Re:ゼロからはじめる俺のハンター生活は間違っているのだろうか   作:名無し@777

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三十四話

俺が目を覚ました時にはもう夜になっていた――なんて悲惨な事はなく、まだ真昼事。

 

「違う、もう昼になってんのか」

 

 休日の 引きこもりライフが俺の時間感覚を狂わした。ユクモ温泉独特の匂いと受付嬢の元気な声から、周囲を確認するまでもなく俺が寝ていた場所は集会所なのだとわかる。正確には集会所の長椅子、そこに寝転がっていた。川崎の行方がわからないのが気がかりだが、大方買い物にでも行っているのだろう。寝起きの頭でぼんやりと今後の行動を模索していると、腹の虫が集会所に響くほど鳴ってしまった。受付嬢や飲んだくれの爺さん、ついでに観光客にも笑われてしまう。

 こっぱずかしい気持ちを極力抑えて、足元に置かれていた武具一式を即座に着込む。ぶっちゃけ、自分でも恥ずかしさのあまり顔が熱くなっているのがわかったから一秒でも早くヘルムで顔を隠したい。これ以上、俺の素顔を晒していたらメンタルブレイクして二度と此処に来れなくなるまである。

 

「そんな急いで着替えなくても大丈夫ですよ」

 

 ヘルムを即座に被り、ナルガメイルの紐を腰にまこうとした時だった。くすりと笑いながら、受付嬢が話掛けてくる。

 

「大丈夫もなにも俺が精神崩壊しそうなのでそこは見ないフリしてくれると嬉しいんですけどね」

 

「それは無理です、あんなにお腹がすいた音を聞いたらほっとけませんっ」

 

 受付嬢は金髪色の長髪をなびかせ、由比ヶ浜と同格の胸をはだけさせる服装をしていた。ヒップラインの曲線美は雪ノ下さんにも引けを取らないだろう。何を思ったのか、大人の色香で惑わせてくる。無論、彼女を直視できる訳もなく、俺は目線をずらして皮肉を言うしかない。

 

「お腹、空いているのでしょう? 合わせものばかりですが、作ったのでよければ」

 

 なんと。見知らぬ男に話かけるビッチなのかと思えば、気の利くビッチではないか。

 彼女のある一部に視線を奪われて、手に持っていた大皿に気が付かなかった。皿の上に一回り大きいハンバーガーとフライドポティトが乗っかっている。体には悪そうな食べ物だからこそ、この空腹になった胃が待ちきれないとまた文句を申し立ててくる。

 

「ふふっ、はい。どうぞ」

 

「ども」

 

 二、三歩ほど歩けばテーブルがある処にいけるが、その時間すら惜しく、彼女から半ば奪うようにして受け取った大皿を片手に持ち、もう片方の手でハンバーガーを口に運ぶ。

 ふんわりとしたパンズに挟まれた塩っけの強い肉とシャキシャキとしたレータスが食欲を更に掻きたてる。雪ノ下と暮らしていた時は体に悪いからと、こういった香辛料の利いたものは食べられなかったが、これは暴力的なうま味だ。やだ、八幡侵されちゃう。

 

「そんなに焦んなくても誰も取りませんから、ゆくっり食べてください」

 

「あー、いや、腹へってて。なんか一気に食べないと腹にたまった気がしないんすよね」

 

「それ私もわかりますけど、一気にたべると」

 

 食事をする合間に話すという高等テクニックをしていたせいか、行儀が悪いと天からの思召しだったのか。ポウティトを喉に詰まらせてしまった。

 俺の異変に気が付いた受付嬢はコップに水を入れて持ってきてくれた。水で喉に詰まったものを胃に流し込む様に、コップに入っていた水を一気に飲み干し、空気を大きく吸う。

 

「詰まらせちゃいますよ、ってもう遅いですけど」

 

「すんません、助かりました。えーと……」

 

「ルナと申します、『死神』さん。構いませんよ、ハンターのお手伝いをするのが私達の仕事ですからね。それに、貴方達があの白疾風と轟雷公を狩ってくれるんでしょう? 喉を詰まらせて死んでもらってはかないません」

 

「そんな死に方をこの歳ではしたくねぇわ……」

 

「ふふっ、そうですねっ。あ、そろそろ相方さんを追いかけますか?」

 

「は?」

 

「いや、だからもう一人の相方さんが先に向かわれたので、追いかけるのかと」

 

 息が一瞬、詰まった。

 受付嬢――ルナさんが何を言っているのか、理解できなかったのだ。否、彼女が示す言葉の意味を受け入れたくなかった。だが、それは受け入れるしか進む方法が無く、きっとこれは一刻を争う事態に他ならないだろう。

 

「……何分前ですか」

 

「え?」

 

「俺の相方は、何分前に出ていったんですか」

 

「二時間前くらい……ですかね?」

 

 背に愛刀の重みを確認し、俺はにべもなく、村長の下へ駆け出した。

 今回俺達が受けているクエストは紆余曲折を辿って、村長直々の依頼を受けている事になる。集会所を通していない直々のクエストは村長みずから依頼規定の確認、条件の指定を確認をしなければならない。最早、死地とわかりきっている場所に川崎を送り出したのは誰でもない、村長しかいない。

 村民や俺達ハンターの相談、行商との貿易まで、笑顔を絶やさずに行うユクモ村の村長は博識であり聡明な人だ。そんな人が、こんな馬鹿みたいなことをする訳がない。いや、あってはならない。

 

 「……なんで、いないんだよ村長」

 

 集会所前の階段を駆け足で下り、真横に置かれている長椅子に目を移す。番傘が寂しく刺さっているだけで、そこに村長はいなかった。

 村長が見つからない焦燥感、川崎の安否が確かめられない切迫感が俺を襲い、地に足が縛られる。

 

 村長は何故いない? いや、それよりも川崎を探しに行くべきじゃないのか? 

 

 脳裏で巡る問題提起に対して、俺は答えをだせない。今、この一秒が惜しいというのに、俺は行動を起こすことができなかった。その時だ、後方、それも遠方から俺を見る気配を感じ取った。頭が乱雑としている中で気配を感じ取ることができたのは、俺を凝視するその眼力の強さが大きかったからだろう。眼の良い俺でも、ここからソイツを確認することはできない。だが、ソイツはスコープ越しに俺を見ているに違いない。自慢の人差し指を引き金に置きながら。

 

 タン、タン、タン。

 

 俺が監視者に気づいたと同時に、都合よく高い足音が徐々に近づいてくる。

 

「んー、君。いい感じだね。しっかりと自分がおかれている状況がわかっている。さながら西部劇でもみているようだよ」

 

 渋い声。男性の声にしては少し高い。

 

 

「振り向かないのも、尚更いい。だが、これでは自己紹介できない。さぁ振り向いてくれたまえ――ゲームの始まりだ、『reaper』」

 

 

 悪戯っ子のような声が、俺の頭に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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