鎮守府警備部外部顧問 スネーク   作:daaaper

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宴会

 

『かんぱ〜い!!』

 

ビールジョッキが音を立てた後、そこにいた全員の喉からゴクゴクとまた音を立て、その場の雰囲気はまさに陽気だ。

 

主に屈強な男たちが中央のその場にはいたが、中には女が4人ほどいた。

そのうちの2人はどうやら男たちと大食い競争でもするらしい、本来なら酒飲みで戦うのだろうが

上からのお達しと、“隊長”から直々の注意により却下されている。

 

そこは横須賀鎮守府にある居酒屋「鳳翔」…………ではなく、都内のとある普通の居酒屋だ。

そこには鎮守府を警備をしている自衛官 ………………ではなく、警視庁特殊強襲部隊の全隊員

 

中には指を何本か失っているのもいた。

それは先週、強行突入した際に犯人の自爆同然の爆破に巻き込まれたためだ。

だが隊長が気にしていた程本人たちは気にしている様子はなく、普通に生活・仕事をしていた。

もっとも仕事は“普通の作業”にはなっていたが。

 

 

 

 

 

「しかし、本当に飲めるとは思いもしませんでした」

 

「確かにお前らはいつ仕事があるかわからんからな、だが上も情報入手の為には断れん。馬鹿みたいに飲まなければ誰も文句も言わないだろう」

 

「それにしても、経費で飲めるとは……」

 

「アレだけの仕事をさせておいて休暇無しで働くならこの位普通だろう」

 

「向こうではそうなんですか?」

 

「……少なくとも2杯ぐらい酒は飲める」

 

「しかし、貸切はしないでしょう」

 

一方で、その居酒屋の一角にある座席は障子で囲われ中央の雰囲気とは違い静かだった。

障子なので騒ぎはよく聞こえるなか、出された酒を一杯飲む。

本来なら外で飲食など絶対にしないが、安全なのは既にマーリンとフォレストが確認している。

……その確認のやり方が一升瓶の半分を薬物検査と一気飲みするという大道芸だったが。

 

「しかしあんなに警備が緩いとは思わなかった。もっと時間がかかると思ったが数分で進入できた」

 

「普通に正面からは……無理ですか」

 

「出来れば遠慮したかった。それに尾行も付いていたしな、監視されているなら問題ないだろう」

 

「……………」

 

いや、監視がいるのもわかって何で強行したんだ……とこの指揮官は思っているに違いない

 

もっとも、目の前にいる男——スネークは潜入のスペシャリストであり、本部だけで300人はいる組織のトップであり……憧れだ。

その憧れの存在がやっている事は何でも真似したくなる、そのため全隊員が普通の軍隊ではありえないが単独潜入の基礎訓練を必ず受ける。

 

「しかし、あなた方がわざわざ来るとは……」

 

「ただ単に日本の警察の特殊部隊の実力がどんなものか気になっただけだ」

 

「…………それでどうでした?」

 

「まだまだだな、今いる部下相手に苦戦するようじゃなぁ」

 

「…………すいません」

 

「気にするな……とは言え無いが当然でもある。こっちは傭兵だ、大体不利な条件には慣れていてな」

 

 

さて、そもそも一体何をしたのかというと、簡単に言えばまた交流戦をした。

スネーク達はマスクをしながら再び警視庁に入った。

もちろん隠密に、SAT隊員達が使っていた駐車場に“侵入した”。恐らく来週には警視庁の地下駐車場関係は全て改造されるに違いない、何せ部外者6人の侵入をあっさり許した。

もっとも“侵入者達”は全く本気ではなく、ほとんどがピッキング道具とスコッチやウィスキーの酒瓶を両手に持ち、まるで知り合いの家に転がり込むが如く、さっさと地下駐車場から隊員達がいるであろうガンルームに入った。

 

……もちろん侵入者のため、最初は銃口を向けられる羽目にはなったが。

しかし艦娘を救出した際に使ったマスクを使いながら声をかけた事、その時の指揮官がその場にいた為に何故かその場で手続きをした後、入館証のようなカードが渡された。

 

順序が明らかに逆なのは放って置こう

 

「しかし警察にあのくらいの装備と設備が整っているとはな」

 

「本来、各都道府県警の予算は地方の予算に組まれてますが我々の部隊は国費で賄われいますから」

 

「なるほど、力は入れているのか」

 

「……どうすれば——」

 

「経験だ」

 

「…………」

 

「お前らと俺らの違いは経験則だ、大方あの事件で編成された部隊じゃないのか?」

 

