鎮守府警備部外部顧問 スネーク   作:daaaper

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大規模作戦 12/4 14:00

 

 

……非常事態か

 

「全員揃ったな」

 

「ええ、俺が艦橋を放り出してますから」

 

「……なら始める、悪いが形式は省略する、事態が事態だからな」

 

食堂に部下全員を集める、まだ艦娘には応援を呼んでいないがこの後呼ばざるを得ない、それも限定したメンツ……出来れば長良だけで済ませたい。

だがまずは俺の部下たちをまとめる、ここで分裂すれば死ぬだけだ。

 

 

それだけの非常事態……あと1時間もせずに目的の島に着く予定だった

 

だがここに来て本部と・・・カズと連絡が取れなくなった

 

 

海上で無線が使いにくいにしてもこの状況はあまり良くない。

島の周辺には何かしらのトラップが設置されているはずだ、下手すれば機雷原だろう。

その中をこの船団が進むには危険すぎる、そのための迎えを寄越したかった。

 

それにあいつらの安否も重要だ。

もっともわざわざ苦労させてまで日本に依頼を届けてきた、死んではいないだろう。

それでも連絡がつかないのは懸念材料だ。

深海凄艦がちょうど艦砲射撃をしてるにしても……無線が繋がらないのは気になる。

 

iDroidを起動し、周辺海域のマップを表示する

同時に接舷予定地点をマークする

 

「現在、俺らがいるのは本部連中が立て籠もってる島の北西約60kmだ。

だが30km圏内からは戦艦の射程圏内だ、機雷や何らかのトラップが仕掛けられている可能性がある

そのため無線で誘導をしてもらう気だったが……それが出来ない」

 

「……本部がやられた可能性は?」

 

「何が起きているか俺らは把握できない、だがあいつらが単なる制圧攻撃だけでやられるとは考えにくい、そもそも日本へ要請を出せる位には余裕があった、壊滅しているとは思えん」

 

「ではどうします?」

 

「斥候を出す」

 

「……まさか」

 

「ああ、艦娘から何人か選抜し島に向かわせる。

幸いあいつらは掃海も出来る、全海域は無理だが一本道ならそう時間もかからない」

 

「ですがいくら何でも……」

 

「ああ、だから俺も出る」

 

『!?』

 

「……そう慌てるな、水上バイクを使うだけだ」

 

「しかしBOSS!」

 

「心配するな、ちょっと行ってすぐ帰ってくるだけだ。基本的には彼女たちにバイクは引っ張ってもらうしな」

 

実際、バイクの燃料を考えれば満タンでも片道分しかない。

だが引っ張ってもらうためだけに彼女たちを出すわけじゃない、安全確保のためだ。

いくら何でも戦艦の相手は俺には少し荷が重い。

 

「……何か意見がある奴は」

 

「BOSSがいない間は……俺が指揮ですよねぇ」

 

「当たり前だルイ、お前がこの船団の指揮を最初から取ってるだろう」

 

「まあそうですけど」

 

「艦娘の選抜はどの様に?」

 

「軽巡2隻、重巡2隻、駆逐艦6隻、それと出来るなら水母2隻は欲しい。

まぁ長良と話し合ってどうなるかわからんが」

 

「俺らは戦闘配置ですか?」

 

「いや、以降の指揮をルイにしばらく任せる。

お前たちは基本的にいつも通りだ、いつでも戦える気分でいれば良い、別に襲われる可能性はあるが襲われに行く訳じゃ無いからな………他には?」

 

『………………』

 

「ならこれで解散だ、俺は30分後にはここから出る 以降の指揮をルイに一任、各自やれる事をやれ」

 

『YES BOSS!!』

 

そのまま食堂から部下たちがぞろぞろと出て行く。

その足並みは揃っている……あれなら問題は無い、こいつらは俺が鍛えた奴らだ、早々柔じゃない

 

「……気張って行けよルイ、あいつらの腕は俺が保証してやる」

 

「わざわざBOSSにまで保証して貰うほど俺はあいつらを信じてない訳じゃありませんよ。

まっBOSSが居ないのは後ろ盾が無いのはキツいですが俺もここで逃げ出すほど男を捨ててません

それに……副司令に可愛い娘たちを見てもらいたいですしね」

 

「そうか?あいつだと遠慮なく手を出しそうでこっちの手が焼けそうだが……」

 

「その時はBOSSが憲兵隊でも組織して下さい」

 

「ならBJとR、あとドクだな」

 

「…………エゲツないメンツですね」

 

「あの3人なら怪我人を作ることも治すことも出来るからな」

 

「ですねぇ……」

 

