Re:ゼロからはじめる俺のハンター生活は間違っているのだろうか 作:名無し@777
「由比ヶ浜。お前が選んだ武器はよりによってそれか」
「うん! なんかしっくりきたんだよね!」
「由比ヶ浜さんらしいと言えばいいのかしら……」
森丘にて、大地を駆け巡る三人の分身。
一人は弓を。一人は片手剣を。そして、もう一人は───ハンマーを。
由比ヶ浜が選んだ近接武器はなんとも言い難いハンマーという打撃系武器だった。
いや、ハンマーを否定するわけではない。ピヨらせたり、連打で大ダメージ狙うことだって出来る武器なのだから。
でもさ。大剣とか、スラッシュアックスとかメジャーな近接武器があるじゃん。エリアル溜め斬りとかで総崩れだって狙える武器よりも、何故にマイナーとも呼ばれるハンマーにしたのか、疑問を感じずにはいられない。
「まぁ見ててよ! ばーんっと倒しちゃうから!」
「そうか。死なない程度に頼む」
「いやいや、倒すのが目的じゃん!」
「俺、片手剣でオチたくないんだ。堪忍してくれ」
「?」
「由比ヶ浜さん。気にしなくていいのよ、貴女だって成長しているはず。自分に自信をもって殺りなさい」
「おいなんか文字おかしくなったか? 後衛で安全確保できるようになったからって余裕かましやがって……」
「比企谷くん、貴方は私たちを信じてバックアップしなさい。ああ、モンスターと間違えて打ってしまったらごめんなさいね」
「なにそれ俺の分身ですらグール化してるの? つか、それはもう別のゲームだろ……」
「あ! もしかして私のこと馬鹿にしたでしょ! ヒッキーのアホ!バカ!ヒッキー!」
今頃気づいたのかよ。つか、俺のあだ名暴言になるんですかね。
由比ヶ浜を馬鹿にしたネタで和気藹々と森丘を闊歩し、エリア3の奥地にたどり着いた時、BGMは緊張感あるものに変わる。俺の分身は竦み上がり、辺りを見回す。カメラロールを上部に向ければ、案の定、紅色の翼を持つ、 鳥竜種に属する大型のモンスターが俺達を見下ろしてた。
ゲーム機を握る手は汗ばみ、鼓動が早くなる。それは、俺だけではなく他の二人も同じことだろう。
待っていたぞ、生徒達よ。
そう言っているかの様にイャンクック先生は土煙をあげ、大地に足をつける。数回足踏みをした後、俺達をつぶらな瞳で見詰めてくる。
「由比ヶ浜さん、比企谷くん、各々の役割を果たして頂戴」
「ああ、俺は二人のバックアップを。由比ヶ浜は」
「殴りにいくんだよね!」
「え、ええ。私はダメージディーラーとして狙撃を開始します。後衛は援護役が鉄板ではあるけれど、比企谷くんに任せます」
「おう」
打ち合わせは終わったかね?
イャンクック先生は首を傾げて、問いかけてくる。
ああ、終わったよ。
各人、武器を構え、行動で答えを返す。
では、試験開始だ!
『クワァ、クワワワァァァァァ!!』
先生の咆哮によって、最後の卒業試験は幕を開けた。
先手は俺達、雪ノ下の牽制射撃から始まった。近からず、遠からずといった立ち位置で、雪ノ下の分身は弓をしならせる。放たれた矢は先生の顔に直撃。鮮血が吹き出る。
二射、三射撃と連続で弓は放たれ、的確に先生の顔を射抜く。
流石は雪ノ下だ。淀みがない。
お返しとばかり、先生は火球を飛ばしてくる。俺達は分散し、先生を囲んだ。
先生の前方に位置する由比ヶ浜は果敢にも力を溜めながら懐へ潜り込み、溜めた力を解放する。先生の顔面目掛けて、自身を軸にして回転し、ハンマーで殴る。殴る。殴る。
先生の後方、つまり由比ヶ浜と対面していた俺には、その顔はあり得ないことにも、笑っているように感じた。
猟奇的に見えてしまうのは俺だけなのだろうか。
隣から物音ではない、壊れた機械のような音がする。あれ、3DX 壊れたかな。構造上頑丈なはずだが。
「えへ、えへへへへへへへへへへへへへへへへへ」
聞こえない。八幡何も聞こえないから。
雪ノ下さん、大丈夫ですか、射撃乱れてませんか、私の気のせいですか。
回転が終わったと思ったら今度は立て続けにハンマーをふり押して先生の頭をつぶす。
『ゆ、由比ヶ浜くん、果敢なことは良いことだが無謀な突撃は感心しな、ちょ、痛い、痛いって!!』
聞こえる。先生の鳴き声から非難の言葉が。
だが、由比ヶ浜はそれでも眈々とハンマーを振るう。
その姿は分身にも本体にも狂気をかもし出していた。お馬鹿さんな雰囲気は得体の知れない『なにか』へと染め上がっていく。
恐い。恐すぎる。
これが後に伝説となるマッドクラッシャー由比ヶ浜誕生の瞬間だった。
由比ヶ浜の顔面潰し、雪ノ下の射撃の嵐
から逃れようと、先生は俺に突進してくる。ここで成長を見せて無いのは俺だけ。あの味方殺し由比ヶ浜ですら成長を遂げたというのに、やれば出来る子ただやらない子の俺が何もしないのは駄目だ。
先生が突進のモーションを取る前、俺は武器をしまわずに罠を仕掛けていた。
片手剣の長所、武器をしまわずに道具が使える機能を使ったのだ。仮に途中でタゲを俺に変えたとしても盾がある。
片手剣まじ万能。
先生はしっかりと罠にかかり、胴体を地面の穴へ埋め、顔だけを突き出した格好になる。
この隙を逃す者はおらず、斬撃打撃射撃の嵐が先生にふり掛かる。
この時は三人とも同じことを思っていたはずだ。
いける、と。
由比ヶ浜の仲間殺しも発動せず、雪ノ下の冷酷無比な射撃によって、先生の体力は残り僅かといった処だ。必勝とまではいかないにしても、俺がバックアップしている限り敗けはないとたかを括っていた。
それが、あの窮地に立たされる理由になると解ったのは、先生が罠から抜け出して五分後のことだった。
次回は888人で!