Re:ゼロからはじめる俺のハンター生活は間違っているのだろうか 作:名無し@777
さてさて。この度はお気に入り数が800を越えたので、感謝感激の気持ちを形にしたいと思い、本編とは全く違う世界である、『俺ガイル』の世界の中でモンハンする話を書いていきたいと思います。
ある意味、新作のような扱いになるのでしょうかね?
では 少しでもお楽しみに頂けたら幸いです!
お気に入り800人到達記念SS 『序章』
ある教室でカチャカチャと小さな音が鳴り響く。
音源としては三つある。その一つは俺の手元、正確には俺が扱っている携帯ゲーム機からだ。
「比企谷君、馬鹿みたいに振り回さないでちょうだい。迷惑だわ」
「おまっ、そう言ってもリーチが長いんだからしゃーねーだろ。気を使ってブシドースタイルでやってんだから堪忍してくれ」
「そもそも何故ソロ中心でやるわけでもないのに太刀をメインに選んだの。現実がソロプレイヤーだからってゲームまでそうする必要はないのよ。孤独谷くん」
「俺は孤独なんじゃない。孤高なんだよ。それに太刀を選んだのは日本男児として選ばねばならないと思ったからだ」
「材木座君と同じ病気が発病しているのね。気持ち悪い」
「もー!二人とも!! 集中してよ! イャンクックなんかに負けてたら話にならないよ!」
「そう言ってお前は何故、イャンクックではなく俺を狙い討つ。わざとか。よし、戦争だ」
「わわっ!違うよ!なんかカメラがぐるぐるしてあわわわなんだよ!」
「二人ともしっかりして頂戴。これでは私一人の方が……あっ……」
「「……。」」
「……リタしてもう一度やるわよ」
「「はぁ……」」
つい先日までは読書に時間を費やすことができていたこの時間は、今では苦難の日々となってしまった。
画面に映る我が分身は膝に手をおき、息を切らしている。俺の分身だけではなく、雪ノ下、由比ヶ浜共に画面の向こうでは同じような行動をとっていた。
モンスターハンタークロス。
メジャーヒット商品であるこのゲームを始めてはや一週間。
俺達奉仕部メンバーはイャンクックを討伐できずにいた。
ゲームと無縁の世界に生きる雪ノ下、無縁とは言い難いが、この手のゲームはしない由比ヶ浜。そんな二人が何故、このゲームを始め、俺がこの現状に空を仰ぐ羽目になった理由は一週間前に遡る。
* * *
ある日の放課後、何の前触れもなく、ドアは勢い良く開いた。読書に勤しんでいた二名と携帯をポチポチしていた一名は何事かと、顔をあげる。
「邪魔するぞー」
「何度も言いますが、ノックをしてください。平塚先生」
奉仕部顧問、平塚 静教諭の襲来にもっとも早く文句を言ったのは奉仕部 部長 雪ノ下 雪乃であった。
「悪い悪い。それよりもだ、皆いるかね?」
幾度となく注意を受けても直そうとしない態度に雪ノ下は若干怒りの表情を見せたが、それはほんの一瞬。すぐさま冷静沈着に答える。
「ご覧の通りです」
違った。冷静沈着だったのは風貌だけで、怒りは胸の中で煮えたぎっているようだ。煮えたぎらせるほど質量があるのかと言えば、目測ではあるが、それは確かに無いと断言できてしまう。しかし、あれだな。形や色とかで総合的に判断すべきであって……あれ、 なんの採点してんの俺。
「ヒッキーゆきのんの胸みすぎだし!マジキモい!」
ちょ、やめてください。私は別に見たくて見てるわけではありません。この世の理とも言うべき万乳引力がそうさせているのです。つまり俺は悪くない。悪いの世界だ。
