Re:ゼロからはじめる俺のハンター生活は間違っているのだろうか 作:名無し@777
夜空で耀く星に負けじと露店から露店へと繋がっているネオンの光が力強く辺りを照らす。
お陰様で辺りは鮮明に伺える。
そう、小町にこびりつくクソガキの顔も、鮮明に、だ。
「お、お兄さん!」
「黙れ。殺すぞ。断じて俺はお前の兄ではない」
「ちょっとお兄ちゃん! 話が進まないでしょ!」
「小町、話が進む進まない処の問題じゃないんだよ。そこのクソガキをこの世から葬らなければならないんだ」
「もー! だから大志くんは小町の彼氏とかじゃないから!」
「は? なに当たり前のこと言ってんだ。そこのクソガキが存在すること自体が小町にとって害悪なんだ。さぁ邪魔するな」
「ちょ、お兄さん目が怖いっす!」
「このっ……クソガキがぁ……。まだお兄さんと言うか」
「ヒッキー!マジキモイから止めて!」
「比企谷くん。シスコンも度を過ぎるも犯罪になるのよ」
ある屋台の一角で繰り広げられる寸劇。
雪ノ下、由比ヶ浜は俺を抑止し、小町は大志を身を呈して守ろうとする。差しずめ、クソガキが姫役で小町が王子役。由比ヶ浜と雪ノ下は従者だろう。
俺は無論、悪役。ダークヒーローって奴だ。正義を掲げたとしてもそれは大衆には悪にしか見えない。されども己の大切な者達を守るため、汚名を被りながら信念を貫くのだ。
だから、そこのクソガキを眼前から消すのは間違っていない。
小町にちかづく男は消す。これ常識。
「お、お兄さん…俺、別に小町さんとは『まだ』なんの関係でもありませんから!」
「そうか」
「はい!」
「『まだ』……か」
「お、おおお兄さん?」
「歯ぁくいしばれよ……」
俺の師匠直伝右ストレートをクソガキ───川崎大志の顔面に放とうと腰に力を溜める。あと、腰を一捻りすれば滅殺の一撃がクソガキの顔面にめり込む時だった。
「もーいい加減にしなさい!」
ポカリ、と天使のチョップが俺の脳天に当たり、否応無く我が妹がこのクソガキに対して好意を抱いていると感じてしまった。
ああ、現実はこれだから嫌なんだ。
この受け入れ難い事実を突きつけられるはめになった理由は数時間前に遡る。
祭り会場にいる女性の多くは浴衣で着飾っている。彼女等の振り袖はひらひらと舞い、何処か妖艶さを醸し出していた。
それは、俺の両隣にいる女性四人も例外ではなく、不謹慎ながらも性的興奮を懐いてしまう。
左隣を歩く雪ノ下の淡い紺色の浴衣が儚さを更に際立て、保護欲を掻き立てられる。白色のラインが入っているため、凛とした雰囲気は損なっていないのは、流石は雪ノ下のコーディネートだと思う。そして、浴衣であるからこそみえる、うなじに目を引かれてしまうのは俺の性癖なのか、男だからなのかは解らない。できれば後者であってほしい。切実に。
だが、最大の問題は右隣で闊歩する女性。
活発な趣である黄色をベースとした着物を身に纏い、その色合いと見聞違わず、向日葵のような笑顔をみせる彼女は雪ノ下と対照的であるからこそ魅力を最大限に発揮している。その姿は俺の胸を鷲掴みした。だが、俺の心を射止めたのは紛れもなく一厘の疑いもなく、我が妹なのだ。
やばい。一瞬であったとはいえ、妹に欲情したなど、生き恥も良いところだ。
「ふふっ、両手に華だね、お兄ちゃん!」
「貴方には勿体無い華だけれど、この幸福を糧に生きていきなさい」
「……へーへー」
精神的にまずいゾーンに触れてしまい、気を落としてしまったが二人の愉快そうな笑みをみれば、そんな些細なことはどうでも良くなる。
小町が提示した条件である、祭りへの同行はなんとその日の夜、つまりはあの激戦の翌日となっていた。
俺は朝方に起きた騒動を乗り越えるため、祭りにいく羽目になった訳だ。折角だからと浴衣という俺の愛国の着物を着付けて遙々祭りに参加しに来たのだ。
決して小町の浴衣姿を見たいからとかじゃないからね。そこ、止めなさい。変態なんて言ってはなりませんよ。
何はともあれ、陽が落ち始めたのを見計らって出向いたことで混雑するほど人はおらず、快適に道中を移動できる。とはいっても、祭りは祭り。笑い声と歓喜が彼方此方から聞こえてくる。会場には幸せそうな空気が流れていた。
さて。
今回は小町が提示した条件のクリアを目指してきたのだから、あの二人とも共に行動せねばクエストクリアとはならない。
ああ、面倒くさい。家に帰って「ロンハン」の続きを見ながらぐーたらしてぇ。
