鎮守府警備部外部顧問 スネーク   作:daaaper

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作者「テストも終わった!書くぞ書くぞ書くぞ!!!」

ー数時間後ー

作者「よしっ大規模作戦も始まった!………これなら夏イベまで間に合うんじゃね?(フラグ)
・・・まっ明日も書きますかー(( _ _ ))..zzzZZ」

ー翌日ー

…………データが消えました
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………もうやだ


というわけで次話投稿は遅れます
その代わり、と言っては何ですが今回はまとめて投稿しました。
二話分のお話ですので、時間がある時に見て頂けると幸いです。





 

 

 

《あと5分だ、頑張れ》

 

「ってまだ5分!?」

 

そう言いながらウェーバーの射撃を回避する川内が怒鳴る

他の艦娘も同じ考えらしく、表情はキツイ

なぜ13人もの艦娘がたった3人に苦しめられているのかといえば、エアーの使っている武器が要因だ

 

エアーの持ち込んだ重火器……俗名「グレポン」が効果的な範囲攻撃を実行しているからだ。

正式にはダネルMGL、6連発40mmグレネードランチャーを改造し擲弾を催眠ガスグレネードに

してある。

さらに弾速も通常より3割ほど早くなっているため命中速度も上がっている。

 

しかし所詮はガス

本来ならば直撃すれば艤装の損傷は免れないが、直撃しても即アウトでは無い。

それに回避行動もしているため、仮に催眠ガスの有効範囲内だとしても息を止めすぐに離脱出来る。

 

 

だが進行方向を誘導するには十分だ

どんなに速度があろうとも、ある程度進路が予測できれば当てる事は格段に楽になる。

そしてウェーバーとその手に持つ狙撃銃にはそれが出来る程度の技術がある。

 

フォレスト自身も片手で麻酔銃を撃つため、牽制的な操縦もあり13人の艦娘はある程度の範囲内

でしか行動が出来ない状況だった。

 

「なかなかっキツイな!」

 

「全くよっ!」

 

特に戦艦2人は操艦だけでは回避できないため、からだ自体を動かし麻酔針を回避している

だがそれでも少なからずカスる事は免れず、極めて少しずつだが反応が鈍くなっている

 

「こっちもギリギリや!ていうかあんなガス反則やろ!!」

 

「けど眠らせるだけのガスですしっ」

 

「艦載機が発艦できればよかったのに!」

 

「けどあの方達がそんな隙を許してくれるでしょうk——」

 

《そこの軽空母たち!固まってるといい的よ!!》

 

エアーの声が聞こえる中で無線から、ポンッポンッと音が聞こえた。

一瞬間をおいて軽空母の4人の中央・前方に完全にガスグレネードが命中、

喋っていた為に4人はそれなりの量を吸い込む。

それでもどうにかガスから逃げ出す…………が、必死に回避した先には1人スタンバイしていた。

 

針は瑞鳳にヒット

 

その場に倒れこむ

 

「瑞鳳っ!」

 

「ダメ祥鳳さん!!」

 

いくら訓練とはいえ、安全確保は必須だ。

集団を狙撃する場合、威嚇や恐怖を植え付け予想外のアクシデントを起こすために先頭側から撃つ。

だが今それをやれば後続の3人が衝突しかねないため一番後ろにいた瑞鳳を狙った。

 

さらに、倒れた事に釣られた祥鳳に標準する

……だがその射線上に2隻の重巡が防ぐ

 

「今のうちです!」

 

「羽黒さん!?」

 

「羽黒の言う通りだ!早く瑞鳳を担げ!!」

 

妙高型重巡洋艦2番艦・4番艦の那智・妙高である

那智の言葉に感化されすぐに祥鳳が担ぐ、その僅かな間に那智・羽黒は瑞鳳らを囲みさらにその首を龍鳳が飛行甲板で塞ぐ

 

ウェーバーは足元を狙うも波が邪魔をする。

仮に撃っても海面ギリギリになるため風の影響をさらに受ける。

 

エアーの方はこの好機を逃すほどのルーキーでは無い、それに先ほどは2発しか撃っていない、

あと4発残っている

その全弾を瑞鳳を含めた6人に目掛けて擲弾を飛ばす。

 

 

だがそれは十分予想出来る事だ

 

その射線上ドンピシャに妙高・足柄が飛び出し艤装にぶつけて4発全てをその場で炸裂させた

姉妹艦であり、さらに速力があり艦娘としての練度の高いからこそ出来る強行策である

 

その内に祥鳳らは再び回避運動を再開、エアーは再装填に入った

しかし余裕そうに3人は専用回線で話し合う

 

《にしても、随分無茶な妨害だったな》

 

《あれは私たちじゃ真似できないわね》

 

《お前が持ってるヤツで……出来ないか》

 

《わざわざ解る事言うんじゃ無いわよ》

 

スネークなら出来そうな芸当だが、それでも幾つか不安材料がある。

仮に当たったとしてぶつかった際の衝撃と損傷、その後すぐに離脱離脱する事、他にも経験すればわかるだろうが少なくとも自分の命にどれも直接関わる。

 

だが艦娘は少なくとも上記の心配は海上でなら問題無い

ガスに対しては直接吸う事が無ければ、少なくとも黒煙を吸ってもあまり影響が無い彼女たちならばあまり気にする必要が無い、ぶつかったとしても彼女たちほどの動体視力を持ってすれば艤装に

当てる事も難しく無い、離脱も航行しながらであれば十分であり艦娘の主機を持ってすれば戦艦で

無ければ十分な加速力もある。

 

《しかし、これでやっと1人ですかぁ》

 

《なんでフォレストが疲れてんのよ》

 

《結構無茶な機動してるんですよ?》

 

《まぁ俺が麻酔針を使ってるのもあるがな》

 

《それ高速にできないの?》

 

《無理だな、少なくとも日本では》

 

エアーの言う高速とは、麻酔針の弾速についてだ

通常使われる……少なくともライフル銃で使われる弾丸の初速はおよそ秒速700〜900m、

これらの弾速帯を“高速”という、これらの速度帯は優に音速を超えるため衝撃波を出すため発砲場所を特定される可能性があるものの、破壊力・貫通力・射程は安定し風の影響も受けにくい。

 

一方で麻酔針はせいぜい秒速200〜300mしか出ない

火薬の炸薬量に対して麻酔針と弾丸では重量が違うため、空気抵抗が増えるためどうしても音速を

超える事が難しい、せいぜい亜音速だ。

破壊力はまだしも有効射程も低下し、何より風の影響を少しでも受ける。

そのため室内ではなんの問題も無いのだが、屋外での長距離射撃では外れる可能性が高い。

当てる事が出来たのはウェーバーの感覚が当たったからだ。

 

《えっと、本部じゃ生産可能になってるの?》

 

《可能性の話だがな、だがあの研究開発班ならやりそうなもんだろ?》

 

《確かにその通りねぇ》

 

《それでも無いものを欲しがるのは都合が良すぎますよ、それに今訓練中ですしっ——!?》

 

『!!』

 

突如3人が反応する、同時に急転換、そして加速

さらに共通回線でエアーが怒鳴る

 

《いま魚雷を撃ったの誰!?》

 

『え!?』

 

《川内じゃ無いよね!?》

 

「違う!っていうか魚雷を誰も撃ってない!!」

 

《他の人も同じ意見!?》

 

「そもそも、川内たち以外ここには魚雷を持ってる奴はいないぞ?」

 

《すまんが訓練中止だ!同時に回避運動を続けろ!エアーはこっちに来い!!》

 

そう言ってウェーバーが指示を出す

すでにフォレストがウェーバーの方にバイクを走らせている

 

《受け取れ!》

 

《・・・取った!》

 

受け取ったのはウェーバーのバックパック、

中にはティムのドローンを破壊した時から入れたままだったサーマルとバッテリー。

 

《恐らく深海凄艦だ、確か潜水艦もいるんだよな?》

 

「……なるほど、なら本気で逃げないとダメなようだな」

 

「ひとまず祥鳳は担いだままこっちに来て、私たちはもし当たったとしても1発ぐらいなら全然問題

無いわ、それに十分回避できるし」

 

「わかりました」

 

「他は発艦準備をしてくれ、妙高」

 

「護衛します、那智・足柄」

 

『はいっ!』

 

「わたしはエアーさん達の援護に入ります」

 

「神通、行くよ!」

 

「わかってます姉さん、那珂ちゃん!!」

 

「はーい!那珂ちゃんお呼ばれしちゃったよー」

 

横須賀鎮守府一番の火力である長門・陸奥を中心にすぐさま行動に移って行く13人の艦娘たち。

すでに全員が護衛・邀撃に別れ、戦闘体制の入る。

 

無論それはウェーバーらも同じだ

すでにエアーは受け取ったサーマルゴーグルを装着、双眼鏡と併用し索敵を開始。

ウェーバーはフォレストの運転するバイク周辺を護衛、片手にはM19を持つ。

ロングバレルに換装しているため、近距離ならば魚雷の破壊も無理じゃない。

 

 

だが

 

 

《神通さん、備え付けのその爆雷でどの位イケる?》

 

「……残念ですが、一撃では厳しいです」

 

《龍驤さん達も?》

 

「私たちは対潜爆弾を持っとるから普通に攻撃できる、せやけど準備に時間がちょいかかるわ」

 

「けどこれだけ人数が居れば相手の撃破も——」

 

《それは……ちょっと厳しいかもね》

 

龍鳳の言葉をいとも容易くエアーが遮る、その位に声のトーンが真剣だった。

 

《方向ここから南南東、距離5000mに熱源が複数、1や2じゃない……6はいるわよ》

 

《………潜水艦が6隻以上で襲ってきた事はあるか》

 

「ないな、そもそも外海でならまだしも鎮守府近海で6隻以上の敵艦がわざわざきた事は無い」

 

「どうするの?こっちは無傷で手負いじゃないけれど、本調子じゃ無いわよ?」

 

陸奥の言う事は正しい。

誰もが実弾を持って来ているがそれはあくまで対水上戦闘用である主砲の弾であって爆雷では無い。

軽空母は対潜装備として専用の爆弾を攻撃機に換装可能だが、爆雷と違い大量に投下は出来ない。

それに軽空母4隻で今運用できるのはおよそ50機、普通なら十分撃破可能だが相手の数がわからないというのと、予想外の奇襲のため装着に時間がかかる、すぐに攻撃は出来ない。