「ひ、比企谷君。何処に目を向けているのかしら。そんなに警察のお世話になりたいと願っていたのね。知らなかったわ。直ぐにその願い、叶えてあげる」
「誠に申し訳ございませんでした。どうか御許しください雪ノ下様」
世界の理ですら俺を咎人とせしめてくるのか。怖い。まじ世の中恐い。やはり家の中で引きこもれる専業主婦になるのが賢明である。
「おいおい、そのくらいにしといてやれ。比企谷は打たれ弱いんだ。終いには自殺するぞ」
「この男にそんな度胸はありません」
「……そうだったな」
「えぇ……。認めちゃうのかよ。そうだけどさ」
「さて、私も忙しい。色々な面倒事を任されていてな。なんせ新任だからな!新任!」
何故二回言ったのですか。そんなに大事ですか、若者アピールは。
「それでだ。本題には入る前に皆に質問がある。『モンスターハンター クロス』というゲームを知っているかね?」
「……存じておりませんね」
「私も知らないかな」
「メタグロス?そんなもん知らん」
三者三様言い方は違うものの、総じて平塚先生が言っているゲームは知らない。平塚先生は俺達の返答にあからさまに項垂れながら、溜め息をつく。
「まさか比企谷まで知らんとはな」
「いや、モンハンは知っていますけど、クロス? とかは知りませんよ。俺、MHP2Gで終わってますから」
モンスターハンター。初代から着実に支持率を伸ばし、今では爆発的な人気を誇る電子機器を使用するゲームだ。内容としてはプレイヤーが拠点地から『モンスター』という人間に害をなす生物を狩りるため、フィールドを縦横無尽に駆け巡る狩ゲーだ。
俺が知っている限り、プレステ、プレポ、PC、など様々なハードでカセットが出されていた。俺は中学時代、クラスのオタグループがプレポのモンハンに熱中しているのを知り、
これ、俺もモンハンすれば友達になれんじゃね
と、そんな安易な考えのもと、バイトもしてない俺にとって二万円という高額な出費して、当時話題になっていた「モンスターハンター 2G」とハードを購入した。
ここで俺はある程度進めねば邪魔に思われてしまうと考え、ソロプレイ専用の「村クエスト」を進めていった。だが、これが負の連鎖の始まりだったのだ。
序盤までは多少の困難はあれど、問題なく進むことができた。だが、中盤になれば忌まわしい雪ザルが俺の道を阻んできたのだ。それまでは太刀以外使わなかった俺が、苦汁を飲んでライトボウガンという遠距離武器を手に持ち、再度挑戦。しかし、なんと、それでも奴を狩ることは出来なかったのだ。そして、雪ザルという壁にぶち当たっている間に、モンハンブームは過ぎ、俺の計画は得られるものはなく、ただ時間と金を消費しただけとなった。
それ以来、モンスターハンターというゲームに関わったことはない。
つまり、二度とあんな目に遭いたくない、まる。
「ふむ。君の顔を察するにあまりいい思い出ではないのだろう。だが、今回ばかりは付き合ってもらうぞ」
「付き合ってもらうって……まさか」
「うむ。奉仕部への依頼だ。モンスターハンター クロスをプレイし、ハンターランク上限解放を達成すること。依頼報酬として比企谷に何でもお願いできる券をやろう」
「「!?」」
雪ノ下さん、由比ヶ浜さん。いきなり首を回転させたら折れますよ。気を付けなさい。
「待ってください。それ人権侵害じゃないっすか、俺の許可なしにそんな横暴は先生であれ許されませんよ」
「君の許しならあるさ、ここに」
平塚先生がそう言って懐から出したのはボロボロの紙切れ。何故か、平塚先生が出した紙切れに見覚えがり、焦燥感が俺を襲う。
