だがしかし彼女らの戦いはこれからだ。
西暦3XXX年。
深宇宙、超銀河ダイホウ=シブ艦橋。
──敵艦隊、無量大数。天の光は、全て敵……ね。
「いやいや、いくらなんでもサバ読みすでしょ、それ」
──あら? 私の観測データが信用出来ないの? なら、自分で数えてみればいいじゃない。
「日が暮れるわ」
──1秒に4つづつ数えるとして、数え終わるまでに803626543209876543209876543209876543209876543209876543209876年ってところかしら。頑張って。
「お前、相変わらず俺には冷たいよな、ユキ=ノシタ」
──あら、酷いわ。こんなに愛しているのに……ヒキガヤ=クン。
「人類最古にして最高の情報生命体にそこまで言ってもらえるなんて、全く光栄だわ。……でもちょっと姉さん女房すぎる気がするんですけど」
──何を言っているのかしら? 私は17歳よ。情報生命体に加齢の概念はないわ。
「へいへい」
「ユキノンずるい。あたしも艦長とイチャイチャしたい」
「そうね。その意見には私も賛成だわ。ユキ=ノシタさん、私と代わりなさい」
──残念ね、ここは私の特等席よ。艦長が私にダイヴすることによって、ふたりはひとつとなる。私がヒキガヤ=クンの体となるのよ。
「……操縦してるだけなのに、何でそんな卑猥な表現になるんですかね」
「せっかく先輩と同じ船に乗れたっていうのに。ライバル多すぎなんですけどー」
「艦長、顔がにやけてる。キモイ」
「ねえ艦長、僕のこと忘れてない?」
「まったく、あんたはいつも……」
「うけるっ!」
「何で俺が悪者になってるんですかね、この目のせいですかね」
「ヒキガヤ、ここには君を慕っている女性が多くいる。少しは自重したまえ」
「……うす」
「無論、私もその一人だ。戦いの前にブリットを喰らいたくはないだろう?」
「…………うす」
「……なあ、ユキ=ノシタ」
──何かしら?
「お前、良かったのか? その、この艦のメインコンピュータなんてもんになっちまって」
──……ええ、もちろんよ。人としての体も素晴らしいものだったけれど……
「けれど?」
──やっぱり、私が貴方の隣に立つのなら、この形のほうがしっくり来るわ。貴方がソラにいる限り、私が貴方の翼よ。
「……ほんと、俺なんかにはもったいない良い女だよ、お前は」
──そろそろ射程に入るわ。
「……わかった。ネールシュトレイム砲、発射準備」
──発射準備完了。
「照準、次元大瀑布」
──照準、よし。……これが、最後の戦いかしらね。
「ああ、多分な。これでやっと退役して、専業主夫を目指せるってもんですよ」
──なら、新しい戦いが始まるわけね。
「……ユキ=ノシタ?」
──これからは、貴方を巡る、女たちの戦いが、ね。
fin.
「……これ、何?」
「あら、目が腐りすぎて視力を失ってしまったのかしら? 原稿に決まっているでしょう」
「……なあ、雪ノ下。高校生活最後の文化祭で、奉仕部としてなにかやりたいっていうのはわかった。それが何で演劇かっていうのは疑問だけど、それも置いておく」
「なら、何が問題なのかしら?」
「言いたいことは山ほどあるが……まずこれ、平塚先生泣いちゃうでしょ。マジ泣きしてお家に帰っちゃうよ?」
「そうね……その辺りの表現は少し変えたほうが良いかしらね」
「いや、表現っていうか、題材からしてマズイでしょ」
「あとな、お前、自分好き過ぎ」
「……そうかしら?」
「ほとんどお前の一人劇じゃねえか、これ」
「あら、観客だって美しい物のほうが見ていて楽しいでしょう?」
「どんだけだよ」
「あはは……あたしのセリフ、3つだけだし」
「いえ、由比ヶ浜さんにはユキ=ノシタ役をやってもらうわ。基本、声のみの役だけど……私の内面に入る役なんて、貴方以外の人になんてやってもらいたくないもの」
「……ゆきのんっ!」
「近い……」
「相変わらず仲がよろしいですね、百合ノ下さん、百合ヶ浜さん」
「見られると穢れるから、その目を潰してくれないかしら、比企谷くん」
「ヒッキーきもいっ!」
「いや、あなた達。確か俺の事が好きだって言ってくれてましたよね?」
「もちろん、愛しているわよ?」
「あっ、ゆきのん抜け駆けずるいよっ!」
「いや、俺はどういう反応すればいいのよ、これ」
「てか、俺の胃に穴が空くわ、こんなんやったら。何だよハーレムって」
「大丈夫よ。貴方は大道具小道具照明その他雑用と、背景の木の役をやってもらうだけだから。誰も貴方なんて視界に入れないわ」
「そんなイイ笑顔でトラウマえぐらないでもらえませんかね」
「……ゆきのんと求め合う、かあ」
「……嫌だったかしら?」
「えっ? い、いや別に、嫌なんてことはないんだけど……。ただちょっと、想像したら照れちゃって……」
「由比ヶ浜さん……」
「ゆきのん……」
「だから、俺はどういう反応すればいいんだってば」
「ヒッキーきもいっ!」
「しっかし、雪ノ下がこういうの書くとは思わなかったな。最近、珍しくラノベとか読んでるのは知ってたけど」
「あれも中々に馬鹿に出来ないジャンルね。今は憑依とか転生とかタイムトラベルものが熱いわ、私の中で」
「……ああ、だからあの内容なのか……」
「お気に召さないようね。……でも確かに、あれをそのまま劇にするという訳にはいかないわよね。きちんと脚本に直さないと。海老名さんにお願いしてみようかしら?」
「やめてくださいお願いします。そんなことしたら葉山の体に俺が宿るはめになる」
「そろそろいい時間ね。今日はもう終わりにしましょうか」
「そうだな。これをどうするかはまた決めるってことで」
「じゃあ、途中まで一緒に帰ろうよっ!」
「ごめんなさい、今日は車を待たせているのよ……」
「そっかー。じゃあヒッキー、一緒に帰ろう?」
「お、おう」
「もう、キョドらないでよー」
「鍵は私が返しておくから、先に行ってもらって大丈夫よ」
「ありがとうゆきのん。また明日ねー」
「じゃあな、雪ノ下。……また、明日」
「ええ、さようなら、ふたりとも」
──で、なんなのかしら、あれ?
「そうね……決意表明、かしらね」
──あれが貴方の描く未来予想図ってわけね。
「ええ。なかなか楽しそうな未来でしょ?」
──貴方もすっかり覚悟が決まったみたいね。
「やると決めたからには、全力でやり遂げる。それが、私よ」
──ふふっ。貴方のそういうところ、好きよ。
「ありがとう、私もそんな自分が大好きよ。……あと、もう一つ理由があるのよ。決意表明の他に」
──それは?
「貴方のことを、紹介したかったの。私の大切な人たちに、私の大切な人のことを」
──……雪乃。
「これからもよろしくね、パートナー」
──ええ。こちらこそ、よろしくお願いするわ。……パートナー。
そういうわけで平塚静は独身である。
おしまい。
お付き合い頂き、ありがとうございました。
よろしければ、ご意見ご感想などいただけると嬉しく思います。
それでは、また次がありましたら、そのときに。