少女は命を結ぶ   作:合縁奇縁

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皆様初めまして。合縁奇縁と申します。今回は投稿者ではなく作者としての挨拶。
投稿するときより緊張はなかった! 推測するに他人の作品を預かるということに緊張していた模様。初めて書くので至らぬ点は多々あるだろうが、ご愛嬌と言うことで此処は一つお願い。あ、指摘されたら善処はするよ? 本当だよ、ボクウソツカナイ。


少年少女は箱庭を訪れる

 箱庭の上空。高度にして四千。そこに四つの人影が見える。

 ある者は哄笑をあげ、またある者は無表情に眼下を眺め、またある者はその状況に目を見開いて落ちていく。彼らに命綱やパラシュートなどは見当たらない。バンジージャンプでさえそんな高くから飛び降りないというところに四人はいるのに、その高さに対する備えはない。

 このまま落ちれば命はない。しかし取れる手段など普通はない。……そう普通ならばない。だが、この世界は普通ではなかった。魑魅魍魎、修羅神仏などの人外魔境が集う箱庭。

 落下地点に用意された緩衝材のような水膜を幾重も通って湖に投げ出される。

「え?」

 その水膜のおかげで四人全員が無時だった。だが、落とされた地点が湖、更に見知らぬ場所ということが致命的な状況を招く人物がいた。包帯で瞳を覆った少女。その少女にはそれが湖なのか、大海なのか、はたまた川なのか判断する手段がない。少女に分かるのは水場ということだけだ。

 瞳を閉じた少女は器用に立ち泳ぎをするがどちらに進めばいいのかが分からない。

「こっちよ」

「あ、ありがとう」

 そんな少女を見かねたのか一緒に落ちてきた人物が手を引いてくれる。

「此処……どこだろう?」

「さあな、まあ、世界の果てっぽいのが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねぇか?」

 他の二人である金髪の少年と三毛猫を抱いた少女は先に湖から抜け出しているようで現状の把握をしようとしている。しかし何も分かることはない。何せ四人全員にとって此処は知らない土地、更に言うならば知らない世界なのだ。なにせ箱庭と呼ばれるこの世界は、彼らがいた世界とは異なる世界、いわゆる異世界なのだ。異世界の存在を知らなかった彼らに分かることがあるはずもない。

「とりあえず同じ境遇にあることだし自己紹介でもしましょう」

 湖で少女を助けた人物が提案する。それに反対意見は無いようで頷く。

 提案者と言うことで正装らしき服装をした少女が名乗る。

「私は久遠飛鳥よ。それでそこの猫を抱きかかえている貴女は?」

「春日部耀」

 スリーブレスのジャケットとショートパンツの耀が飛鳥に促されて名乗る。

「そう、よろしく。次に貴女は?」

 湖から岸辺まで案内するためにつないでいた手をちょいちょいと引っ張ることで瞳を隠している少女を促す。

「……初見(はつみ)命結(みゆ)です」

 少しおどおどとした様子で名乗る。名前を言った時に体が強張り、手に力がこもる。手を繋いでいた飛鳥だけはそれに気付いたが何も言わない。

 格好としては白いワンピースというラフなもの。しかし目を引くのはその瞳を隠している包帯。飛鳥達は気になることであったが敢えて聞かない。

「それで、貴方は?」

 残る学ラン姿の金髪の少年に飛鳥は視線を向ける。

「どうも逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれ、お嬢様」

「取扱い説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しておけ」

 心からケラケラと笑う逆廻十六夜。傲慢そうに顔を背ける久遠飛鳥。我関せず無関心を装う春日部耀。この状況に怯えきっている初見命結。

 十六夜は軽く曲がったくせっぱねの髪の毛を掻きあげて確認をする。

「まず間違いないだろうが一応確認しておくぞ。お嬢様達にもあの手紙が?」

 飛鳥と耀が頷く中、一人手紙に心当たりがない命結は戸惑う。命結は飛鳥の手を軽く引っ張る。

「手紙って何のことですか?」

 そう言われて十六夜達は気付く。確かに手紙は不思議な届き方をした。不自然な軌道を描き鞄に入ったり、誰も密室の空間に投書されていたり、空から降ってきたりと不思議だった。だが勝手に内容を読み上げることはなかったし、点字であったということもない。瞳を包帯で隠してしまっている命結には手紙を確認する術がないのだ。