なぜかルイが哀れむ様な表情をしているが……今はそれどころでは無い、今はカズと連絡を取ることが俺らが生き残る術だ。

すでにこの船団の燃料は3割程だ、どんなに効率よく航行してもラバウルの沖で漂流する事になる、補給が出来なければ俺らはほぼ確実に死ぬ。

 

「……ルイ、3分後に艦橋に集合しろ、長良と話をする」

 

「了解」

 

返事をし敬礼をする。

こっちも礼をすると走って出て行った、3分後には長良が艦橋にルイと一緒に居るだろう。

……さて支度をするか

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

《長良、ちょっと艦橋に来てくれ、話がある》

 

個人的に長良が持っている無線機からルイの声が流れた。

軽巡や旗艦を担う艦娘にはiDroidとも通信可能な通信機を渡されている、長良もその1人だ。

 

「ルイさん?どうしたんですか??」

 

《とりあえず今どこ?》

 

「えっと……甲板の捕鯨砲の近くにいますけど」

 

《ああいたいた……ちょうど良いね》

 

そう言って甲板上にあるドアからバンッとルイが出てきた。

甲板には長良以外の艦娘はいなかった、どうやら他は自室か海上で護衛に当たっているらしい

それを見て長良は何かを感じ取ったのか自らルイの方に歩いていく。

 

「……何かありましたか」

 

「察しが良いね、けどみんなに話すわけにはいかないからちょっと来て」

 

「わかりました」

 

「じゃっ走ろう」

 

そう言ってルイが先導して艦内を走る。

それに続いて長良も走る……がルイとの距離は少しずつ開いていく。

 

(この人……走るの速そう……)

 

艦娘も艤装によって海上で行動できるとはいえ体を鍛えることが大事なのは人と同じだ。

特に長良は暇があればスポーツやトレーニングをする程度には体を動かすのが好きだ。

 

……そんな彼女でもルイの階段を登るだけの動きについて行くのがやっとだ。

もっともこれは、MSF本部だったマザーベースの移動に手すりにエルードし落下したり、階段を登るために階段上で滑り込む様にヘッドスライディングを決めていたりするのが主な原因なのだが彼女がそんな事を知る訳がない。だが、それでもただ走って艦橋に向かうために走っているだけで差が開くのは彼女にとっては驚きであり記憶に残る物になる。

 

そんな事を長良が考えているうちに2人は艦橋に到着した。

そこにはいつもの艦橋メンバー……艦長の沖田、航海長の赤松、書記の山田の3人がいた。

だがスネークはまだいない、時間を見るとあと1分はある。

 

「まだBOSSは来てないか……まあすぐ来るけど」

 

「それで一体……?」

 

「……こちらからの“依頼”だ、お願いじゃない」

 

「“依頼”?」

 

この言葉に艦橋にいた3人が反応する。

彼らもMSFに雇われた身、この“依頼”という言葉も意味も…………知っている。

 

「……それで、具体的には?」

 

「……それはBOSSから話してもらおうか」

 

そう言って艦橋のドアを見る

カンカンカンという音が外から聞こえ、だんだんと大きくなる

そしてその音が鳴り止むと1人の戦士が入って来た

 

「待たせた、話は聞いたか?」

 

「……………………」

 

「……どうした?」

 

「……いいえ、“依頼”に関しては直接話を聞いてほしいとルイさんが」

 

「……なるほどな、なら俺から説明する」

 

そう言ってスネークは説明を始めた。

だがその内容は旗艦である彼女には難しい判断を強いるものだった。

 

「現在の状況は……厳しい状況に置かれている。

俺の部下たちはここから南東の40kmの島にいる、だがその周辺には確実にトラップが仕掛けられていると考えられる、そのため安易に近づけない」

 

「本部と連絡は?」

 

「取れない、だから偵察を出したい」

 

「……なるほど、私たちから何人か護衛としてその島に向かわせたいんですね?」

 

「そうだ、だが危険な航海になる。

それこそ この10日間近くの航海が安全だったと勘違いするくらいにな」

 

「いえ、実際この数日間の航海はほとんど楽でした……気味が悪いくらいに」

 

「まぁ本当にそうだとしてもここから先は本当に何が起こるか俺らもわからない、はっきり言って何も知らないし保証できない、船団もここから動けない」

 

「…………偵察に行くのは誰ですか」

 

「俺だ」

 

「…………だからそんな格好なんですね」

 

長良が最初、スネークが入ってきた時黙ったのはその格好だ。

スネークの格好はどんな条件でもある程度の迷彩効果を発揮する紺に黒を混ぜた様な色の服に

ロングバレルとスコープを換装させたM16、

腰のホルスターにカンプピストルを備えた素人から見てもわかる戦闘服だった。

 