「……わかりますか」

 

「俺の知り合いには諜報機関・各国の軍事に関わったいる奴も多い。たとえ国民に知らされてすら

いない部隊でも俺の耳には入る」

 

スネークの言う知り合いとは MSFの諜報員達の事だ。

あの事件とは1972年に起きたミュンヘンオリンピック・・・11人の人間がスポーツの祭典から帰って来ることが出来なかった。この反省を踏まえ先進国では特殊部隊の編成が本格化し、日本もその例外ではなく、警察は機動隊員から選抜メンバーを選び訓練した。

そして約2年の訓練期間を経て1週間前の事件が初の公式任務となった……が結果が結果だった。

 

「いいか、強くなるっていうのは経験とセンスがものを言う。

この前は相手が自爆覚悟で攻撃してきて損害が出ただけだ、突入途中とはいえ部隊のミスによる物では無い。射撃精度も慣れと感覚でしかどうにもならない、俺らに射撃で勝とうと思うなら体を追い込んだ後に射撃訓練をする事だ、5kmぐらい走ってから訓練しろ」

 

「5kmもですか!?」

 

「たった5kmだ、30分もかからない」

 

スネークは先ほど言った通り彼らの実力が実際どれ程のものか気になっていたので、正に言葉通り交流戦となった。その内容は最初はシンプルだった、そう最初は。

 

具体的には射撃練習だ。

SAT隊員達が日頃使っている射撃練習場はただ的があり、それを狙うだけの簡単なもので、ランダムに的が現れるタイプではなかった。

そのためお互いの射撃精度を競うことになった……が、MSFの様な射撃訓練を争うセーフハウスでは無いためスネーク達にとっては単なる作業でしかなく、8発放たれたSAT隊員達のMP5の弾丸の多くが頭部にそれぞれ穴を作っていた。

それに対して、ティムは同じ様に頭部を中心にそれぞれ穴を開けたが、

マーリン・エアー・フォレストの3人は右目を中心に大きな穴を開け、

ウェーバーはギザギザの穴を眉間に作り、

スネークに至ってはギザギザですら無い穴を目と目の間に空け、描かれた目には傷1つ無かった。

 

コレにはSAT隊員達は苛立ちや妬みを通り過ぎ、目を見張った。

何せスネーク達はウェーバーを除いて自前の銃は持ってきておらず、専用の駐車場に置かれていた予備のサブマシンガンを使ってコレなのだ。

もちろん一度試し射ちはしたが、それだけで各自が借りた銃の癖を見抜いたという事になる。

 

だがこの結果に興味を持ったSATのスナイパー5人が、特に成績の良かったウェーバーとスネークに

勝負を仕掛けた。日頃使っている射撃練習場とは別にスナイパー専用の長距離射撃用の的があり、

先ほどとは違いそこの的は動いた。

そこでは流石にサブマシンガンを使うには非効率、一方で狙撃銃をSAT隊員から借りる訳にもいかないためスネークはウェーバーのWA2000を使ったが結果は……まぁお察しである。

 

SATのスナイパーも投げられた手榴弾を落ちた後すぐに弾きかえすという技が出来るくらいに優秀だ

だがスネーク達は銃の種類を問わず、100mを12秒のタイムでMSFの甲板上を全力疾走した後に1km超射撃を普通にこなせる様訓練しており、しかも弾薬消費を気にする必要も無いため訓練は思う存分出来る。そんな環境で訓練を受けていれば伏せた状態で動く的を当てる事など難しくない。

 

「……本人が言っていいと言ったから言わせて貰うが、お前らの存在は日本に来る前から知っていた」

 

「………………どういう事です」

 

「俺の部下にいるウェーバーなんだがな」

 

「あの狙撃手の?」

 

「あいつは正しくは狙撃手では無いがな……あいつはお前たちを前に見た事があると言っていた」

 

「……一体どこで?私たちは未だ国民にすら部隊名を知られていない存在です、噂まではどうにもできませんが公式発表もされていません。それなのに一体どこで——」

 

「GSG9 それで判るか?」

 

ウェーバーは志願兵……それもミュンヘンオリンピック後に国境警備隊から繰り上げられ編成された

ドイツの特殊部隊出身だ。

日本の警察に対して非正規ではあるものの訓練を施した部隊でもあり、教官としてウェーバーは

その時日本人に教えた、その時のメンバーがいたあの事件のとき・そしてこの場にもいた。

最も本人はその事を事前にボスであるスネーク以外には言わず、この場でも自らのダミーヒストリーしか語っていない。

 

「あの人が……」

 