 

そして何より

 

《雷撃!数………35!?》

 

「回避!!」

 

エアーの言った通り全員に向かって雷跡が30以上、いや40はありそうな数が近づいて来た

別にエアーが魚雷を発見するのが遅れた訳ではない、角度的にすでに発射されたいた魚雷が見え

なかった、サーマルゴーグルも魚雷が出す熱は晴れた海によって見えなかった。

潜水艦を捕捉できたのはそれ自体が出しているであろう熱が異常に高かったからだ。

 

到達まで約30秒前後、さすがに艦娘は回避に慣れているため魚雷が来る方向に回頭、進行方向にあるであろう魚雷へ発砲、道を作る。

ウェーバーらも羽黒の先導の元、進行方向に回頭、エアーが同じくM19で的確に魚雷を破壊。

 

 

だが

 

 

「……右に魚雷!?数6!!」

 

「クッソッ!」

 

突如ウェーバー達の右から6本の白い線が現れる、距離は500mも無いだろう。

艦娘の様に立っていれば当てられるのものの、座っていては横にある目標を片手で当てるのは厳しい

憶測で撃つも当たらず、ギリギリの転舵で回避する。

 

……がその先には瑞鳳を担いだ祥鳳らがいた

 

「避けろ!!」

 

ウェーバーが叫ぶ

 

だがすでに回避しようの無い角度

 

減速しようにも船では不可能

 

そのまま祥鳳らに6本の魚雷が迫り

 

派手な水柱を立てる

 

《……生きてるか?》

 

だがウェーバーの声は知り合いに電話をかけるかのように落ち着いている。

(実際、無線に話しかけているわけだが)そして返事が返ってくる

 

「ギリギリ……な」

 

「私なんか中破しちゃった……」

 

その水柱から現れたのはギリギリ小破の長門と中破した陸奥である。

陸奥が先ほど言った通り、魚雷の1発程度なら戦艦は耐えられる可能性が高い。

そのため祥鳳らの“盾”として2人は祥鳳らに向かった魚雷を全て受けた。

 

ただし、6本のうち3本は妙高や那智・足柄が触雷する前に破壊できたため実際には長門に1本、

陸奥に2本当たった。そのため陸奥だけ中破し 大破した者はまだ居なかった。

 

《ってその服装……》

 

《大破じゃぁ……無いんですか》

 

だがエアーとフォレストには十分過ぎるほどのダメージがあった。

まず女子としてどうかと思うほどの短いスカートと露出の高い服から、さらに色気のある服装に。

ウェーバーは警戒のため魚雷が来た方向を見ているが、それだけが理由では無いだろう。

 

そして何より……彼女達には無い一部分が特に、さらに目立つ様になっていた

 

《……それよりここからすぐに離脱する、幸い もうすぐ時間だ》

 

《……そうね、さっさと上に上がりましょう》

 

《そうしてくれ、掃討部隊が今から向かう》

 

無線越しにさらに男が一名加わった

その男もすでに臨戦態勢である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……妙に厄介な事になった、だがそれを相手に言っても無意味だ

 

「それで問題無いよな提督?」

 

「すぐに迎撃部隊を編成する、天龍」

 

「あいよっすぐに龍田の奴を呼んでくる」

 

「いや駆逐艦を頼む、スネーク」

 

「マーリンの方だな、任せろ」

 

それで納得できた天龍はすぐに工廠を出て行った

iDroidからマーリンを呼び出す、映像を出したままでもこいつはやり取りできる

 

「マーリン、至急だ!」

 

《……何事ですかBOSS》

 

よし、すぐに出た

これなら来るだろう

 

「そこに龍田はいるか?」

 

《な〜に〜、私もお呼びかしら〜?》

 

《居ます、場所は?》

 

「工廠前だ、龍田と駆逐艦もそこに居れば一緒に連れて来い、必要だ」

 

《了解》

 

そう言ってすぐに切れる

……置いてこなければいいがそれを気にする心配は無いだろう、弓道場からここはそこまで遠く無い

 

「ウェーバー、そのまま離脱してくれ、ただし見せるな」

 

《了解です、これより離脱します》

 

「お前たちも戦闘はするな、帰投してくれ」

 

『了解!』

 

提督の命令に対して艦娘からも返事が来た

その後iDroidを仕舞う、後は上手くやってくれるだろう

長門や陸奥が怪我をした様だがフォレストもいる、外科的な応急処置は出来る

それにあのメンバーに心配が必要な奴も居ない

 

「テロの次は潜水艦か……」

 

「今まで潜水艦が襲ってきた事が無いと長門が言っていたが?」

 

「ああ、ここもそうだが他の鎮守府でも潜水艦による“直接的な攻撃”はほとんど無い。

威力偵察や港湾沖に潜伏している事は時々あるが、周辺の警備・掃海は毎日している。

戦略的に艦娘を攻撃する意図が明確なものは初めてだ」

 

「…………」

 

「何が気になるんです?」

 

「まず——」

 

「何事ですかBOSS」

 

……俺が説明する前にマーリンが来た

だがちょうどいい、今の説明は後回しだ

 

「一体何事よぉ」

 

「……何が起きたの」

 

そのマーリンの後ろには龍田となぜか駆逐艦では無く加賀がいた

マーリンがいつもと違う雰囲気で俺と会話していたから来たのだろう

実際、秘書官が来ても問題のない案件だ

 

「随分……早いな」

 

「至急だとBOSSに言われたんで……何事ですか」

 

「提督をそう睨むな、訓練中に潜水艦タイプの深海凄艦が現れた。今ウェーバー達が回収作業に

入っている、すぐに全員が上がるだろう」

 

「損害は」

 

「先ほど長門と陸奥の入渠が決まった、おかげで帰ってきたらしばらく休みだ」

 

「……最悪の事態は回避したみたいですね」

 

「ああ、俺らはバイクの回収と迎撃だ」

 

「……なるほどね〜だから私が呼ばれたのね〜」

 

「そういう訳ですぐに出撃する、天龍とすぐに合流してくれ」

 

「わかったわ〜それなら先に行ってるわよ〜」

 

「……私は用無しの様ね、なら戻ってるわ」

 

そう言って龍田と加賀は工廠から立ち去った

やはり艦娘の判断・実行能力は高いな

 

「俺らも回収と索敵の支援に出るぞ」

 

「サーマルは?」

 

「いや魚雷が来ているのがわかりにくい、ソニックアイにしてくれ」

 

「了解」

 

「あなた達も出る気なのか!?」

 

「理由がなんであれ俺の部下を狙った奴をほっとく訳にもいかない。

それに俺らが直接バイクを回収した方が早い」

 

「だが…………」

 

「安心して下さい、私たちは攻撃出来ないですから。さっさと回収して撤収するだけです」

 

……索敵もついでにやる事をもう一度言ってないが、わざわざ言う必要は無い

 

「武器は最小限にしろ、俺らは逃げるに徹する」

 

「わかってます、まぁ私にわざわざ言うのもわかりますけど」

 

「私は……書類の作成だな」

 

「安心して報告と申請書でも書いててくれ、残念ながら俺らには出来ないからな」

 

「……そうしよう」

 

「出るぞ」

 

水上バイクが置かれている場所まで先に走る、工廠を出ると輸送機が沖に見えた。

間も無く全員の回収が終わるだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スネークの思う通り、回収作業は間も無く完了するところだ

無線で指摘された通り敵にこちらの1つの、しかもまだ実戦では使っていない手を見せる訳には

いかないため、スモークを炊きフルトンを使い16人全員がそれに飛び発った。

 

その後輸送機にはウェーバーが上空で支援を要請、時間通りに回収作業は開始され間も無く最後の

1人が機内に収容される。

収容されたメンバーはエンジン音と未だ開かれた後部ハッチでうるさい中、話を展開する。

 

「まさかこんなタイミングで敵が来るなんてね」

 

「全くです……」

 

「そんなに気にしないの神通、私たちの力不足じゃ無いんだから」

 

「そうだよ〜 那珂ちゃんだって潜水艦が出てくるって聞いてたらスタンドちゃんと用意したのにぃ」

 

スタンドとは爆雷投射機の事だ

 

「そもそも特殊訓練の一環で沖に出たんだ、こちらもまともな武装を持ってきていなかった。

私もまさかあんな大量の潜水艦が襲ってくるとは……予想できなかった」

 

那智や神通が首を垂らす、何せ攻撃する事も無く事実上の撤退をしたのだ。

那智にしてみれば魚雷を全て破壊することができなかったために陸奥を中破させた事を悔やんでいる

 

「気にする事は無い、幸い今回は誰も大きな怪我はしていない。

反省するとすれば、本来なら別の少数でも哨戒部隊を編成しておくべきだったのだ。

そうで無くとも対水上戦のみでなく対潜戦闘も想定しておくべきだった、それが出来なかった責任は私たち自身であり同時に提督の判断ミスにもなりかねん」

 

『……………』

 

「誰が悪いのかを突き止める気は一切無い、ただ今度からは備えるべきだと理解し実行する事だ」

 

「……ちょっと?私は中破したんだけどっ」

 

長門の言葉に全員が一瞬黙っていたが、長門が言ったことに文句がある陸奥が口を挟む。

何せ大破という大きな怪我は確かにしてはいないものの、機内では服がボロボロのため周りを他の

艦娘に囲んでもらい、さらに隣ではフォレストに傷の手当てをさせるという手間をかけている。

本人はこの事を無視されているようで気に食わなかった様だ。

 

《回収終了、閉めます》

 

アナウンスと同時に赤いランプが回り後部の大きいハッチが閉まる。

後ろには強風が吹く中、堂々とこちらに向かって来る1人の影があった。

そして声を掛けてきた

 

「全員無事か?」

 

「ああ全員が元気だ……1人いま治療を受けてはいるがそれ以外全員無事だ、瑞鳳も先ほど起きた」

 

「この音の中でも寝れるのは相当な変人だ、普通で何より。エアーはどうしてる?」

 

「奥で自衛官の人達とお話ししてます……あのー 何でこんなに人が多いんです?」

 

「いや、ちょうどだ」

 