思考が後ろに後ろにと、帰宅を進めてくるがそんなことは出来ない。そして祭りの門を潜り抜けて五分後、石段を登り終えると、見知った二人の女性がいた。彼女等を見て、もう引き返せないのだと悟る。
「ヒッキー!こっちこっち!」
「せんぱいっ、どうですか? 可愛いって言ってくれてもいいんですよ」
「ああ可愛い、すげー可愛い。これで満足か」
「なんですかそれー! 全くもって不満しかありません!」
頬を膨らませる仕草はやはりあざとい。あざと過ぎて引くまである。
一色から視線を外し、ぼんやりと二人を見ていると、心臓が高鳴ることで、それが愚かな行為だったと気がつく。
桃色の浴衣を選ぶのは、由比ヶ浜らしいと言えるだろう。髪の色と同色というだけあって、統一性がある。それに加え、『桜』という異国の花が各所に描かれ、見ているだけで和む。ただ、豊満な部分がチラチラと見えるのは目に毒だ。
とはいえ、一色の方に目を向けても同じこと。
四人の中で唯一、『かんざし』を後頭部にさし、きっちりと決め、どんなときでもあざとさは忘れない。ある種のプロ意識を垣間見た気がする。
胸元はしっかりと着込んでいるかわりに、首もとは大胆に開けているため、白々とした肌が露になっているのだからなおのことたちが悪い。
つまりは、四方八方、何処を見ても目に毒なのだ。
「ヒッキー、どうかした?」
「いや、なんでもねぇよ。つか、これからどうすんの? 帰るか」
「何で到着したばっかなのに帰るの!? まじありえないし!
」
「帰宅を提案できる貴方の思考がある意味で称賛に値するわ。もちろん、悪い意味で」
「いや、つってもする事ないだろ。狩猟祭まではまだまだ時間があるし」
「はぁ……これだからごみぃちゃんは」
「だよねー。一緒に屋台でも見て回ろうか、とか言えないんですかねこの人は」
「……あー、じゃあなに、屋台でも見て回る、か?」
「「「「もちろん!」」」」
彼女等を誰もが魅力的な笑みを浮かべて、楽しそうに頷いた。
ホウモロコシ、林檎飴、ムーファ菓子、イャンクックッキー。
由比ヶ浜の両手には数々の飲食物が握られている。
「んーっ、おいしぃー!」
屋台を見て回る、というよりも、屋台を梯子していた。
由比ヶ浜は一軒みれば美味しそう、二軒みればめちゃ美味しそう、三軒みれば───。兎にも角にも、目に入った食べ物は所構わず即座に買い込んでいく。両手に抱える食べ物を見て、苦笑いを浮かべるのは俺だけではなく、他の三人も同じことだった。
俺たちの気持ちを代弁しようと、小町が口を開いく。
「あのー結衣さん」
「どうしたの小町ちゃん? あっ、何れか食べたいのあった?」
「いえ、そうじゃなくて」
「あっ! ポポの丸焼きがある!」
「ちょ、結衣さん走らないで!」
ぱたぱたと目には見えない尻尾を振りながら走っていく姿は、小町より年上には到底思えない。
「小町さん、貴女はあんな風になったら駄目よ」
「はい……」
「反面教師って奴か。良かったな、いい勉強になって」
「せんぱいたち、なかなか酷いこと言いますね……」
由比ヶ浜は新たに買い込んだ肉の丸焼きを口にくわえて、俺たちの元へと戻ってくる。
「ふぉしたのぉ?」
「何でもねぇよ、な」
「ええ」
「ですです」
「結衣さん、かわいそう……」
お使いを済ませた犬が戻ってきたところで、先に進もうと足を前に進めた時。
前方から犬の名を呼ぶ声がかかった。
「あれ、結衣じゃん」
雪ノ下と同色の浴衣で、模様としては派手な蝶を織り込まれた着物は、眼前の女の性格を体現していた。
アベクター御一行を引き連れ。
女王と名高い、三浦優美子がいたのだ。
由比ヶ浜は口にくわえていた肉をぼとりと地面に落として、アホ顔になった。
一つ、自慢話をさせてください。
私は震災にあい、家が全壊しました。その時に、愛しの3DSも瓦礫の下に埋もれたのです。
ああ、きっと壊れているだろう。一生懸命進めたモンハンのデータも無くなっているだろう。
そう、思っていました。
ある日、私は全壊した家に向かい、発掘、撤去作業を行っているとなにやら馴染みのある携帯ゲーム機を発見したのです。そう、私の3DSでした。それも無傷。そしてセットされていたカセットはモンハンクロス。いやいや、さすがに起動は無理だろ。なんてことはなく、しっかりと動き、データも問題なく残っていました。
奇跡。本当にびっくりしました。
では、わさわざ自慢話を見てくださり、ありがとう御座いました。今後とも宜しくお願いいたしますですおすし。