班長すらもまとめて居るのがスネークやカズだ。

 

 

「ん、 2人とも良いか」

 

「BOSS、一体今までどこに?」

 

「ああ、ホーマーに周辺の山の状況を軽く聞いていた」

 

「そう言えば、あいつは趣味が狩猟ですからね」

 

「……それで、何を聞いたんです?」

 

「あいつが少し気になる事を言っていてな」

 

「気になることとは?」

 

「あいつが言うにはこの周辺の山々は死んでいるらしい」

 

「山が……死んでいる?」

 

「ああ、あまりにも命が少なすぎるらしい、元からこの辺に鹿がいる訳では無いんだろうが……それにしても小動物の一つの気配が無いのはおかしい、アレだけ木々が生い茂っていれば何かしらの木の実があるはずなのに、だ。それに鳥すらも居ないときた、まるで……この一帯が死んでいるみたいだ、と」

 

「……そいつは冗談、じゃあ無いみたいで」

 

「言われてみれば確かに、鳥すら見てませんねここ」

 

「……だが俺たちは生態調査に来たわけじゃない、取りあえずは港の確認だ、ここら一帯の建物を全てクリアリングをかける、もちろん隠密にだ」

 

「ここら一帯が死んでいると言われたばかりでですか」

 

「あいにく俺らは生きているからな」

 

「……そりゃそうですが」

 

「取りあえず3小隊をローテーションする、1小隊はここで待機。

残りの2小隊で建物のクリアリングとパトロールを行う、万が一何かあればここに待機させてある隊を向かわせ対応する、何か意見はあるか?」

 

「……まあ最低限半径200m圏内のクリアリングとトラップの設置には賛成ですが、そうは言ってもあと2時間でミラー副司令が増援部隊を派遣して来ます、全域のクリアリングはそれを待ってからが最適かと」

 

「俺もBJに賛成です、ざっと見た限りでもこの港は横幅だけで1.5kmは有ります。

2時間で街一つを掃除するには我々だけでは手が足りません、それに相手が俺ら以上に気配を消すのが得意なら話は違いますが、これだけ動いて気配を感じない事から敵意を持った生物は居ないでしょう、何が起こるかわからないのは事実ですが訓練には少し状況は厳し過ぎます」

 

「……そうだな」

 

クロードが言ったことは少なからず隊員達が心の中で思っていることだ。

いくら自分たちが潜入が得意とはいえ、港への侵入を拒むものも無ければトラップの一つもない。

敵が、深海凄艦が陸戦を想定していないとすれば筋は通るがそれにしても港があまりにも整備されていない。仮拠点にするだけにしても自分たちの砲弾まで放ったらかしにはしない。

そして何より一切の動物の気配が無い、犬にしても人にしてもだ。

 

敵が気配を消すのが得意であれば確かに話は別だが、ここまでして何のアクションを起こして来ないのはあり得ない、スネークが無防備に窓を開け射線を晒したのに一切の視線を感じなかった。

また、長年ハンターをやっているホーマーも動物がいないと断言した。

であれば自分たちが脅威と認識するほどの動物はここには、少なくとも自分たちが銃を取る必要がある位近い距離には居ないのだろう。

 

だが訓練をするにはあまりにも危険すぎる状況でもある、故に万が一の逃走が可能な200m圏内を掃除する。

それが長年の経験と現在自分たちが置かれている状況・戦力から導いた結論だった。

スネークとしてはタイムアタックでも……と思ったが、脱出先が不安定なこの状況では致し方が無い、そう判断し彼らの判断を採用する事にした。

 

 

「なら半径200m圏内のクリアリングをかける、ただし3小隊ではなく二手に分ける。

一方が外回りの間は一方は留守番、それで良いか?」

 

「構いません」

 

「異議ありません」

 

「ならそれで行く、隊員の配置はお前ら2人に任せる」

 

「なら1時間で交代で良いか?」

 

「それが良いだろう、そう時間に追われてるわけでも無いしな」

 

「それならBOSSとホーマーは常にここにいてもらうか、俺とお前で適当に隊員を分けるぞ」

 

「だな、そういう訳なんでBOSSは——」

 

「ホーマーと残っているさ、それにお前らのどっちかも残る訳だしな」

 

「そうさせてもらいます、行くぞBJ」

 

「だな、よーしお前ら…………仕事だ」

 

『ウィー』

 

 

隣の部屋へ移動し隊員達に説明をBJ始める。

あいつらの事だ、すぐに部隊は決まるだろう、あとは2時間警戒しながらあいつらを待つだけだ。

 