平塚先生の手によって開かれた紙に記載されていたのは、小学校の頃、俺が編み出したオリジナルサイン付の誓約書だった。
『汝の願いを一つだけ叶えよう。この誓いは我がなし得ない事以外は必ず務めると約束する 黒の契約者 比企谷 八幡』
あ。アカンやつや、これ。
「貴方、黒の契約者だったのね。黒の契約者とは一体何者なのかよく解らないけれど文体から察するにきっと凄いことが出来るのよね。黒企谷くん」
雪ノ下は俺の心臓部目掛けて言葉という名の剣を満面の笑みで突き立ててきた。クリーンヒットだよ。なんならヒット賞に絶対許さないノートにお前の名前を書き込んどいてやるよ。
お馬鹿さんの方へ目をやれば、気まずそうな顔で雪ノ下が刺した剣をさらに深く押し込んでくる。
「え、えーっと……。あっ! ひっきーじゃなくてクロッキーだね!」
「……可愛い顔してやることはえげつねぇなこのビッチ」
「ビッチ言うなし! って可愛い顔って……えへへ……」
由比ヶ浜のあほ顔を横目に、この場をどう打開するか、思考を張り巡らせる。そもそも、あの契約書(笑)は小学五年生の頃、小町に誕生日プレゼントとしてあげた物だ。それが何故平塚先生の手に渡っているのか。この謎を解き明かすことが活路を見いだすもっともの近道に違いない。
くそ、あの時お小遣いを削るのを躊躇った仕打ちがきたのか。
「平塚先生、その紙、誰から貰ったんですか」
「クライアントは明かせないな。しかし、君の妹、ないしは、親御さんではないとだけ言っておこう」
なんっ……だと。
しかし、あれは小町以外に渡してないし渡せるはずもない。
「さて。比企谷、この紙の所有権は現在私にある。この紙には労働者の名は記載されているが、消費者は一切書かれていない。原理原則から言えば、この使用権は所有者である私にあるだろう」
「これが教師のすることですか。見損ないましたよ平塚先生。そもそも、ゲームを生徒に勧めるとかどうなんですか」
「まぁ話を聞け。私はこの権利を先程出した条件をクリアすれば君らに渡そうと言っているんだ。雪ノ下や由比ヶ浜が君に酷なことを願うことはないだろう。それに君の手に渡れば今後の心配をしなくてすむ。そして私は依頼を叶えてもらえる。よって両者に利益のある交渉だ。そう思わないかね? あと、君達は既に進学先は決まっているだろう。雪ノ下と比企谷は同じ国立大学、由比ヶ浜は専門大学と、早々と決まってくれて顧問としては安心しているよ」
「……わかりました。雪ノ下、由比ヶ浜、いいか?」
「ええ、構わないわ。ただ、依頼報酬を私に譲りなさい」
「えっ! ゆきのんそれずるい!」
「いや、あれは抹消させてくれよ……」
「だめ。この条件を飲まなければ今回の依頼は拒否するわ」
「じゃー私も!」
「お前らまじ鬼畜……。わかった、だが、あの紙は一枚しかないから二人でじゃん拳するなりして決めてくれ。これが最大限の譲歩だ」
「仕方がないわね。それで良しとしましょう」
「うん、わかった!」
「さて。決まったかね? ゲーム機本体とカセットは君らに渡しておく。では、頑張りたまえ若人よ」
俺に三台の3DXを渡して、平塚先生はそう言い残し、颯爽と去っていった。後ろ姿は歴戦の戦士の風貌を匂わせる。つまりそれだけ歳を……。止めよう。これ以上突き詰めれば抹殺のファーストブリットがおれを襲ってくる。こわい。アラサーこわい。
「比企谷くん。早速始めましょう。ゲームごとき三日で終わらせるわよ。そしてあの券をゲットして……」
「いや、三日でクリアとか無理だから。それも素人が三人とか。唯一俺が知ってるくらいだしな」