ウェーバーが羽黒の質問に答える

確かに羽黒の言う通り、この機体には人が多い。

 

まず彼女たち艦娘が13人

次にウェーバーらスネークの部下が3人

そして搭乗していた陸上自衛隊の隊員がなぜか10人いた

 

だが人数は“ちょうど良い”

 

「エアーの奴は奥か?」

 

「そうよ、最終調整」

 

手慣れた様子で陸奥に刺さった小さな艤装の破片を取り除き、包帯を巻くフォレストが答える。

元々精神科医であるフォレストだが、医療班に従事していたためこの程度の応急処置は出来る。

本来なら消毒もすべきだが消毒液が無く持って来ていなかったのが唯一の欠点だ

 

「ならここは頼んだ」

 

「了解よ、ほら反対側」

 

そう言って色々と露わになっている状態で体を動かす陸奥を横に、決して見ないようにしながら

それなりに狭い機内で奥を目指す。

奥のドアを開けるとフォレストが言っていた通り、エアーが自衛官と話し合っていた。

 

「あら、やっと来たの?」

 

「最後まで確認できるのは俺だからな」

 

「私たちじゃ双眼鏡でも良く見えないもの、それにあなた丈夫でしょ?」

 

「……彼女たちほどじゃ無いがな」

 

少なくとも魚雷を2発も直撃して破片が刺さった程度では普通すまない

そもそも1発当たったのに見た目からは無傷に見える時点でどうかと思う

まぁ彼らもレールガンの直撃を喰らってもレーションがあるから平気というのもおかしいのだが

 

「……そちらが?」

 

「どうも」

 

端的に返事をしたのはベテランの風格がある40代ぐらいの男、老けているだけかもしれない

奥にいるのも同じ様にベテランらしく、少なくとも全員若くは見えない。

だが元気だ……どこかは本人たちが一番よく知っているだろう

 

「さっきまで下での話をしてて、いまは誰とタンデムするか話し合ってたの」

 

「まぁ長門さんと陸奥さんはお前とフォレストがやらないと……気まずいわな」

 

「私たちは是非ともやっても良いんですけどねぇ」

 

「おいおい、手出したらダメなんだぞ」

 

「誰が手を出すってぇ!?」

 

『お前さんだよ!』

 

そう言って自衛官たちが笑い合う、どうやらお互い気心は知れているらしい

……手を出すのは本当にやめておいた方が良いが

 

「この通り全員気合い入ってます、単純に順番通りで構いません」

 

「それもそうですね、妥当でしょう」

 

「それより下の状況は?」

 

「鎮守府から掃討部隊が編成されています、敵潜水艦は浮上してましたよ」

 

「……あいつらも空気が必要なのか?」

 

「でしょうね、彼女たちも酸素はもちろん食事も必須ですから」

 

「私が敵を見たときっていうか発見した時、異常に赤かったから多分無理してたんじゃないかしら?

そうでもしないと鎮守府の近くまで大勢で来れないでしょ」

 

「……まっ、我々は我々の仕事をしますか」

 

「ここまで来て非常事態で帰るって言うのは格好が悪いわな」

 

「私たちには重すぎますしね」

 

確かに自衛官たちの服装はそれなりに重い

それに奥にはさらに倍以上の“それ”があった

 

「なら準備を始めるとしましょうか」

 

「わかりました。フォレスト、怪我の手当ては?」

 

「もう終わりました、始めます?」

 

「ええ、じゃあ紹介がてら説明するからこっちに皆来てくれる?」

 

そう言って後部ハッチから機内に全員を移動させる

全員がドアの内側に入ると結構狭い、だが苦しいほどでもない。

とりあえず右に艦娘、左に自衛官とウェーバーたちがそれぞれ並び向かい合う

 

「今さらだけど全員いるわね?」

 

「ああ、誰も欠けてない」

 

「なら今までの経緯とこれからの行程を説明するわ」

 

そう言ってエアーが説明し始める

 

「まず、さっきの潜水艦はすでに提督が対応してる。

すぐに掃討部隊が展開するわ、私たちが帰る頃には結果が出てるでしょうね 今のところ怪我人は?」

 

「陸奥が艤装の破損で怪我はしてるけど大事じゃないわ、下で入渠すれば大丈夫みたい。

応急処置として私のを着させてる」

 

「……よく持ってたな」

 

「元々そのものが大きいのよ、それに余ってたしスネークから持ってけって言われたから」

 

流石に艦娘でありビックセブンの一角でもある陸奥だが、見せっぱなしが問題なのは間違いないため白のTシャツを着させている。

へそのチラまでは隠せていないが、大事な部分は隠せている……が妙にそそる点もある。

 

そもそも艦娘たちも個人差はあるものの良いプロポーションを持っている。

陸奥もその内の1人だが、無地のシャツのおかげでいつもある色気から清楚な雰囲気が見られ、

逆に印象的なのだ。

自衛官たちも気に入っており、陸奥本人も気に入り微笑んでいる。

良い年をした自衛官には効果抜群だ!

 

「で、これから鎮守府に戻るのだけれど……」

 

「その為に準備が必要なの」

 

「あのぉ、それでこの自衛官さんたちは一体……」

 

羽黒が再び質問する

 

「今日の助っ人です」

 

「助っ人……ですか?」

 

「俺たちだけじゃ流石に運搬仕切れないからな」

 

「つまり護衛って事?」

 

「イイや、護衛はしない。ていうかこのまま直接帰る」

 

『…………は?』

 

「……すまないがあんた達、この娘たちに説明していないのか?」

 

「ええ」

 

「……大丈夫か?」

 

「大丈夫ですよ、暴れやしません」

 

そんな会話をし始めたエアーと自衛官を隣に見て龍鳳は思いついてしまったらしい。

信じたくないのか、若干震えながら自分の目に前にいるウェーバーに尋ねてしまった。

 

「ウェーバーさん」

 

「どうしたの、龍鳳さん」

 

「もしかして……なんですけど」

 

「うん」

 

「…………私たち、もしかして……落ちるんですか?」

 

「落ちるって言い方は気になるけどね、まぁ降下する」

 

「あっ…………」

 

自分の予想が当たってしまい、完全に落ち込んだ龍鳳。

その様子に気付いた周り、特に軽空母の艦娘が動揺し始める。

 

「アレっ、龍鳳ちゃんはわかったみたいだね」

 

「まぁこれだけ情報あれば想像はつくわな」

 

「一体私たちをどうしてくれるんや?」

 

「……聞く?」

 

「聞かなきゃあかんやろ」

 

意外にも龍驤が聞き手に回った。

とてもフォレストにトラウマを植え付けられたとは思えない、それだけフォレストの腕が良い

という事でもあるのだが。

 

「……まっ時間もあれだしね、これからみんなにはコレを向こうで着けてもらいます」

 

「……それは一体?」

 

「ハーネスとパラシュート」

 

『……………は!?』

 

「安全ロープと落下傘て言った方がわかりやすい?」

 

「……ここから飛び降りるのか」

 

「そうよー高度5000mから一気に降下するわ」

 

『………………』

 

完全に全員が黙った

先ほどまで微笑んでいた陸奥の顔も引き締まっていた。正しくは引きつった顔とも言える。

 

「私たち空を飛んじゃうの!?」

 

「飛んじゃうねぇー 飛んじゃう瑞鳳だねぇー あなた達の航空機みたいに」

 

「けど経験した事ないよ!1人で飛び降りれって言うの!?」

 

「だから助っ人を呼んだのよ。

この人たちは空挺隊員の中でも選りすぐりの方たちよ。

それに今回はタンデム……あぁっと、要するに2人で一緒に飛ぶから大丈夫。

私たちも十分飛べるから安心して」

 

「……えっと……要するに?」

 

「あなた達は乗っかるだけ」

 

「……それなら大丈夫かな」

 

「大丈夫大丈夫、確かに高いところから飛ぶのは怖いけどただじっとしてれば良いんだから」

 

そう言いながら顔が多少笑っているのは絶対怖がらせる気でいるのだろう。

そんなエアーの顔を拝みながらウェーバーが続ける

 

「そういう訳だ、なら全員ここからパラシュートを持っていてドアの向こうに出て行って。

そこでペアと着け方教えるから、それで良いですよね?」

 

「構いませんよ、何かある奴いるか?」

 

『無し』

 

「こっちは問題ない」

 

「じゃあ移動」

 

そう言ってバケツリレーの要領でパラシュートが艦娘に行き渡る。

もらった人から順に後部ハッチの方に向かう、そっちの方が断然広い。

最後にウェーバーら3人がパラシュートをもらう、その時先ほど返事をした自衛官が聞いてきた。

 

「今さらですが経験は?」

 

「俺たちですか?俺とこいつは……まぁ経験してますよ」

 

実戦で高高度降下で10000mから降下をしたとは言えない

 

「私はパラメディック部隊に一時期所属してました、空挺降下ではありませんけど」

 

「……ベトナムでの従軍者ですか?」

 

パラメディック 日本語訳で落下傘降下医

 

ベトナム戦争で採用され、認知度とその実用性が知られた。

要請があり次第現場の衛生兵では対処しきれない重傷者の治療にあたり兵士達の現場復帰率や

回復速度を上げる等の効果を発揮した。発案者はCIA所属の医者だという。

 

フォレストの場合、自分の国の軍隊を脱退しスネークに出会った後あらゆる事を学び習得した。

その過程でパラメディックとして訓練し短期間のみ実働部隊として経験したため従軍した訳ではない

 

「いえ、その時はまだ私は従軍していません」

 

「そうですか」

 

それを自衛官にいう訳もなく、どうとも取れる返事をした

 

「まあ彼女たちとタンデムしても問題ない程度に経験してます」

 

「では降下長はどうします?」

 

「なら私に任せてくれませんか、私が担当するのが長門なので」

 

「あぁ旗艦の」

 

「問題ないでしょう、むしろあの娘たちもそれの方がやりやすいはずだ」

 

「じゃあ降下長はエアーさんで」

 

「エアーで構いませんよ、本名じゃないんで」

 

「パイロット!効果時間まであと何分あるんだ?」

 

《あと30分で降下予定ポイントです》

 

「なら移動しますか」

 

そう言ってドアを開ける

それに続き全員が一列でドアから出て行く

 

「じゃあペア組みますよー」

 

