愉悦神父はエクソシスト   作:風剣

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今話の更新までに決めたこと。
◦カレンの主人公(ヒロイン)化確定。難易度はベリーベリーハード。時々ルナティック。
◦死亡キャラ変更有り(減るとは言ってない)。
◦ラビに優しいようで、でもやっぱり厳しい世界。


人並みの良識を持ってますか? 私は捨てました。これからはがっつりダークなファンタジーを書く所存。書きたい。硝子の心、良識という名の枷を持っている方はこの先を読むのはお控えください。
残酷な描写のタグを活躍させる予定。あ、でもまだ土翁と空夜のアリアはまだマシですからね。



其処に光は在るか

 

 

「ンフッ」

 

 ブチッ。

 

「ンフフ、フフフ。フフフフフフフフフフフ」

 

 ゴ、バキ、ゴリゴリ、ボリ。メリリ、グチャ。

 

 悪くない歯応えだった。

 咀嚼を繰り返す中で硬質だった骨は粉々に砕け、それに守られていた肉塊は口を動かす度に粘ついた音を上げる。僅かに残るゴリゴリとした感触も、生まれて(創られて)初めての『食事』に対する新鮮さを感じさせるには十分で。

 

 進化してから一度はやってみたことを実践し、(いびつ)な歓びを文字通りの意味で噛みしめたAKUMA(アクマ)は、ケタケタと耳障りな笑い声を発した。

 

「えっとーこういう時なんて言うんだっけなー。……あっ、そうそう! ご馳走さまでした! プッ、ヒャヒャヒャヒャ!!」

 

 滑らかにそう口にすることができたのは、進化によって獲得した知性故か、あるいは生前の残滓か。

 ――尤も、もしソレが生前と変わらぬ理性を有していたのであれば。死者の骸から(・・・・・・)頭部を千切っ(・・・・・・)て口の中に放り込む(・・・・・・・・・)などという真似など、それこそ死んでもしようとはしないだろうが。

 

「ペッ、ペッ。ヒヒヒ、さてどうするかなあ。あの白い連中追って亡霊ちゃん探すのも面白そうだけれど、能力を試してみるのも面白そうだし……あれ? そういえば私の能力ってなんだろ?」

 

 

 アクマに摂食などという概念などは存在しない。そんな機能など存在しないのだから当然だ。先程まで口内で哀れな『獲物』の咀嚼を繰り返していたのも、単なる興味本位による気紛れといった要因が強い。

 だからこそ、一度試してしまったら後は飽きが来てしまう訳で。

 粘ついた噛み心地もどうでも良くなって吐き捨てた肉塊――つい先程まで交戦していた白い連中(ファインダー)からは隊長と呼ばれていた男の頭部だったものを踏み潰し、道化(ピエロ)を模ったアクマは周囲の下位個体(レベル1)を従え動き出す。

 

 その、直前。

 

「ふぅん。初めて見たよ、『皮』を脱ぎ捨てたアクマってそんな姿してたんだ。千年公もまあ、随分と面白いものを作るもんだ」

 

「?」

 

 アクマ達を見下ろす、一つの影があった。

 

 血のように赤い髪を伸ばした、痩身の青年。

 食べても不味そうだな、とアクマはその亡者じみた青白い肌を見遣ってつまらなさそうにぼやいて――数瞬後に、そんな自身の思考に疑問を覚えた。

 

 待て。

 待て、待て待て待て。

 何故今、自分はこの男を殺さなかった?

 

 AKUMA(アクマ)は殺戮機械である。

 その評価にはなんの誤りもない。人間を殺し、白いのも殺し、もし見つけられたら黒いの(エクソシスト)も殺す。そこには何の躊躇いも、迷いもない。それこそが自分たちの機能であり、役割であり、悦びなのだから。

 

 だが。

 今この瞬間でさえも、レベル2は眼前の青年に対する殺意を抱くことができなかった。

 無論それにも限度があるだろう。己の内にある飢餓感にも似た殺戮衝動が一定のラインを超えれば、確実に自分は殺しにかかる。間違いなくそう断言できるだけの確信がアクマにはあった。