「あの手紙は勝手に人を此処に連れてくる?」

 耀の可能性の提示に十六夜は首を横に振る。

「それはあり得ない。内容も読むことを前提としていただろ」

 手紙は十六夜達に問いかけるような内容であった。それは読まれることを前提としており、勝手に連れてくるのであれば必要のないことだ。それに加えて十六夜は手紙が届いてすぐに開いたわけではない。暫く時間をおいて読んだのだ。手紙が勝手に開き、命結を此処に連れてくるとは思えない。

「あ、あの、その手紙の内容を教えてくれませんか?」

 命結の問いかけに代表して飛鳥が手紙の内容を教える。

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

 その才能(ギフト)を試すことを望むのならば、

 己が家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、

 我らの箱庭に来られたし』

「心当たりはない?」

「……ない、です」

 命結は本当に聞き覚えが無いか記憶を漁るがない。それは命結がイレギュラーだと示していた。彼女だけは招待されていない、もしくは招待のされ方が違う。

 その事実に命結は顔を青ざめさせる。彼女は自分が置かれている状況を見ることも出来ない。そんな中で自分だけが違うという事実は死に直結する可能性がある。

「安心しなさい。見捨てるなんてしないわよ」

 そんな命結を励ますように飛鳥が繋いでいる手を強く握る。命結はその手に縋りつくように握り返す。

 まるで母鳥になった気分だと飛鳥は苦笑する。

「……どうするの?」

「俺達で考えても仕方ない。招待したやつを問い詰めるとするか」

 頭を振り絞っても無い知識は出てこない。手掛かりもないのだから推測も出来ない。ただ一つ彼らに分かっていることは自分達を招待した何者かがいること。

「招待した人物がこの近くにいるのですか?」

 十六夜達は頷くことで答える。しかしその動作は尋ねた命結には伝わらない。代わりに命結の三人は草陰から自分達を伺っている存在に気付いていると分かる。一人分かっていない命結は首を傾げたままだ。

「へぇ、お前達も気付いていたのか?」

「風上に立たれたら嫌でも分かる」

 耀の答えに十六夜は興味を持ったように目を細める。風上に立たれて分かるということは、風で運ばれる何かを調べることが出来るということだ。しかし普通の人では到底できない。手紙にあったように手紙で呼び出された三人は才能(ギフト)がある。そう普通ではないのだ。

 十六夜が目を細めて耀に問いかけるようとする。だがそれよりも先に飛鳥が呆れたようにため息をつく。

「それ以前にあれは隠れていると言えないのではなくて?」

 草陰から覗くウサギの耳。飛鳥達が何かを言うたびにピクピクと動くその耳は。飛鳥達の様子を伺っている証拠だ。

「まあ、出てこないなら仕方ないよな」

 耀から視線を外した十六夜は地面を見渡し、手頃な小石を手に取る。小石であれば当たり所が悪くなければ怪我こそしても惨事にはならないだろう。

「出てこないなら当てるぞ?」

 これもまた普通の人であれば、だ。十六夜が軽い動作で投げた石は銃弾なんか比べものにならない速度で隠れている者の真横を通過する。そのまま石は隠れていた者の後ろに小さなクレーターを生み出す。

「……出てこないね」

「……出てこないわね」

 正確には出てこないのではなく、急に真横を通過した凶弾に顔を青ざめさせているのだが、不幸なことに見えているのは耳だけ。十六夜達の位置からは確認できない。

「次は当てるか」

「ちょ!? ちょっとお待ちを!?」

 十六夜が次の石を手に取ろうとしているのを見て、隠れていた者は慌てて飛び出す。

「殺す気ですか!?」

「峰打ちだ。問題ない」

「あの速度には峰打ちなんて関係ないのですよ! それに投石に峰があるはずないでしょう!」

 だが、十六夜はその者の言葉で止まることなく、石を拾う。そして再度真横を通過させてやろうと考え、隠れていた者を見る。

「ヤハハ、随分と変わった格好だな」

「十六夜、人の趣味を笑ったら駄目」

 隠れていた者は、ウサ耳をしたバニーガールの格好の女性だった。それを見て十六夜は哄笑する。耀がそれを窘めるが口元がにやけていることから悪ふざけであることは明白だった。

