【更新停止】紅次元ゲイムネプテューヌ 深紅の呪血   作:APOCRYPHA

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第五十三話

「うっぷ……酷い目に遭った…………」

 

ルウィーからなんとか生きてプラネテューヌにまで辿り着いた俺は、何が目的なのかは知らんし知りたくもないが、近くに居座って俺に構い続けるハクの意識を不意討ち(猫騙し)で逸らし、その隙にプラネテューヌの駅から脱走を果たした。

そして、バーチャフォレストの最深部で息を潜めながら体力の回復を図る為にモンスターから血を搾り取っているのだ。

 

「チッ……ああ、クソ、不味い……だが、この際選んでいられる程の余裕もない……腹立たしい……」

 

本音を言うなら、俺とてこんな雑魚の血は飲みたくない。最低でもここの下位危険種(フェンリスヴォルフ)辺りの血が欲しかったのだが、何故かハクが近くに居るだけで、生命力の消耗が激しく、殆ど死ぬ手前のようなレベルにまで追い込まれている以上、選り好みは出来ない。

こんな状態で下手な危険種を襲おうものなら、不意に受けた一撃でそのまま昇天しかねない現状を打破する為には仕方のない事だ…………それに、下手に強いのを刺激して全力を振るおうものなら、死神(ハク)がやって来て今度こそ昇天させられかねないと言う実状もある。

 

「コフッ……そもそもだ、何故俺はここまでして駄女神の救出なんぞ……ああ、そうだった」

 

そう、俺は契約の為に駄女神を捕獲しに行く。

何故忘れていたのかは知らんが、恐らく疲れたのだろう。それだけだ。

 

今こうしてクソ不味い血を啜っているのも、ハクと行動を共にしているのも、契約を果たす為だ。

多少の傷なら幾ら不味くとも血を啜って浴びれば癒える。以前半殺しの憂き目に遭った相手と遭遇した時の為に、例え何かしらある度に命の危険を覚えるような目に遭おうが、その欠点を補えるだけの戦闘力を持つ輩とも同行する。

 

()()()()()であり、必要ならば俺個人の感傷は斬り捨てるべきである。

これだけは譲れないし、曲げる訳にはいかないのだ。

 

「…………」

 

「GAHYU?!」

 

そんな事を考えながらも、背後から獲物の頚を口で喰い千切り、爪で喉を裂く事で出される音を最小限に留めて血を啜る。

些か暗殺者染みていて気に食わないが、今はフェンリスヴォルフ程度の危険種でも真っ向から挑む訳にはいかない以上は仕方がなかった。

 

「…………まだ、足りない……グッ」

 

散々搾り取った血で殆どの傷はおおよそ快癒したにも関わらず、心臓の辺りだけが異様に痛む。

恐らく、この異常な治りの遅さから見て骨が見えるまで肉を抉って傷口が焼き潰されでもしたのだろうか?我ながら良く生き延びているものだ。一周回って呆れすら覚える。

 

「確かに、昔から…死に難い、性質だったが……あの、クソアマァ…………ガフッ、ゴハァ?!」

 

意識した瞬間にこれだ。

幸いにも、血を吐き出す事はなかったが、いい加減肉体が限界を迎えそうだった。

俺は不死身ではないのだから、急いで傷を塞がなければ命に関わる可能性は低くない……早急に、大量の血を絞らなければ…………

 

 

しかし、俺はこの時に気付くべきだったのだ。

 

【アは♪つぅかまえぇたああぁぁ――――】

 

痛みの原因が、一体どんなものだったのかを――――――

 

 

 

 

 

 

プラネテューヌ教会に備え付けられた女神の執務室

本来の使用者である筈のネプテューヌが滅多に使わない為か、それとも三年もの月日を犯罪組織に捕らわれているが為か……どちらが原因かは定かではないが、少なくない埃を被った執務机の隣に併設されている手入れの行き届いた小型の机の上を、本の上に乗ったイストワールはふよふよと浮きながら、ダンジョンや山が消し飛ぶような災難に見舞われたルウィーを除いた各国の代表(箱崎チカとグロウ)と共にネプギアから道中の報告を受けていた。

 

「―――アナザーさんはプラネテューヌに到着すると、列車の扉を蹴り破って何処かへ行ってしまいました」

 

「…………そうですか……そんな事が……」

 

報告を受けたイストワールは、顎に手を当てながら考える人ならぬ考える妖精のポーズを取り、何やら考え事を始めた。

 

「まあ、あの男は約束は破らん。放っておけばその内帰ってくるだろう……そんな事より」

 

そんなイストワールの様子を見て何かを察したのか、心配する事はないと述べたグロウは、ユニを見ながら何かを言おうと言葉を続けようとしたが――――

 

「ハク、大丈夫だった?アナタにもしもの事があったら、お姉様に合わせる顔が「いえ、大丈夫なので心配はご無用ですよ?チカ教祖」……あう」

 

「………………」

 

――――このような感じに、箱崎チカが大人の余裕とでも言うべき表情でグロウのセリフを遮りながらハクに声をかけ、途中からバッサリと斬られて撃沈した事で、声を掛けるタイミングを逃したグロウは心なしかしょんぼりしたような表情のまま、完全に固まってしまっている。

 

「…………確かに、今更こんな事を疑っても意味がありませんか…………」

 

ユニに声を掛けるのを計らずとも妨害されたショックで固まってしまったグロウではあったが、どうやらイストワールの悩みを解く程度の役には立ったらしい。

 

「とりあえずではありますが、今日の所はゆっくり休んでください。皆さんのお部屋もこちらで用意させていただきますので…………」

 

「あ、ちょ…いーすんさん?!」

 

考える妖精のポーズを解いてネプギアの方を向いたイストワールは、浮遊している高さをネプギアの顔の近くにまで調整してそれだけ言うと、有無を言わせずにそのまま何処かへと飛んで行ってしまった。


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