軽く言い合いをしながら、二人にゲーム機を手渡し、毎度決まった定位置に座る。
しかし、雪ノ下はため息をつき、俺の行動を戒めてきた。
「比企谷くん、貴方が三人の中で唯一のオタ……ゲーマーなの。この手のものは私達には解らないのだから、教えを説くのが定石でしょう。そんな離れたところに座っていては非効率だわ。此方に来ることを許可してあげるから来なさい」
「はいはい。わるうござんした。先ずは電源をつけてくれ」
「馬鹿のかしら。そんなものはとっくに終わってます。貴方はまだキャラメイクも済んでいないのね。早々に足を引っ張られるとは先が思いやられるわ」
「なにお前、実はモンハンしたことあるだろ」
雪ノ下の操作の仕方には慣れを感じる。訝しげに睨めば、目をそらして弁明を説いてきた。
「ち、違うわ。決してアイルーとかメラルーとかいう愛くるしい子猫と戯れるためにモンハンなんかするわけないじゃない。そんなことよりも早くキャラ作成を終えなさい。手始めにクックを狩るわよ」
ダウト。むしろ隠す気があるのかと疑ってしまう。
あの泥棒猫どもを愛でるために始めたのか。言い様からするに、クックを容易く狩れるほど腕をあげてるな。
「あー、確かにクック先生にご教授してもらうのがいいかもしれん」
「なら決まりね。あら、貴方のキャラぜんぜん本人と似てないわね。特に目が」
「なに? 俺の分身の目まで腐らせろってか? ならそういう新機能をつけろ」
「いえ、プレイしていく中で自ずと腐っていくだろうから無用ね。それよりも由比ヶ浜さん、貴女何をやってるの?」
由比ヶ浜が一切会話に参加してこないと思ったら、真剣な顔つきで画面を凝視していた。覚束ない手つきでボタンを押せば戻り、戻ればまたボタンを押す。
「……なんか進まないよぉ……」
雪ノ下はお決まりのポーズでため息を吐き、指南を始める。
キャラ作成で困っていれば、モンスターとの戦闘は一体どうなるのやら……。
不安しかない心持ちで俺の分身をモンスターハンターの世界へ向かわせた。
モンスターハンタークロスの世界観を味わい、ペルナ村でハンター生活の幕が上がった。だが、村長の頼みをいくらかクリアすれば、もうお前には用はないと言わんばかりに、集会所へ向かうことになった。
初心者の登竜門である村クエスト星2までは各々進めてから集会所で落ち合おうと提案するも、雪ノ下からの「無駄な時間ね」と、一刀両断され、奉仕部メンバー三人は、早々に龍歴院のお世話になる事になった。
雪ノ下は部屋を作ったり、コメントの出し方からモンハン初心者ではないと確定した。
「由比ヶ浜さん、貴女は不慣れでしょうからガンナーにしなさい。スタイルはギルドスタイルが安定するわ。私は片手剣で行きます。比企谷くんは……」
「俺は太刀で行く。狩技で迷惑かけるだろうが、ブシドースタイルでいくから多少は緩和されるはずだ」
「そう。では、ジャスト回避を確実に出来るようにしなさい。部位破壊には優れているのだから積極的に狙ってちょうだい。特に尻尾切断は必須よ。なんにせよ、慣れた武器で行くのが効率いいかもしれないわね。クエストは貼ったわ。先生を殴りに行きましょう」
「ジャスト回避? 部位破壊? クエストを張った? ゆきのん、なにそれ!?」
「お前、絶対モンハンクロス経験者だろ……」
「ほら、二人とも早くしなさい」
この澄ました顔でどやる雪ノ下を見て、数分後に起こる悲劇を誰が想像できるのだろうか。
そう、雪ノ下本人も、あんな事になるとは思わなかったのだろう。
* * *