「長門は私と、陸奥はフォレストとよろしくね」

 

「なら後は適当に——」

 

「あっ瑞鳳はウェーバーとね」

 

「何でわたしだけ!?」

 

「被弾したら罰ゲームって言ったでしょ」

 

「……何で俺が罰ゲームするんだよ」

 

「じゃああんたが陸奥を下まで運ぶの?」

 

「………わかったよ」

 

それははっきり言って勘弁してほしい

理由としては格好が……まぁ駆逐艦に毒と言うのもあるが降下時にウェーバーはグレネードランチャーと自身の狙撃銃にパラシュートを背負うため、出来るだけ軽くした方が安全を確保しやすい。

本来ならバイクに置いていく予定だったが深海凄艦に鹵獲される可能性があるため持って来た。

 

もっともたかが数十キロの違いで影響されるほど柔な鍛え方はしていない。

……が、通常以上に気を配るのは面倒であるのに変わりなくそれ相応の労力も必要になる。

要するに陸奥をタンデムする事自体、ウェーバーにとって罰ゲームになる。

 

「ってわたし罰ゲーム受けるの!?」

 

「そうよ」

 

「即答されたっ!」

 

「まあ他の娘はペア作ってね」

 

「無視なの?!」

 

ギャアギャァ騒ぐ瑞鳳を相手にせず、他の艦娘・隊員たちは準備を始める

一方、下の海上では深海から来た潜水艦を相手にしていた。

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

………アレか

周辺に敵影は無い、ソニックアイに反応もない、だが完全にこっちを狩る気だな。

2台とも距離は近く少なくとも回収するときにマーリンと無線で話す必要はない。

マーリンは側車に荷物を入れ、俺は片手にロープを持ち、天龍たちは水中にマイクを入れながら航行している

 

 

「見つけたぞ2時方向。だが周辺に幾つか反応もある。数はわからんが確実に待ち構えているな」

 

「やる気満々ってことね」

 

「……だからと言って俺らが戦う理由は無いからな?」

 

「わかってます」

 

どうだかな

向こうから近づいて来たらグレネードを投げ込みそうだが

 

「そういう訳だ、俺らは攻撃出来ない、お前たち頼むぞ」

 

「任せて〜ウチの仲間を狙った潜水艦を許す気は全然無いから〜」

 

「龍田に同じだ」

 

「わっわたしも長門さんや陸奥さんをいじめたの許せないんだから!」

 

「暁と同意見だ、イジメでなくとも傷つけたのは許せない」

 

「私に頼ってくれて良いのよっ!」

 

「頑張るのです!」

 

「……この4人は大丈夫なのか」

 

天龍が選んだメンバーだが……不安になる。

連れてきた駆逐艦4人は水中にマイクを付けながら航行している……少なくとも響というのは信頼

出来なくないが、他の3人は妙に…………幼い

 

「心配すんな、こいつらこう見えても全駆逐艦の中でも指折りの練度だ。

確かにおっかなそうに見えるかもしれねぇけど戦闘に関して信頼している」

 

「あら〜天龍ちゃんそんな事思ってたの〜?」

 

「っ別に俺は……」

 

「天龍さん、照れてるのです?」

 

「!っイヤだから——」

 

「やったー!天龍さんが褒めてくれたー!!」

 

 

前言撤回だ

子供は少なくとも5人のようだ、意外と天龍は攻められると弱いタイプらしい

その天龍をいい具合に突くのが龍田の立ち回りの様だ

 

「右から魚雷6!進行方向にくるわ!!」

 

雷の言葉で回避に移る

一旦天龍たちとは離れるがどうやら練度の高さは本当の様だ、中々の艦隊運動を6人全員がこなし

完璧に回避し、そのまま爆雷投下態勢に入り始める。

今の話ながら魚雷の推進音を聞き分けたのは慣れからだろう。

 

「俺らはこのままボートを回収する、その後観測に入る」

 

《了解だっ!俺は眼帯つけてても“音は見えない”からな!》

 

《けど自力で片付けるけどね〜そうでしょみんな〜?》

 

《もちろんよ!》

《ypaaa!》

《任せてよね!》

《なのですっ!》

 

「大丈夫そうですね」

 

「だな、なら回収に入る、さっさと終わらせるぞ」

 

「了解です!」

 

そう言って俺とマーリンが彼奴らが乗り捨てたバイクに近付く。

だが向こうも相当馬鹿で無い限り乗り捨てたバイクをマークしている、

もっともここまで派手にやってくれた連中がそこまで無能な訳が無い。

 

先ほど撃って来なかった連中がどう動くかだろう。

その事については天龍たちの方が経験がある、俺は口を出せるほど艦船の戦いは知らん。

今はさっさとこの紐をバイクに巻いて逃げるだけだ。

 

「良いか、さっさと結んで離脱だ。

ソニックアイの表示に注意しろ、必ず向こうは仕掛けてくる」

 

「わかってます、当たったら即死ものですか?」

 

「エンジンに当たれば燃料に直接発火するハズだ」

 

「……即死で済みますかね?」

 

「死ぬな、生きろ、逃げ切ろ」

 

「了解です」

 

《一斉投下!!》

 

『投下!!』

 

無線からは潜水艦に対し攻撃を始めたのがわかる

どうやら爆雷を落としたらしい、数十秒後に無線を通さずとも爆音が響くと同時に水柱が上がった

 

「この隙に行くぞ」

 

「隙があれば良いですね」

 

「それもそうだ、先行してくれ」

 

「カバーお願いします」

 

「ああ」

 

あとおよそ三十秒でバイクに横付けできる。

そして仕掛けるなら………止まった時かその直前だ。

 

周辺を索敵するがまだ反応は無い、ソニックアイがギリギリ機能するのは200m以内までだ。

出来れば反応は出て欲しく無いが。

 

「BOSS、間も無くです」

 

「お前は側車の方だ、俺はウェーバーの方をやる」

 

「周辺に敵反応ありません」

 

「200m圏内はな」

 

「それだけ距離があれば十分です」

 

「そうか」

 

そう言ってマーリンも紐を取り出す

 

「行きます!」

 

バイクを一気に加速、同時にスライドさせ急反転、ドリフトするかの様にバイクは滑り綺麗に回収

するバイクの目の前に停めた。

俺もハンドルを切り目標のバイクの横に停めた、そして仕掛けて来た。

 

「来たぞ」

 

「……前方以外全部ですね」

 

「よし、投げろ」

 

「了解!!」

 

魚雷が丁寧に2時方向から10時方向の9方向から来た、完全に前方へ誘い出して来ている。

 

だがその程度俺らでも考える

 

幸いマーリンはグレネードの扱いが上手い

グレネードを2つ9時方向に投げ沈んでいき………派手に炸裂した、距離は約100m。

その間に紐を結び終えた、マーリンも結果は音で判断できているだろうが聞いてくる。

 

「当たりですか?」

 

「ああ、道が出来た」

 

「いつでもどうぞ!」

 

「ならさっさと帰るぞ」

 

すぐにエンジンを一気にフルスロットルにし速度を上げる。

バイクをもう一台繋いでいるため先ほどより加速力は無いが逃げるには十分、

マーリンの方もこっちと同じ状況らしい、速度が同じだ

 

「マーリン、魚雷は来てるか」

 

「無し!残念ながら感もありません!!」

 

「無くていい、大きく回って天龍たちと合流する、お前は俺について来い」

 

「了解です!」

 

「こちらスネーク、そっちの状況を報告してくれ」

 

《俺だ、いま初撃をかましてきた奴らに攻撃した。そっちは終わったのか?》

 

「ああそうだ、今から援護に回る」

 

《了解だっ!気をつけてくれよっ!》

 

「当然だ」

 

今のところ普通の……まぁ俺が知る限りの知識だが潜水艦との戦闘から一方的な掃討戦に移行している

敵は随分好戦的だがそれもここまでだろう。

すでに一番の攻撃するチャンスだった回収する瞬間は逃し、唯一の攻撃手段である魚雷も相当撃ってしまっている。

 

あとは逃げるしかないがそれも不可能だろう、そうさせる気はない

 

すでにさっき俺らに撃ってきた潜水艦が仮に魚雷を撃っても回避が容易な状況だ、撃てたとしても

発射はしないだろう。

 

ここで右に転舵、遠く周り天龍たちの後ろにつく。

天龍たちはジグザグにランダムに航行し、進路方向を予想できない様にしている。

 

鎮守府から出る前に天龍から説明されたが、基本的に艦娘の対潜装備は爆雷とパッシブソナーらしい

アクティブソナーも無くはないらしいが、数の少なさと慣熟訓練の未熟さ等から索敵はどこの鎮守府でもほとんどパッシブソナーだという。

おかげで無線でも邪魔になるため、俺らと無線のやり取りをするのは天龍だけという事にした。

 

「……BOSS、気になる事が」

 

「なんだ」

 

「この周辺海域って対潜ネットを張ってあったんですよね?」

 

「網をカッターか何かで切ったんだろう。

相手の潜水艦は人型らしいからな、最も手があるかは知らないが」

 

「いえ、入って来た方法がわからないのでは無く、何故攻撃してきたかです」

 

「…………お前も気になるか」

 

「BOSSもですか」

 

「まあな、だがそれは丘に上がってからで構わん、今は処理だ」

 

「周辺 警戒します」

 

「そうしてくれ」

 

まぁこいつがヘマをする程死にたい奴では無いのも知っている。

それより上の方が気にはなるが………あっちはウェーバーにフォレストもいる。

エアーがふざける可能性もあるが問題無い、バカをする程リミットを外す奴でも無い。

 

……さて、第二段階か

 

「天龍、お前たちの真後ろに着いた、間も無くそっちに合流する。

そっちは何隻か補足しているのか?」

 

《……生憎だが、こっちはあんたらが魚雷を撃たれた時の魚雷注水音しか捉えていねぇ。

向こうはもうどっか行っちまったかもしれねぇ》

 

「発信源はわかるか」

 

《んっ、距離は詳しくはわからねえけど方向ぐらいなら》

 

「十分だ、そこに誘導してくれ。そこからは俺らが索敵する」

 

《了解だ!俺らの後ろに来てくれよ!》

 

「頼んだ」

 