「これは私の趣味ではないのですよ!」

「その趣味は理解出来ないわ」

「私も着ようとは思わない」

「目の保養にはなるぞ」

 否定するが彼らは聞く耳を持たず、悪ふざけを始める。命結だけはその姿を確認できず、会話だけを聞いて首を傾げている。

「変態さんですか?」

 命結は素直に思ったことを尋ねる。そこに悪意は一切なくふざけているわけでもなかった。その分、女性の心に突き刺さる。

「ち、違うのですよ!!」

 女性は項垂れるが、それを十六夜達は許すような人物ではなかった。項垂れる女性に耀は忍び寄りそのウサ耳を根っこから鷲掴み、

「えいっ!」

「フギャ!」

 力いっぱい引っ張った。

「ちょ!? 触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で黒ウサギの素敵耳を引き抜きにかかるとはどういう了見ですか!?」

「好奇心のなせる業」

「自由にも程があります!」

 耀に対して喚く黒ウサギだがその耳に背後から新たな手が伸びる。耳を掴まれることで女性、黒ウサギは顔を引き攣らせながら手を伸ばした人物、十六夜の表情を伺う。軽薄な笑みを浮かべた十六夜を見て黒ウサギは冷や汗を流す。

「ま、まさかそんなことしませんよね?」

「そのまさかだ!」

 十六夜は容赦なくその耳を引っ張る。

 彼らは理由もなくこういうことをしているわけではない。遥か空高くに投げ出されて、湖に突き落とされた。そのことに憤りを覚えているのだ。しかし、最大の要因は彼らが問題児だということかもしれない。耀の言った好奇心と言うのは嘘ではないのだ。

 だが引っ張られる黒ウサギはたまったものではない。その痛みに声にならない絶叫をあげる。

「!?」

 それに反応したのは命結だった。視界が無い命結にとって音はとても大切なものだ。彼女は目を覆っている代わりに他の器官を研ぎ澄ませている。そこに黒ウサギの絶叫が届く。

 音の暴力ともとれるそれに命結は繋いでもらっていた飛鳥の手を離し、耳を押さえて蹲る。

「ふむ、思ったより頑丈だな」

「だからって引っ張らないで下さい!」

 黒ウサギの懇願を無視して十六夜は黒ウサギの耳を弄ぶ。

「十六夜君と貴女、ちょっといいかしら?」

 十六夜と黒ウサギの二人に能面のような顔をした飛鳥が問いかける。

「は、はい」

「お、おう」

 その表情を見た十六夜と黒ウサギは姿勢を正す。

「まず命結さんを見て何か言うことはないかしら?」

「「へ?」」

 二人は飛鳥に言われて耳を押さえて蹲る命結の姿を認識する。

「何か言いたいことはあるかしら?」

「あ~、すまん」

「わ、悪かったのですよ……」

 流石に十六夜もその様子を見て反省する。黒ウサギに関して言えば被害者なのだが、謝りたくなるような光景だった。

「さて、落ち着いたところで説明して貰おうかしら」

「そうだね」

 最初に黒ウサギの耳に攻撃を行った耀は何事もなかったように飛鳥に続く。それを見て黒ウサギは何かを言おうとして堪える。折角向こうから聞いてくれているのに、蒸し返すようなことをしてしまえば何時間かかるか分からないと判断したのだ。

「まず質問なのだけど、私達を招待したのは貴女なのよね?」

「YES。黒ウサギ達が招待しました」

「なら一応口上だけでも聞いておくか」

 黒ウサギが頷いたので十六夜達は聞く態勢に入る。ただ気に食わなければすぐに立ち去ると決めているため、座り込むようなことはしない。

「それでは、御四人様、定例文で言いますよ。ようこそ、“箱庭の世界”へ! 我々は御四人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせて頂こうかと召喚いたしました!」

 何故、三人しか招待していないのに四人いるのか、全員がギフトを持っているのか、同時刻に最後の一人を招待したのは誰なのか、そして彼らは戦力足り得るのか。

 黒ウサギはそのような疑問を全て頭の隅に押しやり、説明を始めた。

 




まぁ初めての作品だし、粗はたくさんあると思う。だからと言って放置なんてしたくない。だから活動報告で意見を書くところを用意します。お前の作品なんか何を言っても無駄だ、なんて言わずに何か言ってください。
次回は……うん、今月中にはなんとかするよ。多分。
誰かが読んでくれると祈りながら投稿!

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