【更新停止】紅次元ゲイムネプテューヌ 深紅の呪血   作:APOCRYPHA

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第八十五話

 犯罪神が討たれる前の事

 

「アーッハハハハハ!!」

 

「不味い! もう一匹ィ!!」

 

「ヤバイ、にギャアアアアアアア――――!?!?」

 

「ヨツバシーーーー!!!!」

 

 どんよりと曇った空の下、陽光が分厚い雲に遮られているのを良い事に、ルウィーでは雪崩に便乗して山奥から降って来た100を超える数の吸血鬼達が昼間からまるでキノコのような形状の民家を焼き、黒い塔のようなデパートを襲い、兵士達を蹴散らしながら生き血を啜り、逃げ遅れた人々を串刺しにして遊び血と肉を撒き散らしていた。

 

「弱いなァ? ニンゲン」

 

『Gururu――』

 

「「「ヒィッ?!」」」

 

「ひ、怯むな! 後少しでブラン様達が帰ってくる! それまで何としても耐え凌ぎ市民を守るnガファ!?!」

 

「ぎゃはっ、ギャハハ……アーッハハハハハハハァ!!」

 

「「「た、隊長ーーー!!!」」」

 

 狼に囲まれて怯える兵士を鼓舞しようと声を上げる隊長へと凄惨な笑みを浮かべた吸血鬼が一瞬で迫り、腹に腕を挿し込んで直接繋がった血管を傷付ける事なく心臓を抉り出す。

 抉り出しても尚、ドクン、ドクン、と鼓動を刻んでいた心臓を持ち主の部下達に見せ付けるようにして吸血鬼の1人は握り潰し、その血をシャワーのように浴びながらゲラゲラと嗤って、次の獲物を品定めするかのような眼差しを残された部下達に向ける。

 それはまるで屠殺場の豚を視るような眼差しであり、次はどれにしようかなと、誰を選べば少しでも多く嗜虐的な嗜好を満たせるかを考えている眼差しであった。

 

「い、イヤダ……死にたくない……死にたくない!」

 

「たす、助け……助けてください……!」

 

「…………?!?!」

 

 次は自分達の誰かだ……そう感じた三名は、逃げる意思すら喪ってガタガタと震え続ける。

 

 しかし、そうなるのもやむ終えないのかもしれない。

 純粋な吸血鬼の括りに於いて最下位である下位吸血鬼(レッサーヴァンパイア)ですら人間で言う所の中堅冒険者――凡そレベル40前後のパーティーと互角に渡り合える。

 戦闘の技術やレベル自体が極端に低い場合はもう少し落ちるが、それでもレベル30のパーティー1つ位なら高い身体能力と心臓か頭部を大きく破損しない限り再生し続ける高い不死性で返り討ちにしてしまうのが、最下位の下位吸血鬼(レッサーヴァンパイア)だ。

 

「さあ、卷族共! 削ぎ落とすように喰らい貪れやァ!!」

 

『GAAAAAA―――!!』

 

「「「あ、…あああああぁぁぁぁ――――」」」

 

 ましてや、今兵士達の目の前に居るのは上位吸血鬼(グレーターヴァンパイア)の卷族であり、上位吸血鬼(グレーターヴァンパイア)から吸血鬼(ヴァンパイア)としての異能である『変身能力』『卷族作成』『不死性』の中から2つ、『卷族作成』と『不死性』を引き継いだ中位吸血鬼(ミドルヴァンパイア)だ。

 その力は下位吸血鬼(レッサーヴァンパイア)の比ではなく、最低でも上級冒険者に匹敵する。

 

 根本的に生物としての規格が違う。幾ら厳しい環境や散発的に襲い来る吸血鬼の脅威が常に在るルウィーの兵が精強とは言えど、雪崩で指揮系統を破壊され、下位が多数と言えど100近い数の吸血鬼に襲われれば成す術もないのだ。

 

「「「――――――――!?!?」」」

 

 そして、声にならない悲鳴を上げながら、三名の隊員達は狼に貪り喰らわれた。

 

 

 

 

 

 

 

 それから程なく

 

 

 

 

 

 

 

「オエエエエエエエエェェェエエェェェ――――?!?!」

 

 狼を我が身へ還した俺はその余りの不快な味に思わず胃の中身を全て吐き出していた。

 

