Re:ゼロからはじめる俺のハンター生活は間違っているのだろうか 作:名無し@777
面白い、頑張ってくれ!
感想や評価を着けてくださった方から励まされ、この上なく嬉しいです。
また、作中の内容に関して意見をくださる方や面白い感想をくれる方、心の支えになっています。
そして、誤字報告くれる方。 お名前を出すのは憚れたため、公開しませんが、私の浅はかな文章と異常に多い誤字を指摘してくださり、ほんっっっとうに助かっています。
これを見て下っている方々に、全ての読者と作者に感謝しながら、今日も明日もこれからも、私は頑張ります。
イャンクック先生の体力は残り僅か。それに対して、俺達はアイテムにも気力にも十二分に余裕がある。
今しがた、罠から抜け出した先生は口から涎を垂らして疲れを露にした。
「二人とも、好機よ。安全マージンを取った上で攻めましょう」
「うん!」
「おう」
雪ノ下は現状を見る限り正確な指示を出したと思う。俺も同じ判断を下した。ゲームにおけるアルゴリズムや定石、定番の流れをとったものだ。だが、モンハンはリアリティある世界観を再現していることを失念していた。それは世界設定であったり、情勢であったり、人の細々した動きであったり。細部に渡って『現実的』な要素を練り込んでいる。ファンタジーであるからこそのリアリティ。他の奴等がどうなのかは知らないが、俺はそれに魅せられ、モンハンを始める決意をした。他にも邪な企みがあったのはあるがな。
リアリティを追求するこのゲームには、敵であるモンスターにもそれが当てはまる。
一つ、問題をだそう。
我々人間は、命ある生物達は生命の危機に瀕した時、どうするか。
答えは、足掻く。
死にたくないから死に物狂いで足掻くのだ。
それがリアルであるならば、ゲームの世界で生きる彼等モンスターも同じこと。
イャンクック先生は先刻まで垂らしていた涎の変わりに、火を吹き始めた。
「しまっ――!」
た。と、言い切る前に俺の分身は吹き飛ばされた。犠牲者が俺だけならば良かった。しかし、急激な展開に二人は対応しきれていない。
イャンクック先生は二倍速で動き回り、二人を翻弄する。時には突進を。時には回転攻撃を。
一つ一つの攻撃力は先生の怒りとともに跳ね上がっている。今の先生の攻撃を全て捌き切るほど二人の腕は上がっていなかった。遂に雪ノ下、由比ヶ浜共に甚大なダメージを受け、地に転がる。三人とも初期装備であるが故に、ほぼ直でダメージを通ってくる。あとポポの突進で死亡するまでに、俺達は追い詰められた。
イャンクック先生は我を忘れ――
『おまえらほんまにええ加減せえよこらこのいてまうぞわれぇぇぇぇ!!!』
――地に伏せる雪ノ下と由比ヶ浜に火球を放った。
「「ごめんなさい……」」
二人は画面から目を反らし、唇を噛み締めるように謝罪の言葉を吐いた。
だが、その言葉に意味はない。
「あ? なんだって?」
「なんだってって……! 一オチ、由比ヶ浜さんと合わせて二オチしてしまっ……え!?」
「ゆきのん、これは……!」
画面の向こうではなんと、由比ヶ浜と雪ノ下の分身はベースキャンプに放り投げられずに、今この瞬間も、エリア3で火達磨になっている。
「なんでっ、わたしとゆきのんは確かにブレスを!」
「……比企谷くん、貴方、何かしたわね」
雪ノ下は冷静に状況を把握し、答えを知る俺に問い詰めてきた。
その通り。
俺はこの時のためだけに一徹したんだからな。
「ただ、回復薬を飲んだだけだ。広域化を着けてな」
俺はニヒルに笑い、雪ノ下が溜め息を吐く。
