Re:ゼロからはじめる俺のハンター生活は間違っているのだろうか   作:名無し@777

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三十三話

 のそり、のそり。

 

 俺と川崎は地に手を付けながらゆっくりと進んでいた。何故、咆哮が聞こえた地点でもないのにも関わらず、ここまで警戒して動いているのかといえば無論、理由がある。

 

「川崎、待て」

 

 極力小さな声で後方に続く川崎に注意を促し、奴等が過ぎるのを待つ。闇の中で二つの輝く眼が周囲一帯に蔓延っていおり、それは不規則に動いている。あの眼に見つかれば乱戦になることは避けられない。

 俺達がいるこのフィールドには、小型モンスター ジャギィの巣があるのだ。

 一見、小型モンスターと聞けば新米ハンターでない限りそこまで驚くこともないだろう。確かにある程度の実力があればたいした敵ではない。だが、時と場合により奴等は大型モンスター並みの、いや、それ以上の脅威になりうる存在である。今回はその時と場合が見事にマッチして、俺達はここまで警戒して動かざるをえなくなった。

 この暗みの中で夜目の利かない者と一緒に、巣がある処にいる。これほど最悪なものは中々ない。奴等の強さはその小回りの利く機動性と、統率の取れた群れでの行動にある。片手剣の様な俊敏性が優れた装備なら対処もしやすいものの、リーチの長い太刀では難しい。昔はその脅威を侮り、死に掛けたこともあるほどだ。これは大型モンスターを狩りなれると出てくる余裕、過信からくるものだった。その点、川崎は俺の指示に疑問を持つことなく従ってくれているのだから昔の俺よりも優秀なのは間違いないだろう。

 

 タタタッ、と小型モンスター特有の足音に怯えながらも徐々に前へ前へと進み、次のエリアに入ろうとしたときだった。

 

 バキリ。そんな重く太い音が後方から響く。

 

「川崎」

 

「……ごめん」

 

「走れ」

 

 

「「「「「ギャアギャア、ギャァァァァァ!!」」」」

 

 

「「うおおおおおおおおおおおおお!!」」

 

 

 迫ってくるジャギィの集団に囲まれないように、俺達は死に物狂いで次のエリアに駆け抜けた。

 

 

 

 先刻までいたジャギィの巣があるエリアから、行き着いたのはのどかな滝が流れるエリア3だった。

 だが、俺が毎度お世話になっていたこのエリアは俺が知っている風景とは一変してた。

 月の光に照らされて浮かび上がる景色は、平坦であった地面は所々めくれ上がり、滝から流れる水は溜まっている。木には大きな爪痕が刻まれ、焼け落ちている花々が痛ましい。

 俺が好きだったこのエリアは斬りつける様な風と同様、俺達の心身をかまいたちの如く、斬りつけてきた。

 

「死神……これって」

 

 呆然と立ち尽くす川崎は己が考える事が正しいのかを問いてくる。

 

「ああ。鎌鼬と電撃の痕跡、あいつらが暴れたんだろうよ」

 

「かまいたち? 電撃はジンオウガでしょ? ナルガクルガにそんな攻撃パターンなんてなかった」

 

「いいや、あるんだなこれが。二つ名モンスターの通常種とは違う特異点の一つ、それが――――」

 

 闇に紅色の光が二つ。

 林を駆ける。

 

 ――やばい。

 

「伏せろ!!!」

 

 散漫としていた意識下の中で、殺意を感じ取れたのが唯一の救いだった。

 

 俺の声をかき消すようにして、大気は、地面は二つに割れる。

 

 無形の刃だ。それは大気を震わすほどの斬撃。飛び退いたことにより、間一髪、その一太刀を避けることができた。もし奴の殺意に気づくことができなければ、俺達は真っ二つになっていただろう。

 紅点はゆらりと揺らめき一点に止まることはなかった。

 斬撃は次々と俺達を襲い、避けることしかできない。カウンターなどもってのほかだ。

 四度目の斬撃を往なした時だった。遂に林から奴は飛び出し、襲い掛かってくる。

 

「フシュルゥゥゥゥ……」

 

 通常、二足歩行の飛竜種とは異なり、翼を支える役割をもつはずの前脚は大きく発達し、四本の脚を地面につけている。下から睨みあげるような鋭い視線。前脚から横腹にかけて被膜の翼がつながっているようだが、翼をたたんでいる今、それは長い太刀を彷彿させる。漆黒の毛並みは、俺の防具と同様の色をするが、特に長い尾の先には白毛が束ねられていた。

 ぶん、ぶんと音をたてて奴は尾を振るう。

 半年前、その異常な攻撃パターンに幾度もやられたが今は違う。次にくる攻撃に備えて俺は奴と距離をとった。が、それは意味のない結果となる。

 はたき落された尾から、先刻くらった斬撃とは比べ物にならないほど重い衝撃波が俺を襲った!