「ペッ、ペッ……なんだこりゃ? クソマズイ」

 

 慌てて水の魔法で全身に着いた赤い汚物を洗い流してポケットから球体で保存した危険種の血を幾つか取り出して一部を液状に戻し軽く全身に浴びる事で我慢ならない臭いを上書きし、残りを球体のまま口に入れて口直しをしながら周囲を見渡すと、何時もの狩り場とは似ても似つかない白い斑模様の入った赤か緑の三角錐が乱立した平地で、最近上の方が蒸発した住み処の3つ隣に在る山が遠くに見えた……って

 

「ここは……ルウィーの首都か?」

 

 腐った肉と糞便が何十年も放置されて入り雑じったような臭い(三、四百年前に成り立ての頃、遊び半分で放り込まれた下水道がそんな感じだった)がする脳髄や肉がぶち撒けられていてあまりに酷い悪臭から視界が地味に滲むし大体が雪に埋もれて判り難いが、一部の三角錐の直ぐ下にクリーム色の緩やかなカーブを付けた壁が見える。

 あれは確かルウィーの首都で主流のキノコっぽい家だ(と思う)

 

(かれこれ何百年も前の様式しか知らないが、あれから変わってなければここは…………)

 

「「おっ/あっ」」

 

 ………………直ぐそこでばったり会った同胞で人間時代からの幼馴染みのシュア(なお、ちょっと臭い)と顔を合わせたまま、お互いに完全に硬直する。

 金髪紅眼で人形っぽい美少女と評判だが割かし感情表現豊かで口数も多いシュアもなんとなくさっきから感じる嫌な予感を感じているのか、唾を飲み込むような音を響かせて普段の能天気そうなアホ面を真顔にして緊張を走らせている。

 

(おいおいおい、よく見たらご近所さんやお隣の集落の連中がそこらじゅうに……どうなってんだよこれ)

 

 俺達は元はその辺の町や村から食糧調達係りだとか身の回りの世話だとか、何かしらの理由で浚われて吸血鬼にされた後、親の上位~中位の吸血鬼が何等かの要因で死んで解放された元人間の中位~下位の吸血鬼達の集まりだ。

 親の吸血鬼は大体人間を家畜以下のゴミとしか思っていない場合も多く、その辺の村が進行方向に在ると俺達に命令して更地にしてから通るなんてのもザラにあった。

 その時の悪行から(大体時間が経ち過ぎていて帰る場所は残っていないが)人間の所に帰る訳にもいかず、かと言って生まれながらの吸血鬼――真祖ではなく、三代以上両親が吸血鬼だった連中の事だ――達の中に戻っても居心地が悪い、悪過ぎる。

 

 一応、親無しの扱いはそいつが強ければ相応の地位をくれるし割りと自由なのだが、弱ければ容赦なく奴隷落ち

 人間を浚って吸血鬼にしたら親がどんな扱いをしていても基本的に干渉は許されず、上位個体から浚った人間に惨い拷問を加える遊びに誘われたら強制参加

 精神を病んで狂った奴は数知れず、あまりの悲惨な扱いや拷問を加える事に堪えかねて防衛と監視の任務を請け負う形で親無しが集まって人間の近くに集落を作ったのが俺達の集落の成り立ちだ。

 

 ……まあ、そんなこんなで今日まで自衛以外で人間を襲わず、集落の中で大人しく生活しながら人間の国の動向を蝙蝠の眷族作成持ちが報告して偶に飛んでくる女神から隠れながら時折来る上からの命令をこなし平和な日々を過ごしていた訳だが―――

 

「……これ、ヤバくね?」

 

「……どー考えても、ヤバイよね?」

 

 あちらこちらから立ち昇る黒煙

 たまに聞こえてくる大質量が雪に叩き付けられたような音

 ついでに聞き覚えのある複数の高笑い

 

 シュアの顔が引き吊るのが見える。恐らく俺の顔も似たような表情だろう。

 背筋から冷や汗を垂らしながら、現状を大体把握しつつある為に万が一の可能性と言う名の現実逃避(希望)に逃げ出しそうになるが―――

 

(…いや、ひょっとしたら極小の可能性で俺等は何もやってない、この惨状は別のモンスターn「アハ、あははははは……アーッハハハハハハハ!!!!」 ―――アウトオオオオオォォォォォォ!?!?!?!?)