「それで、引き受けてくれるか」

 

「えっ?」

 

「この依頼、引き受けてくれるか?」

 

「……………………」

 

その質問に答えればどうなるのか……それを長良はひたすら考える。

引き受ければ罠だらけの海域に自分だけでなく仲間を巻き込む事になる、それにそもそもその島に目的である彼らの仲間がいるかどうかもわからない、それこそ罠の可能性もある。

 

だが断れば一切の補給が出来なくなる、そうなれば犠牲になるのはこの船や他の輸送船や貨物船の乗組員だ、それに加えて任務は失敗する。

さらに、敵に情報が漏れている可能性があるとも言っていた。

 

提督達も囮として派遣した機動部隊の支援も視野に入れて今回の任務に就かせたに違いない

その支援も出来なくなる事になり自分たちはおろか機動部隊を助けるどころの話じゃ無くなる。

 

「……わかりました、引き受けます」

 

「そうか——」

 

「正し条件があります」

 

「……なんだ?」

 

さっきまで悩んでいた顔つきから一転して覚悟を決めた顔つきになった。

それに加えて条件を提示してきた……それだけの度胸があるらしい、そう思ったスネークは素直にその条件に興味を持った。

 

「あなたを全力でこちらも護衛します。

ですから……………ですから上陸作戦が終わったら私たちの仲間を助けてくれませんか!」

 

 

 

これが自分が出せる、みんなを守れる唯一の方法だ……そう思った長良は目を瞑る。

この条件が飲まれなければ絶対に依頼を受ける気はない、たとえ自分が何をされようとも——

 

 

 

「それだけか?」

 

「…………はい?」

 

「わかった、それで頼む」

 

「あっあの?」

 

「聞いたなルイ、戦術会議を開いとけよ」

 

「了解ですBOSS、こっちは任せておいて下さい!」

 

「……あのー」

 

「何だ」

 

「……良いんですか?」

 

「何が」

 

「その……作戦が終わったら仲間を助けてくれるっていう話ですよ!?だってこれは私の我儘で——」

 

「俺らがやりたいからだ」

 

「……えっ?」

 

「良いか、俺らは……傭兵だ 国家に帰属しない軍隊だ。

基本的に報酬を得るために 生きるために戦う、そうしなければ俺らに生きるすべが無いからだ。

だが俺らも人間だ、やり方は力でしかないが……こいつらは役に立てる機会はそう無い。

誰かの役に立つってだけでも十分報酬には見合う、それで自分たちの仲間が救えるならな」

 

「……………………」

 

「BOSSの言う通りだよ長良、俺たちもただ守られてるだけって言うのは結構くる物があるしね」

 

「ルイさん……」

 

「それに、俺は船の上には飽きた」

 

「おやおやスネーク、それは艦長として聞き捨てならないな?」

 

「別にこの船が嫌いになった訳じゃない、むしろ気に入った。

……だがなぁ、ただじっとしてるだけっていうのは体に良くないだろ?」

 

「BOSSは動き過ぎな気もしますけどねぇ……」

 

「何か言ったか?」

 

「イエ、ナニモ」

 

「……そうと決まれば仕事だ、長良」

 

「えっあっはい!!」

 

「すまないが編成は軽巡2隻、重巡2隻、駆逐艦6隻、それと出来るなら水母2隻は欲しい。頼めるか」

 

「……時間は?」

 

「30分後、この船の右舷甲板後方だ」

 

「わかりました、出来るだけ要望に答えます」

 

そう言ってさっさと艦橋から出て行く。

これから部屋に残ってる駆逐艦に声をかけ、今護衛をしてる面子からも声をかけ、さらに自分がいない間護衛を担当するメンバーも決めるのだろう。

 

「……さて、俺も招集かけますか」

 

「そうしてくれ、最悪の事態も考えておけ

 

「……それは…………つまり——」

 

「本部が消失している可能性、補給を断念し今後どうするかだ」

 

『………………』

 

スネークの言葉にルイはもちろんこの平和丸で海を渡ってきたベテランの沖田や赤松も苦い顔をする

スネークが言ったことが現実になればこの船はおろか船団は深海凄艦がいるこの海域を何も出来ず

ただ漂う事になる。そうなれば生存が絶望的なのは目に見えている。

 

「……それでも出来るだけの準備はこっちでします、BOSSは副司令をお願いします」

 

「……まぁ俺に願われても今回ばかりはどうも出来ないが」

 

「そんな事ありませんよ、BOSS以外でトラップだらけの海域を通ることが出来るのはいません」

 

「……なら後は頼んだぞ」

 

「この船に関しては私に任せてくれ。さすがに他の船まで責任は取れんが……この船だけも守るさ」

 