 

 

……今のうちに状況の整理だ

 

 

 

・あまりにも楽な仕事になっている、この島自体が敵の罠か

 

答えはNOだ、上陸地点に一切の罠や物資のやり取りらしき痕跡が無かった。

港は端側であるココや反対側は大して被害は無いが港の中央、昔……と言っても1年ほどだが……その時は役所や貿易の中枢として機能していたであろう建物や人々の生活を支えた商店が破壊されていた。

それ自体は住民どころか国民全員が避難したという事からどうしようも無いが、敵が拠点化していれば最低限必要になる港の整備くらいはするだろう、港の端にしか使える建物が無いのはどうしようにも不便だ。

 

……敵が再建の必要が無いほど恒常性・生存能力が高ければ放って置くだろうが敵は泊地や港湾施設を整備している、その整備方法が艦種のように“泊地”や“港湾施設”という個体なのは驚きだが、それでも“泊地”というものが必要なのは確かだ。であれば敵もある程度設備がある程度必要だと推測できる。

艦娘ですら工廠を用意し活用している、向こうもそんな感じなのだろう、そう判断した。

 

 

・では敵は無能か

答えはNOだ、確かに罠の類を設置していない時点で戦略としてどうかしている、設置しない理由が無い。

だがそれはあくまで陸上でのことだ、海上では恐らく…………いや、自分たち以上に動くことが出来るだろう。

潜水艦と魚雷艇による夜襲、満月の中レーダーにすら映らない特性を活用した戦略、艦娘がいなければ一隻くらいは被雷していただろう、それに島に向かう直前での航空機と戦艦による挟撃、あれは戦術的結果がどうであれ頭で考える術が無ければ他の部隊と共闘なんぞ出来ない、であるから敵は無能なハズがない。

 

・輸送作戦は成功するか

答えはYESだ、一番の懸念はラバウルが敵の勢力下に置かれ、攻撃に晒される土地であれば手間がかかる。

だが砲撃や爆撃は瓦礫や埃から判断するに半年以上そのままだ、であればしばらくは問題無いだろう。

カズヒラはすでにしばらく艦娘へ南西海域・西方海域の定期掃海を頼んであるという、その支払いは……まあ自分なのだろうと予想している。

いずれにしてもあと2時間でこのラバウルに船団は届く、仮に船が撃沈されたとしても人員は消耗しないよう手は打ってある、良い出来では無いが人員と最低限の物資がラバウルに届かないという事は無い。

 

・敵が輸送作戦終了後、何らかのアクションを起こすか

答えは…………わからないと言うのが正しい。

敵の復旧中港湾施設・再建中泊地が何らかの罠であるのはほぼ確実だろう、三ヶ月あれば最低限の設備復旧は可能だ、それが今になってやっと外面が終わったなどあり得ない、きっとハリボテとしての役回りだろう。

 

・問題のタイミングの良さ

たまたま潜水艦が鎮守府に異例の襲撃、調べてみると輸送作戦地域近くで敵の脅威が確認、それを抜きにしても早急に叩くべき対象であるとの判断、その結果による連合艦隊の派遣。

……偶然であれば良いが、全て意図された物であれば——

 

 

「考え事ですか、BOSS」

 

「……クロードか、先にBJが見回りか?」

 

「随分前に出て行きましたよ、久々に体が動かせるんで自分たちでクリアリングは終わらせる、お前らの仕事をわざわざ減らしといてやる、と言われました」

 

「良かったじゃないか、仕事が少ないのは良いことだ」

 

「……まあそうですが」

 

「何だ、お前も体を動かしたいのか?」

 

「あいつほど俺は戦いに固執してませんよ、俺はメディックですから」

 

「よく言う、お前ほどの実力者はそう居ない」

 

「……それはどうも」

 

「言っておくが嘘じゃないぞ、お前なら部隊の一つや二つ任せられる」

 

「俺はBOSSの元で働ければそれで十分です、それ以上に部隊管理なんて勘弁ですよ、ただの兵士の方が楽です」

 

「上官が無能でもか」

 

「BOSSが間違う事がないとは思いませんが、あなたほど有能な指揮官は居ません。

それにここにいる連中は馬鹿じゃない、俺が指示を出すより先に勝手に動けますよ」

 

「……それもそうか」

 

「伊達にここまで生き残ってませんよ、俺たちは」

 

「そうだな」

 

「……それよりBOSS、さっきは随分と悩んでたみたいですが」

 