 

 ……しかし。其処には確かに、普段獲物とするニンゲンとは違うナニカがあって。

 それは、まるで同族と顔を合わせているかのような――、

 

「……なあ」

 

「ん?」

 

 気付けばアクマは、奇妙な男に疑問を投げかけていた。

 

「お前、なに?」

 

「……」

 

 その言葉に、一瞬だけ悩んだ様子を見せて。

 

 男は、血みどろの世界の中心で告げた。

 

「……吸血鬼。お前等アクマと同じ、人類の敵だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――来たな。

 

 騒々しい汽笛が耳朶を叩く。

 吹き付ける突風にコートを翻させる男。眼下を勢いよく駆け抜ける目当ての汽車を見定め、足場にしていた鉄骨から躊躇なく跳躍――着地。押し通した無茶に見合うだけの風圧が全身を叩くが、顔色一つ変えることなく体勢を立て直す。

 

 背後から立て続けに鳴り響いた落下音。後方を見遣れば、自身と同じようにして車体に着地したエクソシスト達が風圧を凌ぐようにして這いつくばっていた。

 

「と、飛び降り乗車……」

 

「いつものことでございます」

 

 黒の教団の慣例に唖然としたように汗を流すアレンに白い装束を纏う探索部隊(ファインダー)の団員が応じるのを一瞥し。

 すっくと立ち上がって車内に入り込む経路を探す綺礼は、愉しげに口元を緩めた。

 

 

「……さて。愉快な旅路になりそうだな」

 

 

 当然ながら、汽車に潜り込んだ先で待ち受けたのは、泡を食う乗務員との一悶着であった。

 乱暴極まる無賃乗車を果たした不審者四人組、彼らが侵入したのは一等車両である。安全性云々の問題は勿論、このような暴挙など許してしまってはわざわざ高い金を払って汽車を利用している上流階層の人間に対して立つ瀬がない。乗務員たちが慌てふためいた様子を見せるのも致し方ないことではあった。

 だがそれもローズクロスを見せれば一瞬のことである。ヴァチカンの権威にものを言わせ客室を確保した綺礼たちは、時折揺れる汽車の中で今回の任務に関する資料に目を通していた。

 

「……?」

 

 視線を感じたのは、その時である。

 初任務に臨む新人に対し同伴する神田が舌打ちを交えながらも律儀に語ったイノセンスに関連した説明を聞き終えたアレンが、資料から顔を上げて神父を注視していた。どう切り出したものか決めかねているのだろうか、困ったような表情で眉を顰めている。

 

「……どうしたのかね。資料について、何か気になることでも?」

 

「あっ、その……はい。資料のあちこちに出ている、死徒(・・)っていうのは一体――? その、アクマとは違うのは何となく分かるんですけれど……。確か、司令室でも話に出ていたような」

 

「ほう」

 

 思わず驚嘆する。

 目の付け所は悪くない。そも、それこそが綺礼までこの任務に回された唯一最大の理由である。適合率の高い寄生形の対AKUMA(アクマ)武器を有するアレンに、連携面での不安こそあれど元帥たちを除けば教団屈指の実力を持つ神田――本来ならばまず問題なく任務を達成できるであろう組み合わせに、わざわざ代行者を組み込む理由などまずない。彼らをして任務の達成が困難と判断されたこの任務における不確定要素こそが、確認された死徒の存在であった。

 とはいえ、そんな事情などはどうだっていいのだ。綺礼が心から驚愕したのは、彼に質問したアレンの言葉にあったのだから。

 

「大したものだな……、あれ程の極限状態で意識を保っていたか。激辛極甘の組み合わせは私でも相当な苦痛だろうと思うのだがな」

 

「変なこと思い出させないでくださいよ!?」

 

 どうやら半日前の出来事は少年にとって癒え難いトラウマとなったらしい。涙目になって絶叫する彼を嗤いながらあしらいつつ、綺礼は司令室での一幕を思い返した。

 

 

 

