ま た せ た な
ダブルクロス前の予習にモンハンクロスで遊ぶと、これがなかなか。後ポケモン楽しい。
あけましておめでとうございます。エタ作量産中の駄作家風剣です。どうぞ今年もご贔屓に。
理想と現実の差をどうしても埋められない新作(非公開)と、先を見通せなくなった優雅に見切りをつけ、今作執筆を再開。これを機にスランプからの
……本当はマテールまで進めておきたかったけれど。とりあえず投稿。
「あぁ、いたいた。早速ですが運ぶのを手伝ってください。私では少々無理があるので」
「?」
食堂を通りがかるなりそう声をかけてきたのは、白いと形容するには矢鱈と腹黒い少女であった。
「どうしたのかね、私は忙しいのだがな。火急の用があるとのことで、司令室に呼ばれて――」
「あぁ、それなら丁度良いですね。目的地も一緒ですし」
「む?」
見れば、食堂の一席に腰掛ける彼女の隣に倒れていたのは特徴的な左腕を持つ白髪の少年。吐血でもしたのだろうか、白目を剥く彼の口元からは赤黒い液体が溢れていた。
「……一体、どうしたのかね」
「新入りが死んだ!」「この人でなし!」「いや死んでねぇよ。……多分」等と騒ぎ立てる周囲を気に留めることもなく。
何があったのかを薄々と察しつつも事の顛末を尋ねた綺礼に、カレンは晴れ晴れとした微笑みを浮かべた。
「2、96……」
―――ギシッ。
「297……」
ギシ。ギシギシ。
椅子の背もたれ、その角に突かれた片腕が曲げ伸ばしされる度に、部屋に椅子の軋む音が響く。
「29、8……」
軋みを上げる椅子の真上で垂直の姿勢を崩すことなく片腕を曲げ伸ばしする少年は、衣服を脱いだ上半身から汗を流しながらも鍛錬を重ねていた。
イノセンスでもない右腕のみで全体重を支えるに留まらず、曲げ伸ばしまでしてみせる様子には常人が見れば愕然とさせられるものがあるのだろうが―――特筆するべきは彼が腕を突いている、二本の足のみで危ういバランスを保った椅子だろうか。
「299……」
右の前と後ろ、本来ならばあっという間に横へひっくり返ってしまってもおかしくない―――というよりもそうじゃないと寧ろおかしい―――支え方の土台にも関わらず鍛錬を続けるアレンは、僅かに目を細めた。
「300……!」
夜が明け窓から光が差し込む中、軽快な動きで椅子から飛び降りたアレンは大きく息を吐き出した。
かつて
「ふぅ……」
部屋に備え付けられた簡素なシャワー―――本部内には既に大浴場がある為らしい―――で汗を流し、タオルで体を拭いたアレンは部屋を出る。昨日二人の少女に城内を案内された中には団員達の使用するという大食堂もあった為、記憶を頼りにそこへ向かっていたのだが―――、
―――。
「これ、は……?」
歩みを進める中ふと耳に届いた音に、思わず足を止める。
―――美しい旋律だった。
決して狭い訳ではない城内に響き渡る透き通るような演奏。音源は……かなり、近いか。時折すれ違った団員達は聞き慣れているのかアレンのように戸惑うこともなかったが、皆一様に穏やかな表情を浮かべていた。
「えぇと、すいません。これは―――?」
「―――あぁ、新入りか。これを聴いたのは初めてか?」
「あ……はい。誰かが弾いているんですよね……?」
ふと通りがかった大柄の男性に尋ねると、彼は耳のヘッドホンに手をやって微笑を浮かべる。
「君も会ったと思うが……カレンだよ。彼女の弾くオルガンは素晴らしい」
「そうだったんですか!? なんか、意外ですね……」
割と最悪な初対面を果たした白い少女を思い浮かべて小さく呟くと、その言葉が聞こえたのか男性は面白そうに笑った。
「そういえば、昨日の時点で君は嫌がらせをされていたのだったな。それは印象も悪くなるか……ならば、一度見に行ってはどうだ?」
「成程……」
大聖堂にいるはずだ、との補足も受けてアレンは考え込む。
覚えている限りでは件の大聖堂は決して遠くはない。昨日はそこまで詳しく見れなかったのだし、食堂へ行く前に見に行くのも良いだろうと判断した。
「分かりました。ちょっと寄って行くことにします」