「まあな、お前も今回の全体像は聞いてるな?」

 

「……ええ、随分と広範囲にまで及んでるみたいですが」

 

「そうだな、まあこれが深海凄艦という集団の中だけであればこっちはどうしようも無いんだが……」

 

「そうで無ければこっちも動く必要がある、と」

 

「もっとも、深海凄艦が一体どんな集団なのかすらわからないのが現状だがな」

 

「それとは別で今回の作戦のことですか」

 

「ああ、妙に出来過ぎてるような気がしてな」

 

「ですが……ここで引き返す手も場所も無い」

 

「そうだ、だからお前たちにここは託す、俺はしばらく日本でやることがある」

 

「わかってます、ですがまだ別れの言葉を贈るには早過ぎますよ」

 

「…………全くだな、もっともお前に別れの言葉を託す気も託される気も無いが」

 

「っそう言う意味で言った訳では」

 

「わかってる、それにお前がいればそんなことも無いだろう」

 

「……無茶は自重して下さいよ、俺は単なるメディック、神でも何でも無いんです」

 

「わかってる」

 

「そりゃどうもっ」

 

柄にもなく照れるクロード。

しかし、四十路を過ぎてもスネークから素直に褒められる事はそう無い、嬉しいわけが無いのだ。

それがましてや戦闘面であればなおさらである。

 

……とある副司令は同じくらい事務処理に関してスネークから大変褒められているが

『そんなに俺を褒めてくれるなら少しは手伝って欲しいもんなんだがなっ!!』とのこと。

 

 

「……ところで待機してる隊員は何をしてる?」

 

「あいつらは気長にトランプで暇を潰してますよ」

 

「……よく持って来てたな」

 

「UNOもあったみたいですがあいつらの興味はポーカーに向いたようで」

 

「……あんまり熱が入り過ぎないように注意しておくか」

 

「そうしましょう、それにあいつらの実力もわかりますし」

 

「だな」

 

一方、きな臭い会話を交えている隣で隊員たちはポーカーに興じていた。

それは兵士としてどうなのかと普通は思うだろうが、生憎ここにいる隊員たちは普通じゃ無い。

 

『………………………』

 

偵察に来た12人は平均して約38歳、一番若くて26歳、最年長は49歳。

場所は最前線という概念がそもそも無い敵地、その一角。

だが常に銃弾が飛び交う可能性があるわけで無ければ気を持たせるためには娯楽が必要不可欠。

銃弾が飛び交う最前線ですらそうなのだからこの場でもトランプ位で辞めさせる理由は無い、ただし大人のトランプには当然の如く賭けが付き纏う、それはポーカーならなおさら。

 

「……3枚捨てる」

 

「俺は2枚」

 

「ベット」

 

「なら俺も噛む」

 

「…………………」

 

『…………………』

 

さらに全員戦闘班の精鋭、ただ体だけで生き残ってきたわけでは無い、頭も酷使してきた。

であれば相手の裏をかく、札を探るなど当たり前、早々に互いの情報取引・スパイ活動・諜報活動などがテーブルを挟み静かな戦争として発生していた。

 

さらに審判……というか調停者として、ルーラーとして座すのは彼ら以上に化け物の蛇と衛生兵。

ゲームに参加していないのもあるが、2人はすべての行為を完全に把握している、もし揉めようとすれば直ちにこの2人に制圧され、自身の小細工を全員に暴かせられ、挙句罰金だろう。

 

「パス」

 

「ベット」

 

「俺も」

 

「俺も」

 

『………………………』

 

「……ダイヤの8、スリーカード」

 

「クローバーのクイーンでスリーカード」

 

「フルハウス」

 

「「マジかよ」」

 

そんな訳でこのラバウルの一角では大の大人が本気で、

任務は忘れず己のプライド(と金)を賭け、持てる技術(と金)を注ぎ込みポーカーに興じていた。

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

一方その頃、BJらは…………………

 

「よし、ここで最後だな」

 

《ホーマーからBJへ、通路はクリアだ、外は任せておけ》

 

「了解だ、さっさと終わらせる」

 

それだけ無線に言い終えると仮拠点から約200mほど直進した山側にある建物に来ていた。

間も無く1時間が経つため、BJ率いるこの部隊は一旦拠点へ戻る事になっている。

……だがクロードに宣言した通り、指定圏内の建物を全てクリアリングをかけ、ここを最後としていた。

 