『パトラッ●ュ――僕、もう疲れたよ』『マナ……また逢えたんだね――』

 食堂にてカレンから事の顛末を聞いた綺礼は笑顔で少女の脳天に手刀(手加減済み)を打ち込むと、目を潤ませて悶える少女を置いて司令室へ足を踏み入れた。……昏倒したアレンを背に担いで運ぶ間、うんうんと唸る少年の譫言を聞くのは、中々に痛快だったと明記しておく。

 

『くっ、くく……! あぁ、本当に愉快なことだ。話を聞いた時は、何の心境の変化がと思ったが――これ程の逸材だったとは。導師の眼力には恐ろしいものがある……』

 

『おー、来たか来たかっ、て……え、どうなってんの?』

 

 ――アレン君!? ちょ、生きてる!?

 見れば、一目で生死を疑われてもおかしくない顔色であった。背から下ろした少年をリナリーが甲斐甲斐しく介抱するのを尻目に肩を竦める。

 

『娘に、麻婆の洗礼を』

 

『え゛』

 

 一言で伝わる麻婆の恐怖である。

 ……綺礼とて、カレンのように味覚が破綻している訳ではない。もし麻婆の後に、彼女が飲むような砂糖塗れのドリンクを口にすることとなれば悶絶不可避、脳髄を蕩かす形容し難い苦しみに襲われることは確かである。あまりの恐ろしさにぶるりと背筋を震わせるも、少年の身に降りかかった不幸を想像すれば不謹慎であると知りつつも腹を抱えて爆笑してしまいそうで。

 二人を出迎えたリーバーは、そんな綺礼に若干引きつつも己の責務を果たすべく背後を振り返った。

 大量の書物や資料の散乱した司令室、今にも書類の山に埋もれてしまいそうな机にうつぶせになって爆睡する青年に声をかける。

 

『室長、起きてくださーい』

 

『んごー』

 

 しかし昨晩の徹夜が祟ったのだろうか、リーバーが頭部を揺さぶろうとも殴ろうとも教団最高責任者は目を覚ますことはなかった。嘆息した苦労人は、面倒そうに耳元で囁く。

 

『……早くしないと綺礼さんに起こされちゃいますよー』

 

『うぉぉぉおおおおおおおおおああああああああああああああああああああっっ!!??』

 

『『『……』』』

 

『いやあ最近はこのネタが良く効いてなあ。おはよ、室長。早速だけど仕事を――』

 

 エクソシスト達の咎めるような視線がざくざくと突き刺さるが、そのような些事を気にする綺礼ではない。それにしても素晴らしい起きっぷりだったと愉悦する中、だらだらと汗を流すコムイは眼鏡をかけなおすのだった。

 

 

 

「……ふむ」

 

 そういえば、あの時任務についての詳しい説明はされていなかったか。アレンは勿論、記憶が確かならば神田にも死徒との交戦経験はない筈である。一度細かく説明しておいた方が良いかもしれない。

 

「……その。何か今、物凄く不毛な回想があった気がするんですが」

 

 少年の戯言を気のせいだろうとあしらい。僅かに考え込んだ綺礼は、一つだけ簡単な問いを投げかけた。

 

「死徒について語るのは構わないが。取り敢えずは、基本的なことから確認するとしようか。……そうだな。『聖堂教会』という組織については、どの程度の知識がある?」

 

「?」

 

「……黒の教団と同じ、教会の裏組織だろう。確か、矢鱈と信仰深い連中の集まりだったか」

 

「寧ろ向こう(こちら)の人間からしてみれば、神も碌に信じていない者すら居る組織が存在するなど認めたくもないだろうと思うがね……。まあ、信仰が行使する秘蹟の力量と直結することもそう珍しくはない。外部からそう見られるのも当然の帰結ではあるか」

 

 神田の言葉に鷹揚に頷いた綺礼。進んでいく話に若干置いて行かれそうになりながら、疑問符を浮かべていたアレンも問いかけた。

 

「えっと、よく掴めないんですけれど……その聖堂教会は、黒の教団とどういった違いがあるんですか?」

 

「歴史があるな」

 