頷いた男性と別れたアレンは、しばらく演奏に耳を傾けると音の聞こえる方向へ足を進める。予想通りそう時間をかけることはなく、扉の開け放たれた大聖堂にはすぐに着いた。
「……」
僅かな逡巡の後、少年は開け放たれた扉から顔を覗かせる。
天窓からの日差しが差し込む、広大な大聖堂。荘厳な雰囲気を感じさせる空間には黒塗りの棺が複数安置されており、その奥には礼拝堂が広がっていた。
そこに――慈愛を弾く、一人の修道女の姿があった。
「――」
気付いていないのか、演奏は一指たりとも乱れない。瞑目する白い少女は来訪者に気を向けることもなく、細い指を動かして賛美歌を紡ぎ上げる。
それは――祈るような、演奏だった。
「……」
滑らかに動いていた指が止まり、演奏が終わった。席を立った彼女は、やがてどこか呆れたような視線をアレンに向ける。
「一体どうしたのですか、そんな所でずっと突っ立って。用があるのならばそこで長椅子にでも座っていれば良かったものを」
「あー……ははは」
気付かれていないものと思っていたが、どうも最初から気付かれていたらしい。思わず空笑いする少年に胡乱気な視線を向けたカレンは、やがてつかつかと歩み寄った。
「ようこそ、アレン・ウォーカー。……朝から礼拝に来たのですか? 感心ですね」
「いや、そういう訳じゃないんですけど……その、たまたま通りがかったので」
「……む」
(――あれ?)
何かしらの地雷に触れたらしい。アレンの言葉を聞いて端麗な顔立ちを不機嫌そうに顰めた彼女は、やがて嘆息しては落胆したように肩を落とした。
「そうでしたか……全く、嘆かわしい事です。仮にも聖職者の身でありながら、エクソシストの多くは信仰心と道徳を著しく欠いた者が多い……少しはティエドール元帥を見習って貰いたいものです」
「は、ははは……」
思わず彼の脳裏に
「そ、それで。ここで、毎日弾いているんですか?」
「―――えぇ。趣味の延長といったところですね。今や習慣じみたものになりましたが」
「へぇ……」
「……」
しげしげと彼女の弾いていたオルガンを眺めるアレン。ふと何か言いたげに自分を見つめてくるカレンに気付き、目を瞬いた。
「あの、どうかしましたか?」
「あぁ、いえ。通りがかったと言っていましたが……もしかして、まだ朝食を済ませていないのですか?」
「あ、はい。食堂に向かっている時、近くで演奏が聞こえたもので」
「……ふむ」
その細い指を顎にあてて何事かを考え込み始めるカレン。訝しげに少年が首を傾げていると、僅かな間の後に彼女は穏やかに微笑んでは問いかけた。
「であれば、一緒に行きませんか? ジェリーさんの料理、とても美味しくて――」
「行きます、行きましょう」
間髪入れずに答えては立ち上がったアレンに、思わずといったように目を見開いた少女は、次にはくすくすと笑う。こくりと頷いて座席から腰を上げた彼女の後ろについて、アレンも大聖堂を出た。
白い少女の口元に浮かんだ、底冷えのするような黒い笑みにも気付けずに。
「―――んぐっ」
がっがっ、むしゃむしゃ、もぐごっくん。
詰め込み、咀嚼し、飲み下す。その繰り返し。……
寄生型のイノセンスを有すると分かっていればまだ納得もできようが、食堂に居座る者の大半はアレンとは初対面である。細身の少年の口の中に放り込まれては消えて行く料理の数々を目の当たりにし、多くの者が戦慄の思いで視線を集中させていた。
「……いや、ある程度は分かっていましたが。それにしても、大した胃袋ですね」
「もが?」
驚嘆を滲ませた呟きは聞き取れず。聞き直そうとしたアレンは口内に食べ物を詰め込んだまま話すのは流石に失礼だと判断、ごっくんと音を立てて呑み込む。大盛りのシチューを飲み物同然に扱う様にはさしものカレンも苦笑を浮かべるほかなかった。
「むぐ……どうかしましたか?」
「いえ、何でも。それより――お料理がまた来たみたいですよ?」
「あ、はい――」
先程からずっとこんな調子である。
食堂を訪れたアレンが注文したのはデザートを含めた計17品。周囲から神田と呼ばれているエクソシストの青年との一悶着を起こした後に席に着いた彼は、運ばれてきた料理を次から次へと平らげていた。
……だが。
「――はい?」