向こうはジグザグに動いていたが大きく転進、別方向に向かう。

さすがに堂々とショートカットする訳にはいかない、流石にジグザグには動けないが同じ様な軌跡で天龍たちの後ろを着いて行く。

 

聞こえるのは主にバイクのエンジン音と多少の波、あとは呑気に鳴く海鳥ぐらいだ。

この光景だけなら平和そのものなんだろうが……海中に敵がいると思うとこっちは呑気に成れない。

燃料もチェックしたが、全速力であと30分は行動は可能だ。

マーリンも満タンだと言っていた、問題無いだろう。

 

……こうなると本当に暇だ、だが気を緩める気にもなれん

 

《ここら辺だ、それ以外何もわからねえ。

暁たちが今も聴音機で聞いてるが………あんまり芳しくねえ》

 

「わかった、すまんがそこに俺らが着いたら俺らの周辺を距離をとって警戒してくれ。

あとは勝手に見つけてくれるハズだ」

 

《わかった》

 

「マーリン、バッテリーは大丈夫だな?」

 

「ええ、索敵できます」

 

「着き次第すぐに着ろ、後ろの荷物にも気を付けろよ」

 

「了解」

 

そう言っているうちに天龍たちの言う場所に着いた

エンジンを止め、後ろで引っ張ってあるバイクを急いで手で停める

 

「距離をとってくれ」

 

《わかった》

 

「マーリン、さっさと片付けるぞ」

 

「あいさー!」

 

今俺らは眼帯の様に機械を付けている。

このソニックアイは音を視覚化しその音の発生源の距離を表示する。

だがこいつは本来隠密潜入時に壁の向こう側の把握を可能にするものだ、海上での運用は想定されていない。

 

何より海上では音が多すぎる、雑音ではないが波やエンジンの音によってソニックアイが機能せず

本来の目的である潜水艦の捜索は不可能だ。

仮に不可能でなくとも有効範囲は“普通”では200m程だ、見つけやすいだろうが時間がかかる。

何よりその間に情報を与えることになる、あいつらが降下してくるまでが勝負だ。

 

だから“普通じゃない”使い方をする

……ティムにはしばらくこいつの改修に専念してもらう

 

「準備出来ました!」

 

「やれ」

 

普通じゃない使い方は簡単だ。

このソニックアイは周りの音の“変化”を視覚化すると言った方が正しい。

事前に周辺の音を設定し、別の音や突発的な音が聞こえると視覚化され距離がわかる。

本来なら場所によってわざわざ設定をいじる必要は無いがエンジンによって常に近距離に表示される

 

そのため、今から設定を変え潜水艦の駆動音を探せる様にする。

有効範囲は双眼鏡の指向性マイクを無理やり装着させ効果を増大させる。

 

これをやるのは数十秒でできるが直すには……まぁティムに任せる

 

「出来ました!」

 

「再起動しろ、俺の方は上手くいった」

 

「……こっちも問題ありません、天龍たちのエンジン音も表示されてますよ」

 

「海面下に反応はあるか」

 

「……ネガティブ、反応なし」

 

《見つけた!今から投下する、爆音に気をつけてくれ!》

 

天龍から無線が入る。

聴音機ならその配慮は不可欠なんだろうが俺らにはあまり問題ない、表示が溢れるだけだ。

 

「マーリン一旦外せ、向こうに合流して索敵だ」

 

「了解です!」

 

その瞬間再び水柱が立つ、遅れて爆音がこっちにも届く

 

「聞こえるか、今そっちの合流する。何か浮遊物はあるか?」

 

《…………》

 

流石にすぐは聞こえないか、まあいいすぐに合流できる。

 

「すごい音ですね」

 

「潜水艦とはいえ水中で金属に穴を空けるためだ、それ相応の炸薬量にはなる。

まぁ効果がそれと釣り合ってるとは言えないがな」

 

ヘッジホッグならまだしも爆雷は命中率が低い。

何せ爆圧で潜水艦の耐圧殻を破壊するだけだ、近くで炸裂しても破壊しきれない事もある。

 

「おい天龍何か浮遊物はあるか、俺らはお前らの真後ろにいるんだが」

 

《おお結構近くにいるな。

いや今のところ部品なんかは……待てよ………浮いてきた!油だ!》

 

「少し待ってくれ、もうすぐ着く」

 

実際、その浮遊してきた油も見える

駆逐艦の4人はその周辺を警戒してその周りを回っていた

その回っている4人の間を抜け円の中心に入り、そこに立っている天龍と龍田と合流する

 

「待たせたな、これか」

 

「おいおい、あぶねえぞ」

 

そう言って天龍が俺の後ろにつなげてあったバイクを停める

 

「すまんな、忘れていた」

 

「いや忘れるなよ……」

 

「それで〜これで終わりかしら〜?」

 

「マーリン、どうだ」

 

「………………」

 

マーリンの方は龍田が停めたらしい

それよりマーリンが油を見て険しい顔をする

 

「……ねえ龍田 他に浮遊物は無いの、敵の部品とか」

 

「無いわね〜それにもう音もしなくなってるわ〜。

今も警戒して暁ちゃんたちにやらせてるけどぉ……今のところ特には無いわね〜」

 

「だとしたらおかしいわ」

 

「……どういう事だよ」

 

「まず油が重油じゃない、これ多分ガソリンか軽油。それにこんなにサラサラした軽い油を敵の

潜水艦が使ってたとして、量が少なすぎ」

 

確かに海面に浮いている量そのものは多い

だが以上も6隻もいた潜水艦の量とも思えない

 

「いくら人型になって普通とサイズが違うにしても搭載量から考えてもおかしい」

 

「けど、もう反応がねえぜ?」

 

「……逃げるためか?」

 

「でしょうね、でなければわざわざ油を流す必要も無いですし」

 

「けどさっきここから反応があったぞ」

 

「空気をわざと抜いたんじゃないかしら。

みんなの聴音機に反応が無いのは説明つかないけど……」

 

「今からわかる」

 

ソニックアイを起動する。

…………………3隻か

 

「ビンゴ!正面見て1時の方向、距離600m深度約30m!」

 

「っおい!」

 

「はい はい」

 

一気に速度を出し、2人が潜水艦の居る場所へ向かう。

それに連れられ周回していた4人も綺麗に続く、やはり練度は確かなものらしい。

 

「あと距離500………400…………300…………200……………………いま!」

 

マーリンが無線で指示しタイミング通りに6人が爆雷を投下、同時にマイクのプラグを抜いた様だ。

ソニックアイでも爆雷の投下を確認できた、どうやら進行方向と左右に撒いたらしい。

 

そして海面下30m付近で突然大きい反応が出た

 

一瞬遅れその反応があった真上で柱が出来る

 

《やったか?》

 

「まだわかんない、ちょっと待って……」

 

結構な量を投下したらしく、海面下はいくつも反応がありどれが潜水艦のものかわからない。

だが次第に反応数は減っていき、遂には何も無くなった。

 

「マーリン」

 

「反応なし、特には無いです」

 

《こっちは油がまた浮いて来たぞ、今度はさっきの比じゃねぇ量だ》

 

「マーリン、移動しながら確認してくれ」

 

「了解ですBOSS」

 

先ほどまで海面下に反応があった場所に向かう。

同じ様にその周辺を駆逐艦の4人が警戒し、中心に天龍と龍田の2人が立っていた。

今度はバイクを忘れず、後ろに手を伸ばし、停める。

 

「今度はどうかしら〜?」

 

「……うん、重油みたい。少なくともさっきと違う」

 

「反応はどうなんだ?」

 

「待って…………無いね、多分これ以上は見つけられないと思う」

 

「お前たちの撃破判定はどうなっているんだ」

 

「……本当の事を言うと、さっきまで何かまだいる感覚はあったけれどもう無いわ〜」

 

「感覚?気配じゃ無いのか?」

 

「何つうか、俺らは奴らがある程度近くにいるときは大体わかる。けどあんまりこの勘を当てにするわけにもいかねえからな」

 

「それで、撃破したって事で良いのか?」

 

「響ちゃんはどう思う〜?」

 

「……もう大丈夫だと思う。気配もしないし反応もない」

 

「だって」

 

「なら撤収だ、長居する理由も無いからな」

 

「それにそろそろ帰って来ますよね?」

 

「ああ、場所はグラウンドだそうだ。日本のチューパーの腕を見てみたいしな」

 

「ん?“ちゅーぱー”って何だ?」

 

「知らないのか?」

 

「おう」

 

「……どう説明すれば良いんだ?」

 

「ええっとね………そうそう、パラシュートはわかる?」

 

「ああ落下傘の事か?」

 

「それそれ、その落下傘を使う人たちの事を英語でパラチューパーとかパラシューターとか言うの」

 

「……あれ〜それって〜皆が飛び降りるって事〜?」

 

「そうだが」

 

『・・・えっ』

 

「どうした?」

 

「……飛んでから落ちるのか?」

 

「おいおい落ちるとは何だ、降下するんだ。落下して死ぬわけじゃ無いんだ」

 

「けどー落ちていくのよね?」

 

「まぁ落下傘って言うくらいだからねぇ」

 

「……大丈夫なのか?」

 

「大丈夫だ、少なくとも自衛隊が寄越してくれた連中は問題無い」

 

「……あんたの部下は?」

 

「場合によっては刺激が強いかもしれん」

 

「……マジか」

 

「ああ」

 

「………帰るか」

 

「マーリンさん、訓練に参加した皆さんはどうやって帰ってくるのです?」

 

「それはねぇ雷ちゃん」

 

「電なのです!」

 

「私が雷よっ!」

 

「……それはね雷ちゃん、空からパラシュートで降りてくるんだよ」

 

「何か面白そうなのです!」

「確かにね!私もやってみたい!」

「わ わたしもやってみたいわ!」

「……私は遠慮しておく」

 

「ほらっもうさっさと帰るぞ」

 

「マーリン、帰還するぞ」

 

「ほらっみんな、気緩めないでね」

 

「そうよ〜早くしないとお菓子あげないわよ〜」

 

『はーい』

 

随分さっきと印象が違うがしょうがないだろう、何せ見た目通りの年齢の少女だ。

………菓子で釣られるのは流石にどうかと思うが。

ここから帰りまで大体20分くらいか、間に合うと良いんが……少し厳しいか。

 