 即答であった。

 組織の勢力図を表すには足りないものの、間違ってこそはいない答えである。黒の教団が設立されたのは一〇〇年前……長い目で見るならば比較的最近のことである。対し聖堂教会が今在る形をとったのは五〇〇――いや、かつて救世主に付き従った聖人やその影響を受けた信徒が前身機関として機能していたことを考えれば一〇〇〇年単位も前になるか。

 そしてその勢力もまた歩んできた年月に見合う大規模なものである。黒の教団も聖堂教会の数ある部署の一つとして認識するのが適切であるといえた。

 

「当然ながら、その繋がりも密接だ。千年公と彼によってばら撒かれたアクマは一〇〇年の中で世界的な脅威となった。イノセンスの回収、千年公の率いる軍勢の撃滅は今や最重要案件の一つとして扱われている。私も一時期籍を置いていた第八秘蹟会――聖遺物の収集、管理を目的とする部署などが良い例だな。世界中に散らばる彼らは、探索部隊(ファインダー)と並んで教団の重要な情報源となっている」

 

 前置きはここまでで良いだろう、と。淡々と口にした綺礼は、やがて二本指を立てる。

 

「聖堂教会の掲げる目的は大きく分けて二つ。一つは、世界中のあらゆる秘蹟の収集・管理。そして――異端の撲滅」

 

「……」

 

 ピクリと神田が眉を跳ね上げる。アレンもまた不穏な響きを感じ取ったのか真剣に神父を見据え固唾を飲んでいた。

 

「異端といっても、別に異教徒や特定の民族のことを指す訳ではない。在るべき道を踏み外した魔術師や、人類を食い物にして世の理を乱す怪物などが挙げられるな」

 

「死徒……吸血鬼は、後者に当て嵌まるのか」

 

「吸血鬼って、え――きゅ、吸血鬼!?」

 

「物語に登場するような幻想種(ドラキュラ)とは異なる点が多々あるのだがね。グールやゾンビの方が在り方としては似通っているものがある」

 

 ――数十年前から、死徒の力は著しく高まったと第一線に身を置く神父は語る。

 契機となったのは千年伯爵の到来。彼の手によって世界中に出没したアクマによって人理は過去最悪の域まで乱され、混迷に陥った人の世で吸血種はその力を大いに高めた。人類の天敵は今や単騎で街を都市を沈めかねない程の一大勢力と化し、聖堂教会の修羅――代行者を動員した殲滅作戦も成果を挙げきれない状況が続いている。

 一方で、伯爵の率いる軍勢《アクマ》もまた量産、進化を続けている。お先真っ暗――とまでは、流石に言わなかったが。事の深刻さはアレンも理解できたようで、左手で作る拳を静かに固めていた。

 

「……それで?」

 

 眇められた眼に内包するはどれほどの覚悟か。背の鞘に納められた日本刀――対AKUMA武器『六幻』に軽く手を掛ける神田は、端的に問う。

 

「どうすれば死徒は殺せる。首を落とすか、心臓か。吸血鬼だろうがなんだろうが関係ねえ、のこのこと出てくるようならぶった斬ってやる」

 

「……その意気は心強いのだがね。少しばかり、いやかなり大きな問題がある」

 

「あ?」

 

 皮肉気に歪められた口元。射殺さんばかりの鋭い視線にまるで堪えた素振りも見せず、綺礼は愉快そうに嗤った。

 

「対AKUMA武器は死徒にも有効だ。上手くいけば殺すことも可能だろう、が――それも精々一度が限界。そして一度しか殺せなければそれで詰みだ。万一死徒と単独でぶつかるようなことになれば、君たちは全力で撤退したまえ。

 

   ――相手が、それを許すような生温い手合いであるとは、到底思えんがね」

 

 




【愉悦☆ダイアリィ】
「リナリーが集団に■■■■(自主規制)■■■(ピ――)されて■■■■■(ピ――――)で帰ってこないらしいぞ」
「、。*#r&9s¥y☆●ぁッッ!!??」

綺礼orカレンがコムイを起こした場合。過呼吸を起こして割りと命の危機に陥るのでここ暫くは止められている。

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