もっとも、これは指定圏内の建物が大都会とは違い数えるほどであった事やこの面子が市街地戦に慣れていたことも関係しているが、それでも敵地のど真ん中でやってのけた事が驚異的なのは素人でもわかることだ。

 

 

そして最後の対象は平屋建ての石造り、やはり動物などの気配は感じない。

しかし外にある看板にはよく分からない文字が書かれ、その下に小さく“clinic”と描かれていた。

どうやら診療所だったらしい……そして妙に不穏な物を感じていた。

 

「…………隊長」

 

「全員配置につけ、やるぞ」

 

全員の顔が引き締まり、今までと違う意味で気を張る。

半年以上も前とはいえ襲撃に遭った地、そして瓦礫の痕跡、それは民家も例外では無い。

そして今まで調べた限りでは人が怪我を負ったような痕跡は無かった。

恐らく砲撃がほとんど無かったおかげだろう、それか山岳部へ民間人だけでも逃げたのかもしれない。

 

 

 

 

…………………………………………だがここは、ここだけは、違う

 

 

 

 

 

恐らく怪我人が担ぎ込まれたであろう

 

 

診療所へゆっくりと足を入れる

 

中からは確かな異臭

 

それでも何が有るかは確かめ無ければいけない

 

 

 

恐らく………重傷患者も居たのであろう

 

 

玄関のドアは赤く滲んでいた

 

だが玄関の床周辺は赤で染められていた

 

赤い模様は乾燥によって固形物と化し表面に凹凸を作っている

 

 

 

恐らく………死人も出たであろう

 

 

奥へと進みベットが並ぶ部屋へ進む

 

野戦病院特有の緊急手術の傷跡であろう大量出血の痕跡

 

麻酔無しで暴れる患者を抑えつけるために即席で作った拘束具

 

何かがぶつかったために傷付き、ヘコみ、穴が空いた床と壁

 

そして何かを数えるためであろう壁への切り傷

 

 

 

そして………全ては処理仕切れなかったのであろう

 

薬品棚にはもはや薬品は収められておらず、別の物がまとめられていた

 

・砲撃でやられた痕跡であろう金属片の山

・手術で使ったであろう捨てられなかったガーゼの山

・使われることの無かった黒い死体袋

・あたりに散らばった白い破片と白い塊の残骸

・腐敗した黒いモノ

 

 

 

それだけの事がこの港でも起きたという事実

 

そしてそれら全てをたった15しか無いベットで捌いたクリニック

 

ここで働いていた彼らはそれこそ死に物狂いだったに違いない

 

人の背丈ほどの部分が全て紅く染められた窓のカーテン

 

ベットを仕切るレースもたった3つを除いて上の金具から外れていた、患者が暴れたのだろう

 

「……クリア」

 

「クリア」

 

「クリア」

 

「……ルームクリアだ」

 

『…………………………』

 

幸い、という言葉が適切かは分からないがこの診療所に“そのモノ”は残っていなかった。

恐らく避難する前に完全にそれらの処理は済ましたのだろう、その時墓が建てられたは定かでは無いが。

ただ、それだけでも出来たことを願いながら隊員たちは銃を降ろした。

 

「……後でクロードに観てもらう、今はあまり深く考えるなよ」

 

「……………隊長は何も思わないと?」

 

「違えよ、隊長含め俺らは長くこの世界で生きてきた、それこそ戦友がこれより酷い目に遭った所も見た。

お前さんはまだ若いから経験無いだろうがな、その時の記憶と今のこの状況を一緒にするなって意味だ」

 

「フラッシュバックで発狂されたら困るからな」

 

「…………そういうことですか」

 

戦場での過酷すぎる経験・出来事を普通の人間が何の構えも無く享受すれば発狂する。

発狂でなくとも、自らの命すら投げ出すような判断を普通にしてしまう。

そうで無くとも、たとえ歴戦の兵士であり戦士としての心構えと強い精神を持ち合わせていたとしても決して逃れることは出来ないのがストレスだ。

 

それは社会における人間関係のストレスでは無い。

 

 

 

自らの手でいとも容易く同じ人間の命を刈り取ったという責任からのストレス

 

 

仲の良い友が目の前でその命をあっさりと刈り取られていくストレス

 

 

事実だと認めたく無いほどの光景を目にしてしまったストレス

 

 

 

これらはとても人間の脳が耐えられるほどの代物では無い。

そのため脳はその事実の一部だけしか記憶しないという一種のストレス回避の手段を取る。

例えば自分が敵を殺した、仲間が目の前で殺られたといった“事実”という事柄だけを記憶する。

例えば戦場での過程、自分や敵が取った手段、それらの“結果”だけを記憶する。

例えば音や匂いだけを記憶する。

 