「すまんマーリン、俺は先に帰らせてもらう」

 

「構いませんよ、バイクもエンジン切っておいてくれれば後はやっておきます」

 

「すまんな、頼む」

 

そうと決まればさっさと帰る

今から飛ばせばギリギリ間に合うだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《降下10分前》

 

「では行きますか、全員立て!」

 

降下長となったエアーが全員に命令する様な口調で発する。

すでに隊員やウェーバーたちによって支度された艦娘たちも元をたどれば軍関係者とも言え、

やはり反射の如く起立、そして綺麗に一列に並んだ。

 

「今から降下準備に入るわ、各自ペアを組んでタンデムになって」

 

「かかれ!」

 

だが、エアーがいくら空挺降下の経験があり降下長になったとはいえ自衛隊のやり方と違うのは

仕方が無く、どうにもならない。

そのため、今回来てもらった隊員にある程度補佐してもらっている。

最も全員今回の訓練に参加しているだけあり、ある程度寛大でありベテランのため全員がエアーの

命令に従っている…………ウェーバーとフォレストが若干笑ってはいるが。

 

 

さて、全員がハーネスを繋ぐ間に今回の状況を説明しよう。

 

 

読者の中には

「いやいや、何で部外者のエアーが自衛隊の空挺団の訓練で降下長になれんだよwマジ無いわ〜」

と、思っている人もいるかもしれない、そうでなくとも違和感があるだろう。

 

だがこの訓練がそもそも企画外で規格外なのだ

 

と言うのも、この訓練の発端は提督が記者会見の後、陸上自衛隊の広報官を経由して計画した訓練だ

提督の一番の目的としてはフルトン回収訓練の継続にある。

何せフルトン回収は天龍との会話にもあったよう、艦娘の作戦の選択肢を増やし、戦術の幅を格段に広げる。だが、前回の訓練では基地に着陸した後の帰投中に襲われてしまった。

このままでは大本営から許可が下りる訳がなく、彼女たち本人が進んで訓練に参加しようとしない。

 

しかし忘れてはいけない、提督は妖精が見えるくらいの変人なのだ

 

そして、普通考えもしない発想にたどり着く

「……なら着陸せずに直接鎮守府に戻って来れば良いじゃないか」と。

その結果、自衛隊員らによる空挺降下とタンデム飛行にまさかの許可が降りたのである。

 

だが困ったのは隊員を選出しなければいけなくなった陸上自衛隊である。

訓練とはいえ、本来訓練とはあくまで“隊員のため”の訓練。

艦娘に協力すること自体は何の問題も無いのだが、“タンデム”と言うのが問題だった。

 

理由はいたって単純だ、これは空挺降下では無くスカイダイビングになる

 

タンデムで降下できる隊員は集めればインストラクターの資格を持っている奴もいる。

しかしそれはもはや軍事行動とは程遠く、上層部は面子が潰れやしないか不安だった。

 

だがそれはあくまで“上層部”のみが心配している事だった。

むしろ担当するかもしれない隊員たちは司令室に呼ばれ、団長から直々に話を聞いた時舞い上がった

何せあの(少なくとも隊員達が元気になる位に)可愛い艦娘と一対一でタンデム飛行、

しかもリードしろとのご命令である、士気どころか元気になるのも無理はない。

 

そこまででは無くとも航空自衛隊の輸送部隊も似たようなもので、近頃中々飛ばさせてくれない

空を飛ばせてくれる艦娘の存在は大変有り難いものだった。

結果、現場ではトントン拍子に話は進んでいき、書類も急ピッチで用意され、もう断るどころか

訓練を止める事自体が不可能になった。

 

それでも流石に若い隊員達がその………余りにもアレだったため、基地司令の命令により

参加する隊員はインストラクターの資格を持つベテランだと“宣言”された。

これにより鎮静化は上手く図られ、さらに若い隊員達が今まで以上に必死の訓練に取り組むように

なるというオマケまで付いてきた、目指すは「あの娘とタンデム飛行」らしい。

 

 

さて、そんな背景がある為厳密には「スカイダイビング協会の会員達がタンデムで飛ぶ」ため

機内にいる自衛隊員達は迷彩服は着ているが武器は一切持っておらず、空挺傘では無くスカイダイビング用のカラフルな傘である、装備も精々20キロもいかず軽い。

 

もはや色々と陸上自衛隊としては訓練では無く、特殊訓練とも合同訓練とも言えた。

結果的には鎮守府所属の艦娘たちが何かした事で処理する方向に上層部も落ち着いた。

隊員達もその事は十分に理解しているため、出来ればウェーバー達に降下長をやって貰えれば尚更

言い訳が立つため有り難いのだ。

 

要するに訓練する理由は艦娘の訓練・強化なのだが、色々とあり過ぎて何でもありになっているのだ

 

 

「主傘外形良し、自動索環良し、安全ピン良し、閉鎖ループ良し、枝索良し、背帯良し、

肩部離脱器良し、V型調整管良し、胸帯良し、携行袋良し、離脱器安全栓良し、腹帯吊りフック良し、

予備傘外形良し、予備傘封印良し!」

 

「問題ない?」

 

『なし!』

 

「環かけ!」

 

基本的に言語が違うだけであって、やる事は同じだ

専門的な事を抜きに説明すれば降下前に行うのは全員の器具・装備の安全点検と指示通りに動く事だ

 

もっとも、どんなに点検しようとも100%安全が確保できる訳ではない、

だがそれで怯えていては何も始まらないため何となく“安心感を与える”訓練を事前に行う。

 

具体的には恐怖を緩和する訓練だ。

要するに高所から飛ぶ事を何度も高所から飛び降りさせ無理やり体と精神を慣らさせる。

何度も反復し点検した後に飛ぶことで点検すれば安全だと思い込む。

無論時間もかかり、知識も度胸も必要なため専門的な指導・訓練が必要だ。

 

最終的には自己暗示の様に仕込まれ、安全が確認されればもう大丈夫なんだと思うようになる。

というかそう“思える”ように仕込まれる。

そして言われた通りに行動する。

 

機内に物干し竿のように張られている繋止索と言われるところに、

各自の落下傘から伸びている自動索環を引っ掛け握る。

この紐が降下時にそれぞれが背負う落下傘を引っ張り出し、空に華が開くのだ。

 

「装備点検!」

 

ここで再び装備の点検、この点検が最後のチェック項目となる。

本来なら最初の点検は地上で行われるが、今回は内容が内容のため機内で行われている。

 

最終確認は周辺の人間と共同で行う

まず自分の見える範囲を「いち、にぃ、さん、しぃ………」と数えながら点検し、

終わったら背後に立つ人間の装備も点検する、コレは本人の見えない背面の装備も見る。

問題が無ければ本人に知らせる。

コレを最前列まで繋げ、最終的に一番前にいる降下長エアーに知らされる。

 

「全員異常無し!」

 

「ご苦労。

…………さて、ここまでは硬くやって来ましたがこの後は自由で。ウェーバー!最後は頼んだわよ!」

 

「ウィ」

 

「……何でフランスなのよ」

 

「それより、後は自由ってどういう意味だ?」

 

「派手に行くって事よ?」

 

「待ってくれエアー、派手にとは一体どういういm」

 

エアーの膝に乗っていた長門の声は最後まで言葉にならなかった

 

いや違う

 

言葉が“聞こえなくなった”のだ

 

《後部ハッチ開きます》

 

マイク越しの特徴的なアナウンスと共にC-130の後部ハッチから光が差し込む

 

ゴォーゴォーと風が機内に吹き荒れる

 

「寒いわー」

 

陸奥が呑気にそんな事をいう。

それはそうだ、高度が上がるごとに当然ながら気温は地表と差が激しくなり、

さらに今は風が吹いている。

高度約3000mで時速500kmで飛ぶ輸送機に流れ込む風速を考えると、地表との体感気温の差は

マイナス10度〜20度はあるだろう。

 

幸い、と言って良いのか彼女は艦娘であり人ではない。

普通なら凍傷ものだが、とても肌寒く感じるだけで特に問題はないらしい。

………服装が一番の原因だとは思うが。

もっとも流石にスカートでやるには見た目としても、ロープと絡まる危険性としても危ないため

艦娘全員にウィンドブレーカーが支給されている。

 

「この位置まで前へ!」

 

『えっ!?』

 

まさかの搬入口から飛び降りるとは思わなかったらしい。

実際、先ほどまでは機体側面に設置されているドアから飛び降りる予定だった。

……が、エアーの提案で「怖い思いをさせるなら徹底的に」やる事になった。

 

《降下1分前》

 

「全員聞いて!」

 

エンジンと吹き荒れる風の中でエアーは声を荒げる。

実際その声が聞こえているのがスゴイところだ。

 

「今から降下して鎮守府に帰投するわ!

降下中は絶対に隊員の手は握らないこと!握るならハーネスね!!」

 

『はいっ!!』

 

ここまで来てしまってはもう後戻りは出来ない。

ここにいる艦娘は全員が巡洋艦以上、泣きべそをかきながら帰ることは自身のプライドが許さない。

……駆逐艦の娘たちは身長的な安全基準を満たせなかった訳だが。

 

「全員よく聞けっ!