「わしだっておるぞい!」

 

「赤松さんはあんまり無茶しないでくれ、歳も歳なんだ」

 

「自分の事は自分が一番分かっておるわ!自分の心配だけせい!!」

 

「赤松さん……それ病気で倒れる頑固オヤジのセリフそのものですよ」

 

「山田は黙っておれっ!!」

 

「……元気だな」

 

「ですねぇ……それだけ頼りやすいですが」

 

「気張って行け、お前にはそれだけの能力はある」

 

「……それでは、こっちも準備します」

 

「後で無線状況を確認するためにコールする、繋がるようにしておいてくれ」

 

「了解です」

 

そうルイが答えるとスネークは艦橋から出て行き甲板に向かった。

艦橋に残ったルイは大きく息を吸いその分だけ息を吐く…………そして自分の端末を持ち出した

 

「山田さん、各艦の残ってる燃料を聞いてもらえますか、全体に分散する時に必要なんで」

 

「わかりました、それはこっちの無線で構いませんか?」

 

「はい、こっちは機密事項を話し合います。あくまで皆さんは民間人なのでそちらの無線でやり取りしてくれて構いません」

 

「ならこっちでまとめます、情報は……秘匿ですよね」

 

「できるだけそうして欲しいですけどっ」

 

「それならこっちで適当に言って残存燃料聞いてみます」

 

「助かります……各艦の代表者に通達、10分後に戦術会議を開く、全員準備してくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《千歳さん、千代田さん、ちょっと戻って来てくれますか?最上さんたちが交代しますので》

 

「えぇ?まだ交代時間にはちょっと早いわよ?」

 

「まあ良いじゃない千歳お姉、私休みたーい」

 

「……まあ戻ってきて欲しいみたいだし別に良いかしら……わかったわ じゃあ最上たちが来たら一旦そっちに戻るわよ」

 

《すぐに最上さんたちもそちらに行きます、引き継ぎが終わり次第甲板に来て下さい、じゃっ》

 

そう言った名取はすぐに無線を切る。

現在、海上では千歳・千代田の水母の他に秋月・吹雪・白雪・初雪・深雪・叢雲の6人の駆逐艦が

周辺警戒を行っていた。

本来なら12隻で輸送船の周りを囲むのだが、出来るだけ休ませた方が良いとスネークとルイの提案で最低限の人員しか出していない、それだけ個々の駆逐艦の練度がある程度高い証拠でもある

もし駆逐艦だけで対処できない敵が現れた場合は本来ローテーションに入っていた重巡や軽巡も出撃する事になっている。

 

「……………………」

 

「珍しいねぇ交代時間が早まるなんて。そろそろ目的地に着くからかなぁ〜・・・千歳お姉?」

 

「……まあ気にするほどじゃ無いかしら」

 

「どうしたの?千歳姉が黙り込むなんて珍しいね……やっぱり大変なの?」

 

「・・・あら何のことを言ってるの千代田は?」

 

「いやっだって千歳お姉が静かだから食堂のお手伝いが相当キツのかなぁ……って」

 

「……まぁ確かに大変よ、私と霧島 あと時々金剛も一緒に手伝わせて貰ってるけど……アレは戦場ね」

 

「戦場って……それは言いすぎでしょっ」

 

「そうでも無いわよ、毎日30kg分の野菜を切ってそれを下ごしらえするだけでも一苦労よ」

 

「…………えっ」

 

「……言っておくけど、私がやらせて貰ってるのは“下ごしらえ”までだからね?

食堂に働き詰めてる人たちはその量の野菜を調理してお皿に盛ってテーブルまで運んでるのよ?

それに加えて毎食味を変えてるしメニューも変えてるわ、みんなを飽きさせ無いためにって」

 

「……それを………毎日?」

 

「そうよ」

 

「…………けど1日で野菜を30kgも消費できるの?」

 

「……その野菜の半分近くは私たちが頂いてる訳だけど……」

 

「あっ」

 

千歳の答えを聞いて、顔を赤くする千代田。

スネークたちが乗る元捕鯨船<平和丸>には21人の艦娘と40人以上の艦長らを含めた隊員がいる。

 

しかし、彼女たち艦娘の食事量は常人と比にならない

何せ小学生や精々中学生に見える駆逐艦ですら少なくても2人前は毎食食べるのだ。

それが駆逐艦より明らかに がたいの良い重巡や空母ならさらに増える。

千歳と千代田の2人は水母ではあるものの食事量に関しては例外では無く、やはり量は多い。

 

成人の野菜の摂取量は1日平均約300g、これに当てはめれば61人分である約18kgで十分だ。

……が、乗っているのはよく動き食べる軍人と人並み以上に食べる女の子達。

さらにお代わりの事も考えれば30kgという値になるのは想像つく。

 