それだけでも押し潰される人間は押し潰されるのだが、そういった手段によって自分に加わる圧力を少しでも和らげている、それも常にだ。

 

こういった処理方法によって脳へのストレスと記憶容量を減らしている。

そういった方法で和らいだ圧力も何らかの切っ掛けで襲いかかってくる、それこそダムによって留まっていた水が一気に押し寄せて来るように。

 

「いいか、この先お前がこの世界で生き続ければ必ずこの診療所が生易しい現場後だったと思えるくらいの

地獄をお前は見るはずだ、それでも武器を手に取るかはお前の判断次第だ。

……だが命だけは手放すな、それはお前が楽になろうとしてる訳でもただ現実を受け入れたく無い訳でもない無駄なことをするだけだ」

 

「・・・はぁ」

 

「……まっ、訳わからないって顔とそれだけ間抜けな声を出しているなら問題なさそうだがな」

 

「その時になったら俺らが支えてやるよ」

 

「……なんか見下されてる気分ですよ」

 

「実際見下してんだよ、だがお前が思ったよりタフそうで何よりだ」

 

「そうですかっ」

 

「……よしお前ら、撤収するぞ」

 

『了解』

 

この診療所で何が起きたのかは詳しくはわからない。

ただ長年戦いに身を置いてきた男たちにわかるのは死人が出たことと、それを助けようと死に物狂いで戦った人間も居た事だけだ。

だがそれは自分たちには関係無い、掃除をする必要がある以外で深く関わる理由は無い。

それに、その掃除もおそらく自分たちが関わる事は無い、ここに来ることはほとんど無いだろう。

勝手に入って行った事を心の中で詫びながら彼らはその平屋建てを後にする。

 

 

 

 

 

《おい、今どこだ》

 

「さっきの平屋建てだ、診療所だったが中は——」

 

《カーテンがここから見える、動いてるぞ?》

 

「なに?」

 

『!?』

 

診療所の敷地を出た直後

 

すぐに神経を研ぎ澄まし壁際に身を寄せる

 

「ホーマー、俺たちの姿は見えるな」

 

《ああ、しっかり壁際に寄ってるがよくわかる》

 

「つまりお前が見てる方でカーテンが動いてる訳だ」

 

《お前たちが侵入する前はカーテンは動いていなかった、悪い》

 

「だがお前のおかげで他所からの侵入は無いのは確かだろ」

 

《それは確かだ、おかげでその建物まで監視していなかった》

 

「十分だ、周辺警戒を頼む」

 

《了解だ》

 

「全員無暗に発砲はするな」

 

『了解』

 

それだけ言い、BJは銃を取り隊員たちに簡単な指示を出す

 

そして再びゆっくりと診療所へ足を踏み入れる

 

「突入する」

 

直後、全員が素早く奥へ進む

 

無論音は立てないがそれ以上に対象が消える前に現場に向かう

 

カーテンが動いている場所は仮拠点のある西側

 

あのたった15しか無いベッドが置かれた処置室の奥だ

 

またすぐ来ることになったが気にしない

 

彼らはそれ以上に気にするべき対象がすぐ近くにいるのだ

 

もっともその対象の気配はまるで感じないが

 

部屋の奥は先ほども見たが紅く染められたカーテンが掛かる窓が開いていた

 

そしてユラユラと揺れるたった3つのレース

 

「……誰かいるか」

 

ひとまず声をかける

 

万が一対象が銃などの飛び道具を持っている場合に備え処置室のドアから声をかける

 

だが反応が無い

 

「ああ……俺たちはここに流れ着いた軍隊だ、何か知っているなら話を聞きたい」

 

ここで拠点を構えることになった軍隊だとは言わない

 

あくまでこちらからは情報を出さずに話を進める

 

《まだカーテンは動いてる、だが人の出入りは無い》

 

外からの情報で誰も何もこの建物から出ていない事を確認する

 

「……入るぞ」

 

そう言ってゆっくりと、BJだけが入る

 

ドアからは隊員たちが銃を構えカバーする

 

だが入る前に言われた命令は守る

 

まず一番手間にあるレースを開ける

 

そこには何も無い、ただ赤と黄色いシミがあるだけだ

 

すぐに通り過ぎ次のベッドへ向かう

 

だが未だに人の……何かがいる気配はまるでしない

 

次は窓際のベッド

 

・・・問題なのは窓際にはベッドが2つ、通路の左右にそれぞれある

 