 

「っつ、らぁぁぁ!!」

 

 半ば無理やり、背にかえているヒデュンサーベルを引き抜き、その衝撃をずらす。否、ずらせる訳もなく、俺は自分の体を太刀を起点として横にずらす。だが、その威力に一端に触れた俺は林の中へ、無残にも叩きつけられた。

 解っていたのだ。情報としてもとよりこの攻撃パターンがあると。だが、体は自然と一定の距離をとってしまう。 

 

「ギャオァァァァ!」

 

 一瞬の迷いすら許されなかった、俺はポーチに手を突っ込み、即座に掴んだ玉を投げつける。地に着かない足取りで、目を瞑りながら川崎の下へ駆け寄った。直後、まばゆい閃光が辺りをを駆ける。

 しゃがみ込み、眼を両手で押さえる川崎を担ぎ上げ、後方から感じる敵意を振り払うように、俺は枝分かれになっている細道へと走った。

 

 

 

 

「閃光玉投げるなら投げるって合図してよ!」

 

「んな余裕なかっただろうが。解ってんだろ」

 

「……なんなの、あれ」

 

 次々に目まぐるしく変わるフィールドの中、安息地とは言えないものの、張り詰める必要のない処にたどり着いた。無我夢中で走っていたからか、俺は奴から逃げ切った後も川崎を下ろさずに抱えて走ってしまった。下ろせと喚く川崎の声も届かないほど、俺はびびっていたらしい。

 ざっくばらんとした平地で、俺達は腰を下ろした。

 

「あれが白疾風 ナルガクルガの攻撃だ。通常種の攻撃パターンに加えてナルガクルガの場合、ああいった攻撃がくる。ぶちゃけ、俺の防具じゃあ耐えられん」

 

「姿を見るだけで逃げる羽目になるとはね……」

 

「逆だ。軽傷であの攻撃がみれたんだ、来たかいはあった。帰るぞ」

 

「え、帰るの!?」

 

 さも当然の様にベースキャンプに戻ろうとする俺に、川崎は驚きの声をあげる。

 

「じゃあ今からやんのかよ。この暗闇で。慣れのない攻撃をかわせると。やるなら一人でやってくれ、俺は無理だ」

 

 俺はまだいい。夜戦は夜戦の狩り方がある。だが、それを熟知していない川崎は命がいくつあっても足りはしないだろう。加えて、通常種のナルガクルガとやりあったことがあるやつほど、白疾風の動きを間違う。通常種のナルガクルガと幾戦も交えた俺は、奴の攻撃パターンをしっかりと見なければ最悪は命を落とす危険がある。

 ユクモ村の村長が言っていたように、夜戦では分が悪いのだ。

 

「ご、ごめん。確かに無理だ」

 

 一方的にやられたせいか、どうにも苛立ちが収まらなかった。それを川崎に当てるのはなんとも滑稽で無様なことだろうか。

 一度、大きく空気を肺に入れて呼吸を整える。

 

「悪い。強く言い過ぎた。だがまぁ、そういうことだ、さっさと帰って飯食ってから再戦だ」

 

 月は沈みかけ、空の色が変わり始めている。今からユクモ村に戻る頃にはちょうど陽が昇っているだろう。

 閃光玉一つの損失と俺の僅かなプライドを犠牲に、序戦の幕は閉じた。

 

 

 

 道中で待たせていたガーグァを連れ立って、ユクモ村に帰ってきた俺達は、、相互一致の意見で露天風呂へと向かった。体力的にはまだまだ余裕はあるものの、精神的ダメージは思いのほか大きかったのだ。それは川崎も同じことだろう。それも近頃になって力を身に着けたのならば尚更、堪えたに違いない。

 

「あー、きもちいぃぃ」

 

 昼頃の失態を二度行わないように、俺から先に露天風呂につかりながら、奴の対策に頭を回す。

 今回の偵察で得た情報はおおきい。だが、それ故に予期していた問題に直面してしまった。

 防具をつくるため、数十回ほどのナルガクルガとの戦闘が裏目にでている。白疾走 ナルガクルガの攻撃モーションは通常種のと酷似しているが、どれも通常種とは違う動きをする。その似通った動きに、体が無意識に反応してしまう。カウンターを主体とする俺の狩りにとって、これほどまでに厄介なものはない。

 

 頭では理解してんだけどなぁ……。

 

 実際に刃を交えればなんとかなると高をくくっていたが、どうにもそうはいかなかった。慣れとは恐ろしいもので、どうしても通常種の攻撃が脳裏に浮かんでしまう。

 

 まずは上書きだ。こればかりは深手覚悟でやるしねぇな。

 

 問題は一つだけではない、あの暴風、そしてジンオウガの行方だ。

 今回は白疾風 ナルガクルガとの戦闘で逃げ帰ってきたが、ジンオウガの行方は解らないまま。普通に考えれば、縄張り争いに負け、姿を消したと考えられる。だが、もし仮に白疾風との戦闘中に割り込まれたらと思うと、ぞっとする。あの強敵に加えて、二つ名ジンオウガを同時に相手にすることは、今の俺達では不可能だ。最悪、分担して事に当たることになる。

 そして、暴風。異常気象が収まる気配がない。嫌な、とてつもなく嫌な予感がするのだ。この異常気象はただの天候異変ではないと。

 

 っつっても、やることは変わらんか。どのみち、あの環境下で二体とも狩る必要がある。あー、めんどくせぇ、小町、お兄ちゃん疲れたよ。

 

 はっきりとした対策が思い浮かばないまま、俺は火照る体を冷ますため、湯から上がる。露天風呂から上がり、脱衣所の廊下を歩きながら白疾風について考えていた時だ。

 

 眼前に下着姿の川崎が頬を紅潮させ、体をワナワナと震わせていた。

 

 後方を振り返れば、そこには赤色の布がある。つまりは、女性用の脱衣所であると示してた。

 

 

「い、いやまて。これはだな」

 

 

「これは……アンタのせいでしょうがぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 脳裏によぎる白疾風の白毛と同じく、川崎の純白の下着を目にいれながら、俺は壁に打ち付けられた。

 

 ああくそ。またこれか……。

 

 結局は同じ結果に陥ったことを無念におもいつつも、どこか清々しい気持ちで俺は眼を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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