Re:ゼロからはじめる俺のハンター生活は間違っているのだろうか   作:名無し@777

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十七話

静寂など一秒も無く、どちらも遅れることなく動きだし、敵を狩りにかかる。ヤツは待つことを知らないのか、初撃と同じく、赤黒い鉤爪で俺を切り裂きにきた。その威力は先刻身をもって体感したが、回避行動はまだとらない。俺は定石通りに、ヤツの爪が俺の防具に触れるのではないかと、錯覚する瞬間まで待ち続けるまで。しかし、定石と違う点があるとすれば、太刀を盾のように斜めに構えていることだ。

遂にヤツの爪が俺の太刀と接触する刹那、刃を力強く押し、手首を返す。

そして、そのまま一歩踏み込み、ヤツの頭部目掛けて縦に一閃。そして、休むことなく刃を真横に傾け、肩を落とす。踏み込み方に気を付けながら、腰を主軸に大回転斬り二度繋げて行ない、ヤツと距離をとる。後方では幾千の刃が遅れてヤツに襲い掛かかったいることだろう。全ての連撃がヤツに刻まれた事を確認した後、刀身を鞘に戻し、ぼそりと「技名」を伝える。

 

 

「平塚流 鏡華の構え 潜竜ヶ滝の陣」

 

 

 ハンター教育学校が教える『狩技』、「鏡華の構え」 を平塚師匠が改良した門外不出の技である。とはいっていも、改良といっても一般的に太刀使いに教えられている「鏡華の構え」と「 桜花気刃斬」を繋げただけだ。

 しかし、言うは易く行うは難し。

 この『繋げただけ』というのは果てしなく難しい。 初動の動き方、次の行動に繋げるための足運び。何れを取っても一フレームの誤差がでれば筋肉は無茶苦茶になる。若干のズレすらも無くし、鍛え上げなければこの技は完成されないのだ。特に「鏡華の構え」と「桜花気刃斬」の連続は困難を極める。何故ならば、両者の狩技は対極に位置するものだからだ。

 「鏡華の構え」はブシドースタイルのカウンターと酷似した狩技である。太刀を斜に構え、敵の攻撃をはね除け、その勢いのまま斬る。守の技ともいえるだろう。

 それに対して「桜花気刃斬」は逆に攻の技である。太刀を水平に構え、自身の体を主軸にして大きく回転し、二度、回転斬りを見舞う。気を付けなければならないのは、これには語弊ががある事だ。正しく言えば、円を描くようにして斬る最中、腕全体の動きを中心とし、、一瞬にして何十回と斬り返しを行い、結果、締めとして大きく回転して斬る。それを二連続行うのが「桜花気刃斬」という技だ。

 この二つの技を繋ぎ合わせ、新たな『狩技』へと昇華させた平塚師匠はやはり畏敬の念を禁じ得ない人物である。

 さて、ここで頭がキレる者ならば疑問を抱くだろう。

 

 そもそも技を繋げる意味があるのか、という疑問だ。

 

 無論、何故既存の技をわざわざ繋げたのかといえば、理由がある。

根底として、ブシドースタイルの十八番であるカウンターを行使するためには「狩技」は複数使用できず、一つのみとなっているのだ。そうしなければ、技術的な問題で破綻してしまう。「カウンター」という技術は匠の領域に踏みいるとそれ自体が狩技と同格、いや、それ以上のものになる。それ故にブシドースタイルを扱う者は他の技まで使役する事が困難なのだ。

 しかし、この常識に異論を唱えた人物が一人。

 

「なら連続でやれば一つだな」

 

 平塚師匠はそう言って二つの狩技繋げ、一つにする事で擬似的に二つの技を使用出来るようにしたのだ。無茶苦茶ではあるが、平塚師匠直伝の技は何れに置いても既存の技を上回る。だが、メリットばかりではない。通常の狩技とは違い、俺程度の使い手なら過度に酷使した体は悲鳴を上げ、硬直現象が起こってしまう。また、単発の威力で考えれば元来の技より劣る。端的に言えばハイリスクハイリターンな狩技だ。