どちらかにいるのは確実だが、対処が面倒だ

 

この場合最善の選択は・・・・・・

 

「いるのはわかっているんだ、別に危害を加えるつもりはない、武器は確かに持ってるが使う気も無い。

俺としてはできればそっちから出て来れれば有難いんだが……」

 

向こうから出てきてもらう、それに尽きる

 

隊員をもう1人連れて来るのもアリだがリスクは最小限に抑えるべきだ

 

であればこちらが一番安全である向こうから出て来てもらうよう交渉する

 

無論、相手からすれば恐怖以外の何物でもないがそれが双方にとって最善の選択なのは確かだ

 

「……出てこなければこちらから出向くかせて貰うが」

 

 

姿の見えない何かが近付いて来る方が恐怖だからだ

 

 

こちらはどちらに対象がいるかはわかっていない

 

向こうが英語がわかっていない可能性もある

 

だが“プリーズ”と“アイムノーエネミー”は日本人ですらわかると副司令から全員が教わっている

 

そして淡々と話すのではなく、ゆっくりとだけ話した方が恐怖を煽らないとも習った

 

BJにとっては慣れないことではあるがその程度なら出来る

 

…………それでも反応が無い

 

「……なら失礼するぞ」

 

そう言って右のレースを開ける

 

そこには…………人体があった

 

内臓が剥き出しで

 

筋肉が一部露出し

 

顔面は骨と眼球そのものまでが見える

 

そしてよく光っており

 

質感は固く

 

直立不動で天井を向いていた

 

「……冗談じゃない」

 

そう、それは学校などによく置かれているプラスチック製の人体模型だった

 

ベットはシミも無く綺麗だったが周りの状況が状況だけに一瞬怯んだ

 

隊員たちもすぐに銃口を向けたが直後に命令があって良かったと思った

 

命令が無ければすぐに引き金に指をかけていただろう……それでも撃つことは無いと思うが

 

そう思いながら全員が最後のベットを、通路の左側にある窓際のレースが掛かったベッドを見る

 

躊躇無くレースに手をかけ中を確認する

 

「・・・ハァ?」

 

そして間抜けとも思える声をつい出してしまった

 

それは待機していた隊員たちも同じだった

 

何せ目の前には確かに人がいた、野生動物でも化け物でもなく誰がどう見ても人だ

 

そう、人だ

 

 

銀髪で

 

 

一般人が着るとは思えない士官服らしき服装で

 

 

そのくせ随分と短いスカートを履いている人……少女だった

 

 

 

 

 

「「「「「一体……どう言う事だ?」」」」」

 

 

 

 

 

そして何よりも・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

 

 

《こちらBJ、問題発生、対応を願いたい》

 

「こちらスネーク、どうした」

 

その無線と同時にポーカーをしていた面々はまさにポーカーフェイスとなり、槓杆を引き薬室に銃弾を送る

クロードも応急処置のための道具を入れてあるバックパックを装備する。

 

《交代要員は残してクロードを連れて来て下さい、特殊案件です》

 

「怪我人……って訳では無さそうだな」

 

《すいませんが見てもらった方が早いです、1人そっちに寄越したのでそいつについて来て下さい》

 

「わかった、すぐに向かう」

 

「……何事ですかね、特殊案件ってのもよくわかりませんが……」

 

「あいつが対応を求めるほどの物か……想像もつかんが、とりあえずお前たちはここで待機だ、何かあったらすぐに来れる様に準備しておいてくれ」

 

『了解』

 

「BOSS、案内します」

 

入ってきた隊員に答えすぐに走るスネークとクロード。

指揮官を拠点に残していないが、その位で足並みが崩れるほどの面子ではない、もし襲撃があれば撤退しつつこちらに合流してくるだろう。

 

BJが寄越してきた隊員が先行し走る、もちろん気配を悟らせない様に。

ホーマーが無言で援護しつつ、進行先に敵影が無いのを確認し気配を感じ取り走る。

そんな風に走り1分、案内された場所は少し山側へ入ったところにある石造りの平屋。

どうやら診療所だったらしい、霞んではいるが確かに“ラバウル病院系列第2診療所”と現地語で描かれていた。

 

「ここは……診療所?」

 

「でかい病院の系列だったらしい、他にもいくつか分院として診療所があった様だが」

 

「……ならここは戦場だったわけか」

 

「だろうな、見た限り西側が一番被害が少ないからな……しかし幽霊が出たって話では無さそうだが」?