しかもその半分ほどは艦娘である自分たちが食べてることも……また想像ついた

 

「しかも調理してるのは当然野菜だけじゃ無いわ。

お肉……は少ないけれど、魚に調味料・卵・豆類、それも全部キロ単位。それを毎日毎日調理してるわけで……当然疲れるわよ」

 

「……なんか伊良子さんが神様なんじゃないかって思えてきた……」

 

「伊良子さんもそうだけれど、食堂で働いてるおばちゃん達も凄いでしょうに。

同じように朝・昼・晩の三食全部作ってくれてるのよ?しかも基地にいる人全員分」

 

「……食堂のおばちゃんって何買ってあげたら喜ぶかなぁ」

 

「あら奇遇ね千代田、私もそれを考えてたわ」

 

そんなたわいもない会話を ちとちよコンビがしているうちに船から最上と三隈の2人が向かって来た

向かってくる間に瑞雲をカタパルトから射出、艦隊上空を旋回しながらそれぞれ散って行く

千歳・千代田の2人もそれを見て自らの艦載機である零式水上観測機と同じく瑞雲の回収を始める。

 

「お待たせ、交代の時間だよ」

 

「交代には大分早いけどね」

 

「私は早く休みたーい」

 

「えっお二人は別の任務に就くんじゃ無いんですか?」

 

「…………えっ?」

 

「……やっぱりね、そんな気がしたのよ」

 

長良が急いで無線を切ったあたり何かあったんでしょって検討は付いていたのよ、と千歳は心の中で呟く、わざわざ口の出さないのは……隣にいる休む気満々だった妹が原因だ。

 

「えーそんなの聞いてないよ〜長良ちゃんは何も言ってなかったしぃ……」

 

「けど《ちょっと来て下さい》とは言ってたわよ」

 

「確かに……」

 

「まぁ私たちは詳細を聞いてませんから直接長良さんとスネークさんに聞いて下さい」

 

「えっ……何であの人が出てくるの」

 

「そんなの当然でしょ千代田、あの人暇そうにしてるけれどこの船団の中では一番偉いのよ?」

 

「いやっ確かに千歳お姉の言う通りだけどさ…………………なんか気に食わないっていうか、好きじゃ無いんだよねぇ」

 

「……まぁ千代田は見たこと無いものね」

 

「ん、何を?」

 

「スネークを、よ」

 

そう言って何か澄ましたかのような目で語る姉に千代田はただ頭に“?”を浮かばせるだけだった。

 

ちなみに、千歳はスネークの本来の姿を見たと思っているがそれは勘違いだ

スネークの本来の姿は優雅なお茶会では見られない

様々な心情と思惑が入り混じった銃弾が飛び交う戦場……それが彼の唯一の居場所だ

 

「……とりあえず戻るわよ、あの人までいるって事は多分一筋縄でいかないだろうし」

 

「そうだねぇ……僕もそんな気がするよ、2人とも気を付けてね」

 

「ただ船に戻るだけなのに気を付けてねって……うん、気を付ける」

 

「そんな気張る必要は無いと私は思うけれどねぇ」

 

そう言いながらも何かを警戒するように、

しかもそれを周りに悟られない程度にしながら千歳は船に戻って行く。

最上達もその背中を見守りながらも、自分たちの任務となった周辺警戒をし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで全員か?」

 

「いえ、もうすぐ千歳さんと千代田さんが来ますからそれで全員です。

残念ながら駆逐艦の娘は4人しか動けなくて……」

 

「いいや十分すぎる戦力だ。

むしろ大丈夫なのか、俺が言った要望ではあるが貴重な水母二隻も寄越して?」

 

「問題ありません、航巡の最上さん達に空からの警戒はしてもらいますから」

 

「そうか」

 

約束の30分より少し早いが、既に右舷甲板後方部には長良とスネークを始め

高雄・摩耶・五十鈴・名取・白露・時雨・村雨・夕立の8人がいた。

この8人は全員長良の呼び出しを受けて集まった、但し内容は一切聞かされていない。

 

「……んでよぉ、何で長良に呼ばれたのにスネークまでいるんだ?」

 

「……まあ一昨日の夜戦の時に言われた事を踏まえれば大体察っするけれど」

 

「どうだかな、常に事態は最悪の事態を想定しておくんだな」

 

「ご忠告どうもっ」

 

「俺としてはアドバイスなんだがな…」

 

「えっ五十鈴ちゃんいつの間に……スネークさんと仲良くなったの?」

 

「別に仲良くはなってないわよ、ただ単に信頼できるってだけよ」

 

「へぇ……」

 

五十鈴とスネークがお互いにジョークを交えたことに驚いた名取が本人に聞くが、

帰ってきた答えに感心したのか、ただ声を漏らすだけで終わった。

そんな中、ついさっきまで周辺警戒の任に就いていた千歳と千代田の2人がやって来た。

 

「あらあら随分と集まってるわね、ここで間違い無いのかしら?」

 

「間違い無いです、何より呼んだ私自身がここに居ますから」

 

「それもそっか……それで、何でこの人も居るのよ?」

 

「……ちょっと千代田、随分ふてくされてない?」

 

「こいつらの言う通りだぜ、長良。

さっき五十鈴は何か察したみたいだけど何事だ?