「あまり直視するなよ、感づかれるぞ」

 

話を聞いた途端障子越しにウェーバーの姿を見るように体を動かした部隊長をスネークが止める。

一瞬見たところ、どうやら隊員たちは唐揚げの早食い対決を始めるつもりらしい。

2つの大皿の上で山になった唐揚げにSATの隊員2人とマーリン・フォレストの2人がそれぞれ構えていた。

……腹を壊さないか心配しながらも部隊長は言われて再び障子を閉じた後、再びスネークを正面に捉え背筋を伸ばす。

 

「しかしあなた方は……凄いですね」

 

「……まぁ俺の部下が所属したて名前は大層なものだ。

SWAT・グリーンベレー・デルタフォース・SAS・GSG9・DGSE・スペツナズ・

中には名前すら決まってない部隊にもいた連中もいる」

 

名前が決まっていないというのは存在しない部隊の事であり、その事は部隊長もすぐ理解した。

その中にはスネーク……BIGBOSSが誕生したFOX、そして本人が作ったFOXHOUNDも挙げられる。

 

「……あの隊員たちはどうする気だ」

 

「…………上層部の意向で前線には復帰できません、部隊の会計処理を——」

 

「違うな、警察内部でわざわざ予算編成が組まれていない部隊の会計を“単なる人間”ができるわけが

無い。大方銃のメンテナンス専門になっているんじゃないか?」

 

「…………ええその通りです、しかしなぜ判ったんです?」

 

「銃だ」

 

「……銃?」

 

確かにスネークはもちろん、彼の部下たちはよく訓練され優秀だ。

しかしそれでも初めて扱う銃が言う事を聞く事はほとんど無い。

どんなにメーカーから直接買い入れ使用したとしても標準や銃口の微調整は欠かせない。

さらに中古ならばその人それぞれの癖が現れる、とてもじゃないが1マガジン分の試し射ちで完全に

その銃の特性・軌道をつかむ事は難しい。

だがスネーク達が撃った銃はどれも“まるで誰でも”標準した場所に弾が行く様に良く調整されていた。

まるで“うまく銃を握れない人間でも”当たるかの様な精度だった。

 

「基本的に銃の手入れは使用者本人がやるもんだ、その手入れにも使用者本人の癖が現れる、

結果的に同じ軌道を描く銃はまず存在しない。

だがプロのガンスミスが手入れをしてやると大抵の銃はカタログの様に“元どおり”になる。

アイアンサイトにズレは無く、真ん中にターゲットを向ければただ当たる。

……銃をある程度いじり慣れていれば時間があれば出来る。

3人いれば予備の銃だけなら1週間もあれば十分に整備できる量だったしな」

 

「……確かに念入りに手入れをしてました」

 

「ソレしか出来ないからだろう、だが銃の手入れが終わったらどうする?

残弾の管理か?撃った壁の面倒か?……やる事は限られているぞ」

 

「……それで彼らを預かると?」

 

「いや、本人の意思次第だ。

わざわざ俺は引っこ抜くきは全くない、だがあいつらが戦いたいと言うなら俺はそれをくれてやる

事は出来る。しばらく故郷に戻ってこれるかわからないがな」

 

「……本人たちは前線復帰を望んではいます」

 

「だがいづれ心にガタが来る」

 

「…………」

 

「まぁその時お前が扱いに困ったら言ってくれ、その時でもこっちは問題ない。

俺らの仕事は出来るなら関わらないほうがいい世界だ」

 

そう言って酒を一杯煽る。

MSF隊員の中には結婚し祖国に子供もいる隊員もいる、だが写真でしか会うことは叶わない。

家族の写真を見て溜息を吐きながらも訓練や任務に赴く隊員も少なくない。

心霊写真ならまだいいが、国を捨てた人間が家族の写真を見ている姿は伝説の傭兵でも忍びない

物なのであろう。

 

「……まああの連中がそう簡単に折れる様な人間でも無さそうだがな。

この1週間であれだけ仕上げられたんだ、上手くやっていけるだろう」

 

「……そう言って貰えると私自身、肩の荷が軽いです」

 

「部下のストレスを気にするのは当然の事だ、だがあまり背負い過ぎるな。

当の部下たちがお前の心配をする事になるんだ」

 

そう言いながら胸ポケットに手を入れ葉巻を取り出すスネーク。

提督は葉巻を持ってはいなかったが、翌日フォレストがわざわざ葉巻を持ってきた。

……あまり文句を言える状況ではないが、どうも風味が悪い。

どうやら日にちがだいぶ経ち、多少湿気っているらしい。

 