 

「ええ、ですが俺や隊長でも言葉で説明できないので……隊長、BOSSとクロードさんを連れて来ました」

 

「全員ここ周辺の警戒を頼む、指揮はお前が取れ」

 

「了解しました、なら全員出るぞ」

 

隊長ことBJの命令は遠回しに“全員外に出て行け”と言っていた、それを理解し隊員たちは素直に“警戒”にあたった。

そして部屋に残った2人は呼ばれた説明を受ける。

 

「……で、どうして俺やクロードまで呼んだ」

 

「とりあえず、何も言わず彼女を見て下さい」

 

「「彼女?」」

 

そう言ってBJは窓際にある左側のレースを動かしベッドを露わにさせた。

だが露わになったのはベッドだけでは無く…………女だった。

……いやっそう言うと語弊があるため詳細を描くと、少々不思議な女性が寝ていた。

 

何が少々不思議なのかと言えば、まず目に付くのは服装。

下は水商売が履く以上に奇抜すぎる短いスカート、

それだけならまだ良いが上が白とグレーのシンプルな色合いで肩に金色の装飾、

付け加えて胸に赤いリボンと白い手袋、そして不自然ながらもその姿ではしっくりくる銀髪。

 

「……民間人、には見えないな」

 

「この服装・・・セーラーか?」

 

「お前もそう思うか。

さすがに寝ている女性に触るわけにはいかないから確認はして無いんだが、後ろに垂れ下がった角襟からしてセーラー服、しかもブレードはお飾りじゃなくそこそこしっかりしている。

士官服にも見えなくは無いんだが……」

 

「階級章が無いな」

 

「ああ、加えて所属を示す勲章や紋様も無い」

 

「しかも顔からして現地人じゃない、銀髪だとすると……北欧か?」

 

「しかし……こんなに小柄ですか?」

 

顔つき・体つきともに小柄、瞳は大きく黒い。

まつ毛は短く縮れていない、そして何と言っても・・・・・・

 

((( 美人だな……この娘 )))

 

どう見ても顔立ちは整っており、第一印象は完璧だ。

それはこの場にいる3人を心の中だけではあるが惹きつけた程だった。

 

「…………だが俺がこんな美人に気が付かないとはな」

 

「なっお前、この女の存在に気が付かなかったのか?」

 

「女とは失礼だなお前、れっきとしたレディーだぞ。

だが………ああ、全然気が付かなかった、ホーマーがカーテンが動いてると言ってなければそのままだった」

 

「……なら民間人じゃないな」

 

「ですね」

 

「……やっぱりか」

 

BJはこの世界で20年以上、もう間も無く30年を迎える。

そして最初から正規軍としてでは無く破壊工作・暗殺、そして潜入という特殊な兵士だった。

そんな彼の経験と戦闘能力はただ物では無く、直観力……特に危険と人の気配には敏感だった。

そんな彼が単なる人間が寝ている程度で気配を感じ取れないはずも無く、むしろ寝ていれば気配は察知し易いハズなのに気配を感じ取らなかった…………いや、“感じ取れなかった”。

そんな存在が、いま目の前で寝ている少女なのだ。

 

「・・・ちょっと待て、まずお前が入ってきた時は窓が閉まってたんだよな?」

 

「ああ、そうだが?」

 

「……となるとだぞ、この目の前のおn・・・レディーはついさっきまで起きてたって事になるが?」

 

「それでお前を呼んだ、これがそこにあったんだが判るか」

 

「薬か」

 

「ええ」

 

BJがクロードに渡したのはよく粉末性の薬品が入っている小さな袋、いわゆるポーチ・パケと言われる物。

本来ならそれだけではわからないのだがそのパケにはなぜか印字がされてあり、“codei–-”

とだけ書かれてた

 

「こいつは……」

 

「判るか?」

 

「……失礼」

 

「おっおい」

 

「他意はない、それに必要な処置だ、どのみち詳しい話は聞きたいだろ?」

 

「まあ……な」

 

「構いませんよね、BOSS?」

 

「お前の自己責任だがな」

 

「……わかってますよ」

 

そう言ってクロードはバックパックからフラッシュライトを取り出し、瞳孔の反射を確認する。

両目ともにそれを確認すると今度は首筋に指を当て脈拍を測る。

しばらく目を閉じていたが、計測が終わったのか目を開け再びバックパックを漁り今度は注射器を取り出した

 

「診断は?」

 

「確証はありませんが……おそらくこの袋はコデインかと」

 

「コデイン?」

 