 

 ―――万が一の可能性と言う名の現実逃避(希望)なんて影も形も無かった……

 

「止めんかこのアホンダラァ!!」

 

「あいたっ!?」

 

 何をトチ狂ったのか、人間を頭上で八つ裂きにしてシャワーのように降り注ぐ血を浴びていた知り合いの頭を少し強めに引っ叩いて正気に戻す。

 その際少々後頭部が陥没したが、その位ならどうせ数秒で治るからこの際どうでもいい。

 

「族長!? 族長ーーーー!?!?」

 

 今はとにかく、なんとしても族長を見付けて集落の存続を掛けた全力遁走あるのみだーーーー!!!!

 

「エイト、族長はあっち!」

 

「おう! 何としても女神が出張る前に逃げる! 人(?)生最後の食事があんなドブみたいな代物で堪るかああああああ!!!」

 

 そうしてシュアと一緒に族長を見付けた俺等は、集落の同胞連中と一緒になって偶に暴走中のバカを張っ倒し、山の方へと全速力で逃げている。

 しかしその最中、何故か唐突にふっと頭を過る事があった。

 

(……そう言やあいつ、今は何処でどうしてんだ?)

 

 昔、一度顔を見ただけだが、不愉快だと俺とシュアの親をぶっ殺し、そのまま粛正に来た古代や上位の連中を皆殺しにして盟主の真祖から名誉真祖の位を貰ってた名前も知らない紅い髪の女を思い出した。

 

(……いや、まあ、それは後でじっくりと考えりゃ良いわな)

 

 どうして気になったのかは知らないが、生きてるならどっかで会えるだろ……どうせ、人間と違って吸血鬼(俺等)は殺されるまで死なねーんだし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殆どの吸血鬼達が泡を喰って逃げ出してから三十分程の事

 

「ひっ…?!」

 

「街が……!」

 

 慌ててプラネテューヌから戻って来たブラン達が見たのは、変わり果てた街と大量の死体に、目が完全に逝っている吸血鬼達が固く閉じられた教会の扉や壁に取り付いて破壊しようとしている光景だった。

 

『あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”――――』

 

 吸血鬼達は二十数人と報告にあった人数よりも少ないが、白目を剥いて尖った爪が剥がれるのも指が潰れるのも手足が折れるのも構わず教会の扉や壁を殴り、蹴り、毟ろうとしているその光景は、まさにB級(ブラン監修の意ではない)のゾンビ映画そのものだった。

 

『結界の出力を上げろ! このままだと……うわぁ?!』

 

『ダメです! 奴等、四方八方から……!!』

 

『なんとしてもここを死守しろ! 後はもう無いんだぞ!!』

 

『替えの結界発生装置を持ってきました!』

 

『そこに配置しろ!』

 

『クソッ! ホワイトハート様達が犯罪組織絡みの騒動で居ないこんなタイミングで……!!』

 

 教会の中からは中の兵士達が結界を張り必死に耐えているのか、時折爆発音を響かせながら吸血鬼達への怨嗟の声を上げている。

 しかしそんな抵抗も長く保ちそうになく、教会に取り付いた吸血鬼達の拳や脚が叩き込まれる度に、一部では威力こそ減衰されているものの、波打つように揺らぐ結界を超えて壁に直接触れられていた。

 幸いにも、触れて直ぐに弾かれているから指で壁を毟られる事は防げているが、それでもそう遠くない内に結界は破られ、壁を破壊した吸血鬼達が雪崩れ込む事だろう。

 

「…………えか」

 

 そんな光景を見たブランは、下を向いて拳を固め、肩を震わせる。

 

「…上等じぇねえかあのヤロウ!!」

 

 そう言ったブランの纏う純白のスクール水着のようなプロセッサユニットが黒く変色する。

 神器である白く神々しかった戦斧は黒く染まり、より凶悪に、より禍々しい形状に変化してその重量を増す。

 同時に纏う力が増大し、可視化する程の灰色の光が小柄な身体から発せられた。

 

「絶対に許さねえぞムシケラ共が! 全員まとめてブチ殺してやる!! 一匹も逃がさねえぞ覚悟しろォ!!!!」

 