これより彼女たちを鎮守府へ送り届ける!・・・快適な空の旅を提供してやれ!!」

 

『おぉっ!!』

 

「待てっ!?快適な空の旅とはいっt」

 

《青!》

 

再び長門の声は消される

 

降下灯が赤から青に変わり、ベルが鳴り響く

 

《投下っ!投下っ!投下っ!》

 

先頭を行くエアーが動く

 

風やエンジンの音よりカンッカンッという音が長門には印象的だった

 

その音と同時に視界が広がって行くのだ

 

一歩ずつ

 

一歩ずつ

 

青空が広がっていき

 

さらに下にも

 

青く広い

 

綺麗な海が見えた

 

屈伸から足を揃え

 

重力のなすがままに

 

エアーの体が傾き

 

機体から離れ

 

頭から

 

海へ

 

そして鎮守府へ

 

 

「うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」

 

「……行きますよ」

 

「ふふっ どうぞよろしくね〜」

 

長門(?)の大絶叫を聞いてすぐ、今度はフォレストの膝上に乗っている陸奥が降りていく。

フォレストは後部ハッチで深呼吸した後、スッと飛んで行った。

 

「……さて、我々も行くぞ!」

 

ここから次々に、まるで通勤ラッシュ時の電車の様にどんどん降りていく。

トンットンットンッと次々降下していく

 

「お先、失礼するぞ」

 

「ええ、すぐ追いつきますから」

 

そう言って最後の自衛隊員が降下して行った

残ったのは瑞鳳…………つまりウェーバーである

 

「うっウェーバーさん?何で私が最後なの?すごく怖い……」

 

「………………」

 

実際先ほどまで26人は居た人間はもうすでに空を漂っており、残っているのは航空自衛隊の輸送員

だけだ。虚しく どこか恐ろしく感じなくもない

 

「・・・ウェーバーさん?」

 

「……じゃあさっさと鎮守府に戻るか?」

 

「ウンウン!さっさと戻ろう!すぐに戻ろう!!」

 

そうか……、とウェーバーが答える。

同時に後部ハッチを背にし、輸送員に体を向ける。

 

「お世話になりました」

 

相手の表情は硬かったが、軽く頷き敬礼を返してくれた。

それを見て一瞬瑞鳳の緊張もほぐれ、顔が微笑む。

 

ウェーバーも2人の顔を見て少し笑う

 

いや口角を自慢するかの様にあげる

 

日本式の敬礼を返し、そのまま後部ハッチへ移動する

 

そのまま後部ハッチへ移動する

 

そのまま

 

そのまま

 

後ろ向きのまま移動して行く

 

さらにそのまま加速

 

「へ?ヘッヘッヘ?へへへぇぇえ!?」

 

かかとが空に浮き

 

一瞬停止

 

輸送員の顔を見た後

 

瑞鳳の首に軽く腕を回し

 

後方回転しながら降りて行った

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

随分派手に飛び出したな、乗っかっているのは…………だめだ、わからない

一番最初に飛んできたのはどうやら長門らしい、いくら長袖・長ズボンでもあのメンツでは黒い長髪はよく目立つ。

その長門の後ろに続いて色鮮やかなパラシュートが開き、微調整しながら私のいる鎮守府のグランドに来ている。

 

「あら、瑞鳳ったらウェーバーさんにサービスしてもっらていますね」

 

「……あれを見てよくサービスと言えますね鳳翔さん」

 

「何をおっしゃっているのですか提督、アレは貴重な体験ですよ?」

 

「いや確かに中々経験できる事では無いが——」

 

「そういう意味では無くて、私たちが同じ様に空を飛べる事ですよっ」

 

「……どういう意味です?」

 

いつもと違い、純粋な興味で言っているらしい。

確かに空を飛べる事は貴重だろうが…………

 

「鳳翔さん、同じ様にとは一体?」

 

「わかりませんか?」

 

そう言って弓道場の方に指を差した。

その方向には・・・加賀たちのだろうか、艦載機が見えた。

 

「……なるほどな、確かに同じ感覚を少しでも味わえるのは良い事だな」

 

「ですよね!」

 

……鳳翔もこんなにはしゃぐ事もあるんだな。

だがそれを言ってしまっては2度と見れそうも無い、このまま堪能するとしよう。

 

「何だ、お前もここに居たのか」

 

「あらっスネークさん!」

 

「……鳳翔、何かいつもと違くないか?」

 

「少し興奮してますっ!」

 

「……そうか」

 

「それよりスネーク、潜水艦はどうなった」

 

「天龍から無線で連絡は来てないのか?

まぁいい、さっき決着が着いたが何隻か逃げらたかもしれん、本人たちは手応えがあった様だが……」

 

「なら問題無い、艦娘の感覚は人間の感覚とは別のものらしい。

直感や気配に関しては人間のそれではないらしい」

 

「ただし海上での艤装展開時のみ、だがな」

 

「……けど、響ちゃんや雪風ちゃんなんかは丘でも勘が鋭いですよね?」

 

「それは響だけしか見ていないから何とも言えんが、海上とは比にならん。

あれだけの集中力をこっちで出せないのが俺には理解できんが」

 

「理解できたら良いですねっ」

 

「それも本人にはわからない、か?」

 

鳳翔はニコッと笑い、再び上空の華を眺める。

……だいぶ近づいて来たな

 

「そろそろだな、一旦端に寄るぞ、ここは邪魔だ」

 

「そうか」

 

そう言ってスネークはグラウンドの後ろに歩いていく。

それでも上空のパラシュートからは目を離していなかった、恐らく安全の確保だろう。

 

「……アレは急降下する気だな」

 

「何だって?」

 

「いやいい。それより、まずはお前の所の戦艦2人だ」

 

「・・・アレは・・・長門さん?」

 

鳳翔が疑問視するのも無理はない、普段どころか非常時でも絶対に見られない光景が見えているのだ長門は・・・・・・頭から項垂れていた。

いつかの…………扶桑じゃないよな?

 

そんな長門を乗せているエアーがグラウンドに滑り込む様に滑空して来た。

最後は地面ギリギリでフワッと浮き上がり、地に足を付けた。

 

「久しぶりと言ってはいたが問題ないな」

「そうなんですか?」

 

「それよりあっちの心配をした方が良いんじゃ無いか?」

 

スネークの言う通り今は長門の心配をした方が良さそうだ、いやしなければならないだろう。

何せ異常にグッタリしているのだ、顔色も悪い、こんな長門は見た事が無い。

すぐに鳳翔が駆け寄ろうとする。

 

「待てっ!後続が降りてくる、行くなら遠回りして行け、危険だ」

 

「えっ?……あぁわかりました」

 

そう答えて鳳翔は長門の方へ駆け寄っていった

 

「……あんな事もあるんですか」

 

「あそこまでは普通行かないが…………エアーの奴が何かしたかもしれん、

単に慣れていないそれだけだ。彼女たちも人間では無いにしても同じ本能は持っているんだろう」

 

「本能……一体どんな?」

 

「高所への恐怖、死を直感し回避する能力」

 

「…………なるほど、いくら軍艦とはいえ高い所から落ちれば壊れるか」

 

「長門の様子から考えられるのはその拒絶だな。

勝手な想像だが、あいつは飛んでる最中の記憶は無いだろうな」

 

「それで……大丈夫なのか?」

 

「心配するな、最初はああかもしれんが時期に慣れる。

個人差はあるが、少しずつ、勝手に慣れていく……………まぁ中にはああいう例外もあるがな」

 

「ん?」

 

例外とスネークが言った先には陸奥が降りて来ていた。

その顔はさっきの長門とは打って変わって極めて元気だ、笑顔でこちらに手を振っているぐらいに。

 

「ああ言うのはストレスに強い、過度な緊張状態をむしろ楽しむ、少なくとも周りはそう見える」

 

「あぁ……確かに」

 

陸奥は長門の妹としてうちでは姉と並ぶ最大火力を誇る。

運の値は全艦娘でも一位二位を争う最低値ではあるものの、前線に出ると若干冷静さを欠き

無理やり力押しで勝ちに行く長門とは違い、常に笑い、かつ冷静に戦闘をこなす。

 

周りを引っ張るためなのかは本人にしか判らない

だが少なくとも深刻な顔の陸奥は今まで……一度しかない、戦闘時も鎮守府での雰囲気と同じらしい。

 

「あのタイプは珍しい……まぁ長門もだいぶ珍しいが大体は最初気分が悪くなるか良くなるかに

分かれる、今回は限りなくスポーツに近い、嫌いにはならないだろう」

 

「そうか……とりあえず事後報告をまとめ無ければ……」

 

「デブリーフィングか」

 

「まぁ英語では」

 

「場所は何処でやる?」

 

「流石に私の部屋では狭い、講堂が良いでしょう」

 

「……それより長門と陸奥の具合だろ」

 

「っ鳳翔!長門の具合はどうだ?」

 

「すぐに入渠した方が良いですね、主に精神面で。

陸奥さんの方は怪我はしてますけど応急手当されてますから緊急性はありませんね」

 

「なら連れて行ってくれ、報告は後で別で聞く」

 

「わかりました、なら行きますよ」

 

「・・・ーーー・・・」

 

なにか長門が言っているようだが…………全くわからない

モールス信号か?

 

「何か言ってるみたいだぞ」

 

「ああ、だが私にはわからない」

 

「大方『私は旗艦だから』か『私が先に帰るなど……』みたいなものだろう。

あいつはリーダーだ、多少嫌がる。まぁどうにもならん、本人もそれを理解してるだろうがな」

 

「そう……なのか?」

 

「アレは意地を張るタイプだろ?」

 

「……ああ」

 

私は一年間近くこの娘たちと仕事をして来た。

…………だが目の間の男はまだたった一ヶ月しか一緒にいない、全員とやっと会話した位だろう。

 

 

それなのに個人のタイプまで見切っている

 

 

いくらプロの……いやプロという言い方もどうかと思うが……傭兵はここまで凄いのか?

それとも私が……………

 

「・・・あのなぁ俺が今言った事は経験則から言った物だ、

お前がこいつらを面倒見きれていない訳じゃない、まさか自分が未熟だと思ってか?」

 

「……………」

 

「まぁ未熟だが」

 

「ええ!?」

 

「いくら何でもお前は俺より若い、それだけ人生経験は違うだろう。

だができる事はしてやる、俺はよくわからん奴らに滅ぼされたくは無いからな」

 

「………………」

 

この男の発言に……何故だろうか とても安心した。いや、力がみなぎって来た?