「“codeine”、アヘンアルカロイドの一種でだいたい錠剤ですが粉末のタイプも無くはありません」

 

「……という事は麻薬か?」

 

「一応な、ただ同じアヘンアルカロイドのモルヒネ等と違い中毒性が小さい、それに主に鎮咳作用、まあ咳止めの薬だ」

 

「この娘が寝ているのと関連はあるのか?」

 

「あります、確かに中毒性は小さく麻薬中毒の危険は少ないですが副作用としてモルヒネと同じ様に鎮静作用 鎮痛作用、そして麻酔作用もあります、おそらくその影響かと」

 

「……なら薬物中毒じゃあ無いんだな」

 

「当然だ、このレディーの歳が幾つかはわからんがこの若さで麻薬中毒だったら俺は泣きたいぞ」

 

「それは俺もだ」

 

「……スカートはアレだがな」

 

「それは言わないでやってくださいよBOSS……確かに格好がおかしいですけど」

 

「その事情聴取をするためにもすぐに起きてもらいたいぞ」

 

「わかってるさそれくらい」

 

そう言って失礼と一言詫び、寝ている彼女の右手を取り脈を測る。

そして1つの小瓶を取り出し注射器に針を刺し小瓶の中に入っている薬剤を注入する。

ピストンをすこしだけ押し、問題無いことを確認すると腕と水平になるよう注射器を傾け静かに血管に刺した

 

「……これですぐに起きると思いますよ、もっとも話は先に身体の確認をしてからになりますが」

 

「だろうな、そもそも言葉が通じるかも良くわからない」

 

「それは問題無い、ここら一帯の現地語はある程度話せる」

 

「「俺たちはわかりませんよっ」」

 

「まあ英語くらいは話せるだろう、どうなるかはわからんが」

 

「そういえば…………念のため聞きますけど、このレディーが暴れた場合は?」

 

「「怪我させないよう捕まえるに決まってるだろ!」」

 

「………………」

 

別にクロードは女嫌いだとか男色という訳ではない。

単純に素性もなぜここにいるかもわからない人間を警戒するのは必然……ただし、この2人にとってみれば女性に手を挙げるなど論外だと知っているため先に意識付けさせる事にした。実際問題、この2人を相手に丸腰で挑むなど無謀どころか無駄なことのため相手を心配するのが衛生兵としての務めだが。

 

「・・・ぅっん?」

 

「起きたぞ」

 

「……みたいですね」

 

対象……ベッドに寝ていた女性が目を覚ます、その動作から薬物中毒者で無いことは決まった。

大抵そう言った者は起きてすぐに意味不明の言葉を羅列するか薬切れで暴れる、他意味不明な行動で異常だとすぐにわかる、だが目の前の女性から異常だと感じる様な印象は無い、とりあえずはクロードの読み通りだ。

 

……もっとも読める事柄がそれくらいしか無いが

 

「・・・・・・!?」

 

「まあ落ちついてくれ、とりあえず俺たちはお前をどうこうする意図は無い、英語は判る?」

 

先ほど言っていた通りクロードがまず相手をする

 

まず言語の確認、それが一番重要だ、コミュニケーションツールが使えなければ何も出来ない

 

「・・・(コクコク)」

 

「そうか、なら体に違和感はあるか?」

 

「・・・?」

 

「あぁ……自分の体に悪いところは無いか?」

 

「・・・(コクコク)」

 

「そうか、なら喋れるか?」

 

「・・・Yes」

 

「なら質問させてくれ、YESかNOで答えてくれ」

 

「・・・(コクコク)」

 

「ありがとう、なら……まず、君はここの国で生まれたのか?」

 

「No」

 

「そうか、なら君はアジア人か?それともヨーロッパか?」

 

「……Asia」

 

「そうか、ならその国の名前は言えるか?」

 

「・・・(フルフル)」

 

「それは記憶に無いのか?」

 

「・・・?」

 

「あっと……全部忘れてしまったか?」

 

「・・・(フルフル)」

 

「覚えてる……なら英語じゃなくて良い、覚えてる君の国を言ってくれ」

 

「……ニホン」

 

『!?』

 

「ニホン……ならこっちの方が早そうだな」

 

「えっ日本語!」

 

「まあこっちも驚いてる……というかこれ厄介な事になったか」

 

「おいおい、マジかよ」

 

「えっと……?」

 

「気にしないでくれ、とりあえずアレだ……君の名前を教えてくれ」

 

「えっと…………ハイッ、わたし鹿島って言います」

 


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