広域化。モンハンに数多く存在するスキルの一つだ。このスキルは発動者が回復すると同時に仲間も同様に回復することが出来る。バックアップを任された俺は、このスキルに目をつけ、昨晩、寝ずにひたすら錬成したり狩りに行ったりとモンハンクロスの世界を駆け巡った。装飾品を着けることは躊躇われ、お守りだけで広域化スキルを発動する希少価値の高いもの。半ば諦めかけていたが、昼休みにトイレで錬成結果を見てみると奇跡的にも俺が求めていたものが完成していた。
「いつの間にか初期装備縛りで先生に挑む事になっていたけれど、貴方はお守りは範疇外だと言いたいのね。まったく、三年間たっても貴方のひねくれた考え方は変わらなかったわね」
「はっ。人が簡単に変えられるかよ。変えられたら世界統一でも出来るわ」
「貴方は少しくらい変わる努力をするべきだわ。でも、そうね。三年間貴方と関わってきたけれど、貴方のその考え方、嫌いじゃないわ」
柔和な笑みを浮かべて、雪ノ下は優しくそう言った。
嫌いじゃない。当初は問題しかないと、認めてくれなかった俺の考え方は三年間掛かってやっと嫌悪感を抱かなくなったレベル。
僅かな肯定。
俺は雪ノ下の一言に、少しばかり救われた気がした。
「……結局は変えなきゃならんとでも言いたいだろうが、生憎変える気はないからな」
「あら。誉めれば屍も木に登るものと思ったのだけれど、無理だったかしら」
「俺死んでないけど。この眼とかDHA豊富そうだろうが」
「ヒッキーもゆきのんも緩みすぎ! まだイャンクック倒せてないんだよ!」
そうだった。
由比ヶ浜の叱咤で本来の目的を思いだし、画面に視線を戻せば、由比ヶ浜の分身が一人でイャンクック先生(怒)を引き付けてくれていた。
「悪い。んじゃ、再開だ。そろそろ先生の授業を終らそうぜ」
怒り狂う先生は暴れまわるが、三人で攻めれば渡り合えないことはない。タゲを俺か由比ヶ浜が取り、回避に専念。その間に他の二人が攻撃を加えれば自ずとダメージは蓄積されていく。
あとは、俺が二人の体力を管理すれば落ちることはない!
アドレナリンが出過ぎたのか、俺はイャンクック先生の攻撃モーションを見誤り、回避行動が一歩遅れてしまう。
一撃死は無いにしても手痛い深手を負うのは間違いないだろう。
攻撃を食らった後の事に思考を張り巡らせていると、雪ノ下が放った矢がイャンクック先生を怯ませ、由比ヶ浜が俺をハンマーで打ち上げる。
由比ヶ浜の行動は無意識にやった訳でなく、俺を助けるために意図的でやったものだろう。
「すまん、助かった」
「うん、次来るよ!」
「さっさと準備しない。トロ谷くん」
軽く言葉を交わし、先生に追撃を加える。
狩りを開始して十五分経過。遂にイャンクック先生は足を引きずり、巣窟に飛び去っていった。
「なぁ、一つ提案があるんだけどいいか」
「なにかしら?」
「うん、どうしたの?」
「捕獲しよう。幸いにも落とし穴しか使っていないからな。シビレ罠に引っ掛けて麻酔玉を投げれば終わりだ」
「わたしは別にいいけど、なんで捕獲するの?」
「単純に報酬量が多くなるってのもあるが、この試験。完璧に終わらせたいと思ってな。どうだ?」
「私も賛成します。捕獲すれば満点で心置き無く卒業できるもの」
俺達は方針を狩猟ではなく捕獲に変え、飛竜の巣窟に足を運んだ。
暗い洞窟の奥地。段差の上でイャンクック先生は療養していた。鼻からシャボン玉を上げ、気持ち良さそうに眠る先生をシビレ罠で起こすのは気が引けてしまう。だが、これは狩り。時には心を鬼することも迫られるのだ。
