【更新停止】紅次元ゲイムネプテューヌ 深紅の呪血   作:APOCRYPHA

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……何て言うか、うん。
食中りでそれどころじゃなかったんだ……だから更新が遅くなったのは悪くない……悪くない?


第七十六話

 強烈な蹴りを受けて吹き飛んだ私は、背後の壁をぶち抜き、人間砲弾の如き勢いで女神候補生であるユニ様とネプギア殿の合間を硬い何かを砕きながら通過した。

 

 その瞬間、私の頭へと膨大な情報が流れ込んで来たのだった。

 

「ガッ…アアアアアアアアアアアアアアアアアアア?!?!?!?!」

 

 女神の製法、守護女神戦争の真実、シェアエナジーの正体、シェアエナジーと対を成すネガティブエナジーの存在とその実態

 そして、()()()()()()()()()()()()()

 

「あ、グッ……ギギッ! ガァアッ!!」

 

 それらの情報は、全てこのゲイムギョウ界の根幹に関わる内容であった。

 しかしどのような手段を用いても、これらの情報をノワール様へと伝える事は叶わないだろう。

 

(――否、ノワール様に限らず、神宮寺教祖も、他の女神様も、民も、部下も、果てはこの世界の総てを記録するイストワールにさえ、この情報を伝える事は叶うまい)

 

 私としても、本当はなんとしても生き延びて、この情報の全てを伝えたい。

 犯罪神マジェコンヌでさえ、脅威の一端の一端でしかなかったのだ。

 そんな脅威の一端の一端程度にこれ程右往左往している場合ではない。

 

(……ああ、だが――)

 

【あはは、あははははは♪ アナザー、アナザー、アナザー、アナザー!】

 

 目の前で魔剣ゲハバーン(邪悪の欠片)の柄を片手に呆然と佇むネプギア殿とユニ様。

 そして、半ばから砕け散った魔剣ゲハバーンのある場所で全身から喜びの感情を撒き散らし、狂ったようにアナザーの名を呼びながら笑い続ける泥のような黒い女を視た瞬間、それは決して叶わない願いである事を識った。識らされてしまった。

 

【あぁ、アァ、あぁ、一体何年この瞬間を待ったのかしら? 一体何回、この道を求めたでしょう? 嬉しいわ! 愛おしいわ! 素晴らしいわ! 最高だわ!】

 

 くるくると、クルクルと、繰る繰ると、女はアナザーの纏っていた闇と同質の力で構成されているらしき黒いドレスをはためかせて回り続ける。

 その姿は、美しいだろう容姿とは言え似ても似つかない容姿であるにも関わらず何故か我が女神であるノワール様を想起させる。

 ……そう、想起してしまうのだ。

 

「ガ、グ、、アアアアアアアアアアァァァァ!!!!」

 

 その事実を意識した瞬間、流し込まれた莫大な情報によって処理落ちしかけた意識が憤怒と自罰と憎悪によって強引に繋ぎ直され、流し込まれた情報の総てを強引に整理し直した。

 代償として脳機能の何割かが崩壊し、神経は焼き切れて心臓を始めとする臓器の9割と一部の筋肉が機能を停止したが、それ以上に湧き上がる怒りと憎しみによって停止した心臓は生き残った胸筋で肋骨を砕きながら強引に動かし、他の主要な臓器も停止すれば直ちに死に至るもの以外、魔力や筋力で無理矢理にでも動かして再起動をさせた。

 

【あははははは♪あはははははははははは♪ ――あら?】

 

 そんな私の様子を察したのか、今存在した事に初めて気が付いたと言わんばかりの顔を向けながら、私を視る。

 その女はどうやら肉眼で見ていた訳ではないらしく、視神経が焼き切れて視界から女神候補生である二柱が消えてしまっても尚、暗く染まった視界に存在していた。

 

【ねえねえ、あなたわたしが見えてるんでしょう?】

 

【あははははは♪珍しいわね? ●●●●●●●●前だったら惹かれてたのかしら?】

 

【まあ、今のわたしには関係ないけど? それでも、中々ない人材よね!】

 

 女は私の顔に自身の顔を近付けると、心底面白いと言わんばかりの表情でひたすら捲し立てる。

 笑みさえ浮かべた女の気配は私から視て果てしなく邪悪であり、先程までのアナザーのそれと同等か、或いはそれ以上にも感じた。

 

【あらあら♪あの子と同じだなんて、嬉しいわ♪】

 

(っ?!)

 

 この女、私の思考を直接――?!

 

【ええ、私は貴方達、貴方達は私……最も、半分だけだから本当に深い所までは読み難いのだけれど――チッ】

 

 そう言った女は、私の顔をマジマジと見つめて数秒程でとても不快げな表情を浮かべて舌打ちをした。

 なにが気に入らないのかは知らないが、()()()()()()()()()()()()()……っ!?!?