 そうして、怒りの臨界点を超えたブランはどこぞの宇宙の帝王のような事を言いながら激怒し、教会に取り付いている吸血鬼達を瞬く間に皆殺しにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 犯罪神が自決した直後の事

 

「っ、――ぁァ……?!」

 

 ズル、ズル――と引き摺るようにして前に進みながらギョウカイ墓場の黒い大地に焦げ茶色の染みを残し、少し進む度に火花を散らしながら全身から機械の部品をバラ撒いている赤黒い塊があった。

 

「ギ、、ィギュ―――!!」

 

 この機械と肉の入り雑じった塊は嘗て、犯罪組織マジェコンヌ四天王、ブレイブ・ザ・ハード直属の配下として活動していた。

 それがどうしてこうなっているのかと言うと、単純だ。

 ブレイブ・ザ・ハードが負ける直前に隠れ家へと逃がしたのだが、そこで敬愛する上司を喪い無気力状態になって脱力した事で治療や修理が遅れ、疲労やダメージが回復して行動が可能となる前に犯罪神とアナザー、そしてハクの戦いの余波をまともに浴びたのである。

 余波だけで全身にもう助からないと断言できる程の致命傷を負ったそれは、意識もまともに保てない激痛を感じながらも狂気のような意思と妄執の如き激情故に生き続け、文字通り這いつくばってでも進み続けていた。

 

「あ……ー……―――」

 

 全ては、自分から唯一無二の希望(全て)を奪ったアナザーへの復讐の念故だ。

 それだけが、今の肉塊―――リリスの壊れた肉体を突き動かす力となっていた。

 

「ご、――ごぱぁっ…ゴプ、ごファ…――?!」

 

 しかし、それも限界が近い。

 口からオイルが混じった大量の血を吐くと、前に伸ばした腕がばたりと地に落ちる。

 

「………」

 

 そのままピクリとも動く事はなく、リリスはギョウカイ墓場の奥深くで力尽きた。

 最早、リリスが活動を再開し、それ以降も命を繋ぎ続ける事はないだろう。

 

 ――――――ある物が飛んで来なければ、だが

 

 突如として凄まじい勢いで飛んで来たそれは、この世の全ての悪意と呪詛を束ねたかのような禍々しい剣……否、剣の容をした邪悪であった。

 それは常人が視認すればそれだけでモラルや理性を蒸発させ、英雄と呼ばれる程の逸材であろうとも、恒星にも等しい輝きを放たぬ限りは握った瞬間に悪へ堕ち、二度と醒めぬ狂乱の檻へ囚われるだろう。

 

「………がはっ!!??」

 

 そんな邪悪の権化の如き剣はリリスの胴体と思われる部位に突き刺さる。

 その瞬間、ピクリとも動かなかったリリスは海老反りになり、ビクン、ビクンと跳ねた。

 

「ア、あ亞痾椏蛙襾錏鐚閼會婀娃堊唖阿吾――――――!!!!」

 

 それに伴い、酷く大きな悲鳴を上げて全身を黒い闇が覆う。

 

「『……これ、は――――』」

 

 それから暫くして悲鳴が収まり黒い闇が晴れると、そこには生まれたままの姿で立つ女の姿が在った。

 女は自分の体を見遣り、その手で全身をペタペタと触り出す。

 その髪は金糸のように煌めき、忙しなく動く瞳は翠玉の様な翠色をしている。

 手足はすらりと長く、括れもあり女性らしい丸みを帯びた豊満な体付きだと言える。

 そんなおおよそ一般的に美女と呼べるだけの美貌を持つ女の姿で唯一可笑しいと言えるのは、邪悪の権化の如き剣と同化した左腕だけだった。

 

「『……は、ハハ―――』」

 

「『――――はは、っはは……ハハはハハはハハはハハはっはははハハはハハははは――――!!!!』」

 

 女は唐突にギョウカイ墓場の赤黒い空を見上げて乾いた笑い声を上げると、何もかもが狂っていると言わんばかりに狂った笑みを浮かべ、狂笑を上げる。

 そのまま暫く狂ったように笑い続けた女は、両手で顔を掻き毟ると同時に底冷えするような声で呟いた。

 

「『…………コロス』」

 

 そして左腕と完全に同化している剣を振るい、空間を引き裂くと引き裂いた空間に身を投じたのだった。


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