 俺の性格上、無理にリターンを取ろうとは思わない。確実に安全であると確認した上でしかリスクをかけることはない。だが、格上の相手と対峙することになれば、考えは変わる。

 一撃より二撃、二撃よりも三撃。より多くの斬撃を叩き込むことを強いられる。 

 最悪の場合を想定して平塚師匠が考案した中で最もリスクの低い技「 平塚流 鏡華の構え 潜竜ヶ滝の陣」のみを修得した。平塚師匠は全ての技を教える気だったらしいがハッキリ言ってどれも手に余るものばかり。一体どうやって、どの場面で使えば良いのか、何一つ理解できない技を覚える気になる者がいるだろうか。きっといないだろう。最低でも俺はそんな無駄な徒労にさける時間はなかった。半場逃げるように去ってく俺に向かって、「いつか覚えておけばよかったと、後悔するぞ」といって豪快に笑っているのに対してはこちらも笑うしかない。苦笑いではあるが。

 

 なんにせよ、そんな風に笑うから男が逃げていくんだよ。思い出しただけで怖すぎる。アラサーまじ怖い。あれー、背筋に悪寒が走ったぞ? 平塚師匠ごめんなさい殺さないで。

 

 師匠の笑い声と別のエリアから感じるただならぬ殺気を追い出し、先刻の一撃で怯んでいるヤツに追撃を加える。胴体を太刀で突き、切り上げ、降り下ろす。この三連撃を絶え間なく続けるが、ヤツが回転したことにより、その手は止まる。

 

 

「ヴェロロ……アァァァァァァッッ!!」

 

 夥しい呪詛のような奇声を上げ、翼脚を大地から離し、空中で羽ばたかせる。この動作から逃げるのではないかとは、思えなかった。

 怨敵を殺さねば気が済まないと、ヤツから放たれる波長が告げてきたからだ。

 戦闘が始まって初のモーションに対して、俺達ハンターが基本的に行うのはまず、距離をとることだ。どんな攻撃であれ、適切に見切り、対処する。防御することができない武器を扱うものにとっては鉄則に等しい。

 俺とヤツとの距離は目測にして十五メートル。近すぎず、離れすぎずといった適切な距離だ。ならばと、俺の十八番である『カウンター』を披露するために神経を集中させる。

 妖艶に煌めく燐粉を空中で撒き散し、胴体を弓のように撓りをつけ、此方に突進してきた。

 ならばやることは一つ、カウンターを見舞うまで。

 漆黒の翼で滑空し、八メートル付近で突如、ヤツは翼脚を畳み、大地に足をつける。予想外の行動に緊張が走るが、まるで墜落したかのような様子に俺は好機を見出だした。素早く直進し、奴の触角を両断せんと太刀を振り上げると同時に、ヤツは、俺を迎い討つように口内から紫色の粒子を吐き出だしてきた。

 

 ブレスか。

 

 飛竜のオーソドックスな攻撃パターンとしてブレスかある。火球を出す奴もいれば、毒を撒き散らす奴もいる。大体は色合いやそのモンスターの特色から解るものだが今回は情報が少なすぎて読みにくい。色合いという点からみれば毒の一種であると考えることが出来るが、一抹の不安が過る。だが、迷う暇はない。どうにか懸念を振り払い、即座に回避行動をとった。

 

「ヴェアァァ!!!」

 

 俺は袈裟斬りの要領で後ろに飛び、回避する。

 が。

 この行動が敗因の一手となる事に後方に飛ぶ最中に気が付く。連続でのブレスを警戒し、行動範囲を広くとれる後方に回避したが、最も警戒せねばならない事を失念していたのだ。それに気づいた時には既に遅し、放たれたブレスから四方八方に爆発が起こる。後方にいた俺は避けることができず、呆気なくぶっ飛ばされた。不様に地面を二転三転し、木々にぶつかることでどうにか止まる。