 

【あーあー、余計な事まで知っちゃって、本当に鬱陶しいわ……消すに消せなくなってるし、しょうがないからきつめの制約でも掛けておきましょうか】

 

 女が何か分からない事を言っているが、それどころではない。

 

ノワール様(最も大切な存在)から蔑まれても悦べる私が哀しい?!)

 

 あり得ん!ノワール様から嫌われても悦べる私が、哀しいだと!?

 

【まあ、良いわ。貴方には時が来るか、それを識るモノ以外には語れない制約で手を打ってあげましょう――どうせ、あのアバズレが消え去るまでの制限なのですから】

 

 ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない―――

 

 そのまま、私の意識は電源を落とされた電球の如く、ブツリと落ちたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガッ…アアアアアアアアアアアアアアアアアアア?!?!?!?!」

 

 急に飛んでいったグロウがゲハバーンに直撃し砕いた瞬間、カチッ―という何かが噛み合ったような音が聴こえた。

 

「あ、アあ……」

 

 それは、犯罪神の復活と共に戻った記憶の中でも今の今まで曖昧だった部分が、完全に復旧した音であった。

 復旧した記憶によって、今までの俺の行動全てがザクザクとココロに刺さった。

 

(何人殺した?何人壊した?)

 

 覚えていない。

 人間がパンを食べるのと同じ感覚で、殺して来たのだ。壊し続けたのだ。

 覚えていられる筈がなかった。

 

「あぁ、アァ……ア"あ"ア"あ"ア"あ"ア"あ"あ"ア"あ"!!!」

 

 先代のパープルハートであるウラヌスと交わした約束は果たせなかった。

 俺では、どう足掻いても人間は守れないし救えないと確信した。これから約束を果たす為に足掻く事も出来はしない。

 

 罅が入ったココロは、それ以上の亀裂が走らぬよう急速に暴走を始め、全身から生命維持に必要な最低限の血を除き放出、体外で逆巻く血液は先程までの黒い力を使う前から黒く染まり、俺がギリギリ人間である言う逆説的な証明であった紅は、吸血鬼やモンスターのような化け物の証である蒼でさえなくなった。

 

『もしも、この先犯罪神の封印が解けたら――』

 

『―――が、倒してくれるかしら?』

 

 全身が黒に侵され、闇に堕ちて逝く最中

 赤紫の髪をした女神との一番重要な約束が頭を過った。

 

(……ああ、ソウカ)

 

 あはは……そうだよな……ここで壊れる位なら、この力で―――

 

「……………」

 

 ―――犯罪神を殺して、殺して、殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して……殺し続ける装置として、壊れ果てるまで戦えば良いよな?

 

「ちょっと! アナザー! 大丈夫なのあなた!?」

 

 視界に紫の髪をした女が映った気がしたが、俺はそれを無視して、よく分からないモノの間に砕けて落ちている魔剣ゲハバーン(●の欠片)の中でも一番大きな欠片を拾い、抉じ開けた空間からギョウカイ墓場へと跳んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、唐突に訪れた。

 

「あっはははは……は?」

 

「……?」

 

 パープルハートに向かって斬りかかるブラックハートは、ガラスが割れたような音を脳裏に響かせながら、突然『何故こんな事をしているのか?』 と、とても今更な疑問を抱いた。

 

 パープルハートとの決着を求めて?

 シェアエナジーを奪わせない為?

 魔剣に命を捧げて、ゲイムギョウ界を護る為?

 

(いいえ、どれも違うわ)

 

 パープルハートとの決着は今着ける必要がない。そもそも犯罪神を倒す前に戦力を消耗するのはバカがする事だ。

 シェアエナジーは犯罪神を倒してから再分配すればいい。寧ろ、犯罪神を倒した後に100%のシェアを永遠に維持できるような女神がいない。

 信用がおけないアイツ(アナザー)が持ってきた眉唾物の魔剣に命を捧げても、ゲイムギョウ界を護れる保障がない。

 

(なら、一体どんな理由で私はこんな事をしているのか――)

 

 戦闘中ではあるが、思わずと言った感じで止まってしまったブラックハート

 これがブラックハートと同等以上に好戦的なホワイトハートや隙を見せたら割りと容赦なく突いてくるグリーンハートであれば、流石にブラックハートも行動の停止まではしなかったろう。

 

「……ノワール?」

 

 しかし、今ブラックハートの目の前にいるのは、そこまで好戦的ではなく、守護女神戦争の最中でさえ武力抗争は無意味だと訴えてきたパープルハートだ。

 故に、ブラックハートは提案するのだ。

 

「――ねえ、ネプテューヌ……もう一度、確りと犯罪神を倒す方法を話し合ってみない?」

 

「……え」

 

 普段なら絶対にしない筈の提案ではあったが、今のブラックハートにはそれが最善の解答であると、何故か心の底から感じられたのであった。


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