初代のモンハンから先生と呼ばれるほど親しみのある怪鳥イャンクック。奴の体力、攻撃力、皮膚の堅さ、どれをとっても初心者の相手にうってつけだ。
モンスターの中で飛竜種と呼ばれる強敵が使う攻撃パターンの基本は、このイャンクックが繰り出す技だ。故に、我々ハンターは飛竜戦の基礎を学ばさせてくれるイャンクックを先生と呼ぶ。
先生、今回も宜しくお願いします。
森丘に足を踏み入れた三人の分身は、各々武器を背負い、イャンクックを探しに行く。
俺と雪ノ下は慣れがあるため、機敏な動きで森丘を走り回るが、由比ヶ浜は初心者であるために、フラフラとした動きで、彼方此方に足を進める。
操作方法は慣れる他ない。俺もハードが違うために違和感が拭えないものがある。
今回の狩場は砂漠や雪山、火山といった特殊環境地帯ではなく、採取物豊富な森丘で良かったと思う。俺自身、由比ヶ浜のことばかり気にしてはいられない。カメラロールやアイテムの使い方がプレポと3DXでは操作方法が異なっている。プレポの操作に慣れているため、誤った操作が頻繁に起こってしまう。ある意味、未経験者の由比ヶ浜よりも、気を抜けば、誤差による死亡は多くなってしまうだろう。
イャンクック先生を探し回って五分後、先生はアプノトス教頭と戯れているのを発見した。
「イャンクック発見。ステ3だ」
「了解。応援に向かうわ。ペイント処理と足止めをしときなさい。由比ヶ浜さん、貴女はステ2にいるけれど、私が到着するまで待機すること」
「了解」
「あれ、なんで武器出してるの? アイテム使いたいのにー!」
由比ヶ浜、頑張れ。
雪ノ下の指示通り、ペイントボールと呼ばれる、現代でいうところの発信器を取り付け、軽く切り込みに掛かる。
流石イャンクック先生、初期武器であるために、刃が通らない箇所もあるが、肉質の柔らかい場所の方が圧倒的に多い。
軽快に斬り込み斬り、縦斬り、突き、斬り上げ、移動斬りと、基本コンボを繋げることが出来た。
うむ。上出来だ。
危うさはあるものの、無難な立ち回りでイャンクック先生から授業を受けていると、雪ノ下と由比ヶ浜も講義に参加してきた。
「総攻撃を仕掛けるわよ。各自叩き込みなさい」
「う、うん!」
「了解」
これが、最初の過ちだったのだ。
雪ノ下は先生の顔面を切り刻もうと、片手剣を振り上げたが、俺の太刀はリーチが長いため雪ノ下にヒットし、雪ノ下の攻撃を妨害した。そして、流れるように由比ヶ浜が放った通常弾が俺を射ぬく。
雪ノ下と俺の分身は立ちくらみ、先生からの叱咤タックルをもろにくらう。巻き込まれるようにして由比ヶ浜も深いダメージを受けた。
「比企谷くん、邪魔をしないで頂戴!」
「何で俺の攻撃範囲に切り込んでくるんだよ、つか、由比ヶ浜は俺を狙ってのか」
「ち、違うし! なんかユラユラして当たらないんだけど!」
三者三様、悲鳴と文句を上げている内に、画面の向こうでは先生のダメだし火球ブレスが飛び交っていた。
そして、奉仕部メンバーの初協力プレイは三人とも死亡による、クエスト失敗に終わった。
* * *
「比企谷くん。何呆けているの。さっさと準備をしなさい」
完全にイラついた雪ノ下と、魂が抜けている由比ヶ浜を見て、俺の意識はこの惨事の原点に回帰していた。
あの絶望的なクエスト失敗から、俺達奉仕部メンバーはイャンクック先生から合格点をもらえず、気がつけば、一週間を経過していた。
まずい。非常にまずい。
個々のプレイングは確実に上達してきているのだ。雪ノ下に関しては言わずもかな、由比ヶ浜は誤射も格段に少なくなり、一定の打率を叩き出せるようになった。俺も移動斬りと言われる技を駆使して敵を翻弄できるまで技術力を向上させた。