 

「くそが……。爆発タイプかよ……」

 

 再度地面に伏せることになった俺は悪態をつきながら立ち上がる。

 のんびりとしている暇は無く、俺を喰い千切ろう奴の牙が襲いかかってきた。カウンターなど考える時間などはない。次々に襲いかかる攻撃を時には刃で受け流し、時には身体を捩るようにして避け続けることしか出来なかった。俺とヤツの戦闘で大地は捲れ上がり、草木は薙ぎ倒され、元来の姿は微塵も感じられなくなってしまった。まるで此処は人間が想像してきた地獄そのものだ。

 捌ききれなくなった攻撃を受ける度に後方からゆっくりと、鋭利な鎌が首に近づいてくる。少しずつ首と虚像の鎌とが距離を縮めるのは幻覚だと解っていも、俺みたいな紛い物ではなく、本物の冥府の使者が俺の死を告げに来たのだと感受してしまう。そうなれば認知すべきヤツの行動を捉えることがでぎす、判断が鈍り、行動が疎かになる。

致命的な攻撃は避け続けていたが遂に、ヤツの尾が俺の腹部に重々しくめり込んだ。

 

「おぇっっ」

 

「キシャァァ……」

 

 胃酸が喉元まで逆流してくるのを飲み下し、散漫になったていた警戒網を今さら張り巡らせる。

 

 しかし、足は動かない。

 

 腕も上がらない。

 

 一手だ。一回のミスで俺は瀕死の状態にまで詰められた。限界までスタミナを消費し、体を自由に動かすが出来なくなったのだ。ヤツはその隙を見逃すことなく、口を大きく開けた。

 ああ。死ぬのか。

 回避できぬと悟る俺の脳は鮮明に死の瞬間を描く。それは色とりどりのパレッドで描かれた一つの絵の様に現実味を帯びている。だが、走馬灯が駆けぬけることはなく、脳裏に浮かぶのは小町と雪の下の顔。

 

「俺を喰いたきゃ一週間は喉がまともに使えなくなるのを覚悟しろよ……」

 

 そうだ。タダで死ぬわけにはいかない。

 痙攣している腕でカタカタと太刀を震えさせながらも、目前に迫るヤツの喉元へ俺の命と引き換えに突き立てようとしたとき。

 

 

 太陽の化身がヤツの翼脚を切り刻んだ。

 

 

 視認できたのは初動の一撃のみ。そこからは目視できる速度ではなく、確認できるのは一太刀前の斬撃が切り傷を残こしてく痕跡だけだ。流れるように止まることない連撃は斬る度にヤツの皮膚を焦がし、内部を業火で焼き付くしていく。

 

「ギャロァァァア!?」

 

 ヤツの脚はその斬撃に耐えかね、身体を支えることを放棄した。そして、ヤツは俺と同じように地面に這いずり回る。こんな常識離れした剣技を振るえるのはただ一人。

 

「……遅いっすよ。平塚師匠」

 

「悪かったな。しかし、私の弟子ともあろう者がなにを不様に這いつくばっている。そういう趣味があるのなら、帰ってからにしろ」

 

「なんでそうなんだよ……。嫌味ったらしすぎるわこの人」

「ふん。私の輝かしい笑顔を馬鹿にしたことは忘れんぞ」

 

「……地獄耳ですが貴女は」

 

「覚えておけ。婚期を逃したわけではない。私と気の合う男がいなかっただけだ。まぁいい。とりあえず」

 

 

 俺とヤツだけの殺試合はここで幕を閉じ。

 

 

「狩るぞ」

 

「うっす」

 

 

 

 最強にして無敵の太刀使い。平塚 静による殲滅戦が新たに幕を上げた。

 

 

 

 

 

 

 


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