とにかく何か力をもらったような気がした。

確かに言う通りだ、そう信じよう。

 

・・・さてと、長門は入渠しに行った。

自衛隊員に乗っかりすでに半分以上が鎮守府に戻ってきた。

残りも続々と着地して行く。

 

『ただ今帰投しました』

 

「おう、随分と厄介なことになったな」

 

「本当ですよ……」

 

パラシュートの片付けが終わったのかエアーとフォレストの2人がスネークの元に来た。

陸奥は2人に向かって笑いながら手を振っている。

さて、まずは話を聞きたい

 

「お二人共、すまないが先に簡単に報告してくれ」

 

「だそうだ、フォレスト」

 

「では私から。

怪我人は長門と陸奥、2人とも敵潜水艦の雷撃を受けました、うち陸奥は本に曰く中破との事です。

機内で手当したので命に別状はありません、怪我も本人の艤装の破片がいくつか刺さった程度です」

 

「じゃあ次は私ね。

後から彼女たちが説明してくれるとは思うけれど、訓練終了まであと5分を切ってすぐでした。

6本の魚雷が私たちの方に来ました。すぐに交わしましたが、その後10本近くが放たれました。

そのうちの3本が長門と陸奥に命中しました、もっともそのおかげで瑞鳳たち軽空母のみんなが

助かりました」

 

「ご苦労、詳細は追って彼女たちと一緒に私に説明してくれ」

 

『了解』

 

「……ところでエアー、何故長門はあそこまでひどい状況なんだ」

 

「単純に怖かっただけだと」

 

「お前頭から突っ込んでしばらく急降下しなかったか?」

 

「? 普通じゃないですか」

 

「まぁ俺らからすればな、だがそれは銃口を素人にいきなり向けるような物だ」

 

「そんなに怖いんですか?」

 

「まぁただ単に高所恐怖症なだけかもしれんが」

 

「それはありえませんね、だとしたらフルトン回収時点でもう発狂してますよ。

ただ単にいきなりの降下がキツかっただけかと」

 

「じゃあ何回もやれば普通に飛べるわね」

 

「誰でもそうよ、私が治療すれば——」

 

「効果あるでしょうけど何か嫌よ」

 

「少なくとも長門は問題ないんだ、お前が仕事をする必要は無い」

 

「それをする程の重症患者だったら困るぞ私は」

 

長門がそんなんだったら色々と終わっている、他の世界じゃどうだが知らないが。

だがうちの長門は強い、今回の訓練から何か得るだろう、そうでなくては困るぞ。

 

「大丈夫ですよ提督、深海凄艦相手に対等に渡り合えるんですから柔なメンタルではありません。

それは私が保証します」

 

「他も問題なさそ————待って、何でウェーバーはまだあそこに居るの?」

 

「確かに……おかしいわね、上昇気流にわざわざ乗ってるわ」

 

「……そんなにおかしいのか?」

 

「おかしいです。

ここからだとわかりにくいですが、全員が降りてきたルートとズレています。

それに陽が当たっている、要するに上昇気流が発生している場所へズています」

 

「……つまり?」

 

「意図的に降りてきていない、そういう事だ」

 

「ワザとか?」

 

「ああ」

 

一体…………何故?

 

「おいエアー・・・お前何かあいつに言ったか?」

 

「…………」

 

「言ったのか?」

 

「…………」

 

「……提督、担ぐ準備しておけ」

 

「はっ?」

 

「瑞鳳を担ぐ準備だ、念のためにな」

 

「……一体何が始まるって言うんです?」

 

「……急降下だ」

 

「……というと?」

 

「見ていればわかる、フォレスト」

 

「バック持ってきます」

 

少し慌ただしくなって来た

先ほどまで自分のパラシュートを片付けていた隊員たちの方も急いでパラシュートを巻き、

一旦端に寄り上空を見ている。

 

「何企んでんだぁ?」

 

「わかりませんよ、面白そうですけどね」

 

「おい君達!あぁ・・・あっちにいる提督の方に集まれ」

 

自衛官の1人が声をかけ、降りて来た娘たちをこっちに誘導した。

実際その方がお互い気楽だろう。

 

「て提督!瑞鳳はどうなっちゃうんですか!?」

 

「落ち着け祥鳳、時期に降りて来る」

 

「けど他は全員降りて来たんですよ!」

 

「大丈夫だ、あと30秒後には地に足をついている」

 

「そうなのか?」

 

「始まるぞ」

 

スネークの言葉で全員が上を見上げる

まるで艦載機が旋回しているようにグルグルと上空を回っているが……………旋回が止まった?

そのままパラシュートは右に傾き段々と地面と体が……水平になって行く!?

おかげでパラシュート本来の役目を果たす事なくただ横になっている。

空気抵抗もほぼ発生せず、パラシュートが膨らんでいない。

 

「あれじゃ地面と激突しちゃうわよ!?」

 

「スネーク!」

 

「大丈夫だ、あいつは経験豊富だ」

 

「けど瑞鳳が!!」

 

その間にもどんどん加速して向かってくる、減速する様子は全く見えない!

何かのトラブルじゃ無いのか!?

 

「スネーク!!」

 

「瑞鳳の顔は笑ってるぞ」

 

『えっ』

 

再び上空を全員が見上げる。

………私の視力では近づいて来ている事しかわからない

 

「ほんとうだ……」

 

「確かに笑ってます……」

 

「問題ない……の?」

 

「あと5秒」

 

スネークがそう言う

だが5秒後にはもう地面にぶつかりそうだが?

 

5

 

「安心しろ」

 

4

 

「ギリギリだが」

 

3

 

「空中で止まる」

 

2

 

 

 

1

 

 

ここで急激に振り子の様にウェーバーと瑞鳳がパラシュートを軸に揺れる。

同時にパラシュートも本来の役割通り空気抵抗を受け膨らむ。

 

先ほどまで急降下していた2人が突如“浮いた”

そして先ほどの隊員と同じ様にゆっくりとそのまま降りて来た。

 

瑞鳳の顔は………笑ってるぞ、おい

 

「なっ、大丈夫だと言っただろ?」

 

「・・・心臓に悪い」

 

「ほんとうですよぉ……」

 

全員がグダァと体の力を抜く

なんか……作戦を指揮している時よりも疲れた気がするんだが…………

 

「……しかし何故あんな事をしたかわからんが」

 

「……瑞鳳に頼まれたのかもな」

 

「……どういう事です、提督?」

 

「いや鳳翔からの請負だがな、鳳翔自身は今回のこの訓練に参加しているお前たちを羨ましがって

いてな、空を飛ぶ艦載機の妖精たちと同じ気持ちに成れると言っていた。

同じ気持ち……かは知らないが似た様な所はあったのかもしれん、祥鳳もそうじゃ無いのか?」

 

「え?…………まぁ気持ちはわかります、けどあんな体験は・・・したく無いです」

 

「けど、あの機動は戦闘機が機首上げする時と似た様な物だ。

それにかかるG・感覚はほぼ同じだ、いい体験だとは思うが」

 

スネークがそう言うと祥鳳はもちろん龍鳳に龍驤までもう一度空を見上げた。

……止めておけよ

 

「詳しい話は本人に聞いてみれば良いだろう」

 

「……しかし、見てる方はヒヤヒヤするぞ。

いくら部下とはいえ良く安心して見ていられたな、スネーク?」

 

「BOSS ウェーバーのこと話して無かったんですか?」

 

「まぁな」

 

「何々?ウェーバーさんに何か秘密でもあるの?」

 

いや川内、この人達自身秘密だらけだろうに。

だが………ウェーバーの秘密も気になる。

 

「フォレストさん、ウェーバーさんって前々から気にはなってたんですが……強いんですか?」

 

「ん?羽黒ちゃんは気になるの?」

 

「はい」

 

「………まぁ私たち5人の中でなら一番強いかな」

 

「へぇ……」

 

「それで、ウェーバーの事とは何なんだ?」

 

「あいつはインストラクターの免許を取れるぐらいに降下経験があるという話だ。

まぁこいつらも十分経験豊富だがな」

 

「そうですか」

 

「提督〜!みんな〜!!」

 

そんな事を話している内に瑞鳳が戻って来た。

その顔は……やはり笑っている、むしろ先ほど一瞬見た時よりも確実に笑顔だ。

 

「どうだった、瑞鳳?」

 

「すっっごい楽しかった!!」

 

「・・・そうか」

 

「でねでね!———」

 

そこから捲したてるかの様に祥鳳たちに話し始めた。

……プラモデルを作っている時より熱がある様な気もするが。

 

「……さて、全員無事で何よりだ!

とりあえずまずは報告だ、全員講堂に移動してくれ!自衛官の方達も問題無いですか?」

 

「構いませんよ、すぐ追いつきますから」

 

「なら移動だ!」

 

『了解!』

 

……さて、ここからは私の仕事か

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ー今回の潜水艦による襲撃に関してー

1975年 11/06 14:00頃
横須賀鎮守府訓練海域にて敵潜水艦の襲撃を受ける。
損害は戦艦二隻にそれぞれ中破と小破が出たものの他に怪我人は無し。
その後、予定通り訓練を行うため上空に全員を退避させた。
詳細は同封した戦闘報告を参照されたし。


今回の襲撃に関して艦娘達の証言より意見具申する。
潜水艦らの侵入はその後防潜ネットの破損を確認したが、未だ敵の意図は不明である。

1.優先攻撃目標であるはずの艦娘が回避行動をとってる中で雷撃をしてきた点
2.初撃を外したにも関わらず執拗に攻撃を継続してきた点
3.戦略的な撤退を最後まで取らなかった点

上記3点より敵潜水艦が偵察目的では無いのは明らかであり、攻撃の意思が強かったと推測される。

しかし、我々は今まで潜水艦のみの攻撃を受けた事はご承知の通り全く無い。
これは深海凄艦側で何らか戦術的変化、または我々が認識していない所で反抗作戦が計画されている可能性も考えられる。

さらに11/23からは我が鎮守府を中心に中規模な輸送作戦も実行される。
この作戦は他の鎮守府からも応援を呼び実行する。
しかし、今回の事態により本作戦に敵潜水艦による影響が極めて高くなると考えられ、また敵の動向も定かでは無い。

そこで事前に横須賀・舞鶴・佐世保の3鎮守府合同での事前偵察をここに提案する。
意図としては前述した通り敵の動向が不明な点、それによる作戦の影響を軽減するためである。
本輸送作戦の成功は今後の艦娘、延いては我々の作戦・輸送の幅を広げ戦いを有利に進めてくれる
可能性を持つ極めて重要なものである。

事前の➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖による➖➖➖➖➖➖➖の➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖。
また➖➖➖➖➖➖➖➖より、➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖。
➖➖➖➖➖が可能なら➖➖➖➖➖➖➖を強く求む。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖、



................. (これより下は完全に黒く塗られ、何が書かれているか読むことができない)....................



これを許可して頂ければ後の作戦展開は確実に・効果的に進めることが可能になる。
艦娘を指揮し、一鎮守府を預かる者として以上を強く意見具申するものである。

・横須賀鎮守府 提督 〇〇 〇〇〇

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