だが。だがしかし。
俺が移動斬りを行った先には雪ノ下がいる。
雪ノ下がジャンプ斬りをすればその先には俺がいる。
由比ヶ浜の誤射は俺達に確定で死をもたらす。
互いが互いの足を引っ張り、泥沼地獄になってしまうのだ。まさに負のスパイラル。蟻地獄のように、この悪循環から抜け出せずにいる。
原因としては周りを把握しきれていないというのもある。だが、根本的な問題は違う。
「雪ノ下、もう原因から目をそらすのはやめよう」
「何のことかしら。問題はなくなってきている。このまま挑み続ければ狩れるわ」
「確かにそうかもしれない。だが、イャンクック先生から偽りの合格通知を貰うことになる。そうなれば、これから闘うことになる強敵には、勝てないだろうよ」
「……。」
「ヒッキー、ゆきのん。ごめんね。私が誤射しなければ……」
「いえ、由比ヶ浜さんの誤射だけで3落ちしている方がおかしいのよ。けっして貴女だけのせいではないわ。原因は……」
「ああ。原因は俺達全員にある」
「ヒッキー、それって?」
「武器の相性、よ」
俺が答えるまでもなく、雪ノ下が苦々しく問題点を口にした。
「そうだ。俺は好きな武器を。雪ノ下はオールマイティーな武器を。由比ヶ浜はただすすめられた武器を。この三人でクエストに望むなら、俺が思うには雪ノ下が後衛、由比ヶ浜が近接重撃武器、俺が全域を対処する片手剣がベストなはずだ」
操作が完璧な雪ノ下が、後衛として火力を出し、反対に操作になれない由比ヶ浜は接近してひたすら斬り込む。そして、俺が全体をフォローするのが、望ましいはずだ。
「そうね。遺憾であるけれど私も同じ意見。こんな男と意見が被るとは癪だわ」
「えと皆の武器を交換するってことかな?」
「端的に言えばそうだ。まぁ、由比ヶ浜は大剣やスラッシュアックスとか、色々な武器から選んで貰うことになるな」
「ほへー、色々あるんだねっ。解った。今から色々試して選んでみるよ!」
「いや、俺も操作と視野を確認したい。先生との卒業試験は明日にしよう」
「では、今日は解散とします。明日こそ先生を丸焼きにするわよ。あと……」
「「?」」
「その、私が意地を張ったばかりに、こんなに時間を無駄にしてしまい、ごめんなさい」
雪ノ下は頬を薄く赤らめ、うつ向きながら、謝罪してきた。確かに雪ノ下が意地になっていたのもあるが、この話を切り出す事が出来なかった俺にも原因はある。由比ヶ浜も然り。誰が雪ノ下を責められようか。
「全然! いい練習になったよ! 明日こそ倒そうねっ」
「まぁ、あれだ。色々な武器を扱う機会になって良かったんじゃねぇの?」
「貴方達……」
「俺はもう帰る。愛しの小町が待っているからな」
「ふふっ、相変わらずのシスコンぶりね」
「ヒッキーまじきもいっ」
「うっせ。じゃあな」
俺は彼女達の返事を待たずして、教室を後にした。
学生鞄の中に閉まってある携帯ゲーム機を一秒でもはやく起動するため、俺は足早に帰路へついた。
* * *
残り少ない高校の授業を終え、俺はいつもの教室へ足を運ぶ。
「比企谷くん、遅いわよ」
「ヒッキー遅すぎ!」
「悪い。さて、じゃあ今日こそ……」
「ええ」
「うん」
ハードを取り出して、カセットを起動。今後相見えるであろうモンスターのプロモーションを飛ばし、我が分身を起こす。
「「「イャンクック、焼き鳥にするぞ!」」」
俺達は今度こそ最後の新任前ハンターの卒業試験に挑んだ。
次回は880人越えで!