 

そんな葉巻のお陰で少し不機嫌な顔を見ながら部隊長は思う

あなたは一体何者なんだ、と。

 

 

「…………それで、こちらの本題ですが」

 

「……どうだった」

 

話は変わり、本来の目的である情報の共有……警察が調べた情報をスネークに伝え、海外からさらなる

情報を得るために開かれた飲み会だ。

 

「犯人たちが言っていた新潟の倉庫には翌日踏み込みました。

中には数個の手榴弾とプラスチック爆薬、空マガジンと大量の硝煙反応と弾痕が残ってました」

 

「そこで試し撃ちをしていたのか?」

 

「潰れていなかった物の線条痕が何人かのライフル銃の線条痕と一致したので恐らくは」

 

「他は」

 

「目撃情報はほとんどありません。倉庫が海岸近くだったので」

 

いくら艦娘が深海凄艦を掃討しているとはいえ、海水浴は今のところ禁止されているのは勿論のこと鎮守府が近くに無い海沿いのエリアでは人は住み込むどころか寄り付こうともしない。

当然目撃情報を求めるのは難しい。

 

「犯人らが倉庫に向かったルート上には監視カメラがありましたが、犯行から1週間前に犯人以外の

人間が出入りした様子は映っていませんでした」

 

「他の銃は?」

 

「……他の銃?」

 

「そこは倉庫だったんだ。

そしてそこに大量の武器があったと犯人が言っていた、なら22人分“だけ”の銃がそこにあった訳じゃ無いだろう。確実にもっと大量の銃器があったはずだ」

 

「……確かにその通りですが、そこには他の銃器はありませんでした。

犯人の証言通りならば犯行の1週間前に武器を取りに来た時以外、倉庫には行っていないとの事です。

同じく倉庫には他に人間が新たに入って来たような痕跡もありませんでした」

 

「爆弾魔とスナイパー2人、自爆した犯人の情報は」

 

「自爆した犯人は未だに意識不明、拘束したスナイパー2人は元過激派の極左グループでした。

ですが、あまりにも手がつけられず随分前に追い出されたそうです」

 

「そのグループは?」

 

「すでに公安が取締っています。残党が残っている可能性もありますが、今回の犯行はその報復の

線は薄いです」

 

「残りの爆弾魔は」

 

「……あまりにも信じ難いですが、本人は爆弾を抱えてている事を知らなかった様です」

 

「自覚が無かった?」

 

「防弾チョッキと言われて着ていたそうです」

 

「なぜ防弾チョッキを外にいた人間だけが着ていたか……は俺が言った通りか」

 

「ええ、何も考えずただ着けたそうです」

 

「起動は時限式だな」

 

「ええ、時間ギリギリでした。あと30分で爆発する所でした」

 

「……本当に花火が打ち上がる所だったか」

 

呑気にジョークを言いながらスネーク葉巻を消した。

痕跡を残さないという癖から携帯用タバコ消しに入れる。

 

「全くもってその通りですよ」

 

「……まあいい、それだけ情報があればある程度探れる」

 

「具体的には?」

 

「ほぼ確実に搬入方法は海運だ。

それなら鎮守府の力を使った方が早いだろう、密入国のボートの取り締まりもやってる鎮守府が

あるらしい」

 

「……しかしそれだけでは——」

 

「大陸からなら俺の“知り合い”を使えばルートはわかる」

 

「……そうでした」

 

「俺からも言いたいことがある」

 

「何です?」

 

「……お前らはいつでも動ける様にしておけ。

確実に黒幕はいる、何をして来るかはわからない、次は俺らも動く事は出来ない」

 

「…………」

 

今回の事件の収束は偶然が重なった。

・事件に艦娘がたまたま関わった事

・警察上層部が突入の失敗に怖気付き自ら解決するのを諦めた事

・スネーク達が鎮守府に“勤務”していた事

主にこれらがうまく噛み合ったからこそ、スネーク達が突入を実行でき……爆弾は爆発せずに済んだ

 

 

だが次はそんな上手くいくわけがない

そもそも艦娘が事件に関わらせる様に提督たちがさせないだろう

 

「それともう1つ」

 

「……何です?」

 

スネークはその場から立ち襖に手をかけ部隊長を見る。

そしてもう一方の手でヒョイヒョイと上に手を動かし言った。

 

「そろそろ部下をお互いの部下を止めた方が良さそうだ」

 

見ると唐揚げ早食い競争が大食い競争に変わり、佳境に入っていた。

…………女性陣の圧勝という形で


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