わざわざ私たちまで呼んで…………何をするって言うんだ?」

 

「……名取、これで全員だな?」

 

「はいそうです……摩耶さんや皆さんの疑問に答えて下さい」

 

 

 

長良がそう答えると、スネークは11人の艦娘の前に立ち全員を見据える形を取る。

 

必然的に全員の視線が刺さるが、それを意にも返さず、堂々と、話し始めた。

 

 

 

「……はっきり言う、これは俺の・・・“俺ら”からの依頼だ。

鎮守府やお前達の提督からの命令でもない、任務でもない、お前達自身に今頼みたい依頼だ」

 

『……………』

 

「全員俺やルイ、五十鈴と名取は長良から聞いてるだろうが既にこの船団は敵にばれている。

この状況を打破するにもお前達の任務通り俺らの仲間と合流必要がある。

……だが、その仲間達と連絡が取れなくなった」

 

「えっ」

 

「それはまた……」

 

「……それって……………やられたって……事?」

 

高雄と摩耶の顔は明らさまに引きつり、他の艦娘の表情も暗くなる。

さっきまで大体察していたと言った五十鈴も歯切れが悪い様にスネークに質問する。

 

「わからん」

 

「わからないって——」

 

「それだけだ、単なる機械の故障なのか 向こうで問題が発生したか 全滅したか。

原因は分からないがとにかく連絡が取れない、そこが問題だ」

 

「問題って当然でしょう?」

 

「いいえ、問題なのは安否が不明な事では無いんです」

 

『?』

 

「……俺たちの仲間は優秀だ、それこそ一年近く孤島で生き残る程度にはな。

ここまでは妨害にだけ気を配れば良い気楽な海域だったが、ここから先は何が起こるか分からない。

何らかのトラップが仕掛けられてるのは間違い無い」

 

「…………連絡が取れないのもその罠のせいってこと?」

 

「わからん、だが何か仕掛けられてるのは確実だ」

 

「その根拠は何だい?」

 

「俺ならそうする」

 

「…………十分過ぎる根拠だね」

 

時雨が苦笑いで返す。

彼女たち個人に認識の差はあれ、青い海を航行する船の上で11人もの艦娘に囲まれながらも堂々と

立っている目の前の男が強いことを知っている。

そして単なる歩兵ではなく、戦術を練る優秀な指揮官だということも伝えられている。

そのため、スネークの答えは彼女たちを納得させるには十分だった。

 

「そこで俺は水上バイクで仲間が籠っている島に行く、そこまで俺を護衛してほしい それが依頼だ」

 

「・・・いやいやいやいや!!お前何言ってるかわかってるのか!?」

 

「ああ」

 

「ああって……」

 

「……私が言うのも何だけど、結構危ないよ?」

 

「今更だ、その危ないことをお前らだってしているだろう」

 

「いやっ……うん」

 

どうにか説得しようとした白露だが、スネークにもっともなことを言われあっさりやられる。

他の艦娘も止めておけと言いたそうだが誰1人いう事は無い。

既に今回の旗艦である長良がこの“依頼”をもとに自分たちを呼んだ事実から、長良は無謀とも言えるスネークの護衛を引き受ける気でいるのは察せられた。

 

……そして何より、誰ひとり目の前の1人の戦士に口答えする事が出来なかった

 

 

 

 

「However,ソレは“request”であってスネークの“wish”じゃないネェ」

 

 

 

 

 

『えっ?』

 

 

 

 

……何処ぞの帰国子女を除いて

 

 

 

 

 

 

「……長良、俺は戦艦を呼べと言った覚えは無いんだが」

 

「私も声はかけてないんですが……どうして金剛さんが……ここに?」

 

「それは私が起こしたからです」

 

 

その声は甲板横にあるドアから出て来た金剛の後ろに立っている霧島

 

の横で突っ立ているマーリンだった

 

 

「……マーリン、わざわざ金剛たちまで呼んだ理由は何だ」

 

「単純ですよBOSS……………………………………………………かわいそすぎます!!」

 

『・・・・・・・・・・・はぁ?』

 

「仲間外れなんて可哀想じゃ無いですか!金剛も霧島もみんな仲間なんですよ!?