眼前に置かれた瞬間にアレンの鼻腔を刺激したのは、想定を遥かに超える香辛料のニオイ。とある外道神父のリクエストを発端に開発されてから幾年、多くの団員達が膝を屈してきた灼熱が少年の眼を焼く。
「……あの、これは?」
「? 麻婆豆腐ですが。貴方が頼んだのでは?」
「いや、僕が頼んだのは普通の麻婆で……」
「?? これが普通のではないのですか?」
『『『(絶対違うッ!!)』』』
というか、邪悪な笑みが全く隠されていなかった。確かにこの瞬間、アレンと団員達は心の声を一つにする。
クスクスと嗤う少女に半眼を向けるが、こうしていても仕方がない。じりじりと皮膚を炙るような熱量を前にたらりと汗を流しながらも、少年は果敢に闘いへと臨む。
食べれなく、はない。その筈だ。やたらと禍々しい気配に錯覚さえ覚えそうになるも、これはあくまで食べ物である。青くなった団員達が『死神麻婆』だとか『新人殺し』だとか呟いているのも全て気の所為。それにこれはジェリーさんの作った料理、不味い筈がない。時間をかけて食べれば、きっと美味しく――、
「あ、でもさっきリーバーさんに呼ばれていましたよね。もうそろそろではないですか?」
「っ!!??」
ギョッと目を剥くと、つい先程科学班のリーダーから呼ばれた時間まであと数分だった。
「……これ、は」
「任務だと言っていましたから、遅れるのは相当不味いと思いますよ。エクソシストに任される仕事は一刻を争うようなものが大半ですから」
がっくりと肩を落とすアレン。自身の頼んだものではなかったとしても折角用意して貰った料理である、可能ならば温かい内に食べておきたかったが……リーバー達に迷惑をかけてしまうのも避けておきたかった。
「……ジェリーさんに声をかけてきます。リーバーさんの話が終わった後にでも時間を作って――」
「あら、諦めるにはまだ早いでしょう?」
「へ……?」
立ち上がろうとしたところを引き留められたアレンが目を丸くし、反駁する間もなく。
するするする――っ、と腕に巻き付いた緋色の聖骸布に、総身を縫い止められる。
「!? 動けなっ、え!? ちょ、カレンさん……!?」
為す術もなく困惑する少年の背後ににじり寄ったカレンが、そのまま絡みつくように彼を抱きしめる。首元から伝わる柔らかな温もりに、純情少年は顔を赤くさせた。
「まだ三分も残っているでしょう? 先程までのペースでいけば十分間に合う時間です。ほら、暴れないで口を開いて――」
「い、いやでも流石にこれは――っ、~~~~~~~~~!?」
それ以上の反論は許されなかった。
身動きを封じられた彼の蓮華を手に取った少女によって、料理長特製麻婆――通称死神麻婆を、何の容赦もなく口内に突っ込まれたからだ。
「――、――ッ! ~~~~~~~~!!」
「あら、思いのほか勢いが良いじゃない。そういえば、さっきはドライカレーなんかもあっさりと食べていたような……もしかしたら、新たな同士が増えたのかも知れませんね、ふふふふ。はい、あーん」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!??」
ちなみにこの間、カレンは終始アレンと密着している。教団屈指の美少女にゼロ距離に近い状態で料理を食べさせて貰っているという男ならば憤死も間違いない状況であったが、少女の方は悪意に満ち溢れた笑みを浮かべ、少年は時折頬に当てられる熱々の蓮華や間断なく口内を蹂躙する麻婆に完全に涙目になっている。それを見て羨む者など皆無であった。
「
「人語を発音してください。ふふ、涙目になっちゃって。やめてください、そんな――そんな顔をされたら、余計虐めたくなっちゃう」
「――――!!??」
興奮したように頬を上気させて蓮華をつぎ込んで来るカレンに赤くなったり青くなったり、また赤くなったり。
声にならない悲鳴は、やがてか細くなって。
二分も過ぎた頃には、空になった皿の前で灰になる少年の姿があった。
……カレンの補助(強制)もあり、見事麻婆を完食してのけたアレン。
最後に彼に止めを刺したのは、練乳とコーラ、生クリームをブレンドしたカレンの飲ませたジュースだったという。