「比企谷くん、まずはランポスの掃除をしましょう。後々で面倒だわ」
巣窟にはランポスと呼ばれる小型モンスターが数匹存在している。
コイツらは本当に邪魔だ。ランゴスタよりかはいいが、ドロップキックなんてされた時には「ああああああっ!!」と発狂したくなる。
「ランポス倒すの? なら、わたしに任せて!」
モンスターを倒すのに快楽を覚え始めた
由比ヶ浜は瞬時にランポスヘ近づき、殴り掛かる。
このゲームで穏和な由比ヶ浜が変わってしまったらどうしよう。
嫌な予感が脳裏によぎるが、今の由比ヶ浜を止める道理はない。止める道理は無かったが、止めておくべきだった。
由比ヶ浜が殴り飛ばしたランポスが一匹、深い眠りについている先生のもとへ跳ばされていった。そして、起きてほしくなかった事態は往々にして起こる。
ランポスは厭らしい笑みを浮かべて、先生に尻尾アタックをかましてくれた。
おう? なんじゃなんじゃ。
イャンクック先生は重い腰を上げ、目を覚ましてしまったのだ。
「こうなったら、私と由比ヶ浜さんで足止めを行います。その間に比企谷くんは罠を設置して頂戴」
「う、うん! ごめんね」
「おう。なんとかなるから大丈夫だ」
イャンクック先生に突撃する二人、罠を設置するのに時間はそう掛からない。
ものの数十秒で設置し終えた俺は、二人に声を掛ける。雪ノ下は既に此方へ向かってきているため、実際には由比ヶ浜へ向けた言葉になった。
「設置終わった。こっちにきてくれ」
「……。えへ」
「おい、由比ヶ浜?」
「えへへへへへへへへへへへへへ」
途中で見せた狂気の笑みを浮かべて、由比ヶ浜は先生を殴り続ける。
俺の声が聞こえないって何処の覚醒者だよ!
「由比ヶ浜さん、攻撃をやめて早くこっち来なさい!」
「えへへ……はっ!」
俺の声が届かなくても雪ノ下の声は届きます。これが雪ノ下クオリティー。心が繋がっている二人は違いますね。ユリユリゆるりですね。
「ごめん、今そっちに……」
此方へ来ようと、焦ってボタンを連打する由比ヶ浜。
違う!ビーダッシュとかないから!
由比ヶ浜の分身は、指示通りに攻撃を繰り出し、そして――先生の命を刈り取った。
ピックアップされる画面。
軽快なファンファーレ。
ただ、ただただ立ち尽くす俺と雪ノ下。
「ま、まぁ、クエスト成功だからいいよね?」
由比ヶ浜の一言に、帰還するまで、雪ノ下の射撃と俺の斬撃が由比ヶ浜を襲ったのは言うまでもない。
「もー! 二人とも酷いし!!」
「いや、お前が悪い」
「ええ、遺憾ではあるけれど、私も同じ意見よ」
3DXを畳み、雪ノ下が出してくれた紅茶を飲みながら、俺達は今回の狩りについて話し合った。
「捕獲しようって話し合ったよな? 何倒しちゃってんの? おてんばさんなの?」
「うぅー! だってボタンを押したら早くなるかなぁって!」
「貴女、初心者にしてもそれは……」
「ゆきのんもひどいし!」
「まぁ、これで一応卒業試験はクリアだ。次は」
三人とも慣れた手つきで3DXの電源を起動。
モンハンクロスのチップ画面をタッチし、オープニングが始まる。
リオレウスと飛行戦を繰り広げる電光の飛竜。
かませ犬ことティガレックスと対峙するマンモス。
ジンオウガと和風溢れる御剥きのある攻防戦を魅せる狐。
そして、ハンターと対峙する尾に焔をたぎらせる恐竜。
「コイツら全員倒して、上限解放だ。悪いが付き合ってもらうからな、二人とも」
「もちろん!」
「腕がなるわね」
画面先に見える、数々の強敵を思い浮かべ、俺達はやっとたどり着いたスタート地点から、足を踏み出した。
次回は1800人で!