わざわざ隠したって意味無いじゃないですか!!」

 

「……その日本語は正しいのか?」

 

「それに金剛たちにも知ってもらっていた方が都合が良いですしね」

 

「…………まぁそれもそうだな、それに金剛が言った通りだ」

 

「そうですよぉ〜」

 

「……けど、金剛さんは何て言ったの?」

 

「私もそれ気になったぽい〜」

 

「だってよ?」

 

そう言われた金剛が先程スネークに言ったことを説明し始める。

 

「ええッとデスねスネークは“依頼”っていいマシタ。つまり“business”ということデース」

 

「……そうだな」

 

「・・・あれ っていう事は、私たちがいつもやってる遠征みたいにスネークたちが何か

お礼をしてくれるっていう事なの?」

 

「……デスヨネ?」

 

この時の金剛は言わば本気モードだ。

いつもの提督LOVE全開の のろけた雰囲気ではなく、何が起きようとも次にどう対応しようか

考えている、もちろん武力の行使も考慮に入れている。

……だが、その構えは杞憂に終わる

 

「金剛の言う通りだ、俺らもただお願いすれば良いってものじゃ無いのは知っている。

何かをしてもらうにはこっちもそれ相応の報酬を用意するのが道理って物、だろう?」

 

「……エエ」

 

「そして俺が提示するのは〈お前たちの仲間の援護〉だ」

 

「!それって——」

 

「まぁお前たち艦娘を全力でバックアップさせてもらう。

もっとも今回の作戦が終了するまでだがな……………今のところ」

 

「・・・ソレで長良は良いんデスカ?」

 

「はいっ それに私から提案したことですし」

 

「……そうデスカ」

 

「気は済んだか、金剛」

 

「……私もシンパイしすぎネェ」

 

「その位で丁度いいだろう……んん…………マーリン」

 

「……はい」

 

「お前、ここに居ていいのか?」

 

「……はい?」

 

「ルイの奴が探してるんじゃあないか?」

 

「……へ?」

 

瞬間、艦内のスピーカから一瞬ノイズが入る

前もって身構えていたスネークはすぐさま両耳を塞ぐ

 

 

 

《マーリン!!起きてるならさっっさと食堂に来いいいぃぃぃぃぃ!!!》

 

「りょうかあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぃぃぃぃぃいいい!!!!!!」

 

 

 

そう言うが早く、マーリンは金剛が出て来たドアから奥に消えていった。

……スネーク以外はまるでフラッシュバンを喰らったかのように耳を痛めていた。

 

「……お前ら大丈夫か」

 

「耳が・・・痛いですぅ」

 

「何よあの爆音……」

 

「痛い……」

 

「声が通るのは知ってたけど……あそこまで通るの……」

 

「Guaaaaaaaaaa!」

 

「……大丈夫か金剛」

 

「多分……すぐに治ります」

 

「そうか」

 

「っていうか何で拡声器の音量が最大なんだよっだぁ……」

 

「あんまり自分から大声を出さない方がいいぞ摩耶、まだ鼓膜が収縮してるだろうからな」

 

「そう言うことは早く言ってくれよ……」

 

「経験すれば2度も轍は踏まないって言うんだろ?」

 

「……あんた良く知ってるな」

 

「お陰様でな」

 

「それはそうと……何であなたわかったのよ」

 

「何のことだ」

 

「マーリンが呼ばれる事よ」

 

「ああ、そんな事か。

金剛に丁度いいだろうと答えた直後に無線からマーリンを呼びかけてる事がわかってな。

……どうなるかだいたい察した」

 

「それも言えよ……」

 

「どうせ死にはせん」

 

そう言って長良の方に向く

 

「……それでだ、この依頼は成立したのか?」

 

「いいえ、これからです。

……皆さん 最終確認です、今からスネークさん達からの“依頼”を受けてスネークさんを島まで護り抜き送り届けますが……構いませんか?」

 

『…………………………』

 

全員が黙る。

だが全員の覚悟が決まるのにそう時間はかからなかった。

 

 

「……このまま立ち往生してたら私らだけの問題じゃならなくなるしね、やるよ私は」

 

「私もやります、スネークさんを守れるのなら喜んで」

 

高雄型重巡洋艦 高雄・摩耶

 

「……まっ私はこの前全力で協力するって言っちゃったしね、今更よ」

 

「わっわたしも!……その、微力ですががんばりますっ!」

 

長良型軽巡洋艦 五十鈴・名取

 

「まぁ難しいことはわかんないけど、とりあえずこの場を乗りきんなきゃいけないんでしょ?」

 

「そうだね、僕で力になれるなら手を貸すよ」

 

「私も白露と同じかなぁ、よくわかんないけどやる事はやるわ」

 

「夕立もみんながやるなら全力っぽい〜!」

 

白露型駆逐艦 白露・時雨・村雨・夕立

 

「やれやれ、私たちもやるしか無いようね」

 

「……あぁもう!やりますよっ!!貴方を守れば良いんですよねっ!?」

 

「……お前 何でそんなに怒っているんだ?」

 

「放っておいて下さい!!」

 

「…………そうか」

 

千歳型水上機母艦 千歳・千代田

 

全員が返事を返した

 

計10人の艦娘が1人の兵士を島に送り届ける事が決まった

 

「……どうやらワタシも働かなきゃダメみたいネ」

 

「そのようですね、もっとも今はお手伝い位でしょうけど」

 

「長良、お前はここに残るんだな?」

 

「ええ、何が起きるかわかりませんし」

 

「それが最善だろう」

 

「なら旗艦を決めなきゃな」

 

『えっ?』

 

「……おいおい、いくら俺でも艦隊の指揮は取った事が無い。

戦闘の指揮ならまだ出来るだろうが……それぞれの航行や陣形まで指示は出せん」

 

「ああ……そういえばそうですね。

なら旗艦は五十鈴ちゃんで、武装は対潜装備、あと駆逐艦の4人は掃海器具もおねがいします」

 

「えっ掃海器具?」

 

「言っただろ、罠だらけだろうってな」

 

「なるほど……」

 

「まぁ掃海器具が使えるかも疑問だがな」

 

「はい?」

 

「気にするな、なら準備が終わり次第すぐに出る。お前達は——」

 

『すぐに出れます!!』

 

「……なら10分後に出る、ここにいる面子以外には悟られずに出る。

あんまり大っぴらに話せることでも無いからな」

 

「NO problem ヨ、ワタシたちもほかの子には言わナイヨー」

 

「そうしてくれ」

 

「金剛さんと霧島さんには周辺海域の状況整理を願いします」

 

「ワカリマシタ!」

 

「情報なら私におまかせ下さい」

 

「……なら各自やる事は決まったな、それぞれやるべき事をやれ」

 

「それはあんたもだろ?」

 

「…………そうだな」

 

 

そう言ってスネークは眼を閉じる

 

そのまま慣れた手つきでどこからか葉巻を取り出し火をつける

 

そして眼を閉じたまま数瞬、眼を開けその場の全員に言い放つ

 

そこに先ほどまで談笑していた人間は居なかった

 

 

 

 

 

「・・・お前ら 覚悟は良いだろうな?」

 

 

 

 

 

そこには……………そこには数多の戦場を生き抜いてきた1匹の蛇が13人の生娘を睨んでいた

 




次回予告

「ウソ……でしょ……?」

「今は逃げるに徹しろっ!死ぬだけだ!!」

スネークを島に送り届ける最中、10人の艦娘たちに襲ってくる脅威、迫る恐怖!

そして・・・

「っ対空戦闘用意!!」

「待て長良っ!!」

海から、空から、彼らに近づいて来た!!

「………ここで死ぬわけにはいかない」






遂に戦場に立つ伝説の傭兵

彼が育てた仲間たちは?

家族は?

彼らは海域を突破し生きる希望を掴めるのか

そして空母機動部隊の命運は?












全ての“歯車”は揃った
























































































と言うわけで先ほどの くさい次回予告ですが、言葉の通りやっと全て揃いました
やっっっっと大規模作戦、前半が終わりました


ええ まだ前半ですよ?


…………すみません、書く時間が無いんです……受験科目がヤバイんです。
まだ高2ですが勉学を疎かに出来ないため予定を大幅に遅れております(予定なんて無かったんや)

最低でも月に一回の更新はしていきますのでご容赦下さいm(_ _)m

次話投稿は来週までにと思っています、その次は全く書き上げられてませんが……

先ほどの くさい次回予告ですが、言葉の通りやっと全て揃いました。
ここからはパーツを噛み合わせるだけです。
あと3話くらいでメインとなるお話は書き上げられる……かなぁ?

そんなこんなでこの大規模作戦はここから一気に進みます(多分)
ですが相変わらず投稿速度はカメですので、今後とも「鎮守府警備部外部顧問 スネーク」
首をマッサージでもしながら待った頂けたら作者の私としては幸いです( ´ ▽ ` )ノ


P.S
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様々な方のご批評、ご感想、お待ちしてます。


えっ本音?………………さ 寂しくなんか無いからねっ!?

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